極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

凄い時代の儀礼Ⅲ

2017年11月30日 | 時事書評

         

                           

                    滕文公(とうのぶうんこう)篇    /   孟子    

                                             

      ※ 本来の使命を忘れるな:「君主もみずから耕して食え」と主張する一派
       があった。孟子は、これに反論する。人は自己本来の使命を忘れるな、
       安価なヒューマニズムに自己満足するな、と。

       許行(きょうこう)は神農の教えを率ずる人物だが、楚からへ来て、
       文公を訪ねた。「あなたが仁政を布いておられると聞き、遠方からはる
       ばるまいった者です。どうか住居を賜わり、お国の民草に加えていただ
       きたい」 文公は土地を与えた。許行は門弟数十人とともに、褐(麻を
       織らないまま服にしたもの)をまとい、わら靴をつくり、むしろを編ん
       で生計をたてた。陣良(ちんりょう:楚の儒学看)の門下にいた陣相は、
       弟の辛とともに鋤をかついで宋からやって米て、文公に申し出た。

       「聖人の政治を布いておられるとうけたまわっています。とすればあな
       たは聖人です。どうか聖人の民草に加えていただきたい」
       に住みついた陣良は、許行に会うと大いに感服した。そこで儒学を捨
       ててかれに師事した。ある日、許行は孟子に会って、許行の学説を述べ
       たてた。

       「の文公は賢君にはちがいありませんが、まだ道をご存知ない。賢君
       は、民とともに耕し、炊事万端、自分の手で行なって人民を治めるべき
       ものです。ところがには穀倉も金言もあります。それは文公が人民を
       食いものにして生活しているなによりの証拠です。これでは真の賢君と
       は申せません」
       「では許行は、自分の良う穀物はかならず自分で作るのかね」
       「そうです」
       「着物も自分で織るのかね」
       「いいえ、褐を着ています」
       「冠はつけておいでかな」
       「ええ」
       「なにを冠にしている」
       「白絹です」
       「それは自分で織ったものかね」
       「いいえ、作った穀物と交換します」
       「なぜ自分で織らない」
       「田畑の仕事にさしつかえますので」
       「釜やこしきで煮炊きし、鉄器で耕すかね」
       「はい」
       「その道具も自分で作っているのか」
       「いいえ、やはり穀物と交換します
       「穀物を出して道具と交換するのは別に陶工や鍛冶屋を食いものにする
       ことではない。陶工や鍛冶屋が道具を出して穀物と交換するのも、農民
       を食いものにすることにはならないはずだ。
       ところで、許行はなぜ自分で聯器や鉄器を作らないのだ。なんでも自家
       製を用いればよろしかろう。どうしていちいち品物を交換するのか、前
       例とは言わないのかね」 



       「耕作の片手間では、品物を作ることまで千加交わりませんから」

       「では政治だけは片手間でできるというのか。人にはそれぞれの仕事が
       あるものだ。大人には大人の、小人には小人の仕事がある。一人の人が
       生きてゆくにも、いろいろな人の作った品物を使っているのだ。もしそ
       れらを全部自分で作るとすれば、それこそ人民は目をまわしてしまう。
       諺にも『頭脳を使う人もあり、身体を使う人もある』とある。

       頭脳を使う人は人を治め、身体を使う人は人に治められる。治められる
       特は人を善い、治める人は善われる。これが天下の常道だ。堯の時代、
       天下は混乱状態にあった。洪水はところかまわずあふれていた。草本は
       伸び放題、鳥獣はふえ放題で、穀物はみのらなかった。鳥獣は人をおび
       やかし、いたるところに損行していた。堯は心を痛め、舜を登用して対
       策を練らせた。舜は益を火の係りに命じた。益は山沢に火を放って鳥獣
       を追い払った。爪は九つの河川をつくった。済水、汗水を海に注がせ、
       汝水、漢水を切り開き、淮水、泗水を掘って長江に水を流しこんだ。こ
       うして中国はやっと人間の住める土地になった。禹はこの間、家をあけ
       ること八年、家の前を何度も通りながら、立ち寄ることさえしなかった。
       耕したくとも耕す暇などなかったのだ。

       さらに后稷は民に農事を教えて、穀物を栽培させた。穀物はよくみのり、
       民生は安定した。だが人間というものは、煖衣飽食し、怠けて日を送る
       ばかりでは禽獣とかわりない。教育を受けることが肝心である。聖人は
       これを心配し、契(せつ)を登用して、人倫道徳を教えさせた。父子は
       親しみ、君臣は義を守り、夫婦は分を忘れず、長幼は序列にしたがい、
       朋友は信義をつくす、つまり五倫だ。
       また放勲(堯のこと)は、
       『人民をねぎらいなぐさめよ、正しく直くせよ、導き幼けよ、自己の本
       分をわきまえさせよ、さらにはめぐみをほどこせ』と言って役人を督励
       した。聖人はこれほどまでに人民のため心を痛められたのだ。耕作した
       くともそんな瑕などありはしない。

       堯は、舜のような人材を見出すために悩んだ。舜は、禹や皐陶(こうよ
       う)のような人材を見出すために悩んだ。百畝の田をどう作るかという
       のは、農夫の悩みである。財貨をわがち与えるのが”恵”。善を教える
       のが”忠”だ。天下のために人材を見出すのが”仁”だ。天下を譲るこ
       とはたやすい。しかし天下のために人材を見出すことは並大抵ではない
       のだ。

       孔子は言った。

       『堯は君主として偉大であった。最も偉大なのは天だが、その天に則っ
       ているのは堯だけだ。徳は広く、あまねく、名づけようもないくらいだ。
       舜は真の君主であった。徳は高くそびえ、手を下さずして天下は冶まっ
       た』堯と舜は、天下を冶めるためにこれほど心を砕いたのである。ただ
       田を耕すことには心を砕かなかったというだけだ。わたしは中原の文明
       をもって蛮族を教化するとは聞いている。が、蛮族に教化されるという
       話は聞いたこともない。あなたの旧師の陳良は、南の楚の出身だが、周
       公、孔子の教えに心を引かれ、中原へのぼって学問した。そして中原の
       学者でもかれの右に出る者はいないほどになった。かれこそいわゆる豪
       傑の士だ。あなたがた兄弟は、こんな人に数十年も師事しながら、師が
       亡くなるとすぐさま師に背いてしまった。むかし、孔子が亡くなったと
       き、門人たちは、三年の喪に服した。喪があけて、いざそれぞれ帰郷と
       いうさいい、子貢(葬儀の主任をつとめた)と抱きあって、悲しみも新
       たに、声の枯れるまで泣いたものだ。子貢だけはまた引き返して墓地の
       近くに小屋をかけ、ただひとり墓前につかえた。そうしてさらに三年、
       ようやく郷里へ帰ったものだ。また後日、子息・子張・子游らは、有若
       の容貌が孔子にそっくりだったので、孔子に対したのと同じ態度で仕え
       たいと思った。ところが曽子に同意を求めると、かれはきっぱり断わっ
       た。『それはいけない。先生の人格は、大河の水ですすぎ、夏の陽ざし
       にさらして純白にした布のようなものだ。だれかで代理できるような方
       ではない』 蛮族の許行は、モズのようにギャアギャアと聖人の教えを
       誹膀する人物だが、あなたが恩師に背いてまでそのような男に師事する
       とは。曽子の師を思う心とは雲泥の差ではないか。 

       鳥は賠い谷間から日のあたる高いこずえへ移るという。しかし高いこず
       えから暗い谷間に移るとは聞いたことがない。詩経の魯頌箱には、『北
       の蛮族打ち払い 南の蛮族打ち懲らす』とある。蛮族は周公にさえ征伐
       されたのだ。そのような蛮族にあなたは師事している。困ったものだ」
       「しかし、しかしですよ。即先生の説にも道理があります。物価を公定
       にすれば、だましあいがなくなります。子供を使いにやってもだまされ
       ることはありません。つまり席損でも、絹布でも、寸法が同じなら価格
       を同じにするのです。糸川は目方によって、穀物は升目によって、靴は
       大きさによって、すべて価格を同じにするのです」
       「だが、物には質のちがいがある。品質によっては、価格は倍にも五倍
       にも、あるいは十倍、百倍、いや千万倍にもなるものだ。あなたは味噌
       もくそも一緒にしようという。それでは世間は混乱するばかりだ。上等
       の靴でも、粗末な祗でも同じ値段だとすれば、わざわざ上等品をつくる
       馬鹿はあるまい。許行の説に従えば、世間はそれこそインチキだらけに
       なってしまう。そんなことで、どうして国が洽まろう」と。

       〈許行〉”農家学派”の人。「君主もみずから耕して食え」と主張した。
       〈神農〉最初に農事を教えたという伝説上の帝王。人身牛首であったと
           も伝えられる。儒家が堯・舜をたたえると、道家はそれより古
           い黄帝を、農家はもっと古い神農を祖と仰いで、自己の学説を
           権威づけるのである。
       〈鉄器〉春秋時代から鋳鉄がつくられ戦国時代には農具として普及した。
       〈后稷〉棄(き)のこと。もともと農事をつかさどる官名。
       〈南の楚〉当時の文化の中心以北(黄河流域)にあり、南(長江流域)
       は未開地とみなされていた。
       〈モズのようにギャアギャア〉 原文は「南蛮敗者」。南方方言の発音
       を比喩的にいったもの。

       【解説】「君主もみずから緋して食え」「物価を公定にせよ」というぷ
       尚家学俘にの主張は、ともに絶対平等諭である。社会に不平等が満ちて
       いるとき、この主張は人の心をひきつけるに十分である。だが絶対平等
       は必然的に悪平等を生む。物価統制、公定価格がどんなに弊害をもたら
       したかは、戦時中の体験が教えている。君王も人民も、人格的には平等
       であるとしても、そのことからただちに誰でも回し仕事をすべきだとい
       うことにはならない。「頭悩を使う者は人を治め、身体を使う者は人に
       治められる」という言葉は、職業に貴賤をつけたものと受けとられがち
       であるが、この章のねらいはむしろ「人にはそれぞれ、職分に応じた使
       命がある。ことに為政者たるものは、国を治めるという主要任務をおる
       ぞかにし、自分で緋作してみたところで意味がない」ということにあろ
       う。本来の目的や任務を自覚することが最良示談というわけである。 

 

    No.106 

 【量子ドット工学講座 No.49

ハイブリッド型ペロブスカイト太陽電池は20%超の高変換効率段階に入いり、建材一体型太
陽電池の最有力候補になりつつある。実用化に向け25%の変換効率な低コストで大面積の製
造開発が、日・韓・中・欧が凌ぎを削っている。全世界の総電力消費量13テラワットはペロ
ブスカイト型太陽電池を中心として再エネが担う時代にシフトしつつある。今夜は最新の米国
特許事例3件掲載する。

US9768404B1 : Quantum dot spacing for high efficiency quantum dot LED displays 
  
高効率量子ドットLEDディスプレイの量子ドット間隔 

 【概要】 

量子ドット層および量子ドット層を含む表示装置の量子ドット層は、隣接する量子ドット間の
間隔を調整に金属酸化物コーティングを有する量子ドットを含む。金属酸化物コーティングは、
QD-LEDに適合する電荷輸送マトリックスを生成できる。ここでは、量子ドット(QD)層およ
QD-LEDディスプレイ構造の特徴が開示される。QD層は、量子ドットのマトリクスを含み、
各量子ドットは、コア、コア周囲のシェル、およびシェル周囲の金属酸化物コーティングを含
むものである。QD層内のフォルスター共鳴エネルギー移動(FRET)の影響緩和に、例えば、
隣接する量子ドットのシェルを平均距離5~10ネノメートル離間させる。量子ドットの金属
酸化物コーティングは、平均厚さが2.5~5ナノメートルである。また、QD層は、QDの第2
のマトリクス内のQDQDのマトリクス内のQDよりも小さいQDの第1のマトリクス内に分散
されたQDの第2のマトリクスをさらに含むことができる。1つの構成において、QDの第2のマ
トリックス中のQDは、QDの第2のマトリックス中のQDのシェルに結合したリガンドを含む。

また、QD-LEDディスプレイサブピクセルは、正孔輸送層および量子ドット層上のQD層、量子
ドット層上の電子輸送層、および電子輸送層上の上部電極層を含む。QD層は、コア、コア周囲
のシェル、およびシェル周囲の金属酸化物コーティングを含むQDのマトリックスを含む。 QD
層は、電子輸送層の伝導帯または最低非占有分子軌道(LUMO)の1.0eV以内、またはより具体
的には0.5eV以内の伝導帯、または1.0eV以内、またはより具体的には0.5eV以内の価電子帯によ
り特徴付けられる正孔輸送層の価電子帯または最高被占分子軌道(HOMO)である。 

実施形態によれば、隣接するQDのシェルは、5~10ネノメートルの平均距離だけ離れていて
もよく、QD の金属酸化物コーティングは、2.5~5nmの平均厚さを有してもよい。また、正孔輸
送層は金属酸化物粒子を含み、QD 層は、正孔輸送層の価電子帯の1.0eV以内、より具体的には
0.5eV以内の価電子帯によって特徴付けられる。例えば、QD 金属酸化物コーティングは、正孔
輸送層金属酸化物粒子と同じ材料であってもよい。さらに、QD-LEDデ ィスプレイサブピクセ
ルは、正孔輸送層とQD層との間に電子ブロッキング層をさらに含み、電子ブロッキング層は価
電子帯の1.0eV 以内、より具体的には0.5eV以内の価電子帯を有するか、正孔輸送層の占有分子
軌道(HOMO)である。また、正孔輸送層および/または電子ブロック層金属酸化物粒子の一部
または全部がp型ドーパントでドープされ、また、電子輸送層は金属酸化物粒子を含み、QD
は、電子輸送層の伝導帯の1.0eV 以内、より具体的には0.5eV 以内の伝導帯によって特徴付けら
れる。以下、詳細は下図フリックし参照されたし。

  図11 一実施形態による電子及び正孔阻止層を含むQD-LEDスタックのエネルギー図  Sep. 19, 2017

  US973056B1 : Method for producing high quality, ultra-thin organic-inorganic hybrid perovskite  
   高品質、超薄型有機無機ハイブリッドペロブスカイトの製造方法 

 【要約】 

層状ペロブスカイト構造を作製する方法は、a)表面不動態化剤を有する基材の蒸気支援表面処
理(VAST)を実施すること; b)不動態化剤にPbI 2の層を適用するステップと、 c)PbI 2をヨウ
化メチルアンモニウム(CH 3 NH 3 I)に直交溶媒中で暴露する。 d)構造体をアニールする。
PEDOTPSS被覆ITOガラス基板を使用することができる。 表面パッシベーション剤は、一般
化学式(E 3 E 4)N(E 1 E 2)N'C = Xを有するカルコゲナイド含有種の1つであってもよく、 0~
15 個のヘテロ原子または水素を含むC1~C 15の有機置換基から独立して選択され、XSSe
たは Teである、チオ尿素、チオアセトアミド、セレノアセトアミド、セレノ尿素、H 2 S、H 2
Se、H 2 Te
またはLXH(式中、Lはヘテロ原子を含むC n有機置換基であり、XTe。 不動態化剤
は、スピ ンコーティング、インクジェット印刷、スロットダイコーティング、エアロゾルジェ
ット印刷、 PVD、CVD、および電気化学的堆積法から適用できる。 尚、詳細は下図3をクリッ
クし参照されたし。

Oct. 17, 2017

図3 ガラス/ ITO / PEDOT:PSS表面上にVAST処理/成長させた110nmおよび310nmのペロブス
   カイトCH 3 NH 3 PbI 3膜のX線回折パターン

 

  US9812660B2 :Method for single crystal growth of photovoltaic perovskite material and devices   
   光起電力ペロブスカイト材料およびデバイスの単結晶成長方法 

 【要約】 

ペロブスカイト単結晶の成長のためのシステムおよび方法は、少なくとも1つの小さなペロブス
カイト単結晶を含む容器中のペロブスカイト溶液中の温度勾配を用いる低温溶液プロセスと、ペ
ロブスカイト結晶 部分的には溶液中の温度勾配に起因し、部分的には基板内の温度勾配に起因
して核生成および成長させることで、低温溶液プロセスは製造コスト低減に、電子デバイス、特
に大面積太陽電池の製造は魅力的で  大きなペロブスカイト単結晶の製造方法を提供する。
尚、詳細は下図をクリックし参照されたし。

 【特許請求範囲】

  1. ペロブスカイト単結晶を成長させる方法であって少なくとも20℃の温度勾配を発生させ
    る工程と、ペロブスカイト前駆体溶液中で;温度が勾配によりペロブスカイト前駆体溶液の
    より暖かい部分よりも低温であるペロブスカイト前駆体溶液のより涼しい部分で基板を前
    駆体溶液中に配置することを含み、基板はペロブスカイト前駆体溶液ペロブスカイト単結
    晶が基材の第1の端部に近い基材上に核生成して成長して、大きなサイズのペロブスカイト
    単結晶を形成するペロブスカイト前駆体のより暖かい部分に向かって移動する。
  2. 前記ペロブスカイト前駆体溶液の外部の前記基材の遠位端を冷却することをさらに含む、
    請求項1に記載の方法。
  3. 冷却器部分のペロブスカイト前駆体溶液が過飽和である、請求項1に記載の方法。
  4. 前記前駆体溶液が容器内に収容され、前記容器の少なくとも底部が加熱された流体浴内に
    あり、前記少なくとも1つの小さなペロブスカイト結晶が前記底部の近位に配置されてい
    る、請求項1に記載の方法。ペロブスカイト前駆体溶液のより暖かい部分に対応する容器の
    温度を測定する
  5. ペロブスカイト前駆体溶液のより暖かい部分が約40℃から200℃の温度である、請求
    項1に記載の方法。ペロブスカイト前駆体溶液のより涼しい部分は、約20℃から130
    ℃の温度である。
  6. 前記ペロブスカイト単結晶が、Aがメチルアンモニウム(CH 3 NH 3 +)、Cs +またはホルム
    アミジニウム(H2NCHNH 2 +))であるAMX 3の構造を有するペロブスカイトである、請求
    項1に記載の方法であり、Mは金属カチオンであり、Xはハライドアニオンチオシアネート
    SCN-)またはそれらの混合物である。
  7. 前記ペロブスカイト前駆体溶液のより暖かい部分に少なくとも1つのペロブスカイト単結
    晶またはペロブスカイト粉末を配置することをさらに含む、請求項4に記載の方法。前記
    ペロブスカイト前駆体溶液の温度が、前記ペロブスカイト前駆体溶液のより冷たい部分温
    度勾配に起因する。
  8. 金属カチオンがPb 2+であり、ハロゲンイオンがI - 、Cl - 、Br - またはそれらの混合物の1
    つである、請求項6に記載の方法。
  9. 平面型ペロブスカイト層を構成するペロブスカイト単結晶と、前記ペロブスカイト型単結
    晶の表面に形成され、前記平面状ペロブスカイト層の第1の側に配置された第1の電極と、
    前記ペロブスカイト型単結晶に照射されることにより活性化されると、前記ペロブスカイ
    ト型単結晶に衝突して活性化された場合に、前記ペロブスカイト型単結晶に衝突して活性
    化されると、ペロブスカイト単結晶を面方向に沿って流れる。

 

 

         

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凄い時代の儀礼Ⅱ

2017年11月29日 | 環境工学システム論

       

                          

               滕文公(とうのぶうんこう)篇    /   孟子   

 

                                            

      ※ めまいを起こさぬ薬では、飲んでも病はなおらない: の文公がまだ太
       子だったころ、楚を訪れる宋に立ち寄った。宋に滞在していた孟子に教え
       を乞うためである。孟子は、"人の本性は善である”と主張し、堯と舜の
       道にならうよう、くりかえし説くのだった。文公は、楚からの帰途、ふた
       たび孟子に会いに行った。孟子は言った。「あなたは、ためらうのですか。
       太子よ、道というものは1つしかないのです。成覵(斉の勇者)は、斉の
       景公にこう言いました。『かれも男、わたしも男、なんて恐れることがあ
       ろうか』 また、顔淵(孔子の弟子)も言っています。『舜も人間、わた
       しも人間、なんのちがいかおるものか。意欲さえあれば、舜と同じになれ
       るのだ』公明儀(魯の賢人)も言ったではありませんか。『わたしは、文
       王を師と仰ぎ、周公の言葉を信じて疑わぬ』太子よ。あなたの国は、五十
       里四方はありましょう。立派な国をつくるのに、十分な条件がそなわって
       います。なにをためらうのですか。書経にもありましょう。『めまいを起
       こさぬ薬では、飲んでも病はなおらない』と」

        〈の文公〉 は、斉と楚にはさまれた小国(現在の山東省県)。
        文公はのちに、孟子を招いて改革をはかったが、孟子が去ってまもなく、
        斉(宋ともいう)に滅ぼされた。
        〈宋〉 おなじく斉と楚にはさまれた小国(河南省邱県)。春秋時代に
        は栄えたが、戦国時代に入って次第に衰退した。王偃は一時、斉、楚の
        地を侵したが、乱行で人気を失い、斉の酒王に殺され、国土は斉・楚・
        魏に三分された。孟子がなぜこの順に滞在したかはわからない。しかも、
        かれは王偃には会っていない。

       【解説】孟子の説は、戦国の諸侯にとって、めまいのするようなものであ
       ったのだろう。だが、孟子は賢人の言を次々に引用して、堯・舜はけっし
       て凡人の及びえない存在ではない、努力しだいで堯舜の道が実現できるの
       だと主張する。


    No.105

【デジタルグリッド篇:電力リアルタイムプライシング設計】

11月22日、名古屋大学らの研究チームは、世界初の電力のリアルタイムプライシングの
定性を保証する設計条件を解明したことを公表。従来の電力システムでは、電力の消費量
に合わせるように電力供給(発電)を制御してきた。一方、ピークカットのために、また、
発電量の調節が容易ではない再生可能エネルギーの大量導入に向けて、電力消費の方も制御
することが望まれている。リアルタイムプライシングは、電力価格を調節することで電力消
費の抑制・促進を促す方法を意味する。スマートグリッドの実現における中核的技術の1つ
と位置付けられている。 

 

従来の電力システムでは、電力の消費量に合わせるように電力供給(発電)を制御していた
が、その一方、ピークカットのために、また、発電量の調節が容易ではない再生可能エネル
ギーの大量導入に向けて、電力消費の方も制御することが望まれている。電力消費を制御す
る方法(上図参照)の1つとしてリアルタイムプライシングReal Time Pricing:リアルタ
イム料金)がある。これは電力価格の調節によって電力消費の抑制と促進を促す方法であり、
スマートグリッドにおける中核的な技術と位置付けられている(下図1)。リアルタイムプ
ライシングは、電力消費量から電力価格を定め、その価格に応じて電力消費量が変化すると
いう「電力消費量」と「電力価格」の間の相互的な作用が基本となります。このような相互
作用は、制御工学において「フィードバック構造」と呼ばれ、フィードバック構造を構成す
ると、常に「不安定化」と呼ばれる悪循環に陥る可能性が生じる。リアルタイムプライシン
グにおいて、不安定化が起こると停電に陥る可能性があるため、不安定化は絶対に避けなく
てはならない事象。



この一方で、国内外においてリアルタイムプライシングの実験が実施されているが、現状で
は基礎的な検証を目的としているため、フィードバック構造の安定性を保証するという点ま
で踏み込んではいない。また、電力消費量の総量の情報を得るために必要な時間に比べ、電
力消費量を緩やかに変化させるような場合、本質的に不安定化が起こりにくいことが知られ
ているが、たとえばアンシラリーサービスのために不可欠な、応答時間の速いリアルタイム
プライシングを考えた際は、不安定化の可能性が一気に高まることになるが、そのようなリ
アルタイムプライシングの安定性研究が少ないのが現状で、特に、この研究で分散推定と呼
ばれる電力消費量の総量の推定機構が組み込まれたリアルタイムプライシングを対象とした
もはない。このため、リアルタイムプライシングを「フィードバック構造を有するシステム
と捉え、不安定化が絶対に起こらないことを保証する、安定性を保証する設計理論が必要と
なる。

この研究では、フィードバック制御理論に基づき、リアルタイムプライシングの安定性を保
証の設計条件を世界で初めて解明――特に、需要家に備えられたスマートメータから収集し
た情報の結合と、価格への反映の観点から設計条件の導出に世界で初めて成功。主要成果は
以下のようにまとめられている。

1)リアルタイムプライシングのモデルの提案

リアルタイムプライシングにおいては、空間的に分散している需要家の電力消費量をスマー
トメータによって測定し、それを収集して情報処理し、電力消費量の総量の情報を得る必要
がある。この際、需要家の数は一般に膨大で、各需要家の消費量をどこか一か所に集めて計
算するのは、通信量や計算量点から現実的ではない。そこで、スマートメータの情報を局所
的なアクセスポイントに集め、アクセスポイント間で情報交換を行いながら電力消費量の総
量計算を実施するアプローチを考える。

ここでは、このようなアクセスポイント間で実施する分散型情報処理で、時々刻々と変化す
る消費量に対応できるイナミックコンセンサスアルゴリズム採用。また、電力価格決定
として、電力消費量の総量の「現在の値」と「過去の値」をある割合で足し合わせて行う
――
制御工学の分野でよく知られている比例積分型制御の応用――この研究でのリアルタイ
ムプライシングでは、ダイナミックコンセンサスアルゴリズムにより、アクセスポイントに
分散している情報から電力消費量の総量を推定し、その推定情報の現在値と過去の履歴を用
いて、電力価格を決定している(下図2)。このようなモデルは、将来リアルタイムプライ
シングが実施される環境の特徴を適切に捉えことができ、現段階で最も実用的なものだと考
えている。尚、上述のアクセスポイントは、論文中では電力推定器と呼び、分散電源に備え
られていると仮定したが、❶必ずしも電源に備えられる必要はなく、❷アクセスポイント自
身で独立している場合や❸スマートメータ自身がアクセスポイントの役割を演じる場合もあ
る。

2)安定性を保証する設計条件の解明

 上述のようにモデル化されたリアルタイムプライシングは、多数のシステムが複雑に接続さ
れており、どのパラメータがシステム全体の安定性に影響を及ぼすのかが明らかでない。こ
のためシステム全体から安定性に影響を及ぼすブロックを抽出する相似変換を考案し、リア
ルタイムプライシングの安定性が、主に、次の3つのパラメータの関係によって定まること
を発見する。

a) アクセスポイント間の情報の交換経路(ネットワーク構造)
b) アクセスポイントに分散している情報を統合し、電力消費量の総量の情報が得られるま
 での速度(コンセンサスゲイン)

c) 情報の電力価格への反映度合い(制御ゲイン)

さらに、リアルタイムプライシングの安定性を保証する3つのパラメータの範囲を表現する
不等式を導出。この不等式は、制御工学の分野で知られている、システムが安定か否かの規
範となる固有値と呼ばれる数値が安定領域に存在することを表し、これを満足するように上
述の3つのパラメータを選択(設計)すれば、安定保証されたリアルタイムプライシングを
実現する。

下図3に、研究で得た設計条件を用いてリアルタイムプライシングを実現した例(シミュレ
ーション結果)を示していますが、ピーク時においても総電力消費量が目標値以下(電力の
供給限界以下)に抑えられていることが確認できます。一方、図4は、研究成果によらない
場合の例で、総電力消費量が不安定化し、目標値を超過している。これは、現実世界におい
て停電をもたらす可能性を意味する。以上のように、この結果は、安定性という観点からリ
アルタイムプライシングの主要な設計原理となることが期待される。

❏ 関連特許事例: WO2015/162835

需要供給バランシングシステム、スイッチングシステム、需要供給管理システム、スイッ
チング方法、
需要供給バランシング方法、需要供給管理方法、スイッチングプログラム、
及び需要供給管理プロ
グラム

 【概要】

消費対象を消費しようとする消費箇所の情報を一か所に集めないで、消費対象を消費する消
費箇所を公平に選定して、リアルタイムプライシングを実現にあたり、下図のように、需要
供給バランシングシステム(リアルタイムプライシングシステム)(100)は、電力の供
給余力に基づいて制限パラメータを設定する制限パラメータ設定部(21)と、電力源(1
0)と複数の電力消費機器(40)との間に各々接続される複数のスイッチングシステム(
自動デマンドレスポンス(Automated Demand Response)装置)(30)とを備えている。複
数のスイッチングシステム(30)の各々は、制限パラメータに基づく当選確率で抽選を行
う抽選部(33)と、抽選部(33)にて当選した場合に、電力を電力源(10)から受け
て電力消費機器(40)に供給し、かつ/又は、抽選部(33)にて落選した場合に、電力
源(10)から電力消費機器(40)への電力の供給を遮断するスイッチング部(34)と
を備えている。

 尚、詳細は上図ダブクリ参照されたし。

 Nov. 16, 2017

【最新蓄熱技術篇:光学制御できる相変換型蓄熱剤】

11月16日、マサチューセッツ工科大学の研究グループは、一種の熱電池機能で、燃料の
代替品と
なる新しい化学合成物で、必要に応じてエネルギーを放出する化学蓄熱電池剤を開
発したことを公表。蓄熱の一般的なアプローチは、相変化材料(PCM: phase change material
を使用し、入力熱が材料を溶融し、固体から液体へと相変化しエネルギーを蓄積する。 PCM
が融点以下に冷却されると、PCMは固体に戻り、その時点で蓄えられたエネルギーは熱とし
て放出されるが、これらの材料には、低温用途のワックス、脂肪酸、および高温使用される
溶融塩を含む材料の例があるが、従来のPCMは、断熱を必要とし相変化温度を制御できず蓄
熱エネルギーを比較的急速に失う。このため新しいPCMは、ハイブリッド型相変化材料は温
度を光で調整でき、相変化の熱エネルギーを元の材料の融点よりもずっと低く維持でき光に
応答し形状を変える分子スイッチを使用する(詳細は上/下図ダブクリ参照)。

doi:10.1038/s41467-017-01608-y

熱エネルギーの問題は、それを保持/維持することが難しい点にある。そのため、従来の相
変化材料に光が当たったときに構造変化を起こす小さな分子加えことで、光のパルスに応答
する有機化合物と脂肪酸を組み合わせることで蓄熱エネルギーを熱放出できるような分子構
造――感光性構成要素はエネルギーを蓄積/放出する他の構成要素の熱特性を変化――の改
質に成功する。これにより熱エネルギーをある場所に蓄えておけば、必要に応じ熱エネルギ
ーを発生できる。上図のように、このハイブリッド材料は、❶加熱すると溶融し、❷紫外線
に曝された後、❸冷却しても溶融。❹次に、別の光パルスがトリガとなり材料は再凝固し、
❺熱相変化エネルギーを戻す。つまり、光活性化分子を従来の潜熱材料に組み込むことで、
溶融、凝固、過冷却などの新しい種類の制御機能を持たせること成功する。新しい蓄熱剤は、
太陽熱だけでなく、産業排熱、車両排熱などあらゆる熱源が利用できる。また実験室段階で
従来のものは数分間でエネルギー消失するが、少なくとも10時間安定、この蓄熱剤の温度
変化ま
たは過冷却は最高10℃(18°F)――材料中に熱エネルギー(約200ジュール/
グラム)保持―――を示しさらに高い温度も期待できるとのこと。

 Nov. 13, 2017



【今夜の2枚の写真:フクシマ・メルトダウンの現況】

  Nov. 28, 2017

 Nov. 27, 2017

6年以上経過した福島原子力発電所で今直敷地内で900個の大型高密度タンクで保管され
た100トンの放射性水をどうするべきか結論がでていないが、放射能水量は、1日150
トン増え続けているという。(詳細は上写真をダブクリ参照されたし:英文) 

● 凄い時代の儀礼Ⅱ

宅トレ1日6000歩(2~3回/日 約60~75分)を直実にこなし、英会話レッスンも1時
間半をこなす――「おと基礎英語」のテキストをみて、文字とし理解することで、ずいぶん変化し
ていることに気づき果然熱が籠もる(流し鑑賞と比較して)。ところが、そのバーター(トレード
オフ)されるのが、最新の技術情報収集時間が犠牲となる。痛し痒しであるものの、中国のキャッ
チアップの加速を感じる。なので「継続は力なり」を肝に銘じて頑張るのだが、彼女が夜遅くまで
作業するのはやめてほしいと言って「睡眠薬」を置き協力せよとクレーム。やはり家の造りが貧相
なのが禍している。

 

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凄い時代の儀礼

2017年11月28日 | デジタル革命渦論

       

                          

               滕文公(とうのぶうんこう)篇    /   孟子   

 

                                            

      ※ ”議論ずきな男よ"と悪口をいわれながらも孟子の論敵に対する攻撃はや
       まない。それを支えるものは、自分の思想こそ乱世に平和をもたらす唯一
       のものだという自信と使命感――「われ、あに弁を好まんや。已むを得ざ
        ればなり――本篇は、孟子のそうした気魄と姿勢を浮き彫りにし、かつ墨
       家や農家など当時流行の思想をうかがわせる、いわば論争の記録である。

       こ と ば

      「もし薬瞑眩せずんば、その疾は癒えず」
      「心を労する者は人を治め、力を労する者は人に治めらる」
      「幽谷より出でて喬木に選る」   
      「尺を枉げて尋を直くす」
      「おのれを枉ぐる者にして、いまだよく人を直くする者あらざるなり」
      「われ、あに弁を好まんや。われ已むを得ざればなり」 

  

    No.104

【省エネ事業篇:最新ダイヤモンドパワー半導体製造技術】

● 反転層型MOSFETとは

電気の効率的利用――発電から消費に至るまで多段に亘る電力変換(交流・直流変換、周
波数変換)――が行われ多数の半導体パワーデバイスが用いられている。これら半導体
ワー
デバイスの電力損失を低減は、省エネルギー化に重要なテーマとなる。
ダイヤモンド
は、半導体材料として広く用いられているシリコンに対し、ワイドバンドギャップであり、
更に融点、熱伝導率、耐絶縁破壊性、キャリア速度限界、硬度・弾性定数、化学的安定性
及び耐放射線性が高く、電子デバイス材料、特に半導体パワーデバイスの形成材料として、
極めて高いポテンシャルをもつ。

しかし、ダイヤモンドは他の半導体材料と異なりイオン注入法等の不純物ドープが困難で、
n型不純物ドープ領域の選択的形成上、目的に応じたデバイス設計を行うことができない
問題がある。
これまで結晶面が制御されたダイヤモンド基板に形成した段差形状の底角
起点にn型不純物ドープダイヤモンド領域を結晶成長することで、n型不純物がドープさ
れたダイヤモンド選択的形成に成功ダイヤモンド半導体装置の開発に注力されている
ものの
、半導体パワーデバイスを含む種々の素子構成からなる電子デバイスを具体的に構
築する方法が課題として残され、よりデバイス設計の自由度が高いダイヤモンド半導体装
置及びその製造方法―――特に、狙った位置に不純物がドープされたダイヤモンド領域と
ドープされていないダイヤモンドの絶縁領域を選択的に一体形成して、これらの領域で素
子分離可能とする素子構造を構築することで、ドープ領域周辺を絶縁領域で分離し、ドー
プ領域周辺の素子領域のみをチャネル長として規定されたFET(電界効果型トランジス
)構造を有するダイヤモンド半導体装置の実現できる――デバイス設計の自由度が大幅
に高められるとともに、ダイヤモン半導体装置を効率的に製造することができる。



このように、次々世代候補との呼び声が高いダイヤモンドの研究開発が活発化。「究極の
半導体材料」ともいわれるダイヤモンドはSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリ
ウム)といった次世代パワーデバイス半導体材料よりもバンドギャップが大きく、移動度
や絶縁破壊電界そして熱伝導率などあらゆる物性で優れ注目されている。徳田規夫金沢大
学准教授らの研究グループは独自のダイヤモンドの原子的表面・界面構造制御技術を応用
することで、2016年に世界で初めて反転層型ダイヤモンドMOSFETの動作実証に成功する
(特許6124373  ダイヤモンド半導体装置及びその製造方法 国立研究開発法人産業技術総
合研究所 他 20170510日)。



さて、デバイス設計の自由度を大幅に高めるとともに、効率的に製造可能なダイヤモンド
半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。上記特許の特徴は、下図のよ
うに、ダイヤモンド基板1と、ダイヤモンド基板1の{001}の結晶面を有する基板面
上に略垂直に隆起して配されるダイヤモンド段差部と、n型のリンドープダイヤモンド
域5a、5bと、ダイヤモンド絶縁領域6a、6bと、を有す。ダイヤモンド段差部は、
側面が{110}の結晶面を有する第1段差部3と、側面が{100}の結晶面を有する
第2段差部4a、4bとが一体に形成され、リンドープダイヤモンド領域5a,5bは、
第1段差部3の段差形状の底角を起点に第1段差部3の側面及びダイヤモンド基板1の基
板面を成長基面として結晶成長させて形成され、ダイヤモンド絶縁領域6a、6bは、第
2段差部4a、4bの側面及びダイヤモンド基板1の基板面を成長基面として結晶成長さ
せて形成されることにある。


【符号の説明】

      1,11,21,21’,31,31’  ダイヤモンド基板
      2,12a              p型ダイヤモンド
      2’,12a’,22’,32’  ダイヤモンド段差部
      3,13,23            第1段差部
      4a,4b,14a,14b,24  第2段差部
      5a,5b,15a,15b,25,35  リンドープダイヤモンド領域
      6a,6b,16a,16b,26  ダイヤモンド絶縁領域
   7a,7b,17a,17b,27,37b  ゲート電極
      8,18,28,38      ソース電極
      9,19,29,39      ドレイン電極
      10,20,30,40    ダイヤモンド半導体装置
      12b                pダイヤモンド
      12b’,12b’’      pコンタクト領域
          22,32            p型半導体層
          37a                ゲート絶縁膜
          41                  p領域
            W                  線幅
            H                  高さ
            D                  空乏層
            S                  間隔

※ 図3は、第1実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(3)

【図面の簡単な説明】



【図面の簡単な説明】

【図1】第1実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(1)
【図2】第1実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(2)
【図3】第1実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(3)
【図4】第1実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(4)
【図5(a)】ゲート電圧の印加状況に応じて変化する空乏層の広がりを示す図(1)
【図5(b)】ゲート電圧の印加状況に応じて変化する空乏層の広がりを示す図(2)
【図5(c)】ゲート電圧の印加状況に応じて変化する空乏層の広がりを示す図(3)
【図5(d)】ゲート電圧の印加状況に応じて変化する空乏層の広がりを示す図(4)
【図6】第2実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(1)
【図7】第2実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(2)
【図8】第2実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(3)
【図9】第2実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の製造プロセスを示す図(4)
【図10(a)】第3実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の断面構造を部分的に示す
        説明図

【図10(b)】図10(a)の部分平面図
【図11】第4実施形態に係るダイヤモンド半導体装置の断面構造を部分的に示す説明図
図12】様々なゲート電圧におけるドレイン電流-ドレイン電圧の特性を示す図
図13】ドレイン電圧が-10Vにおけるドレイン電流-ゲート電圧の特性を示す図

【特許請求の範囲】

一の面側に第1p型半導体層が形成されるダイヤモンド基板と、第2p型半導体層で形成
されるとともに前記ダイヤモンド基板の{001}の結晶面を有する前記一の面を基板面
として前記基板面に対し略垂直方向に隆起して配され、その隆起された上面及び側面と前
記基板面とで段差形状を形成するダイヤモンド段差部と、n型のリンドープダイヤモン
領域と、ダイヤモンド絶縁領域と、を有し、


前記ダイヤモンド段差部は、側面が{110}の結晶面を有する第1段差部と、側面が
{100}の結晶面を有する第2段差部とが一体に形成され、
前記リンドープダイヤモンド領域は、前記第1段差部の前記段差形状の底角を起点に前記
第1段差部の側面及び前記ダイヤモンド基板の前記基板面を成長基面として結晶成長させ
て形成され、

前記ダイヤモンド絶縁領域は、前記第2段差部の側面及び前記ダイヤモンド基板の前記基
板面を成長基面として結晶成長させて形成され、

平面視で細長のライン状に形成される前記第1段差部の両側面にそれぞれ形成された前記
リンドープダイヤモンド領域にゲート電極がそれぞれ形成され、

前記第1段差部を胴部としていずれかの端部位置に形成される前記第2段差部上にソース
電極が形成され、

前記ダイヤモンド基板の前記第1p型半導体層が形成される前記基板面と反対側の面上に
ドレイン電極が形成されることを特徴とするダイヤモンド半導体装置。



この様に、高品質な酸化膜/ダイヤモンド半導体界面構造の形成が極めて困難で、パワーデ
バイスにおいて重要なノーマリーオフ特性を持つ反転層チャネルのMOSFETはこれまで実
現できず、ダイヤモンドについては「ウエハーがない」。このため、革新的な結晶成長・
スライス・研磨技術を用いた高品質かつ大面積ウエハーの低コスト製造技術の開発が必要
で、さらなる大きな投資とマンパワーが必要とする。ミニマルファブの活用で、ダイヤモ
ンドデバイスの早期実現が可能になると視られている。これは、ダイヤモンド半導体デバ
イスは実化の初期段階にそれほど数量が出るものではない上に、物性が優れているため他
の材料に比べてデバイスサイズを小型化できる。用途としては新幹線などの電鉄用途、飛
行機、宇宙船、電力インフラやロボットなどへの採用に期待。もちろん大面積ウエハーが
実現すれば、車載用途や、さらに市場が大きい低・中電圧インバーターにも展開可能であ
り、省エネ・低炭素社会の実現に貢献できる。高耐圧かつ低損失の次世代パワー半導体デ
バイスへの応用により、パワーエレクトロニクスの将来の世界市場規模は,現在の6兆円
から2030年には20兆円まで拡大すると見込まれている。

● 3つのダイヤモンドワイドギャップ半導体の特徴

さて、まとめに入ろう。ダイヤモンドパワー半導体の特徴は3つ――(1)300℃を超える温
度の動作可能、冷却システムなどのコストを削減、(2)従来のパワー半導体の10倍の高電圧
に対応でき、かつまた、多くの材料を必要とせずシンプルである。(3)さらに、電力損失の低
減を可能とし90%以上の電力効率動作する。


  Sep. 7, 2017
● 特開2017-160087プラズマCVD装置及びダイヤモンドの成長方法

Sep. 14, 2017


 Oct. 3, 2017

【短歌トレッキング:「旅の途次を読む」から】

 「旅」はひとつの生き方である。ツアーや留学、転居など旅に類する移動は多くの歌人の
年譜のどこかに挿み
込まれる挿話だが、それは本質的な「旅」ではない。帰るべき場所を
もたず、精神の居場所を本質的に失ってい
ることが「旅」なのだ。旅を宿命とし、旅を生
きるほか
ない生き方というものがあって、そうした「旅」こそば、近代の近代らしさを凝
縮した文学スタイルでもある。(「旅」という文学スタイル、川野聡子、「歌壇」2017年
11月号)

例えば斎藤茂吉はドイツに留学したがそれは一時期の挿話に見える。彼の精神性は「旅」
ではなくはるかに強
く「家」に依って形作られている。東北の「家」から、東京で大病院
を営む斎藤「家」へ。不本意ではあっても
そこには「家」を運命とし、居場所として生き
た精神の
あり方が感じられる。その葛藤の痕跡が彼の文学の根の一つとなってもいよう。
それに対して啄木や牧水にはそのように生きるはかない「旅」が刻印されている。そもそ
も彼らの親が村々から請われて住職となる憎侶であり医者であり、先祖代々の土地を守る
ような「家」を持たない職業の人々であったことも無関係ではなかろう。彼らはそうした
出発を背景に、さらに彼ら自身の近代人の新しい生き方として居場所を喪失した「旅」を
生きた。と書き、牧水と茂吉の「旅」の差異(スタイル)を評されている。


 何となく汽車に乗りたく思ひしのみ汽車を下りしにゆくところなし 啄木『一握の砂』
  
 人いまだゆかぬ枯野の今朝の霜を踏みてわがゆくひ
たに億直ぐに  牧水『黒松』


四、五年前から四国遍路をしている。もちろん歩き遍路。ときどき車を使うこともあるが、
おおむね歩き。四国遍路だから、関東に住む私にとっては四国に着いただけで目的地到着
ということになるのだが、しかしそこから歩き始めるわけである。札所に指定された寺が
目的地だが次々に巡るので、巡ることそのものが目的であり途次でもある。奈良吉野の金
峯山寺のお坊さんの話を聞いた。吉野、熊野、高野の霊場巡りの話だったが、霊場をつな
ぐ道自体がすでに修行、霊場に着くことが目的ではなく、その過程が大事なのだという。
また、巡礼は日常を抜けて非日常に触れて歩くことで、非日常を聖なるもの、日常を俗な
るものという。その俗と聖を行き来する装置が巡礼だということだ。四国巡礼をしてみる
と実感できる。一番札所から二番札所へ歩いていくわけだが、その間、歩くという行為と
時間がいかに貴重なものか。いま、私たちはあまりにも便利になりすぎて、見過ごしてし
まうものが多すぎる。多すぎると気がつくのも歩いてみたからで、歩くことが人間の呼吸
にあっていると初めて実感を持つ。(同歌壇より「時間・空間 あいだの妙、沖ななも)

 
ゆっくりと目的に近づくたのしみといふにあらねど鈍行に乗る 馬場あき子『渾沌の鬱』

いまわれはジェット機といふ龍のなか恐竜およぐ夢を見てゐき 坂井修一『スピリチュアル』

いくつかの旅往き復りあきかぜに骨洗はるるやうなさびしさ  
小島ゆかり『馬上』


「旅」ひとつとってもかように多様で趣をことにして表現されるその歌人の感性の"プラッ
トフォーム"を汲み取り、日本語の素晴らしさに感心しながら一歩一歩、歌えないこころの
リハビリを進め、参考にさせていただいている。 

 

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未知の遭遇に感謝祭

2017年11月27日 | デジタル革命渦論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子   

                                            

      ※ 斉を去る:孟子が斉の国を去った。そのことで斉の尹士が友人に話した。
       「われわれの宣王は、湯王や武王の真似のできるお方じゃない。孟子がそ
       れを知らないでこの国に来だのなら、明き盲だ。もし、承知の上で来だの
       なら、封禄にありつこうとしたのだ。わざわざ遠方からやって来て、結局
       王と意見が合わないから出て行った。しかも帰りぎわになって昼(ちゅう)
       の村に三日も泊まって、やっと故郷に向かったということだ。未練がまし
       いにもほどがある。わたしはそんな奴は大きらいだ」

       高子(孟子の弟子)がこの話を孟子に伝えた。孟子は言った。

       「尹士などにわたしの気持がわかるものか。遠方から王に会いに来だのは、
       催かにわたしの希望からだ。しかし意見が合わないために国を去ったのは、
       けっしてわたしの希望ではない。やむを得なかったのだ。昼の村に三日も
       泊まって出発したが、わたしの気持にしてみれば、まだ早すぎるくらいで
       あった。わたしは『王がどうか態度を改めてくれればよい。もし改めれば、
       かならずわたしを呼びもどしに来る』と思っていたのだ。昼の村を出発し
       ても王は追って来なかった。そこで思い切って国へ帰る気になったのだ。
       しかしながら王に失望したわけではけっしてない。まだまだ善政のできる
       お方だ。もう一度わたしを使うなら、斉の人民ばかりでない、天下の人々
       の生活が安定するのだ。王よ、どうか態度を改めてくだされ。それを祈っ
       てやまない。わたしは小人のような真似はしない。君主を諌めて聞き入れ
       てもらえなければ、復立ちまぎれに国を去るに当たって、あてつけがまし
       く、陽のあるかぎり歩けるだけ歩くようなことはしないのだ」

       尹士はこれを聞いて言った。「本当にわたしは小人であった」     

       【解説】孟子はついに斉を去った。この八年間、これこそわが積年の理想
       を実現しうる人拘だと、かれが大きな期待をかけてきた宣王も、王道政治
       を行なえるだけの器量を備えながら、結局戦国の一雄として終わらざるを
       得なかった。王道政治を行なうにはあまりに時代の病根が深かったのであ
       る。血を吐くような言葉を残して斉の都を離れてゆく孤高の人、孟子の後
       姿を思えば、なにか人の胸を打つものがある。前三312年のことである。
      
       斉を去るにいたった直接の動機は、おそらく燕占領政策の変更を迫った孟
       子の進言が受け入れられなかったことであろう。燕はその後、昭王の下で
       有名な「まず傀より始めよ」の人材招致政策をとり、楽毅を総帥として斉
       を攻撃する。斉は支えきれず、たちまちのうちに七十余城を奪われてしま
       った。力で支配する背が力で恢復されたのである。 

 

    No.103

【サーモタイル事業篇:高性能な熱電材料設計指針】

● 青色LED材料を活かして、熱を電気に変換

11月27日、北海道大学らの研究グループは、青色発光ダイオード材料の窒化ガリウム
GaN)半導
体の電子の動き易さを活かした半導体二次元電子ガスが、従来の熱電変換材料
に比べ2~6倍も大
きな熱電変換出力因子を示すことを発見。ここで、二次元電子ガスとは、
電子が溜まったナノメートル
nm)オーダーの極めて薄い層。今回の発見は、温度差を電気
に直接変換する熱電材料を高性能
化するために有力な材料設計指針となる。将来、工場や火
力発電所、自動車からの廃熱を電気に変
えて有効利用技術となりうる。



それによると、一般に、半導体GaNの導電率を高めるためには、Siなどの不純物を混ぜ込む。
この時、SiはGaN結晶中でイオン化し、電気伝導を担う伝導電子が生じる。このような半導体
GaNに温度差を与えると、熱起電力が発生し、外部回路に接続することで電子が高温側から
低温側に流れますが、イオン化したSiが電子の流れを妨げるため、結果的にあまり導電率は
高められず、一般的な半導体GaNでは大きな熱電出力は得られない。

一方、半導体二次元電子ガスの場合は、不純物を混ぜ込むのではなく、静電気によってGaN
の中の電子を薄い領域に寄せ集めることで導電率を高める。不純物を一切含まないので、二
次元電子ガスの電子は高速で動くことができ、大きな熱電出力を示す。半導体GaN二次元電
子ガスの熱電変換出力因子は最大で約9 mW m-1 K-2であり、一般的な半導体GaN(1 mW m-1 K-2
以下)の10倍以上であり、既に実用化されている最先端の熱電変換材料(1.5~4 mW m-1 K-2
の2~6倍に相当。この研究成果は、半導体二次元電子ガスのように高い電子移動度を維持
しながら電子濃度を制御できる構造が、熱電材料の高性能化の鍵であることを明確に示すも
ので、今回使用したGaNの半導体二次元電子ガスは、非常に高価な単結晶基板の上にしか作製
できないことに加え、熱伝導率が大きいことから、そのまま実用化に繋がるものではないが、
本モデルは、実用化を控えた熱電材料を高性能化するための材料設計指針となる。

 Nov. 24, 2017

【実験方法】

上図2aに、研究で作製した半導体二次元電子ガスの模式図を示す。今回、窒化アルミニウム
ガリウム(AlGaN)/GaNの半導体二次元電子ガスの上に、静電気力を変化させる絶縁体層(酸
化アルミニウム、厚さ30 nm)を乗せ、熱電効果計測用のソース、ドレイン、ゲート電極を備
える3端子の薄膜トランジスタ構造を作製。ゲート-ソース電極間にマイナス電圧を加える
と、二次元電子ガスの電子濃度が減少し、逆にプラス電圧を加えると二次元電子ガスの電子
濃度が増加させる。トランジスタ特性と熱電効果は、上図2bに示す非常に小さな材料の計測
が可能な自作装置で計測。ゲート-ソース間に一定電圧を加え、二次元電子ガス電子濃度制
御した状態で、2つのペルチェ素子を用いて2次元電子ガスに温度差を与え、ソース-ドレ
イン電極間に発生する電圧(熱起電力)を電圧計で計測する。

【実験成果】

半導体二次元電子ガスの電子濃度を、静電気力(ゲート電圧)を変化させることで制御し、
その時の電子移動度を計測しました(図3a)。予想どおり、シート電子濃度注5)を高めて
も半導体二次元電子ガスの電子移動度は減少せず、1012 cm-2から1013 cm-2の範囲では1000 cm2
V-1 s-1
を超える大きな電子移動度が維持されることがわかる。一方、熱電能は一般的な半導
体に見られる傾向と同様に、シート電子濃度の増加に伴いその絶対値が減少しました(図3
b)。既に報告されている一般的な半導体窒化ガリウムの熱電能と電子濃度の関係から、2次
元電子ガスの正味の電子濃度を求め、計測した移動度と掛け合わせて導電率σを算出。

図4aに半導体二次元電子ガスの熱電変換出力因子の電子濃度依存性を示す。半導体二次元電
子ガスの出力因子は最大で約9mW m-1 K-2と、極めて大きいことがわかります。これは、一
般的な半導体窒化ガリウム(1 mW m-1 K-2以下)の10倍以上であり、既に実用化されてい
る最先端の熱電変換材料(1.5~4 mW m-1 K-2)の2~6倍に相当。このように大きな出力因
子が得られたのは、一般的な半導体では不純物濃度の増加に伴って電子移動度が大きく減少
してしまうのに対し、半導体二次元電子ガスでは大きな電子移動度を維持する(図4b)。

尚、青色発光ダイオードの材料として知られる窒化ガリウム(GaN)の高い電子移動度を活
かした二次元電子ガスに着目(上図1)。一般に、半導体窒化ガリウムの電気の流れやすさ
(導電率)を高めるには、ケイ素などの不純物を混ぜ込む。この時、ケイ素は窒化ガリウム
結晶中でイオンになり、それにより電気伝導を担う電子が生じ、このような半導体窒化ガリ
ウムに温度差を与えると、電圧(熱起電力)が発生し、電子は暖かいほうから冷たいほうに
流れ、イオン化したケイ素が電子の流れを妨ぎ、結果的にあまり導電率は高められず、一般
的な半導体窒化ガリウムでは大きな熱電出力は得られず。一方、半導体2次元電子ガスの場
合は、不純物を混ぜ込むのではなく、静電気によって窒化ガリウム結晶の中の電子を薄い領
域に寄せ集めることで導電率を高め、不純物を一切含まないので、2次元電子ガス電子は高
速移動でき、大きな熱電出力を示すのではないかと推測しているという。

以上、実用化までの道のりはこの先にあるとのことだが、気体を使用するため事前安全評価
が重要課題となる。

   

高橋洋一 著 『戦後経済史は嘘ばかり』
  

   第2章 高度経済成長はなぜ実現したのか? 

      第3節 「1ドル=360円」の楽勝レートが高度成長の殼大の要因

  私は、日本の高度成長を支えた最大の要因は「1ドル=360円」の有利な為替レー
 トだったと見ています,
  産業界には、ものづくりの技術を高めたことが日本の産業を発展させたと考えている
 方が多くいらっしやいますから、「為替レートが有利だったから、日本の産業が伸び
 た」というと、必ずお叱りを受けます。
  もちろん、ものづくりの努力が産業を支えてきたことは私も十分に承知しています
 し、そうした要因があったことも間違いないことなのですが、しかし、為替データを見
 る限り、為替要因が圧倒的に大きかったことがわかるのです。

  身近な例でいえば、2009年からの民主党政権時代(2009年9月~2011年
 12月)には、過度な円高が放置されたために、日本の産業界は非常に苦しめられまし
 た。技術力は世界最高レベルであるにもかかわらず、大手メーカーが赤字となり、リス
 トラを余儀なくされました。不利な為替レートだと、どんなに技術力が高くても利益を
 上げられません。為替要因はしばしば技術要因を上回ります。

  経済理論の中には、適正な為替レートを計算する理論がいくつかあります。経常収支
 によって決まってくるときもありますが、変動相場制のような自由な為替相場の世界で
 は、マネタリーアプローチによって計算できます。2国のマネタリーベースの比をとる
 と、均衡レートが出てきます。
  途中を省いて単純化していうと、円の総量/ドルの総量で、円ドルの均衡レートが計
 算できます。「完全に自由な為替相場だったとしたら」と仮定した場合の計算上の為替
 レートです,どんな物でも量が増えると相対的な価値が減少します。それと同じで、円
 の量を増やすと円安になると考えていただくとわかりやすいかもしれません。

  図1を見て下さい。1986年以降の円ドルレートは、計算上の均衡レートとほとん
 ど同じ水準です。のちほど「プラザ合意」のところで詳しく説明しますが(湖沼参
 照)、1985年のプラザ合意以降は為替介入をしなくなりましたので、計算上の均衡
 レートと実際の為替レートがだいたい一致するようになりました。 

  均衡レートは、1971年までさかのぼって計算することができます。1970年代
 における均衡レートは、1ドル=140円程度です。それ以前の均衡レートは私の試算
 ですが、1970年代と大きくは違っていないはずです。
  グラフを見ていただくと、1ドル=360円時代が日本の輸出産業にとっていかに有
 利な為替レートだったかがわかります。1ドル=140円程度のところを1ドル=36
 0円で取引できるなら、「楽勝レート」です。1960年代の高度成長期には、非常に
 有利なレートで輸出をすることができました。


  1ドル=360円のレートは、1949年に設定されて以来ずっと続きました。なぜ
 アメリカが日本にとって有利な為替レートにしてくれたのかはよくわかりません。かつ
 て田中角栄が「円は360度だから、1ドル360円だ」と冗談めかしていったという
 話はありますが、Iドル=360円に決めてくれた人に感謝するしかおりません。日本
 のことをアメリカがナメていたのかもしれません,
  この有利な為替レートが戦後の高度経済成長の最大の要因です。1960年代の高度
 成長期は、高いゲタを履かせてもらっていましたので、輸出企業の競争力が圧倒的に高
 まり、高収益を土げることができました。

  日本の輸出企業は圧倒的に有利な為替レートの恩恵を受けていました。もちろん、日
 本企業に基礎的な技術力があったのも事実です。いくら為替レートが有利でも、粗悪品
 をつくっていたのでは海外では売れません。
  昔は日本製品は低品質と見られていましたが、徐々に技術力が高まり、アメリカ製品
 と似たようなレベルの物をつくることができるようになりました,その過程で、海外か
 ら多くの技術を学んでいます。海外企業と提携して技術力を高めた企業もたくさんあり
 ます。

  もちろん、実力を超えた円安の時代ですから、海外から技術を導入する経費は大変な
 ものでした。本田技研は、あまりに高額の工作機械を購入したことも響いて資金難に陥
 り、倒産しかかっています。松下電器がフィリップスと提携したときも、イニシャル・
 ペイメント(前払い実施料)55万ドル、株式参加30%、ロイヤルティー(技術指導料)
 7%を要求されました。松下幸之助が、この技術指導料に対して「経営指導料」を逆に
 要求したことは有名な話です。結果としてフィリップスの技術指導料4・5%に対し
 て、松下電器の経営指導料3%で契約が成立しています。



  たしかに、当時の名経営者たちはこのような果断な判断を次々と下し、技術力を格段
 に向上させていったのです,1950年代は価格の安さが最大の売りだったのでしょう
 が、利益を上げながら品質を高め、1980年代には日本製品の品質は世界最高レベル
 になっています,
  それを端的に物語っているのが、アメリカの映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
 です。主人公が1985年から1955年にタイムスリップするストーリーですが、1
 985年のシーンでは、身の回りの家電製品は日本製ばかりです。主人公の少年があこ
 がれる自動車もトヨタのビックアップトラックです。
  ところが、30年前の1955年のシーンはまったく追います。シリーズ3作目で、
 1955年当時の人物が、「メイド・インyジャパンじゃ、壊れても不思議はない」と
 いうのに対し、1985年から来た主人公が、「何をいっているんだい。日本製は最高
 だよ」というシーンがあります。1950年代の日本製品と1980年代の日本製品で
 はまったくイメージが追っています。

  ともあれ、果断な経営判断と、不断の努力で製品の品質を上げていったことが、日本
 製品の最終的な勝利を招来することになったわけですが、日本企業の躍進を支えた大き
 な要因は、やはり「Iドル=360円」の為替レートだったことは間違いないでしょ
 う。有利な為替レートのおかげで、「品質の良いものを、割安の値段で売る」ことがで
 きたのです。おかげて、日本製品はどんどん海外で売れました。さらにいえば、当時の
 経営者たちが果敢に決断できた背景に、「1ドル=360円」という為替レートがもた
 らしてくれる高収益に対する安心感があったことも、間違いありません。


        第4節 通産省の役人よりも一枚も二枚も企業は上手だった

  まして、「高度成長時代は、通産省が日本の産業を牽引してきた」というのは、多く
 の人の思い込みにすぎません。城山三郎の小説「官僚たちの夏」は、通産省が日本の産
 業を引っ張ってきたというストーリーでテレビドラマにもなりました。通産官僚がヒー
 ロー的に描かれていますので、そのような物語の影響もあるのかもしれません。
  しかし実際のところは、日本の産業を発展させたのはあくまでも民間企業であって、
 通産省はそれに少し力を貸しただけです。それどころか通産省が民間を妨害したケース
 もあります。代表的な例が本田技研の四輔車参入です。
 「官僚たちの夏」の主人公として描かれている通産次官は、自動車メーカーは数社あれ
 ばいいと考えて、二輪車専業だった本田技研の四輔車への参入を認めようとしませんで
 した。それに対して、本田宗一郎は真っ向から反論して、通産省に逆らって四輔車に参
 入しました。今振り返ってみれば、通産次官と本田宗一郎のどちらが正しかったかは明
 らかです,

  そもそも、通産省の役人に産業を見分ける力はありません。一方、企業は自分たちの
 生き残りがかかっていますので、役人よりはるかに真剣に取り組んでいます。
  企業は常に研究開発を続けていて、どこよりも早く新しいものをつくろうとしていま
 す。その情報を通産省に少し横流しすると、通産省は「今度はこれだ」として、政策と
 して打ち出すというのが通常のパターンです。
  通産省の業界指導がいかに意味のないものだったのかを私が明確に認識したのは、1
 980年代後半に公正取引委員会で仕事をしていたときだったことは、すでに述べまし
 た。公取はカルテルなどを取り締まる役所ですから、業界指導をする通産省とは、ある
 意味で敵対していたからです。本章では、もう少し詳しく、このときの経験を紹介する
 ことにしましょう,

  私のいた部署は経済部調整課でした。調整課は、各省庁が立案した法律案や口頭指
 導・行政指導によって、自由な競争が制限されたり阻害されたりしないように、各省庁
 と調整をするのが仕事です。
  通産省の役人も呼んで、「こういう行政指導はカルテルになるからやめて下さい」と
 指摘します。しかし通産省の人は、業界を指導するのが自分たちの仕事だと思っていま
 すから、「産業政策」と称して業界指導するための根拠法をつくろうとします。公取は
 「そういう法律をつくると、独占禁止法に抵触します」と伝えるわけですが、通産省の
 役人にしてみれば、自分たちのレゾンデートル、つまり存在理由にかかわることを公取
 に否定されるので、公取と通産省はよく対立していました。

  この構図をうまく使ったのが業界の人たちです。彼らのほうが役人より一枚も二枚も
 上手です,
  業界を保護してほしいときには、通産省に「ぜひ、ご指導を」といって業界指導を頼
 みに行きます。しかし、通産省の業界指導が気に入らないときには、「カルテルになら
 ないでしょうか」と公取に駆け込んできます,こうして、うまい具合に役所を使い分け
 ているのです。
  私は、いつも業界と通産省の間に立って調整をしていました。業界の人にうまく利用
 されていたのだと思います。いや、逆にいえば、民間はそれだけ「したたか」だという
 ことです,
  ただし、両者の間に入って、双方からホンネを間いていましたので、業界指導がどう
 いうものなのか本当のことがよくわかりました。


    第4節 ただ民間の後追いをしてきただけという通産省の本当の姿

  民間企業は何かヒットするかわからないので、様々な分野で開発を進めています。通
 産省から話を間かれると、有望そうな分野のことを話して、通産省にデータを提供しま
 す。通産省はそのデータを利用して、政策目標として掲げていたのです。要するに、通
 産省は民間が出したビジョンの後追いをしていただけです。 

  さらに通産省よりも、けるかに遅れているのがマスコミです。通産省から何らかの情
 報が出されると、マスコミは「最新ニュース」だと捉えて、嬉々として飛びつきます。
 情報に疎いマスコミは、「通産省がこんな新しい目標を打ち出した」というニュアンス
 で大々的に報道してくれるのです。
  かくして、あたかも通産省が業界に先んじてすごい目標を打ち出し、業界を引っ張っ
 たかのように報道されるのですが、要は、マスコミは通産省の御用報道機関として利用
 されていたわけです。

  こういう情報を信じた人は、「通産省の業界指導が日本の産業を牽引した」とずっと
 思い込んできたのだろうと思います。通産省が目標を打ち出して、それに業界が従った
 かのように捉えられていますが、事実はまったくの逆なのです,
  業界の人たちが勝手に集まって話し合いをしたらカルテルになってしまいます。そこ
 で通産省は、法律をつくってカルテルを合法化していきました。業界の人たちは、法律
 に基づいて、通産省の人が出席している場で話し合いをします。そうすると、カルテル
 ではなく業界指導ということになります。
  外国から見たら完全なカルテルであり、公取から見てもカルテルの疑いが強いもので
 す。しかし、法律をつくって合法化し、通産省が関催している会議にすれば、ぎりぎり
 のところでカルテルとみなされにくくなります。通産省の業界指導というのは、いわば
 「偽装カルテル」だったといえます。

  では、偽装カルテルをつくったあとに、通産省が業界指導をできたのかというと、何
 もできませんでした。指導というのは、その業界のことをわかっている人でなければで
 きるものではありません,
  途中からは通産省の代わりに民間の人がカルテルを主導するようになります。民間の
 人は、自分の会社の都合のいいように話を待っていこうとしますから、結局、業界指導
 の名を借りたカルテルはすべて成り立だなくなっていきました。
  私が公取にいたころに造船業界のカルテルが認可されました。造船は運輸省が管轄し
 ており、運輸省がカルテル認可を求めていました。業界の人たちは、状況をよくわかっ
 ていますので「カルテルをしても意味がない」といっていて、カルテルをやりたがって
 いませんでした。

  一般的にいえば、船舶の世界はグローバルです。また、造船は世界の中で一番コスト
 の安いところでつくって、船籍は別の国にしておくことが多いので、日本でカルテルを
 しても意味かおりません。運輸省が強く求めたため認可しましたが、公取最後のカルテ
 ル認可になりました,
  結局、造船カルテルをつくったものの、各社は手間ばかりかかって何の利益もないた
 め、苦労されたようです。以降はカルテルの申請は一切なくなりました。

この戦後復興過程の評価はいささかの筆禍が含まれている。為替レートは戦後インフレが直
接原因(もの不足)で、決済手段の円のレート変動は影響ない。1ドル=360度、否、1
ドル=360円の固定相場は米国の世界支配の枠組み政策の反映――日本の従属、あるいば
庇護の現れであり――過大評価の嫌いがある。また、通産省に対する評価も、ここでは自動
車産業政策の瑕疵を指摘しているが、誤謬もあるものであり日米経済協議の "半導体不平等
条約”のように米国は日本の「官民のパートナーシップ」を取り入れ巻き返しを図っている
ほどであるが、造船不況は技術力を除く競争力の低下(港湾整備や低労働賃金など)もので
アプローチ(=通商戦略/戦術)を変更すれば巻き返しは可能である。

                                  この項つづく  

 今夜の一枚の写真

「感謝祭の夕食を科学する」(How to science up your Thanksgiving dinner | Science | AAAS)よ
り。日曜、梅田丸ビルで合同同窓会に出席。街は再開発で変貌をとげている。旧曾根崎小学
校跡は、来年より建設に入る。曾根崎警察署ビル横にあった旭屋書店はなくなっていた。い
ろいろ驚くこともあったが、相変わらず忙しい毎日で、この夜はこの辺で切り上げることに。


 

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コメント
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大銀杏・冬ソナ・甲状腺癌

2017年11月26日 | 環境工学システム論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子   

                                            

      ※ まことの待遇とは:孟子が斉の国を出て行く途中、昼の村に宿をとった。
       そこへ、宣王の意をうけて孟子を引き留めるため一人客が訪ねて来た。客
       は坐りこんでしきりに説得した。孟子は、返事もせず、ひじ掛けによりか
       かって居眠りの振りをしている。客は庖を立てて言った。「わたくしは、
       斎戒沐浴してのち、泊まりがけでやって来たのです。ところが先生はわざ
       と聞こえぬ振りをされている。こんなことではもはや絶交です」
        
       孟子が言った。

       「まあ、お坐りください。はっきり申し上げよう。むかし、魯の繆公は、
       子息に対してはいつも人を通じて誠意を尽くしたので、子息を魯の国に留
       まらせることができました。泄柳や申詳は、繆公の側近がいつも繆公との
       間をとりなしていたので、魯の国に安住できたのです。あなたは、いまに
       なって心を尽くしてくぜさるが、あなたのこれまでの態度は、予思を肋け
       た人のそれとは比較にならないではありませんか。してみると、絶交を言
       いわたすのはあなただろうか、それともわたくしだろうか」

        〈昼〉     斉の都臨流の西側の近郊にある村。
        〈子思〉    孔子の孫。
        〈泄柳 申詳〉 ともに魯の賢人。申詳は子張の子ともいわれる。

 

 

    No.102 

Oct. 4. 2017


【においを「デジタル化」し、AIで判定】

● 膜型表面応力センサ工学:前立腺癌の尿検査

NECは、「Embedded Technology 2017(ET2017)/IoT Technology 2017」(2017年11月15~17日、パ
シフィコ横浜)で、さまざまなにおい成分を判別する「嗅覚IoT(モノのインターネット)プラット
フォーム」を参考展示(「においを“デジタル化”してAIで判定するシステム 」 EE Times Japan)。
それによると、嗅覚IoTプラットフォームは、においセンサーで取得したデータをクラウドにアップし
NECの異
種混合学習技術を使った判別エンジンによって、におい成分を判定する。においセンサには、
物質・材料研
究機構(NIMS)の研究グループらが開発したセンサー素子MSS(Membrane-type Surfa-
ce stress Sensor/膜
型表面応力センサ)」を使う。MSSでは、素子の中央部に塗布した感応膜にガス分子が
吸着すると、膜が収縮して電気抵抗が変化する。その変化のパターンは分子によって異なるため、ど
のパターンがどの
分子か、というデータをクラウドに蓄積していけば、判別エンジンが学習して、に
おいを判定できるようになるという仕組。応用分野としては、ヘルスケア、食品、環境、安全および
セキュリティなどが挙げられ、具体的には、 

  • ヘルスケア:呼気や体臭による体調管理
  • 食品:においによる果実の熟成度の判別、家畜の体調管理
  • 環境:ホルムアルデヒドなどの検出
  • 安全/セキュリティ:設備のヘルスモニタリング 

など、さまざまな分野に応用できるとしている。NECの説明員は「におい成分は約40万種あるといわ
れている。コーヒーだけでも500種類、人間の呼気に含まれているものは1000種類あるそうだ。それ
にもかかわらず、においのセンシングは、五感の中で最も未開拓の分野になっている。嗅覚IoTプラ
ットフォームでは、学習モデルを取り換えることで、さまざまな分野におけるにおい成分を判別エン
ジンに学習させることができるので、より簡単ににおい成分を判定するシステムを実現できる。 

応用事象の物理パラメータとしては、表面応力、応力、力、表面張力、圧力、質量、弾性、ヤング率、
ポアソン比、共振周波数、周波数、体積、厚み、粘度、密度、磁力、磁気量、磁場、磁束、磁束密度、
電気抵抗、電気量、誘電率、電力、電界、電荷、電流、電圧、電位、移動度、静電エネルギー、キャ
パシタンス、インダクタンス、リアクタンス、サセプタンス、アドミッタンス、インピーダンス、コ
ンダクタンス、プラズモン、屈折率、光度および温度やその他の様々な物理パラメータを検出可能で
あればよく、その具体的な構成は特に限定されない。

❏ WO2016/136905 母材と粒状材料を混合した受容体層を被覆したセンサ

【概要】

検出対象の分子(検体分子)の吸着に伴い生じる物理パラメータの変化を検出するタイプのセンサ
は、多種多様なものが存在し、様々な分野で利用されている。物理パラメータの変化を検出しやす
くするため、一般にセンサは「受容体層」と呼ばれる層で被覆した後、測定に用いられる。どのよ
うな物理パラメータを対象とするかによって利用可能な受容体材料は変わるため、センサごとに最
適な受容体層の開発が進められている。一例として、検体分子の吸着に伴い表面に生じる応力を検
出するタイプの表面応力センサがある。この種のセンサの受容体層には、自己組織化単分子膜、D
NA/RNA、タンパク質、抗原/抗体、ポリマーなど多様な物質が供される。このようなセンサ
の感度を向上させたい場合、受容体層の物理的および化学的特性を最適化することが有効である場
合が多い。一例として、表面応力センサに関しては、非特許文献1および2にあるように、受容体
物質のヤング率と膜厚が特に大きく影響することが報告されている。この傾向は以下の数式により
表される。



上式は、カンチレバー型の表面応力センサについてのものである。ここで、Δzはカンチレバーのた
わみ、wcはカンチレバーの幅、lcはカンチレバーの長さ、tcはカンチレバーの厚さ、νcはカンチレ
バーのポアソン比、Ecはカンチレバーのヤング率、wfは受容体層の幅、tfは受容体層の厚さ、νf
受容体層のポアソン比、Efは受容体層のヤング率、εfは受容体層に印加されるひずみである。この
数式をもとに感度(この場合、カンチレバーのたわみ量(Deflection))を計算すると、受容体層の
ヤング率に大きく依存する。高い感度を実現するために、ヤング率のような物理パラメータについ
て、最適な値を有する受容体層を設計する必要がある。上式に基づいて、ヤング率とたわみ量(感
度)との関係を受容体層の膜厚をパラメータとしてグラフ化したものを図1に示す。ここで、カンチ
レバーのサイズ、材料を、長さ500μm、幅100μm、厚さ1μmのシリコンとして計算をで、
このグラフから、A.膜厚を固定した時、表面応力センサの感度の観点では、受容体層のヤング率
には最適値が存在し、それよりも大きくても小さくても感度が低下する。及びB.受容体層の厚さ
を変えると最適ヤング率が変化する。具体的には、受容体層を薄くするほど最適ヤング率が大きい
方へシフトし、また感度も向上するが、小ヤング率領域では逆に受容体層が薄いと感度が出ない傾
向がある。

一方、この種のセンサは、検体分子を的確に吸着させるために、特に化学的な選択性を有する受容
体層を設計する必要がある。具体的には、検体分子の化学的性質に応じて、受容体層中に含まれる
官能基を設計し、安定した状態で受容体層中に固定化する必要があり、検体分子を測定するタイプ
のセンサにおいて、決定的に重要な二つの要素である感度と選択性を最適化するためには、一般的
に、物理的な特性と化学的な特性を同時に最適化する必要があるが、これを容易に実現する有効な
方法は確立されておらず、その早期実現が強く求められていた。

【関連文献】

G. Yoshikawa, "Mechanical Analysis and Optimization of a Microcantilever Sensor Coated with a Solid Re-
 ceptor Film," Appl. Phys. Lett. 98, 173502-1-173502-3 (2011).

・G. Yoshikawa, C. J. Y. Lee and K. Shiba, "Effects of Coating Materials on Two Dimensional Stress-Induce-
 d Deflection of Nanomechanical Sensors," J. Nanosci. Nanotechnol. 14, 2908-2912 (2013).
・K. Shiba and M. Ogawa, "Microfluidic syntheses of well-defined sub-micron nanoporous titania spherical pa-
 rticles," Chem. Commun. 6851-6853 (2009).

このように、下図のように、受容体層として、ポリマー等の母材と、検体を吸着する粒子との複合
材料の膜を
使用する。例えば表面応力センサに本発明を適用すれば、所望の検体を吸着する粒子と、
当該粒子を分散
させる母材を独立して選択することで、検出感度に大きな影響を与える受容体層の
ヤング率を高い自由度
で設定でき、ポリマーなど単独の母材では実現することが困難であった高い
感度および多様な検体分子選
択性を、物理的/化学的性質の異なる粒状材料を混合することにより
実現することが可能になる。より具
体的には、例えば1種類のポリマーを受容体層の母材とし、そこ
に化学組成やヤング率の異なる粒状材料
を添加することで、感度ならびに選択性を同時に、かつ網
羅的に制御することが可能となる。

言い換えれば、下図1の曲線に示すように、どんな膜厚の受容体層(母材の膜)であっても、粒状
材料の添加によって非常に広い範囲内でヤング率を自由に変化させることができ、いかなる膜厚の
受容体層(母材の膜)であっても、感度を図の各曲線に沿ったような形で任意の値に調整できる。
また、選択性については、所望の検体に合わせて必要な官能基を持った粒状材料を適宜選択して母
材に添加することで、検出可能な検体を広い範囲で自由に切り替えることができる。これにより、
有機合成反応をはじめとする種々の操作を通じて、検体分子との間に親和性を発現する形に母材そ
のものの構造を改変する必要がなくなるだけでなく、母材の種類を変える度に必要となるセンサ表
面への塗布条件等の再検討過程を省くことができるため、研究レベルのみならず、産業レベルでの
実用化に向けて大きな利点となる。

【図1】受容体層を被覆した表面応力センサについて感度、受容体層のヤング率、膜厚間の関係図
【図2】実施例1で粒状材料合成に利用した装置構成の一例図

【特許請求の範囲】

  1. 母材と粒状材料とを含む複合体の受容体層と、前記受容体層を表面上に有し、検体分子が前
    記受
    容体層に吸着される際に生じる物理パラメータの変化を検出するセンサ本体とを備えた
    センサ。
  2. 前記物理パラメータは、表面応力、応力、力、表面張力、圧力、質量、弾性、ヤング率、ポ
    アソン比、
    共振周波数、周波数、体積、厚み、粘度、密度、磁力、磁気量、磁場、磁束、磁
    束密度、電気抵抗、
    電気量、誘電率、電力、電界、電荷、電流、電圧、電位、移動度、静電
    エネルギー、キャパシタンス、
    インダクタンス、リアクタンス、サセプタンス、アドミッタ
    ンス、インピーダンス、コンダクタンス、プラズモ
    ン、屈折率、光度および温度のうちの1
    種または2種以上である、請求項1に記載のセンサ。
  3. 前記粒状材料と前記母材は、互いに異なる物理パラメータの数値を有する、請求項1または
    2に記載のセンサ。
  4. 前記粒状材料はナノ粒子である、請求項1から3の何れかに記載のセンサ。
  5. 前記母材は高分子系材料である、請求項1から4の何れかに記載のセンサ。
  6. 前記高分子系材料はポリマーである、請求項5に記載のセンサ。
  7. 前記粒状材料は複数種類の化合物からなる多成分系の材料である、請求項1から6の何れか
    に記載のセンサ。
  8. 前記多成分系の粒状材料は、シリカおよびチタニアを含む、請求項7に記載のセンサ。
  9. 前記粒状材料の表面に、1種または2種以上の表面修飾基が修飾されている、請求項1から
    8の何れかに記載のセンサ。
  10. 前記表面修飾基のうち少なくとも一の表面修飾基は、前記検体分子を吸着する、請求項9に
    記載のセンサ。
  11. 前記表面修飾基は、疎水性の表面修飾基と親水性の表面修飾基を含む、請求項9に記載のセ
    ンサ。
  12. 前記表面修飾基は、シランカップリング剤を粒状材料原料と共沈することにより粒子表面に
    固定化されている、請求項9から11の何れかに記載のセンサ。
  13. 前記表面修飾基は、あらかじめ合成した粒状材料表面にシランカップリング剤を後処理する
    ことにより固定化されている、請求項9から11の何れかに記載のセンサ。
  14. 前記表面修飾基は、アミノプロピル基、フェニル基、アルキル基、メルカプトプロピル基、
    グリシジル基、ビニル基、スルホン基、フルオロ基のうちの1種または2種以上である、請
    求項8から13の何れかに記載のセンサ。
  15. 前記センサ本体は表面応力センサである、請求項1から14の何れかに記載のセンサ。
  16. 前記母材と前記粒状材料とは互いに異なるヤング率を有する、請求項15に記載のセンサ。

 

❏ 特開2017-203649  前立腺がん判定方法

【概要】

日本では、前立腺がんは男性における発症率が最も高いがんであり、その発症者数は年間で約10
万人にも上る。また、食生活の欧米化や高齢化等に伴い、前立腺がんの発症率及びその発症者数は、
今後も増加の一途を辿ることが予測されている。前立腺がんの診断は、通常、血中の前立腺特異抗
原(PSA=Prostate Specific Antigen)の濃度(PSA値)に基づいて行われる。被検者の年齢によっ
ても異なるが、一般に、PSA値は、4.0ng/mL以上が異常値とされている。しかし、PS
A値は、前立腺肥大や炎症等に起因して異常値を示すこともあり、PSA値が異常値である全ての
被検者が前立腺がんである訳ではない。したがって、PSA値が異常値である場合、超音波ガイド
下の前立腺針生検による確定診断が行われる。

ところが、PSA値が異常値の被検者に前立腺針生検を行っても、4.0~10ng/mLの場合
で20~40%程度の被検者、10ng/mL以上の場合で50%程度の被検者にしか、前立腺が
んは見つからない。また、前立腺針生検は、通常は、一泊二日程度の入院で施行されることが多く、
被検者の負担が大きい。さらに、前立腺針生検は、侵襲性の高い検査であり、痛み、感染、血便、
血尿、尿閉等の合併症を引き起こし得る。このように、PSA検査は特異度が低いので、該検査に
基づく現行の診断方法では、実際には前立腺がんではないにも関わらずPSA値が異常値であった
多くの被検者に対して、身体及び経済的負担や合併症リスクを伴う前立腺針生検を行っている一方、
近年、訓練された犬が、尿のにおいから、前立腺がんを判別できることが報告されている。また、
前立腺がんの各種診断マーカーが尿試料中に存在することが報告されている。



被検体の尿試料をGC/MS分析して得られた、m/z値が80.7~81.7のクロマトグラム
中のピークから選択される少なくとも1つのピークを指標とすることにより、上記課題を解決でき
ることを見出した。そして、これらのピークについてさらに解析を進めた結果、新規の、前立腺が
ん診断マーカを見出す。このように、より特異度の高い前立腺がん判定方法を提供にあって、被検
体の尿試料をGC/MS分析して得られた、m/z値が80.7~81.7のクロマトグラム中の
ピークから選択される少なくとも1つのピークを指標とすることを含む、または、被検体の尿中の
メントール及びイソミントラクトンからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの
量(被検バイオマーカー量)を指標とすることを含む、前立腺がん判定方法である。

【図1】m/z値が80.70~81.70のガスクロマトグラムを示す(実施例1)。図1の右端中、「Negat-
ive
」は前立腺針生検「陰性」の被検者の結果を示し、「Cancer」は前立腺針生検「陽性」の被検者
の結果を示す。各クロマトグラム中、横軸は保持時間、縦軸はアバンダンスを示す。丸で囲まれた
ピークは、陽性被検者のクロマトグラムに特有のピークを示す。

【図2】図1のクロマトグラムの拡大図の代表例を示す(実施例1)。各クロマトグラムの右上の
数字が被検者番号を示す(23076及び51326は前立腺針生検「陽性」、25151及び16551は前立腺針生
検「陰性」)。各クロマトグラム中、横軸は保持時間、縦軸はアバンダンスを示す。図2中、矢印
で示されるピークが、図1において丸で囲まれた、陽性被検者のクロマトグラムに特有の7つのピー
ク(ピーク1~7)を示す。

● 前立腺がん判定方法2

イソミントラクトンには複数の立体異性体があるが、いずれの立体異性体であってもよい。また、
バイオマーカーにはイソミントラクトンのその他の異性体も含む。さらに、複数のイソミントラク
トン異性体をバイオマーカーにしてもよい。尿中の各種バイオマーカー量の測定方法は、バイオマ
ーカーを検出及び定量できる方法である限り特に制限されず、公知の方法に従った又は準じた方法
を採用することができる。バイオマーカー量の測定方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィ
ー、液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、質量分析法、GC/MS、LC/MS、特
異的な化学反応を利用した発光法、ニオイ分析センサシステム等が挙げられる。ニオイ分析センサ
システムは、特殊な膜(感応膜)やセンサに揮発性物質を吸着させてそのシグナルの変化を検出す
るシステムであり、京セラが物質材料研究機構と共同で開発した超小型センサー素子「MSSMe-
mbrane-type Surface stress Sensor 
/ 膜型表面応力センサ)」を用いたシステムである。

【特許請求の範囲】 

  1. 被検体の尿試料をGC/MS分析して得られた、m/z値が80.7~81.7のクロマト
    グラム中のピークから選択される少なくとも1つのピークを指標とすることを含む、前立腺
    がん判定方法。
  2. 前記クロマトグラム中のピークから選択される少なくとも1つのピークの合計面積(被検面
    積)を指標とすることを含む、請求項1に記載の前立腺がん判定方法。 
  3. 前記被検面積が、非前立腺がん検体の尿試料をGC/MS分析して得られた、m/z値が8
    0.7~81.7のクロマトグラム中の対応するピークの合計面積(対照面積)よりも大き
    い場合に、前記被検体を前立腺がんであると判定することを含む、請求項1又は2に記載の
    前立腺がん判定方法。
  4. 工程(a1)~(c1)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の前立腺がん判定方法:
    (a1)被検体の尿試料をGC/MS分析して、m/z値が80.7~81.7のクロマト
    グラムを得る工程、(b1)工程(a1)で得られたクロマトグラム中のピークから選択さ
    れる少なくとも1つのピークの合計面積(被検面積)と、非前立腺がん検体の尿試料をGC
    /MS分析して得られた、m/z値が80.7~81.7のクロマトグラム中の対応するピ
    ークの合計面積(対照面積)とを比較する工程、及び(c1)被検面積が対照面積よりも大
    きい場合に、被検体を前立腺がんであると判定する工程。
  5. 前記被検体の血中PSA値が4.0ng/mL以上である、請求項1~4のいずれかに記載
    の前立腺がん判定方法。
  6. 前記尿試料が、前立腺触診を受けた後の被検体から採取された尿由来の試料である、請求項
    1~5のいずれかに記載の前立腺がん判定方法。
  7. 被検体の尿中の、メントール及びイソミントラクトンからなる群より選択される少なくとも
    1種のバイオマーカーの量(被検バイオマーカー量)を指標とすることを含む、前立腺がん
    判定方法。
  8. 前記被検バイオマーカー量が、非前立腺がん検体の尿中の前記バイオマーカーの量(対照バ
    イオマーカー量)よりも多い場合に、前記被検体を前立腺がんであると判定することを含む、
    請求項7に記載の前立腺がん判定方法。
  9. 工程(a2)~(c2)を含む、請求項7又は8に記載の前立腺がん判定方法:(a2)被
    検体の尿中の前記バイオマーカーの量(被検バイオマーカー量)を測定する工程、(b2)
    被検バイオマーカー量と、非前立腺がん検体の尿中の前記バイオマーカーの量(対照バイオ
    マーカー量)とを比較する工程、及び(c2)被検バイオマーカー量が対照バイオマーカー
    量よりも多い場合に、被検体を前立腺がんであると判定する工程。
  10. 前記被検体の血中PSA値が4.0ng/mL以上である、請求項7~9のいずれかに記載の
    前立腺がん判定方法。
  11. 前記尿が、前立腺触診を受けた後の被検体から採取された尿である、請求項8~10のいず
    れかに記載の前立腺がん判定方法。
  12. メントール及びイソミントラクトンからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカ
    ーの検出剤を含有する、前立腺がん診断薬。

ピエゾ素子(圧電素子)による外部環境からのバイアス変動をフォースとして検出するもので、チタ
ンバリウム
のように微弱な電波キャッチする原理と同じで、素子にコーティングする受動(あるいは
感応)薄膜のコンビネ
ーション技術であり、それを検出し人工知能が信号を表示するシステムを役立
てようとするもの(=工学)。「エネルギータイルイング事業」の「ピエゾタイル」とオーバラップ
する事業領域でもある。下限検出
 /感度が重要な事業(チャレンジ)である。

● 今夜の寸評:大銀杏・冬ソナ・甲状腺癌

大銀杏(大相撲暴力事件)や冬ソナ(慰安婦問題)や甲状腺癌(福島第一原発事故罹災)などのニュ
ース・報道がながれ不愉快な気分に落ち込みテレビ番組(韓流ドラマ・大相撲中継)は全く鑑賞しな
くなる。3つめはテレビ録画するほどだが、こちらは 不安と同情が膨れることとなる。

 

コメント
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寒月の感謝祭Ⅲ

2017年11月23日 | 環境工学システム論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子   

                                            

      ※ 過失の正当化: 燕の人民が叛乱を起こした。斉の宣王は大臣の陣賈(ち
       んか)に言った。「孟先生には合わせる顔がない」「くよくよなさいます
       な。王はご自身と周公とをお較べになって、どちらがえらいとお考えです
       か」「もったいないことを言うでない」「周公は管叔(かんしゅく)を殷
       (いん)の目付け役として遣わしたところ、管叔は殷にたてこもって謀叛
       を起こしました。もし周公がそれを知りつつ目付け役にしたのなら、仁に
       欠けていたといえます。もしそれを知らなかったのなら、智に欠けていた
       といえます。つまり周公ですら仁智を十分に尽くせなかったのです。王が
       失敗されても当然です。わたしが孟先生に弁解しておきましょう」 陣賈
       は孟子をたずねた。「周公とはどのようなお方ですか」「むかしの聖人で
       す」、「その周公が管叔を殷の目付け役に遣わして管叔に叛かれたそうで
       すね」、「そうです」、「では周公は管叔の謀叛を知りながら、目付け役
       にしたのですか」、「いや、知らなかったのだ」、「としますと、聖人で
       さえも過失を犯すわけですね」、「周公は弟、管叔は兄です。周公が兄を
       過信して失敗したのはむりもありません。しかし、むかしの君子は過失を
       犯せばすぐ改めたものです。いまの君子はそのまま押し通そうとする。む
       かしの君子の過失は、日蝕や月蝕のようなものでした。人民にもそれとわ
       かり、改まったときにはもとどおり仰ぎ見るのです。だがいまの君子は、
       過失を犯しても押し通そうとし、さらに正当化までする」。 

       しばらくして、宣王は、時子(斉の家臣)を呼びつけて、言った。「都心
       に孟先生の住宅をつくり、弟子の扶持料として万鐘(ばしょう)の禄をあ
       たえ、孟先生に家臣や人民の鏡となってもらいたい。このことを伝えて、
       先生を引きとめてくれ」、時子はこれを陣子(孟子の弟子陣臻)に伝え、
       陳子がその言葉どおり孟子に報告した。孟子が言った。

       「ああ、そういうことか。でもそんなことでわたしを引きとめようとして
       も無駄なことが時子にはわからないのだ。わたしが富を求める人間なら、
       十万緑の禄を返上して、一万緑の禄をうけるようなことはしない。このこ
       とでもわたしが富を望んでいないことはわかるはずだ。季孫はこう言った。
       叔疑は奇怪なことをする男だ。政治をまかせられながら、意見が用いられ
       ないというのなら自分が辞任するだけでよい。ところが、かれは大臣の
       位を身内の者に譲った。人間はだれしも富や高い身分を望むものだが、か
       れは、人を押しのけて富貴を壟断したのだ」と。壟断したとは、つまりこ
       うだ。むかし、市場では、物と物とを父換して有無相通じていた。役人は
       ただ紛争を取り締まるだけで税は取らなかった。ところが一人の欲張り男
       がいつも小高い丘(壟断)の上にかけ上り、左右を見渡して、うまい商売
       をみつけては、利益を独占した。人々はこの男のやり口を非難した。そこ
       で役人はこの男から税を取りたてた。商売に対する課税はこの欲張り男か
       ら始まったのだ

       〈万鐘〉穀物の単位。五千七百五十石に相当するといわれる。
       〈壟断)原文は「竜断」。この語は、小高い丘の切りたった崖という意味
           であるが、この話から
「独占する」という意味に使われた。

 

    No.101

【石炭火力の二酸化炭素“再エネ水素”でメタン変換】

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、石炭火力発電所から排出される二酸化炭素を有
効利用
技術開発の2テーマに着手することを公表。この技術開発では二酸化炭素有効利用技術を用
いた有価物製造プロセスや全体システムについて検証評価を行い、将来有望な二酸化炭素有効利用
技術の確立を目指す。供給安定性および経済性に優れる石炭火力発電だが、二酸化炭素排出量の多
さが課題となっているため、排出される二酸化炭素の有効利用(CCU、Carbon Capture and Utilization
技術の実用化が期待されている。2016年6月に次世代火力発電の早期実現に向けた協議会で策
定された「次世代火力発電に係る技術ロードマップ」でも、2030年度以降を見据えた取り組み
として、CCU技術の確立に動き出す(下図)。



それによると、NEDOは「二酸化炭素有効利用技術開発」「二酸化炭素を利用した陸上養殖技術の
研究開発」の2テーマに着手。二酸化炭素有効利用技術開発では、石炭火力発電所などからの排ガ
ス中に含まれる高濃度二酸化炭素と、再生可能エネルギーの電力を利用して水素を用いて、メタン
を生成し有効利用する技術など、有望なCCU技術について、二酸化炭素有効利用技術を用いた有価
物の製造プロセスやシステム全体の調査および検証試験を通じて、技術の適用性の総合評価を行う。
また、二酸化炭素を利用した陸上養殖技術の研究開発では、石炭火力発電所からの排ガス中に含ま
れる高濃度二酸化炭素を効率的に海水に溶解させ海藻(かいそう)を培養する、陸上養殖製造プロ
セスの確立に関する調査研究に取り組む。委託予定先はNECソリューションイノベータとなる。

❏ 参考:特許5280348  ハイブリッド水素製造システム 

【概要】

従来の水素分離型水素製造システムにおける、水素分離型水蒸気改質器からのオフガスについては、
そのオフガスを原料ガスに混合することで可燃ガス分を再利用するか、そのオフガスを全て燃焼炉
に送ることで可燃ガス分を再利用することにより、水素製造効率を高めているが、燃焼排ガスはそ
のまま外気に放出しているのが現状。
しかし、水素製造装置のオフガスや燃焼排ガスの主成分は、
地球温暖化ガスである二酸化炭素であることから、外気への放出を回避する必要がある。そのよう
な観点から、天然ガスを水蒸気改質器に供給して水素を製造し、水蒸気改質器での水蒸気改質用加
熱源であるバーナまたは燃焼触媒での燃焼で生成した燃焼ガスを液化天然ガスと熱交換し、液化天
然ガスの冷熱により燃焼ガス中の炭酸ガスを固体炭酸として回収するようにした水素製造装置及び
水素製造方法が提案されている。また、メンブレンリアクタなどの水素分離型水素製造装置は、従
来型の水蒸気改質装置と比較して高効率で、シンプル且つコンパクトであることが知られており、
水素自動車用等の水素ステーションの所在地で水素の製造から貯蔵、供給まで行う、いわゆるオン
サイト方式の水素ステーションでの実用化を目指して開発が進められている。電解による水素製造
と、炭化水素系燃料から高効率に水素製造を行うとともに、効率的な二酸化炭素回収により炭化水
素系燃料由来の二酸化炭素を回収するハイブリッド水素製造システムは、下図のように、
水を原料
とする水電解水素
製造装置と、炭化水素系燃料の水蒸気改質による水素分離型水蒸気改質炭化水素
系燃料の水蒸気改質用加熱源である燃焼器と、炭化水素系燃料の改質用水蒸気発生用ボイラを有す
るハイブリッド水素製造システムであって、燃焼器が水電解水素製造装置から供給される酸素によ
る燃焼器であり、水素分離型水蒸気改質器からのオフガスと燃焼器からの燃焼廃棄ガス、炭化水素
系燃料の改質用水蒸気発生用ボイラからの燃焼排ガスを冷却して一つに合流させた後、水分離器に
導入するようにしてなる水電解水素製造装置と水素分離型水蒸気改質器とを含むハイブリッド水素
製造システムである。

 【符号の説明】

A  水素分離型水蒸気改質器  B 炭化水素系燃料の水蒸気改質用加熱源である燃焼器 C  炭化
水素系燃料の改質用水蒸気発生用ボイラ 
  D  水分離器  E  水分吸着塔 G  気液分離槽
H  タンク I  中和器 W  水電解水素製造装置 Z 二酸化炭素液化回収装置 1~19 
導管、配管 
K1~K4  熱交換器  K5  冷却熱交換器 P1~P2  圧縮機 X  除湿装置
Y1、Y2  バッファータンク 

【石炭火力の二酸化炭素 電解水素でメタノール変換】

11月21日、旭化成ヨーロッパ(AKEU)は、欧州で行われる低炭素社会の実現に向けた実証「
ALIGN-CCUSプロジェクト」に参画することを公表。同社は、低コストで水素を製造できるアルカリ
水電解システムをプロジェクトに提供。製造した水素と火力発電所から回収したCO2を反応させ、
メタノールなど燃料に変換することで、カーボンフットプリントの削減に取り組む。ALIGN-CCUS
プロジェクトは、ヨーロッパの研究機関と企業とのパートナーシップで行う二酸化炭素回収、利用
および貯蔵するCCUS(Carbon Capture, Utilisation and Storage)に関する実証。2017~2020年までの3
年間で、二酸化炭素回収技術の最適化・コスト削減、大規模二酸化炭素輸送、オフショアでの安全
な二酸化炭素地下貯蔵、二酸化炭素活用技術の開発、CCUSの社会的啓蒙のサポートなどの各テーマ
に取り組む。

 Nov. 14, 2017
❏ 参考:特許5557255
        排熱・再生可能エネルギ利用反応物製造方法および製造システム                        
【概要】

従来から、製造工場で発生する排熱を有効利用して、工場から排出される二酸化炭素と水素とから
ジメチルエーテル(DME)やメタノール等を製造するシステムが提案されてきた。 従来のこの種
の装置は 二酸化炭素生源で発生した二酸化炭素を液化炭酸施設に移送して液化炭酸として一旦貯
蔵し、車、船などの輸送手段で貯蔵した液化炭酸を二酸化炭素原料施設移送。発生源は、発電所な
どの施設で液化炭酸施設で二酸化炭素が冷却などにより液化炭酸として回収される。液化炭酸は、
二酸化炭素原料施設で一旦貯蔵、必要に応じて合成施設に供給。また、水電気分解施設を備え水電
気分解施設では電解で水素を生成し、合成施設供給し二酸化炭素と水素とを、メタノールやDME
を合成されるが、液体炭酸などの工程を省いき、工場などの燃焼設備で発生する排ガスと、再生可
能なエネルギによって得られる水素とを利用し、燃焼設備近傍で、DMEなどを合成して燃料など
とし利用するため、下図のように、再生可能なエネルギによって稼働する水電解設備(水電解装置
3)で生成される水素と、燃焼設備(加熱炉1)で発生する排ガスに含まれる二酸化炭素とを、水
電解設備および前記燃焼設備からの移送ラインに連ねて、排ガスの排熱を利用して触媒存在下で反
応させ、該反応によってジメチルエーテル、メタノール、エタノールの1種以上の反応物を得るこ
とで、二酸化炭素削減を行い、かつ製造した燃料を従来の燃料の一部などとして利用することでエ
ネルギコストの削減を実現する。

【符号の説明】

1  加熱炉 1a  燃料ガス供給ライン 1b  排ガス移送ライン 2  DME合成反応器 3  
水電解装置  3a  水素移送ライン 4 風車 8a  合成物供給ライン 19  DME改質反応器  

【図1】本発明の一実施形態の排熱・再生可能エネルギ利用反応物製造システム図
【図2】前記製造システムの変更例図 


❏ 参考:特許WO2007/114130  二酸化炭素回収利用、移送用混合物 
                               
【概要】


二酸化炭素ガス回収利用、移送用混合物を提供にあたり、下図のごとく、アルキルスズアルコキシドの二酸
化炭素結合体を含むアルキルスズアルコキシド組成物と二酸化炭素からなる混合物であって、かつ特定の
比率から構成される混合物であって、かつ特定の比率から構成される混合物である。



【符号の説明】

110,180:  蒸留塔、120,240,340,440:  塔型反応器、130,160,
170:  薄膜蒸発装置、140:  二酸化炭素結合体製造装置、150,540:  オートクレ
ーブ、111,121,181:  リボイラー、112,132,172,182:  コンデンサ
ー、131,162,341,442:  冷却器、141:  昇圧ポンプ、163,166:  コ
ンプレッサー、220,164,165:  槽型反応器、1,13,14,22,26,28: 
供給ライン、2,4,5,6,7,8,9,10,11,15,16,17,18,19,23,
24,25,27,30:  移送ライン、3,20,29:  回収ライン、12,21:  ベント
ライン

【図1】本発明の混合物を用いた炭酸エステルの製造フロー図
【図2】未利用の二酸化炭素ガスを回収して本発明の混合物を得て、炭酸エステルを製造フロー図
【図3】未利用の二酸化炭素ガスを回収して本発明の混合物を得て、炭酸エステルを製造フロー図
【図4】アルキルスズアルコキシド組成物及び二酸化炭素結合体を含む混合物を製造装置図
【図5】アルキルスズアルコキシド組成物及び二酸化炭素結合体を含む混合物を製造装置図
【図6】二酸化炭素結合体を含む混合物の製造工程を含む炭酸エステルの製造装置図

以上、直下の2つの二酸化炭素回収、利用および貯蔵するCCUS(Carbon Capture, Utilisation and Storage
プロジェクトを俯瞰してきたが、メタンなどのや炭化水素化合物変換技術/工学は触媒、メタン菌などの生
物学、あるいは半導体などの様々なアプローチが存在するので現時点では優越評価はできない。ここでは
そのことでなく、緊急回避策としての二酸化炭素をはじめとする温暖化係数の高い物質の最適貯蔵工学を
早期実現を果たし後にわたし(たち)は関心がある。そう、グローバルな協働システム(機構)の組織化にあ
り、これらの地球物理学的空調システムの成果の未来への貢献にあるという意思表示にある。これは自分
(たち)を信じる他ない。 

 【世界で一番美味いひとり宅めし Ⅵ】 

● 風邪に効く鍋焼きうどん

【作り方

①白菜1枚を一ロ大に切って鍋に入れ、水300ミリリットルと麺つゆ100ミリリットルを加え
て中火で4分ほど煮詰める。煮詰めたら冷凍うどん1玉と生姜チューブ小さじ1を加え
る。②これ
ををさらに1分30秒ほど煮詰めたら、火にして卵を割り入れ、蓋をする。③卵がお好み
の固まり具
合になるまで時々中を覗きながら弱火のまま待つ(目安はは1分~1分30秒)。 

【1人分の材料】

生姜チューブ/小さじ1+冷凍うどん/1玉…40円+卵/1個…18円+白菜の葉/1枚…6円
+水…300ミリリットル+麺つゆ(2倍濃縮)…100ミリリットル=64円+α




【新しい麺屋事業とは】

ベジタブルヌードルつまり野菜麺という言葉が飛び交うようになっている。その定義は定まっていないよ
うだが、野菜を麺状に加工して、パスタや野菜サラダに仕立てて手軽に野菜を食べられるようにしたもの
がさす。また、それ専用の「ベジヌードルカッター」(あるいは「ベジヌードルメーカ」)などと呼称さ
れ販売されている(写真上/下参照)。市販されているカッターなどの裁断器は新鮮野菜をサラダ風にし
て頂くもので、鮮度、特にビタミン類――群ビタミンBは補酵素に入る――に拘れば加熱処理や酸化など
による変質を避ける上でベジヌードルカッターは意味があるが、日清食品のチキンラーメンのように油で
揚げ加熱乾燥(脱水/還縮)などの加工、あるいは、保存性を高める加工や異なる小麦・米・蕎などの麺
素材との混合、さらには、外形の内挿/外延、色食感/嗜好性とを考慮――ブログで掲載した「冬瓜麺根」
蒟蒻などの根菜類――ような多種多様な麺類――これもこのブログで掲載した『餡屋』構想――に広げて
みるのも良いのでもと考えるようになる。つまり、3年程度で『麵屋』 事業として、うどん・蕎・パスタ・
素麺・フォーとは一線を画して商品化してみてはと考えてみた。野菜パウダーはすでに商品化されている
のでその延長の二次加工食品と位置付けることができるだろう。

 

● 今夜の寸評:行動経済学とデジタル経済学



10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは、「心理学的に現実的な見込みを経済的な意思決
定の分析に組み込んだ」とし、「限られた合理性と社会的選好、自己制御の欠如を探求することで、
こうした人間的な特性が個々の決定や市場結果に系統的に影響することを示した」として、ノーベ
ル経済学賞をリチャード・H・セイラーシカゴ大学教授に授与。現在の経済学がホモエコノミカス
と呼ばれる、感情を持たない、利己的で、頭の良い、超合理的個人を前提として発展してきたのに
対し、現実の人間(ヒューマン)は、感情に動かされ、他人を意識し、たびたび間違いを犯す限定
合理性を前提とし、数学モデルよりも「現実」を分析する特徴をもち考察する。行動経済学の世界
には、「ナッジ(nudge)」(ひじで軽くつつくという意)という概念がある。心理的特性をテコに
して人々によい行動を取らせるという意味だが、セイラーがその発案者だ。実際、行動経済学の知
見を基に労働者の貯蓄行動を改善させることに成功し、現実の政策にも大きな影響を与えている。

 Oct. 16, 2017

11月20日には、NHKが特集を組み、「つまづいたっていいじゃないか、にんげんだもの」と相
田みつをファンであることを紹介。衝動買い、飲み過ぎ、ギャンブル…分かっちゃいるけどやめら
れない、だって「にんげんだもの」と。でも、こうした人間心理を逆手にとれば、より良い選択を
するように誘導できる。セイラー教授が“ナッジ”と名付けたこうした仕掛けを紹介。 うまく応用
すれば家でも会社でも、人生はうまく行く!?とわかりやすく解説してくれている(「家でも会社
でも使えるノーベル賞理論! 最新経済学の魔法
」NHK クローズアップ現代+」)。

 

しかし、限定合理性はそれ以上でもそれ以下でもないのでマクロな動きや解析をウォッチングする
わけではない。「経済活動を対象としたビックデータ解析化」や「キャッシュフローの4次元的見え
る化」などの「デジタル経済学」などと併用は避けられない。


   ● 今夜の一曲

昨年7月、男性シンガー・ソングライター5人からなる話題のスーパー・ユニット、ブラザーズ5
ファーストアルバムを携え再登場を果たす。メンバーは杉田二郎(「戦争を知らない子供たち」)
堀内孝雄(「遠くで汽笛を聞きながら」)、ばんばひろふみ(「「いちご白書」をもう一度」)
高山厳(「心凍らせて」)、因幡晃(「わかって下さい」)。 

    この街で生まれこの街で育ち
   この街で出会いましたあなたとこの街で 

   この街で恋しこの街で結ばれ
   この街でお母さんになりましたこの街で 

   あなたのすぐそばにいつもわたし
   わたしのすぐそばにいつもあなた 

   この街でいつかおばあちゃんになりたい
   おじいちゃんになったあなたと歩いてゆきたい 

                            作詞:新井満
                            作曲:新井満・三宮麻由子 

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寒月の感謝祭Ⅱ  

2017年11月20日 | 時事書評

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子   

                                           

      ※ 不義を討つ資格:沈同(斉の臣)が孟子に会い、かれ個人としてたずねた。
       「燕を討ってよろしいでしょうか」「よろしい。燕王の子噲(しかい)が
       かってに王位を譲り渡しだのは不当だ。宰相の子之(しし)がそれを譲り
       受けたのも不当だ。たとえば、あなたがお気に入りの役人に、正に無断で
       地位や禄を譲り渡し、役人のににうでも王命なしに誼り受けたとします。
       それを正当だと思いますか。それと同しことです」 はたして斉は燕を討
       伐した。そこで斉のある人が孟子に、先生が燕を討つように勧めたとのう
       わさですが、本当でしょうか」 「どうしてどうして。沈同が『討っても
       よいか』とたずねたので、『よい』と答えたまでだ。かれは結局燕を討伐
       した。だが、あのとき、もし『だれが討つべきか』ときかれたら、『天の
       使徒だ』と答えていたはずだ。たとえば、殺人事件があって『犯人を殺す
       べきか』ときかれたら、言下に『殺すべし』と答える、『だれが殺すべき
       か』ときかれたら、『司法長官だ』と答えるだろう。ところが実際に燕
       を討伐したのは燕とかわりのない無道な国だ。そのような国に討てと勧め
       るわけがない」

           【解説】 燕の乱れに乗じて、斉がこれを攻めたときのことである。孟子は燕の乱
           脈ぶりをにがにがしく思っていたので、討つことに賛成した。理屈のうえではたし
           かに孟子の言い分が正しいだろうが、実際問題としては強弁のそしりをまぬが
           れない
。孟子としては、当初燕の人民を裁うものとして、斉の宣王にかなり期待
           を抱いていた。それがひきだしの侵略に終わったため、前言を訂正する意味で
           こう言ったとも推測されるのである。梁恵王篇および次章をあわえ読めば、この
           間の事情が理解できる。 

    No.100

【ソーラータイル事業篇:世界最大の建材一体型有機薄膜太陽電池】




11月15日、ドイツのHeliatek社は、フランス西部のシャラント=マリティーム(Charente-Mar-
itime
)県ラ・ロシェル(La Rochelle)にあるピエールマンデス・フランス中学校の屋根上に総面
積500平方メートル分の建材一体型の有機薄膜太陽電池を設置したことを公表(上図)。Heliat-
ek
社がエネルギー大手仏ENGIE社と共同で進めたプロジェクト、同社の有機薄膜太陽電池「HeliaSol
を初めて採用。ENGIE社はHelinatek社に出資。2、4、5.7メートルと3種類の異なる長さのフ
ィルム状のHeliaSol約400枚を組み合わせて設置(下図)。太陽電池フィルム内に埋め込んだ配
線や、フィルム裏面に塗布した粘着剤によって、既築の屋根や建物の表面に直接設置することが可
能する。

 Nov.15, 2017

今回の事例では、準備時間を考慮に入れても、500平方メートルの太陽電池フィルム設置を6人
の作業者が8時間で完了。太陽電池フィルム1枚当たりの工数は、約2分。太陽光発電システムの
出力は22.5kWで、同中学校の電力需要の約15%、23.8メガワット時の電力量を1年間に発電
する。同社は「再エネは、『エネルギーの3D』、脱炭素化(decarbonization)、非集中化(dece-
ntralization
)、デジタル化(digitalization)」を事業戦略としている、従来は太陽光発電を搭載でき
なかった建物でも電力を生み出せるようになり、クリーンなエネルギーの地産地消に貢献する。

【サーモタイル事業篇:世界初 中高温域熱電変換クラスレート焼結体U字素子】

 

11月17日、古河電気工業らの研究グループは、世界で初めて、中高温域での熱電変換を実現す
るクラスレート焼結体U字素子を開発、ろうそくのような小さな炎で電気を起こすことに成功した
と発表。今後、工業炉や自動車エンジンの排熱など200~800℃の中高温域での未利用熱エネ
ルギーを電力に変換する高出力熱電発電モジュールの実現や、民生分野など他分野へ応用される。
中高温域で熱電性能の高い材料は、鉛、テルル、アンチモン、セレン、タリウム等、毒性が高く希
少で低融点の元素から構成されるものがほとんどです。これらの元素から構成される熱電変換材料
は、空気中での使用には工夫が必要なことなどから、広く利用されていない。今回開発した環境調
和型のシリコンクラスレート化合物からなるP型およびN型焼結体が一体となった高温電極レスのU
字素子(上図)は、地球上に最も豊富に存在するシリコンを主原料とし、P型、N型ともに同系のシ
リコンクラスレート化合物で構成、線膨張係数などの物性値に大きな差異がない。また、従来のモ
ジュールにある高温側の金属電極と絶縁性基板を無くし高温耐性が得られる。この素子をろうそく
などの炎にかざすと50mVの電圧が得られるが、この素子を8個用いて、低温側(上図/右)に金属
電極を配し、電気的に直列に、熱的に並列に配置した、8対ハーフスケルトンモジュールを開発し
実際に、このモジュールをろうそくの炎(外炎、約800℃)にかざす実験を実施、小型のモータ
ーを回転させることに成功(下図)。これにより、特別な集熱や放熱、大気暴露防止のための補助
部材がない状態でも発電している。




このように2つのニュースのごとく、着々と「エネルギータイリング事業」が欧州や日本が中心と
なり加速し、ひいては「エネルギー資源」を巡り殺戮を繰り返す世界を終焉させ、人為的温暖化(
=地球の金星化)のリスクゼロ社会の実現に向け、わたし(たち)は、エネルギーフリー事業がゆ
っくりと動き出していることを実感する。これは愉快だ。次回は二酸化炭素ガスの制御システムを
取り上げる。

 

 

● 事件背景と告発の意味 Ⅵ

 第2章 信教の自由・プライバシーと監視社会-テロ対策を改めて考える  

  第2節 ムスリムに対する監視

 Mariko Hirose  

      9・11後のムスリムの監視は第二次世界大戦中の日系アメリカ人の境遇に似ている 

 A:現在ほとんどのアメリカ人は、当時の措置はアメリカ史上に残る誤りであったと考え、てい
   るわけですが、今まさに同じことがムスリムに対する監視プログラムにおいて繰り返され 
   ているのです。

ニューヨーク市警察

                   監視捜査は宗教差別であり、監視の効果はゼロだった

 Q:警察は具体的にどのようにしてムスリムーコミュニティの情報を集めていたのでしょうか。
 A:警察内部にムスリムのコミュニティを監視する専門の部署が設立されていました。彼らは各
   地のお店を実際に訪れ、どのような店なのか記録していきます。客や店主はどの国の出身者
   なのか。どのような話をしているか。モスクについても同様の手段で情報を集めています。
   どのような人が訪れているか。どのような話をしているか。説教の内容も記録されています。
   また協力者のスパイも送り込んでいました。これによってムスリムの人たちは、モスクで話
   している人が自分と同じような信仰心からモスクに礼拝に来ている人なのか、あるいは捜査
   官や協力者なのかを区別できなくなりました。

 Q:監視の対象となったムスリム・コミュニティというのはどのようなコミュニティでしょうか。
 A:ムスリム・コミュニティはいろいろな国の出身者で構成されています。もちろんアメリカ人
   も含まれています。長年ニューヨークに住む人や、単にモスクの周辺に住んでいたという人
   も含まれています。監視の対象はモスクだけでなくムスリムと関連する特定の企業も含まれ
   ています。ムスリムによって経営されていたり、ムスリムが頻繁に訪れる商店です。NYP
   Dがこうした商店を体系的にマッピングしていたことが、2011年のAP通信の報道で明
   らかになりました。

 Q:ムスリム全体を監視する警察の目的は何だったのでしょうか。
 A:大量監視プログラムの表向きの理由はテロリズム対策です。しかし、監視は何の嫌疑にも基
   づかずに行われます。監視の対象者は、その信仰以外に対象となるべき理由は何もありませ
   ん。だからこそ、アメリカ自由人権協会、ニューヨーク自由人権協会、そしてニューヨーク
   市立大学ロースクールのプロジェクトであるCLEARCreatillg Law Enforcement Accountab-
            ilitv & Responsibility)は、このような監視捜査は宗教による差別であり宗教活動への干渉であ
   るとして共同で訴訟を提起したのです。

 Q:監視の結果、実際に犯罪が予防されたり、テロリストが摘発されたといったことはあったの
   でしょうか。
 A:ひとつもありません。これらの監視に効果があったとの証拠は政府からひとつも提出されま
   せんでした。

 Q:スリムに対する監視のほかに、地元警察が行う監視活動の具体例を教えて下さい。
 A:警察がマイノリティのコミュニティを監視対象としたことは今回が初めてのことではありま
   せん。たとえば、これまで政府に対して不満を持っている政治グルーブ、黒人、ラテン系の
   コミュニティに対して監視が行われたことがありました。⑼、⑽ また、ニューヨーク市費
   はずいぶん前から黒人あるいはラテン系に対して、白人よりも高い比率で犯罪容疑の対象と
   したり、路上で尋問をしたりしていました。これも監視のひとつです。このように、マイ
   ノリティのコミュニティに影響を与える監視や警察の捜査ブログラムは今回が初めてという
   わけではありません。今回のムスリムに対する監視がこれまでと異なるのは、ワイズナー氏
   が言及したような新たなテクノロジーの利用です。私たちの個人情報はこうした新しいテク
   ノロジーによって作成されているので、警察が大量の個人情報を収集するのも以前よりもけ
   るかに容易になっているのです。

1960年代から90年代にかけてCIAやFBIが反戦活動、公民権活動、LGBT活動などを
広範囲に監視し、ときには違法な盗聴を行っていたことが「二ューヨークタイムズ紙」などにより暴
かれました。マーティンールーサー・キング師に自殺を迫る脅迫文を送るなど、センセーショナルな
内容に批判が高まり、議会は特別委員会(通称チャーチ委員会)を設置し詳細な検証を行いました。
その報告書をもとにさまざまな改革がなされ、監視捜査を制御する基本的な仕組みが構築され現在に
引き継がれていました。

⑽前註⑼のFBIの監視活動と平仄を合わせるように、ニューヨーク市背もデモ活動などの政治的活
動を対象に大規模な監視捜査を独自に展開していました。政治的表現の自由に対する侵害などを理由
に、ニューヨークー市警などを被告とする集団訴訟が提起されました。この訴訟は原告代表であった
弁護士の名前を冠してハンチュー事件と呼ばれています。1985年、訴訟は和解により終結し、ハ
ンチュー委員会が設立されました。この委員会はニューヨーク市警内部に設置される独立の委員会で
市賢の捜査プログラムが表現の自由などを侵害するものでないかを個別にチェックしています。

Stop and friskと呼ばれるもので、身体検査も適法に実施できるなど日本の職務質問よりもプライバ
シーや身体の自由への侵害の程度は強いとされています。ニューヨーク人権協会などの続剖的な調査
によって、人□分布や犯罪率から大幅にかい離した割合で黒人やラテン系などのマイノリティが対象
とされていることが明らかとなっています.またいくつかのメディアにより警察官の差別的な言動な
ども報道されました.2010年代にはいくつかの訴訟が提起され、差別的な捜査プログラムである
として差し止める命じる判決などが出されました.2013年の市長選挙では運用の見直しが大きな
}テーマのひとつとして取り上げられ、実際に改革派の市長が当選すると運用が見直され年間に数10
万件数えていた件数が2万程度に激減したと眼告されています。

 Wikipedia

  井桁大介

   3節 新しい科学技術の利用

  近年の監視捜査を検討する際に避けて通れないのが新しい利学技術の利用です。SFの世界
 用いられていたような科学技術が現実のものとして利用されるようになっています。犯罪の
予防・
 捜査とプライバシーなどを比較し、どこまでの科学技術の利用を許すべきか、またどの
ように許
 すべきかを個別に議論するべき時代が到来しています。
アメリカの捜査機関は新しい科学技術の
 利用を、日本よりも比較的広く公開しています。ア
メリカで用いられている利学技術が日本で用
 いられていないと考える理由はなく、日本の警察
も秘密裏に利用している、あるいは今後利用す
 る可能性があると考えるべきです。、

 Mar. 12, 2014

                 携帯電話の基地局を装い情報を傍受するスティングレイ

 Q:監視に使われている技術について、具体例を敦えて下さい。
 A:私たちが取り組んでいる問題のひとつに、「スティングレイ」と呼ばれる携帯電話監視
   があります。軍事用に開発された強力な装置ですが、全米で各警察が秘密裏に使用する
   よ
うになっています。軍事用の強力な監視装置を、日常的な捜査活動に用いることが適切
   なの
か、なんら議論されておらず、大きな問題です
 Q:スティングレイはどのようにして個人情報を集めるのですか?
 A:モデルによってさまざまな使い方があるのですが、携帯電話の基地局を装うというのが代
   表的な刊用方法です。たとえば、NTTドコモの基地局と同じ電波を発信すると、みなさ

   んがお持ちのNTTドコモの携帯電話は正規の基地局と勘違いしてすべての情報を渡して
   しま
うわけです。
   一般的なモデルのスティングレイは携帯電話の動きを追跡するために用いられます。携帯
   電
話の識別子を入力することで携帯電話が特定される仕組みとなっています⑿。より進化
   したモデルは、メールの送り先やさらには電話やメールの内容などをも傍受するこ
とがで
   きます。

  STINGRAY CELL PHONE TRACKING

⑿その他の科学技術としては、たとえば、スノーデン氏の資料により、NSAが偽装したフェイス
ブックサーバにアクセスさせたり、迷惑メールを送り付けることにより、対象のコンピューターを
ウイルスに感染させ、内部の情報を抜き取っていたことが暴露されました。全世界で数百万のコン
ピューターをウイルスに感染させる計画だったと報じられています(Ryan Gallagher and Glenn Gree-
nwald、 ¨How The NSA Plans To lnfect 'Millions'
Computer with Malware", The Intercept_, March 12 2014.
https:///theintercept.com/2014/03/12/nasa-plans-infect-
millions-computers-malware/ など参照)。また、顔・
認証技術も発達しています。FBIは、Next Generation Identification-Interstate Photo System(NGI
‐IPs)と名付けられた顔画像データベースに数億大の.画像データを保有しているとも言われ
ています。また、FaciaI Analysis, Comparison, and Evaluation(FACE)という専門の特殊チームを
結成し、広範囲に設置された監視カメラが記録する膨大な映像に検索をかけて、対象とする人物が
いつどこにいたかを、ときにはリアルタイムで把握することが可能となりつつあるとされています
(FACEに関する報告書はこちらに公開されています。https://~nv.fbi.gov/services/records‐manage
menr/foipa/privacy-
impact-
assessments/facial-anlysis-comparison-and-evaluation-face-services‐unit)。

 Jun. 19, 2016

また、NASは数兆件情報を収集していたとされています。現時点の化学技術では検索に検索に耐
えられるものではありませんが、近い将来にはその有効性はさておき)AIなどを利用することに
より、膨大な母集団から有意差な情報のみを自動で検出
し、犯罪捜査や容貌活動に用いることを計
画しているとされています。検査機関の能力が以前とは比べものない物にならないほど拡大してい
ることを前提に、ITやAIに特価した監視システムの構築を検討しなければなりません。日本の
考案委員会のようなゼネラリストによる監督システムでは、有効な監督は期待できなくなりつつあ
ります。
                                                                           この項つづく


 

 【世界で一番美味いひとり宅めし Ⅴ】

● 風邪に効く鍋焼きうどん

【作り方

①白菜1枚を一ロ大に切って鍋に入れ、水300ミリリットルと麺つゆ100ミリリットルを加え
て中火で4分ほど煮詰める。煮詰めたら冷凍うどん1玉と生姜チューブ小さじ1を加え
る。②これ
ををさらに1分30秒ほど煮詰めたら、火にして卵を割り入れ、蓋をする。③卵がお好み
の固まり具
合になるまで時々中を覗きながら弱火のまま待つ(目安はは1分~1分30秒)。

【1人分の材料】

生姜チューブ/小さじ1+冷凍うどん/1玉…40円+卵/1個…18円+白菜の葉/1枚…6円
+水…300ミリリットル+麺つゆ(2倍濃縮)…100ミリリットル=64円+α

※ ことしは、冬の病克服レシピの開発をテーマとする。

 

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寒月の感謝祭

2017年11月19日 | 時事書評

 

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

 

                                          

      ※ 批判のしかた:孟子が斉の重臣であったころ、使節として縢(とう)の国
       へ弔問に行った。宣王は、蓋(こう)の領主の王驩(おうかん)を副使に
       つけた。王驩は、毎日朝夕には孟子のところへあいさつにやって来たが、
       孟子は、王驩とは使節の用向きについて、往きも帰りも一度も話をしなか
       った。そこで公孫丑がたずねた。「斉の重臣として他国に使いするのは、
       たいへん重要な役目です。しかも、斉と縢との間はかなり長い路のりです
       が、そこを往復しながら、王驩とは用向きについて一度も相談されなかっ
       たのは、どういうわけですか」、孟子が答えた。「王驩は自分でなにもか
       も取りしきっているではないか。わたくしのほうから相談を持ちかけるこ
       ともあるまい」

      〈重臣〉原文は「卿」。孟子は斉の国に約八年滞在し、重臣の待遇をうけた。
      〈王驩〉王驩は宣王のお気に入りで、権勢家であった。孟子はこの人物とよ
          ほどそりが合わなかったらしく、離婁篇(219頁)にも王驩相手
          に同類の話がある。
 

    No.99

 【潮流発電篇:相反転プロペラ(2枚羽)方式、発電効率43.1%】

11月17日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 協和コンサルタンツ、アイム電機工
業、前田建設工業、九州工業大学、早稲田大学は「相反転プロペラ式」の潮流発電技術を開発したと
発表。10月17~20日に長崎湾沖において、実用化時の想定実機の7分の1スケールモデルを用
いた曳航(えいこう)試験を実施し、設計した発電効率を上回る43.1%の発電効率を確認。



このブログの水力発電及び風力発電でも掲載してきたように、相反点プロペラ式は、たがいに逆方向
に回転する2段のプロペラを用いて発電を行い、従来のプロペラ式発電(1段のプロペラ)で内軸磁
石を回転させ外側コイルは固定下したものと比べ、相反転方式では、潮流を受けた前後2段のプロペ
ラが外側コイルと内軸磁石を逆方向に回転させることで、磁界を切る相対速度が倍増するため、高い
発電効率が期待できるとともに、同じ発電量の装置と比較して小型化、高起電圧による送電ロスや電
力制御機器容量の軽減ができる。さらに、発電機に発生する回転トルクが逆回転により相殺されるた
め、外部への反作用がなくなる(外乱を抑制した静止状態)なり支持構造が軽量/簡素化でき、設置
費用が削減される。

 

今年10月17~20日に、長崎県伊王島から沖に約2kmの地点で、実用化時に想定される実機の7分の1
スケールモデルを利用した曳航試験が実施。発電装置を台船の船尾から深さ3.5mの位置に設置し、
タグボートで曳航することによって実海域の環境下での潮流を模擬化。その結果、前後2段プロペラの
回転の安定性、イーグル工業が開発したメカニカルシールによる防水性能などを確認し、実海域にお
ける装置の安全性を確認する。発電出力については、流速2m/sにおいて定格発電出力が1.38kWで
試験時の流速1.3m/sの条件で、379Wの出力を確認。この発電出力は発電効率43.1%に相当し
設計した発電効率42%を上回る。これをプロペラ直径7mの実用化機に置き換えた場合、流速4m/sで
543.6kWの出力となる。今後は今回の曳航試験で得られたデータをもとに、数値シミュレーション
を行い、流向も含めて周期的に変化する実際の海洋環境下での運転を模擬し、発電コストの試算を行う
予定。

【省エネ篇:国産量子コンピューター試作機、無償公開】 

スーパーコンピューターをはるかに超える高速計算を実現する「量子コンピューター」の試作機を、
国立情報学研究所などが開発し、27日から無償の利用サービスを始める。世界的な開発競争が進む
なか、試作段階で公開して改良につなげ、2019年度末までに国産での実用化を目指す(朝日新聞
デジタル 2017.11.20)。それによると、従来のコンピューターは、多数の組み合わせから最適な答え
を探す際に一
つずつ計算するが、量子コンピューターは極小の物質の世界の現象を応用し、一度に計
算する。現時
点では一度に計算できる組み合わせは、スパコンの数千分の1~数十分の1程度だが、
理論上は1千
年かかる計算も一瞬で済むとされ、人工知能や新薬の開発、交通渋滞の解消などに役立
つことが期待
されている。基礎研究は1980年代に始まり、日本の業績も世界的に評価されている。
だが、実用化では米IBMやグーグルなどが先行。カナダのD―Waveシステムズは11年に一部
実用化し、米航空宇宙局(NASA)や自動車部品大手「デンソー」、東北大などが活用している。

 Sep. 22, 2017

国立情報学研究所や理化学研究所、NTTなどは、内閣府の研究支援制度「革新的研究開発推進プロ
グラム」(ImPACT)を使い、光ファイバーとレーザー光を組み合わせた独自の方式を開発した。
計算速度は、理研にある小型スパコンと比べて平均で約37倍速く、特定の計算では、D―Wave
よりも正答率は大幅に高かった。スパコンは冷却に多くの電力が必要で、大規模な「京(けい)」で
は1万数千キロワットに及ぶ。今回の試作機は大型電子レンジ程度の1キロワットで済むという
方、従来のスパコンで使われるソフトウェアは使えず、開発に必要な専門家が不足している。このた
め、研究グループは、試作機の段階で企業や研究機関に量子コンピューターを使ってもらい、そこで
得た蓄積を技術の開発や人材育成につなげた。27日から、ウェブ上でサービスを公開し、世界中の
利用者が無償で使える。

 Jun. 20, 2017

    

 ❏ 特開2015-036781 量子テレポーテーション光回路(光量子コンピュータ)

【概要】

現在、光通信の通信容量が、その古典物理学的限界値に達し用としている。光は、光子の集合体と考
えられるが、古典物理学的な光では光子間の相関が無く、光子がランダムに飛来する。そのため、シ
ョットノイズと呼ばれる量子ノイズが存在し、それが通信容量を制限するためである。従って、高度
情報化社会の更なる発展のためには、古典物理学的限界(ショットノイズ限界)を破った、光通信の
通信容量向上の研究が必須である。

また、通信容量は単位エネルギー当たりに送信可能な情報量で定義されるので、通信容量が上がれば、
単位情報当たりの伝送に必要なエネルギーが減る。従って、震災後の日本の将来を考えても、古典物
理学的限界を破った、光通信の通信容量向上の研究が強く望まれる。つまり、超大容量=超低消費エ
ネルギー光通信の研究が望まれる。実際、光ファイバーネットワークには多数の中継器=光ファイバ
ーアンプが存在しているが、その消費エネルギーは膨大である。これもひとえに、ショットノイズに
埋もれないレベルに信号光の強度を高め、S/N比を保つためである。光ファイバーアンプの数を減
らし、究極的にはこれを無くしても、光通信のS/N比を十分保てる手法の確率は非常に重要である。

年の研究から、受信側で量子力学的操作を用いれば、ショットノイズを回避し、古典物理学的限界値
を超えて、光通信の通信容量を上げられることが分かってきている。ここで重要なことは、光ファイ
バー中で情報のキャリアとなる光として、レーザー光の利用が望まれることである。これは、レーザ
ー光がコヒーレンスの高い光であって、光ファイバー中で損失を被ってもその状態を保つからであり、
レーザーは現在最も安定した光源だからである。従って、レーザー光を変調して情報を載せ、受信側
でこれに量子力学的操作を行い、古典物理学的限界を超えた情報を取り出すことが求められている。
そして、そのような量子力学的操作は、量子テレポーテーション光回路を基礎にして実現可能なこと
が知られている(非特許文献2参照)。ここで、量子テレポーテーション光回路とは、入出力状態の
等しい恒等量子演算回路のことであるが、これを用いて万能量子ゲートを構成できる。

このような量子テレポーテーション光回路を実現するためには、回路内の位相揺れや回路内での光の
干渉ビジビリティを極限まで安定化する必要があるが、従来の量子テレポーテーション光回路はフリ
ースペースに作られた光学系により組まれていたため、回路内の位相揺れや光の干渉ビジビリティの
安定性には限界があり、量子テレポーテーション光回路として性能が低いという課題があった。さら
に、フリースペースに作られた光学系は容易に持ち運ぶことができず、アライメントは経時変化し、
嵩も大きいという問題があった。従って、実地で用いることは実質的に不可能であった。そこで下図
のように、2個のスクイーズド光光源からの2本のスクイーズド光と、それとコヒーレントなレーザ
ー光を量子テレポーテーション光回路に導入する。入力端SQ1、SQ2より導入された2つのスク
イーズド光は、2つの出力の分岐比が50:50に設定されたマッハ・ツェンダー干渉計101-1
に入射する。マッハ・ツェンダー干渉計101-1の2つの出力光はそれぞれ別のマッハ・ツェンダ
ー干渉計101-2、102-1に入射する。マッハ・ツェンダー干渉計101-2~101-5、
102-1~102-3を介して、量子力学的相関を有するスクイーズド光にコヒーレントなレーザ
ー光を多段に合波していく構成により、安定的に動作し、コンパクトで持ち運びが可能で、アライン
メントフリーな量子テレポーテーション光回路の提供が可能となる。

 
【符号の説明】

100  量子テレポーテーション光回路   101、102  マッハ・ツェンダー干渉計   103  調芯用導波路
104  外部出力用導波路   105  光検出器群   201  方向性結合器   202  アーム   203  ヒーター

これは面白い、電子レンジレベルのエネルギーでスパーコンピュータが実現し、情報漏洩が防げるのだから。
エネルギーフリー事業には欠かせないものとなる。

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』    

       第64章 恩寵のひとつのかたちとして  

  叔母の秋川笙子は今もまだ免色氏と交際を続けていた。彼女はある時点で、まりえに彼とつき
 あっていることを打ち明けた。二人はとても親しい関係にあるのだと。そしてひょっとしたらそ
 のうちに結婚することになるかもしれないと言った。

 「もしそうなったらだけど、まりちゃんも私だちと一緒に暮らす?」と叔母は彼女に尋ねた。
 まりえはそれには聞こえないふりをしていた。いつもよくそうするように。
 「それで、君には免色さんと一緒に暮らすつもりはあるの?」、私は少し気になってまりえにそ
 う尋ねてみた。
 「ないと思う」と彼女は言った。それから付け加えるように言った。「でもよくわからないかな」
 よくわからない?
 「君は免色さんのあの家にはあまり良い思い出を持っていないと、ぼくは理解していたんだけ
 ど」と私は少し戸惑って尋ねた。
 「でもあれは、まだ私が子供の頃に起こったことだったし、なんだかずいぷん昔のことのように
 思える。なんにしてもお父さんと二人で暮らすことは考えられないし」
 
 「昔のこと?」

  それは私には、ほんの昨日起こったことのように思えた。私はそう言ってみたが、まりえはと
 くに何も言わなかった。あるいは彼女はその屋敷の中で起こった、一連の異様な出来事をすっか
 り忘れてしまいたいと望んでいるのかもしれない。あるいは実際、既に忘れてしまったのかもし
 れない。それとも彼女は、年齢を重ねるにつれ、免色という人間に少なからず興味を持ち始めた
 のかもしれない。彼の中に何かしら特別なものを、その血筋に共通して流れる何かを感じるよう
  になってきたのかもしれない。

 「メンシキさんの家の、あのクローゼットの中にあったイフクがどうなったか、私にはとても興
 味がある」とまりえは言った。
 「その部屋が君を惹きつけるんだね?」
 「それは私を護ってくれたイフクだから」と彼女は言った。「でもまだよくわからない。大学に
 進んだら、どこかよそで一人で暮らすことになるかもしれない」

  それがいいかもしれない、と私は言った。

 「それで、祠の裏にある穴はどうなった?」と私は尋ねてみた。
 「あのままになっている」とまりえは言った。「火事のあとも、ずっと青いビニールシートがか
 かったままになっている。そのうちに落ち葉がいっぱい積もって、そんな穴があそこにあること
 も、誰にもわからなくなってしまうかもしれない」
  その穴の底には、まだあの古い鈴が置かれているはずだ。雨田典彦の部屋から借りてきたプラ
 スチックの懐中電灯と一緒に。
 「もう騎士団長は見かけない?」と私は尋ねた。
 「あれから一度も会っていない。騎士団長が本当にいたなんて、今ではなんだかうまく信じられ
 ない」
 「騎士団長は本当にいたんだよ」と私は言った。「信じた方がいい」

  でもまりえはそんなことをみんな、少しずつ忘れていくのかもしれないと私は思った。彼女は
 十代の後半を迎え、その人生は急速に込み入った忙しいものになっていくだろう。イデアやメタ
 ファーといったような、わけのわからないものに関わり合っている余裕も見出せなくなっていく
 かもしれない
  時折、あのペンギンのフィギュアはいったいどうなったのだろうと考えることがある。川の渡
 し守をしていた顔のない男に、私はそれを渡し賃のかわりとして与えた。あの流れの速い川を渡
 るために、そうしないわけにはいかなかったのだ。私はその小さなペンギンが、今でもどこかか
 ら――おそらくは無と有の間を行き来しながら――彼女を見守ってくれていることを祈ちないわ
 けにはいかなかった。

  むろが誰の子供なのか、私にはまだわからない。正式にDNAを調べればわかることなのだろ
 うが、私はその上うな検査の結果を知りたいとは思わなかった。やがて何かがあって、いつの日
 にか私はそれを知ることになるかもしれない。彼女が誰を父親とする子供なのか、事実が判明す
 る目が来るかもしれない。しかしそんな「事実」にいったいどれはどの意味かおるのだろう?
 むろは法的には正式に私の子供だったし、私はその小さな娘をとても深く愛していた。そして彼
 女と一緒にいる時間を慈しんでいた。彼女の生物学的な父親がたとえ誰であっても、誰でなくて
 も、私にはどうでもいいことだった。それはまったく些細なことなのだ。それによって何かが変
 更を受けたりするわけではない。

  私は東北の町から町へと一人で移勤しているあいだに、夢をつたって、眠っているユズと交わ
 ったのだ。私は彼女の夢の中に忍び込み、その結果彼女は受胎し、九ケ月と少し後に子供を出産
 したのだ――私は(あくまで個人的にこっそりとではあるけれど)そう考えることを好んだ。そ
 の子の父親はイデアとしての私であり、あるいはメタファーとしての私なのだ。騎士団長が私の
 もとを訪れたように、ドンナ・アンナが闇の中で私を導いたように、私はもうひとつ別の世界で
 ユズを受胎させたのだ

  でも私が免色のようになることはない。彼は、秋川まりえが自分の子供であるかもしれない、
 あるいはそうではないかもしれない、という可能性のバランスの上に自分の人生を成り立たせて
 いる。その二つの可能性を天秤にかけ、その終ることのない微妙な振幅の中に自己の存在意味を
 見いだそうとしている。しかし私にはそんな面倒な(少なくとも自然とは言い難い)企みに挑戦
 する必要はない。なぜなら私には信じる力が具わっているからだ。どのような挟くて暗い場所に
 入れられても、どのように荒ぶる畷野に身を置かれても、どこかに私を導いてくれるものがいる
 と、私には率直に信じることができるからだ。それがあの小田原近郊、山頂の一軒家に住んでい
 る間に、いくつかの普通ではない体験を通して私が学び取ったものごとだった。

 『騎士団長殺し』は未明の火事によって永遠に失われてしまったが、その見事な芸術作品は私の
 心の中に今もなお実在している。私は騎士団長や、ドンナ・アンナや、顔ながの姿を、そのまま
 目の前に鮮やかに浮かび上がらせることができる。手を伸ばせば彼らに触れることができそうな
 くらい具体的に、ありありと。彼らのことを思うとき、私は貯水他の広い水面に降りしきる雨を
 眺めているときのような、どこまでもひっそりとした気持ちになることができる。私の心の中で、
 その雨が降り止むことはない。
  私はおそらく彼らと共に、これからの人生を生きていくことだろう。そしてむろは、その私の
 小さな娘は、彼らから私に手渡された贈りものなのだ。恩寵のひとつのかたちとして。そんな気
 がしてならない。
  「騎士団長はほんとうにいたんだよ」と私はそばでぐっすり眠っているむろに向かって話しか
 けた。「きみはそれを信じてた方がいい」

                                    (第2部終わり) 



上表のように彼のノベル(全長編小説)やそれ以外の作品――ショートストーリー(短編集)や翻訳
集を含め――『騎士団長殺し』に正しく投影されているね。と、読み終えてそう思った。いや正確に
いうとわたしの琴線に触れぬ、例えば『ノールウェイの森』は途中で放り出しているし、琴線に触れ
る作品は完読することなく、納得の上で本を閉じているし、読みそびれた作品もありまた、仕事に忙
しく読めなかった作品もある。この作品は隅々まで目を通したつもりでいる――これまで、長編小説
は読み飛ばし目に止まったところだけ読んでき(斜め読み)たし、ドストウエルスキーやトルストイな
どのロシア文学のような長編小説などはこれまでも意識的に遠ざけてきた(面倒くさいから)。気に
なる文中の言葉は「青字」にキーワードとなる箇所は「黄の背景色」に変換し、読みやすくするため
に随意に行間を開け丁寧に転記しながら読み進めてきた。そして、昭和初期(第一次世界大戦)以降
から現在に至る群歴史的事象(イベント)を真正面からとらえ直しこの作品を創作しているエネルギ
ーの大きさに驚嘆しながら、途中でくじけそうにならながらも読み終えることができ、ニーチェの言
葉ではないがその時代、時代の権力構造にかけられたバイアス(偏考作為)に屈することのない表現
行為に、「法然共生」と相通じるところがあると感じつつ読み終えた。蛇足であるが、『レイモンド・
カーヴァー詩集』の翻訳集はお気に入りの作品でその一節の「夜になると鮭(さかな)が」(At night
the salmon move)、
の詩を題材にしたわたしの稚拙画「カンバック・サーモン」を捨てることなく居間
に飾っている。

   At night the salmon move
      out from the river and into town.
      They avoid places with names
      like Foster’s Freeze, A & W, Smiley’s,
      but swim close to the tract
      homes on Wright Avenue where sometime
      in the early morning hours
      you can hear them trying doorknobs
      or dumping against Cable TV lines.
      We wait up for them.
      We leave our back windows open
      and call out when we hear a splash.
      Mornings are a disappointment.

      (At Night The Salmon Move,  The Collected Poems, The Harvill Press, London 1996.)

  夜になると鮭は
  川を出て街にやってくる
  フォスター冷凍とかA&Wとかスマイリー・レストランといった場所には
  近寄らないように注意はするが
  でもライト・アヴェニューの集合住宅のあたりまではやってくるので
  ときどき夜明け前なんかには
  彼らがドアノブを回したり
  ケーブルTVの線にどすんとぶつかったりするのが聞こえる
  僕らは眠らずに連中を待ち受け
  裏の窓をあけっぱなしにして
  水のはね音(スプラッシュ)が聞こえると呼んでみたりするのだが
  やがてつまらない朝がやってくるのだ

 
  ● 今夜の絵画

木島 桜谷は、明治から昭和初期にかけて活動した四条派の日本画家。本名は文治郎。字は文質。別号
に龍池草堂主人、朧廬迂人。 四条派の伝統を受け継いだ技巧的な写生力と情趣ある画風で、「大正の
呉春」「最後の四条派」と称された画家の作品が「京都文化博物館」(10月28日(土)〜12月24日(
日))で鑑賞できるというので、急遽、時間があれば車を走らせる。

※ 上の「寒月」は夏目漱石(朝日新聞記者)時代酷評した作品であるがその孫の房之介氏は誤解があったと
   NHK教育テレビインタビューの中で謝っていたのが興味を惹いいた。
 

 

コメント
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エネルギーフリー事業始動

2017年11月17日 | 環境工学システム論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

 

                                          

      ※ 職務と職責:孟子が蚳鼃(ちあ:蚳斉の大臣)に言った。「霊丘の長官を
       やめて、司法長官になったとは、みあげたことです。司法長官ともなれば
       王を諫めるのにうってつけですからね。で、就任して伺カ月にもなります
       が、まだ諫める機会はないのですか」。蚳鼃はさっそく王を諌めたが、聞
       き入れられなかった。かれは国を去った。そこで斉の人々は、「蚳鼃に忠
       告したのはよいが、孟子自身はどうなのか」と非難した。公都子(孟子の
       弟子)がこの話を伝えると、孟子は言った。「職務のある者は、職務を果
       たせなければ、国を去るべきだ。諌言の責任のある者は諌言して聞き入れ
       られなければ、国を去るべきだ。わたしには、職務がない。諌言の責任も
       ない。のんびりしたものだよ」 

 

ISBN Print: 978-92-64-28205-6 / PDF: 978-92-64-28230-8

    No.98

 【太陽光発電40年までに最安値のエネルギーに】

 

11月14日 国際エネルギー機関(IEA)は、太陽光発電が2040年までに多くの国や地域で最
も低コストのエネルギー源となり、低炭素型電源の設備容量として最大になるとの見通しを発表(
World Energy Outlook: WEO 2017」。によるもの現在のエネルギー政策、および「パリ協定」以降
に発表された政策を前提とした「新政策シナリオ」において、全世界のエネルギー需要は以前よりも
緩やかに増加するものの、2040年までに現在の全世界の需要に中国とインドの需要を加えた量の
30%まで拡大する。年平均成長率3.4%のグローバル経済――現在の74億人から40年に90
億人以上へ増加するとの見通しに試算されている。現在、
エネルギー需要の伸び率が最も大きいのイ
ンドが約30%――全世界のエネルギー消費にインドが占める割合は、40年までに11%上昇する。
インドに次ぐのが東南アジアで、中国の2倍のペースで需要拡大。
再エネ全体は、全発電容量の40
%――中でも中国とインドが加速導入――と拡大、再エネの中で最大の電源になる(下図)、一方、
欧州では30年代初頭に風力が最大のエネルギー源の主要技術になり、40年までの関連電源向け投
資の3分の2を占めると予測。

また、省エネルギーのさらなる向上が、エネルギー供給側の負担軽減に大きな役割を果たす。省エネ
で改善がなければ、最終需要家のエネルギー消費は2倍以上になり、再エネ電源がエネルギーの一次
需要の増加分の40%を満たし、電力分野で急成長により大規模な二酸化炭素回収利用・貯留(CCUS
が活用されない限り石炭が盛況だった時代が終わる。今後25年間、世界のエネルギー需要の成長は、
第一に再エネ、次に天然ガスによって賄われ、急速下落するコストにより、太陽光が最も安い電源と
なる。これらのトレンドシフトと同時に、エネルギーの生産者と消費者を隔てていた従来の区分が次
第にボーダーレスト化し、主要新興国がエネルギー分野の中心に移動することなども指摘している。

● 
安い太陽光発電が2040年までに世界の石炭産業を駆逐 

  Dec. 26, 2017

6月17日、米国雑誌フォーチュン社は、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの調査
によると、米国における総石炭発電量は2040年に半減すると予測、欧州の予測される低下は87
%、ドイツとブラジルの電力生産量全体石炭発電プロジェクトがキャンセルされると予測、太陽エネ
ルギーが2021年までに世界のほとんどの地域で石炭よりも電気を発電する安価な方法であると結
論づけている。その交差点は、以前よりも早く到着すると予測され、大規模な市場シフトを引き起こ
す。太陽光発電コスト低下は、20年までに66%減少し石炭火力を下回る、また、風力発電のコス
トは、海上風力発電が47%減少する間に71%下落する(上/下グラフクリック参照)。

 Jun. 15, 2017

Aug 15, 2016 

 



【蓄電池篇:フィスカ社の電気自動車用エネルギー高密度固体蓄電池】

11月13日、フィスカ(Fisker)社の研究グループは、全固体型蓄電池――Sakti3(以前のダイソ
ン社買収)を含め、高密度エネルギーの全固体型蓄電池の特許――電気自動車の普及に必要とされる
要求されるエネルギー密度、電力およびコスト目標達成に重要な新規材料および製造プロセスに関す
る請求を含む――を非公開(?)で提出。フィスカ社の固体電池は、リチウムイオン電池のエネルギ
ー密度の2.5倍の三次元電極を特徴とする。この技術により、1回の充電で500マイル(約80
5キロメートル)以上の走行を可能にしガソリンタンクを充填するよりも1分早く充電できる。この
技術は2023年以降の自動車仕様として搭載される予定。全固体化技術の課題は、①電極電流密度
の低下、②温度範囲の制限、③材料の利用可能性の限界、④高コスト、⑤および非スケーラブル(非
大規模性)な製造プロセスが含まれる。⑥初期の結果よりこのフレキシブルな固体化技術は、従来の
平板な薄膜固体電極よりも25倍の表面積を持つ三次元バルク固体電極と、極めて高電子/イオン伝
導度を、急速充電/低温化を実現できる。その結果、典型的なリチウムイオンバッテリーのエネルギ
ー密度の2.5倍の性能もつが、材料/製造進歩により、2020年想定価格の3分の1に引き下げ
る必要があり。⑥また、苛酷試験上の課題解決、⑦さらに、充放電プロセス中の体積変化および残留
応力による剥離問題。⑧デンドライトの浸透および安定性対金属リチウム電極の固体状態の材料の制
約上の課題、⑨特に、低温の気候における低イオン拡散障害があるが、以上のボトルネック技術課題
の解決を行っている。このことにより、フレキシブルな固体電極構造は、❶多様な電圧と❷形状因子
を持つ電池を実現する。電圧出力の高い円筒形セルに巻きつき、セル・ツー・セル接続、熱管理、安
全性の要件に加え、現在のツーリングやバッテリパック用器機使用を実現しバッテリシステムのコス
トがさらに削減できる。



また、技術が2023年以降の自動車用途向けに準備されると予測しているが、このような長いリー
ドタイムは、特定の原材料と適切な製造ツールを備えたサプライチェーンが欠如としており、材料の
再現性上に確立された品質手順を構築できているとフィスカ社々長、自動車以外のパートナーシップ
の可能性がある様々な産業グループとの積極的な議論を進め、2023年より早く製品化が可能とな
る可能性があると語っている。

【関連特許】

❏ US9761847B2 Packaging and termination structure for a solid state battery :
                                     固体電池用のパッケージングおよび終端構造

 【要約】固体電池装置の製造方法。 この装置は、電気化学的に活性な層と、ポスト終端されたリー
ド構造で構
成されたインターデジテート層構造を有するオーバーレイバリア材料とを含むことができ
る。 この方法は、マル
チスタック構成で形成された複数のバッテリデバイスセル領域(1-N)を形成
することを含むことができ、各バッ
テリデバイスセル領域は、第1の電流コレクタおよび第2の電流
コレクタを含む。この方法はまた、第1および
第2のリード材料の厚さを形成して、複数のバッテリ
デバイスセル領域のそれぞれに関連する第1および第2
の電流コレクタのそれぞれを相互接続するた
めの第1および第2のリード構造を形成し、第1および第2の孤
立領域内で電池素子セル領域の空間
的に外側に延在する第2の集電体のうちの1つを含む。

❏ US9631269B2 Thermal evaporation process for manufacture of solid state battery devices :
                                            
固体電池装置の製造のための熱蒸発プロセス

【要約】固体電池装置の製造方法。この方法は、装置のプロセス領域内に基板を設けることを含むこ
とができる。
陰極源及び陽極源は、1つ以上のエネルギー源に供されて熱エネルギーを原料の一部に
移動させて蒸発させて蒸気相にすることができる。
イオン源からのイオン種を導入することができ、
複数の電子およびイオン種に由来する気体種を相互作用させることによって、表面領域の上に固体電
池材料の厚さを形成することができる。
 固体電池材料の厚さの形成中、表面領域は、約10 -6~10 -4
Torrの真空環境に維持することができる。
非反応性種を有するカソード、電解質、およびアノードを
含む活性材料は、修飾されたモジュラス層、例えば空隙または空隙のような多孔質材料の形成のため
に堆積させることができる。

❏ US962727B2 Embedded solid-stateB2:内蔵固体電池

【要約】エンドツーエンドプロセスを使用する電気化学セルの要素。 この方法は、セルの埋め込み
導体を製造する平坦化層を堆積させることを含み、最適化された電気的性能およびエネルギー密度の
堆積された終端を可能にする。本発明は、PMLまたは他の材料の平坦化されたマトリックスに導体お
よび活性層を埋め込み、それらを別個の電池に切断し、平坦化材料をエッチングして集電体を露出さ
せ、ポスト真空堆積工程で終わらせる技術を対象とする。



 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

 

      第64章 恩寵のひとつのかたちとして 

    私が妻のもと仁戻り、再び生活を共にするようになってから数年後、三月十一目に東日本一帯
 に大きな地震が起こった。私はテレビの前に座り、岩手県から宮城県にかけての海岸沿いの町が
 次々に壊滅していく様子を日にしていた。そこは私かかつて古いプジョー205に乗って、あて
 もなく旅をしてまわった地域だった。そしてそれらの町のうちのひとつは、あの「白いスバル・
 フオレスターの男」と出会った町であるはずだった。しかし私かテレビの画面で目にしたのは、
 巨大な径物のような津波によってなぎ倒され、ほとんどばらばらに解体されてしまったいくつも
 の町の残骸だった。私かかつて通り過ぎたあの町に繋がるものは、そこには何ひとつ見当たらな
 かった。そして私はその町の名前すら覚えていなかったから、そこが震災によってどのような被
 害を受け、どう変わってしまったのか確かめるすべもなかった。

  何をすることもできず、言葉を失ったまま、私はテレビの画面を何日もただ眺めていた。テレ
 ビの前を離れることができなかった。私はその画面の中から、自分の記憶に結びつく光景をひと
 つでもいいから見つけ出したいと願った。そうしなければ、自分の中にある何か大事な蓄積が、
 どこか知らない遠いところに巡ばれていって、そのまま消滅してしまいそうな気がしたからだ。
 今すぐ車に乗って、その場所に行ってみたいと思った。そしてそこに何か残されているのかを自
 分の目で確かめてみたかった。しかしそんなことはもちろんできっこない。幹線道路はずたずた
 に寸断されていたし、町や村は孤立していた。電気もガスも水道も、ライフラインは根こそぎ破
 壊され、失われてしまっていた。そして南側の福島県では(私が死んだプジョーを残してきたあ
 たりだ)、海岸沿いのいくつかの原子力発電所がメルトダウン状態に陥っていた。とても私か近
 づけるような状態にはなかった。



  それらの地域を旅してまわっていたとき、私は決して幸福ではなかった。どこまでも孤独で、
 切ない割り切れない思いを身のうちに抱えていた。多くの意味あいにおいて、私は失われていた
 と思う。しかしそれでも私は旅を続けながら、見知らぬ多くの人々のあいだに身を置き、彼らの
 送っている生活の諸相を通り抜けてきた。そしてそれはそのとき私が考えていたよりは、ずっと
 大事な意味を持つことだったのかもしれない。私はその途中で――多くの場合は無意識のうちに
 ――いくつかのものごとを棄て、いくつかのものごとを拾い上げることになった。それらの場所
 を通り通ぎたあとでは、私はそのまえと少しだけ違う人間になっていた。

  小田原の家の屋根裏に隠した『白いスバル・フォレスターの男』の絵を私は思った。あの男は
 ――それが現実の人間であれ何であれI今もまだあの町に暮らしていたのだろうか? そして、
 私と不思議なコ枚を共にした痩せた女は、まだあの町にいたのだろうか? 彼らはうまく地震や
 津波を逃れ、生き延びることができただろうか? あの町にあったラブホテルやファミリー・レ
 ストランはいったいどうなったのだろう?

  夕方の五時になると、私は保育園に子供を迎えに行った。それが私の日々の習慣だった(妻は
 また建築事務所の仕事に復帰していた)。うちから人人の足で歩いて十分ほどの距離のところに
 保育園はあった。そして私は娘の手を引いて、うちまでゆっくり帰り道を歩いた。雨が降ってい
 なければ、途中で小さな公園に寄ってベンチで休み、散歩している近所の犬たちを見物した。娘
 は小型犬を欲しがったが、私の住んでいるマンションではペツトを飼うことが禁止されていた。
 だから彼女は公園で犬たちを眺めることで我慢しなくてはならなかった。ときどき小さなおとな
 しい犬を触らせてもらえることもあった。

  娘の名前は「室」(むろ)といっ
た。ユズがその名前をつけた。彼女は出産予定日の少し前に、
 夢の中
でその名前を目にした。彼女は広い日本間に▽人でいた。美しい広い庭園に面した部屋だ
 った。

 そこには古風な文机がひとつあり、机の上には一枚の白い紙が置かれていた。紙には「室」とい
 う宇がひとつだけ大きく、黒い墨で鮮やかに書かれていた。誰がそれを書いたのかはわからない
 が、とても立派な字たった。そういう夢だった。彼女は目覚めたとき、その光景をはっきり思い
 出すことができた。それが生まれてくる子供の名前であるべきだと彼女は主張した。私にはもち
 ろん異存はなかった。なんといってもそれは彼女の産む子供なのだ。その宇を書いたのはあるい
 は雨田典彦であったかもしれない。私はふとそう思った。でもただ思っただけだ。結局のところ、
 それは夢の中の出来事に過ぎないのだから。

  生まれてきた子供が女の子であったことを私は嬉しく思った。私は妹のコミとともに子供時代
 を送ってきたせいで、身近に小さな女の子がいるとなんとなく気持ちが落ち着いた。それは私に
 とってどこまでも自然なことだった。そしてその子供が迷う余地のない確かな名前を持ってこの
 世界に生まれてきたことも、私にとっては喜ばしいことだった。名前というのはなんといっても
 大事なものなのだから。

  むろは家に帰ると、私と一緒にテレビのニュースを見た。私は津波の押し寄せてくる光景を彼
 女にできるだけ見せないようにした。幼い子供にはあまりに刺激が強すぎるからだ。津波の映像
 が映ると、私はすぐに手を伸ばして娘の両目を塞いだ。

 「なんで?」 とむろは尋ねた。
 「きみは見ない方がいい。まだ早すぎる」
 「でもほんとのことだよね」
 「そうだよ。遠くでほんとうに起こっていることだ。でもほんとうに起こっていることをみんな、
 きみが見なくてはならないというわけじゃないんだ」

  むろは私の言ったことについてしばらくひとりで考えていた。でもそれがどういうことなのか
 もちろん理解はできなかった。彼女には津波や地震というような出来事も理解できなかったし、
 死というものの持つ意味も理解できなかった。でもとにかく私は彼女の目を手でしっかりと塞い
 で、津波の映像を見せないようにした。何かを理解することと、何かを見ることとは、またべつ
 のことなのだ。
  あるとき、私はテレビの画面の隅に「白いスバル・フォレスターの男」をちらりと見かけた。
 あるいは見かけたような気がした。カメラは津波で内陸の丘の上まで運ばれ、そこに取り残され
 た大型漁船を映していたが、そのそばにその男が立っていたのだ。もう役目を果たせなくなった
 象と、その象使いのようなかっこうで。でもその映像はすぐに別のものに切り替わった。だから
 それが本当に「白いスバル・フォレスターの男」であったのかどうか、確信は持てない。しかし
 黒い革ジャンパーを着て、ヨネックスのロゴのついた黒いキャップをかぶっているその長身の姿
 は、私には「白いスバル・フォレスターの男」としか見えなかった。
  しかし男の姿はそれっきり画面に現れなかった。私が彼の要を目にしたのはほんの一瞬のこと
 だった。カメラはすぐに別のアングルに切り替わった。

  地震のニュースを見るかたわら、私は日々生活のために「営業用」の肖像画を描き続けた。何
 を考えることもなく、キャンバスに向かって半ば自動的に手を動かし続けた。それが私の求めて
 いた生活だった。そしてまたそれが人々が私に求めているものだった。そしてその仕事は私に確
 実な収入をもたらしてくれた。それもまた私の必要としているものだった。私には養うべき家族
 がいるのだ。

  東北の地震のニケ月後に、私がかつて往んでいた小田原の家が火事で焼け落ちた。雨田典彦が
 その半生を送った山頂の家だ。政彦が電話でそれを伝えてくれた。そこは私が出たあと長いあい
 だ住むものもなく、空き家のままになっており、政彦はその管理について心を痛めていたのだが、
 その不安がまさに的中して火事が起きたのだ。五月の連休明けの未明に火が出て、消防車が通報
 を受けてかけつけたが、そのときにはもうその古い木造家屋はほとんど焼け落ちてしまっていた
(挟く曲がりくねった急な坂道は大型消防車のアクセスをきわめて困難なものにしていた)。幸い
 なことに前夜から雨が降っていたせいもあって、近辺の山林への類焼はなかった。消防署が調査
 をしたが、出火の原因は結局のところ不明だった。漏電かもしれないし、あるいは不審火かもし
 れないということだ。

  その知らせを間いて、私の頭にまず浮かんだのは『騎士団長殺し』のことだった。おそらくあ
 の絵も家と共に焼けてしまったのだろう。そして私の描いた『白いスバル・フオレスターの男』
 も。また大量のレコード・コレクションも。あの屋根裏のみみずくは無事に逃げ出すことができ
 たのだろうか?
  絵画『騎士団長殺し』は疑いの余地なく雨田典彦の残した鍛高傑作のひとつであり、それが火
 事によって失われてしまったことは、日本の美術界にとって手痛い損失であるはずだった。その
 絵を目にしたことがある人間は、ごく少数に限られていた(私と秋川まりえがそこに含まれてい
 る。秋川笙子もちらりとではあるが見ている。そしてもちろん作者である雨田具彦。そのほかに
 はたぶん一人もいないのではないだろうか)。そんな責重な未発表絵画が火事の炎に焼かれ、こ
 の世界から永遠に消え失せてしまったのだ。私はそのことに責任を感じないではなかった。それ
 は「雨田具彦の隠された傑作」として世間に広く公開されるべきではなかったのか? でもそう
 するかわりに、私はその絵を再びしっかり包装して屋根裏に戻した。そしてその素晴らしい結は
 おそらく灰値に帰してしまったのだ(私はスケッチブックにその絵の登場人物一人一人の姿を詳
 細にスケッチしていたが、『騎士団長殺し』という作品に関してあとに残されているものは、今
 となってはそれだけだ)。そう思うと、絵描きのはしくれとして胸が痛んだ。あんなに素晴らし
 い作品だっだのに、と私は思った。私かおこたったことは、あるいは芸術に対する背信行為だっ
 たかもしれない。

  しかしそれと同時に私は、それはおそらく失われなくてはならなかった作品だったのかもしれ
 ないとも思った。私の見るところ、その絵にはあまりに強く、あまりに深く雨田典彦の魂が往ぎ
 込まれていた。それはもちろん優れた絵ではあったけれど、同時に何かを招き寄せる力を有した
 絵だった。「危うい力」と言っていいかもしれない。事実、私はその絵を発見することによって
 ひとつの環を間いてしまったのだ。そんなものを明るいところに出して公衆の目に咽すのは、あ
 るいは適切なことではなかったのかもしれない。少なくとも作者である雨田典彦白身はそう感じ
 ていたのではあるまいか? だからこそ彼はその絵をあえて公表することなく、屋根裏にしまい
 込んだのではないだろうか? もしそうだとしたら、私は雨田典彦の意思を尊重したことになる。
 いずれにせよ、それはもう炎の中に失われてしまったのだし、誰にも時間を巻き戻すことはでき
 ない。

 『白いスバル・フォレスターの男』が失われたことについては、私はとくに残念だとは思わなか
 った。私はいつかもうコ皮、その肖像画に挑戦することになるだろう。しかしそのためには私は
 自分をより確固とした人間として、より大柄な画家として立ち上げなくてはならない。もうコ皮
 私か「自分の絵を描きたい」という気持ちになったとき、私はまったく違うフォルムで、まった
 く遺う角度から「白いスバル・フォレスターの男」の肖像を描き直すことになるはずだ。そして
 それはあるいは、私にとっての『騎士団長殺し』になるかもしれない。そしてもしそんなことが
 実際に起こったなら、おそらく私は雨田典彦から貴重な遺産を受け継いだということになるだろ。

  秋川まりえが火事のすぐあとにうちに電話をかけてきて、私たちはその焼け落ちた家屋につい
 て半時間ばかり話しあった。彼女はその小さな古い家を心から大事に思っていたのだ。あるいは
 その家屋が含まれていた風景を、そしてまたそのような風景が彼女の生活の中に根付いていた
 日々を。そこにはまた在りし日の雨田典彦の姿も含まれていた。彼女の見た両家はいつも一人で
 スタジオにこもって絵の制作に集中していた。ガラス窓の奥にそんな姿が見えた。そういう風景
 が永遠に失われてしまったことは、まりえを心から悲しませたようだった。そして彼女の感じて
 いる悲しみは私にも共有できた。その家は――住んだ期間こそ八ケ月足らずだったけれど――私
 にとってもずいぶん深い意味を持っていたからだ

  そしてその電話での会話の最後に、まりえは自分の胸が前よりずっと大きくなったことを教え
 てくれた。彼女はそのときもう高校の二年生かそれくらいになっていた。その家を出て以来、私
 は彼女とは一度も顔を合わせていなかった。ときどき電話で話をするくらいだった。私はその家
 をもう一度訪れたいという気持ちにあまりなれなかったし、またとくに行かなくてはならない用
 件もなかったからだ。電話をかけてくるのはいつも彼女の方だった。

 「まだまだボリュームはじゆうぶんじやないけど、それなりに大きくはなった」とまりえはこっ
 そり秘密を打ち明けるように言った。彼女は自分の胸の大きさについて語っているのだと理解す
 るまでに、少し時間がかかった。

 「騎士団長が予言したとおり」と彼女は言った。

  それはよかった、と私は言った。ボーイフレンドはできたかと尋ねてみようかと思ったが、思
 い直してやめた。

突然の東日本大震災(→福島第一原発事故)の展開に驚き、また、また、「白いスバル・フォレスタ
ーの男」のメタファとは、あるいは秋川まりえの絵画に感じた「おぞましさ」とはこのことだったの
かと思い、さらに、住んでいた家が焼失した原因は何だっただろうという思いが後に引きずられこと
となった。この続きは次回(完結?)へ。


                                      この項つづく

● 今夜の寸評:エネルギーフリー事業始動

ブログテーマの重要課題も具体的な事業イメージできあがり、あとはプロジェクト各論が残るのみと
なり、ホームページの更新作業をしながらステージシフトということで、アートや音楽の方に気移り
している変化が生まれている(大作を一枚残したい、こころに残る曲を数曲作りたいと考えたりして
いるが、大きな変化の波が押し寄せていることもまた確かで、今以上に作業量が増えるが迷った(眼
精疲労が重篤化しているようで思いと裏腹に落ち込むことも数多く経験するようになった)。ここが
第二の正念場、どうする、エネルギーフリー事業、大作よ!と。

コメント
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最新金属空気電池技術

2017年11月16日 | 環境工学システム論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

 

                                          

      ※ 政治家の自覚:斉の平陸(へいりく)へ行ったとき、孟子はその地の長官、孔距
       心(こうきょうしん)に言った。「警護兵が一日に三回持場を離れたら、処罰し
       ますか」「三回といわず・・・・・・」、「あなたはそれに似たことをたびたびやって
       いますね。災害の年、飢饉の年ともなれば、ご領内では老人や子供がのたれ死に
       するし、何千とも知れない若者が逃げ出しています」、「わたしの力ではどうに
       もならないことです」、「たとえば、牛と羊の飼育を頼まれた人がいるとします。
       その人は当然、放校地や牧草を探すでしょう。しかし万一見つからなかった場合、
       牛も羊も持ち主に返すべきでしょうか。それとも餓死するのを見殺しにすべきで
       しょうか」、「なるほど、人民の苦しむのはわたしの責任です」、その後、孟子
       は宣王に会ったとき、「あなたの国を冶めている長官を五人知っていますが、そ
       のうち責任を自覚している人は、孔距心だけです」 と言ってくだんの話をした。
       すると宣王は言った。「それはわたしの責任だ」

       【解説】さりげない質問で言質をとってから相手の痛いところを衝いてゆく、孟
               子得意の論法である。

     No.97

Wikipedia

 【蓄電池篇:最新金属空気電池技術】 

Nov. 5, 2012

● 安全で高エネルギー密度の蓄電池

電力貯蔵用途や電動車両用途など多岐にわたって、リチウムイオン電池よりもはるかに大きいエネル
ギー密度をもつ空気
電池が注目されている。空気電池は、空気中の酸素を正極活物質に使用する。こ
のような空気電池として、負極活物質に金
属リチウム、リチウムを主成分とする合金やリチウムを主
成分とする化合物を使用するリチウム空気電池で、リチウム空気電池は、負極、電解質及び正極(空
気極)から構成、電解質としては、①水系電解質や②非水系電解質が用いられる。これらの
うち、①
は、一般的には、負極と正極との間に固体電解質が配置され、固体電解質と正極との間に第1電解質
(水系電解質
)が充填され、負極と固体電解質との間に第2電解質(緩衝層)が配置されて構成され
ている。このような水系電解質のリチウム空気電池は、②のリチウム空気電に比べて、⑴空気中の
水分の影響を受けず、⑵電解質が安価であり、⑶不燃性であ
る等の長所があり、リチウム空気電池
正極でリチウムイオンと酸素が反応し、LiOHを生成する(放電)ことで電気を得る
メカニズムで
ある。また、生成したLiOHをLiと酸素に分解する(充電)ことで再放電が可能となる。一方、
電極の交換が可能な
金属空気電池も開示されているが、リチウム空気電池負極にスラッジが形成さ
れた場合
に、負極を交換すれば再生が可能
になると考えられるが、リチウムは空気との反応性が高く、
燃焼する場合もあり、リチウムを含む負極の交換は容易ではない(特開2017-204350)。

正極活物質として空気中の酸素を用いるリチウム空気二次電池は、電池外部から常に酸素が供給され
電池内に大量の負
極活物質である金属リチウムを充填することができる。このため、電池の単位体積
・単位重量当たりの放電容量を非常に大き
くできる。正極であるガス拡散型空気極に種々の触媒を添
加することなどにより、放電容量やサイクル特性などの電池性能
を改善する試みがなされている。例
えば、電解液として1mol/リットルのLiPF6 /炭酸プロピレン(PC)を用い、空気極触媒
としMnO2,Pt,Ru,RuO2などの貴金属や金属酸化物を用いた場合の電池特性を報告してい
る。最も優れた特性は、触媒
としてMnO2を用いた時に得られ、具体的には、初回放電容量800m
Ah/gの大きな値を示し、16サイクル後においても放
電容量600mAh/gを維持している。
しかし、約200mAh/gの容量低下が確認された。また、電解液としてLiClO4/テト
ラエチ
レングリコールジメチルエーテル(TEGDME)を用い、空気極触媒としてCo34を用いた場合
について報告しているが
充放電容量0.4mAh/cm2でサイクルした時に、初回放電電圧が約2.
75Vを示すのに対し、67サイクル後には約2.5V
まで電圧が低下している。このように、従
来のリチウム空気二次電池は、充放電を繰り返すと放電容量が低下するという問題
がある(特開2017
-204395)。

リチウム二次電池の負極にリチウム金属薄膜を利用するる場合、リチウムの高い反応性により、充放
電時、液体電解質との反応性が高く、リチウム負極薄膜上に、デンドライトが形成され、リチウム金
属薄膜を採用したリチウム
二次電池の寿命及び安定性が低下する問題がある(特開2017-204468 )。

低温焼結が可能であり高いイオン伝導度を有する、高密度回路基板に適した結着用バインダーガラス
やリチウムイオン伝導性ガラスに好適なガラスおよびガラスを含有する複合体、ならびに該ガラスや
複合体を含む固体電解質がカチオン%表記で、Liを62%超80%以下、Zr4+を0%超7%
以下、ならびに、Si4+、B3+およびGe4+からなる群から選ばれる1種以上を合計で13%以上
33.3%以下、かつB3+およびGe4+からなる群から選ばれる1種以上を合計で0%超33.3%
以下、含有し、Li/(Si4++B3++Ge4+)で示されるSi4+、B3+およびGe4+の合計含
有量に対するLiの含有量の割合が2.0超であるとともに、アニオン%表記で、O2-を100%
含有することを特徴とするガラスである。リチウムを多量に含有するガラスは、一方で、イオン伝導
性が高い固体電解質として機能することも期待できる。例えば、従来から、リチウムイオン二次電池
用の電解質には、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのような有機溶媒系の液体電解質
が使用されている。しかし、これら有機溶媒系の液体電解質は、可燃性で発火するおそれがある。ま
た、有機溶媒系の液体電解質は、高電圧が印加されると分解または変質しやすいという問題がある。

そこで、次世代のリチウムイオン二次電池用の電解質として、不燃性で、電圧印加に対して高い安定
性を有する無機固体電解質が期待されている。そして、無機固体電解質として、酸化物系のガラスま
たはガラスセラミックスからなる固体電解質が提案されているが、このガラスは、低温焼結が可能で
あり、積層セラミックスコンデンサや低温同時焼成セラミックス多層基板等の高密度回路基板を作製
する際の結着用バインダーガラスとして有用である。また、リチウムイオン二次電池の固体電解質に
有用で金属空気電池または全固体電池の固体電解質に適用できる(特開2017-197415)。
以上のことを踏まえリチウム空気電池の最新特許事例を掲載する。

Nov.5, 2017


❏ 特開2017-204468  リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池
                             
【概要】

リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池にあたり、下図(詳細クリック)のよう
リチウム金属またはリチウム金属合金を含むリチウム金属電極と、リチウム金属電極の少なくとも一
部分に配置された保護膜と、を含み、該保護膜のヤング率は、10Pa以上であり、該保護膜は、
1μmを超過して100μm以下サイズの有機粒子、無機粒子及び有機-無機粒子のうちから選択さ
れた1以上の粒子を含み、該保護膜において、粒子間に存在する重合性オリゴマーの架橋体を含むリ
チウム金属電池用負極、及びそれを含んだリチウム金属電池で、一実施形態によるリチウム金属電池
用負極は、粒子間に重合性オリゴマーの架橋体が存在する保護膜を具備し強度のような機械的物性が
改善され、保護膜を具備した負極を利用すれば、電池の充放電時、体積変化が効果的に抑制され、サ
イクル寿命及び放電容量が改善されたリチウム金属電池が製作できる。

【符号の説明】

10  集電体  11 リチウム金属電極 12 保護膜 13,13a,13b,13c,43 粒子
13a’,13b  マイクロスフィア 14 イオン伝導性高分子 15,45 重合性オリゴマーの
架橋体 16,46 リチウム電着層 17 SEI 21,31 正極  22,32 負極 23,42
保護膜  24  電解質  24a 液体電解質  24b  個体電解質  24c セパレータ 30 リチウ
ム金属電池< 34 ケース 40,50 負極集電体 41,51 リチウム金属 52 リチウムデンド
ライト

❏ 特開2017-204350  リチウム空気電池及びリチウム空気電池の負極構造体
                             
【概要】

リチウム空気電池の充放電時に生成されるスラッジで負極が失活した場合、スラッジを除去し且つ負
極が空気に触れずに復活させてリチウム空気電池の繰返し使用が可能なリチウム空気電池及びこの負
極構造体を、下図3(詳細クリック参照)のように、リチウム空気電池は、負極と、負極に対して間
隔を有し配置された正極と、負極及び正極間に配置された固体電解質と、固体電解質及び正極間に充
填された第1電解質が電池ケース内に設け、負極は、負極集電体と、負極集電体に電気的に接続され
たリチウム負極体とを有し、リチウム空気電池が、負極と、リチウム負極体に対し隙間を有して配置
されリチウム負極体及び第1電解質間でリチウムイオンの伝導が可能な固体電解質と、リチウム負極
体及び固体電解質間でリチウムイオンの伝導が可能な第2電解質とを収容する負極部ケースを備える。
負極部ケースは電池ケースに対して挿脱可能に構成することで、リチウム空気電池の繰り返しの充放
電で、リチウムデントライトが形成されリチウム金属負極が失活した場合、リチウム金属負極を復活
させてリチウム空気電池の繰り返し使用を可能な状態を可能にするリチウム空気電池及びリチウム空
気電池
の負極構造体を提供する。

【図3】図1のI-I矢視に相当する部分のリチウム空気電池の断面図
【図4】負極部ケースの正面側斜視図

【符号の説明】

1 リチウム空気電池 10、10A  負極部ケース 10a、62 上面 10b 側面  11  負極
12、12A  負極集電体  12a  集電体本体部  12b  接続部  12b1  第1接続部
12b2  第2接続部  13 負極端子  15 リチウム負極体  17 第1開口部  17a 開口部分
19、60a  空間部  21  仕切部材 22  挿入孔部 25、71 隙間  29 第2電解質  40
正極  41 正極集電体  42 正極端子  43 撥水層  44  触媒  50、50A  固体電解質 
53  第1電解質  60  電池ケース  61 側面  61a  孔部  62a 正極孔部 62b  負極
孔部  65  案内ガイド  66  ガイド部材  70  第2開口部  72  絶縁部材

✪リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する電解液

  July 31, 2017

✪リチウムイオン電池の15倍 !  電気自動車でガソリン車並みの走行距離実現へ

 Apr. 5, 2017
【その他関連特許】

・特開2017-197424  多孔質体およびその製造方法並びに電極 国立大学法人東北大学
・特開2017-199545  金属空気電池における水素ガス処理装置 夏目 伸一 他

ざっと、俯瞰しただけでも、リチウム空気蓄電池技術の進展していることが理解できる。結構はやい
テンポで
「エネルギーフリー社会は」がやってくるかもしれない、この世界に大異変が起こらない限
り。わたし(たち)にはそう革新(あるいは確信/予感)させるものが胸のうちにある。

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

      第63章 でもそれはあなたが考えているようなことじゃない 

   私が穴の中から救い出された週の土曜日に、雨田典彦は息を引き取ったということだ。木曜日
 から三日閲読いた昏睡状態の中で心臓がその動きを停止した。機関車が終着駅に到着して、ゆっ
 くりその動きを止めるみたいに、静かにとても自然に。政彦はずっとそのそばに付き添っていた。
 父親が亡くなると、彼はうちに電話をかけてきた。

 「とても安らかな死に方だった」と彼は言った。「おれも死ぬときにはああいう具合に静かに死
 にたいものだ。目もとには微笑みのようなものさえ浮かんでいた」
 「微笑み?」と私は聞き返した。
 「正確には微笑みではないかもしれない。しかしそれはとにかく、何か微笑みに似たものだった。
 おれにはそう見えたよ」

  私は言葉を選んで言った。「亡くなったのはもちろん残念だけど、お父さんが穏やかに息を引
 き取ることができて、それはよかったかもしれない」
 「週の半ばまでは少し意識もあったんだが、とくに言い遠したいこともないようだった。九十い
 くつまで生きたし、さんざん好きなことをして生きた人だから、きっと思い残すこともなかった
 んだろうな」と政彦は言った。
  いや、披には思い残すことがあったのだ。とても重い何かを彼は心に抱え込んでいた。でもそ
 れが具体的にどんなことだったのか、それは披にしかわからない。そして今となっては、もう誰
 にも永遠にわからなくなってしまっている。
  政彦は言った。「これからしばらく忙しくなるかもしれない。父はいちおう有名人だったし、
 亡くなればいろいろと用件も出てくる。おれは跡取り息子ということで、そういうのを引き受け
 なくちやならない。少しして落ち着いたらまたゆっくり話そう」

  私は父親の死をわざわざ知らせてくれた礼を言って、電話を切った。
  雨田典彦の死は、家の中により深い沈黙をもたらしたようだった。まあそれも当然だろう。な
 にしろそこは雨田典彦が長い歳月を過ごした家だったのだから。私はその沈黙と共に数日を送っ
 た。それは濃密な、しかしいやな感じのしない沈黙だった。どこにも繋がっていかない、いねば
 純粋な静けさだった。とにかくこれで一連の出来事は終了したのだろう。そういう感触があった。
 そこにあるのは大きな案件がいちおう収束を見せたあとに訪れる種類の静寂だった。

  雨田典彦の死から二週間ほど経った夜、秋川まりえが用心深い描のようにこっそりとうちを訪
 れ、しばらく私と話をして帰って行った。それほど長い時間ではない。家族の監視の目が厳しく
 なり、彼女は以前ほど自由に家を抜け出すことができなくなっていた。
 「胸がだんだん大きくなってきたみたい」と彼女は言った。「それで叔母さんと一緒にこのおい
 たブラを買いに行った。初心者用のブラってのがあるの。知ってた?」
  知らないと私は言った。彼女の胸を見たが、緑色のシェトランド・セーターの上からは、とく
 に膨らみらしきものはうかがえなかった。

 「違いがまだわからないな」と私は言った。
 「薄いバッドしか入ってないから。だって最初から急に盛り上がっていると、何か詰め物をして
 いると、みんなにすぐにわかっちやうじやない。だからいちばん薄いのから始めて、だんだん少
 しずつ大きくしていくの。細工がこまかいっていうか」

  四日間どこにいたのか、女性の警官にずいぷん細かく質問をされた。女性の警官はおおむね優
 しく接してくれたが、何度か強く脅されることもあった。いずれにせよまりえは、山の中をうろ
 ついていたことのほかは何も覚えていない、途中で道に迷って、アクマが空白になってしまった
 ということで押し通した。鞄の中にいつもチョコバーとミネラル・ウォーターのボトルを入れて
 いるので、それを目にしたんだと思う。それ以外、余計なことは何ひとつ言わなかった。防火金
 庫のように強固に目を閉ざしていた。そういうのはもともと彼女の得意とするところだ。身代金
 をとるための誘拐事件ではないらしいことがわかると、次に警察の指定した病院に連れていかれ
 身体の怪我の具合を調べられた。彼らが知りたかったのは、彼女が性的な暴行を受けていないか
 ということだった。そういう形跡がないことがはっきりすると、警察は職業的興味を失ったよう
 だった。ただローティーンの女の子が数日間家に帰らず、外をふらふらしていたというだけのこ
 とだ。世間ではとくに珍しい出来事ではない。

  彼女はそのときに身につけていた衣服をそっくり処分した。紺色のブレザーコートもチェック
 のスカートも白いブラウスもニットのヴェストもスリッボン・シューズも、すべて。そして新し
 い制服一式を買い直した。気分を一新するためだ。それから何ごともなかったように、今までど
 おりの生活を続けた。しかし絵画教室にはもう通わなくなった(いずれにせよ、彼女はもう子供
 向けの教室にいる歳ではなくなっていた)。彼女は私の描いた彼女の肖像画(未完成のもの)を
 自分の部屋にかけた。

  まりえがこれからどういう女性に育っていくのか、私にはうまく想像できなかった。この年代
 の女の子は外見も心も、あっという間に様変わりしてしまう。数年経って会ったら、もう誰だか
 わからなくなってしまっているかもしれない。だから私は十三歳のまりえの肖像をひとつのかた
 ちとして残せたことを(たとえそれが未完成のまま終わっていたとしても)嬉しく思った。この
 現実の世界にそのまま永続する姿かたちなんて何ひとつないのだから。
  私は以前仕事をしていた東京のエージェントに電話をかけ、また肖像画を描く仕事を始めたい
 のだがと言った。彼は私の申し出を喜んでくれた。彼らは常に腕の確かな両家を必要としていた
 からだ。

 「でも、営業用の肖像画はもう描かないって言ってましたよね?」と彼は言った。
 「考え方を少し変えたんです」と私は言った。でもどのように考え方を変えたのかは説明しなか
 った。相手もとくに尋ねなかった。
  私はこれからしばらくのあいだは、何も考えずにただ自動的に手を動かしていたかった。そし
 て通常の「営業用」の肖像画を次から次へと量産していたかった。その作業はまた私に経済的な
 安定をもたらしてくれるはずだった。そんな生活をいつまで続けられるものか、私自身にもわか
 らない。先の予側かつかない。しかしとにかく今のところ、それが私のやりたいことだった。た
 だ無心に慣れた技術を駆使し、余計な要素を何ひとつ自分の内に呼び込まないこと。イデアやメ
 タフアーなんかと関わり合いにならないこと。谷間の向かい側に住む、とても裕福な謎の人物の
 ややこしい個人的な事情に巻き込まれたりしないこと。隠された名画を白日のもとに晒し、その
 結果挟くて暗い地底の横穴に引きずり込まれたりしないこと。それが現在の私か何より求めてい
 ることだった。

  私はユズに会って話をした。彼女の会社の近くにある喫茶店でコーヒーとペリエを飲みながら
 語り合った。彼女のおなかは私が思い描いていたほど大きくはなかった。
 「その相手の人と結婚するつもりはないの?」、私は最初にそう尋ねた。
  彼女は首を振った。「今のところ、そのづもりはない」
 「どうして?」
 「ただそうしない方がいいと感じるだけ」
 「でも子供は産むつもりなんだね?」

  彼女は小さく短く肯いた。「もちろん。もう後戻りはできない」
 「今はその人と一緒に暮らしているの?」
 コ緒に暮らしてはいない。あなたが出て行ったあと、ずっと一人で暮らしている」
 「どうして?」
 「まずだいいちに、私はまだあなたと離婚していないから」
 「でもぼくはこのあいだ送られてきた離婚届に著名し、印鑑も捺した。だから当然もう離婚は成
 立しているものと思っていたけど」

  ユズは少し黙って考え込んでから、目を開いた。「実を言うと、離婚届はまだ提出してはいな
 いの。なぜかそういう気持ちになれなくて、そのままにしてある。だから法律的に言えば、私と
 あなたは何ごともなくずっと夫婦のままなの。そして離婚しても、しなくても、生まれてくる子
 供は法的にはあなたの子供ということになる。もちろんあなたはそのことについて、何の責任を
 負う必要もないわけだけれど」
  私にはよくわけがわからなかった。「しかし君がこれから産もうとしているのは、その相手の
 人の子供なんだろう、生物学的に言えば」
  ユズは目を閉ざしたままじっと私の顔を見ていた。そして言った。「話はそれほど簡単じやな
 いの」
 「どんな風に?」
 「どう言えばいいのかしら、彼がその子供の父親だという確信が私には今ひとつ持てないから」
  今度は私か彼女の顔をしげしげと見る番だった。「誰が君を妊娠させたのか、それが君にはわ
 からないということこ?」

  彼女は肯いた。それがわからないということだ。

 「でもそれはあなたが考えているようなことじゃないの。私はそのへんの男と誰彼とかく寝てま
 わったりはしない。ひとつの時期に一人としかセックスはしない。だからあなたとも、ある時点
 からはそういうことをしなくなった。そうよね?}

  私は肯いた。

 「申し訳ないとは思ったけど」
  私はもう一度肯いた。
  ユズは言った。「そして私はその人とのあいだでも注意深く避妊していた。子供をつくるつも
 りはなかったから。あなたも知っていると思うけど、私はそういうことにはすごく慎重な性格な
 の。でも気がついたらしっかり妊娠していた」
 「どんなに用心しても失敗することはあるだろう」
  彼女はまた首を横に振った。「もしそういうことがあったら、女の人にはなんとなくわかるも
 のなの。勘のようなものが働くから。男の人にはそういう感覚ってわからないと思うけど」

  もちろん私にはそんなことはわからない

 「そしてとにかく、君はその子供を産もうとしている」と私は言った。
  ユズは肯いた。
 「でも君は子供をつくることをずっと望んではいなかった。少なくともぼくとのあいだには」
  彼女は言った。「ええ、私はずっと子供を求めてはいなかった。あなたとのあいだにも、誰と
 のあいだにも」
 「でも今、君は父親が誰だか確信の持てない子供を、進んでこの世に送り出そうとしている。も
 しそうしようと思えば、もっと早いうちに中絶もできたはずなのに」
 「もちろんそのことも考えたし、迷いもした」
 「でもそうはしなかった」
 「最近になって思うようになったの」とユズは言った。「私が生きているのはもちろん私の人生
 であるわけだけど、でもそこで起こることのほとんどすべては、私とは関係のない場所で勝手に
 決められて、勝手に進められているのかもしれないって。つまり、私はこうして自由意志みたい
 なものを持って生きているようだけれど、結局のところ私自身は大事なことは何ひとつ選んでい
 ないのかもしれない。そして私か妊娠してしまったのも、そういうひとつの顕れじやないかって
 考えたの」

  私は何も言わずに彼女の話を聞いて

 「こういうのって、よくある運命論みたいに聞こえるかもしれないけど、でも本当にそう感じた
 の。とても率直に、とてもひしひしと。そして思ったの。こうなったのなら、何かあっても私一
 人で子供を産んで育ててみようって。そして私にこれから何か起こるのかを見届けてみようって。
 それがすごく大事なことであるように思えた」
 「ひとつ君に訊きたいことがあるんだけど」と私は思い切って言った。
 「どんなこと?」
 「簡単な質問だから、ただイエスかノーで答えてくれればいい。それ以上ぼくは何も言わない」 
 「いいわよ。訊いてみて」
 「もう一度君のところに戻ってかまわないだろうか?」
  彼女は眉を僅かに寄せた。そしてしばらく礼の顔をじっと見ていた。「それはつまり、もう一
 座礼と一緒に夫婦として暮らしたいということなの?」
 「もしそうできるなら」
 「いいわよ」とユズは静かな声で、とくに迷いもせずに言った。「あなたはまだ礼の夫だし、あ
 なたの部屋は出て行ったときのままにしてある。戻るうと思えばいつでも戻ってこられる」
 言きあっていた相手の人とはまだ関係が続いているの?」と私は尋ねた。

  ユズは静かに首を振った。「いいえ。もう関係は終わっている」
 「どうして?」
 「だいいちに礼は生まれてくる子供の親権を彼に与えたくなかった

  私は黙っていた。

 「そう言われて、彼にはずいぶんショツクだったみたいね。まあ、当たり前のことかもしれない
 けれど」と彼女は言った。そして両手で頬を何度かこすった。
 「ぼくならかまわないということなのかな?」

  彼女は両手をテーブルの上に置き、もう一度礼の顔をしげしげと眺めた。

 「あなたは少し変わったのかしら? 顔つきとかそういうものが?」
 「顔つきのことはよくわからないけど、ぼくはいくつかのことを学んだんだと思う」
 「礼もいくつかのことを学んだかもしれない」

  私はカップを手にとって、残っていたコーヒーを飲んだ。そして言った。

 「父親が亡くなって、政彦もいろいろと大変そうだし、いろんなものごとが落ち着くまでにしば
 らく時聞かかかると思う。でもそれが一段落したら、たぶん年が明けて少ししたら、荷物を整理
 してあの家を出て、広尾のマンションに戻れると思う。ぼくがそうしても、君の方はかまわない
 かな?」

  彼女はとても長いあいだ私の顔を見ていた。しばらく離れていた懐かしい風景を久しぷりに目
 にしているみたいに。それから于を伸ばして、テーブルの上にあった私の手にそっと重ねた。

 「できれば、もう一度あなたとやり直してみたいと思う」とユズは言った。「実はそのことはず
 っと考えていた」
 「ぼくもそれを考えていた」と私は言った。
 「それでうまくいくかどうか、私にはよくわからないけれど」
 「ぼくにもよくわからない。でも試してみる価値はある」
 「私は近いうちに父親のはっきりしない子供を産み、その子を育てていくことになる。それでも
 かまわないの?」
 「ぼくはかまわない」と私は言った。「そして、こんなことを言うとあるいは頭がおかしくなっ
 たと思われるかもしれないけど、ひょっとしたらこのぼくが、君の産もうとしている子供の潜在
 的な父親であるかもしれない。そういう気がするんだ。ぼくの思いが遠く離れたところから君を
 妊娠させたのかもしれないひとつの観念として、とくべつの通路をつたって」
 「ひとつの観念として?」 
 「つまりひとつの仮説として」



  ユズはそのことについてしばらく考えていた。それから言った。「もしそうであれば、それは
 なかなか素敵な仮説だと思う」
 「この世界には確かなことなんて何ひとつないかもしれない」と私は言った。「でも少くとも何
 かを信じることはできる」
  彼女は微笑んだ。それがその日の我々の会話の終わりだった。彼女は地下鉄に乗って帰宅し、
 私は埃まみれのカローラ・ワゴンを運転して山の上の家に戻った。 

さて、次回は最終章。                                                        

                                      この項つづく

  

STM-304

 【DIY日誌:スチームクリーナを使ってみる】

アイリスオオヤマのスチームクリーナーのパッケージを開封し風呂場、トイレ、台所、空調機の掃除
に使ってみる。4週間目にしてやっと使ってみた。掃除・殺菌など対象により使い方を工夫がいるよ
うだが、効果/評価は 具体的な作業で確認していくことにする。次は、振動式工具という予定。

      

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海水系生分解プラスチック

2017年11月15日 | 環境工学システム論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ 餞別とわいろ:門人の陣臻(ちんしん)が孟子にたずねた。「このまえ、斉から
       金百鎰(いつ)を贈られたとき、先生はお受け取りになりませんでした。しか
       しこのたび
は宋から七十鎰を贈られてお受け取りになり、薛(せつ)からも五十
       鎰を贈られてお受け取りになりました。
このまえお受けにならなかったのが正し
       いとすれば、このたびお受けになったのはまちがっています。
このたびお受けに
       なったのが正しいとすれば、このまえお受けにならなかったのはまちがいという
       こ
とになります。いったいどちらが正しいとお考えですか」、「どちらも正しい
       のだよ。宋ではわたしは遠方へ向かうところだった。旅立つ特に餞別を贈るのは
       礼
儀だ。だから宋王も『餞別です。お収めください』と言って渡してくれた。受
       け取って当然だろう。薛
では、身に危険がせまっていた。領主も『物騒なようで
       すから、警護の費用にでも』と言って贈っ
てくれた。これも受け取って当然だろ
       う。しかし斉での場合は受け取る理由がなかった。正当な理由
もないのに大金を
       贈るのは、買収しようとの魂胆だ。君子はそのようなものは受け取らない」

       〈金百鎰〉 原文は「兼金」で、良質の金のこと。一鎰は二〇両、約八OO匁。
       諸国遊説には、諸
侯からこのような献金があったようで、当時の遊説家の生態が
       しのばれる。

      No.96

【ゼロウエスト篇:海水系生分解プラスチックの開発】 

11月15日、 株式会社カネカは、本年9月に開発商品のポリエステル系生分解性プラスチック(
商品名:カネカ生分解性ポリマー PHBH)で、海水中で生分解するとの認証「OK Biodegradable MAR
INE
」を取得したことを公表。積極的にバイオプラスチックの採用を進める欧州で最も認知されている
認証機関VINÇOTTEによるもの、同社が開発した生分解性に優れた百%植物由来のバイオプラスチッ
クであり、現在欧州地域のプラスチック袋用途を中心に市場開拓を進めている。近年では、プラスチ
ックによる陸上の汚染に加え海洋汚染、特にマイクロプラスチックによる生態系への影響に関する懸
念が高まっている。今回、海水中でのPHBHの生分解性が認められたことから、海洋への投棄・漂流
の多い漁具・釣具や浮き、藻場再生などの海洋資材*5への用途拡大に取り組んでいる。同
グループは、
この様なバイオマス由来で生分解性機能を併せ持つ新製品開発などにより、地球環境の問題に対して
ソリューションの提供を方針としている。



尚、ベルギーの認証機関「ヴァンソット」が認めたのは、原料が植物油脂など百%植物由来のプラス
チック「P
HBH」。カネカによると、30℃の海水中で6カ月以内に90%以上が水と二酸化炭素
に分解。カネカはPHBH
2011年から、土中で分解されるプラスチックとして高砂工業所で生産
し、食品用の袋や農業用のシート向け
に販売している。だが、価格が一般のプラスチックに比べて2
~3倍と高いこともあり、国内では普及していな
い。欧米の一部では、生分解性プラスチック以外の
レジ袋を禁止するなど、規制が強まりつつあり、カネカは
国際認証を得たことで、欧米での販売を増
やす方針にある。ところで、近年、大きさが5ミリ以下のプラスチッ
クごみ(マイクロプラスチック
)が世界各地の海で見つかっている。汚染物質などを吸着して魚や鳥の体内に取
り込まれており、人
体への悪影響が懸念されている。

❏ 特許5941729 分解速度が調節された生分解性プラスチック製品
                           並びに当該製品の製造方法

                  
【概要】

農林水産業などの環境中で使用される生分解性プラスチック、特にはポリヒドロキシアルカン酸の分
解速度を調節する方法を提供にあたり、ポリヒドロキシアルカン酸を含む生分解性プラスチックであ
って、ポリヒドロキシアルカン酸分解酵素を生産する微生物の胞子または該酵素を生産する好熱菌の
少なくとも1つ含有することを特徴とする、生分解性プラスチック。ポリヒドロキシアルカン酸は、
ポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)またはポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co
-3-ヒドロキシヘキサン酸)が好ましく、環境中で使用される生分解性プラスチックの分解速度を
調節することができる(詳細は下表クリック)。                                             



【ソーラータイル事業篇:瓦一体型太陽電池VISOLAが「みらいのたね賞」

 カネカはさらに、瓦一体型太陽電池VISOLA(ヴィソラ)が一般財団法人日本能率協会より「みらいのた
ね賞」――
優れた建築を生みだすことに貢献しうる、優れた製品、未来への布石となる製品を表彰す
る彰するもの―――を受賞。授賞式は、下記の「みらいのたね賞シンポジウム」にて行われる予定(
下図参照)。


❏ 特許5608386 屋根構造
                  
【概要】

太陽電池モジュールと屋根構造を形成する他の部材が、一体感を有していて見栄えが良く、防水性が
高い屋根構造を提供にあたり、下図46のように屋根部材の一部が隣接する屋根部材と重なって、屋
根部材の一部が露出する状態で屋根下地上に平面的な広がりをもって並べて載置され、断面構造に2
枚の屋根部材が重なった2重部位と、3枚の屋根部材が重なった3重部位がある基礎屋根構造を有し
太陽電池モジュールは電力を取り出す端子ボックスを裏面側に備え、端子ボックスが2重部位の上
に位置すると共に、太陽電池モジュールが基礎屋根構造上に平面的な広がりをもって並べて載置され
ることを特徴とする屋根構造の特徴で信頼性の高い防水性能を確保しつつ、一体感があって美しい屋
根構造を実現することができる。


 

【符号の説明】

1 屋根構造 2 スレート瓦(屋根部材) 3 基礎屋根構造 6 軒先取付け金具(軒先取付け具)
6  中間取付け金具(取付け具) 10 太陽電池モジュール 50固定片
51 接続部 52 下板部 
53 第1正面立ち上げ部 55 上板部  56 裏面立ち上
げ部 57  支持台部 58 第2正面立
ち上げ部 60 正面部 61 覆い板構成部 
64 屋根部材保持凹部 65 モジュール保持凹部 
70  固定部構成部材 71 中間
板部材 72 下板部材 73 上板部材 74 押さえ板部材 75
立ち上げ部 

 


 

 【世界初、日本のデジタル内服錠剤の認証】

11月14日、大塚製薬株式会社とプロテウス・デジタル・ヘルス社は、世界初のデジタルメディス
ン「エビリファイ マイサイト」の承認を米国FDAから取得したことを公表。「エビリファイ マイサ
イト」は、エビリファイの錠剤に摂取可能な極小センサーを組み込んだもので、同剤の適応である成
人の統合失調症、双極性Ⅰ型障害の躁病および混合型症状の急性期、大うつ病性障害の補助療法にお
いて使用される。この錠剤を服用すると胃液に反応してセンサーが胃内でシグナルを発し、患者の身
体に貼り付けたシグナル検出器「マイサイト パッチ」がそれを検出。この検出器は、患者服薬デー
だけでなく、活動状況などのデータを記録し専用の「マイサイトアプリ」に送信。アプリには、睡
や気分などを患者さんが入力できる。これらのデータはスマートフォンなどのモバイル端末に転送
れ、患者の同意があれば医療従事者や介護者との情報共有も可能にとなる。



尚、米国内の試算では、処方通りに薬を飲まなかったことで病気が悪化したり、別の治療が必要にな
ったりして年間に計1千億ドル(約11兆円)のコストがかかっているという。この錠剤がうまくい
けば、薬を飲み忘れやすいほかの病気のお年寄りらにも応用できると関係者は期待を寄せる。一方、
患者のデータ管理や利用には、より慎重さを求める声が上がる。患者の様子を遠くから監視すること
にもつながりかねないとの懸念がある(朝日新聞デジタル 2017.11.15)。プロテウス社の社長はこの
システムにより、それぞれの患者の治療計画に役立つ情報を新しい方法で収集
できるとコメント。大
塚製薬などはまず、米国の少数の患者を対象に、製品の価値を確認するという。日本で
の販売は現在
予定していない。

※約3ミリのセンサーを組み込んだ錠剤と、貼り付け型の検出器。大塚製薬によると、このような医
 薬品と医療機器を一体化した製品の承認は世界初。

❏ US9681842B2  Pharma-informatics system :医薬情報システム

【概要】

ユーザによって取り込まれた組成物の関連信号を受信するように構成されたコイルと、これにに動作する結合
されたデータ記憶素子とを含む装置であって、この
データ記憶要素が、関連信号に基づき、時間情報、 日付
情報、またはユーザ情報を含む(詳細下図クリック)。





          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

   第63章 でもそれはあなたが考えているようなことじゃない 

  私と秋川まりえは秘密を共有した。それはこの世界でおそらく私たち二人だけが共有している
 大事な秘密だった。私は自分が地底の世界で経験したことをすべてありのままに彼女に語り、彼
 女は自分が見仏の屋敷の中で経験したことをすべてありのままに私に語った。私たちはまた、
 『騎士団長殺し』と『白いスバル・フオレスターの男』という二枚の絵が堅く梱包され、雨田具
 彦の家の屋根裏に隠されていることを知フている、この世界でただ二人の人間だった。もちろん
 みみずくは知っているが、みみずくは何も語らない。沈黙の中に秘密を呑み込んでいくだけだ。
  まりえはときどき私の家に遊びにやってきた(叔母さんには言わずに、秘密の通路をとおって
 こっそりと)。そして我々は額を寄せ合うようにして、同時進行するその二つの体験談のあいだ
 に何かしらの共通項が見いだせないものかと、時系列を辿って隅々まで細かく検討した。

  まりえが失踪していた四日間と、私か「遠くに旅行に出ていた」三日聞か一致していることに
 ついて、秋川里子が何か疑念を抱かないかと心配だったのだが、そんなことはまったく彼女の順
 に浮かばないようだった。そしてもちろん警察もその事実には注意を向けなかった。彼らは〈秘
 密の通路〉の存在を知らないし、私の往んでいる家はあくまで「尾根ひとつあちら側」というこ
 とになってしまう。私は「近所の人間」とは見なされなかったし、したがって警察官がうちに事
 情を聴きに訪れたりするようなこともなかった。彼女が私の絵のモデルをつとめていたことを、
 秋川笙子は警察には言わなかったようだ。たぶんそれを必要な情報だと彼女は思わなかったのだ
 ろう。もし警察がまりえの行方不明の時期と、私が姿を消していた時期とを重ねあわせていたら、
 私はいささか微妙な立場に立だされていたかもしれない。

  私は結局、秋川まりえの肖像画を完成させなかった。ほとんど完成に近い状態にあったから、
 最後の仕上げさえすればよかったのだが、その絵を完成させたときに持ち上がるであろう事態を
 私は危惧した。それをいったん完成させてしまえば、免色はきっとあらゆる手を尽くしてその結
 を手に入れようとするに違いない。免色がたとえどう言おうと、私にはそのことが予測できた。
 そして私としては、秋川まりえの肖像画を免色の手に渡したくはなかった。それを彼の〈神殿〉
 に送り込むわけにはいかなかった。そこには危険なものが含まれているかもしれない。だから結
 局その結は未完成のまま終わることになった。しかしまりえはその絵をとても気に入っていたの
 で(「この結は今の私の考えをとてもよく表している」と彼女は言った)できればそれを自分の
 手元に置きたいと言った。私はその完成していない肖像画を喜んで彼女に進呈した(約束通り下
 絵の三枚のデッサンもつけて)。絵が未完成であるところがかえっていいのだと彼女は言った。
 「絵が未完成だと、わたし白身がいつまでも未完成のままでいるみたいで素敵じゃない」とまり
 えは言った。

 「完成した人生を持つ人なんてどこにもいないよ。すべての人はいつまでも未完成なものだ」
 「免色さんもそうなの?」とまりえは尋ねた。「あの人はとても完成されているみたいに見える
 けど」
 「免色さんだっておそらく未完成だ」と私は言った。

  免色は決して完成された人間なんかじやない。それが私の考えだった。だからこそ彼は夜ごと
 に高性能の双眼鏡で、秋川まりえの姿を谷間の向かい側に求め続けている。そうしないわけには
 いかないのだ。その秘密を抱えることによって彼は、この世界における自分の存在のバランスを
 うまくコントロールしている。それはおそらく免色にとっては、サーカスの綱渡り芸人の持つ長
 い棒のようなものなのだ。

  もちろんまりえは免色が双眼鏡を使って自分の家の内部を観察していることを知っていた。し
 かしそのことは(私以外の)誰にも明かさなかった。叔母にも打ち明けなかった。なぜ彼がそん
 なことをしなくてはならないのか、その理由はまだ不明のままだ。しかしどうしてかはわからな
 いが、その理由を追求したいという気持ちになれなかった。彼女はただ自分の部屋の窓のカーテ
 ンを決して開けようとしなかっただけだ。その目焼けしたオレンジ色のカーテンは常にぴたりと
 閉じられていた。そして夜に服を着替えるときは、いつも部屋の明かりを消すように注意してい
 た。しかしそれ以外の家の部分に関して言えば、日常的に盗み見られていたとしても、彼女はそ
 れほど気にはしなかった。むしろ自分か観察されていることを意識して、それを楽しむことさえ
 あった。あるいは自分しかそれを知らないということが、まりえにとっては意味を持っていたの
 かもしれない。

  まりえによれば、秋川笙子は免色との交際を続けているようだった。週に一度か二度、彼女は
 車に乗って免色の家を訪ねた。そしてそのたびに彼と性的な関わりを持っているようだった(ま
 りえは遠回しにそれを表現した)。彼女はとこに出かけるとも告げなかったが、まりえにはもち
 ろん叔母の行き先はわかった。帰宅したとき、若い叔母の顔はいつもより血色がよくなっていた。
 いずれにせよ――免色の中にどのような種類の特殊なスペースが存在しているにせよ秋川笙子と
 免臨が続けている交際を、まりえが阻止する手立てはなかった。二人には二人の道を好きに進ま
 せるしかなかった。まりえが望んでいるのは、その二人の関係ができるだけ自分を巻き込まずに
 進行してくれることだった。そして自分が、その渦から離れたところに自立した位置を係ってい
 られることだった。

  しかしそれはまずむずかしいだろう、というのが私の考えだった。遅かれ早かれ、多かれ少な
 かれ、まりえは自分でも気がつかないうちに、その渦に巻き込まれていくに違いない。違い周縁
 から、やがては紛れもない中心へと。免色はまりえの存在を念頭に置いた上で、秋川里子との関
 係を進行させているはずだ。そもそもの企みがあるにせよないにせよ、彼はそうしないわけには
 いかないのだ。それが彼という人間なのだ。そして、そんなつもりはなかったにせよ、結果的に
 二人を引き合わせたのは私たった。彼と秋川里子はこの家で最初に顔を合わせた。それは光臨が
 求めたことだった。そして免臨は自分の求めるものを手に入れることにどこまでも手馴れた人物
 なのだ。
  光臨がクローゼットの中にある一群のサイズ5のドレスや靴をこれからどうするつもりなのか、
 まりえにはわからない。しかしそれらの過去の恋人の衣服は、おそらく永遠にそこに――あるい
 はとこかほかの場所に――大事に隠匿され、保管されることになるだろうというのがまりえの推
 測だった。彼と秋川笙子がたとえこの先どのような関係に発展していくにせよ、免色にはそれら
 の衣服を棄てたり燃やしたりすることはできないはずだ。なぜならその一群の衣服は既に彼の
 精神の一部になってしまっているから。それは彼の〈神殿〉に永遠に祀られるべきもののひとつ
 なのだ。

  私は小田原駅前の絵画教室に教えにいくことをやめた。教室の主宰者には「申し訳ないが、そ
 ろそろ自分の創作に集中したいので」と説明した。彼はなんとかその説明を受け入れてくれた。
 「あなたの先生としての評判はとてもよかったのですが」と彼は言ってくれた。そしてそれはま
 ったくのお世辞というわけでもなさそうだった。私は丁寧にお礼を言った。その年の終わりまで
 教室で教え、そのあいだに彼は私の代わりをつとめる新しい先生を見つけてくれた。六十代半ば
 の高校の元美術教師たった。象のような目をした性格のよさそうな女性だった。

  免色はときどき私のところに電話をかけてきた。とくに何か用件があるわけではなく、私たち
 はただ軽い世間話をした。祠の裏手の穴に変わりはないかとそのたびに彼は尋ね、そのたぴにと
 くに変わりはないと私は答えた。実際に穴の様子には変わりはなかった。青いビニールシートで
 ぴったり覆われたままになっている。私は散歩の途中ときどきその様子を見に行ったが、誰かが
 シートを剥がした形跡はなかった。重しの石は変わりなく載せられていた。そしてその穴に関し
 て、不思議なことや不審なことはもう二度と起こらなかった。夜中に鈴の音が聞こえてくること
 もなかったし、騎士団長も(ほかの何ものも)姿を見せなかった。その穴はただひっそりと雑木
 林の中に存在しているだけだった。重機のキャタピラに空しくなぎ倒されていたススキも徐々に
 もとの元気を取り戻し、穴の周りは再びその茂みに隠されつつあった。

  彼は私か行方不明になっていた期間、ずっとあの穴の中にいたものと思っていた。どのように
 して私がそこに入れたのか、それは彼にも説明かつかない。しかし私がその穴の底にいたという
 のは紛れもない事実だったし、それを否定することはできなかった。だから彼が私の失踪と、秋
 川まりえの失踪とを結びつけることもなかった。彼にとって、その二つの出来事はあくまで偶然
 の一致だった。

  誰かが彼の家の中に四日間こっそり隠れていたことを、免色が何らかのかたちで感づいている
 かどうか、私は慎重に探りを入れてみた。しかしそんな気配はまったく見受けられなかった。そ
 んなことがあったとは、免仏はまったく気づいていないのだ。だとすれば、「開かずの部屋」の
 クローゼットの前に立っていたのは、おそらく彼本人ではなかったのだろう。では、いったい誰
 だったのだろう?

  電話はかかってきたものの、もう見仏がうちをふらりと訪れることはなくなった。彼はおそら
 く秋川笙子を手に入れてしまったことで、それ以上私と個人的に関わり合う必要性を感じなくな
 ったのかもしれない。あるいは私という人間に対する好奇心を失ってしまったのかもしれない。
 その両方かもしれない。しかしそれは私にとってべつにどちらでもいいことだった(ジャガーの
 V8エンジンの排気音がもう聞けなくなったことをときどき淋しくは思ったが)。

  とはいえ、ときどき電話をかけてくるところをみると(電話がかかってくるのはいつも夜のハ
 持前だった)、免色はまだ私とのあいだに何らかの繋がりを維持することを必要としているよう
 だった。あるいは、秋川まりえが彼の実の娘かもしれないという秘密を私に打ち明けてしまった
 ことが、少しは心にかかっていたかもしれない。しかし私がそのことを誰かに――秋川笙子かあ
 るいはまりえに――どこかで洩らすのではないかと、彼が心配していたとは思わない。私の口が
 固いことをもちろん彼は知っていた。彼はそれくらいの人を見る目は持ち合わせている。しかし
 たとえ相手が誰であるにせよ、そのような個人的な深い秘密を他人に打ち明けるというのは、と
 ても免色らしくない行為だった。たとえ彼のような意志強固な人間であっても、秘密を終始一人
 で抱え続けることにくたびれることもあるのかもしれない。あるいはそのときの彼は、それだけ
 切実に私の協力を必要としていたということかもしれない。そして私は比較的無害そうに見えた
 のだろう。

  でも彼が最初から意図して私を利用していたにせよ、していなかったにせよ、いずれにしても
 私は免色に感謝し続けなくてはならないだろう。私をあの穴の中から救出してくれたのは、なん
 といっても彼だったのだから。もし彼がやってこなかったら、そして梯子を下ろしてこの地上に
 引っ張り上げてくれなかったら、私はあの暗い穴の中でなすすべもなく朽ち果てていたかもしれ
 ない。私たちはある意味ではお互いを助け合ったわけだし、これで貸し借りはゼロということに
 なるのかもしれない。
 『秋川まりえの肖像』を未完成のまままりえに進呈したことを免色に告げると、彼は何も言わず
 ただ肯いた。その絵を依頼したのは免色だったが、彼はもうその絵をそれほど必要とはしなくな
 ったのかもしれない。あるいは完成していない絵には意味はないと思ったのかもしれない。それ
 とも何かべつのことを考えていたのかもしれない。 

  その話をした数日後に私は『雑木林の中の穴』を自分で簡単に額装し、免色に贈呈した。私は
 その絵をカローラの荷台に載せて免色の家まで持っていった(それが免色と実際に顔を合わせた
 最後になった)。
 「これはあなたに命を肋けていただいたことへのお礼です。よかったら受け取ってください」と
 私は言った。
  彼はその絵がとても気に入ったようだった(絵としての出来は決して悪くないと私自身も思っ
 た)。ぜひ謝礼を受け取ってほしいと言われたが、私はきっぱり断った。彼からは既に過分の報
 酬をもらっていたし、それ以上何かを受け取るつもりはなかった。私は免色とのあいだにこれ以
 上の貸し借りをつくりたくなかった。我々は今では決い谷間を隔てて住むただの隣人に過ぎなか
 ったし、できることならその関係をずっと保っておきたかった。 

                                     この項つづく



 ● 今夜の一曲

ボブ アクリー(Robert R. "Bob" Acri )イリノイ州シカゴ生まれのイタリア系米国人(1918年10月1日
~2013年7月25日) は米国のジャズピアニス。ボブはシカゴのオースティン高校卒業し、オースティ
ン・ハイでDave Garroway Radio ShowNBC Orchestraでキャリア積んだ。古典的に訓練されたピアニ
ストであり、 Rudolph GanzFred Euingとともに学習。 またカレル・ジラク博士とビル・ルッソ博士
のもとで学ぶ。シカゴのナイトクラブ・ミスター・ケリーのハウスバンドと NBCとABCのラジオ・オ
ーケストラで演奏。 ハリー・ジェームスとともにツアーを行い、レナ・ホーン、マイク・ダグラス、
エラ・フィッツジェラルド、バーブラ・ストライサンド、バディ・リッチ、ウッディ・ハーマンに同
行した。ルーズベルト大学で 70年代後半に音楽学士号と音楽修士号を取得。コンチネンタル・プラ
ザ・ホテルのカンティーナルームでハウスバンドのリーダーとしてのキャリア積み終える。2001年と
2004年に2つのソロアルバムをリリース。2004年のセルフタイトルアルバムに登場した "Sleep Away"
は、Windows 7 のコンピュータオペレーティングシステム用のサンプル音楽として使用された。

 Bob Acri - Timeless

 

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大銀杏と生命兆候

2017年11月14日 | 地球温暖化

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ ″呼びつけできない臣下″を持て:孟子が斉の宣王を訪ねようとした矢先、宣王
       が使者をよこし、「こちらからお伺いするつもりでしたが、風邪をひいて、外出
       できません。もしおいで願えるなら政庁には出ますが、そこでお目にかからせて
       いただけましょうか」孟子は答えた。「残念なことに病気しております。参内は
       できません」、ところが翌日になると、孟子は東郭氏(斉の大臣)を弔問しよう
       としった。公孫丑がこれを諌めて、「きのう、病気を理由に参内をお断わりにな
       ったばかりでしょう。お出かけになるのはどうかと思いますが」。「きのうは病
       気だったが、今日はもう治った。吊問に出かけてもかまうまい」、孟子が出たあ
       とへ、宮王の使者が医者をつれて見舞いに来た。弟子の孟仲子が応対に出て、

       「きのうはご下命がありながら、病気のため参内できませんでした。今日はいく
       ぶんよくなりましたので、さっそく参内いたしましたが、さて無事に参内いたし
       ましたかどうか……」 と言っておき、散人の者をやって孟子を道で特ちうけさ
       せ、「お帰りにならず、そのまま参内してください」と言わせた。孟子はしかた
       なく景丑(けいちゅう)氏(斉の大臣)のところへ行って宿を借りた。景計氏は、
       「父と子、君主と匝下との関係は、人として非常に重要なものです。さらに父子
       の間では愛し合うことが第一、君臣の間では尊敬し合うことが第一です。見受け
       ますところ、王のほうでは先生を尊敬しています。しかし、先生のほうはどうも
       王を尊敬されていないごようすですが」、「これは心外。この国には、王に対し
       て仁義を説く人がいない。それは、仁政を馬鹿にしているからではなく、あの王
       に仁義を説いたところではじまらぬ、と思っているからです。王に対してこれほ
       どの不敬がありますか。わたしは王の前では宛・舜の道しか申しません。という
       ことは、この国にわたしほど王を尊敬している者はいないというわけです」

       「いや、そういう意味ではありません。礼記には、『父に呼ばれればハイと答え
       てすぐ立ちあがり、君命があれば馬車の仕度も待たずにかけつけよ』とあります。
       もともと先生は参内なさる矢先でもあったのに、王命を聞いて、わざと取りやめ
       られた。どうも礼に合わないように思えるのですが」、「そんなことは問題にな
       りません。曽子は、「晋や楚の富にはかなわない。だが相手が富を誇るなら、こ
       ちらは仁を誇りにする。相手が爵位を諮るなら、こちらは義を誇りにする。何の
       ひけめを感じよう」と、言った。まったくそのとおりです。これには道理がある
       のです。世の中で尊ばれているものといえば、爵位と年齢と徳です。朝廷では爵
       位、世間では年長者が尊ばれますが、救世済民には徳が最も尊いものです。爵位
       があるからといって、他の二つを馬鹿にすることはできません。

       将末大事業をなしとげようとする君主には、呼びつけできない臣下がかならずあ
       るものです。相談ごとがあれば、君主のほうから出向かねばなりません。それほ
       ど理解のある君主であればこそ、臣下としてともに事業を行なう気になるという
       ものです。湯玉は、伊尹にいろいろ教えを請い、それから臣下に迎えました。湯
       王が労せずして玉者になれたのはそのためです。桓公も管仲に教えを請い、その
       後に臣下として迎えました。ですから労せずして覇者になれたのです。いま天下
       の諸侯は、領土、徳、ともに大同小異、とくに傑出した国がありません。それは、
       ほかでもない、国王が自分以下の人間を臣下にしたがり、教えを受けられる人材
       を臣下にしたがらないからです。湯王は伊尹に対し、桓公は管仲に対し、けっし
       て呼びつけたりはしなかった。管仲ごとき者さえ呼びつけにできないのです。管
       仲の真似などしたくないと思っている者にはなおさらではありませんか」

        〈湯王 伊尹〉 湯王は殷王朝を開いた聖王、伊尹はそれを助けた宰相。
        〈桓公 管仲〉 桓公は斉の君主、春秋時代の霜者。管仲はその猫業達成に力
                を尽くした名宰相。 
       
       孟子は、覇道に反対する立場から、桓公を名君とみなしていないし、管伸を。大
       人物ともみていないことは、他の章で明らかにされているが、桓公の管伸に対す
       る処遇には賛意を示している。

       【解説】 仮病を使ってことさらに東部氏のもとを訪れたのは、仮病であること
       を王に知らせるのが目的である。それは、論客たちが競いあう中にあって、みず
       からを高くする孟子のジェスチュアであったかも知れない。しかしそれだけでは
       あるまい。権勢に屈せぬ権威がなければ、政治顧問として王を導くことはできぬ。
       孟子にはそれだけのプライドと自信があったのだ。さて、支配者は、部下に。有
       能な人物を求めるが、同時にそれが自分の権威をおかすことをおそれる。師とす
       るに足る人物を部下に持ち得るには、よほどの自信が必要だ。


【地球のバイタルサインに赤信号 二酸化炭素排出量2%増加】

 

今月13日、ドイツのボンで行われている気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)で、
科学者チームが今年の世界の二酸化炭素排出量は前年比2%増加し、過去最高の370億トンになる
との見通しを発表。二酸化炭素排出量は2014~16年にはほぼ横ばいだったが、主に中国の排出
量が2年間の減少後増加に転じ、今年は拡大するとみる。今年の中国の二酸化炭素排出量は経済成長
に伴う石炭需要の増加で3.5%押し上げられるとの予想を示した。中国は、米国を上回る世界最大
の二酸化炭素排出国で、世界全体の排出量の約30%を占める。一方、米国の排出量は0.4%減で、
石炭消費の増加で減少幅が近年より縮小する見込み。米国の石炭消費増加は、トランプ大統領の石炭
推進政策よりも天然ガス価格の上昇が要因と担当者は説明している。





【農業の6次産業化を支える土壌センサ】

11月14日、ロームグループのラピスセミコンダクタの中の環境をセンシングする土壌センサーユ
ニット「MJ1011」を製品化し、2018年1月末からサンプル出荷を開始すると発表。リアルタイムで土
壌のpH(水素イオン濃度指数)や肥沃(ひよく)度、温度、含水率を計測できる。2015年10月に開発。
同センサーは半導体技術を用い1チップでpHや肥沃度、温度、含水率を検知できるセンサーで、「世
界で初めて、土の中に直接埋め込むことのできるセンサー」(同社)として開発された。その後、ラ
ピスセミコンダクタでは、さまざまな農業事業者などと連携し、農地でテストしてきた。製品化に際
し、ラピスセミコンダクタでは、土壌センサーに加え、低消費電力を特長にする16ビットマイコン「
ML620Q504H」やアナログフロントエンド(AFE)チップなどラピスセミコンダクタ独自の半導体製品
と組み合わせたセンサーユニットに仕上げる。なお、ラピスセミコンダクタでは、センサーユニット
と接続するエンドポイントやコンセントレーター、ゲートウェイなども開発し、無線を利用した農地
監視システム(フィールドスキャンシステム)を構築できる製品ラインアップも整えていく方針。

 ❏ 特開2017-096712 センサモジュール、測定システム、及び測定方法

【概要】

土壌中の水の流路について考察すると、水は土壌中の空気が存在する間隔部を通り地中深くに流れる
が、その際にどの個所でも流れるわけではなく、疎水性の高い部分、言い換えると保水力の低い部分
を通って流れている。また、一度流路が形成されると後続の水も当該流路を通過するために、センサの
電極部周辺に流路が形成されないと、単に給水手段を設けただけでは、電気伝導度等を正確に測定す
ることができない。土壌中の水分状態の測定精度を向上させることができるセンサモジュール、測定
システム、及び測定方法を提供にあたり。下図のように、センサモジュール10は、測定対象である
土壌に接触する接触面が親水性を有する筐体12と、筐体12の接触面に設けられ、土壌中の水分状態
を測定するセンサチップ16とを備え、測定対象と前記センサチップ16との密着性が均等になるよう
に、制御部24は前記センサチップ毎に突出量を調整することで、測定精度を向上できる。 


 【符号の説明】

1  測定システム 10  センサモジュール 12  筐体 16  センサチップ 20  制御装置 
50  可動部

【図1】本実施形態の測定システムの一例の概略構成図
【図2】本実施形態のセンサモジュールの一例の概略構成を示す断面図

     No.95

【電池篇:米各州で助成金プロテラー社製電気バス購入総額31億円】 

尚、詳細は上写真参照。

【RE100篇:千葉商科大学は、日本初「自然エネルギー百%大学」に】

11月13日、千葉商科大学は、「自然エネルギー100%大学」を目指すと発表した。同大が所有す
るメガソーラー「野田発電所」で発電する電力と、同大市川キャンパスのエネルギー消費量をネット
で同量とする取り組みで、発電所の増設と学内設備の省エネ化、学生による省エネ活動により、2020
年度までに達成を目指す。千葉県市川市に所在する千葉商科大学は、学生定員数5900人と教職員数
765人を擁する社会科学系総合大学だ。同大は、今回発表した環境目標の設定にあたり、自然エネル
ギー100%の実現を提唱する世界的なイニシアチブである「自然エネルギー100%プラットフォーム」
に登録。2018年までに同大の創出する再生可能エネルギーと消費電力を同量にし、さらに2020年まで
にガスを含めた全ての消費エネルギーと同量にすることで「自然エネルギー100%大学」を達成する
予定(スマートジャパン、2017.11.14)。同大は、千葉県野田市に保有している旧野球場の敷地に、大
学が保有する太陽光発電所としては日本一の規模となる野田発電所を2013年より導入。野田発電所の
出力規模は2.45MWで、2014年度の年間発電量実績値は336.5万kWhにもなり、同大市川キャンパスにお
ける消費電力の77%に相当するという。今後は自然エネルギー100%大学の実現に向けて再生可能エ
ネルギー創出量を増やすべく、野田発電所のレイアウトを変更し、新たに約1600枚のパネルを増設す
る予定。

 
【単極子の超固体とはなにか】

11月14日、理化学研究所は、磁性体中では、電子スピンが極めて小さな磁石として作用し、磁性
体を低温にすると通常、スピンが互いに同じ向きにそろった強磁性、または交互に反対方向を向いて
打ち消し合う反強磁性など、ある磁気秩序を持つ状態になる。一方、「量子スピンアイス」と呼ばれ
る磁性体を冷却すると、スピンが秩序化しない「量子スピン液体」という状態を示す。量子スピン液
体では、スピンのN極・S極が分化し、粒子のように振る舞う「単極子」が出現する。絶対零度(約
-273℃)で単極子は自由に零点運動、そのときのN極・S極の極性は中性に保たれ、デバイス構築の上
で、単極子の振る舞いを外部から制御する可能性が期待できるが、そのため、磁場中での量子スピン
アイスの性質の理解が必要。今回、理研の研究チームは厳密な数値シミュレーションで、量子スピン
アイスが磁場中で磁気を帯びる(磁化)する過程を解明できたという。下図のように、①量子スピン
アイスに磁場を加えないで冷却していくと、量子スピン液体状態になります(図の0)。②量子スピ
ン液体に磁場を加えると、そのまま磁化し始め(図の0~B1)。③しかし、磁化が飽和磁化の2/3に達
すると磁化プラトーに至り、単極子の零点運動が局在します(図のB1~B2)。④さらに磁場を強くす
ると、単極子は一様かつ中性な空間分布から「不均一な空間分布」へと転移し、同時に「超流動」を
示す(図のB2~B3)。超流動とは、極低温において液体ヘリウム4が粘性を失い、抵抗なしに容器の
壁面をよじ登って外へこぼれ出す現象。ヘリウム4原子が、空間的に不均一に分布すると同時に超流
動性を示す状態を「超固体」と呼びます。④の状態は「単極子の超固体」として理解できる。今回の
成果により、今後、単極子の自由度の制御を実現できれば、低消費電力で駆動するデバイスを構築で
きるという。これは面白い。

単極子の超固体-磁性体における磁化の単極子を制御する-

Quantum spin ice under a [111] magnetic field: from pyrochlore to kagome、Troels Arnfred Bojesen, Shigeki
Onoda, ", Physical Review Letters

 

          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第62章 それは深い迷路のような趣を帯びてくる  

  九時過ぎに再び室内履きの音が聞こえ、免色が下に降りてきた。洗濯機のスイッチが押され、
 クラシック音楽がかかり(今回はおそらくブラームスのシンフォニーだ)、マシンの運動が一時
 間ばかり続いた。同じことの繰り返したった。かかる音楽が違うだけで、あとは寸分の狂いもな
 く。この家の主人は疑いの余地なく習慣の人であるようだった。洗濯物は洗濯機から乾燥機に移
 され、それはまた一時間後に回収された。そのあと免色さんが階下に降りてくることはなかった
 し、彼はメイド部屋には一切の関心を抱いていないようだった(ここで再び私の註が入る。免色
 はその日の午後に私の家を訪問し、たまたま様子を見に訪れていた雨田政彦と会って短く話をし
 ている。しかしなぜかはわからないが、このときもまりえはやはり彼が外出したことに気づかな
 かったようだ)。

  彼が習慣通りに規則正しく行動してくれることは、まりえにとっては何よりありかたいことだ
 った。彼女もその習倶にあわせて心の準備をし、行動の予定を立てることができるからだ。いち
 ばん神経が消耗させられるのは、思いも寄らぬ出来事が次々に持ち上がることだ。彼女は免色の
 生活パタjンを記憶し、それに自分を同化させていった。彼はほとんどどこにも出かけない(少
 なくとも彼女の知る限りどこにも出かけなかった)。書斎で仕事をし、自分で洗濯をし、自分で
 食事を作り、夕方になると居間のスタインウェイに向かってピアノの練習をする。ときどき電話
 がかかってくるが、それほど多くではない。一日にせいぜい数本だ。彼はどうやら電話というも
 のがあまり好きではないようだった・おそらく仕事の上で必要な連絡は――それがどの程度ある
 のかはわからないが――斎のコンピュータを通して行っているようだった。

  免色は基本的に自分で家の中を掃除するが、クリーニング・サービスを週に一度家に入れてい
 る。そういう話を、この前ここを訪問したときに本人の目から耳にした記憶があった。掃除をす
 るのは決してきらいではない。それは料理をするのと同じように、よい気分転換になる、と免色
 氏は言った。しかし披∵八だけでこの広い家の清掃をこなすのは、実際的にまず不可能だ。だか
 らどうしてもプロの力を借りざるを得ない。そのサービスが入るときには、彼は半日ばかり家を
 留守にするということだった。それは何頃日なのだろう? もしそのような日が巡って来れば、
 私はそのときにここからうまく逃げ出せるかもしれない。たぶん何人かの人たちが清掃用具を手
 に、車で屋敷の中に入ってくるだろうし、そのあいだ門は何度か開け閉めされるはずだ。そして
 免色はしばらく家からいなくなる。この屋敷から抜け出すのは決してむずかしいことではないは
 ずだ。あるいはそのとき以外に、私がここを脱出できるチャンスはないかもしれない。

  しかしクリーニング・サービスが入る気配はなかった。日曜日と同じように月曜日が何ごとも
 なく過ぎ去っていった。免色の弾くモーツアルトは日々少しずつより正確になり、そして音楽と
 してよりまとまりのあるものになっていた。注意深く、そして我慢強い人なのだ。目標をいった
 ん設定したら、そこに向かってたゆむことなく進んでいく。感心しないわけにはいかない。しか
 し彼の弾くモーツアルトは、もしそれが破綻なくまとまりのあるものになったとしても、音楽と
 してどれくらい心愉しいものになり得るだろう? まりえは階上から聞こえてくる音楽に耳を澄
 ませながら、そのことを疑問に思った。

  彼女はクラッカーとチョコレートとミネラル・ウォーターで生き延びた。ナッツの入ったエナ
 ージーバーも食べた。ツナの缶詰も少し食べてみた。歯ブラシはどくこにもなかったので指をう
 まく使ってミネラル・ウォーターで歯を磨いた。ジムに積んであった日本語版「ナショナル・ジ
 オグラフィック」を片端から読んでいった。ベンガル地方の人食い虎や、マダガスカルの珍しい
 猿たちや、グランドキャニオンの地形の変遷や、シベリアの天然ガス採掘状況や、南極のペンギ
 ンたちの平均寿命や、アフガニスタンの高地に住む遊牧民の生活や、ニューギェアの奥地の若者
 たちがくぐり抜けなくてはならない厳しいイニシエー・ションについて彼女は多くの知識を得た。
 エイズやエボラ熱についての基礎的な知識も身につけた。そういう自然に開する雑多な知識がい
 つか何かの役に立つかもしれない。あるいはまったく何の役にも立たないかもしれない。しかし
 いずれにせよ、ほかに手に取れる本もないのだ。彼女は日本語販「ナショナル・ジオグラフィッ
 」のバックナンバーを食い入るように読み続けた。

  そしてときどきTシャツの下から手を入れて、乳房の膨らみ具合を確かめた。でもそれはなか
 なか大きくはなってくれなかった。かえって前より小さくなっているような気さえした。それか
 ら彼女は生理のことを考えた。計算してみると、次の生理期間まではまだ十日ほどあった。生理
 用品はどこにもないから(地賞用のストックの中には、トイレットペーパーはあったものの、生
 理用ナプキンもタンポンも見当たらなかった。おそらく女性の存在はこの家の主人の考慮の範囲
 には入っていないのだろう)、もしここに隠れているあいだに生理が始まってしまうと、ちょっ
 と困ったことになるかもしれない。でもそれまでにはたぶん、なんとかここから抜け出せるはず
 だ。たぶん。十日もこんなところにいるわけにはいかない。

  火曜日の朝の十時前にようやくクリーニング・サービスの車がやってきた。清掃用具を荷台か
 らおろす女性たちのにぎやかな声が上の庭の方から聞こえてきた。その日の朝、免色は洗濯もし
 なかったし、エクササイズもしなかった。まったく階下に降りてこなかった。だからひょっとし
 て、とまりえは期待していかのだが(免色が日常の習慣を変更するからには、それなりの明確な
 理由がなくてはならない)、やはり彼女の予測したとおりだった。クリーニング会社の大型のヴ
 ァンがやってくると、それと入れ違いに免色はジャガーに乗ってどこかに出かけていったようだ
 った。

  彼女は急いでメイド用の部屋を片付け、水のボトルや、クラッカーの紙包みを集め、それをゴ
 ミ袋にまとめた。そのゴミ袋を目につきやすいところに出しておいた。たぶんクリーニング・サ
 -ビスの人が処理してくれるはずだ。毛布と布団は元通りきれいに畳んで、戸棚にしまった。
 誰かがそこで数日間生活していた痕跡をすっかり消した。とても用心深く,それからショルダー
 バッグを肩にかけ、足音を忍ばせて階上に上がった。そしてクリーニング・サービスの人たちに
 見つからないように、タイミングをほかって廊下をそっと抜けた。あの部屋のことを考えると胸
 がどきどきした。そして、またそれと同時に、そのクローゼットの中にある衣服のことを懐かし
 く思った。それらの衣服をもう一度ゆっくり眺めてみたかった。手を触れてもみたかった。
 しかしそんな時間の余裕はない。急がなくてはならない。

  人目につかないように玄関からうまく外に出て、カーブしたドライブウェイの坂道を走って上
 がった。思ったとおり入り目のゲートは開けっ放しになっていた。作業をする人々は出入9のた
 びにいちいちゲートを開け閉めしたりはしないのだ。彼女は何気ない顔をしてそこから外の通り
 に出た。

  私はほんとうにこんな風に簡単にあっさり、この場所から出て行ってしまっていいのだろうか、
 彼女はそのゲートを抜けるときにふとそう思った。そこにはもっと何か重く厳しいものがあるべ
 きではないのか? たとえば「ナショナル・ジオグラフィック」に出ていた、ニューギュアの部
 族の若者たちに課せられる激しい痛みを伴うイニシエーション(通過儀礼)のようなものが? 
 そういうものがしるしとして必要とされるのではないか? でもそんな思いは彼女の脳裏を一瞬
 よぎっただけだった。それよりは、そこから抜け出すことができた解放感の方が圧倒的に大きか
 った。

  空はどんよりと曇って、低く垂れ込めた厚い雲から今にも冷たい雨が降り出しそうだった。し
 かし彼女は空を仰いで何度も大きく深呼吸をし、どこまでも幸福な気持ちになることができた。
 まるでワイキキのビーチで、風にそよぐ祥子の木を見上げているときのように。自分は自由なの
 だ。この足で歩いてどこにでも行けるのだ。もう暗闇の中で縮こまって震えている必要はないの
 だ。生きていることが、それだけでとても嬉しく、ありかたく思えた。たった四日間のことなの
 だが、久しぶりに目にする外の世界は瑞々しく鮮やかに見えた。草本のひとつひとつが生き生き
 として、活力に満ちているように見’えた。風の匂いが彼女の胸をどきどきさせた。

  でもここでいつまでもぐずぐずしているわけにはいかない。免色が何か忘れ物を思い出して戻
 ってくるかもしれない。早くこの場所から立ち去らなくては。彼女は誰かに見られてもおかしく
 思われないように、制服についたしわをできるだけきれいに仲ばし(彼女はその制服を着たまま
 何日も布団にくるまって眠ったのだ)、両手で髪を整え、何ごともなかったような涼しい顔をし
 て足早に山を下りた。
  まりえは山を下り.谷間の道路をはさんだ向かい側の山を上った。しかし自分の家には向かわ
 ず、まず私の家にやってきた。彼女にはちょっとした心づもりがあったのだ。しかし家には誰も
 いなかった。どれだけ玄関のベルを押しても返事はなかった。

  まりえはあきらめて裏の雑木林に人9、祠の裏手にある穴に寄ってみた。しかし穴にはぴった
 りと青いビニールシートがかぶせられていた。それは前にはなかったものだ。ビニールシートは
 地面に打たれた何本かの杭に紐でしっかり結ばれていた。そしてその上に重しの石が並べられて
 いた。簡単には中を覗くことができないようになっている。知らないあいだに誰かが――誰かは
 わからないが――その穴を塞いでしまったのだ。たぶん穴が開けっ放しになっていると危ないと
 思ったのだろう。彼女はその穴の前に立って、しばらく耳を澄ませてみた。しかし中からはどん 
 な音も聞こえなかった(私の註・鈴の音が聞こえなかったところをみると、そのとき私はまだ穴
 の底に辿り着いてはいなかったのだろう。あるいはたまたま眠り込んでいたのかもしれない)。

  ぼつぽっと冷ややかな雨が降り出していた。家に帰らなくてはと彼女は思った。家族が心配し
 ているはずだ。しかし家に帰れば、自分かこの四目間どこにいたのか、みんなに説明しなくては
 ならない。免色さんの家に忍び込んで隠れていたと正直に打ち明けるわけにはいかない。そんな
 ことを言ったら大変なことになる。私が行方不明になっていることは、たぶん警察にも届け出ら
 れているだろう。免色さんの家に不法侵入していたと警察にわかれば、私はきっと何かしらの罰
 を受けることになるだろう。

  そこで彼女は自分がこの穴の中に誤まって落ちて、四目間そこから出ることができなかったと
 いう言い訳を考えついた。でも先生が――つまりこの私が――彼女がそこにいることをたまたま
 見つけて助け出してくれた。彼女はそういうシナリオをこしらえて、それに私が協力して口裏を
 合わせてくれることを期待していたのだ。しかし私はそのとき家にいなかったし、穴は既にビニ
 ールシートで塞がれて簡単には出入りできないようになっていた。だから彼女の描いたシナリオ
 は実現不可能なものになってしまったわけだ(もしそのシナリオ通りにことが進められていたら
 重機まで持ち出してその穴をわざわざ暴いた理由を、私は警察に説明しなくてはならなかっただ
 ろうし、それはそれでけらこう厄介な事態をもたらしたかもしれない)。

  あと彼女に思いつけるのは、記憶喪失を装うことくらいだった。それ以外に方法は思いつけな
 かった。その四日間に自分の身に起こったことは何ひとつ覚えていない。記憶がまったくからっ
 ぼになっている。気がついたときには一人きりで裏の山の中にいた。そう言い張るしかない。そ
 ういう記憶喪失がらみのドラマを、以前にテレビで見たことがあった。そんな言い分か人々に受
 け入れられるかどうか、そこまでは彼女にはわからない。家の人からも警察からも、たぶんあれ
 これ細かい質問をされることだろう。精神科医みたいなところにも連れて行かれるかもしれない。
 でもここは何ひとつ覚えていないと言い張るしかない。髪をくしやくしやにして、手足を泥だら
 けにして、ところどころにかすり傷をつけて、いかにもずっと山の中にいたみたいに見せかける
 のだ。そういう演技をがんばってやりとおすしかない。

  そして彼女はそれを実行した。お世辞にも上手な演技とは言えなかったが、それ以外に選べる
 道もなかっ.た。
  それが秋川まりえが私に打ち明けてくれた話たった。彼女がちょうどその一部始終を話し終え
 たころに、秋川笙子が戻ってきた。彼女の運転するトヨタ・プリウスがうちの前に停まる音が聞
 こえた。

 「実際に君の身に起こったことについては、口を閉ざしていた方がいい。ぼく以外の誰にも話さ
 ない方がいい。ぼくと君とのあいだの秘密にしておくんだ」と私はまりえに言った。
 「もちろん」とまりえは言った。「もちろん誰にも絶対に話さない。それに話しても誰にも信じ
 てもらえないだろうし」
 「ぼくは信じるよ」
 「それで環は閉じるの?」
 「わからない」と私は言った。「たぶんまだ環は閉じきっていない。でもあとはなんとかできる
 と思う。ほんとうに危険な部分はもう過ぎ去ったと思う
 「チシテキな部分は」
 私は肯いた。「そう、致死的な部分は」

  まりえは十秒ばかり私の顔をじっと見ていた。そして小さな声言言った。「騎士団長はほんと
 うにいる」
 「そうだ、騎士団長はほんとうにいる」と私は言った。そして私はその騎士団長をこの手で刺し
 殺したのだ。ほんとうに。でもそんなことはもちろん口に出せない。
  まりえは一度だけこっくりと肯いた。きっと彼女はいつまでも秘密を守り続けるだろう。それ
 は彼女と私とのあいだだけの大事な秘密になる
  まりえを何かから護ってくれたクローゼットの中のひと揃いの衣服が、彼女の亡くなった母親
 がかつて独身時代に身につけていたものであったという事実を、できることなら敦えてやりたか
 った。しかし払には、まりえにそれを敦えることはできなかった。私にはそんな権利はない。騎
 士団長もまたその権利を特たなかったはずだ。その権利を手にしているのは、この世界において
 おそらく免色ひとりだけだ。しかし免色がその権利を行使することはまずあるまい
  我々はそれぞれに明かすことのできない秘密を抱えて生きているのだ。


この章はここで終わる、結末の第64章まで後2章となる。ところで、2の6乗が64である64と
いう数字になにか意味があるのか考える。昭和64年の1989年は昭和天皇が崩御し、北京では、
天安門事件が起き、ベルリンの壁崩壊、チョコソロバキアでビロード革命、冷戦終結(マルタ会談)、
ロマ・プリータ地震など起きている。または、癌細胞は体の中で、ある一個の正常細胞の遺伝子が立
て続けに傷を受けて癌化し、1センチから4センチ(直径が4倍 体積は4の3乗=64倍)64倍
になるには2の6乗=6回の分裂ということは6ヵ月に6回の分裂=1ヶ月に一度の分裂する増殖を
イメージし、歴史修正主義批判や反戦平和のテーマと関係あるのかと想像してみた。さて、次回は、
第63章「でもあなたがかんがえているようなことじゃない」に移る。

                                      この項つづく
健康DIY顛末記:急性膀胱炎篇

● 冬に負けない対策:急性膀胱炎になりやすい体質

毎年ではないが、昨年12月から膀胱炎になったが、ことしも11月に入りその前兆のようなものを
感じる。そこで、ウォーシュレットの洗浄水に逆止弁を咬ませ肛門の殺菌剤を自動添加できるように
すればと考案(殺菌剤の参考例:特開2014-156612  配合組成物 小林製薬株式会社 2014年08月28日)
する。季節に関係なく大腸菌などが繁殖し炎症を起こすのだが、冬場は、①排尿回数が多くなり、②
風邪・インフルエンザなどや気温低下により抵抗力/免疫力が低下、③あるいは、寒さからトイレに
行くことが億劫で排尿を我慢して長時間膀胱に尿を溜めることで、ますます膀胱内で細菌が繁殖、感
染しやすくなる。イメージでいうと尿管に大腸菌がビッシリ付着している状態。対策は、①暖かくす
る(適度な運動)、②尿をためない、③清潔にする(今回の考案はこれに入る)、④抵抗力を浸ける
(現在、家で簡単に作れる自家製ドリンク剤を開発中)となる。

とはいえ、進行中の腰痛対策は芳しくない。ぶら下がり機を考案しようとは考えていますが。                  




 

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かりそめのスイング2017

2017年11月12日 | デジタル革命渦論

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ 天の時は地の利にしかず。地の利は人の和にしかず: 天与の好機よりも地の利、
              地の利よりも人の和が大切である。小さな城を包囲攻撃しても、容易には陥落し
              ない場合がある。攻撃している以上、当然天与の好機をとらえているはずだ。そ
              れでも勝てないのは、天与の好機も地の利にはかなわないからである。城壁も高
              い。濠も深い。装備もすぐれ、兵糧も十分にある。それでいて、城を捨てて敗走
              する場合がある。地の利も人の和には及ばないからだ。むかしの言葉にもある。
              「人民の逃亡を防ぐには、国境の警固によるな。国を守るには、地形の険阻によ
              るな。天下を威服するには、軍備によるな」

              道にかなっ仁人には味方が多い。極端な場合には、天下の人民がみな味方とな
              る。道にはずれたには味方が少ない。極端な場合には、親戚までがそっぽをむく。
             天下を味方につけた者が、親戚にまでそっぽをむかれた者を攻めるなら、勝敗の
              数はおのずから明らかだ。君子は戦わずして勝つか、戦ってもかならず勝つ。

       【解説】"天の時"はタイミングであり、チャンスである。"地の利"は周囲の好条
       件だ。この両者がそなわっていることは、ことをなすに当たり、きわめて有利で
       ある。それにもまして重大なものがチーム・ワークだという。そして、結束をも
       たらすものは、道-正しい原則だと強調するのである。 


    No.95

【ソーラータイル篇:系統不用のマイクロインバーター】 



米国のエンフェイズ・エネルギー(Enphase Energy)社は、第4四半期に最新のソーラーインバータ
(=マイクロインバータ)が電力網や蓄電池がなくても、太陽光発電を発電できると報告。従来の住
宅用ソーラーインバータが電力網が安全と技術上の理由で遮断され保護されるが、新ソーラー技術で
は、遮断の懸念はなくなる。IQ8マイクロインバータの目標の1つは、インバータの価格をストリン
グインバータと同じ価格(11.3円/ワット)。同社は、マイクロインバータのコストを50%削
減して競争力を維持しようとする試みにおいて、ASICゲートを増やし、最大出力を増やし、サイズ/
重量を減らすこととで、マイクロインバータ設計を改善しているす。具体的には、2017年6月
19日に発表され、2019年第1四半期に市場に出る予定の「Ensemble」は、1.0キロパッケー
ジは、現行の重量より40%重い2倍500万個のASICゲートを予定。



● エンフェイズ・エネルギーの第3四半期の業績報告

  ------------------------------------------------------------------------------------
 今日のソーラー技術では、ほとんどのお客様がこの制限(自動シャットオフ)を認識していま
 せん。そこで、この制限に対処するために、完全にグリッドに依存しないマイクロインバータ
 ー技術を発明しました。つまり、グリッドが故障して十分な日光があれば、Enphaseシステム
 は引き続きエネルギーを生産し、家庭やビジネスの要求を満たします。Ensemble技術が当社の
 交流蓄電池装置組み込まれると、Enphaseマイクロインバータシステムの性能はさらに向上し
 ます。
  ------------------------------------------------------------------------------------

これを行うために、アンサンブルは、電力網を60Hzに保つような、より幅広い電力網が一般的に太
陽系を提供する電気サービスを提供する必要がある。夏のプレゼンテーションの下のスライドは、こ
の機能を間違いなく暗示。ファーストソーラーとカリフォルニア州は、インバータ技術が実際に大規
模なエネルギー貯蔵なしでこれらのグリッドサービスを提供できることを確認する。

 同社は、このハードウェアは、最近のハリケーンの後にプエルトリコの人々にとって貴重なもので
あると特に言及したが、
開発途上国の人々、特に12億人の人々にとって、電力網にアクセスできな
い人にとって特に価値があったことを示す。 

【特許事例】

❏ US 9812859 B2 Distributed maximum power point tracking system, structure and process  
                                                                       
分散最大電力点追跡システム、構造およびプロセス
【概要】 

分散型最大電力点追跡システム、構造、およびプロセスは、太陽電池アレイなどの発電構造用に提供
されるが、これに限定されない。 例示的なソーラーパネルストリング構造では、分散型最大電力点
追跡(DMPPT)モジュールが提供され、例えば、各ソーラーパネルに組み込まれるか、または改造さ
れる。  DMPPTモジュールは、起動、動作、監視、およびシャットダウンのためのパネルレベルの制
御を提供し、さらに複数のパネルのストリングに対して柔軟な設計と動作を提供します。 これらの
ストリングは、典型的にはコンバイナボックスに並列に接続され、次に電力網に通常接続されるイ
ンバータモジュールに向けて接続される。 強化されたインバータは、ローカルまたはリモートのい
ずれかで制御可能であり、システム状態が容易に決定され、システムの1つまたは複数のセクション
の動作が容易に制御される。 このシステムは、広範囲の動作条件にわたって、増加した動作時間お
よび増加した電力生産および効率を提供する(詳細は下図)。
Nov. 7, 2017

❏ US 9685904 B2 Photovoltaic system with improved DC connections and method of making same   
                                                されたDC接続を有する太陽光発電システムおよびその製造方法

【概要】

マイクロインバータアセンブリは、その底面に形成された開口を有するハウジングと、開口に隣接す
る位置でハウジング内に配置された直流(DC)交流(AC)マイクロインバータとを含む。 マイクロ
インバータアセンブリはさらに、DC-AC交流インバータに電気的に結合され、ハウジングの開口内に
配置されたマイクロインバータDCコネクタを含み、マイクロインバータDCコネクタは、複数の露出
した電気接点を有する。
  



 

           
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第62章 それは深い迷路のような趣を帯びてくる 

  免色はどうやら洗濯物を持参したようだった。たぶん毎朝この時刻に一目分の洗濯をするのだ
 ろう。彼は洗濯機に洗濯物を放り込んで、洗剤を入れ、ダイヤルをまわしてモードを設定し、開
 始のスイッチを押した。手慣れた作業だった。まりえはその一連の音に耳を鐙ませていた。それ
 らの音は驚くほどくっきりと聞こえた。そして洗濯機のドラムがゆっくりと回転を始めた。それ
 だけの作業を済ませると、彼はジムのエリアに移って、マシンを使って運動を始めた。洗濯機が
 まわっているあいだに運動をするというのがどうやら彼の朝の日課であるらしかった。運動をし
 ながら、彼はクラシック音楽を聴いた。天井に取り付けられたスピーカーからバロック音楽が聞
 こえてきた。バッハかヘンデルかヴィブァルディ、そんな音楽だ。まりえはクラシック音楽にそ
 れほど詳しいわけではない。バッハとヘンデルとヴィブァルディの区別まではつかない。

  彼女は洗濯機の機械音と、運動マシンの立てる規則的な音と、バッハかヘンデルかヴィヴァル
 ディの音楽に耳を澄ませながらその二時間ばかりを送った。落ち着かない一時間だった。たぶん
 免包は雑誌の山の中から「ナショナル・ジオグラフィック」が何冊かなくなり、ミネラル・ウオ
 ーターのボトルと、クラッカーの包みと、チョコレートが貯蔵庫から少しずつ滅っていることに
 気づいたりはしないだろう。全休量からして、それはとても些細な変化だから。しかし何か起こ
 るか、そんなことは誰にもわからないのだ。油断はできない。注意を怠ってはならない。

  やがて洗濯機が大きなブザーの音と共に停止した。免色がゆっくりとした足取りでランドリー
 ルームにやってきて、洗濯機から洗催物を取り出し、今度はそれを乾燥機に移し、スイッチを入
 れた。乾燥機のドラムが音を立てて回転を始めた。それを見届けてから、免色はゆっくりと階段
 を上っていった。朝のエクササイズの時間は終了したようだった。たぶんこれからまた時間をか
 けてシャワーを浴びるのだろう。

  まりえは目を閉じ、大きく安堵のため息をついた。おそらく一時間ほど後に免色はまたここに
 やってくるだろう。乾いた洗濯物を回収するために。しかしいちばん危ういところはもう過ぎ去
 ったのだ。そういう気がした。彼は私がこの部屋に潜んでいることに気づかなかった。私の気配
 を感じ取ることはなかったのだ。そのことが彼女をほっとさせた。

  じゃあ、あのクローゼットの扉の前にいたのはいったい誰だったのだろう? それはメンシキ
 くんであると同時にメンシキくんではないものだ、と騎士団長は言っていた。それはいったいど
 ういう意昧なのだろう? 彼女には彼の言おうとしたことがうまく理解できなかった。私には話
 がむずかしすぎる。でもとにかくその誰かは、クローゼットの中に彼女がいることを(あるいは
 誰かがいることを)ちゃんと知っていた。少なくともその気配をしっかり感じとっていた。しか
 しその誰かは、何らかの理由があってクローゼットの扉を間くことはできなかった。それはいっ
 たいどんな理由だったのだろう? 本当にあそこにある一群の美しい古いイフクが、私を護って
 くれたのだろうか?

  もっと騎士団長の説明を詳しく聞きたかった。しかし騎士団長はとこかに行ってしまった。私
 に説明してくれる相手はもうどこにもいない。
  その日、土曜日いちにち、免色は一歩も家の外には出なかったようだった。彼女の知る限りガ
 レージの閉く音も聞こえなかったし.車のエンジンがかかる音も聞こえなかった。彼は階下に
 乾燥した洗濯物を回収しにやってきて、それを持ってゆっくり階段を上っていった。それだけだ
 った。道路の行き止まりにあるその山頂の家を訪れるものは誰もいなかった。宅配使も書留の速
 達も配達されなかった。玄関のベルはじっと沈黙していた。電話のベルが鴫る音が二度聞こえた。

 遠くから聞こえる微かな音だったが、彼女はそれを耳にすることができた。一度目は二回目のコ
 ールで、次は三回目のコールで受話器が取られた(だから家の中のどこかに免色がいることがわ
 かった)。市のゴミ収集車が「アニー・ローリー」のメロディーを流しながら坂道をゆっくり上
 ってやってきて、そしてゆっくりと去っていった(土曜日は普通ゴミを回収する日だ)。そのほ
 かにはどんな音も聞こえなかった。家はおおむねしんと静まりかえっていた。

  土曜日の昼が過ぎ、午後になり、夕方が近づいてきた(ここで再び時間経過に関する私の註が
 入る。まりえがその狭い部屋で息をひそめているあいだに、私は伊豆高原の療養施設の部屋で騎
 士団長を刺殺し、地底から顔を出している「顔なが」をつかまえ、地底の世界に降りていったわ
 けだ)。しかしその家を逃げ出すタイミングを見つけることが彼女にはできなかった。ここから
 逃げ出すためには、我慢強く「そのとき」を精力なくてはならない、と騎士団長は彼女に告げた。

 「そのときがくれば、諸君にはわかるはずだ。おお、今がまさにそのときなのだ」と彼は言った。
  しかしそのときはなかなかやってこなかった。そしてまりえはだんだん精つことにくたびれて
 いった。じっとおとなしく何かを精つことは、彼女の性格にはあまり向いていない。私はいつま
 でこんなところで息を潜めて精たなくてはならないのだろう?

  夕方前に免色はピアノの練習を始めた。居間の窓を開けているらしく、その音は彼女が身を潜
 めている場所にまで届いた。たぶんモーツァルトのソナタだ。長調のソナタ。ピアノの上にその
 楽譜が置いてあったのを覚えている。彼はそのゆっくりとした楽章をざっと過して弾いてから、
 いくつかの部分を繰り返し練習した。納得のいくまで指使いを調整した。指使いがむずかしく、
 音が均等に鳴りにくい部分があって、彼の耳にはそれが気になる上うだった。モーツアルトのソ
 ナタの多くは、一般的に言えば決して難曲ではないが、納得がいく上うに弾こうとすると、往々
 にして深い迷路のような趣を帯びてくる。そして免色はそのような迷路にあえて足を踏み入れる
 ことを厭わない人間だった。まりえは彼がその迷路を我慢強く行きつ戻りつする足取りに耳を澄
 ませていた。練習は一時間ばかり続いた。それからグランド・ピアノの蓋を閉めるばたんという
 音が耳に届いた。彼女はそこに苛立ちの響きを聞き取ることができた。しかしそれほど強い苛立
 ちではない。適度にして上品な苛立ちだ。免色氏は、たとえ広い屋敷の中に一人きりでいても
 二人きりだと本人が思っていても)、抑制を忘れることがない人物なのだ。


  あとは昨日と同じことの繰り返したった。目が暮れてあたりが暗くなり、カラスたちが鳴きな
 がら山のねぐら仁戻ってきた。谷間の向かい側に見えるいくつかの家々に次第に明かりがともっ
 ていった。秋川家の明かりは真夜中を過ぎても消えなかった。その明かりには、人々が彼女のこ
 とを案じている気配がうかがえた。少なくともまりえにはそう感じられた。そこで心を痛めてい
 るはずの人々に対して、自分に何ひとつできないことが彼女にはつらかった。 

  それとほとんど 対照的に、やはり谷間の向かい側にある雨田典彦の家(つまり、この私が往
 んでいる家だ)には 明かりがまったく見えなかった。その家にはもう誰も住んでいないみたい
 だった。日が暮れても、ただひとつの明かりも点らないのだ。人が中にいる気配がまるでうかが
 えない。不思議だ、とまりえは首をひねった。先生はいったいどこに行ったのだろう? 私が家
 からいなくなったことを先生は知っているのだろうか?

  夜中のある時刻になると、まりえはまたひどく脹くなった。激しい睡魔が彼女を襲った。彼女
 は制服のブレザーコートを着たまま、毛布と布団にくるまって、言えながら脹った。猫がここに
 いると少しは暖かくなるのにと彼女は脹雀前にふと思った。彼女が家で飼っている雌描はなぜか、
 ほとんど声を出すことがなかった。ただごろごろと喉を鳴らすだけだ。だからここに二人でひっ
 そりと身を隠していることはできる。でももちろん猫はいない。彼女はとこまでも独りぼっちだ
 った。真っ暗な小さな部屋に閉じ込められ、どこに逃げ出すこともできないでいる。
 
  そして日曜日の夜が明けた。まりえが目を覚ましたとき、部屋の中はまだ薄暗かった。腕時計
 の針は六持前を指していた。日がどんどん短くなっているみたいだ。外では雨が降っていた。音
 を立てないひっそりとした冬の雨だ。樹本の枝から水滴がしたたり落ちていることで、雨が降っ
 ているのがようやくわかるくらいだ。部屋の空気は冷たく湿っていた。セーターがあるといいの
 だけど、とまりえは思った。彼女がツーールのブレザーコートの下に着ているのは薄いニットの
 ヴェストと、コットンのブラウスだけだ。ブラウスの下には半袖のTシャツ。暖かい昼間のため
 の格好だ。ウールのセーターが一枚あればありかたいのだが。

  あの部屋のクローゼットにセーターがあったことを彼女は思い出した。暖かそうなオフホワイ
 トのカシミアのセーターだった。上に行ってあれをとってくることができたらな、と彼女は思っ
 た。それをブレザーコートの下に着込めばずいぶん暖かくなるだろう。しかしここを抜けだし、
 階段を上って上の階に行くのはあまりに危険すぎた。とくにあの部屋には。だから今身につけて
 いるもので我慢するしかない。もちろん我慢できないような厳しい寒さではない。イヌイットた
 ちが生活しているような冷気の厳しい土地にいるわけではないのだ。ここは小田原郊外で、まだ
 十二月に入ったばかりだ。

  しかし冬の雨の朝は、じわじわと肌身に染みて寒かった。骨の芯まで冷え込んでしまいそうだ。
 彼女は目を閉じてハワイのことを考えた。まだ小さい頃に叔母さんと、叔母さんの学校時代の女
 友だちと一緒にハワイに遊びに行ったことがあった。ワイキキのビーチで小さなボードを借りて
 波遊びをして、それに疲れると白い砂浜に寝転んで日光浴をした。とても暖かく、何もかもが平
 和で心地よかった。ずっと高いところで、郷子の葉が貿易風にさらさらと揺れていた。白い雲が
 海の沖の方に吹き流されていった。それを眺めながら冷たいレモネードを飲んだ。あまりに冷た
 くてこめかみがずきずきした。彼女はそのときのことを細部までとても具体的に思い出した。い
 つかもうコ院、あんなところに行くことができるのだろうか? もし行けるのなら、かわりに何
 を差し出してもいいとまりえは思った。

                                      この項つづく

 

 ● 今夜の超絶内ランチ


パスタは冷凍物で十分に美味いので電子レンジで済ませているが、材料さえ揃っていれば簡単につく
れるのでお勧めだ。まず材料、➀リングイネ・パスタ百グラム、➁牛乳2百ミリ㍑、➂ベーコン20
㌘、➃ニンニク1片、➄卵1個、⑥オリーブオイル大さじ1、⑦黒胡椒適量、⑧顆粒コンソメ小さじ
1、⑨粉チーズ大さじ2。手順、①にんにく1かけをスライスし、ベーコン20㌘を一ロ大の長方形
に切り、②フライパンにオリーブオイル大さじ1を引いて温め、①のにんにくとベーコンを入れて中
火で焦げ目がつくまで1分半ほど炒め、③牛乳2百ミリ㍑、顆粒コンソメ小さじ1、粉チーズ大さじ
2を加えて、中火で小さな泡が出る状態になるまで2分半ほど煮詰め、④パスタ百㌘をゆぜ茹で※、
水をきる。⑤④のパスタを③に加え、⑥器に⑤を盛りつけ、卵の卵黄だけスプーンで取り出しトッピ
ングし、黒胡椒をふるかけ、黄金のカルボナーラの完成(出典:「世界一美味しい煮卵の作り方」)。

※①まずパスタを1時間浸けておくことで1~2分で茹で上がり、②水2㍑に対し塩35㌘で茹で、
 ③尚、パスタはソースが完成した後に行う(一人分150~160円)。 

   ● 今夜の一曲

  甲斐バンド バス通り


   ♛   

   二人で泣いた夜を覚えているかい
   わかち合った夢も虹のように消えたけど
   おまえのもとに今帰るうとして
   今夜 俺は旅を始める
   クリスマス・ツリーに灯リがともり
   みんなの笑い声が聞える頃

   安奈おまえに会いたい
   燃えつきたろうそくに
   もう一度二人だけの愛の灯をともしたい
   安奈クリスマス・キャンドルの灯はゆれているかい
   安奈おまえの愛の灯はまだ燃えているかい


                                    唄 /  安奈 

                                    作詞/作曲 甲斐よしひろ

 Nov. 12, 2017


● 今夜の寸評:貧相な税逃れ族

「追跡 パラダイスペーパー 疑惑の資産隠しを暴け」をたまたまテレビを視る。この
間女性ジャーナリストが殺害されたし、エリザベス女王の名を連ねていたし、トランプ
大統領の閣僚もロシア疑惑がらみで名前が挙がっていたが、いずれにしても「貧相な精
神」をもつポンコツ納税者にうんざりする。、

 Nov.6, 017

     

 

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エリンギのポーク・ロールアップス

2017年11月10日 | 時事書評

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

      ※ ひとに学ぶ:子路(孔子の弟子)は、過失を指摘されると喜んだ。禹は戒めの言
       葉を聞くと感謝した。舜は、この二人より偉大であった。すなわち、人々ととも
       に善を行ない、自分の及ばぬ点は謙虚に人から学びとって実行にうつした。耕作
       し、陶器を作り、漁をしていたころも、帝王となってからも、他人から学びとる
       ことを常に忘れなかった。他人から善を学びとっては実行にうつす、これは人々
       とともに善を行なうことである。君子にとって、これほど有意義なことはない。

 

    No.94

  Nov.8, 2017 
【蓄電池篇:世界初 全固体ナトリウムイオン二次電池の室温駆動】

今月8日、日本電気硝子は、結晶化ガラスを正極材に用いた全固体ナトリウムイオン二次電池を試
作し、室
温駆動に成功したと発表した。正極材に同社が開発した結晶化ガラスを活用し、結晶化ガ
ラスを正極材に用
いた成功例としては世界初。高性能二次電池として主流のリチウムイオン電池は
、電解質に可燃性の有機電解液を用いており、異常発熱や発火などの事例が多発しているため、安
全性の高い二次電池が求められている。そこで、電解質に可燃物を利用しない全固体リチウムイオ
ン二次電池に注目が集まっているが、電極と電解質間のイオン伝導性の改善と、レアメタルに分類
されるリチウムの利用による供給不確実性が課題。導電イオン種にNa+を用いるナトリウムイオン二
次電池は、リチウムと比較して資源量が多いため電池材料の供給面では有利となる。また、NAS
池などのナトリウム硫黄電池は、大型電力貯蔵用の蓄電池として既に実用化されているが、①正極
のナトリウムと負極の硫黄を溶融状態にする。②βアルミナ固体電解質のイオン伝導性を高めるた
めに電池を加熱する必要があり、電池が複雑、大型化となり電子機器に利用できる、小型かつ安全
性の高い全固体ナトリウムイオン二次電池の開発が望まれていた。

特殊ガラスメーカーとして蓄積してきた技術を持つ同社は、ガラスの軟化流動性を利用し、電池の
固体電解質と一体化を図ったNa系の結晶化ガラスを開発。この結晶化ガラスは高いイオン伝導性を
持つことから、電池が室温で駆動可能になる。電池に関する機構や結晶化ガラス構造の概要は、今
月14日から開催される第58回電池討論会で発表する。今後は、正極材の結晶化ガラスの開発を進
めていき、次世代の二次電池実現に向けて注力してしていく方針である。 

 ❏ 事例研究:日本電気硝子株式会社  特開2017-037769  固体電解質シート及びそ
     の製造方法、並びにナトリウムイオン全固体二次電池
  


【概要】 

リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源として
普及しているが、現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に
用いられているため、発火等の危険性が懸念され、有機系電解液に代えて固体電解質を使用したリ
チウムイオン全固体電池開発が進められている。しかし、リチウムは世界的な原材料の高騰の懸念
がある。そこで、リチウムに代わる材料としてナトリウムが注目されており、固体電解質としてN
ASICON型のNaZrSiPO12からなるナトリウムイオン伝導性結晶を使用したナトリウ
イオン全固体電池が提案されている。その他、β-アルミナやβ''-アルミナといったベータア
ルミナ系固体電解質も高いナトリウムイオン伝導性を示しこれらの固体電解質はナトリウム-硫黄
電池用固体電解質としても使用されている。

このように、シート化した固体電解質は、例えば原料粉末をスラリー化してグリーンシートを得た
後、焼成する方法(グリーンシート法)により製造されるが、ベータアルミナ系固体電解質シート
を上記の方法により製造した場合、イオン伝導値が低下しやすいという問題がある。従って、イオ
ン伝導値が高いベータアルミナ系固体電解質シート及びそれを用いたナトリウムイオン全固体電池
を開発している。このように固体電解質シートは、β-アルミナ及び/またはβ''-アルミナを含
有し、厚みが1mm以下であり、かつ空隙率が20%以下であることを特徴として、固体電解質シ
ートは、厚みが1mm以下と小さいため、固体電解質中のイオン伝導に要する距離が短かく、空隙
率が20%以下と小さい。固体電解質シート中のβ-アルミナ及び/またはβ''-アルミナの各粒
子の緻密性が高い。以上によりこの固体電解質シートはイオン伝導性に優れる。また、固体電解質
シートは、イオン伝導値が1S以上であることが好ましく、「イオン伝導値」は、固体電解質シー
トのイオン伝導度(S/cm)に厚みを乗じた値を指すが、このシートは、β-アルミナ及び/ま
たはβ''-アルミナを含有し厚みが1mm以下で、イオン伝導値が1S以上であることを特徴とする。

この固体電解質シートは、モル%で、Al  65~98%、NaO  2~20%、MgO+
LiO  0.3~15%を含有することが好ましい。なお、「MgO+LiO」は、MgOとL
Oの含有量の合量を意味する。さらに、ZrOを1~15%含有することが好ましく、さらに、
を0.01~5%含有することが好ましく、ナトリウムイオン全固体二次電池用として好適
であり、ナトリウムイオン全固体二次電池は、上記の固体電解質シートの一方の面に正極層、他方
の面に負極層が形成された構造を特徴とし、β-アルミナ及び/またはβ''-アルミナを含有する
厚み1mm以下の固体電解質シートを製造するための方法であって、(a)主成分としてAl
を含有する原料粉末をスラリー化する工程、(b)スラリーを基材上に塗布、乾燥してグリーンシ
ートを得る工程、(c)グリーンシートを等方圧プレスした後、焼成することにより、β-アルミ
ナ及び/またはβ''-アルミナを生成する工程、を含むことを特徴とする.下図のように、β-ア
ルミナ及び/またはβ''-アルミナを含有し、厚みが1mm以下であり、かつ空隙率が20%以下
であることを特徴とする固体電解質シートにより、イオン伝導値が高い薄型のベータアルミナ系固
体電解質シートを提供することでイオン伝導値が高いベータアルミナ系固体電解質シートを製造を
可能となる。

  事例研究:特開2017-199688  ナトリウムイオン二次電池用負極活物質および
                                                               その製造方法
  


【概要】 

携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と
小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば、電池の小サイズ化も
容易となるため、蓄電デバイスの高容量化へ向けての開発が急務となっている。リチウムイオン二
電池ナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイス用負極活物質には、一般に黒鉛質炭素材料、
ハードカーボンなどの炭素材料が用いられている。さらに、リチウムイオンやナトリウムイオンを
吸蔵および放出することが可能な負極活物質として、層状ナトリウムチタン酸化物NaTi
が提案されている。しかし、層状ナトリウムチタン酸化物NaTi負極活物質は、放電容量維
持率(サイクル特性)が低いという問題があったが、蓄電デバイス用負極活物質がTiO、Na
O、及び網目形成酸化物を含有することを特徴とした。放電容量維持率が高い蓄電デバイス用負極
活物質およびその製造方法を提供する。

【実施例】

実施例1、2の負極活物質は、次のとおり作製した。炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化チタン
(TiO)、及び無水ホウ酸(B)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調
合し、1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラ
スを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより溶融固化体を作製。
得られた溶融固
化体をボールミルで20時間粉砕し、空気分級することにより、平均粒子径2μmの溶融固化体粉
末を得る。
得られた溶融固化体粉末を、大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行うことにより
、負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶に由来する回折
線が確認された。実施例1の負極活物質のX線回折パターンを下図1に示す。

実施例3の負活物質は、次のとおり作製した。炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化チタン(Ti
)、及び無水ホウ酸(B)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、
1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流
し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより溶融固化体を作製。
得られた溶融固化体を
ボールミルで20時間粉砕し、空気分級することにより、平均粒子径2μmの負極活物質を得る。
粉末X線回折パターンを確認したところ、結晶に由来する回折線が確認されず、非晶質である。

比較例1の負極活物質は、次のように作製した。炭酸ナトリウム(NaCO)、及び酸化チタン
(TiO)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、ボールミルで粉砕混合
してペレット化した後、大気雰囲気中800℃で20時間固相反応させた。その後、ボールミルに
よる粉砕、ペレット化、大気雰囲気中800℃で20時間固相反応の各処理を再度行うことにより
負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶に由来する回折線
が確認される。


蓄電デバイス用負極活物質に対し、結着剤としてPVDF、導電助剤としてケッチェンブラックを
負極活物質:結着剤:導電助剤=80:15:5(質量比)となるように秤量し、これらをN-メ
チルピロリドン(NMP)に分散したあと、自転・公転ミキサーで十分に攪拌してスラリー化。次
に、隙間100μmのドクターブレードを用いて、負極集電体である厚さ20μmの銅箔上に、得
られたスラリーをコートし、乾燥機にて80℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通し、1t/c
でプレスすることにより、電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに
打ち抜き、140℃で6時間乾燥させ、円形の作用極を得る。
次に、コインセルの下蓋に、得られ
た作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリ
プロピレン多孔質膜からなるセパレータ(ヘキストセラニーズ社製  セルガード#2400)およ
び対極である金属ナトリウムを積層し、ナトリウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、
1M  NaPF溶液/EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:
1(体積比)を用いた。なお、試験電池の組み立ては露点温度-70℃以下の環境で行った。
得ら
れた電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量及び放電容量維持率を測定した。結果を表
1に示す。
なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのナトリウムイオンの吸蔵)は、2V
から0VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出
)は、0Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.1Cとした。トリウムイオン二
電池における放電容量維持率は、初回放電容量に対する20サイクル目の放電容量の比率をいう。

また、コインセルの下蓋に、得られた作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8
時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータおよび対極である金
属リチウムを積層し、リチウムイオン二次電池も作製した。電解液としては、1M  LiPF
液/EC:DEC=1:1(体積比)を用いた。なお、試験の組み立ては露点温度-40℃以
下の環境で行った。
得られた電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量及び放電容量維持
率を測定した。結果を表1に示す。


なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵)は、2.5Vから1.
2VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウイオンの放出)は、
1.2Vから2.5VまでCC放電により行った。Cレートは0.1Cとした。リチウムイオン二
電池における放電容量維持率は、初回放電容量に対する10サイクル目の放電容量の比率をいう。

以上のように、実施例1~3において作製された負極活物質は、網目形成酸化物であるBを含
有するため、ナトリウムイオン二次電池における放電容量は87~122mAhg-1と高く、放電
容量維持率も72~92%と高かった。また、リチウムイオン二次電池における放電容量は48~
51mAhg-1であり、放電容量維持率は96~98%と高かった。一方、比較例1において作製
された負極活物質は、Bを含有しないため、ナトリウムイオン二次電池における放電容量は、
112mAhg-1と高かったものの、放電容量維持率が25%と低かった。また、リチウムイオン
二次電池における放電容量は45mAhg-1であり、放電容量維持率は75%でありいずれも低い。 

Nov.7 ,2017
【地熱発電篇:岐阜高山で温泉熱発電所】

今月6日、高山市奥飛騨温泉郷一重ケ根に、温泉熱を利用した「奥飛騨第1バイナリー発電所」が
完成し、起動式が行われている。奥飛騨宝温泉協同組合が掘り直した源泉の湯を利用し、熱交換機
で発生させた蒸気でタービンを回して発電する。源泉は地下300メートル地点で約160度、地
表で120℃あり、組合加盟者には70℃ほどに下げて給湯。発電所は同組合と洸陽電機(神戸市)
が設置。年間約37万キロワット時(一般家庭110世帯分)発電し、約1500万円の売電収入
を想定している。同組合の田中君明代表理事は収益により、組合員への給湯利用料の減額になる。
約2割ほど下げられればとのこと。来春には2基目の発電所の稼働を予定する一方、同組合など4
つの源泉温泉組合と洸陽電機は「奥飛騨自然エネルギー合同会社」を設立し、エネルギーの「地産
地消」を目指す。

Jun. 27, 2016

 ❏ 事例研究:株式会社洸陽電機
   特開
2016-148508  熱交換器およびそれを用いた地熱利用システム

【概要】

地熱熱水を用いた地熱発電は、年間を通じて安定した電力を得られるという利点を持ち、ベースロ
ード電源としても利用できる。また、二酸化炭素排出量が極めて少ないため、環境に優しい発電方
式である。地熱発電の方式としては、バイナリー発電方式が知られている。地熱熱水のエネルギー
は、熱エネルギーとして、直接あるいは熱交換した他の流体を介して間接的に用いる場合もあるが、
地熱熱水には、炭酸カルシウム(CaCO)やシリカ(SiO)などのスケール成分が溶解し、
熱熱水の圧力および温度が低下して炭酸カルシウムやシリカなどが過飽和の状態などになった場合
には、スケールが析出、熱交換器や配管などの地熱熱水の流路に付着し流路が閉塞するリスクをと
もなう。地熱熱水を利用するシステムの配管その他の機器へのスケールの付着を抑制にあって、下
図のように
バイナリー発電システムなどの地熱利用システムに、熱交換器30と、バイナリー発電
機12とを備える。バイナリー発電機12は、熱交換器30で温められて真水配管24を通じて供
給される真水の熱を利用する。熱交換器30には、一次側流路と二次側流路とが形成されている。
一次側流路は、一次側入口から、その一次側入口よりも上方の一次側出口まで延びる。二次側流路
には、一次側流路を流れる流体と熱交換する流体が流れる。地熱熱水を供給する熱水供給配管22
は、地下から延びて、熱交換器30の一次側入口41に直接接続されている。
JP 2016-148508 A 2016.8.18

【符号の説明】

10…バイナリー発電装置、12…バイナリー発電機、14…冷却水配管、16…冷却水ポンプ、
20…熱交換装置、22…熱水供給配管、24…真水配管、26…排出配管、28…ポンプ、30
…熱交換器、41…一次側入口、42…一次側出口、43…二次側入口、44…二次側出口、50
…地面


【図1】本発明に係る地熱利用システムの一実施の形態のブロック図。
【図3】地熱利用システムの20日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例
【図4】地熱利用システムの100日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管の写真の例
【図5】本発明に係る地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側流路の写真の例
【図6】本発明に係る地熱利用システムの60日供用後の熱交換器の一次側入口に接続された配管


          
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

     第62章 それは深い迷路のような趣を帯びてくる

  時間は彼女の意思とはかかおりなく、それ白身の原理に従って経過していった。彼女はその小
 さな部屋で裸のベッドに横になり、時が緩慢な足取りで目の前を行進し、通り過ぎていく様子を
 ただ見守っていた。ほかにとくにするべきこともなかったから。何か本を読むことができればな
 と彼女は思った。しかし手元に本はなかったし、もしあったとしても、明かりをつけるわけには
 いかなかった。暗い中でただじっとしているしかない。彼女は貯蔵庫の中に懐中電灯と予備の電
 池を見つけたが、それもできるだけつけないようにした。

  やがて夜が深まって、彼女は眠った。知らない場所で眠り込んでしまうのは不安だったし、で
 きることならずっと目覚めていたかったが、ある時点でとても我慢できないほど眠くなった。も
 うそれ以上目を開けていることができなくなった。剥き出しのベッドではさすがに寒かったから、
 戸棚から毛布と布団を引っ張り出して、それにロールケーキのようにぴったりとくるまって目を
 閉じた。暖房器具は置いてなかったし、エアコンをつけるわけにはいかなかった(ここで時間経
 過に関する私の註が入る。おそらくまりえがそこで眠り込んでいるあいだに免色は家を出て私
 のところにやってきたのだろう。そして彼はうちに泊まって翌朝帰っていった。従って免色は
 その夜は自宅にはいなかった。家は無人であったはずだ。しかしまりえはそのことを知らない
)。

  夜中に一度目が覚めて便所に入ったが、そのときも水は流さなかった。昼間はともかく、しん
 と静まりかえった真夜中に水洗の水を流したりしたら、その音を間きつけられる可能性が大きい。
 免色は言うまでもなく注意深く綿密な人間だった。ちょっとした変化にも気づきそうだ。そんな
 危険を冒すわけにはいかない。

  そのとき腕時計を見ると、針は午前二時前を指していた。土曜日の午前二時だ。金曜日はもう
 終わってしまった。窓のカーテンの隙間から、谷間を隔てた自分のうちの方に目をやると、応接
 間にはまだ煌々と明かりがともっていた。真夜中を過ぎても私か帰ってこないので、人々は――
 といっても夜中の家には父親と叔母しかいないはずだが――きっと眠れないでいるのだろう。悪
 いことをしてしまったとまりえは思った。父親に対してさえ申し訳ないと感じた(それはきわめ
 て珍しいことだった)。自分はここまで無謀なことをするべきではなかったのだ。もともとそん
 なつもりはなかったのだけれど、その場で感じるままに行動をとっているうちに、こんな結果に
 なってしまった。

  でもどれだけ後悔したところで、自らを責めたところで、谷間を飛び越えてうち仁現れるわけ
 ではない。彼女の身体はカラスたちのそれとは違う。空中を飛ぶようにはできていない。また騎
 士団長のように自由に消えたりどこかに現れたりすることもできない。彼女はまだ発育途中の身
 体に閉じ込められ、時間と空間によって行動の自由を厳しく制限された、不器用な存在に過ぎな
 いのだ。乳房だってほとんど膨らんではいない。まるで失敗したパンケーキみたいに。

  暗闇の中で独りぼっちで、秋川まりえはもちろん怯えていた。そして自分の無力さを痛感しな
 いわけにはいかなかった。騎士団長がそばにいてくれたなら、と彼女は思った。彼には尋ねたい
 ことがたくさんあった。質問に対する答えが返ってくるかどうかはわからないが、少なくとも誰
 かと話をすることはできる。彼の話し方は現代の日本語としてはかなり奇妙なものだったが、趣
 旨を理解するのに支障はない。しかし騎士団長はもう二度と彼女の前に姿を見せないかもしれな
 い。

 「これからほかに行かなくてはならない場所があるし、ほかにやらなくてはならないことがある」
 と騎士団長は彼女に告げた。まりえはそのことを寂しく思った

  窓の外から夜の鳥の深い声が聞こえた。たぶんフクロウかみみずくだ。彼らは暗い森の中に身
 を潜め、智恵を働かせているのだ。私も負けずに智恵を働かせなくてはならない。賢くて勇気の
 ある女の子にならなくてはならない。しかし再び眠気が彼女を襲い、それ以上目を開けているこ
 とができなくなった。彼女はまた毛布と布団にくるまり、ベッドに横になって目を閉じた。夢も
 ない深い眠りだった。次に目が覚めたとき、夜は徐々に明け始めていた。時計の針は六時半をま
 わっていた。

  世界は土曜日の夜明けを迎えたのだ

  まりえは土曜日いちにちをそのメイド用の居室の中で静かに送った。朝食代わりにまたクラッ
 カーを宿り・、チョコレートをいくつか食べ、ミネラル・ウオーターを飲んだ。部屋を出てこっ
 そりとジムに行って、そこに山のように積まれていた日本語版「ナショナル・ジオグラフィック
 のバックナンバーを何冊か素早く持ち帰り(免色はどうやらバイクマシンを漕ぎながら、あるい
 はステップマシンを踏みながら、それらの雑誌を読むらしく、ところどころに汗のあとがついて
 いた)、それを何度も繰り返し読んだ。そこにはシベリア・オオカミの生息状況や、月の満ち欠
 けに関する神秘や、イヌイットの生活や、年々縮小していくアマゾンの熟帯雨林なんかについて
 の記事が掲載されていた。まりえは普段ならそんな記事を読むことはまずないのだが、ほかに読
 むものもないということもあって、暗記してしまうまでそれらの雑誌を熟読した。写真も穴が間
 くほど詳しく眺めた。

  雑誌を読かのに疲れると、ときどき横になって短く眠った。そして窓のカーテンの隙間から谷
 間の向かい側にある自分の家を眺めた。ここにあの双眼鏡があればなと彼女は思った。その家の
 中をもっと細かく観察することができて、人が勣いているのを目にすることができたらな、と。
 そしてオレンジ色のカーテンのかかった自分の部屋に戻りたいと思った。熱い風呂に入って身体
 を隅々まで丁寧に洗い、新しい服に着替え、それから飼っている描と一緒に暖かいベッドに潜り
 込みたい。

  午前九時過ぎに誰かがゆっくりと階段を下りてくる音が聞こえた。室内履きを履いた男の足音
 だった。たぶん見仏だ。歩き方に特徴がある。ドアの緯穴から外を見たかったが、ドアに鍵穴は
 ついていなかった。彼女は身体を硬くし、部屋の隅の床に身を丸めて座り込んだ。もしこのドア
 を開けられたら、どこにも逃げ場所はない。免色がこの部屋を覗くようなことはないはずだ、と
 騎士団長は言っていた。彼の言葉を信じるしかない。しかしもちろん何か起こるか、そんなこと
 は誰にもわからない。この世界には百パーセント確実なことなんて何ひとつないのだから。彼女
 は気配を殺し、クローゼットの中のイフクのことを思い浮かべ、何も起こらないでください
 じた。喉の奥がからからに渇いた。 

                                      この項つづく

 ● 今宵だけのアラカルト

先日、彼女が、エリンギのポークロールアップスを夕食に出してくれたが、この写真では檸檬だが、自
家製の柚子
ボン酢でいただいたが、育成の進化でエリンギが太くなってきて見た目も美しく絶妙の美味
さに仕上がっていたのでデジカメすることも忘れ口に放り込んでしまい後悔するほど「仕合わせな一時」
を味わった。美し国の暖かき庵である。 

     

コメント
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不都合な進歩

2017年11月09日 | デジタル革命渦論

 

       

                          

             公孫丑(こうそんちゆう)篇 「浩然の気」とは   /   孟子  

                                               

    ※ 精神的奴隷:矢を作る人が鎧を作る人より不仁であるとはいえない。しかし矢を
            作る人は、ひたすら矢が人を傷つけることを願い、鎧を作る人々は、鎧が人を死
            から守ることを願う。葬儀屋と医者の場合も同じである。職業の選択はよほど慎
            重にせねばならないわけだ。あわれみの心は、人間ならだれでも持っている。む
            かしの聖人が血の孔子は言った。「仁の世界はすばらしい。すすんでそこに住も
            うとしないのは、知恵ある人とはいえない」、仁は天与の尊い爵位である。安住
      できる家である。そこに住もうと思えば住めるのに、不仁のままでいるのは愚者
      である。仁の心がなく、智に欠け、礼を忘れ、義を知らぬ人は、奴隷でしかない。
      奴隷でありながら、人に使われるのを恥ずかしいと考えるのは、弓を作る人が弓
      を作るのを恥じ、矢を作る人が矢を作るのを恥じるようなものだ。恥ずかしいと
      思えば、仁に志して、奴隷の身から脱却するにこし仁ことはない。仁に志す人は、
      弓を射るようなものだ。まず姿勢を正して矢を放つ。自分の矢が的中しないとい
      って、的中させ仁人を怨むのでなく、失敗の原囚を自分白身に求めなければなら
      ない。

     〈仁の世界……〉 原文「仁に里(お)るを美となす……」(『論語』里仁篇)。

     【解説】家庭では慈愛ぶかい父親も、武遊興遺脱売を業とするとなると、乱の勃
         発を待ち望む
死の商人となりはてることがある。職業という決い伜からだ
                 け世界を眺めることの危険さはここ
にある。人類普遍の立場を常に一方に
                 意識すること、これが精神の奇形化を防ぐ一つの手段である。

 

    No.93

 Nov. 8, 2017

【エネルギータイリング事業:壁紙バイオソーラーパネルの登場】

11月6日、インペリア・カレッジ・ロンドの研究グループは、シアノバクテリアをインクとして
使用し、精密パターンをインクジェットプリンで紙に印刷した導電性カーボンナノチューブ回路を
使いバイオソーラーパネル作製成功したことを公表。同グループは、印刷したシアノバクテリアの
光合成反応で百時間にわたり微量発電できることを実証した。作製されたバイオソーラーパネルは、
iPadの面責の大きさで、簡単なデジタル時計や発光ダイオード電球に電力供給できる。同グループ
の研究成果は、使い捨て可能な紙に印刷し光合成細菌から作られた新しいタイプの電気装置ににつ
ながり、糖尿病患者のバイタルセンサや室内空気の濃度センサなどに応用できる。同グループのマ
リーン・サワ博士は、この技術は、環境内のセンサとしての役割など、幅広い用途に使用できる。
家庭の空調を監視する使い捨ての装飾壁紙などのもその一例で、使い捨てた壁紙は環境に影響を与
えず生分解されると話す。バイオソーラー電池は、世界的に微生物バイオフォトトランジスタ(BP
V
)と呼ばれ、新しいタイプの再生可能エネルギー技術の研究が進行中である(技術論文の詳細は、
下図をクリック参照:Electricity generation from digitally printed cyanobacteria、doi:10.1038/s41467-017-
01084-4、Nature Communications 8, Article number: 1327 (2017)
)。

   Nov. 6, 2017

尚、シアノバクテリア細胞からエネルギーを得るためにBPVを使用する利点の1つは、昼光中で少
量の電気を生成し、暗所で生成された分子から生成することができる。その製造コストが安価で環
境負荷小さいことが特徴で、紙ベースのBPVは、従来の太陽電池技術を大規模な電力生産に置き換
えるものではなく、使い捨てと同時に生分解の両方を実現するもので、その低出力出力は、環境感
知やバイオセンサなど、エネルギーが小さくて有限であるデバイスやアプリケーションに適してい
る。印刷されたエレクトロニクスとバイオセンサ技術と統合された紙ベースのBPVは、糖尿病患者
の血糖値などの健康指標を監視する使い捨て紙ベースセンサの時代に入る。一旦測定が行われると
装置は環境への影響が少ない状態で容易に処分できる上、使い易さと非常に経済的である。今後は 
現在の紙ベースのBPVユニットは手のひらサイズだが。A4サイズにスケールアップして、より大
規模な電気出力させ、さらに、より強力で、長持ちし、堅牢なパネルを作ることが架台であると話
す。

  

 

 



【ハリケーンに耐えた太陽光パネル用バラスト式架台】

9月20日、カテゴリー5の大型ハリケーン「マリア」が米自治領プエルトリコを直撃し、大規模
な被害が発生した。被害から1カ月以上が経過したが、いまだに需要家の約8割が停電したままだ。
そのうち11月15日までには50%、12月115日までには95%の電力供給を復旧させるとリ
カルド・ロッセロプエルトリコ知事が発表している。今回のプエルトリコの停電は、米国歴史上で
最も大規模だとみられるなか風速180メートル/病の強風でビクともしなかった「バラスト("安
定用重り"の意味)式ハイブリッド架台」を使用した645キロワットの太陽光発電システムに注目
が集まっている。同システムは9階建ての建物の屋根に設置されたものだが、まったく損害もなく
百%の発電を持続している。


● ナイロン製一体成形の架台とは

プエルトリコのサンホアンにある同太陽光発電システムは、米退役軍人管理局の運営するメディカ
ルセンタに設置され、2015年に稼働開始。この病院はプエルトリコとヴァージン諸島に在住す
る15万人を超える米退役軍人が主に利用しており、プエルトリコとカリビアン諸島における最大
規模の連邦政府による医療施設。
「バラスト式架台」を提供したのは、カリフォルニア州サンフラ
ンシスコに本社を持つソレガ社(Sollega)。同社は商業用フラットルーフ(陸屋根)用架台に特化
している。この架台は、プラスチック製で「ファーストラック510(FastRack510)」 と呼ばれる
もの。
プラスチックの種類は、ナイロン6「ウルトラミッ(Ultramid)」(独BASF製)である。この
材料は強度、剛性、熱安定性に優れ、柔軟性が高いため、太陽光アレイ(パネルの設置単位)を壊
すことなく、複数の方向に曲げられる。さらに、紫外線吸収剤が添加されているので、耐光性、耐
久性に優れるという。
一体成形により1つ部品からできているために現場での組み立てを必要とせ
ず重ねられるため、運搬や設置が容易という利点もあるという。システムの施工時間は、モジュー
ル(パネル)1枚当たり約5分。
同架台は、カリフォルニア州の射出成形業者が製造している。射
出成型機には、金型交換が容易な機構が組み込まれていて、150~270ワット/枚までどのメ
ーカーの太陽光パネルにも対応できる「ユニバーサルデザイン」となっている。さらに、パネルの
横、縦置き両方に対応できる。



「バラスト式ハイブリッド」とは、バラスト(重し)用ブロックと太陽光アレイを屋根に強固に固
定させるためのアンカー(固定金具)の両方を使用する架台方式である。アンカーは屋根に穴を開
ける貫通設置方式ではないので、水漏れの心配はない。ソレガ社の最高経営責任者 (CEO) と営業
部長を務めるエリイ・ロスチルド氏によると、屋根に熱可塑性ポリオレフィン (TPO)系プラスチ
ック製の 塗膜防水材からなるルーフイングシートを覆い、そこにアンカーを熱融着により接合する。
同システムはバラストとアンカーのハイブリッドだが、百%バラストのみのシステムも提供できる
という。バラストはコンクリート製で一つの重さは30パウンド(13.6キログラム)である。



今回のメディカルセンターに設置された太陽光発電システムは、米サンパワー社(SunPower)製の
327キロワット/枚のパネル2,529枚を使用。パネルと同架台の設置比率は1:1.34で3,
004個の架台が使われた。モジュールの設置角度は10度。風速170メートル/秒に耐えるよ
うに施工され、9階建ての高さ百フィート(30.3メートル)の建物の屋根上に設置され、今回
の大規模なハリケーンにも耐える。従来の陸屋根向け設置方法では、アルミニウム合金製の押出レ
ールなどで太陽光パネルを施工したため
構造が堅固で風圧に耐えるのが難しい難点があったという。
これに対し、ソレガ社のシステムは、太陽光パネルを架台「ファーストラック510」で「チェー
ン」のように連結するために、強風でも壊れることなく、柔軟に対応するとしている。同社は他に
も自然災害が多いハワイのメガソーラー(大規模太陽光発電所)などにも同バラスト式ハイブリッ
ド架台を提供する。このように、ソレガ社保有の技術というよりアルミサッシ建材などの加工技術
以外のメカニズム技術や素材選定技術は外から持ってきて耐久/堅牢/靱性を実現した企業という
印象である。参考までに関連米国特許技術を掲載しておく。

❏ US 8850754 B2 Molded solar panel racking assembly


❏ US 9057544 B2 Solar panel mounting system


・US D801,915S  Mounting bracket for roof mounted photovoltaic modules 
・US D801,914S  Mounting bracket for roof mounted photovoltaic modules 
・US D801,913S  Mounting bracket for roof mounted photovoltaic modules 
・US D799,420S End-clamp for roof mounted photovoltaic modules 
・US D792,342S   Mid-clamp for roof mounted photovoltaic modules 
・US 9,494,342 B2 Methods and devices for coupling solar panel support structures and/or securing solar panel
support  structures to a roof 

・ US 95,103 B2  System and method for mounting photovoltaic modules  

【蓄電池篇:EV電池開発競合加速】

韓国サムスン電子は現行製品の2世代先となる電気自動車(EV)向け充電池を開発する。1回の
フル充電で走行可能な距離をEVに使われているリチウムイオン電池の2倍近くに増やし、現行の
1世代先にあたる製品開発で先行するトヨタ自動車に対抗する。各国当局と自動車メーカーのEV
シフトを受け、基幹部品である電池の開発競争が激しくなりそうだという(日本経済新聞 2017.17.
07)。それによると、サムスン電子は電機業界で究極の充電池と呼ばれる「リチウム空気電池」を
開発する。中央研究所にあたるサムスン総合技術院で、電池1キログラムあたりの蓄電容量が52
0ワット時の試作品を製作した。トヨタが2020年代前半に実用化を目指す「全固体電池」の次
の世代での世界標準を狙う。代表的なEVである日産自動車の新型「リーフ」はフル充電時の走行
可能距離が400キロメートル。サムスンの試作品を自動車用に製造すると理論上700キロメー
トルを超える。主要部材の絶縁膜(セパレーター)の厚さを20マイクロ(マイクロは(百万分の1)
メートルと従来の1割以下に改良。薄型化により電池セルの使用量を増やせるため蓄電容量が高ま
った。30年までの実用化を目指すもようだが道のりは長い。試作品では充放電を20回繰り返す
と性能が大幅に劣化する。数千回とされるEVに求められる充放電の基準を満たせず、1回のフル
充電に数時間かかる問題も残る。主要部材である正極や負極の素材や形状を改良し電池寿命や利便
性を高められるかが課題となる。サムスンはグループのサムスンSDIが自動車用のリチウムイオ
ン電池事業を広げている。トヨタが実用化を目指し、次世代品として有力視される全固体電池につ
いても研究開発を続ける一方、その次の世代を見込むリチウム空気電池の実用化も先行させるとい
う。


通常のリチウムイオン電池はイオンを伝達する電解質に液体材料を使う。これを固体化した電池が
全固体電池だ。正極と負極の間にある固体の電解質がイオンをやり取りする。電解質が劣化しにく
いため長寿命で液漏れや発火などの危険が少ない。充電時間の短縮や大容量化が期待できる。トヨ
タは全固体電池の開発に既に技術者2百人の態勢を整える。「試作品は既にあり、次の段階は量産
への準備だ。この技術は今後『ゲームチェンジャー』になりうると考えている。トヨタやサムスン
だけでなく多業種の大手が全固体電池の研究を進める。自動車部品の独ボッシュは全固体電池を開
発する米シーオを買収し。米アップルも16年に関連技術者の公募を始めた。大阪府立大学の辰巳
砂昌弘教授は自動車向け全固体電池の実用化の時期を23年ごろと見込む。一方、リチウム空気電
池は正極の触媒で空気中の酸素を取り込む。その上で負極のリチウムと化学反応させて電気を起こ
す。理論的には従来の電池より高いエネルギー容量を実現できる。材料を減らせるので小型軽量化
やコスト削減が期待される。サムスンのほかに日本の物質・材料研究機構や東北大、トヨタなどが
研究開発を進める。これにともない、電池の市場も急拡大する。調査会社、富士経済によると16
年に1兆4千億円だったEVなど環境対応車向けの世界の電池市場は25年に6兆6千億円になる見
通し。素材など関連産業への波及効果も大きい。各国当局の動きを受け、独フォルクスワーゲンを
筆頭に米ゼネラル・モーターズ(GM)、日産自動車と世界の自動車メーカーは次々にEV戦略を
明らかにしている。急激なEVシフトは緩やかに進んでいたリチウムイオン電池の技術革新の背中
を押すだけでなく、その次の電池にステップする時期を前倒しするよう促している。

❏ 事例研究:三星電子株式会社
   特開
2017-199678 リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池

【概要】

リチウム金属電池用負極、及びそれを含むリチウム金属電池を提供する。リチウム金属またはリチウ
ム金
属合金を含むリチウム金属電極と、リチウム金属電極の少なくとも一部分に配置された保護膜とを含み、
保護膜のヤング率は、10Pa以上であり、1μmを超えて100μm以下のサイズを有する有機粒子、
無機
粒子及び有無機粒子のうちから選択された1以上の粒子を含むリチウム金属電池用負極、及びそれを
含んだリチウム金属電池の提供により、リチウム金属電池用負極は、機械的物性が改善された保護膜を具
備している。このような負極を利用すれば、充電時、体積変化が効果的に抑制され、サイクル寿命及び放
電容量が改善されたリチウム金属電池を製作することができる(詳細は下図クリック)。



【符号の説明】

10,40,50  集電体 11リチウム電極  12,23,42  保護膜 13,13a,13b
13c 粒子  13a’,13b’,43  マイクロスフィア  14,44  イオン伝導性高分子 
15,46 SEI 16 リチウム電着層  21,31  正極  22,32  負極  24  電解質 
24a  液体電解質 24b   個体電解質  24c セパレータ  30 リチウム金属電池  34 ケ
ース  41,51 リチウム金属電極 52 リチウムデントライト



● 今夜の寸評:不都合な進歩

体調が優れないというのに、山のような情報は相変わらず。それでも、腰痛で具合が悪いが宅トレ
は気分転換に好都合で3キロメートル/時に減速、英会話は3時間/日を1時間半に短縮。記事の
消化というとこれは好調時の1/3がやっと。日本でも『不都合な真実Ⅱ』が17日(金)より放
映されるという。オゾン層破壊ガスは全世界的な取り組みの成果で徐々に収束しつつあるようだ。
もとはといえばソーダーの電解生産の副産物塩素ガスのように自然界に存在しない化合物の発明か
らはじまり、塩化ビニル(水俣病など)、枯れ葉剤(ベトナム戦争など)・農薬(世界中)にはじ
まり熱冷媒の発明による(ハロゲンでも、塩素とフッ素の違いはあるが)。『デジタル革命渦論』
(第5産業革命)をベースに、エネルギー革命・電気自動車革命・AI革命・再生医療革命と、次
々と連鎖誕生している。そんな世の中にあって既得権益に守株する階層にとっては『不都合な進歩』
でもあると映画の公演を前に思う。十年もすれば今ある商品は機能・品質・生産性向上させながら
百分の一程度に下落していく時代にある。ゼロ金利政策と聞いて、わたし(たち)は大手金融会社
は本社を売り払い小さなビルに移るのかと連想したほど、経済運営は未踏の時代に入ると考えてい
たが、このようにわたし(たち)が20数年前に考えていたことがすべて現実のものになつている。
いや、それ以上の早さで進行しているものもあるのだが、それでいて怖くもあり、面白くもあるこ
とが妙であると感嘆す。

       

コメント
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