都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「イサム・ノグチ展」 東京都現代美術館 10/1
東京都現代美術館(江東区三好)
「イサム・ノグチ展 -彫刻から空間デザインへ~その無限の想像力- 」
9/16~11/27
東京都現代美術館で開催中の、イサム・ノグチ(1904-1988)の回顧展です。展示作品の数は約40点ほど、会場のスペースは美術館の地下フロア(屋外も含む。)のみと、決して大規模な内容ではありませんが、ノグチの魅力を味わうことの出来る優れた展覧会です。
ともかく圧巻なのは、現代美術館の巨大な吹き抜けで、猛烈な存在感を示している「エナジー・ヴォイド」(1971-72)です。高さ3.6メートルにも及ぶ巨大な石彫。一見シンプルな形をしていますが、見る角度によって、ほぼ無限大に表情を変化させます。三角形、四角形、円。作品の周りを行ったり来たり、まさに右往左往して歩きながら、出来るだけ近づいて、または遠目で眺めてみます。鈍く黒光りする石の重々しい質感。外からガラス越しに降り注ぐ陽の光をたっぷりと受けて、気持ち良さそうに、ゆっくりと深呼吸しているかのようです。また、作品の中心部の大きな空洞は、そこがまるでブラックホールであるように、作品を取り巻く全体(鑑賞している人々も含む。)の「気」、つまりまさに「エネルギー」を強く引きつけています。空洞という、ある種、何もない部分が感じさせる、強烈な重力のような吸引力。彫刻が、これほど力感を漲らせていて、逞しく見えるとは思いませんでした。この出会いは衝撃的ですらあります。
展示作品の素材は、真鍮からブロンズ、それに石と、ノグチの創作の長い過程を反映してか、実に多岐に渡っています。そして、それらの中では、特にブロンズと石の作品から、「エナジー・ヴォイド」と同じようなエネルギーを感じることが出来るようです。展示の構成はとてもシンプルで、ただ愚直に作品を並べたようにも見えますが、ノグチの作品はどれも他のものとあまり干渉し合うことがなく、一点一点の重みをストレートに伝えてくれます。実は私、これまでノグチの作品に強く惹かれたことがなかったのですが、今回の展示でそれは完全に覆されました。この重み。この気配。作品の持つ強い磁力に、私もすっかり引き付けられてしまったようです。
唯一明かりが落とされた薄暗い展示室には、数点の石彫が並んでいました。その中で最も気になったものは、「この場所」(1968年)という、7片の石が四角形に合わさった作品です。床へそのまま置かれていて、見下ろす形で鑑賞することになりますが、決して大きな作品ではないのに、横へ横へという広がりを感じさせます。と同時に、この7片が今にもバラバラになってしまって、澱んだ深淵が口を開けて待っている、そんな気分にもさせられます。亀裂を挟んだ7片のせめぎ合いと揺らぎ。明るい場所で見ると、また印象も変わりそうです。
先日の記事にも、一部写真をアップしましたが、屋外のスペースには、「オクテトラ」(1968年)と「プレイ・スカルプチャー」(1966-67年)の二点が置かれています。これらは写真撮影可の上に、触っても良し、遊んでも良しと言うことで、多くの方が作品へ直に触れていました。「オクテトラ」の穴の中へ体を潜り込ませてみたり、「プレイ・スカルプチャー」の曲線の上へ、器用に体を添わせてみたりと、まさに作品を全身で感じながら、作品とコミュニケーションをとります。これら2点の作品には、「エナジー・ヴォイド」で感じられたような「強烈な重力」や「存在の重み」のようなものは影を潜め、もっと親しみやすい表情を見せています。また、鮮やかな色や形の妙も、他の石彫やブロンズ作品にはあまりなく、場に合わせながら、多様な方向へと開くことが可能です。「エナジー」のような「重み」のある作品と、このような体験的なコミュニケーションが可能な作品。一口に彫刻と言っても、その両方へ向いているノグチの創作の幅広い包含力には、心底驚かされました。
私としては久々に「痺れた」展覧会でした。いつもの如く、全く私の主観ではありますが、わざわざ木場まで足を運ぶ価値は十二分にあると思います。これはおすすめしたいです。
「イサム・ノグチ展 -彫刻から空間デザインへ~その無限の想像力- 」
9/16~11/27
東京都現代美術館で開催中の、イサム・ノグチ(1904-1988)の回顧展です。展示作品の数は約40点ほど、会場のスペースは美術館の地下フロア(屋外も含む。)のみと、決して大規模な内容ではありませんが、ノグチの魅力を味わうことの出来る優れた展覧会です。
ともかく圧巻なのは、現代美術館の巨大な吹き抜けで、猛烈な存在感を示している「エナジー・ヴォイド」(1971-72)です。高さ3.6メートルにも及ぶ巨大な石彫。一見シンプルな形をしていますが、見る角度によって、ほぼ無限大に表情を変化させます。三角形、四角形、円。作品の周りを行ったり来たり、まさに右往左往して歩きながら、出来るだけ近づいて、または遠目で眺めてみます。鈍く黒光りする石の重々しい質感。外からガラス越しに降り注ぐ陽の光をたっぷりと受けて、気持ち良さそうに、ゆっくりと深呼吸しているかのようです。また、作品の中心部の大きな空洞は、そこがまるでブラックホールであるように、作品を取り巻く全体(鑑賞している人々も含む。)の「気」、つまりまさに「エネルギー」を強く引きつけています。空洞という、ある種、何もない部分が感じさせる、強烈な重力のような吸引力。彫刻が、これほど力感を漲らせていて、逞しく見えるとは思いませんでした。この出会いは衝撃的ですらあります。
展示作品の素材は、真鍮からブロンズ、それに石と、ノグチの創作の長い過程を反映してか、実に多岐に渡っています。そして、それらの中では、特にブロンズと石の作品から、「エナジー・ヴォイド」と同じようなエネルギーを感じることが出来るようです。展示の構成はとてもシンプルで、ただ愚直に作品を並べたようにも見えますが、ノグチの作品はどれも他のものとあまり干渉し合うことがなく、一点一点の重みをストレートに伝えてくれます。実は私、これまでノグチの作品に強く惹かれたことがなかったのですが、今回の展示でそれは完全に覆されました。この重み。この気配。作品の持つ強い磁力に、私もすっかり引き付けられてしまったようです。
唯一明かりが落とされた薄暗い展示室には、数点の石彫が並んでいました。その中で最も気になったものは、「この場所」(1968年)という、7片の石が四角形に合わさった作品です。床へそのまま置かれていて、見下ろす形で鑑賞することになりますが、決して大きな作品ではないのに、横へ横へという広がりを感じさせます。と同時に、この7片が今にもバラバラになってしまって、澱んだ深淵が口を開けて待っている、そんな気分にもさせられます。亀裂を挟んだ7片のせめぎ合いと揺らぎ。明るい場所で見ると、また印象も変わりそうです。
先日の記事にも、一部写真をアップしましたが、屋外のスペースには、「オクテトラ」(1968年)と「プレイ・スカルプチャー」(1966-67年)の二点が置かれています。これらは写真撮影可の上に、触っても良し、遊んでも良しと言うことで、多くの方が作品へ直に触れていました。「オクテトラ」の穴の中へ体を潜り込ませてみたり、「プレイ・スカルプチャー」の曲線の上へ、器用に体を添わせてみたりと、まさに作品を全身で感じながら、作品とコミュニケーションをとります。これら2点の作品には、「エナジー・ヴォイド」で感じられたような「強烈な重力」や「存在の重み」のようなものは影を潜め、もっと親しみやすい表情を見せています。また、鮮やかな色や形の妙も、他の石彫やブロンズ作品にはあまりなく、場に合わせながら、多様な方向へと開くことが可能です。「エナジー」のような「重み」のある作品と、このような体験的なコミュニケーションが可能な作品。一口に彫刻と言っても、その両方へ向いているノグチの創作の幅広い包含力には、心底驚かされました。
私としては久々に「痺れた」展覧会でした。いつもの如く、全く私の主観ではありますが、わざわざ木場まで足を運ぶ価値は十二分にあると思います。これはおすすめしたいです。
コメント ( 17 ) | Trackback ( 0 )
« イサム・ノグ... | 「荒木経惟写... » |
こんにちは、Juliaです!
貴ブログ・タイトルのお写真も石が持つ重量感を感じて素敵です
>彫刻が、これほど力感を漲らせていて、逞しく見えるとは思いませんでした。この出会いは衝撃的ですらあります
本当にそうですね!
私もこのような抽象的な彫刻というのは初めて触れたかもしれませんが、皆様がノグチ氏を尊敬されている気持ちが分かりました。
また、ご近所でこのような素晴らしい彫刻作品を観ることができまして、皆様には申し訳ないのですが、すごく幸せなことだと思います
子供から大人まで触れてみたくなるような暖かでいて、想像力が多く膨らむような作品達に出会えて、これからも彫刻が持つ豊かな表情を楽しみたいと思います。
今回,はろるどさんのレビューを読んで,さらにイサム・ノグチへの感心が深まりました。
彫刻の分野もいずれ深めていきたいと思います。
そして,イサム・ノグチが日本に残した2つの痕跡(と勝手に思いこんでいますが)である,イサム・ノグチ庭園美術館(http://www.isamunoguchi.or.jp/gamen/home.htm)と札幌のモエレ沼公園にいつの日か行きたいと思いました。
どちらも,とても遠いですが,「いつの日か」なら,夢がかなうかな
>貴ブログ・タイトルのお写真も石が持つ重量感を感じて素敵
ありがとうございます!
この写真は横浜美術館で開催中の李禹煥展のものです。
会期中はしばらく使おうかと思います。
>子供から大人まで触れてみたくなるような暖かでいて、想像力が多く膨らむような作品達に出会えて、これからも彫刻が持つ豊かな表情
記事にも書きましたが、
今まではあまりノグチの「凄さ」を感じたことがなかったもので、
この展覧会で開眼と言ったところです!
>ご近所でこのような素晴らしい彫刻作品
良いですねえ!
私も遠くはないのですが、
結構時間がかかるもので…。
近所だったらこの展覧会に何回か行きそうです。
@vagabond67
こんばんは。
コメントをありがとうございます。
>イサム・ノグチによる「幻の原爆慰霊碑」(日系アメリカ人であったことが反発を呼んだためお蔵入り)を知り,その並々ならぬ力量に感服しました
私はその番組を見ていないのですが、
関連の著作も多く出ているようですし、
これを機会に彼を追ってみようかなとも思いました。
>イサム・ノグチが日本に残した2つの痕跡(と勝手に思いこんでいますが)である,イサム・ノグチ庭園美術館と札幌のモエレ沼公園
これは私も行きたいです!
なんとしてでも!
遂に行かれましたか!
痺れてしまいましたか!!
次はいよいよモエレ沼!?
あるいは牟礼の庭園美術館!?
# 『痺れる』って最近聞かないですね
# この次痺れたら『痺れた』って書こうと思います
イサム・ノグチ私も大好きです。
何年か前に、牟礼の庭園美術館に行きましたが、事前にアポイントをとらないと開けてくれないとのことで、建物の中には入ることができませんでした。
ううう。中で人の気配がしたのに・・・クスン。
ということで、行かれる場合には事前に連絡を取っていくことをお勧めします。
こんばんは。
>遂に行かれましたか!痺れてしまいましたか!!
痺れました。
まさかあれほどとは…。
>『痺れる』って最近聞かないですね
言葉が少し古かったですかね…。
ただ、他に言い様がないので使ってみました。
@rさん
こんばんは。
またコメントしていただきありがとうございます!
>牟礼の庭園美術館に行きましたが、事前にアポイントをとらないと開けてくれないとのことで、建物の中には入ることができませんでした。ううう。中で人の気配がしたのに・・・クスン。
そのようなシステムなのですか!
折角お出向きになられたのに、残念ですよね。
>行かれる場合には事前に連絡を取っていくことをお勧めします。
ありがとうございます。
ご忠告を忘れないようにして行ってきたいと思います。
実は8月に札幌のイサム・ノグチ展に出かけてまして、そのときモエレ沼公園にも足を伸ばしました。ちょっと趣旨から外れるかなと迷ったんですが、TBさせていただきました~。
札幌展では、エナジー・ヴォイドは美術館前庭の池の中央に配置されておりました。屋外に置いた彫刻はなんとなく印象が拡散してしまうものですが、これの存在感はまったく薄れず、それどころか周りに強烈なプレッシャーを与えるような様子でしたね
それとモエレ沼公園…機会があればぜひ出かけてみてください!「大地に彫刻した」というのが全然誇張でないことに驚きます!
私も東京展早く見に行かないと
TBありがとうございました。
この記事と前の記事拝見していたら
やっぱりもう一度と強く思うようになりました。
そして、やっぱりモエレも。。。
こんばんは。
>趣旨から外れるかなと迷ったんです
とんでもありません!とっても嬉しいです!
>札幌展では、エナジー・ヴォイドは美術館前庭の池の中央に配置されておりました。屋外に置いた彫刻はなんとなく印象が拡散してしまうものですが、これの存在感はまったく薄れず、それどころか周りに強烈なプレッシャーを与えるような様子でしたね
エナジーもそうですが、
ノグチの彫刻は、内へ内へと強烈な重力ですよね。
決して周囲と調和しないというわけではないのですが、
大概はその場の基点としての強い存在感を見せているようです。
>モエレ沼公園…機会があればぜひ出かけてみてください!
機会を作ってでもいきたいです。
むしろこのために北海道へ行くのも良いですよね!
@Takさん
>やっぱりモエレも。。。
行きたいですよね。
これだけのものを、国内で多く見ることが出来るなんて、
とても幸せなことだと思います。
それに北海道なんて飛行機で2時間もかかりませんよね!
私も「イサムノグチ展」行ってきました。
おっしゃるとおり、木場まで行った甲斐は
十二分にありました
私は「オクテトラ」のミニチュアペーパーを
お土産で買って来ました!!
コメントありがとうございます。
>私は「オクテトラ」のミニチュアペーパーを
お土産で買って来ました!!
お買いになられましたか!
あれは私も気になっていたのですが、
部屋に飾ったらさぞかしかっこよさそうですよね!
>「この場所」がとてもいいと思いました
そうなのです。
「なんだろなあ~これ?」、というような感じで見ていると、
いつの間にか惹き込まれていた自分がいました。
>あの少し薄暗い空間もとても良かった
私も楽しみました!
そのエナジーがまた眩しいばかりで!
私も、昨日やっとみてきました。息子と一緒にみてきましたが、彼もなかなか面白くみたようです。
うちのブログでも拙い記事書きましたので、TBさせてください。
コメントとTBをありがとうございます。
息子様とご一緒に!
これは良いですねえ。
エナジー、どのようにご覧になられたのでしょうか。
>TBさせてください
早速これから拝見させていただきます!
「エナジー・ヴォイド」、何やら大きい黒いものがドシンッ!!と目の前に
立ちはだかってうろたえてしまいました。あの作品には本当に圧倒されますね。
一人のアーティストが彫刻でこんなにも色々な切り口の作品を産み出された
ことに感心してしまいました。多才な方ですよね。
はろるどさんのレポートも力強かったです!モエレ沼公園に行かれた際には
また是非お願いします。(私もいつ実現できるかわかりませんが、絶対に行く
場所リストに追加しました。)
>何やら大きい黒いものがドシンッ!!
そうなんですよね。
暗い展示室から出てきた所の大きな空間に、ドーンと。
ただひたすらに驚きました。
>アーティストが彫刻でこんなにも色々な切り口の作品
ノグチは恥ずかしながらこれまであまり関心がなかったのですが、
この展覧会で一気に変わりました。
他の作品もたくさん見てみたいです。
もちろんモエレも行きたいです!
>絶対に行く
場所リストに追加しました
私も同じです!