事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「宇喜多の捨て嫁」 木下昌輝著 文藝春秋

2016-02-11 | 本と雑誌

きっとその時代その時代によって、受け入れられるヒーロー像は違うはず。ひたすら明るい長嶋茂雄は、確かに高度成長期にぴったりだったろうけれど、いまは少しクールですね者のイチローや本田の方がうけるはず。

歴史上の人物でいえば、自己犠牲の権化で、天皇にあくまで臣従した楠木正成が、はたして現代で受け入れられるだろうか。おのれの欲望に忠実で、バサラとよばれた佐々木道誉の方が今は人気があるんじゃないか。わたし、彼のことを教科書で学んだこともなく(日本史は未履修ですけど!)、大河ドラマ「太平記」で初めてその存在を知ったくらいだ(演じたのは陣内孝則)。それがいまやすっかりメジャーだからなあ。

同じことが悪役にも言えるだろう。

さっきの例でいえば、天皇に反旗を翻した(ことになっている)足利尊氏のように、あるいは民に愛された秀吉から権利を奪い取った(ことになっている)徳川家康のように、権力を握ったからこそ憎まれた存在は昔からよくいた。

でもいま、それ以上の悪役が出てきたのだ。

その名を宇喜多直家(あ、「軍師官兵衛」ではこちらも陣内孝則がやってます!)。戦国時代でも、勢力争いが複雑だった中国地方において、暗殺、毒殺、誅殺、裏切り、なんでもありの権謀術数で、とにかく国をまとめた男。

まわりからは当然のごとく嫌われ、どうせ裏切るだろうと思われているのにやっぱり裏切る。純粋悪というか。

「宇喜多の捨て嫁」は、彼を中心にさまざまな人物の視点で語られる連作集だ。まわりに自分を嫌うように仕向け、娘たちを捨て駒にして、腫瘍のために血膿を流しながら傲然と生きる。いやはや。

そしてこの純粋悪、絶対悪の男を描いた小説が高校生たちの圧倒的な支持を集めているんだとか(高校生直木賞受賞)。これも、時代なのかなあ。

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