「カラーコミックス」について

 先日、東京に行った時に古書店で、探していた思わぬ本を見つけた。
 「探していた」のに「思わぬ」とはどういう事かというと、これまで現物を全く見た事がなくて、はたして実在するのか疑っていた本だったのだ。


 それは何かというと、この本だ。







 小学館・カラーコミックス(以下「カラコミ」)の一冊として刊行された『ジャングル大帝』第3巻。カラコミ全22冊の中でも第21巻にあたり、最後期に出された本と言える。
 ご存じない方の為に書いておくと、カラコミとは小学館より「コロコロコミック増刊」として雑誌扱いのB5判サイズで1979年より発売された漫画単行本で、『ドラえもん』など藤子不二雄作品がメインのタイトルだった。
 「カラー」コミックスを名乗るだけあって、巻頭は4色カラーとなっており、また途中までは2色だった。ただし、カラー原稿の収録ではなく、色指定によりカラー化したものも多い。



 さて、今回の事の始まりは3年ほど前に遡る。カラコミ『ジャングル大帝』1・2巻がセットで売られていたのを発見して、てっきり全2巻だと思って買ったら第2巻の最後に『3につづきます』と書かれており、その時はじめて3巻の存在を知った。
 『ドラえもん』第6巻にも言える事だが、カラコミ後期の本はなかなか見つからない。また、『ドラえもん』第6巻の最後には「7につづきます」と書かれているが、実際には第7巻は出ていない。だから、『ジャングル大帝』も3巻は予告だけだったのではないかと思っていたのだ。
 それだけに、実物を見つけた時は「実在したのか…」と、驚かされてしまった。
 『ドラえもん』第6巻の古書価がかなり上がっているだけに、この『ジャングル大帝』第3巻もお高いのではないかとおそるおそる値札を見たら、思ったほどではなく、迷わずその場で買える程度の価格だった。まあ、だからこそ今こうして手元にあるわけですが。おそらく、ドラほど需要がないからそれほど高くないのだろう。

 ちなみに、第3巻に収録されているのは「ボクシングの巻」「人間対ヒョウの巻」「大ヘビヒドラの巻」の3話。もしかしたら「手塚治虫漫画全集」未収録のエピソードが入っているのではないかと、ちょっと期待していたが、これらの話は全集『冒険ルビ』に「ジャングル大帝<小学三年生版>」として収録されている。
 『冒険ルビ』は全集第4期で出たので、それまでは確かに未収録作品だったのだが、今となってはカラコミの利点はカラーページの存在くらいか。と言っても、元々カラー原稿だったのではなくカラコミ刊行に当たって着色したようだが。


 今回の「ジャングル大帝」第3巻で、カラコミ全22冊のうち18冊までを入手した。
 せっかくなので、カラコミ全作品の刊行リストを作ってみたので、ご覧いただきたい。なお、タイトルの後の日付は奥付の発行日。だから、未入手の4冊は「?」としてある。



 ・1 ドラえもん 第1巻(1979年8月1日)
 ・2 ドラえもん 第2巻(1979年11月1日)
 ・3 映画まんがドラえもん のび太の恐竜(1980年4月7日)
 ・4 ドラえもん 第3巻(1980年6月2日)
 ・5 ドラえもん 第4巻(1980年8月2日)
 ・6 ジャングル大帝 第1巻(1980年10月2日)
 ・7 ガムガムパンチ 第1巻(?)
 ・8 映画まんがドラえもん のび太の宇宙開拓史(1981年4月2日)
 ・9 映画まんが怪物くん 怪物ランドへの招待(1981年4月5日)
 ・10 パンクポンク 第1巻(?)
 ・11 パンクポンク 第2巻(?)
 ・12 ドラえもん 第5巻(1981年9月1日)
 ・13 怪物くん 第1巻(1981年9月1日)
 ・14 怪物くん 第2巻(1981年11月1日)
 ・15 ジャングル大帝 第2巻(1982年1月2日)
 ・16 ガムガムパンチ 第2巻(?)
 ・17 映画ドラえもん のび太の大魔境(1982年4月2日)
 ・18 映画 怪物くん 忍者ハットリくん(1982年4月2日)
 ・19 怪物くん 第3巻(1982年7月2日)
 ・20 ドラえもん 第6巻(1982年9月1日)
 ・21 ジャングル大帝 第3巻(1983年1月2日)
 ・22 映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城(1983年4月5日)



 ご覧のように、カラコミは2~3ヶ月に一冊のペースで約4年間刊行が続いた。
 こうやってまとめてみると、最初の一年は『ドラえもん』しか出ておらず、カラコミは『ドラえもん』の幼年向け単行本を出す為に作られたレーベルなのだと言う事が、あらためてよくわかった。
 2年目に入って、『ジャングル大帝』『ガムガムパンチ』と手塚作品が出ているが、『ドラえもん』と違ってアニメが放映中だったわけではなく、ちょっと不思議だ。『鉄腕アトム』のアニメ第2作が放映中だったので、同じ原作者の作品で便乗しようとしたのだろうか。

 作者別に数えると、藤子不二雄15冊、手塚治虫5冊、そして、たちいりハルコ2冊。藤子、手塚作品に混じって刊行された『パンクポンク』が浮いている。当時、売れそうな幼年マンガは他にもあっただろうに、なぜ『パンクポンク』だったのだろう。
 私は『パンクポンク』は持っていないが、思い返してみても今まで実物を見た記憶がない。もしかしたら、『ドラえもん』第6巻よりも入手困難なのではないか。カラコミ全巻を揃えようと思ったら、いわゆる「キキメ」の巻はこちらなのかもしれない。

 そして、今回リストを作っていて見つけたのだが、『ドラえもん』第6巻の巻末に『ジャングル大帝』『ガムガムパンチ』3巻の予告が載っていた。







 実際には『ガムガムパンチ』は2巻止まりなので、この予告は結果的に半分嘘になってしまったが、当初は『ジャングル大帝』第3巻と『のび太の海底鬼岩城』の間に『ガムガムパンチ』第3巻を出すつもりだったようだ。
 『ドラえもん』7巻と違って巻末にデカデカと予告が載っていたのだから、カラーコミックスの刊行終了が急に決まり、そのため『のび太の海底鬼岩城』が最後となったのではないだろうか。そうでなければ、『ガムガムパンチ』3巻は延期して『海底鬼岩城』の後にでも出せばよかったのだから。
 その『ドラえもん』にしても、第6巻刊行時の予告で「なんとドラの6冊め!」と書かれているくらいなので、小学館の担当者もカラコミがここまで続くとは思っていなかったのかも知れない。


 ともかく、カラコミは後期の巻が極端に見つけにくい。私自身、『ドラえもん』第6巻、『怪物くん』第3巻、それに今回の『ジャングル大帝』第3巻は随分と探したものだ。
 その一方で、初期の巻は割と見つけやすい。『ドラえもん』1~2巻、『のび太の恐竜』『のび太の宇宙開拓史』、『ジャングル大帝』1巻、『ガムガムパンチ』1巻あたりは、やたらとよく見かける。『ドラえもん』1巻は少なくとも第4刷まで存在しているので、てんコミ並みとは行かなくともそれなりに売れたのだろう。



 当ブログでも以前に何度か書いているが、私は初めて読んだ『ドラえもん』の単行本はてんコミではなくカラコミだったので、個人的に非常に強い思い入れがある。
 短編はここでしか読めない話が多かったし、大長編もてんコミが出る以前にカラコミ版を何度と無く読み返したので、こちらのバージョンの方が馴染み深い。「カラスのかってだ」と言うギラーミンや、爆弾を持って特攻するバギーちゃんが見られるのは、カラコミ(と初出誌)だけだ。

 昔はカラコミでしか読めなかった話が、現在は『ドラえもん カラー作品集』や『ぴっかぴかコミックス』にほとんど収録されたので、今後わざわざ未収録目当てでカラコミを集める人はあまりいないだろう。
 しかし、そんな事とは関係なく、私は個人的なドラ体験の原点としてカラコミが好きだ。今でも、カラコミで『ドラえもん』を読むと、てんコミに入っている話であっても一味違った気分で楽しめる。
 私にとってのカラコミは幼年時代の記憶を呼び覚ます「タイムカプセル」のようなもので、今後も手放す事は絶対にないだろう。一度、カラコミについては文章でまとめておきたかったので、今回はいい機会だった。



 最後におまけ。カラコミはそれなりに売れたせいか、他社から便乗本も出た。
 それが、潮出版社から「コミックトム増刊」として出た『ポコニャン』上下巻だ。体裁といいデザインといい、どう見てもカラコミで、実に分かりやすい。







 発行日は上巻が1980年8月2日、下巻が同年9月2日。
 カラコミには含まれないが、カラコミ版『ドラえもん』の横あたりに並べておきたい本だ。カラコミ1年目の時期に出たが、当時のカラコミと比べると入手は困難なので、ご注意を。
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雑誌掲載順の完全収録 (人間やじろべえ)
2009-05-05 16:30:02
お久しぶりです。1年以上久方ぶりにコメントさせて頂きます。写真の『ポコニャン』上下巻って雑誌掲載順の完全収録ですかね?勿論、ぴっかぴかコミックスでも全3巻収集しましたが、作品リストではS50・4月号~53年5月号だと全38話になる中で、ぴかコミではページ数の関係からか31話収録でしたし、雑誌掲載順の愛読願望があるんですよ(勿論、ようじえほん版も含むカラー掲載で)。

 返事が遅れましたが、藤子・F・不二雄大全集刊行に向けて個人的に感じた疑問点などをトラックバックさせて頂きました。僕の記事にどのように感じたでしょうか?
 
 
 
 
カラー版の内容 (おおはた)
2009-05-11 02:40:00
>写真の『ポコニャン』上下巻って雑誌掲載順の完全収録ですかね?

 お久しぶりです。
 この「カラー版」は全38話中35話収録で「ここほれニャンニャン」「タイムマシンで早おき」「パニックがおきた!」の3話が未収録となり、また収録順は初出とは異なります。
 ですから、この本の利点は雑誌サイズかつカラーで読める事ですね。ぴかコミでは編集の都合上、一部の2色原稿がモノクロ印刷になってしまいましたが、こちらは巻頭4色+残りは全て2色で収録されています。
 また「藤子不二雄ランド」版では初出順の収録ですが、こちらは全てモノクロなのが残念です。

 「藤子・F・不二雄」第2期以降に『ポコニャン』も入るでしょうから、これで初出順かつカラーで完全収録になればいいですね。「ようじえほん」版の原稿紛失分がどうなるかが気になりますが。


> 返事が遅れましたが、藤子・F・不二雄大全集刊行に向けて個人的に感じた疑問点などをトラックバックさせて頂きました。僕の記事にどのように感じたでしょうか?

 記事は読ませていただきました。熱心なファン以外にも手にとりやすい本を、と言うご意見はよくわかるのですが、そのコンセプトで出された「藤子不二雄ランド」が全集とも週刊誌ともつかない中途半端なものになってしまいましたので、今回の全集は徹底的にマニア向けにこだわった内容にして欲しいと、私は思っています。
 もちろん、「全集まで揃えるのはちょっと…」と言うような人の為に、『オバQ』など現在他に単行本が新刊で入手できない有名作品は、全集とは別にてんコミのような普及版を出したらいいと思います。もし、全集にカラーページがないなら、幼年作品はぴかコミでカラー出版するのもいいですね。

 あと、ちょっと気になったのですが、内容的にはカラコミの方ではなく全集のエントリにトラックバックしていただいた方がよかったのではないでしょうか。
 
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