世に暴露本というのがあるじゃないですか。それが真実かどうかはともかく、ネタを放出することが目的の。
一方、回顧録というものもあり、こちらは一線を退いた(それは望んだにしろ望まなかったにしろ)人間が、もういろんなことに気を使うのをやめて「実はこうだったんだよっ」と叩きつけるような。
かつて「仁義なき戦い」「鬼龍院花子の生涯」「楢山節考」などをプロデュースし、というかいつも東映の作品の最初に名前が出ていたような印象の日下部五朗が、それこそ映画に捧げた半生を「回顧し」「暴露し」たのがこの「シネマの極道 映画プロデューサー一代」。版元は新潮社。んもう業界騒然となっています。わたしにとっても脚本家笠原和夫の「昭和の劇」以来の衝撃。
ネタ暴露的に、ちょっと紹介しましょう。
・片岡千恵蔵
「千恵蔵さんには名古屋に愛人がいて、蕎麦屋をやらせていた。明日も早いのに深夜二時三時まで麻雀につき合わされ、寮に帰ろうとしたら、御大(片岡)はすぐ近くの垂水山の御殿に戻らず『これから車を飛ばして名古屋に行くわ』と笑っている。元気だよなあと呆れたものだが、噂を聞くと愛人というのは博多にいた元馬賊芸者で、嘘かホントか前は双葉山の愛人だったという」
……黄金時代の東映では、千恵蔵と市川右太衛門(北大路欣也のお父さん)のふたりが圧倒的な力を持っていた。
千恵蔵は「山の御大」(垂水山のてっぺんに邸宅があったから)、
右太衛門は「北大路の御大」(北大路に豪邸をかまえていたから)
と呼ばれていた。日下部はどうも右太衛門が苦手だったようで(メーターのついた車には乗らない、と豪語していたとか。すごいな)、わりに庶民的なところもあった千恵蔵への愛着を隠していない。
それにしても、馬賊芸者ってなんだろう……調べました。男勝りの博多の芸者さんのことをそう言うんですって。なんでも、勉強です。
次回は俊藤浩滋篇。
シネマの極道: 映画プロデューサー一代 価格:¥ 1,365(税込) 発売日:2012-12-21 |