極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

セルフコミット・マイナス5キロ

2017年04月30日 | 医療健康術

            天下を天下に蔵すれば、遯(のが)るるところを得ず

                            大宗師(だいそうし)

                                                

      ※  大宗師:有限な人の営みは、やがては天に包摂される。天と人とは、別が
        あって別はない。天人合一の境地に逍遥する「真人」は、「道」そのまま
        の存在である。「道」を大いなる宗師として生きることこそ、人間努力の
        窮極目標なのである。

      ※ 人間の五体を与えられ、生を負うて苦しみ、老いを迎えて安らぎ、死を得
        て憩いにつく。これが人間の一生であるからには、生をよしとして肯定す
        るのと同様に、死もまたよしとして肯定できるはずではなかろうか。にも
        かかわらずわれわれは、やはり生への執着を断ちきれず、汲々として生を
        守ろうと努める。たとえてみれば、舟を谷間に隠し、網を沢に隠して、安
        全だと信じきっている漁師のようなものであろう。いかに巧みに隠したと
        ころで、並みすぐれた力を持つ誰かが、夜陰に乗じて盗み去るかも知れな
        いのだ。小さなものを大きなものの中に隠すというやり方では、いちおう
        は隠すことができるとしても、失わないという保証はない。

      ※ だが、こころみに天下を天下の中に隠してみるがよい。こうすれば、何ひ
        とつ失われるものがないということは、明々白々たる道理である。

 



● ハーゲンダッツ「ほうじ茶ラテ」登場 アイスクリームはカンブリアキア紀へ

コンビニで購入できるアイスの中でも人気の高いハーゲンダッツのミニカップから、✪上品なほうじ
茶の香りとミルクのコクと濃厚な味わいを感じられる「ほうじ茶ラテ」が今月25日に登場。❶初摘
み茶
葉と上品なうま味のミルクを合わせたほうじ茶ラテアイスクリームと、❷抽出エキスを使ったキ
レのある爽やかな後味で香り高いほうじ茶ラテアイスクリームという2種類のほうじ茶アイスをマー
ブル状に組み合わせたぜいたくな味わいが楽しめるとのふれこみ(試食はまだ)。今日は真夏並みの
暑さということで、庭の手入れが終わり、例の「アスパラミルクアイスクリーム」を頂く。わさびミ
ルクやいろんな種類のアイス菓子が、さながらカンブリア紀のように登場、猛暑となれば俄然、売り
上げは右肩上がり間違いなしだ。

 

【週刊MEGA地震予測 2017.04.26

ダブクリ参照

 依然、南関東地域は警戒レベル5!

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

    19.私の後ろに何か見える

 「読む価値はあると思う」と私は言った。
 「何をしている人?」と彼女は尋ねた。
 「森鴎外のこと?」
  彼女は顔をしかめた。「まさか。森鴎外なんてどうでもいい。あなたのことよ。何をしている
 人なの?」
 「絵を描いている」と私は言った。
 「画家」と彼女は言った。
 「そう言ってもいいと思う」
 「どんな絵を描いているの?」
 「肖像画」と私は言った。
 「肖像画って、あの、よく会社の社長室の壁に掛かっているような絵のこと? 偉い人が偉そう
 な顔をしているやつ」
 「そうだよ」
 「それを専門に描いているわけ?」

  私は肯いた。

  彼女はもうそれ以上絵の話はしなかった。たぶん興味を失ったのだろう。世の中の大抵の人間
 は、描かれる人間は別にして、肖像圃になんてこれっぽちも興味を持ってはいない。

  そのとき入り口の自動ドアが間いて、中年の長身の男が一人入ってきた。黒い革のジャンパー
 
を着て、ゴルフメーカーのロゴが入った黒いキャップをかぶっていた。波は入り口に立って店の
 中をぐるりと見回してから、我々のテーブルから二つ離れた席を選び、こちら向きに座った。帽
 子を説ぎ、手のひらで何度か髪を撫で、胸の大きなウェイトレスが特ってきたメニューを子細に
 眺めた。髪は短く刈り込まれ、白髪が混じっていた。痩せて、まんべんなく日焼けしていた。顔
 には波打つような深い皺が寄っていた。

 「男が一人入ってきた」と私は彼女に言った。
 「どんな男?」
  私はその男の外見的特徴を簡単に説明した。
 「絵に描ける?」と彼女は尋ねた。
 「似顔絵のようなもの?」
 「そう。だって圃家なんでしょう?」

  私はポケットからメモ帳を取りだし、シャープペンシルを使ってその男の顔を素早く描いた。
 陰翳までつけた。その絵を描きながら、男の方をちらちらと見る必要もなかった。私には人の顔
 の特徴を一目で素遠く捉え、脳裏に焼き付ける能力が具わっている。そしてその似顔絵をテーブ
 ル越しに彼女に差し出した。彼女はそれを手に取り、目を細め、まるで銀行員が疑わしい小切手
 の筆跡を鑑定するときのように、長い時間じっと睨んでいた。それからそのメモ用紙をテーブル
 の上に置いた。

 「ずいぶん絵が上手なのね」と彼女は私の顔を見て言った。少なからず感心しているようにも見
 えた。
 「それがぼくの仕事だから」と私は言った。「で、この男は君の知り合いなの?」

  彼女は何も言わず、ただ首を横に振った。唇をぎゅっと結んだきり、表情を変えなかった。そ
 して私の描いた終を四つに折り畳んで、ショルダーバッグにしまった。なぜ彼女がそんなものを
 とっておくのか、私には理由がよく理解できなかった。丸めて捨ててしまえばいいだけなのに。

 「知り合いではない」と彼女は言った。
 「でも君はこの男にあとを追われているとか、そういうこと?」

  彼女はそれには返事をしなかった。

  さっきと同じウェイトレスがチーズケーキとコーヒーを持ってやってきた。女はウェイトレス
 がいなくなるまでそのまま口を閉ざしていた。それからフォークでチーズケーキを一口分切り取
 り、皿の上で何度か左右に動かした。アイスホッケーの選手が水上で試合前の練習をしているみ
 たいに。やがてそのかけらを口に入れ、ゆっくり無表情に咀嚼した。食べ終えると、コーヒーに
 少しだけクリームを入れて飲んだ。そしてチーズケーキの皿を脇に押しやった。もうこれ以上は
 存在の必要がないというみたいに。


  駐車場には白いSUVが新たに加わっていた。ずんぐりとした背の高い車だ。頑丈そうなタイ
 ヤがついている。さっき入ってきた男が運転してきた車らしかった。頭から前向きに駐車してい
 る。荷室ドアにつけられた予備のタイヤ・ケースには「SUBARUFORESTER」とい うロゴが入
  っていた。私は海老カレーを食べ終えた。ウェイトレスがやってきて皿を下げ、私は
コーヒーを
 注文した。

 「長く旅行しているの?」と女が尋ねた。
 
「けっこう長くなる」と私は言った。
 「旅行は面白い?」

  面白いから旅行をしているわけではない、というのが私にとっての正し答えだった。しかし
 そんなことを言い出すと話が長く、ややこしくなってしまう。

 「まずまず」と私は答えた。

  彼女は珍しい動物でも見るような目で私を正面から見ていた。「すごく短くしか話さない人な
 のね」
  話す相手による、というのが私にとっての正しい答えだった。しかしそんなことを言い出すと
 また話が長く、ややこしくなってしまう。

  コーヒーが運ばれてきて、私はそれを飲んだ。コーヒーらしい味はしたが、それはどうまいも
 のではなかった。でも少なくともそれはコーヒーだったし、しっかり温かかった。そのあと客は
 誰も入ってこなかった。革ジャンパーを着た白髪混じりの男は、よく通る声でハンバーグステー
 キとライスを注文した。
  スピーカーからはストリングスの演奏する「フール・オン・ザ・ヒル」が流れていた。その曲
 を実際に作曲したのがジョン・レノンだったかポール・マッカートニーだったか、どちらか思い
 出せなかった。たぶんレノンだろう。私はそんなどうでもいいことを考えていた。他に何を考え
 ればいいか、わからなかったからだ。

 「車に乗ってきたの?」
 「うん」
 「どの車?」
 「赤いプジョー」
 「どこのナンバー?」
 「品川」と私は言った。

  彼女はそれを聞いて顔をしかめた。まるで品川ナンバーの赤いプジョーに、何かひどく嫌な思
 い出でもあるみたいに。それからカーディガンの袖をひっぱって直し、白いブラウスのボタンが
 きちんと上までかかっていることを確かめた。そして祇ナプキンで唇を軽く拭った。

 「行きましょう」と彼女は唐突に言った。

  そしてグラスの水を半分飲み、席から起ち上がった。彼女のコーヒーは一ロ飲まれたまま、チ
 ーズケーキは一ロ囓られたまま、テーブルの上に残されていた。まるで何か大きな惨事の現場の
 ように。
  どこに行くのかはわからなかったが、私も彼女のあとから起ち上がった。そしてテーブルの上
 の勘定書を手に取り、レジで代金を払った。女の注文したぶんも一緒になっていたが、彼女はそ
 れに対してとくにありがとうも言わなかった。白分のぷんを払おうという気配もまったく見せな
 かった。
  我々が店を出て行くとき、新しく入ってきた白髪混じりの中年の男は、とくに面白くもなさそ
 うにハンバーグステーキを食べていた。顔を上げて我々の方をちらりと見たが、それだけだった。
 またすぐ皿に目を戻し、ナイフとフォークを使って、無表情に料理を食べ続けた。女はその男に
 はまったく目をくれなかった。

  白いスバル・フォレスターの前を通り過ぎるとき、リアバンパーに魚の絵を描いたステッカー
 が貼ってあることに目を止めた。たぶんカジキマグロだろう。どうしてカジキマグロのステッカ
 ーを車に貼らなくてはならないのか、その理由はもちろんわからない。漁業関係者なのか、それ
 とも釣り師なのか。

  彼女は行く先を言わなかった。助手席に座り、道む道を簡潔に指示するだけだった。彼女はこ
 のあたりの道筋を熟知しているようだった。この町の出身か、あるいはここに長く往んでいるか、
 どちらかだ。私は指示されるままにプジョーを運転した。街から遠ざかるようにしばらく国道を
 道むと、派手なネオン・サインのついたラブホテルがあった。私は言われるままにその駐車場に
 入り、エンジンを切った。

 「今日はここに泊まることにする」と彼女は宣言するように言った。フっちに帰ることはできな
 いから。一緒に来て」
 「でも今夜はべつのところに泊まることになっているんだ」と私は言った。「チェックインもし
 たし、荷物も部屋に置いてある」
 「どこに?」

  私は鉄道駅の近くにある小さなビジネス・ホテルの名前をあげた。

 「そんな安ホテルより、こっちの方がずっといいよ」と彼女は言った。「どうせ押し入れくらい
 の広さしかないしけた部屋でしょ?」
 
  たしかにそのとおりだった。押し入れくらいの広さしかないしけた部屋だ。

 「それにこういうところはね、女が一人で来てもなかなか受け付けてくれないの。商売女だと思
 われて警戒されるから。いいからとにかく一緒に来て」

  少なくとも彼女は娼婦ではないのだ、と私は思った。
  私は受付で一泊ぷんの部屋代を前払いし(彼女はそれに対してもやはり感謝の素振りは見せな
 かった)、鐙を受け取った。部屋に入ると彼女はまず風呂に湯を入れ、テレビのスイッチを入れ、
 照明を細かく調節した。広々とした浴槽だった。たしかにビジネス・ホテルよりはずっと居心地
 が良い。女は以前にもここに――あるいはここによく似たところに――何度か来たことがあるよ
 うに見えた。それからベッドに腰掛けてカーディガンを説いだ。白いブラウスを説ぎ、巻きスカ
 ートを脱いだ。ストッキングもとった。とても簡素な白い下着を彼女は身につけていた。とくに
 新しいものでもない。普通の主婦が近所のスーパーマーケットに買い物に行くときに身につける
 ような下着だ。そして背中に器用に手を回してブラジャーをとり、畳んで枕元に置いた。乳房は
 とくに大きくもなく、とくに小さくもなかった。

 「いらっしやいよ」と彼女は私に言った。「せっかくこういうところに来たんだから、セックス
 をしよう」
  それが私かその長い旅行(あるいは放浪)のあいだに持った、唯一の性的な体験だった。思い
 のほか激しいセックスだった。彼女は全部で四度オーガズムを迎えた。信じてもらえないかもし
 れないが、どれも間違いなく本物だった。私も二度射精した。でも不思議なことに、私の側には
 それはどの快感はなかった。彼女と交わっているあいだ、私の頭は何か別のことを考えているみ
 たいだった。
 「ねえ、あなたひょっとして、ここのところけっこう長くセックスしてなかったんじやない?」
 と彼女は私に尋ねた。
 「何ケ月も」と私は正直に答えた。
 「わかるよ」と彼女は言った。「でも、どうしてかな? あなたって、そんなに女の人にモテな
 いようにも見えないんだけど」
 「いろいろと事情があるんだ」
 「かわいそうに」と女は言って、私の首を優しく撫でた。「かわいそうに」

  かわいそうに、と私は頭の中で彼女の言葉を繰り返した。そう言われると、本当に白分かかわ
 いそうな人間であるように思えた。知らない町の、わけのわからない場所で、事情も理解できな
 いまま、名前も知らない女と肌を重ねている。
  セックスとセックスの合間に、冷蔵庫のビールを二人で河本か飲んだ。眠ったのはたぶん午前
 一時頃だろう。翌朝目が覚めたとき、彼女の姿はとこにも見当たらなかった。書き置きのような
 ものもなかった。私は一人でやけに広いベッドに寝ていた。時計の針は七時半を指して、窓の外
 はすっかり明るくなっていた。カーテンを開けると海岸線と並行して走る国道が見えた。鮮魚を
 輸送する大型の冷凍トラックが、大きな音を立ててそこを行き来していた。世の中には空しいこ
 とはたくさんあるが、ラブホテルの部屋で朝に万人で目を覚ますくらい空しいことはそれほど多
 くないはずだ。

  私はふと気になって、ズボンのポケットに入れた財布の中身を点検してみた。中身はそのまま
 そっくり残っていた。現金もクレジット・カードもATMのカードも免許証も。私はほっとした。
 もし財布をとられたりしたら、途方に暮れてしまうところだった。そしてそういうことが起こる
 可能性だって、まったくなかったわけではないのだ。用心しなくてはならない。
  彼女はたぶん明け方に、私がぐっすり眠っているあいだに、一人で部屋を出て行ったのだろう。
 しかしどうやって町まで(あるいは彼女の住んでいるところまで)帰ったのだろう? 歩いて帰
 ったのか、それともタクシーを呼んだのか? でも私にとってそれはもうどうでもいいことだっ
 た。考えてどうなることではない。

  受付で部屋の鍵を返し、飲んだビールの代金を支払い、プジョーを運転して町に帰った。駅前
 のビジネス・ホテルの部屋に置きっぱなしにしたバッグを引き取り、一泊分の勘定を精算しなく
 てはならない。町に向かう道筋、昨夜人ったファミリー・レストランの前を通りかかった。私は
 そこで朝食をとることにした。ひどく腹が減っていたし、熱いブラック・コーヒーも飲みたかっ
 た。車を駐車スペースに停めようとしたとき、少し先に白いスバル・フォレスターを見かけた。
 前向きに駐車され、リアバンパーにはやはりカジキマグロのステッカーが貼られている。間違い
 なく昨夜見かけたのと同じスバル・フォレスターだ。ただ車が停まっているスペースは昨夜とは
 追っている。当たり前の話だ。こんなところで人がひと晩過ごすわけはない。

  私は店の中に入った。店はやはりがらがらだった。予想したとおり、昨夜と同じ男がテーブル
 席で朝食を食べていた。昨夜とおそらく同じテーブルで、昨夜と同じ黒い革のジャンパーを着て
 いた。昨夜と同じYONEXのロゴのついた黒いゴルフ・キャップが、テーブルの上に同じよう
 に置かれていた。昨夜と追っているのは、テーブルの上に朝刊が畳まれて置かれていることだけ
 だった。彼の前にはトーストとスクランブル・エッグのセットがあった。少し前に運ばれてきた
 ものらしく、コーヒーがまだ湯気を立てていた。私がそばを通りかかったとき、男は顔を上げて
 私の顔を見た。その目は昨夜見たときよりずっと鋭く、冷たかった。そこには非難の色さえうか
 がえた。少なくとも私にはそう感じられた。

  おまえがどこで何をしていたかおれにはちやんとわかっているぞ、と彼は告げているようだっ
 

  それが 宮城県の海岸沿いの小さな町で私か経験したことの一部始終だ。その鼻の小さな、歯
 並
びのひどくきれいな女が、その夜私に何を求めていたのか、今でもまるで理解できない。そし
 て、
白いスバル・フォレスターに乗っていた中年男が、果たして彼女のあとを追っていたのか、
 彼女
がその男から逃れようとしていたのか、それもはっきりとしない。しかしとにかく私はたま
 たま、
そこに居合わせ、不思議な成り行きによってその初対面の女と派手なラブホテルに入り、
 一夜か
ぎりの性的関係を持った。そしてそれは私がこれまでの人生で経験した中で、おそらく最
 も激し
いセックスだった。それなのに私はその町の名前さえ記憶していない

 「ねえ、水を一杯もらえないかな」、人妻のガールフレンドがそう言った。彼女はセックスのあ
 との短い午睡からついさっき覚めたばかりだった。
  我々は昼下がりのベッドの中にいた。彼女が眠っているあいだ、私は天井を見上げながら、そ
 の漁港の町で起こった不思議な出来事を思い返していた。まだ半年しか経っていないのに、それ
 はずいぶん遠い昔に起こったことのように私には思えた。

                                     この項つづく

 

 Apr. 25, 2017

【RE100倶楽部:風力発電篇】

● デンマークはどの国よりも早く再エネ補助金ゼロを達成する?!


補助金に頼って40年以上を経たデンマークの再生可能エネルギー産業は、誰よりも早く自ら生き残
る準備ができている。この事業開発は画期的であるが、地球温暖化の背後にある科学に疑問を呈して
いるドナルド・トランプ米大統領が、石炭産業の復活約束し風力発電の敵と見なす、グローバルなエ
ネルギー政策の方向性が疑わしい時である。

ラルス・クリスチャン・リレホルトエネルギー長官デンマークは、2050年までにエネルギー需要のす
べてを再生可能エネルギーでまかなうことを目標とし、13年後の2030年には、50%に達成を目標
としており、新規設備は補助金なしで建設される見通しである。暖房/輸送を含むすべてのエネルギ
ー消費を、再生可能エネルギー電力にシフト推奨しており、現に風力発電コストは、石炭火力発電よ
り下回り、2020年から2030年の間に目標は達成される見通しであると話す(上下写真ダブクリ)。

 


 ● 今夜の一曲

アンサーは、作詞・作曲:藤原基央/編曲「BUMP OF CHICKEN&MOR」のジェイ・ポップスの楽曲。
NHK総合テレビアニメ『3月のライオン』オープニングテーマ(10月 - 12月期)。テレビアニメ『3
月のライオン』のオープニングテーマでの書き下ろし。バンドは以前にも、『3月のライオン』に楽曲「
ファイター」を書き下ろし、こちらは同番組のエンディングテーマとして使用されている。配信リリ
ースと同時に、「アンサー」TVサイズ(アニメで実際に使用されているバージョン)のミュージック
ビデオが公開された。テレビアニメ『3月のライオン』を手掛けるアニメ会社、シャフトが監修した
史上初のミュージックビデオとなる。このように、藤原基央の作風は邦国コアとなりつつある(代表
例、井上陽水、中島みゆき、荒井由美、桑田佳祐、別格の宇多田ヒカルなど)。

 

 

   魔法の言葉庶えてる虹の始まったところ

   あの時世界の全てに一瞬で色がついた

   転ばないように気をつけて

   でもどこまでも行かなきゃ

   日射、さえつかめそうな手が酷ぐ令たかったから

   本当の声はいつだって正しい道を照らしてる

   何だって疑ってるからとっても強<摺じてる

   ら臓が勧いてることの吸って吐いてが続くことの

   心がずっと熱いことの

   確かな理由

   雲の向こうの銀がのように

   どっかで失した切符のように

   埋もれる前の歴史のように

   君が持っているから・・・

 

 

✪ セルフコミット・マイナス5キロ

連休の6、7日に山に登る予定をいれる。朝から、庭木の手入れ。体力の低下を実感。そこで、体
重を5キロ
ダウンする目標を設定。毎日、腹筋体操を強化(10回×3回/日→20回/日に変更)。

 

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懲りない面々

2017年04月28日 | 環境工学システム論

        泉涸れて魚あいともに陸に処り、あい呴(く)するに湿をもってし、
       あい濡おすに沫(あわ)をもってするは、江湖にあい忘るるにしかず


                            大宗師(だいそうし)

                                                

      ※  大宗師:有限な人の営みは、やがては天に包摂される。天と人とは、別が
        あって別はない。天人合一の境地に逍遥する「真人」は、「道」そのまま
        の存在である。「道」を大いなる宗師として生きることこそ、人間努力の
        窮極目標なのである。

      ※ 「道」そのままに生きる:乾上った池に棲む魚は、泥の上に身を寄せあい、
        たがいのあぶくで身を濡らしあっては、わずかに生を保とうとする。だが
        魚たちにしてみれば、かばいあってに生きるより、広々とした河海を自
        由に泳ぎ廻ることの方が、はるかに望ましいに相違ない。人間にしても同
        じこと、秩序の枠に押しこめられ、善を称揚し悪を排斥して暮らすよりは、
        善悪を超越して「道」そのままに生きる方が、はるかに好ましいはずであ
        る。

 

 No. 6

今回は、韓国の高速道路に大規模ソーラーレーンの話題を始めとして、圧空電池、バイオマス発電の
最新技術などを取り上げる。


【RE100倶楽部:太陽光発電篇】

● 韓国の高速道路に大規模な太陽光パネル

 

韓国の高速道路には、真ん中を走る素晴らしい太陽光発電バイクレーンがある。レーンはオフセット
され、障
壁によって保護され、太陽電池パネルによって保護される。この車線は首都ソウルから車で
数時間にある、大田から世宗まで約32マイル(51.5キロメートル)の距離に敷設されている(
自転車道はソーラーパネルの下を走る)。これは、将来的な通勤スタイルの自転車レーンをに実現す
るアイデアである。




【RE100倶楽部:蓄電池電篇】

● 最新圧空電池技術:圧縮空気貯蔵発電装置及び圧縮空気貯蔵発電方法

再生可能エネルギーのような不規則に変動する不安定なエネルギーを利用した発電の出力を平滑化す
る技術としては、余剰発電電力が生じた際に電気を蓄えておき電力不足時に電気を補う蓄電池が代表
的なものである。大容量蓄電池の例として、❶ナトリウム・硫黄電池、❷レドックスフロー電池、❸
リチウム蓄電池、❹及び鉛蓄電池などが知られている。これらの電池は、いずれも化学的な二次電池
であり、蓄えたエネルギーを電気の形式でしか出力できない。これに対し、神戸製鋼所では、圧縮機
から吐出される圧縮空気を蓄えておき、必要な時に空気タービン発電機等で電気に再変換する圧縮空
気貯蔵(CAES)技術が開発されてきた。

ところで、再生可能エネルギーにより発電した電力の出力先には、商用系統に電力として出力して売
電する場合、商用系統に戻すことなく発電所内または近接する需要家で消費することも考えられる。
このような需要家例としては、❶コンピュータの冷却に膨大な冷房が求められるデータセンタや、❷
製造工程における制約から一定温度に制御が必要な精密機械工場及び半導体工場がある。なお、大電
力を使用する需要家では、その使用電力の変動に応じて、使用電力が少ない際に蓄電し、使用電力が
増加した場合に放電して最大使用電力量を抑えるという節電手法に対するニーズもある。

この技術は、再生可能エネルギーのような不規則に変動する発電出力を平滑化すると共に、このよう
に変動する入力電力により効率的に冷熱利用できる圧縮空気貯蔵発電装置を提供することに特徴があ
るが、これらは、次のような7つの機能構成から実現される。

❶不規則に変動する入力電力により駆動される電動機
❷電動機と機械的に接続され、空気を圧縮する圧縮機
❸圧縮機により圧縮された圧縮空気を蓄える蓄圧部
❹蓄圧部から供給される圧縮空気によって駆動される膨張機
❺膨張機と機械的に接続された発電機
❻圧縮機から供給する圧縮空気と熱媒とで熱交換して圧縮空気を常温近傍まで冷却する第1熱交換器
❼作動流体である空気を常温以下の冷気として取り出す冷熱取出部

この構成によれば、蓄圧部により圧縮空気としてエネルギーを貯蔵することで、再生可能エネルギー
のような不規則に変動する発電出力を平滑化することができる。また、冷熱取出部により常温以下の
冷気を取り出す(冷熱を作り出す)ことで再生可能エネルギーのような不規則に変動する電力によっ
ても効率的に冷熱利用できる。

特に、商用電力を直接使用して冷熱を作り出す場合に比べて大幅に熱効率を向上できる。また、発電
に伴う膨張による吸熱を利用することで空気を効率的に冷却できるため、冷熱取出部として膨張機を
有効利用できる。ここで、第1熱交換器において圧縮空気は常温近傍まで冷却されるが、「常温近傍
」とは、圧縮空気が蓄圧部に貯蔵されている間に外気に放熱して、圧縮空気の保有するエネルギーを
大幅に損失しない程度の温度をいう。

【要約】

圧縮空気貯蔵発電装置2は、モータ8a、圧縮機10、蓄圧タンク12、膨張機14、発電機16、
第1熱交換器18a、冷熱取出部13を備える。モータ8aは、再生可能エネルギーを用いて発電し
た入力電力により駆動される。圧縮機10は、モータ8aと機械的に接続され、空気を圧縮する。蓄
圧タンク12は、圧縮機10により圧縮された圧縮空気を蓄える。膨張機14は、蓄圧タンク12か
ら供給される圧縮空気によって駆動される。発電機16は、膨張機14と機械的に接続されている。
第1熱交換器18aは、圧縮機10から供給される圧縮空気と熱媒とで熱交換して圧縮空気を常温近
傍まで冷却する。冷熱取出部13は、作動流体である空気を常温以下の冷気として取り出すことで、
不規則に変動する入力電力を平滑化すると共に、この入力電力によって効率的に冷暖房を行うことが
できる圧縮空気貯蔵発電装置を提供する。


【符号の説明】

    2  圧縮空気貯蔵発電装置(CAES発電装置)
    4  電力系統
    6  発電装置
    8a,8b  モータ(電動機)
    10  圧縮機
    10a  吸気口
    10b  吐出口
    12  蓄圧タンク(蓄圧部)
    13  冷熱取出部
    14  膨張機(冷熱取出部)
    14a  給気口
    14b  排気口
    16  発電機
    17  暖熱取出部
    18a  第1熱交換器(暖熱取出部)
    18b  第2熱交換器(冷熱取出部)
    18c  第3熱交換器(暖熱取出部)
    18d  第4熱交換器(暖熱取出部)
    18e  第5熱交換器(暖熱取出部)
    18f  第6熱交換器
    19  水供給部
    20a,20b,20c,20d  空気配管
    22  バルブ
    24  高圧蓄圧タンク(高圧蓄圧部)
    26  流量調整バルブ
    28  高圧圧縮機
    28a  吸気口
    28b  吐出口
    30  スイッチ
    32a,32b  蓄熱タンク
    34a,34b,34c,34d,34e  熱媒配管
    36a,36b,36c,36d,36e  ポンプ
    38  冷凍機(冷熱取出部)
    40  冷水配管
    42a,42b,42c  温水配管
    44  モード切替機構
    46  三方弁(モード切替機構)
    46a  第1ポート
    46b  第2ポート
    46c  第3ポート
    48  三方弁(モード切替機構)
    48a  第1ポート
    48b  第2ポート
    48c  第3ポート

【RE100倶楽部:バイオマス発電篇】

● 最新バイオマスボイラー技術:熱回収方法、及び熱回収装置

再生可能エネルギーの一つのバイオマス発電は、燃料によって分類されており、例えば、林地残材な
どの木材を燃料とするボイラを用いた木質バイオマス発電がある。木質バイオマス発電には、❶木材
を直接燃焼する蒸気タービン方式と、❷木質バイオマスからガスを発生させ、この木質バイオマスを
起源とするガスを燃焼させるガスタービン方式がある。本件は、ボイラで発生した排気ガスから熱エ
ネルギーを回収する熱回収装置及び熱回収方法に関するもので、小容量なボイラであっても、簡単な
構成でボイラ効率を高められる熱回収方法及び熱回収装置に関する新規考案である。

熱交換装置のボイラは、燃料を燃焼させて得た熱をボイラ水に伝えて、水を高温高圧の水蒸気や温水
に状態変化させる。発生させた水蒸気や温水は、種々の用途に利用され、例えば、水蒸気はタービン
発電、温水は暖房などに利用される。また、ボイラは、煙管型、水管型が代表的である。❶煙管型ボ
イラは、水缶内に複数の鋼管といった金属管が配置され、各管に燃焼ガスが導入されて管周囲の水を
加熱する。❷水管型ボイラは、燃焼室内に複数の水管が配置され、燃焼室内の燃焼ガスによって水管
内の水を加熱する。いずれの形式も、水と燃焼ガスとは管材によって分離され、燃焼ガスから水への
伝熱は、金属管や水管といった金属部材を介して行われる。つまり、密度の低いガスの顕熱を、金属
部材を介して水に伝達する構成である。

ここで、 ボイラ効率とは、ボイラに供給された燃料が完全燃焼することによって発生すべき熱量に対
する水蒸気や温水を発生するために実際に用いられた熱量との比率である。ボイラ効率は、一般に、
ボイラの容量が大きいほど高い傾向にある。例えば5MW程度以上といったMW級の発電には、従来、
発生蒸気量でいうと最高使用圧力が数MPa以上で、数10ton/h以上といった大容量のボイラ
を使用する。

上述の蒸気タービン方式の木質バイオマス発電に対して、水分量(含水率)が一定値以下の乾燥チッ
プと、既知の蒸気タービン(軸流タービン)とを用いて効率よく発電するためには、発電容量が2M
W~5MW、またはそれ以上が望まれる。この発電容量に対応した蒸気タービンは非常に大きく、非
常に大型のボイラが必要で、非常に大型の木質バイオマスボイラを併設したり、燃料となる木材を大
量に確保して供給したりすることは容易ではなく、実現が難しい。このため、木質バイオマス発電は、
発電以外の効果、例えば温排水の活用や加工木材の端材処理といった効果を期待して、❶既知の蒸気
タービン方式を用いる。小容量、例えば、0.5MW級以下の発電に対しては、近年、蒸気タービン
方式よりも❷ガスタービン方式を利用する傾向にあるが、ガスタービン方式では、構造が複雑で、特
別な操作条件が付加され、装置が高価である、などの様々な制限が未だ有り開発要素が残る。


一方、近年検討されている「中山間地域での木質バイオマス発電」は、小容量のボイラを多数分散さ
せて配置計画されている。ここでの使用が検討されるボイラの容量は、発電電力でいうと、1MW未
、特に500kW程度以下、主として300kW程度以下であり、発生蒸気量でいうと、最高使用
圧力が1MPa以下で、3ton/h~10ton/h程度である。このような小容量のボイラは、
上述の非常に大容量のボイラに比較してボイラ効率が低く、ボイラ効率の向上が望まれる。


ボイラ効率を高める方法のとして、例えば、液体熱媒体である水と燃焼温度との温度差を大きくする
方法があり、天然ガスを燃料とするガスボイラを用いたり、木質バイオマスボイラであれば乾燥チッ
プを用いて、燃焼温度を高めるが
、この場合、❶地産資源の木質バイオマス材の代わりに化石燃料で
ある天然ガスの入手が必要であったり、❷木材の乾燥設備などといった専用の設備や、❸専門知識を
有する技術者などが必要な上に、❹処理に時間がかかったりする。また、伐採直後の生木は、一般に
水分が多く、含水率が30質量%~50質量%程度である。天然乾燥された木材(以下、天然乾燥材
と呼ぶ)では、含水率が30質量%程度のものが多い。このような含水率が高い木材を燃焼させると、
木材中の水分を気化するために水1gあたりに約2260J(540cal)の熱量が利用される。
その結果、燃焼温度を十分に高められない。燃焼温度を高めるために、伐採材を人工的に強制乾燥し、
含水率を30質量%未満、好ましくは10質量%以下程度とする必要がある。伐採材のうち、含水率
が30質量%~50質量%程度であるものを生木、天然乾燥によって含水率が30%程度であるもの
天然乾燥材と呼ぶ。


 さらに、ボイラ効率を高める別の方法として、従来、エコノマイザーが知られている。エコノマイザーは、燃料を
燃焼し、生じた排気ガスをボイラ外に排出する煙道内に鋼管といった金属管を設置して、この管内に主として
水を供給し予熱する給水加熱器である。 排気ガスの発生量が多い大容量のボイラでは、エコノマイザーの利
用により、ボイラ効率を高められるが、小容量のボイラにエコノマイザーを付加しても、効率が良くない。エコノ
マイザーによる水への伝熱も上記金属管を介して行われるからである。詳しくは、気体(排気ガス)⇒固体(鋼
管など)⇒液体(水)という伝熱経路は、密度が相対的に非常に低い気体から密度が相対的に非常に高い固
体に熱を伝えることになるため、固体に熱が伝わり難い。

以上のことから、小容量のボイラを用いて、1MW未満程度の発電などの仕事を行う場合に簡単な構成であり
ながら、ボイラ効率を向上できることが望まれ、 特に、伐採材などの木材を入手し易いものの、専用の設備の
設置や専門技術者の配置などが難しい中山間地域、山林近くの小さな町村などで木質バイオマス発電を行う
場合に、ボイラの燃料に、伐採直後の生木を実質的にそのまま(例えば含水率が40質量%~50質量%程度
の木材)、又は天然乾燥材(例えば含水率が30質量%程度、好ましくは20質量%程度の木材)、又はこれら
を薪や一般的なチップにする程度の加工を行ったものなどを利用した場合でも、ボイラ効率の向上を実現させ
たい。近年、スクリュータービンなどと呼ばれる高効率で小容量の蒸気タービンが開発されてきているが、高効
率で小容量の蒸気タービンに適した、高効率で小容量のボイラの実用化が期待される。



【符号の説明】

  1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H  熱回収装置
  B  ボイラ  L  水(液体熱媒体)  S,S  水蒸気  G  排気ガス  H  水頭
  2A,2B,2E,2F,2G  液体槽
  3A,3B  導入管  4  排気管  5  圧力調整部  6  給液管
  7  排液管  8  接触促進部  9  熱交換部
  20  底面部  22  天面部  24,26  側面部
  30  ガイド管  32  噴霧室  320  噴霧器
  35  ガス分岐管  45  上流側分岐管  47  下流側分岐管
  450,470  バルブ
  50,52  ブロア  60  ポンプ  62  三方弁  70  バルブ
  80,82  仕切り部
  90  導入部  92  排出部  94  バルブ
  100  第一仕事部  102  第二仕事部
  110  液面計  112  水圧計  130  異物排出部  132  バルブ

  ● 今夜の一曲

 

(ラッドウィンプス)は、4人組ロックバンド(所属レコード会社はユニバーサルミュージック/所
属事務所は有限会社ボクチン)で、略称は「ラッド」。
バンド名の意味は、「すごい」「強い」「い
かした」という軽いアメリカ英語の俗語「RAD」と、「弱虫」「意気地なし」という意味の「WIMP
を組み合わせた造語。つまり、「かっこいい弱虫」「見事な意気地なし」「マジスゲーびびり野郎」
などの意味。彼らのアルバム『君の名は。』(きみのなは。)は、RADWIMPSのサウンドトラック。
新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』のために制作された映画音楽を収録。2016年8月
24日に、EMI Records(ユニバーサルミュージック)から発売。主題歌の「前前前世 )」は、2016年7
月5日放送のラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』にて初オンエアされ、同年7月25日からは音楽配信サイ
トにて先行配信される。


   やっと眼を覚ましたかい それなのになぜ眼も合わせやしないんだい?
   「遅いよ」と怒る君 これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ

   心が身体を追い越してきたんだよ

   君の髪や瞳だけで胸が痛いよ
   同じ時を吸いこんで離したくないよ
   遥か昔から知る その声に生まれてはじめて 何を言えばいい?

   君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
   そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ

   君が全然全部なくなって チリヂリになったって
   もう迷わない また1から探しはじめるさ
   むしろ0から また宇宙をはじめてみようか

   どっから話すかな 君が眠っていた間のストーリー
   何億 何光年分の物語を語りにきたんだよ けどいざその姿この眼に映すと

   君も知らぬ君とジャレて 戯れたいよ
   君の消えぬ痛みまで愛してみたいよ
   銀河何個分かの 果てに出逢えたその手を壊さずに どう握ったならいい?

   君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
   その騒がしい声と涙をめがけ やってきたんだよ

   そんな革命前夜の僕らを誰が止めるというんだろう
   もう迷わない 君のハートに旗を立てるよ
   君は僕から諦め方を 奪い取ったの

   前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
   そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ

   君が全然全部なくなって チリヂリになったって
   もう迷わない また1から探しはじめるさ何光年でも 
   この歌を口ずさみながら

                          作詞/作曲 野田洋次郎




英国で産業革命以来めて、24時間「石炭火力ゼロ」を記録したという。25年までに石炭火力ゼロ
が目標だというが、英国政府が発表している統計資料で、2016年10~12月期における電源構成のうち、
石炭が占める割合は9.3%だ。その他は天然ガスが45.2%、原子力発電所が20.3%、再生可能
エネルギーが22.2%だという。わたしは、再生可能エネルギーと省エネシステム&機器の普及で、
経済成
長と両立可能だと、さらに、「エネルギーフリー社会」がやがて実現できると考えているので、
原発再稼働
を繰り返す政府・電力会社に、懲りな面々だね~ぇとあきれ果てている。 

                                                   

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蛾とカミキリ虫の一穴

2017年04月27日 | 環境工学システム論

    好悪(こうあく)をもって内その身を傷(やぶ)らず、常に自然によりて生を益さず

                             徳充符(とくじゅうふ)

                                                

      ※  情問答:恵施が「聖人は情をもたぬというが、人間が情をもたぬことが
        可能だと考えているのか」と荘子に議論をふっかける場面で、「情をも
        たぬと言ったのは、情にとらわれぬということだ。好悪の念にとらわれ
        て、われとわが身を損うことなく、いっさいを自然にまかせて、人為的
        なつけ加えをしないということだ」と答える。

 

 

 A caterpillar that eats and digests plastic in record time | Science | DW.COM | 24.04.2017

【ZW倶楽部:続・マイクロプラスチック問題に光り ?】

一昨日、この話題を取り上げたが、26日、ナショナルジオグラフィック日本版の「プラスチック
べる虫を発見、ごみ処理には疑問」で、米国のウッズホール海洋研究所の海洋生物学者トレイシー・
ミンサーの見解――プラスチックごみの問題を解決するためには、生産量を減らし、リサイクルの量
を増やすことに重点を置くべきだとしている。ポリエチレンは高品質な樹脂で、より価値の高いさま
ざまな製品に“アップサイクル”できる。1トンにつき5百ドルで売れることもあるが(今回の研究
は学術的な研究としては大変すばらしい)、ポリエチレンの処分法として望ましい解決策とは思わな
い。
これではお金を捨てるようなものだ――を引用している。

✪大きさ5ミリメートル以下のプラスチック(➲ "マイクロプラスチック”)。世界中から海に流れ
 出るプラスチックの量は、推計最大1300万トン。それが砕け目に見えないほど小さくなり海に
 漂っている。“マイクロプラスチック”は、海水中の油に溶けやすい有害物質を吸着させる特徴を
 持ち、100万倍に濃縮させるという研究結果も出ていて、生態系への影響(➲マイクロプラスチ
 ックと残留性有機汚染物質
)が懸念されている。

  ハチノスツヅリガ

結論めいたことを言えば「マイクロプラスチック問題」は、マイクロプラスチックが野生生物と人間
の健康に及ぼす影響は、科学的に十分に検証されていないが、現在使用されているポリエチレンポリ
リン酸樹脂などの生分解性プラスチックへの完全代替で根源対策となる。問題は環境に拡散したこれ
をどのように回収するかということになる。ところで、関連技術情報によると(➲Evidence of polyeth-
ylene biodegradation by bacterial Strains from the guts of plastic-eating waxworms
.
Yang, J., Yang, Y., Wu, W.-
M., Zhao, J., and Jiang, L. Environ. Sci. Tech. 2014; 48: 13776–13784
)、
ポリエチレン(PE)は数十年間非
生分解性だと考えられてきたが、細菌培養によるPEの生分解は、ワックスワーム/インディアナミツ
バチ(Plodia interpunctellaの幼虫)がPEフィルムを噛み食べることを見出だされている。 Enterobacter
asburiae YT1
およびBacillus sp.YP1から、PEを分解する2つの菌株をこの虫の腸から単離している。PE
フィルム上の2つの菌株の28日間のインキュベーション期間にわたり、生存可能なバイオフィルム
が形成され、PEフィルムの疎水性が減少。 走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM
を用いて、PEフィルムの表面にピットおよび空洞(深さ0.3〜0.4μm)を含む損傷が観察されている。
カルボニル基の形成は、X線光電子分光法(XPS)および微量全反射/フーリエ変換赤外(マイクロA
TR / FTIR
)イメージング顕微鏡を用いて検証したところ、YT1/YP110 8細胞/ mL)の懸濁培養物は、
60日間のインキュベーション期間にわたって、PEフィルム(100mg)のそれぞれ約6.1±0.3%および
10.7±0.2%を分解する。 残留PEフィルムの分子量はより低く、12種の水溶性娘生成物の放出もまた
検出。その結果、ワックスワームの腸内にPE分解細菌が存在することが示され、環境中のPEの生分解
に関する有望な証拠が得られている。

Studies on the waxmoth Galleria mellonella, with particular reference to the digestion of wax by the larvae.
      Dickman, R. J. Cell. Comp. Physiol. 1933; 3: 223–246.




  Apr. 3, 2017


このように、
ワックス生分解の分子的詳細はさらに研究が必要であるが、これらの脂肪族化合物のC-
C
単結合は消化の標的の1つであり、PEフィルムをワックス虫と直接接触させたままの状態での孔の
出現および劣化したPEFTIR分析は、C-C結合の切断を含むPEの化学分解を示し、
G.メロネラ菌の炭
化水素消化活性が、生物自体に由来するか腸内細菌叢の酵素活性に由来するのか明確ではないものの
このような分解酵素などを、フィルターなどに担持じさせマイクロプラスチックを含んだ淡水/海水
と接触反応させこれを分解し、有害物質を除去分離できると考えるのでスケールは大きくなるが解決
可能だと考えている(このシステム特許申請対象該当する)。さらに、生分解専用人工酵素の開発、
あるいは、ナノグラフェン(上図参照)等の精密濾過法など憂苦だろう。参考までに「酵素担持フィ
ルタ及びその製造方法」の特許事例を掲載しておく。
 
✓ 特開2008-212824  酵素担持フィルタ及びその製造方法 東洋紡績株式会社


 No. 5

【RE100倶楽部:太陽光発電篇】

● 太陽光による完全自己充電型リチウムイオン電池  

今月10日、マギル大学らの研究グループは、太陽光を色素増感型光電変換素子からの電子を貯蔵す
る自己充電型リチウムイオン電池を公表(Light-assisted delithiation of lithium iron phosphate nanocrystals
towards photo-rechargeable lithium ion batteries,Nature Communications 8, Article number: 14643 (2017) , d
oi:
10.1038/ncomms14643)。
リチウムイオン電池は、電話機、タブレット、コンピュータなどのあらゆる
種類のモバイル機器の急速普及を実現させたが、これらはバッテリのエネルギー密度が限られ、頻繁
に再充電する必要がある。
スマートフォンは、オフィス内を持ち歩け、あらゆる種類のアプリケーシ
ョンが搭載され、多くの電力を必要としている。今回の発明は
、携帯型太陽電池型蓄電器開発につな
がる。これらのハイブリッドデバイスを実現するには、複雑な回路/パッケージ問題により小型化が
困難であったが、
この問題解決に、マギル大学とハイドロ・ケベック研究所の科学者たちは、光電
変換し、貯蔵できる単一機器、つまり自己充電型電池開発へと繋がったいう。ここまでを簡単にまめ
とめると、宮坂勉教授らの「ハイブリット型色素増感型太陽電池、あるいは、瀬川浩司教授らの蓄電
機能内包型色素増感型太陽電池の知財をベースとし、受光面の反対側のアノード側にリチウムイオン
電池配置している点が異なってい点であるが。言い換えれば、大きなリチウム電池表面を密封フィル
ムが施されたハイブリッド型色素増感型光電変換イングが塗布されている構成/構造の2次電池であ
ると言えるだろう。

最初の光二次電池は、1976年に提案された3硫化カドミウム/硫黄/硫化銀(CdSe/ S / Ag2S)から構成
する3電極電池。1977年には、3元系のn-セレシウムセレン化テルル化物/硫化セシウム/硫化スズ(
CdSe 0.65 Te 0.35 / Cs 2 S x / SnS)が開発、1990年には、ヨウ化タングステン酸銀(Ag 6 I 4 WO 4)を用
いた半導体シリコン/酸化ケイ素(PI aSi / SiO x)電極上の光反応で、SiO x 表面上に光増感効果が観測さ
れている。2012年にハイブリッドチタニア(TiO2
)/ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン、PEDOT)光ア
ノードと過塩素酸塩(ClO4)ドープポリピロール対電極の太陽電池の提案があり、2014年、酸化還元
結合色素光電極アシストリチウム - 酸素(Li-O 2)電池が、2015年には、独立電解質区画内のレドッ
クス――三ヨウ化物/ヨウ化物(I >3- / I -)を使用するリン酸鉄リチウム(LiFePO4 ; LFP)/リチウム金
属セルを含む3電極システムにTiO2ベースの電極を組み込んみ、同年Li ベースのセル(LFPカソード/
L
i 4 Ti 5 O 12アノード)と直列のペロブスカイトメチルアンモニウムヨージド(CH 3 NH 3 PbI 3)ベー
スの太陽電池を接続し、良好なサイクル安定性を観測。 また、TiN電極上で生成
された光電子が電池
放電をアシストする一方で、硫酸ナトリウム(KFe [Fe(CN) 6]および窒化チタン(TiN)を使用する化
学的に再充電可能な光電変換蓄電池を、CdSe@ Pt光触媒をLi-S 電池が提案されている。さらに、I 3
  I
ベース陰極液を用いてTiO 2-色素光電極で
、光 -充電式Li-iodideフロー電池が、同年にLi-O 2 電池
の充電電圧低下にグラファイト炭素窒化物(C3 N4)光触媒が提案される。

本論文では、N719色素をハイブリッド光電陰極、Li 金属を陽極、LiPF6 有機カーボネート溶媒(EC /
DEC/VC
)電解液の存在下、光照射によるLFP/ナノ結晶の直接光酸化を含む2電極システムである
。 
LFPは安定性と安全性、および酸化還元電位が良好で、LFPをカソード材料しています。 後者の3.4V
Li + / Liは、1991年にO'ReganGrätzelにより発明された色素増感太陽電池セル――古典的なI 3 - / I -
酸化還元対(約 3.1V対 Li + / Li)に近い。 色素増感は、アノードでの固体電解質界面(SEI)の形
成における酸素還元を介し利用される陰極のFePO 4 (ヘテロサイト)へのLFP(トリフィライト)ナ
ノプレートレットの化学変換補の正孔と電子 - 正孔対を生成する炭酸リチウムベースで構成される。 
LFPの光アシスト脱離は、定電流放電で可逆的な2電極装置の構成に基づき、光充電式リチウムイオ
ン電池の可能性をもつ(以降、下図ダブクリ参照――詳細は後日別途掲載)。 
 

 

       

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

    19.私の後ろに何か見える

   土曜日の午後の一時に、ガールフレンドが赤いミニに乗ってやってきた。私は外に出て彼女を

 迎えた。彼女は緑色のサングラスを掛け、ベージュのシンプルなワンピースの上に軽いグレーの
 ジャケットを羽織っていた。

 「車の中がいい? それともベッドの方がいい?」と私は尋ねた。
 「馬鹿ねえ」と彼女は笑って言った。
 「車の中心なかなか悪くなかった。狭い中でいろいろと工夫するところが」
 「またそのうちにね」
 
  我々は居間に座って紅茶を飲んだ。少し前から取り組んでいた免色の肖像画(らしきもの)を
 無事に完成させたことを、私は彼女に話した。そしてその緑は、私かこれまで業務として描いて
 いたいわゆる「肖像画」とはずいぶん違う性質の心のになってしまったことを。話を間いて、彼
 女はその緑に興味を持ったようだった。

 「私がそれを見ることはできる?」私は首を振った。
 「一日遅かったね。君の意見も聞いてみたかったんだけど、免色
さんがもう家に持ち帰ってしまった。
 まだ絵の具も十分に乾いていないんだけど、一刻も早く自分のものにしたいみたいだった。まるで他の誰
 かに持って行かれるんじやないかと心配しているみたいに」
  「じやあ、気に入ったのね」
  「気に入っていると本人は言ったし、それを疑う理由もとくに見当たらなかった」
  「絵は無事に完成して、依頼主にも気に入ってもらえた。つまりすべてはうまくいったととね?」
  「たぶん」と私は言った。「そしてぼく自身も絵の出来に手応えを感じてにぼくが描いたことのない種類の
 絵だったし、そこには新しい可能性みたると思うから」

  「新しいスタイルの肖像画ということかしら」

  「さあ、どうだろう。今回は免色さんをモデルにして描くことを通して、その方法にたどり着くことができた。
 つまり肖像画というフレームをとりあえず入り口にすることで、たまたまそれが可能になったということかも
 しれない。もうコ伎同じ方法が通用するのかどうか、それはぼくにもわからない。今回は特別だったのかも
 しれない。免色さんというモデルがたまたま特殊な力を発揮したのかもしれない。でも何より大事なことは、
 ぼくの中にまた真剣に絵を描きたいという気持ちが生まれたことだと思う」

  「とにかく、絵が完成しておめでとう」
  「ありがとう」と私は言った。「少しまとまった額の収入が得られることにもなる」 
  「とても気前の良いメンシキさん」と彼女は言った。
  「そして免色さんは、緒が完成したことを視って、自宅にぼくを招待してくれている。火曜日の夜、夕食を
 一緒にするんだ」

  私はその夕食会のことを彼女に話した。もちろんミイラを招待したことは抜きにして。プロのコックとバー
 テンダー、二人きりの夕食会。

  「あなたはようやく、あの白亜の邸宅に足を踏み入れることになるのね」と彼女は感心したように言った。
  「謎の人の住む謎のお屋敷に。興味津々。どんなところだかよく見てきてね」
  「目の届く限り」
  「出てくる料理の内容も忘れないように」
  「できるだけ覚えておくようにする」と私は言った。「ところでこのおいたたしか、免色さんについて何か新
 しい情報が手に入ったと言っていたよね」
  「そう、いわゆる『ジャングル通信』で」
  「どんな情報なんだろう?」
 
   彼女は少し迷ったような顔をした。そしてカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだ。
  「その話はもっとあとにしない」と彼女は言った。「それより前に少しばかりやりたいことがあるから」
  「やりたいこと?」
  「口にするのがけばかられるようなこと」

  そして我々は居間から寝室のベッドに移動した。いつものように。
  私は六年間、ユズと共に最初の結婚生活を送っていたわけだが(前期結婚生活、と呼んでいい
 だろう)、そのあいだ他の女性と性的な関係を持ったことは一度もなかった。そういう機会がま
 ったくなかったわけではないのだが、私はその時期、よその場所に行って別の可能性を追求する
 よりは、妻と一緒に穏やかに生活を送ることの方により強い興味を持っていた。また性的な観点
 から見ても、ユズと日常的にセックスをすることで私の性欲は十分満たされていた。

  しかしあるとき妻が何の前触れもなく(と私には思える)「とても悪いと思うけど、あなたと
 一緒に暮らすことはこれ以上できそうにない」と打ち明ける。それは揺らぎのない結論であって、
 交渉や妥協の余地はとこにも見当たらない。私は混乱し、どう反応すればいいのかわからない。

  
言葉が出てこない。でもとにかくもうここにいられなということだけは理解できる。
  だから身の回りの荷物を簡単にまとめて古いプジョー205に積み込み、放浪の旅に出る。春
 の初めの一ケ月半ばかり、まだ寒さの残る東北と北海道を私は移動し続ける。とうとう車が壊れ
 て動かなくなるまで。そして旅をしているあいだずっと、夜になると私はユズの身体を思い出し
 た。その肉体のひとつひとつの細かい部分まで。そこに手を触れたときに彼女がどんな反応を見
 せ、どんな声をあげるか。思い出したくはなかったのだが、思い出さないわけにはいかなかった。
 そしてときおり、私はそのような記憶を辿りながら一人で射精した。そんなこともしたくはなか
 ったのだけれど。

  でもその長い旅行のあいだ、ただ一度だけ生身の女性と性交したことがある。わけのわからな
 い不思議な成り行きで、私はその見知らぬ若い女と一度のベッドを共にすることになった。私の
 方から求めてそういうことになったわけではなかったのだが。
  それは宮城県の海岸沿いの小さな町での出来事だった。岩手県との県境に近いあたりだったと
 記憶しているが、その時期私は日々細かく移動を続け、似たような町をいくつも通過してきた。
 町の名前をいちいち覚えている余裕もなかった。大きな漁港があったことを覚えている。しかし
 そのへんの町にはたいてい大きな漁港があった。そしてどこにもディーゼル油と魚の匂いが漂っ
 ていた。

  町外れの国道沿いにファミリー・レストランがあり、そこで私は一人で夕食をとっていた。午
 後の八時頃のことだ。海老カレーとハウスサラダ。店の中に客は数えるほどしかいなかった。私
 か窓際のテーブルで、一人で文庫本を読みながら食事をしていると、私の向かいの席に出し抜け
 に一人の若い女が座った。彼女はまったく躊躇することもなく、私にひとこと断るでもなく、無
 言でそのビニール張りのシートに素遠く腰を下ろした。まるで世界中にこれ以上当たり前のこと
 はないという様子で。

  私は驚いて顔を上げた。もちろんその女の顔に見覚えはなかった。まったくの初対面だ。突然
 のことなので、事情がよく理解できなかった。テーブルは他にいくらでも空いている。わざわざ
 私と相席するような理由はない。あるいはこの町では、こんなことはむしろありふれた出来事な
 のだろうか? 私はフォークを置いて、紙ナプキンで口許を拭い、彼女の顔をぼんやり眺めてい
 た。

 「知り合いのような顔をして」と彼女は手短に言った。「ここで待ち合わせをしていたみたいな」。
 ハスキーな声と言っていいかもしれない。あるいは緊張が彼女の声を一時的にしやがれさせてい
 
るだけかもしれない。声には徴かな東北誼りが聞き取れた。
  私は読んでいた本にしおりをはさんで閉じた。女はたぶん二十代半ばだろう。襟の丸い白いブ
 ラウスに、紺色の力ーディガンを羽織っていた。どちらもあまり上等なものとは言えない。とく
 に洒落てもいない。人が近所のスーパーマーケットに買い物に行くときに着ていくような、ごく
 普通の服だ。髪は黒く短く、前髪が顔に落ちていた。化粧気はあまりない。そして黒い布製のシ
 ョルダーバッグを膝に載せていた。

  これという特徴のない顔立ちだった。顔立ちそのものは悪くないのだが、それが与える印象が
 希薄なのだ。通りですれ違ってもほとんど印象に残らない顔だ。そのまま通り過ぎて忘れてしま
 う。彼女は薄くて長い唇をまっすぐ結び、鼻で呼吸していた。呼吸がいくらか荒くなっているよ
 うだった。鼻孔が小さく膨らみしぼんだ。鼻は小さく、口の大きさに比べてバランスを欠いてい
 た。まるで塑像を追っている人が途中で粘土が足りなくなって、鼻のところを少し削ったみたい
 に。

 「わかった? 知り合いのような顔をしていて」と彼女は繰り返した。「そんなびっくりした顔
 「いいよ」とわけがわからないまま私は返事をした。
 「そのまま普通に食事を続けて」と彼女は言った。「そして私と親しく話をしているふりをして
 くれる?」
 「どんな話を?」
 「東京の人なの?」 私は肯いた。フォークを取り上げ、プチトマトをひとつ食べた。そしてグラ
 スの水をひとくち飲んだ。

 「しゃべり方でわかる」と彼女は言った。「でもどうしてこんなところにいるの?」
 「たまたま通りかかったんだ」と私は言った。

  生姜色の制服を着たウェイトレスが、分厚いメニューを抱えてやってきた。驚くほど胸の大き
 なウェイトレスで、制服のボタンが今にもはじけ飛びそうに見えた。私の向かいに座った女はメ
 ニューを受け取らなかった。ウェイトレスの顔さえ見上げなかった。私の顔をまっすぐ見ながら
 「コーヒーとチーズケーキ」と言っただけだった。まるで私に注文するみたいに。ウェイトレス
 は黙って肯き、持ってきたメニューをそのまま抱えて歩き去った。
 「何か面倒なことに巻き込まれているの?」と私は尋ねた。

  彼女はそれには答えなかった。まるで私の顔を値踏みするみたいにじっと見ているだけだった。

 「私の後ろに何か見える? 誰かいる?」と彼女は尋ねた。

  私は彼女の背後に目をやった。普通の人々が普通に食事をしているだけだ。新しい客も入って
 きていない。

 「何もない。誰もいない」と私は言った。
 「もう少しそのまま様子を見ていて」と彼女は言った。「何かあったら教えて。さりげなく会話
 を続けて」

  我々の座ったテーブルから店の駐車場が見えた。私の埃だらけの小さな古いプジョーが駐まっ
 ているのが見えた。他には二台の車が駐まっていた。銀色の軽自動車が一台と、背の高い黒のワ
 ンボックス・カーだ。ワンボックス・カーは新車のように見える。どちらもしばらく前から駐ま
 っている。新しくやってきた車は見えない。女はたぶん歩いてこの店まで米たのだろう。それと
 も誰かに車でここまで送ってもらったか。

 デカ文字文庫

 「たまたまここを通りかかった?」と女が言った。
 「そうだよ」
 「旅行をしているの?」
 「まあね」と私は言った。
 「どんな本を読んでいたの?」

  私は読んでいた本を彼女に見せた。それは森鴎外の『阿部一族』だった。
 「『阿部一族』」と彼女は言った。そして本を私に通した。「どうしてこんな古い本を読んでい
 るの?」
 「少し前に泊まった青森のユースホステルのラウンジに置いてあったんだ。ぱらぱら読んでみた
 ら面白そうだったので、そのまま持ってきた。かわりに読み終えた本を何冊か置いてきた」
 「『阿部一族』って読んだことないわ。面白い?」

  私はその本を読み終え、もう一度読み返していた。話がなかなか面白かったこともあるが、
 鸚外がいったい何のために、どのような観点からそんな小説を書いたのか、書かなくてはならな
 かったのか、うまく理解できなかったということもある。でもそんな説明を始めると話が長くな
 る。ここは読書クラブではな い。それにこの女は二人で自然に会話をするために(少なくとも
 そのように周りの目には映ることを目的として)、目についた適当な話題を持ち出しているだけ
 なのだ。

                                                         この項つづく 

   ● ドバイ世界博覧会で飛行タクシー

  蛾とカミキリ虫の一穴:大切なバランス感覚



 

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茹でるパンと好奇心

2017年04月25日 | 環境工学システム論

                徳長ずるところあれば、形忘るるところあり

                       徳充符(とくじゅうふ)

                                               

      ※  天に養われる:徳が長ずるにしたがって、人は形を忘れてゆく。逆に、
                形を忘れない者は徳を忘れる。これこそまことの忘失というものだ。
               したがって、全き徳を抱く聖人は何ものにもとらわれぬ。かれは知を
        ひこばえのようなものとみる。

 (ひこばえ)

 Published online:Apr 19,  2017

【ZW倶楽部:廃棄ガラスから高性能蓄電池をつくる】

今月19日、カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)の研究グループは、廃棄ガラス瓶から、
気自動
車やパーソナ電子機器用の高性能リチウムイオン電池の製造に成功したことを公表。廃棄ガラ
ス瓶を使い低コストで、高性能リチウムイオン電池のナノシリコン陽極の製造を行った。
この電池は
電気自動車とプラグインハイブリッド電気自動車、携帯電話やラップトップ電子機器向けの省エネに
して高出力な電力供給できる(この研究経過は、Nature journalのScientific Reportsに掲載:上図ダブク
リ参照)。毎年何十億本ものガラス瓶が埋め立て処分される廃棄飲料用瓶の二酸化ケイ素を再資源化
し、リチウムイオン電池用の高純度シリコンナノ粒子の製造方法研究課題としてきた。

従来の黒鉛陽極材と比較して、最大10倍ものエネルギーを蓄電可能だが、充放電時の膨張/収縮に
よる不安定となる問題を抱えるが、
シリコンをナノスケールにダウンサイジングすることで、この問
題が軽減される。同上グループ
は、比較的純粋で豊富な二酸化ケイ素を低コストな化学反応で、従来
の黒鉛陽極材より約4倍のエネルギー貯蔵できるリチウムイオンハープ電池をつくる――3
段階プロ
セス、❶ガラス瓶を細かく粉砕、❷マグネシア熱還元法で――高温でマグネシウムで還元させ、複雑
な形状を保持しながら――ケイ素中のシリカ含有量を逓減し、二酸化ケイ素をナノ構造のシリコンに
変換し、❸
安シリコンナノ粒子を炭素でコーティングすることで安定性/エネルギー貯蔵性の改善す
る。


  Apr. 19, 2017

✪ガラス瓶とそれから作られた陽極材料(写真/上)

カーボン被覆ガラス誘導シリコン電極は、C / 2速度、400サイクル試験で、〜1420mAh / gの容量で優れた電
気化学的性能を示し、予想どおり、ガラス瓶由来シリコン陽極使用したコイン型電池は、従来の電池を大きく
上回わる成果を得る。また、1本の廃棄ガラス瓶で、数百個のコイン型電池または3〜5個のパウチ型電池用
ナノシリコンを供給できる量である。

   YouTube



【ZW倶楽部:マイクロプラスチック問題に光り?】

今月24日、ふだんは釣り餌として養殖されているガの幼虫が、耐久性の高いプラスチックを食べる
ことを発見した。レジ袋などのプラスチックごみによる環境問題への対策にこの幼虫が一助となる可
能性がある。
英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)のパオロ・ボンベーリ教授は、今回の発
見は、ごみ処理場や海洋に蓄積しているポリエチレン製のプラスチックごみ除去に寄与する重要な手
段となる可能性があるとする。この幼虫は
ハチノスツヅリガ(学名:Galleria mellonella)。成虫がミ
ツバチの巣に卵を産み付け、幼虫がこれを餌とする。
フェデリカ・ベルトッチーニ(Federica Bertocch-
ini
) 生物学者が、幼虫が湧いてしまったハチの巣をプラスチック袋に入れておいたところ、多くが
穴を開けて外に這い出しているのを発見。
幼虫数百匹をレジ袋の上に乗せて実験を行ったところ、40
分後には複数の穴を確認、さらに12時間後には、92ミリグラムが食べられていたが、そのスピー
ドは、真菌や微生物よりも格段に速い。

 Apr. 24, 2017

 

 




      

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

   18.好奇心が殺すのは猫だけじゃない

 「免色さんも暗闇には気をつけて下さい」
  免色はそれには返事をせず、私の顔をひとしきり見上げていた。下を向いている私の表情の中
 に何かの意味を読み取るうとしているみたいに。しかしその視線にはどことなく漠然としたとこ
 ろがあった。まるで私の顔に焦点を合わせようとして、うまく合わせられないような。それはあ
 まり免色らしくない、どこかあやふやな視線だった。板はそれから思い直したように地面に腰を
 下ろし、湾曲した石壁に背中をもたせかけた。そして私に向かって小さく手を上げた。準備はで
 きている、ということだ。私は梯子を引き上げて、厚板をできるだけぴたりと穴の上に被せ、そ
 の上にいくつか重しの石を置いた。木材と木材のあいだの細い隙間から少しくらいは光が入って
 くるだろうが、それで穴の中はじゆうぷん暗くなったはずだった。私は蓋の上から中にいる免色
 に何か声をかけようかと思ったが、思い直してやめた。私は孤独と沈黙を自ら求めているのだ。

  私は家に帰って湯を彿かし、紅茶をいれて飲んだ。そしてソファに座って読みかけの本を読ん

 だ。しかし鈴の音が聞こえないかとずっと耳を澄ませていたので、なかなか読書に意識を集中す
 ることができなかった。ほとんど五分ごとに腕時計に目をやった。そして真っ暗な穴の底に一人
 で座っている免色の姿を想像した。不思議な人物だ、と私は思った。自分で費用を持ってわざわ
 ざ造園業者を呼び、重機を使って石の山をどかせ、わけのわからない穴の口を聞いた。そして今
 はその中に一人で閉じこもっている。というか、自ら志願してそこに閉じ込められている。

  まあいいさ、と私は思った。そこにどんな必然性があるにせよ、意図があるにせよ(もし何ら
 かの必然性や意図があるとすればだが)、それは免色の問題であって、すべて彼の判断に任せて
 おけばいいのだ。私は他人が描いた図の中で、何も考えずに勤いているだけだ。私は木を読むの
 をあきらめてソファに横になり、目を閉じた。でももちろん眠りはしなかった。今ここで眠って
 しまうわけにはいかない。


 
  結局鈴は鳴らないまま、一時間が経過した。あるいは私は何かの加減で、その音を聞き逃した
 のかもしれない。いずれにせよ蓋を開ける時刻だった。私はソファから立ち上がり、靴を履いて
 外に出て、雑木林の中に入った。スズメバチだかイノシシが現れるのではないかとふと不安にな
 ったが、スズメバチもイノシシも現れなかった。メジロのような小さな鳥が目の前を素進く横切
 っただけだった。私は林の中を進み、祠の裏にまわった。そして重しの石を取って、板を一枚だ
 けどかせた。

 「免色さん」と私はその隙間から声をかけた。しかし返事はなかった。隙間から見える穴の中は
 真っ暗で、そこに免色の姿を認めることはできなかった。
 「免色さん」と私はもう一度呼びかけてみた。しかしやはり返事はない。私はだんだん心配にな
 ってきた。ひょっとして免色は姿を消してしまったのかもしれない。そこにあるはずのミイラが
 どこかに姿を消してしまったのと同じように。常識ではあり得ないことだったが、そのときの私
 は真剣にそう考えた。

  私はをもう一枚、手早くどかせた。そしてまた一枚。それで地上の光がようやく穴の底まで
 届いた。そしてそこに座り込んでいる免色の輪郭を、私は目にすることができた。
 「免色さん。大丈夫ですか?」と私は少しほっとして声をかけた。
  免色はその声でようやく意識が戻ったように顔を上げ、小さく頭を振った。そしていかにも眩
 しそうに両手で顔を覆った。
 「大丈夫です」と彼は小さな声で答えた。「ただ、もう少しだけこのままにしておいてくれませ
 んか。目が光に慣れるのに少し時間がかかります」
 「ちょうどT時間経ちました。もっと長くそこに留まりたいというのであれば、また蓋をします
 が」

  免色は首を振った。「いや、もうこれで十分です。今はもういい。これ以上ここに居ることは
 できません。それは危険すぎるかもしれない」  

 「危険すぎる?」

 「あとで説明します」と免色は言った。そして皮膚から何かをこすり落とすみたいに、両手でご
 しごしと顔をさすった。

  五分ほどあとに彼はそろそろと立ち上がり、私が下ろした金属製の梯子を登ってきた。そして
 再び地上に立ち、ズボンについた埃を手で払い、それから目を細めて空を仰いだ。樹木の枝の間
 から青い秋の空か見えた。彼は長いあいだその空を愛おしそうに眺めていた。それから我々はま
 た板を並べて、穴を元通りに塞いだ。人が誤ってそこに落ちたりしないように。そしてその上に
 重しの石を並べた。私はその石の配置を頭に刻んでおいた。誰かがそれを勣かしたときにわかる
 ように。梯子は穴の中にそのまま残しておいた。

 「鈴の音は聞こえませんでした」と私は歩きながら言った。


  免色は首を振った。「ええ、鈴は鳴らしませんでした」 
  彼はそれ以上何も言わなかったので、私も何も尋ねなかった。

  我々は歩いて雑木林を抜け、家に戻った。免色が先に立って歩き、私はそのあとに従った。免
 色は無言のまま、懐中電灯をジャガーのトランクにしまった。それから我々は居間に腰を下ろし、
 熱いコーヒーを飲んだ。免色はまだ口を間かなかった。何かについて真剣に考え込んでいるよう
 だった。とくに深刻な領をしたりするわけではないのだが、彼の意識がここから遠く離れた別の
 領域に移ってしまっていることは明らかだった。そしてそこはおそらく、彼一人の存在しか許さ
 れない領域なのだ。私はその邪魔をせず、彼を思考の世界にひたらせておいた。ちょうどシャー
 ロック・ホームズに対してドクター・ワトソンがそうしていたように。



  私はそのあいだとりあえずの自分の予定について考えていた。今日の夕方には車を運転して地
 上に降り、小田原駅の近くにある絵画教室に行かなくてはならない。そこで人々の描く絵を見て
 まわり、講師としてそれにアドバイスを与える。子供向けの教室と成人教室が続けてある日だ。
 それは私が日常の中で生身の人々と顔をあわせ、会話を交わすほとんど唯一の機会だった。もし
 その教室がなかったら、私はこの山の上で隠者同然の生活を送ることになっていただろうし、そ
 んな一人きりの生活を続けていたら、政彦が言うように、精神のバランスが変調をきたしていた
 かもしれない(あるいはもう既にきたし始めているのかもしれないが)。



  だから私としてはそのような現実の、言うなれば世俗の空気に触れる機会を与えられたことを
 感謝しなくてはならなかったはずだ。しかし実際には、なかなかそういう気持ちになれなかった。
 教室で顔を合わせる人々は私にとって、生身の存在というよりは、ただ目の前を通り過ぎていく
 影みたいなものに過ぎなかった。私は一人ひとりににこやかに応対し、相手の名前を呼び、作品
 
を批評する。いや、批評とは呼べない。私はただ褒めるだけだ。ひとつひとつの作品にどこかし
 ら良き部分を見つけて――もしなければ適当にこしらえて――褒める。

  そんなわけで講師としての私の、教室内での評判は悪くないらしい。経営者の話によれば、多
 くの生徒が私に好感を持ってくれているようだ。それは私にとっては予想外のことだった。自分
 か他人にものを教えるのに向いていると思ったことは一度もなかったから。しかしそれも私にと
 ってはどうでもいいことだ。人々に好かれても好かれなくても、どちらでもかまわない。私とし
 てはできるだけ円滑に、支障なくその教室の仕事がこなせればいい。そうすることで雨田政彦に
 対する義理は果たされる。

  いや、もちろんすべての人々が影であるわけではない。私はその中から二人の女性を選んで、
 個人的な交際をするようになったのだから。私と性的な関係を持つようになってから、彼女たち
 は絵画教室に通うことをやめた。たぶんなんとなくやりにくかったからだろう。そのことで私は
 責任のようなものを感じないでもなかった。
  二人目のガールフレンド(年上の人妻)は明日の午後にここに来る。そして我々はしばしの時
 間ベツドの中で抱き合い、交わり合うだろう。だから彼女はただの通り過ぎていく影ではない。
 立体的な肉体を具えた現実の存在だ。あるいは立体的な肉体を具えた通り過ぎていく影だ。どち
 らなのか、私にも決められない。

  免色が私の名前を呼んだ。私はそれではっと我に返った。知らないうちに私も、一人で深く考
 え込んでしまっていたようだった。 
  

 「それは私の肖像画のことですか?」
 「そうです」と私は言った。
 「それは素晴らしい」と免色は言った。顔には微かな笑みが浮かんでいた。「実に素晴らしい。
 しかしそのある意味というのはどういうことなのでしょう?」
 「それを説明するのは簡単じゃありません。何かを言葉で説明するのが、もともと得意じゃない
 んです」

  免色は言った。「ゆっくり時間をかけて、好きなように話して下さるから」
  私は膝の上で両手の指を組んだ。そして言葉を選んだ。

  私が言葉を選んでいるあいだ、まわりに沈黙が降りた。時間の流れる音が聴き取れそうなほど
 の沈黙だった。山の上では時間はとてもゆっくりと流れていた。

  私は言った。「ぼくは依頼を受け、あなたをモデルにして一枚の絵を描きました。しかし正直
 に申し上げて、それはどう見ても〈肖像画〉と呼べるようなものではありません。ただくあなた
 をモデルとして描いた作品〉であるとしか言えないのです。そしてそれが作品として、商品とし
 
どれはどの価値を持つものかも判断がつきません。ただ、それがぼくが描かなくてはならなか
  いか絵であるということだけは確かです。しかしそれ以上のことは皆目わからない。正直なとこ
  ろ、ぼくはとても戸惑っています。いろんな状況がもっとクリアになるまで、その絵はあなたに
  お渡しせず、こちらに置いておいた方がいいのかもしれません。そういう気がします。ですから、
  受け取った着手金はそのままお返ししたいと思います。それからあなたの貴重な時間を潰させて
 
しまったことについては心からお詫びします」
 「肖像画ではないとあなたは言う」と免色は慎重に言葉を選ぶように質問した。「それはどのよ
 うな意味合いにおいてなのですか?」


 
  私は言った。「これまでずっとプロの肖像画家として生活してきました。肖像画というのは基
 本的に、相手が描いてもらいたいという姿に相手を描くことです。相手は依頼主であり、できあ
 がった作品が気に入らなければ、『こんなものに金を払いたくない』と言われることだってあり
 得るわけですから。ですからその人物のネガティブな側面はできるだけ描かないようにします。
 良い部分だけを選んで強調し、できるだけ見栄え良く描くことを心がけます。そういう意味にお
 いてきわめて多くの場合、もちろんレンブラントみたいな人は別ですが、肖像画を選ぶことはむ
 ずかしくなり
ます。しかし今回の場合、この免色さんを描いた絵の場合 あなたのことなんて何
 も考えず、ただ自分の
ことだけを考えてこの絵を描いていました。言い換えるなら、モデルであ
 
るあなたのエゴよりは、作者である自分のエゴを率直に優先した絵になっています」
  「そのことは私にとってはまったく問題にはなりません」と免色は微笑みを顔に浮かべたまま言った。「む
 しろ喜ばしいことです。あなたの好きなように描いてくれ、何も注文はつけない、最初にはっき
 りそう申し
上げたはずです」
  「そのとおりです。そうおっしやいました。よく覚えています。心配しているのは、作品の出来
 よりはむしろ、
ぼくがそこで何を描いてしまったのかということなのです。ぼくは自分を優先す
 るあまり、何か自分か描くべ
きではないことを描いてしまったのかもしれない。ぼくとしてはそ
 のことを案じているのです」 

   私は彼の顔を見た。その目を見て、彼が本当の気持ちをそのまま語っていることがわかった。
  彼は心から私の絵に感心し、心を動かされているのだ。
 「この絵には私がそのまま表現されています」と免色は言った。「これこそが本来の意味での肖
 像画というものです。あなたは間違っていない。実に正しいことをした」
  彼の手はまだ私の肩の上に置かれていた。ただそこに置かれているだけだったが、それでもそ
 の手のひらからは特別な力が伝わってくるようだった。
 「しかしどのようにして、あなたはこの絵を発見することができたのですか?」と免色は私に尋
 ねた。
 「発見した?」
 「もちろんこの絵を描いたのはあなたです。言うまでもなく、あなたが自分の力で創造したもの
 だ。しかしそれと同時に、ある意味ではあなたはこの絵を発見したのです。つまりあなた自身の
 内部に埋もれていたこのイメージを、あなたは見つけ出し、引きずり出したのです。発掘したと
 言っていいかもしれない。そうは思いませんか?」

  そう言われればそうかもしれない、と私は思った。もちろん私は自分の手を動かし、自分の意
 志に従ってこの絵を描いた。絵の具を選んだのも私なら、絵筆やナイフや指を使ってその色をキ
 ャンバスに塗ったのも私だ。しかし見方を変えれば、私は免色というモデルを触媒にして、自分
 の中にもともと埋もれていたものを探り当て、掘り起こしただけなのかもしれない。ちょうど祠
 の裏手にあった石の塚を重機でどかせ、格子の重い蓋を持ち上げ、あの奇妙な石室の口を開いた
 のと同じように。そして私の周辺でそのような二つの相似した作業が並行して進行していたこと
 うに自負しています」

  それでも私にはまだ、免色の言葉をそのまま素直に受けとめて喜ぶことができなかった。絵を
 凝視しているときの、あの肉食鳥のような鋭い目つきが心にひっかかっていたせいかもしれない。
 「じやあ、この絵は免色さんの気に入っていただけたのですね?」と私は事実を確認するために
 あらためて尋ねた。
 「言うまでもないことです。これは本当に価値のある作品だ。私をモデルとしてモチーフとして、
 このような優れた力強い作品を描いていただけたことは、まさに望外の喜びです。そして言うま
 でもなく、依頼主としてこの絵は引き取らせていただきます。それでもちろんよろしいですね?」

 「ええ。ただぼくとしては――」
  
  免色は素遠く手を上げて私の言葉を遠った。「それで、もしよるしければ、この素晴らしい絵
 が完成したことを枇して、近々あなたを拙宅にご招待したいのですが、いかがでしょう? 昔風
 に言えば、万屋振る舞いたいということです。もしそういうことがご迷惑でなければ」
 「もちろん迷惑なんかじやありませんが、しかしわざわざそんなことをしていただかなくても、
 もう十分――」
 「いや、私がそうしたいんです。この絵の完成を二人で祝いたいのです。一度私のうちに夕食を
 食べにきてくれませんか。たいしたことはできませんが、ささやかな祝宴を張りましょう。あな
 たと私と二人だけで、他の人はいません。もちろんコックとバーテンダーは別ですが」
 「コックとバーテンダー?」 
 「早川漁港の近くに、昔から親しくしているフレンチ・レストランがあります。その店の定休日
 に、コックとバーテンダーをこちらに呼びましょう。腕の確かな料理人です。新鮮な魚を使って
 なかなか面白い料理を作ってくれます。実を言えば、この絵の一件とは関係なく、コ伎あなたを
 うちにご招待しようと思って、その準備を進めてはいたのです。でもちょうど良いタイミングで
 した」

  驚きを顔に出さないようにするにはいささかの努力が必要だった。それだけの手配をするのに
 いったいどれはどの費用がかかるのか見当もつかないが、たぶん免色にとっては通常の範囲なの
 だろう。あるいは少なくとも、それほど常軌を逸した行いではないのだろう。
  免色は言った。「たとえば四日後はいかがですか? 火曜日の夜です。もしご都合がよるしけ
 ればその段取りをします」
 「火曜日の夜にはとくに予定はありません」と私は言った。
 「じやあ、火曜日で決まりです」と彼は言った。「それで今、この絵を持ち帰ってもかまわない
 でしょうか? できればあなたがうちに見えるまでにきちんと頬袋をして、壁に飾りたいので」
 「免色さん、あなたにはこの絵の中に本当にご自分の頬が見えるのですか?」と私はあらためて
 尋ねた。
 「もちろんです」と免色は不思議そうな目で私を見て言った。「もちろんこの絵の中には私の頬
 が見えます。とてもくっきりと。それ以外にここに何か描かれているというのですか?」
 「わかりました」と私は言った。それ以外に私に言えることはなかった。「もともと免色さんの
 依頼を受けて描いたものです。もし気に入られたのなら、作品は既にあなたのものです。ご自由

 になさって下さい。ただし絵の具はまだ乾いていません。だから十分注意して運んでください。
 それから順装をするのも、もう少し待たれた方がいいと思います。二週間ほど乾かしたあとの方
 が良いでしょう」

 「わかりました。気をつけて扱います。順装も後日にまわします」

  帰り際に玄関で彼は手を差し出し、我々は久しぶりに握手をした。彼の順には満ち足りた笑み
 が浮かんでいた。
 「それでは火曜日にお目にかかりましょう。夕方の六時頃に迎えの車をこちらに寄越します」
 「ところで夕食にミイラは招かないのですか?」と私は免色に尋ねてみた。どうしてそんなこと
 を口にしたのか、その理由は自分でもよくわからない。でも突然ふとミイラのことが順に浮かん
 だのだ。そしてそう言わずにはいられなかった



  免色は探るように私の顔を見た。「ミイラ?いったい何のことでしょう?」
 「あの石室の中にいたはずのミイラのことです。毎夜鈴を鳴らしていたはずなのに、鈴だけを残
 してどこかに消えてしまった。即身仏というべきなのかな。ひょっとして彼もおたくに招待され
 たがっているのではないでしょうか。『ドン・ジョバンニ』の騎士団長の彫像と同じように」
  少し考えて、免色はようやく俯に落ちたというように明るい笑みを浮かべた。「なるほど。ド
 ン・ジョバンニが騎士団長の彫像を招待したのと同じように、私がミイラを夕食の席に招待すれ
 ばどうかということですね」

 「そのとおりです。これも何かの縁かもしれません」

 「いいですよ。私はちっともかまいません。お視いの席です。もしミイラが夕食に加わりたいの
 であれば、喜んで招待しましょう。なかなか興味深い夕べになることでしょう。でもデザートに
 はどんなものを出せばいいのだろう?」、彼はそう言って楽しそうに笑った。「ただ問題は本人
 の姿が見当たらないことです。本人がいないことには、こちらとしても招待のしようもありませ
 ん」

  「もちろ」と私は言った。「でも目に見えることだけが現実だとは限らない。そうじやありま
 せんか?」

  免色はその線を大事そうに両手で抱えて運び、まずトランクから古い毛布を出して助手席のシ
 ートに敷いた。そしてその上に、絵の具がついたりしないように絵を寝かせて置いた。そして細
 いロープと二つの段ボール箱を使って、動かないように注意深くしっかりと固定した。とても要
 領がいい。とにかく車のトランクには様々な道具が常備されているようだった

 「そうですね、たしかにあなたのおっしやるとおりかもしれません」と帰り際に免色はふと呟く
 ように言った。彼は両手を革のハンドルの上に置いて、私の顔をまっすぐ見上げていた。

 「ぼくの言うとおり?」

 「つまり我々の人生においては、現実と非現実との境目がうまくつかめなくなってしまうことが
 往々にしてある、ということです。その境目はどうやら常に行ったり来たりしているように見え
 ます。その日の気分次第で勝手に移動する国境線のように。その動きによほど注意していなくて
 はいけない。そうしないと自分か今どちら側にいるのかがわからなくなってしまいます。私がさ
 きほど、これ以上この穴の中に留まっているのは危険かもしれないと言ったのは、そういう意味
 です」

  私にはそれに対してうまく言葉を返すことができなかった。そして免色もそれ以上は話を進め
 なかった。彼は開けた窓から私に手を振り、V8エンジンを心地よく響かせながら、まだ絵の具
 の乾ききっていない肖像画と共に私の視界から消えていった。



                                     この項つづく

      ● 今夜の一品:鉄製臼 

  ● 今夜アラカルト

チェコの“茹でるパン”クネドリーキ料理:クネドリーキと酢キャベツのローストポーク

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エネルギーフリー社会の幕開け

2017年04月24日 | 環境工学システム論

             羿(げい)の彀(こう)中に遊ぶに、中央は中(あた)るの
                    地なり、然り而して中らざるものは命なり

                               徳充符(とくじゅうふ)

                                               

           ※  宰相と兀者: 考えてみれば、この現実の中で生きている人間はみな、弓
                  の
名人羿(げい)の矢ごろの中におかれているようなものだ。真正面に立
                  ってい
ながら矢にあたらずにすむ者もいよう。だがそれは、その人の運命
                  としかいい
ようがないではないか。矢にあたるも、あたらぬも、人それぞ
                  れの運命にすぎぬ――申徒嘉(しんとか)は兀者(ごつしゃ)である。か
         れと鄭(てい)の宰相子産(しさん)とは、ともに伯昏無人(はつこんぶ
         じん)のもとに学ぶ同門の間がらにもからかわらず、子産は兀者の申徒嘉
          といっしょに帰ることを嫌った差別行為を諭す場面。



【量子ドット工学講座37】

☑ 高品質の白色光源開発のコア素材

照明に用いられる、高品質の白色光源としての白熱光電球は、低効率/短寿命のため始終から消滅
しつつある。実際に、政府は白熱光電球の販売を禁止する規準を通過させているが、代替技術の開
発が求められている。その中で、固体素子照明(SSL)――発光ダイオード(LED)―――は、
主としてLED技術が成熟し、高効率と長寿命の両方もち急速普及展開している。これらの固体素
子光源、例えば、色変換媒体を有するブルーまたは紫外(UV)光源、RGB3色白色光源、ブル
ー-イエローの2色白色光源があり、これらは、LED、有機発光ダイオード(OLED)、およ
量子ドット(QD)OLEDまたはその組み合わせを用いられている。最も広く用いられる白色
LED技術は、例えば約450nmの波長で発光するブルーLEDチップによりポンピングされた
セリウムドープYAG:Ce(イットリウムアルミニウムガーネット:セリウム)ダウンコンバー
ジョン蛍光体が用いられ、LEDからのブルー光とYAG蛍光体からの広いイエロー発光の組み合
わせにより白色光が得られる。この白色光は色調指数Color Rendering IndexCRI70~80
を与え、いくらかブルーに見える

しかし、高いCRI、すなわち、85より高くさらに90よりも高いCRIを有する光源は、一般
の照明用で、より豊富な色空間color space )をもつディスプレイ用のバックライトに相応しい。
写真/映画写真などの他の特殊な用途に対しては、さらに高いCRIを有する白色光源が相応しく、
さらに、科学研究用の、黒体放出される光に近い品質の光を放出し特定の色温度を有する光源が求
められている。
つまり、理論的に、最適な白色光源はいわゆる黒体であり、白熱光電球を除き、人
工の白色光源は黒体から発する光に匹敵する品質をもつ光とはならない。、約3200℃の白熱光
電球は低い色温度をもち、太陽光は6500℃であり、さらに、照明用途のために白熱光電球およ
び/または、太陽光を用いることは、UV部分とIR部分を含むスペクトルになり、人間の目のた
めに無用/または望ましくない。したがって、エネルギーの損失を意味する。したがって、望まし
い照明光源は人間の目が感じるスペクトルを制限している。

✪技術的な観点から、数十年の開発の後、蛍光体材料は既に成熟し、効率が高く、耐久性があり、
用途が広い。✪経済的な観点から、蛍光体材料は非常に安価であり、したがって、競争力があるが、
蛍光体だけがダウンコンバーターとして用いられるとき、CRIは低く、これは白色の品質を低く
する。したがって、既存システムの改善によって、高品質、例えば、高いCRIを有する白色を得
ることが非常
に要求されているが、この発明目的は高品質=高いCRIを有する白色光を得るため
に、組成物を備える組
成物/アレイを提供にある。 驚くべきことに、非常に高いCRIを有する白
色光を得るために、✪フォトルミネセント化合物と共に、✪量子ドットquantum dot)を使用でき
ることが見出された
。❶量子ドットは容易に製造することができ、❷有機蛍光体またはリン光体化
合物比べて狭い発光スペクトルをもち。❸それらは、量子ドットの最大発光を決定する寸法(=光
閉じ込め効果に完全依存)に関し微調整することが可能であり、❹
高いフォトルミネセント効率
量子ドットで得ることができる。❺さらに、その発光強度は用いられるその濃度によって微調整で
きる。❻さらに量子ドットは多くの溶媒に可溶であり、❼または一般的な有機溶媒に容易に可溶に
でき、広範囲のプロセス方法、特にスクリーン印刷、オフセット印刷、およびインクジェット印刷
などの印刷方法が可能である(下記/下図参照)。

☑ 特許事例:特開2017-62482 ダウンコンバージョン

【要約】

【解決手段】i×jのアレイ要素aijを備えるアレイAijであって、前記アレイAijが、1
つ以上のアレイ要素aijの中で局在化された少なくとも1つの量子ドットを備える少なくとも1
つの組成物を備え、iは行インデックスであり、jは0よりも大きな列インデックスであり、i=
j=1の場合、アレイ要素a11は少なくとも2つの量子ドットと、少なくとも1つのフォトルミ
ネセント化合物を備えることを特徴とするアレイで、高い色純度を有する白色光を発生するのに用
いることができるアレイおよび装置の提供。

 Apr.7 ,2017

 No. 4

●  太陽光と「恵みの雨」で、卸電力価格「0ドル」下回る

☑ 水力発電の増加で余剰電力が生じ「ネガティブプライス」に

米国カリフォルニア州は、長期間にわたり干ばつに悩まされてきた。だが、一転して昨年末から豪
雨と降雪が続き、記録的な降水量となっている。大雨と春先の雪解け水が今まで枯渇していたダム
に流れ込み始めた。ダムの貯水量は満タン状態を超え、放水する大量の水で州内の水力発電がフル
稼働となる。本来なら、「恵みの雨」に、もろ手を挙げて喜ぶところなのだろうが、太陽光発電事
業者にとっては、ちょっと状況が違うというのだ(日経テクノロジーオンライン 2017.04.24)。

☑ 電源構成の4割がメガソーラー
 
今年3月11日、カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)内で午前11時から午後2時の間に
供給された電力の40%がメガソーラー(大規模太陽光発電所)から送電された。電源構成に占め
る太陽光発電の比率が、ここまで高くなったは初めてという。ちなみにこの日の太陽光発電からの
ピーク電力供給は8784メガワット(8.784ギガワット)に達す(下図参照)。同州では、
空調がなくても過ごしやすい冬の終わりから春先にかけ、昼間の電力需要が年間で最も低い「昼間
軽負荷期」となる。一方でこの時期、日が伸びるにつれ太陽光の発電量が伸びてくる。そこに、豊
富な水力発電が加わり、電力供給が過剰となっている。こうした需給のゆるみを反映し、卸電力市
場の前日市場・リアルタイム市場では、過去3カ月間の中で最も低い価格で取り引するという経験
することになる。


♞ カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)内での今年3月11日における再生可能エネルギー
  による時間帯別電力供給量(オレンジ色が太陽光発電)

つまり、2013年~2015年の3月における午前8時から午後2時の間のメガワットアワー当たりの卸
価格は、約14~45ドルであったが、今年3月の同時間帯におけるメガワットアワー当たりの卸
価格は0ドルを
下回る「ネガティブプライス」を付けたことが何回か経験する。 「ネガティブプ
ライス」は、稼働停止、または再稼働にコストのかかる発電所を運営する事業者が、技術的に許容
される最低の設備利用率以下に稼働率を下げない、または完全な稼働停止を避けるための手段とし
て使われるという状態――発電設備の稼働率を維持するために「お金を払って発電する」というこ
とになる(下図)。

☑ お金を払って発電する



 ♞ CAISOでのリアルタイム市場平均取引価格(1月,2月,3月の電力平均取引卸価格、青線が2017
  の価格)

CAISOは、電力の需給バランスを調整する責任事業者、または系統運用者として、地域内の高圧送
電を運用・制御しつつ、需給バランスを維持し、系統電力の周波数を安定化する。現在、カリフォ
ルニア州の電力供給量の80%以上を供給、総延長2万6024マイルの送電線を通じ、3千万の
電力需要家に対し、年間2億6千万メガワットアワーの電力を送電する。
現在CAISOの送電網に接
続されている発電設備の容量は計71.74ギガワット。うち、再生可能エネルギーは28.5%を
占め、太陽光発電はさらにそのうち約50%を占める(下図)。近日の水力と太陽光発電の拡大に
より、大規模な「出力抑制」が必要になると予想(6千~8千メガワット相当の出力抑制対象)。

☑  水力と太陽光の「出力抑制」へ


♞ CAISO内の電力供給構造(発電設置容量)


 上図は時間帯別ネット電力需要(2017年3月11日)、赤線は総電力需要を示し、緑線は総需要
  から大規模太陽光発電と風力による電力供給量を差し引いたネット需要、下図は、時間帯別風
  力・太陽光発電供給量、青線は風力、オレンジ線は太陽光発電

さらに、CAISOが数年前に提示した「ダックカーブ」の到来が早くなると予想。「ダックカーブ」
とは、太陽が照る日中は見かけ上の電力需要が低くなり、太陽の沈む頃から需要が急激に増え、さ
らに、太陽光発電の供給と需要のギャップが太陽光の導入が拡大するとともにさらに広がり、昼間
には供給過剰が生じる。出力抑制は一般的には最終手段とされ、通常、供給が需要を超えると、電
力取引価格が下がり、対応として、✪発電調整の効く発電事業者は発電量を減らせるが、✪柔軟性
に欠ける再エネ発電所が問題となり、さらにネガティブプライスも引き起こすためCAISOは
強制的
な出力抑制がが発生する。あるいは、需要側からの調節対応するが、しかし、再エネの「出力抑制」を
防ぐには、逆にオフピーク時の昼間の電力消費を促し、供給余剰を吸収する必要があり、該当時間
帯の別電気料金制度での対応もある。✪
それ以外にも、中・大規模の圧空電池などの電力貯蔵・蓄
電を設備を保有することで、需給バランスをとることで調整できる。これらにより
エネルギーに依
存しない「エネルギーフリー社会の実現」が、この地方が先駆事例となることを示唆している。こ
れは、実に心強い。

☑ 圧縮空気エネルギー貯蔵 さあ!出番だ。







● GaNで効率90%、電動自転車用無線給電システム

 GaNだから小型、高効率

Transphorm(トランスフォーム)は2017年4月19~21日の会期で開催されている展示会「TECHNO-
FRONTIER 2017
」(テクノフロンティア2017)で、量産出荷しているGaN(窒化ガリウム)を用いた
HEMT(高電子移動度トランジスタ)製品の採用事例を公開。
Transphorm製GaN HEMTが採用されて
いるのは、送電側本体の先端部に取り付けられたPFC(力率改善)ユニット部分。ワイヤレス充電シ
ステムの開発は、GaN HEMTPFCユニットに採用した理由として、❶シリコンのパワートランジス
タに比べ、GaNは高速スイッチングが行えるのでPFC回路を小型化できることと、❷変換効率が高い
ことの2つを挙げている。

 Apr. 21, 2017

PFCユニットは、容量250W(最大出力電流0.7A)で、サイズは100×90×38.5mmPFCユニットの効率は
AC200V入力、DC360V出力時の変換効率は96%を誇る。
ワイヤレス給電部分も高効率という特長があ
り、ワイヤレス給電システム全体での変換効率は90%。シリコンパワートランジスタを使用すると、
全体の変換効率は良くて80%台で、せっかくの高効率ワイヤレス給電技術の意味がなくなってしまう。
この他、Transphormブースでは、逆回復時間の短いGaN HEMTの利点を生かしブリッジダイオードを
使用しないトーテムポール型PFC回路を採用した電源製品やGaNを採用したサーボモータ製品などの採
用事例を紹介。新電元工業と共同開発を進めているハーフブリッジモジュール(下図)の参考展示など
も実施されている。

 

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』   

    18.好奇心が殺すのは猫だけじゃない

  私は白分から家の外に出て免色を迎えた。そんなことをするのは初めてだったが、とくに何か
 理由があって、その目に限ってそうしたわけではない。外に出て身体を伸ばし、新鮮な空気が吸
 いたくなっただけだ。

  空にはまだ円い石盤のような形の雲が浮かんでいた。海の遥か沖の方でそんな雲がいくつもつ
 くられ、それが南西からの風に乗って、ひとつひとつゆっくりと山の方に遥ばれてくるのだ。い
 ったいどのようにして、そんなに美しい完璧な円形が、おそらくはこれという実際的意図もなく
 次々に自然につくり出されていくのか、それは謎だ。あるいは気象学者にとっては謎でもなんで
 もないのかもしれないが、少なくとも私にとっては謎だ。この山の上に一人で往むようになって
 から、私は様々な種類の自然の驚異に心を惹かれるようになっていた

  免色は襟のついた、濃い臙脂色セーターを着ていた。上品な薄手のセーターだ。そして青が

 かすれて今にも消えそうなほど淡い色合いのブルージーンズをはいていた。ブルージーンズはス
 トレートで、柔らかな生地でできていた。私が見るところ(あるいは私の考えすぎなのかもしれ
 
ないが)、彼はいつも白髪がきれいに際だつ色合いの服を意識して身につけているようだった
 その脱脂色のセーターも白髪にとてもよく似合っていた。その白い髪は、いつものようにぴった
 り適度の長さに保たれていた。どのように処理しているのかはわからないが、彼の髪はそれ以上
 長くなることもなければ、それ以上短くなることもないようだった。

 「まずあの穴に行って、中をのぞいて見てみたいのですが、かまいませんか?」と免色は私に尋
 ねた。「変わりはないか、ちょっと気になるもので」

  もちろんかまわない、と私は言った。私もあれ以来、あの林の中の穴に近寄ったことはなかっ
 た。どうなっているのか見てみたい。

 「申し訳ないのですが、あの鈴を持ってきてくれませんか」と免色は言った。

  私は家に入り、スタジオの棚の上から古い鈴を持って戻ってきた。
  免色はジャガーのトランクから、大型の懐中電灯を取りだし、それをストラップで首からかけ
 た。そして雑木林に向かって歩き出した。私もそのあとについていった。雑木林はこの前に見た
 ときより、いっそう濃く色づいているようだった。この季節には山は、一日ごとにその色を変化
 させていく。赤みを増す木があり、黄色に染まっていく木があり、いつまでも縁を保つ木がある。
 その取り合わせが美しかった。しかし免色はそんなことにはまったく関心を持たないようだった。

 「この土地のことを少し調べてみました」と免色は歩きながら言った。「これまでにこの土地を

 誰が所有していたか、何に使われていたか、そういうことです」
 「何かわかりました?」

  免色は首を振った。「いいえ、ほとんど何もわかりませんでした。以前、何か宗数的なものに
 関連した場所ではないかと予想していたのですが、私の調べた限りではどうやらそういうことも
 なさそうです。どうしてここに祠やら石塚やらかつくられていたのか、その経緯はわかりません。
 もともとは何もないただの山地であったようです。そこが切りひらかれ、家が建てられた。雨田
 典彦さんがこの地所を家付きで購入したのは、一九五五年のことです。それまではある政治家
 山荘として所有していました。たぶん名前はご存じないでしょうが、戦前には大臣までつとめた
 人です。戦後は引退同然の暮らしを送っていました。その人の前に誰がここを所有していたか、
 そこまでは辿れませんでした」

 「こんな辺鄙な山の中に政治家がわざわざ別荘を持つなんて、少し不思議な気がしますが」
 「以前このあたりにはけっこう多くの政治家が山荘を持っていたんです。近衛文麿の別荘も、た
 しか山をいくつか隔てたところにあったはずです。箱根や熱海に向かう道筋にあたるし、きっと
 何人かで巣まって密談をおこなうにはうってつけの場所だったのでしょう。東京都内で要人が顔
 をあわせると、どうしても人目につきますから」
 我々は蓋として穴に被せてあった何枚かの厚板をどかせた。

 「ちょっと底に降りてみます」と免色は言った。「ここで待っていてくれますか?」

  待っていると私は言った。
  免色は業者が置いていってくれた金属製の梯子をつたって下に降りた。一段足を下ろすごとに
 梯子が軽い軋みを立てた。私はその要を上から見下ろしていた。被は穴の底に降りると、懐中電
 灯を首からはずしてスイッチを入れ、時間をかけてまわりを子細に点検した。石壁を撫でたり、
 拳で叩いたりした。

 「この壁はずいぶんしっかり、緻密に造ってありますね」と免色は私の方を見上げて言った。
 「ただ井戸を途中まで埋めたというものではないように思えます。井戸ならおそらくもっと簡単
 な石積みで済ませるはずです。これほど丁寧に手をかけてこしらえたりしない」
 「じやあ、何か他の目的のために造られたということなのでしょうか?」

  免色は何も言わずに首を振った。わからない、ということだ。「いずれにせよ、この壁は簡単

 には登れないようにできています。足をかけるような隙間がまったくありませんから。穴の深さ
 は三メートルもありませんが、上までよじ登るのはむずかしそうだ」
 「簡単に登れないようにこしらえてあるということですか?」

  免色はまた首を振った。わからない。見当もつかない。

 「ひとつお願いがあるのですが」と免色が言った。
 「どんなことでしょう?」
 「手間をとらせて申し訳ないのですが、この梯子を引き上げて、それからできるだけ光が入らな
 いようにぴたりと蓋を閉めてくれませんか?」

  私はしばらく言葉が出てこなかった。

 「大丈夫です。何も心配することはありません」と免色は言った。「ここに、この真っ暗な穴の
 底に、一人で閉じ込められているというのがどういうことなのか、自分で休験してみたいだけで
 す。ミイラになるつもりはまだありませんから」
 「どれくらい長くそうしているつもりなんですか?」
 「出してほしくなったら、そのときは鈴を振ります。鈴の音が聞こえたら、蓋を外して梯子を下
 
ろしてください。もし一時間たっても鈴の音が聞こえないときには、そちらから蓋を外してくだ
 さい。一時間以上ここにいるつもりはありませんから。私がここにいることを、くれぐれも忘れ
 ないように。もしあなたが何かの加減で忘れてしまったら、私はそのままミイラになってしまい
 ますから」
 「ミイラとりがミイラになる」免色は笑った。「まさにそのとおりです」
 「まさか忘れたりはしませんが、でも本当に大丈夫ですか、そんなことをして?」
 「ただの好奇心です。しばらく真っ暗な穴の底に座っていたいんです。懐中電灯はそちらに渡し
 ます。そのかわりに鈴を持たせてください

  彼は梯子を途中まで登って拡に懐中電灯を差し出した。拡はそれを受け取り、鈴を差し出した。
  彼は鈴を受け取って、軽く振った。くっきりとした鈴の音が聞こえた。
  私は穴の底にいる免色に向かって言った。「でももし、ぼくが途中で凶暴なスズメバチの群れ
 に刺され意識を失ってしまったら、あるいは死んでしまったら、あなたはこのままここから出ら
 れなくなってしまうかもしれませんよ。この世界では、何か起こるかわかったものじやありませ
 んから」
 「好奇心というのは常にリスクを含んでいるものです。リスクをまったく引き受けずに好奇心を
 満たすことはできません。好奇心が殺すのは何も描だけじやありません」※
 「一時間経ったらここに戻ります」と私は言った。
 「スズメバチにはくれぐれも気をつけて下さい」と免色は言った。


※ 英国のことわざ(Curiosity killed the cat)の訳。英語に「Cat has nine lives.」(猫に九生あり・猫
は9つの命を持っている/猫は容易には死なない)ということわざがあり、そんな猫ですら、持ち前
の好奇心が原因で命を落とす事がある、という意味。転じて、『過剰な好奇心は身を滅ぼす』と他人
を戒めるために使われることもある。



                                     この項つづく

 

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ブラックマッペの超常現象

2017年04月23日 | 知財安全保障

            人は流水に鑑みるなくして、止水に鑑みる

                         徳充符(とくじゅうふ)

                                                 

           ※ 静止した水はいっさいを包む:魯に王馳(おうたい)という兀者(ごつ
         しゃ:足切りの刑に処せられた人間)がいた。たいへん人望があって、
         孔子にも劣らぬほど多くの弟子がいた。「流れる水は鏡にならぬ。だが
         節止した水は、いっさいの姿をうつしだすことができる。王馳はいわぱ
         静止した水のような人物なのだ」と彼を引用し説く。

 

【世界の朝食:インドのドーサ】

南インドのクレープ様の料理の1つ。 米とウラッド・ダール(皮を取って二つに割ったケツルアズ
のダール)を吸水させてからペースト状にすりつぶし、泡が立つまで発酵させた生地を熱した鉄板
の上でクレープのように薄く伸ばして焼く。❶
ジャガイモなどを香辛料と炒め煮にしたものをドーサ
でくるんだマサラ・ドーサ、❷焼く過程で伸ばした生地の焼けていない部分を削り取って薄く焼いた
ペーパー・ドーサ、❸生地に小麦粉の全粒粉を加えたゴドゥマイ・ドーサ、セモリナを加えたラヴァ
・ドーサ、❹シコクビエ粉を加えたラギ・ドーサ、茹でてつぶしたジャガイモを加えたウルライキジ
ャング・ドーサ、❺ジャガリー(黒砂糖)を加えた甘いヴェッラ・ドーサなど、様々なバリエーショ
ンがある。ココナッツやトマトなどの塩味のチャツネやサンバールと一緒に食べることが多い。南イ
ンドでは朝食や昼食の常食レシピ。スリランカではトーサイと呼ばれ特にタミル人の間で人気がある。

ところで、ダールとは、剥いた小粒の豆(ヒラマメなど)を挽き割ったもの、およびそれを煮込んだ
南アジアの料理のこと
である。しばしば香辛料が入るため、欧米や日本では「ダール・カレー」と紹
介されることが多いが、加える水
の量によって濃さはルー状からスープ状まで色々である。語源はサ
ンスクリットで「分けること」という意味のダラ。インド、パキスタン、バングラデシュ、ネパール
の料理では、主菜となることもあり、南インドでは米や野菜と、北インドとパキスタンでは米やチャ
パティ、ロティなどと共に食べられる。

 secret to make crispy dosa

また、ドーサの原材料であるケツルアズキ(別名:黒緑豆)は、はササゲ属アズキ亜属のつる性草本。日
本では主に『もやし豆』として知られている。
耐乾性が強く、黒色~黄緑色の種子を付ける。インド
からバングラデシュ、パキスタン、ミャンマーにかけて分布、野生種(リョクトウ(緑豆)と共通祖
先)から栽培化されたと考えられているもの。
インドでは古来より保存食(乾燥豆)として一般的で、
煮たり煎ったり、あるいは粉に挽いて用いられる。また、未熟な莢はサヤインゲンの様に野菜として
利用される。
2R,5R-ビス(ジヒドロキシメチル)-3R,4R-ジヒドロキシピロリジンを含むマメ科植物には、
血糖値を抑制する効果のあるα-グルコシダーゼ阻害作用を有するものがあり、アズキ、インゲンマメ、
ケツルアズキ(コクリョクトウ)、リョクトウ、黒ダイズの順でその活性が高く、エンドウ及びダイ
ズではほとんどその活性を示さなないと報告されている(Wikipedia)。
 

また、ブラックマッペ(ケツルアズキ)を発芽させたモヤシは、、緑豆モヤシより細めで水分量が
なく、その分モヤシの風味や香りが強い。成分としては緑豆モヤシと同等だが、ビタミンCとカルシ
ウムの量が緑豆モヤシより数値が高くなっている(下表)。ブラックマッペを知れば知るほど――米
小麦に相当し、
スプラウトとして野菜として使え、さらに調理残渣皮、茎、葉、根などすべて再利
用できそうで太陽光型植物工業で大量生産できそう――
凄い食品・堆肥だと感心する。

 

     

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』   

    17.どうしてそんな大事なことを見逃していたのか

  陽光が窓から静かにスタジオに差し込んでいた。緩やかな風が白いカーテンをときおり揺らせ
 た。部屋には秋の朝の匂いがした。私は山の上に往むようになってから、季節の匂いの変化にと
 ても敏感になっていた。都会の真ん中に往んでいるときには、そんな匂いがあることにほとんど
 気づきもしなかったのだけれど。

  私はスツールに腰掛け、イーゼルに載せた描きかけの免色のポートレイトを、長いあいだ正面
 から睨んでいた。それがいつもの仕事の始め方だった。自分が昨日おこなった仕事を、今日の新
 たな目で評価し直すこと。手を勤かすのはそのあとでいい。
  悪くない、としばらくあとで私は思った。
悪くない。私か創りだしたいくつかの色彩が免色の
 
骨格をしっかりと包んでいた。黒い絵の具で、立ち上げた彼の骨格は、今ではその色彩の裏側に
 隠されていた。しかしその骨格が奥に潜んでいることは、私の目にははっきり見えていた。これ
 から私はもう一度その骨格を表面に浮かび上がらせていかなくてはならない。暗示をステートメ
 ントに変えていかなくてはならない。

Butterflay Stool


  もちろんその絵は完成を約束してはいない。それはまだひとつの可能性の城に留まっている。
  そこにはまだ何かが不足している。そこに存在するべき何かが、不在の非正当性を訴えている。
 そこに不在するものが、存在と不在を隔てるガラス窓の向こう側を叩いている。私はその無言
 叫びを聞き取ることができる。

  集中して絵を見ているうちに喉が渇いてきたので、途中で台所に行って、大きなグラスでオレ
 ンジ・ジュースを飲んだ。そして肩の力を抜き、両腕を宙に思い切り伸ばした。大きく息を吸い
 込み、そして吐いた。それからスタジオに戻り、もう一度スツールに座って絵を眺めた。気持ち
 を新たにし、イーゼルの上の自分の絵に再び意識を集中した。しかし何かが前とは違っているこ
 とにすぐに私は気がついた。絵を見ている角度がさっきとは明らかに異なっているのだ。

  私はスツールから降りて、その位置をあらためて点検してみた。そしてさっき私がこのスタジ
 オを離れたときとは、位置が少しずれていることに気がついた。スツールは明らかに移動させら
 れていた。どうしてだろう? 私はスツールから降りたとき、その椅子はまったく動かさなかっ
 たはずだ。そのことに間違いはない。椅子をずらさないように静かにそこから降り、戻ってきた
 ときも椅子をずらすことなく、静かにそこに腰掛けた。なぜそんなことをいちいち細かく覚えて
 いるかというと、私は絵を見る位置と角度に関してはとても神経質だからだ。私が絵を見る位置
 と角度はいつも決まっているし、野球のバッターがバッターボックスの中の立ち位置に細かくこ
 
だわるのと同じで、それが少しでもずれると気になって仕方ない。



   しかしスツールの位置は、さっきまで私が座っていたところから五十センチほどずれていたし、
 角度もそのぶん違っていた。私が台所でオレンジ・ジュースを飲んで、深呼吸をしている間に、
 誰かがスツールを動かしたとしか考えられない。私のいない間に誰かがこっそりスタジオに入っ
 てきて、スツールに腰掛けて私の絵を眺め、そして私が戻ってくる前にスツールから降りて、足
 音を忍ばせて部屋を出ていったのだ。そのときに椅子を――故意にかあるいは結果的にか  動
 かした。しかし私がスタジオを離れていたのはせいぜい五分か六分のことだ。だいたいどこの誰
 が何のために、わざわざそんな面倒なことをしなくてはならないのだ? それともスツールが自
 分の意思で勝手に移動をおこなったのだろうか?

  たぶん私の記憶が混乱しているのだろう。自分でスツールを動かしておいて、それを忘れてし
 まったのだ。そう考えるよりほかはなかった。一人きりで過ごす時間が長すぎるのかもしれない。
 そのせいで記憶の順序に乱れが生じてきているのかもしれない。
  私はスツールをその位置に――つまり最初にあったところから五十センチ離れ、いくらか角度
 
を変えた位置に―――留めておいた。そして試しにそこに腰掛け、そのポジションから免色のボ
 ー
トレイトを眺めてみた。するとそこにはさっきまでとは少し追う絵があった。もちろん同じひ
 と
つの絵なのだが、見え方が微妙に追う。光の当たり方が違うし、絵の其の質感も追って見える。
 その絵にはやはり生き生きしたものが含まれている。しかしまたそれと同時に何かしら不足した
 ものがある。しかしその不足の方向性が、さっきまでとは少しばかり違って見える。

  いったい何か違うのだろう? 私は絵を見ることに意識を集中した。その違いが私にきっと何
 かしらを訴えかけているはずなのだ。その違いの中に示唆されているはずのものを、私はうまく
 見出さなくてはならない。私はそう感じた。私は白いチョークを持ってきて、そのスツールの三
 本脚の位置を床にマークした(位置A)。それからスツールを最初にあった位置(五十センチば
 かり横)に戻し、そこ(位置B)にもチョークでしるしをつけた。そしてその二つのポジション
 の間を行ったり来たりして、その二つの異なった角度から交互にひとつの絵を眺めた。

  そのどちらの絵の中にも変わることなく免色がいたが、二つの角度では彼の見え方が不思議に
 違っていることに私は気がついた。まるで二つの異なった人格が彼の中に共存しているみたいに
 も見える。しかしどちらの免色にも、やはり共通して欠如しているものがあった。その欠如の共
 通性が、AとBの二つの免色を不在のままに統合していた。私はそこにある「不在する共通性
 を見つけ出さなくてはならない。位置Aと位置Bと私白身とのあいだで三角測量をおこなうみた
 いに。その「不在する共通性」はいったいいかなるものなのだろう? それ自体が形象を持つも
 のなのだろうか、それとも形象を持たないものなのだろうか? もし後者であるとすれば、私は
 どうやってそれを形象化すればいいのだろう?

  かんたんなことじやないかね、と誰かが言った。
  私はその声をはっきりと耳にした。大きな声ではないが、よく通る声だった。曖昧なところが
 ない。高くも低くもない。そしてそれはすぐ耳元で聞こえたようだった。
  私は思わず息を呑み、スツールに腰掛けたままゆっくりあたりを見回した。しかしもちろんど
 こにも人の姿は見えなかった。朝の鮮やかな光が、床に水たまりのように溢れていた。窓は開け
 放たれて、遠くの方からゴミ収集車の流すメロディーが風に乗って微かに聞こえてきた。「アニ
 ローリー」(なぜ小田原市のゴミ収乗車がスコットランド民謡を流さなくてはならない私には謎
 だった)。それ以外には何ひとつ音は聞こえない。
  おそらく空耳なのだろうと私は思った。自分の声が聞こえたのかもしれない。それは私の心が
 意識下で発した声だったのかもしれない。しかし私が耳にしたのはいかにも奇妙なしゃべり方だ
 った。かんたんなことじゃないかね、私はたとえ意識下であろうがそんな変なしゃべり方はしな
 い。

  annie laurie


  私はひとつ大きく深呼吸をして、スツールの上から再び絵を見つめた。そして絵に意識を集中
 した。それは空耳であったに違いない。
  わかりきったことじやないかい、とまた誰かが言った。その声はやはり私のすぐ耳元で聞こえ
 た。
  わかりきったこと? と私は自分に向かって問いただした。いったい何かわかりきったことな
 んだ?
  メンシキさんにあって、こにないものをみつければいいんじやないのかい、と誰かが言った。

  相変わらずとてもはっきりとした声だった。まるで無響室で録音された声のように残響がない。
 一音一首が明瞭に聞こえる。そして具象化された観念のように、自然な抑揚を欠いている。
  私はもう一度あたりを見回した。今度はスツールから降りて、居間まで調べに行った。すべて
 の部屋をいちおう点検してみた。でも家の中には誰もいなかった。もしいるとしても、屋根裏の
 みみずくくらいのものだ。しかしもちろんみみずくは目をきかない。そして玄関のドアには鍵が
 かかっていた。

  スタジオのスツールが勝手に移動したあとは、このわけのわからない奇妙な声だ。天の声なの
 か、私自身の声なのか、それとも匿名の第三者の声なのか。いずれにせよ、私の頭は変調をきた
 し始めているのかもしれない、そう思わないわけにはいかなかった。あの真夜中の鈴の音以来、
 私は自分の意識の正当性にそれほど自信が持てなくなっていた。しかし鈴の音に関して言えば、
 免色もそこに同席し、私と同じようにその音をはっきり耳にしていた。だからそれが私の幻聴で
 はないことは客観的に証明された。私の聴覚はちゃんと正常に機能していたのだ。だとしたらこ
 の不思議な声はいったい何なのだろう?

  私はもう一度スツールに腰掛け、もう一度絵を眺めてみた。

  メンシキさんにあって、ここにないものをみつければいい。まるで謎かけのようだ。深い森の
 中で迷った子供に、賢い鳥が教えてくれる道筋のようだ。免色にあってここにはないもの、それ
 はいったい何だろう?

  長い時間がかかった。時計が静かに規則正しく時を刻み、東向きの小さな窓から射し込んだ床
 の日だまりが音もなく移動した。鮮やかな色をした身軽な小鳥たちがやってきて柳の彼にとまり
 しなやかに何かを探し、そして鳴きながら飛び去っていった。円い石盤のようなかたちをした白
 い雲が、列をなしていくつも空を流れていった。銀色の飛行機が一機、光った海に向かって飛ん
 でいった。対潜哨戒をする自衛隊の四発プロペラ機だ。耳を澄ませ、目を凝らし、潜在を顕在化
 するのが彼らに与えられた日常の職務だ。私はそのエンジン音が近づいてきて去っていくのを聞
 いていた。 

  P-3 Orion · Lockheed Martin

  それから私はようやく、ひとつの事実に思い当たった。それは文字通り明白な事実だった。ど
 うしてそんなことを忘れてしまっていたのだろう。免色にあって、私のこの免色のポートレイト
 にないもの。それはとてもはっきりしている。彼の白髪だ。降りたての雪のように純白の、あの
 見事な白髪だ。それを抜きにして免色を語ることはできない。どうしてそんな大事なことを私は
 見逃していたのだろう。

  私はスツールから起ち上がり、絵の具箱の中から急いで白い絵の具をかき集め、適当な絵筆を
 手にとって、何も考えずに分厚く、勢いよく、大胆に自由にそれを両面に塗り込んでいった。ナ
 イフも使い、指先も使った。十五分ばかりその作業を続け、それからキャンバスの前を離れ、ス
 ツールに腰掛け、出来上がった絵を点検した。

  そこには免色という人間があった。免色は間違いなくその絵の中にいた。彼の人格は――それ
 がどのような内容のものであれ――私の絵の中でひとつに統合され、顕在化されていた。私はも
 ちろん免色渉という人間のありようを、正確に理解できてはいない。というか、何ひとつ知らな
 いも同然だ。しかし画家としての私は彼を、総合的なひとつの形象として、俯分けできないひと
 つのパッケージとして、キャンバスの上に再現することができる。彼はその絵の中で呼吸をしい
 る。彼の抱える謎さえもが、そのままそこにあった。

  しかしそれと同時に、その絵はどのような見地から見ても、いわゆる「肖像画」ではなかった。
 それは免色渉という存在を絵画的に、画面に浮かび上がらせることに成功している(と私は感じ
 る)。しかし免色という人間の外見を描くことをその目的とはしていない(まったくしていない)。
 そこには大きな違いがある。それは基本的には、私が自分のために描いた絵だった。

  依頼主である免色が、そのような絵を自身の「肖像画」として認めてくれるかどうか、私には
 予側かつかなかった。その絵は彼が当初期待したものからは、何光年も離れたものになってし
 まっているかもしれない。私の好きなように自由に描いてくれればいい、スタイルについて何も
 注文はつけない、と免色は最初に言った。しかしそこにはひょっとして、免色自身がその存在を
 認めたくない何かしらネガティブな要素が、たまたま描き込まれてしまっているかもしれない。
 しかし彼がその絵を気に入ったとしても気に入らなかったとしても、私にはもう手の打ちようが
 なくなっていた。その絵はどう考えても既に私の手から、また私の意思から遠く離れたものにな
 っていたからだ。

  私はそれからなおも半時間近く、スツールに座ってそのポートレイトをじっと見つめていた。
 それは私自身が描いたものでありながら、同時に私の論理や理解の範囲を超えたものになってい
 た。どうやって自分にそんなものが描けたのか、私にはもう思い出せなくなっていた。それは、
 じっと見ているうちに自分にひどく近いものになり、また自分からひどく遠いものになった。し
 かしそこに描かれているのは疑いの余地なく、正しい色と正しい形をもったものだった。

  出口を見つけつつあるのかもしれない、と私は思った。私は目の前に立ちはだかっていた厚い
 壁をようやく抜けつつあるのかもしれない。とはいえ、ものごとはまだ始まったばかりだ。手が
 かりらしきものを手にしたばかりなのだ。私はここでよほど注意深くならなくてはならない。自
 分に向かってそう言い聞かせながら、使用した何本かの絵筆とペインティング・ナイフから、時
 間をかけて絵の具を洗い落とした。オイルと石鹸を使って丁寧に手も洗った。それから台所に行
 って水をグラスに何杯か飲んだ。ずいぶん喉が渇いていた。

  しかしそれにしても、いったい誰があのスタジオのスツールを移動させたのだろう(それは明
 らかに移動させられていた)。誰が私の耳元で奇妙な声で語りかけてきたのだろう(私は明らか
 にその声を耳にした)。誰が私に、あの絵に何か欠けているかを示唆したのだろう(その示唆は
 明らかに有効なものだった)。

  おそらく私自身だ。私か無意識に椅子を動かし、私自身に示唆を与えたのだ。持って回った不
 思議なやり方で、表層意識と深層意識とを自在に交錯させて……。それ以外に私に思いつけるう
 まい説明はなかった。もちろんそれは真実ではなかったのだが。
  午前十一時、食堂の椅子に座って、熱い紅茶を飲みながらあてもなく考えごとをしているとき
 に、免色の運転する銀色のジャガーがやってきた。私はそのときまで、免色と前夜交わした約束
 をすっかり忘れてしまっていた。絵を描くことに夢中になっていたせいだ。それからあの幻聴だ
 か空耳のこともあった。

  免色? どうして免色が今ここに来るのだろう?

 「できれば、もう一度あの石室をじっくりと見てみたいのです」、免色は電話でそう言っていた。
 私は家の前でV8エンジンがいつもの唸りを止めるのを耳にしながら、そのことをようやく思い
 出した。

History of psychology

スツールの移動は超常現象なのか?そうではない。表層意識と深層意識とを自在に交錯させて「もっ
て回ったやり方」がそうさせていたのだと。また、免色にあって、私のこの免色のポートレイトにな
い「白髪」の内省的発見の経緯がこの第17章で語られる。「好奇心が殺すのは猫だけじゃない」へ
と続く。めがはなせない。

                                      この項つづく

 

 



【RE100倶楽部:風力発電篇】

● 改良特許事例:モータ磁力低下防止技術

発電機に永久磁石を用いる場合、永久磁石が一度減磁すると、発電機電流を増加させることになり、
これが減磁を加速させ悪循環に入る。この結果、磁石を含めたロータの部品交換を急きょ行わなけれ
ばならない自体
になり、交換部品の手配など、保守作業に追われることになる。このため、発電機に
永久磁石を用いる上で永久磁石が減磁した際、運転をできる限り長く運転できる対応が求められてい
た。

下図の東芝の特許は、風車、発電機および制御部とを備える。風車は風を受けて回転する。発電機は
ヨークに永久磁石を用い風車の回転動力を電力に変換する。制御部は風車および発電機に設置された
センサから受信した信号を基に維持すべき発電機のトルクを求め、永久磁石の磁力が正常時の予め設
定された発電機のトルクと電流との第1の関係に従い発電機のトルクを決定し発電機による発電を制
御する。制御部は発電機の電流とトルクの経時的な変化から予め設定された許容値を超える永久磁石
の減磁が検知された場合、第1の関係とはトルクと電流の関係が異なる減磁時の第2の関係に従い減
少させるトルクを決定する新規機構考案が呈示されている。
 

Apr. 20/ 2017

【解決手段】風力発電装置は、風車1、発電機2および制御部41とを備える。風車は風を受けて回
転する。発電機はヨークに永久磁石を用い風車の回転動力を電力に変換する。制御部は発電機の電流
とトルクの経時的な変化から予め設定された許容値を超える永久磁石の減磁が検知された場合、第1
の関係とは前記トルクと前記電流との関係が異なる減磁時の第2の関係に従い減少させるトルクを決
定する(
選択図:図1)。

正直、本調子じゃない。
     ところで、世界の軍事3大国の米露中の政治リーダー(層)の選択誤謬(いいかえれば、ミスリ
   ード)により「常在戦場」状況は深まるばかりだ。翻って、自民党政権は調子に乗りすぎの体た
     らくに歯止めが効かないようだ。荘子の「人は流水に鑑みるなくして、止水に鑑みる」の言葉が
     胸を突き刺すかのよう
だ。情けない。


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最新スマートプリント電子工学

2017年04月21日 | ネオコンバーテック

         その異なるものよりこれを視れば、肝胆も楚越(そえつ)なり、
        その同じきものよりこれを視れば、万物もみな一なり

                         徳充符(とくじゅうふ)

                                                 

           ※ 静止した水はいっさいを包むあらゆるものは違うという点から見れば、
         どれ一つとして同じ物はない。たとえば、すぐ近くにある肝臓と胆嚢(た
         んのう)でさえ、楚の国と越の国ほどのへだたりがある。これに対し、あ
         らゆるものは同じだという点から見れば、万物はすべて一つである。


        ※ 徳充符:荘子にとって徳の充実とは、いっさいの固定観念から脱却し、

          のれを虚にすることにほかならない。"徳充ちたる符"は、いっさいをある
          がままに受けいれていく人間にのみ与えられる。
  

幻の果実アドベリー

 

【DIY日誌:中断と再開】 

● 開店休業中スリーディプリンタ屋 

すっかり掲載しなくなった「スリーディプリンタ」。言い訳じみているが、ハードの組み立ては簡単
で、デザイン/ソフトの考案/習得に時間が掛かるのは常識、環境工学研究所WEEF の仕事にを抱え
ていてはとても時間が割けないというのが実情で、プリンタは収納庫に放置で断念。

 
● シロアリ駆除は、考案の燻煙法のテスト

第1回目の試作機をテスト。不具合5項目――❶天板厚み不足、❷と出ノズル口径変更、❸注水ノズ
ル口径変更、❹ノズル材質変更、❺逆止弁追加。尚、駆除方法はマル秘。このトライは、この夏に従
来法(散布法)との時間差併行テストを実施(予定)。

  
【ネオコン倶楽部:最新スマートプリント電子工学】 

● 完全な2次元のナノマテリアルプリントトランジスタ
             ―― 複合ナノシートと電解質の併用で実現 

  Apr. 07, 2017

今月7日、ダブリン大学のJonathan Coleman教授らの研究グループは、完全な2次元のナノマテリアル
プリントトランジスタを製作。これらの材料は、新しい電子特性と低コスト化の可能性を組み合わせ
ている。この画期的な新機能は、デジタルカウントダウンを表示警告する食品包装、ワインの最適温度を知ら
れるラベルなどモノ情報(IoT)などの新しい未来的な機能付加を実現する。またICT(情報通信技術
や製薬業界、太陽電池からLED にわたり、電子デバイスを安価にプリントし、インタラクティブな
食品/薬などのスマートラベルから次世代紙幣セキュリティや電子パスポートなどラベル、ポスター、
パッケージなどの広範囲の用途が想定される。このプリントされた電子回路は、消費商品の情報を収
集/処理/表示/伝達を実現する(例えば、上写真のミルクカートンのように)。この様に2次元ナ
ノマテリアルは、従来のプリンタブルな電子デバイスで使用されている材料と競合できると考える。

また、研究グループは、このプリンタブルな電子デバイスは、過去30年間、グラフェンベースは研
究開発されてきた。これらの分子はプリンタブルなインキに容易に変えることができるが不安定であ
った。カーボンナノチューブや無機ナノ粒子などの代替材料を用いて、克服しようとする試みが数多
く行われてきたが、これらの材料は性能や生産性に難点を抱えていた。プリントされた2次元デバイ
スの性能は、高度なトランジスタとだ比較できるほどではないが、プリンタブルトランジスタの性能
向上できると考えている。

このインクを作るため、研究グループは2008年にColeman 研究室で開発された「液相剥離」を利用し
て層状結晶を剥離する。これにより、溶液中に分散した2次元シートが大量に生成され、インクジェ
ットプリンタで印刷できるが、当初の大きな課題は、ナノシート・ネットワークの電流をオン/オフす
る方法を探し出す必要があった。スイッチングのために十分な電流レベルを得るためには、より厚い
ネットワークが必要とされるだけでなく、スイッチングの効率も低下する。そこで、従来の誘電体材
料の代わりに新しい形態の固体電解質を開発し電気化学的克服法を考え出す―――窒化ホウ素ネット
ワークの細孔をイオン液体で充填し、固体のような構造を与え、電荷を蓄積してスイッチングを起こ
すためのイオン移動度を伴うというものである。

下図の構造説明図のように、イオン液体中で ❶アルミナ被覆PET上に、❷グラフェン電極、❸窒化ホ
ウ素誘電/絶縁体、❹セレンタングステン超伝導チャネルナノシートで構成する2次元ナノ材料を作
製。これらのナノシートは、数ナノメートルの厚さで、数百ナノメートルの幅を有する平坦なナノ粒
子。重要なことに、異なる材料から構成したナノシートは、導電性、絶縁性または半導体性の電子特
性を有し、電子工学のすべての構成要素を含むものである。液体処理は、インクに加工するのが容易
な形態で高品質の2次元材料を大量に生成できるのが特徴で、非常に低コストで回路印刷できる。ア
ニメーションポスターからスマートラベルにわたる広範囲の用途を実現するが、一方で、移動性、オ
ン/オフ比、スイッチング速度を向上させるなどの、パフォーマンスを大幅改善する課題が残る。


All-printed thin-film transistors from networks of liquid-exfoliated nanosheets, Science  07 Apr 2017:
Vol. 356, Issue 6333, pp. 69-73 DOI: 10.1126/science.aal4062

 

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』   

   16.比較的良い一日 

  免色が電話を切ったすぐあとに、人妻のガールフレンドから電話がかかってきた。私は少し驚
 いた。夜のこんな時刻に彼女から連絡があるのは珍しいことだったからだ。

 「明日のお昼頃に会えないかな?」と彼女は言った。
 「悪いけど、明日は約束があるんだ。ついさっき予定を入れてしまった」
 「他の女の人じゃないわよね?」
 「違う。例の免色さんだよ。ぼくは彼の肖像画を描いている」
 「あなたは彼の肖像画を描いている」と彼女は繰り返した。「じゃあ、明後日は?」
 「明後日はきれいそっくり空いている」
 「よかった。午後の早くでかまわない?」
 「もちろんかまわないけど、でも土曜日だよ」
 「それはなんとかなると思う」
 「何かあったの?」と私は尋ねた。
  彼女は言った。「どうしてそんなことを訊くの?」

 
「君がこんな時刻にうちに電話をしてくるのは、あまりないことだから」

  彼女は喉の奥の方で小さな声を出した。呼吸の微調整をしているみたいに。「今はひとりで車
 の中にいるの。携帯でかけている」
 「車の中でひとりで何をしているの?」
 「車の中でひとりになりたかったから、ただ車の中でひとりになっているだけよ。主婦にはね、
 そういう時期がたまにあるの。いけない?」
 「いけなくはない。まったく」

  彼女はため息をついた。あちこちのため息をひとつにまとめ、圧縮したようなため息だった。
 そして言った。「あなたが今ここにいるといいと思う。そして後ろから入れてくれるといいなと
 思う。前戯とかそういうのはとくにいらない。しっかり湿ってるからぜんぜん大丈夫よ。そして
 思い切り大胆にかき回してほしい」
 「楽しそうだ。でもそうやって思い切り大胆にかき回すには、ミニの車内は少し狭すぎるかもし
 れない」
 「贅沢はいえない」と彼女は言った。
 「工夫してみよう」
 「そして左手で乳房をもみながら、右手でクリトリスを触っていてほしい」
 「右足は何をすればいいのかな? カーステレオの調整くらいはできそうだけど。音楽はトニー・
 ベネットでかまわないかな?」

 「冗談で言ってるんじやないのよ。私はしっかり真刻なんだから」

 「わかった。悪かった。真剣にやろう」と私は言った。「ところで今、君はどんな服を着ている?」
 「私か今、どんな服を着ているか知りたいわけ?」と誘いかけるように彼女は言った。
 「知りたいな。それによってこちらの手順も変わってくるから」

  彼女は着ている服についてとても克明に電話で説明してくれた。成熟した女性たちがどれくら
 い変化に富んだ衣服を身につけているか、そのことは常に私を驚かせる。彼女は口頭でそれを一
 枚一枚、順番に脱いでいった。

 「どう、十分硬くなったかしら?」と彼女は尋ねた。
 「金槌みたいに」と私は言った。
 「釘だって打てる?」
 「もちろん」

  世の中には釘を打つべき金槌があり、金槌に打たれるべき釘がある、と言ったのは誰だったろ
 う? ニーチェだったか、ショーペンハウエルだったか。あるいはそんなこと誰も言っていない
 かもしれない。
  私たちは電話回線を通して、リアルに真剣に身体を絡め合った。彼女を相手に――あるいは他
 の誰とも――そんなことをするのは初めてだった。しかし彼女の言葉による描写はずいぶん細密
 で刺激的だったし、想像の世界で行われる性行為はある部分、実際の肉休による行為以上に官能
 的だった。言葉はあるときにはきわめて直接的になり、あるときにはエロティツクに示唆的にな
 った。そんな言葉のやりとりをひとしきり続けた末に、私は思いもよらず射精に至った。彼女も
 
オーガズムを迎えたようだった。

  私たちはしばらくそのまま、何も言わずに電話口で息を整えていた。

 「じやあ、土曜日の午後に」と彼女はやがて気を取り直したように言った。「例のメンシキさん
 についても、少しばかり話したいことかあるの」
 「何か新しい情報が入ったのかな?」
 「例のジャングル通信をとおして、いくつかの新しい情報が。でも直接会って話すことにする。
 たぶんいやらしいことをしながら」
 「これから家に帰るの?」
 「もちろん」と彼女は言った。「そろそろ家に戻らなくちやならない」
 「運転に気をつけて」
 「そうね。気をつけなくちや。まだあそこがひくひくしているから」

  私はシャワーに入って、射精したばかりのペニスを石鹸で洗った。そしてパジャマに着替え、
 その上にカーディガンを羽織り、安物の白ワインのグラスを手に持ってテラスに出て、免色の宮
 のある方を眺めた。谷間の向こうの、彼の真っ白な大きな宮の明かりはまだついていた。家中の
 明かりがしっかりついているみたいだった。彼がそこで(おそらくは)一人で何をしているのか、
 私にはもちろんわからない。コンピュータの画面に向かって、直観の数値化を探求し続けている
 のかもしれない。

 「比較的良い一日だった」、私は自分に向かってそう言った。

  そしてそれは奇妙か一日でもあった。そして明日がどんな一日になるのか、私には見当もつか
 なかった。それからふと屋根裏のみみずくのことを思い出した。みみずくにとっても今日は良い
 一日だったろうか? それから私は、みみずくの一日はちょうど今頃から始まるのだということ
 に気づいた。彼らは昼間は暗いところで眠っている。そして暗くなると森に獲物をとりに出かけ
 る。みみずくにはたぶん朝の早い時刻に尋ねなくてはならないのだ。「今日は良い一日だったか
 い?」と。

  私はベッドに入ってしばらく本を読み、十時半には明かりを消して眠りに就いた。朝の六時前
 までそのまま一度も目が覚めなかったところを見ると、たぶん真夜中に鈴は鳴らされなかったの
 だろう。

 ♞  There are horrible people who, instead of solving a problem, tangle it up and make it
       harder to solve for anyone who wants to deal with it. Whoever does not know how to
       hit the nail on the head should be asked not to hit it at all.

                                                                                                              Friedrich Nietzsche

 

 

    17 どうしてそんな大事なことを見逃していたのか

  私が家を出ていくとき、妻が最後に口にした言葉を忘れることができなかった。彼女はこう言
 った。「もしこのまま別れても、友だちのままでいてくれる? もし可能であれば」と。私には
 そのとき(そしてその後も長いあいだ)、彼女が何を言おうとしていたのか、何を求めていたの
 か、うまく理解できなかった。何の昧もしない食物を口にしたときのように、途方に暮れてしま
 っただけだった。だからそう言われたとき、「さあ、どうだろう」としか答えられなかった。そ
 してそれが私が彼女に面と向かって口にした最後の言葉になった。最後の言葉としてはずいぶん
 情けないひとことだ。

  別れたあとも、私と彼女とは今でもなお一本の生きた管で繋がっている――私はそのように感
 じていた。その管は目には見えないけれど、今でも小さく脈打っていたし、温かい血液らしきも
 のが二人の魂のあいだを僅かに行き果していた。そういう生体的感覚が、少なくとも私の側には
 まだ残っていた。でもその管もいつかそう遠くない日に断ち切られてしまうことだろう。そして
 もしいずれ切断されなくてはならないのなら、私としては二人のおいたを結ぶそのささやかなラ
 イフラインを、なるべく早く生命を欠いたものに変えてしまう必要があった。その管から生命が

 失われ、ミイラのように干からびたものになってしまえば、鋭い刃物で切断される痛みもそれだ
 け耐えやすいものになるからだ。そしてそのためにはユズのことをできるだけ早く、できるだけ
 多く忘れてしまう必要があった。だからこそ私は彼女に連絡をとらないように努めていた。旅行
 から帰ってきて、荷物を引き取りにいくときに一度だけ電話をかけた。私はあとに残してきた画
 材一式を必要としていたから。それが今のところ、別れたあとにユズと交わした唯一の会話であ
 り、その会話はとても短いものだった。



  我々が夫婦関係を正式に解消し、それからあとも友だちの関係でいられるとは、私にはとても
 考えられなかった。我々は結婚していた六年の歳月を連して、ずいぶん多くのものごとを共有し
 てきた。多くの時間、多くの感情、多くの言葉と多くの沈黙、多くの連いと多くの判断、多くの
 約束と多くの諦め、多くの悦楽と多くの退屈。もちろんお互いに口には出さず、自分の内部に秘
 密として抱えていることもいくつかあったはずだ。しかしそのような隠しごとがあるという感覚
 さえ、我々はなんとか工夫して共有してきたのだ。そこには時間だけが培うことのできる「場の
 重み」が存在した。我々はそのような重力にうまく身体を連合させ、微妙なバランスを取りなが
 ら生きてきた。そこにはまた我々独白の「ローカル・ルール」のようなものがいくつも存在した。
 それらを全部なしにして、そこにあった重力のバランスや「ローカル・ルール」を抜きにして、
 ただ
単純に「良き友だち」なんかになれるわけはない。

  そのことは私にもよくわかっていた。というか、長い旅行のあいだ一人でずっと考え抜いた末
 に、そういう結論に私は達していた。どれだけ考えても、出てくる結論はいつも同じだった。
  ユズとはできるだけ距離を置き、接触を断っていた方がいい。それが筋の通ったまともな考え
 方だ
った。そして私はそれを実行した。

  またその一方で、ユズの方からも連絡はまったくこなかった。一本の電話もかかってこなかっ
 たし、一通の手紙も届けられなかった。「友だちでいたい」と口にしたのは彼女の方であるにも
 かかわらずだ。そしてそのことは思いのほか、予想を連かに超えて私を傷つけた。いや、正確に
 言えば、私を傷つけたのは実際には私自身たった。私の感情はそのいつまでも続く沈黙の中で、
 刃物でできた重い振り子のように、ひとつの極端からもうひとつの極端へと大きな弧を描いて行
 き
来した。その感情の弧は、私の肌にいくつもの生々しい傷跡を残していった。そして私がその
 痛みを忘れるための方法は、実質的にはひとつしかなかった。もちろん絵を描くことだ。

                                     この項つづく

  

滋賀の隠れた名産品「笹寿しセット」 (有)仲よし(道の駅 藤樹の里あどがわ)

彦根市長選挙の連呼を逃げるかのように湖西へ車を走らせる。途中、海津大崎~管浦間の土砂崩れ
事故で
不通。折り返し国道を通り高島の安曇川へ向かう。「道の駅 藤樹の里あどがわ」で二人で「
鰊そば」を頂きドライブを折り返す。途中、ハードトップの左ループジョイント金具が脱落のトラ
ブルに見舞われ(修理)、木之本から北陸高速自動車道に入り、開設された小谷城趾スマートイン
ターチェンジを下り、長浜バイパス道を経由し国道8号線を走る。途中、マツダ自販店により故障
を伝え帰宅する。早速、買ってきた、アドベリークッキーを食べ、「笹寿しセット」と白い金麦を
食べまた飲み干す。

 幻の果実アドベリー

 

  

 

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エネルギーフリー社会を語ろう

2017年04月20日 | 環境工学システム論

            人みな有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり
               
                                           「人間世」(じんかんせい)   
  

                                                 

        ※ 膏火(こうか)は自ら煎(つ)く:才によってみずから禍を招くことの
         たとえ。狂接輿(こうせつよう:この「狂」は変人とい
った程度の意味)
         が孔子を批判するはなしは、『論語』微子篇にもある。そこでは接輿は
        、
界の救済を目ざした孔子の努力が、いかに危険であるかを訴え、政治
         から手をひいて隠者になれと、孔子によびかけている。『論語』の接輿
         は、未来への希望をつなぎとめているのだが、ここでは希望などは問題
         にしていない。孔子に代表されるような作為にみちた生き方を批判する
         とともに、無用の用という、価値の転倒を説いている。荘子にとっては、
         自然に同化し、自然の生を全うすることこそ、最高の価値なのである。
         鳳凰とは、聖王が現われれば飛んでくるという想像上の鳥だが、ここで
         は孔子擬している

 

    

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

   16.比較的良い一日 

  その夜、私はなかなか寝付けなかった。スタジオの棚に置いた鈴が夜中に鳴り出すのではない
 かと不安だったからだ。もし鈴が鳴り出したら、いったいどうすればいいのだろう? 頭から布
 団をかよって、そのまま朝まで何も聞こえないふりをすればいいのか? それとも懐中電灯を手
 に、スタジオまで様子を見に行くべきなのか? 私はいったいそこで何を見出すことになるのだ
 ろう?

  どうするべきか心を決めかねたまま、私はベッドの中で本を読んでいた。しかし時刻が二時を
 過ぎても鈴は鳴り出さなかった。耳に届くのは夜の虫の声だけだった。本を読みながら五分ごと
 に枕元の時計に目をやった。ディジタル時計の数字が2:30になって、私はそこでようやく安
 堵の息をついた。今夜はもう鈴は鳴らないだろう。私は本を閉じ、枕元の灯りを消して眠った。

  翌朝七時前に目が覚めたとき、鍛初にとった行動はスタジオに鈴を見に行くことだった。鈴は

 昨日私かそこに置いたまま、棚の上にあった。太陽の光が山を明るく照らし、カラスたちがいつ
 もの販やかな朝の活動にかかっていた。朝の光の中で見ると、その鈴は決して禍々しいものには
 見えなかった。過去の時代からやってきた、よく使い込まれたただの素朴な仏具に過ぎなかった。

  私は台所に戻り、コーヒーメーカーでコーヒーをつくって飲んだ。固くなりかけたスコーンを
 トースターで温めて食べた。それからテラスに出て朝の空気を吸い、手すりにもたれて、谷の向
 かい側の免色の家を眺めた。色づけをした大きな窓ガラスが朝日を受けて眩しく光っていた。た
 ぶん週に一度のクリーニング・サービスの中にはすべてのガラスの清掃も含まれているのだろう。
 そのガラスは常に美しく、眩しく保たれていた。しばらく眺めていたが、テラスに免色の姿は現
 れなかった。我々が「谷間越しに手を振り合う」という状況はまだ生まれていない。

  十時半に車に乗ってスーパーマーケットに食品の買い物に行った。戻ってきて食品を整理し、
 簡単な昼食をつくって食べた。豆腐とトマトのサラダと握り飯がひとつ。食後に濃い緑茶を飲ん
 だ。そしてソファに横になってシューベルトの弦楽四重奏曲を聴いた。美しい曲だった。レコー
 ド・ジャケットに書かれている説明を読むと、この曲が初演されたとき、「新しすぎる」という
 ことで聴衆のあいだには少なからず反撥があったということだった。どこが「新しすぎる」のか
 私にはよくわからなかったが、たぶんどこかしら当時の古風な人々の気に障るところがあったの
 だろう。

  レコードの片面が終了したところで急に眠くなり、毛布を身体の上に掛け、ソファの上でしば
 らく眠った。短いけれど深い眠りだった。眠ったのはおそらく二十分くらいのものだろう。いく
 つか夢を見たような気がする。しかし目覚めたときに、どんな夢だったか忘れてしまった。そう
 いう種類の夢がある。繋がりのないいくつかの断片が交錯するように現れる夢だ。断片のひとつ
 
ひとつにはそれなりの質量があるのだが、それらは絡み合うことでお互いを打ち消しあってしま
 う。

  私は台所に行って、冷蔵庫で冷やしたミネラル・クォーターをボトルからそのまま飲み、身体
 の隅の方に雲の切れ端のように居残っている眠りの残滓を追い払った。そして自分は今、一人き
 りで山の中にいるのだという事実をあらためて確認した。私はここで一人で暮らしている。何か
 しらの運命が、私をこのような特別な場所に運び込んできたのだ。それからまた鈴のことを思い
 出した。雑木林の奥のあの不思議な石室の中で、いったい誰がその鈴を振っていたのだろう。そ
 してその誰かは今、いったいどこにいるのだろう?

  絵を描くための服に着替え、スタジオに入って、免色の肖像画の前に立ったときには、時刻は
 午後二時を過ぎていた。私はだいたいいつも午前中に仕事をすることにしている。午前八時から
 十二時というのが、私が画作にいちばん集中できる時間だった。結婚していたときにはそれは、
 妻を仕事に送り出して一人になったあとの時間を意味していた。私はそこにある「家庭内の静け
 さ」のようなものが好きだった。山の上に越してきてからは、豊かな自然が惜しみなく提供して
 くれる、朝の鮮やかな光と混じりけのない空気を好むようになった。そのように毎日同じ時間帯
 に同じ場所で仕事をすることは、私にとって昔から大事な意味を持っていた。反復がリズムを生
 み出してくれる。しかしその日は、前夜にうまく眠れなかったせいもあって、午前中をとりとめ
 もなく過ごしてしまった。だから午後になってスタジオに入ることになった。

  私は作業用の丸いスツールに腰掛けて両腕を組み、ニメートルほど離れたところから、その描 

 きかけの絵を眺めた。私はまず免色の顔の輪郭だけを細い絵筆で描き、そのあと彼がモデルとし
 て私の
 前にいた十五分ほどのあいだに、そこにやはり黒色の絵の具を使って肉付けをおこなっ
 て
いた。それはまだただの粗っぽい「骨格」に過ぎなかったが、そこにはうまくひとつの流れが
 生
まれていた。免色渉と雨に濡れた雑木林のもたらす緑色。自分自身に向かって、何度か小さく
 肯きさえした。それは絵に関して、私かずいぶん久しぷりに感じることのできた確信(のような
 もの)だった。そう、これでいい。この色が私のほしかった色だ。あるいはその「骨格」自体が
 求めていた色だ。それから私はその色を基にして、いくつかの周辺的な変化色をこしらえ、それ
 らを適度に加えて全休に変化をつけ、厚みを作っていった。

  そうしてできあがった画面を眺めているうちに、次の色が自然に順に浮かんできた。オレンジ
 ただのオレンジではない。燃えたつようなオレンジ、強い生命力を感じさせる色だが、同時にそ
 こには退廃の予感が含まれている。それは果実を緩慢に死に至らせる退廃かもしれない。その色
 作りは、緑のときより更にむずかしかった。それはただの色ではないからだ。それはひとつの情
 念に根本で繋がっていなくてはならない。運命に絡め取られた、しかしそれなりに揺らぎのない
 情念だ。そんな色を作り出すのは簡単なことではない、もちろん。しかし最終的には私はそれを
 作りあげた。私は新しい絵筆を手に取り、キャンバスの上にそれを走らせた。部分的にはナイフ
 も使った。考えないことが何より大事だった。私は思考の回路をできるだけ遮断し、その色を構
 図の中に思い切りよく加えていった。その緑を描いている間、現実のあれこれは私の順の中から
 ほぼ完全に消え去っていた。鈴の音のことも、聞かれた石室のことも、別れた妻のことも、彼女
 が他の男と寝ていることも、新しい人妻のガールフレンドのことも、絵画教室のことも、将来の
 ことも、何ひとつ考えなかった。免色のことすら考えなかった。私か今描いているのは言うまで
 もなく、そもそも免色の肖像画として始められたものだったが、私の頭にはもう免色の順さえ思
 い浮かばなかった。免色はただの出発点に過ぎなかった。そこで私かおこなっているのは、ただ
 自分のための絵を描くことだった。

  どれくらいの時聞か経過したのか、よく覚えていない。ふと気がついたときには室内はずいぶ
 ん薄時くなっていた。秋の太陽は既に西の山の端に要を消していたが、それでも私は灯りをつけ
 るのも忘れて仕事に没頭していたのだ。キャンバスに目をやると、そこには既に五種類の色が加
 えられていた。色の上に色が重ねられ、その上にまた色が重ねられていた。ある部分では色と色
 が微妙に混じり合い、ある部分では色が色を圧倒し、凌駕していた。

  私は天井の灯りをつけ、再びスツールに腰を下ろし、絵を正面からあらためて眺めた。その絵
 がまだ完成に至っていないことが私にはわかった。そこには荒々しいほとばしりのようなものが
 あり、そのある種の暴力性が何より私の心を刺激した。それは私か長いあいだ見失っていた荒々
 しさだった。しかしそれだけではまだ足りない。その荒々しいものの群れを統御し鎮め導く、何
 かしらの中心的要素がそこには必要とされていた。情念統合するイデアのようなものが。しか
 しそれをみつけるためには、あとしばらく時間を置かなくてはならない。ほとばしる色をひとま
 ず寝かさなくてはならない。それはまた明日以降の、新しい明るい光の下での仕事になるだろう。
 しかるべき時間の経通がおそらく私に、それが何であるかを敦えてくれるはずだ。それを待たな
 くてはならない。電話のベルが鳴るのを辛抱強く待つように。そして辛抱強く待つためには、私
 は時間というものを信用しなくてはならない。時間が私の側についていてくれることを信じなく
 てはならない。

  私はスツールに腰掛けたまま目を閉じ、深く胸に息を吸い込んだ。秋の夕暮れの中で、自分の
 中で何かが変わりつつあるという確かな気配があった。身体の組織がいったんばらばらにほどか
 れて、それがまた新しく組み立て直されていくときの感触だ。しかしどうしてそんなことが今こ
 こで、私の身に起こったのだろう? 免色という謎の人物とたまたまめぐり逢い、彼に肖像画の
 制作を依頼されたことが、結果的に私の中にこのような変化を生み出したのだろうか? あるい
 は夜中の鈴の音に導かれるように、石の塚をどかせてあの不思議な石室を関いたことが、私の精
 神にとって何かの刺激になったのだろうか? あるいはそんなこととは無関係に、私はただ変化
 の時期を迎えていたということなのだろうか? どの説をとるにせよ、そこには論拠と言えるよ
 うなものはなかった。

 「これはただの始まりに過ぎないのではないか、という気がします」と免色は別れ際に私に言っ
 た。とすれば、私は彼の言う何かの始まりに足を踏み入れたということなのだろうか? しかし
 何はともあれ私は、結を描くという行為に久しぷりに激しく心を昂ぶらされたし、文字どおり時
 が経つのを忘れて結の制作に没頭することができた。私は使用した画材を片づけながら、心地良
 い発熱のようなものを皮膚に感じ続けていた

  画材を片づけているときに、棚の上に置かれた鈴が目についた。私はそれを手に取り、二、三
 度試しに鳴らしてみた。あの例の音がスタジオの中に鮮やかに響いた。夜中に私を不穏な気持ち
 にさせた音だ。しかし今ではなぜかそれは私を怯えさせなかった。こんな古びた鈴がどうしてこ
 れほど鮮やかな音を出せるのか、意外の念に打たれただけだった。私は鈴を元あった場所に戻し、
 スタジオの灯りを消しドアを閉めた。そして台所に行って白ワインをグラスに往ぎ、それを飲み
 ながら夕食の支度をした。

  夜の九時前に免色から電話がかかってきた。
 「昨夜はいかがでした?」と彼は尋ねた。「鈴の音は聞こえましたか?」
  二時半まで起きていたが、鈴の音はまったく聞こえなかった。とても静かな夜だったと私は答
 えた。
 「それはよかった。あれ以来、あなたのまわりで不思議なことは何も起こらなかったのですね?」
 「とくに不思議なことは何も起こっていないようです」と私は言った。
 「それはなによりです。このまま何ごとも起こらないと良いのですが」と免色は言った。そして
 一息置いて付け加えた。「ところで、明日の午前中にそちらにうかがってもかまいませんか?
 できれば、もう一度あの石室をじっくりと見てみたいのです。とても興味深い場所だし」
  
  かまわない、と私は言った。明日の午前中には何の予定も入っていない。

 「それでは十一時頃にうかがいます」
 「お待ちしています」と私は言った。
 「ところで、今日はあなたにとって良い一日でしたか?」、免色はそう尋ねた。

  今日は私にとって良い一日だったか? まるで外国語の構文をコンピュータ・ソフトで機械的

 に翻訳したような響きがそこにはあった。
 「比較的良い一日だったと思います」と私は少し戸惑いながら答えた。「少なくとも悪いことは
 何も起こらなかった。お天気も良かったし、なかなか気持ちの良い一日でした。免色さんはいか
 
がでした? あなたにとっては今日は良い一日でしたか?」
 「良いことと、あまり良いとは言えないことがひとつずつ起こった一日でした」と免色は言った。 

 「その良いことと悪いことと、どちらの方がより重みを持っているか、まだ秤が決めかねて左右
 に揺れているような状態です」
  それについてどう言えばいいのかわからなかったので、私はただ黙っていた。
  免色は続けた。「残念ながら私はあなたのような芸術家ではありません。私はビジネスの世界
 に生きているものです。とりわけ情報ビジネスの世界に。そこではほとんどの場合、数値化でき
 るものごとだけが、情報としてやりとりされる価値を持っています。ですから良いことも悪いこ
 とも、つい数値化する癖がついてしまっています。良いことの方の重みが少しでもまされば、た
 とえ一方で悪いことが起こっていても、それは結果的に良い一日になります。というか、数値的
 にはそうなるはずです」

  彼が何を言おうとしているのか、私にはまだわからなかった。だからそのまま口を閉ざしてい
 た。

 「昨日のことですが」と免色は続けた。「ああして地下の石室を開いたことで、私たちは何かを
 失い、何かを得たはずです。いったい何を失い何を得ることができたのでしょう。そのことが
 私には気にかかってならないのです」

  彼は私の返事を待っているようだった。

 「数値化できるようなものは何も得ていないと思います」と私は少し考えてから言った。「もち
 ろん今のところは、ということですが。ただひとつ、あの古い鈴のような仏具は手に入りました。
 でもそんなものは実質的には、たぶん何の値打ちも持たないでしょう。由緒ある品でもないし、
 珍しい骨董品でもありませんから。その一方で、失ったものはわりにはっきり数値化できるはず
 
です。そのうちに造園業者からあなたのところに請求書が届くでしょうから」
 
  免色は軽く笑った。「大した金額じやありません。そんなことは気にしないでください。私の

 気にかかるのは、私たちがそこから受け取るはずのものをまだ受け取っていないのではないか、
 ということなのです」
 「受け取るはずのもの? それはいったいどのようなものですか?」
  免色は咳払いをした。「さっきも申し上げたとおり、私は芸術家ではありません。それなりの
 直観のようなものは具えていますが、残念ながらそれを具象化する手だてを持ち合わせていない。
 その直観がどのように鋭いものであれ、それを芸術という普遍的な形態に移し替えることができ
 ないのです。私にはそのような能力が欠けています」

  私は黙って彼の話の続きを持っていた。

 「だからこそ私は芸術的、普遍的具象化の代用として、数値化というプロセスをこれまで一貫し
 て追究してきました。何によらず、人がまっとうに生きていくためには、依って立つべき中心軸
 が必要とされますから。そうですね? 私の場合は直観を、あるいは直観に似たものを、独自の
 システムに従って数値化することによって、それなりの世俗的な成功を収めてきました。そして
 その私の直観に従えば――」と彼は言って、しばらく沈黙した。しっかりした密度を持つ沈黙だ
 った。「――
そしてその私の直観に従えば、私たちはあの掘り起こした地下の石室から、何かし
 
らを手にすることができるはずなのです」
 「たとえばどんなものを?」

  彼は首を振った。というか、
電話口で首を振るような気配が微かにあった。「それはまだわか
 りません。しかし私たちはそれを知らなくてはならない、というのが私の意見です。お互いの直
 観を持ち寄り、それぞれの具象化あるいは数値化というプロセスを通過させることによって」
  私は彼の言いたいことがまだうまく理解できなかった。この男はいったい何の話をしているの
 だろう?
 「それでは明日の十一時にお目にかかりましょう」と免色は言った。そして静かに電話を切った。

Cezanne's water paints

                                     この項つづく 

 

再生可能エネルギーの革命的技術導入とスマートグリッドの有機的で自律的で高効率相互運用
クリーン
エネルギー百パーセント社会を構築し、誰もが必要に応じて自由にエネルギー消費できる世
界の実現について語り合おう。第3回目の今夜は、❶2024年後の国内蓄電池市場予測と、❷自動
車用蓄電池をペロブスカイト太陽電池生産への再資源化技術について掲載する。


【RE100倶楽部:24年度国内蓄電池システム市場予測】

☑ 住宅/業務/公共用蓄電システム市場:16
年比で5.6倍強/約3,684億円
☑ 同上販売台数:16年比で、11.4倍となる41万9,500台

今月17日、市場調査会社のシード・プランニングは、住宅やオフィス、避難所、発電所などに設置
される「定置用」を対象とした調査で、1kWh以上の製品を主要調査対象。キャスターが付いている可
搬型(ポータブル)製品も定置用の対象。
移動体に搭載されている電池や電気機器用の電池、電気自
動車(EV)用電池は含まない。また大規模用(百~数万kWh)の蓄電システムも含まれていない。そ
結果、住宅用、業務用、公共産業用蓄電システムの市場規模は、16年度(653億円)と比較して
5.6倍強の3684億円になるという。戸建て住宅用蓄電システムが市場をけん引し、住宅用と業務用
で、2718億円と全体の74%を占める。

また、公共産業用は「グリーンニューディール基金」向けが多くの割合を占めている。15年度は、
90%超、16年度は80%超だ。グリーンニューディール基金が終了した16年度から市場が落ち
込み、この影響は17年度まで続くと見込むがVPP(バーチャルパワープラント)用途での出荷や、
価格低下に伴う需要拡大により、18年度から市場が回復。200年度に360億円、24年度には
966億円まで成長する。

販売台数は16年度(3万6900台)と比較して、11.4倍となる41万9500台になると予測。政府が、
14年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では、「20年までに標準的な新築住宅、30年
までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」といった目標が設定され、そのためZEHを扱うハウス
メーカーやビルダー、工務店が増加し、ZEHへの蓄電システム搭載率が向上することが見込まれる。
同調査では20年にZEHの約10%、24年にはZEHの約40%に蓄電システムが搭載されると予測。

市場拡大要因として、❶「2019年問題」を挙げ、19年に太陽光発電システムの買い取り期間が
終了する住宅は40~50万戸になるとみられている。20年以降も1年当たりに15~30万戸の
住宅で買い取り期間が終了する。買い取り期間が終了した住宅では、買電から自家消費への移行が高
まるとを予想する。❷
また太陽光発電システムのパワーコンディショナー(PCS)を買い取り期間終
了に合わせて、ハイブリッド型PCS蓄電システムに交換する動きが出てくる。買い取り期間が終了す
る設置者のうち、19年度には15%程度、24年度には30%程度が蓄電システムを導入すると予
測している。

 Mar. 7, 2017

【ZW倶楽部:ペロブスカイト型太陽電池の循環】

● US 9590278 B2 自動車蓄電池のペロブスカイト太陽電池へ再資源化

効率的なペロブスカイト太陽電池を、使用済み自動車バッテリーのアノードとカソードを再使用し製
造する新規考案が公開されている。 その概要か以下の通り。完全クローズド(鉛フリーなど)を考え
るには重要な課題技術である。

【特許請求範囲】

  1. ペロブスカイト型太陽電池を製造する方法で、回収溶液に自動車バッテリーのアノードおよび
    カソードから鉛由来材料を回収する工程と、回収溶液から鉛誘導物質から回収した鉛ヨウ化物
    を合成する工程と、回収されたヨウ化ペロブスカイトナノクリスタルを回収されたヨウ化鉛か
    ら形成
    する工程すなわち回収されたヨウ化鉛ペロブスカイトナノ結晶を基板上に堆積させるこ
    ととを含む。
  2. ペロブスカイトが式(I):A x A '1-x B y B' 1-y O 3±δ・を有する、請求項1に記載の方法。 (1)式中、Aおよ
    びA 'の各々は独立して、希土類、アルカリ土類金属またはアルカリ金属であり; BおよびB 'はそれぞれ
    独立して遷移金属であり、 xは0~1の範囲にあり、 yは0~1の範囲にあり、 δは、 0~1の範囲内である。
  3. AおよびA 'は独立して、メチルアンモニウム、5-アミノ吉草酸、Mg、Ca、Sr、Ba、PbおよびBiからなる群
    から選択される請求項2に記載の方法。 B、B 'はPb、Sn、Ti、Zr、V、Nb、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、
    Pt、AlおよびMgからなる群から選択される。
  4. 前記請求項2に記載の方法がペロブスカイトがチタン酸ストロンチウムである、
  5. 前記請求項2に記載の方法がペロブスカイトがビスマスフェライトである、
  6. 前記請求項2に記載の方法がペロブスカイトが、酸化タンタル、酸窒化タンタルまたは窒化タン
    タルであ
    る。
  7. 請求項6に記載の方法が ペロブスカイトが、タンタル酸ナトリウム、酸化ジルコニウム/酸窒化
    タンタル、
    酸窒化タンタル、酸窒化タンタル、窒化タンタルまたは窒化タンタルのジルコニウム
    である。
  8. ペロブスカイトが式(Ⅱ):A x B y X 3)(式中、Aはメチルアンモニウムまたは5-アミノ
    吉草酸であり、 BPbまたはSnであり; XI、BrまたはClであり; x0~1の範囲にあり、 y
    0~1の範囲である。
  9. 前記請求項1に記載の方法が カーバッテリーのアノードまたはカソードが硫酸鉛(PbSO4)を含
    む。
  10. 前記請求項1に記載の方法が ヨウ化鉛が室温で合成される。
  11. 前期請求項1に記載の方法が、回収されたヨウ化鉛を合成するために、過酸化水素が添加される。
  12. 前期請求項1に記載の方法が、自動車バッテリーのアノード及びカソードからの回収溶液として
    鉛由来材料の回収のPbO2が含まれる酸性溶液への過酸化物の添加を含むものである。

尚、詳細は説明下図表写真(抜粋)をダブクリ参照願う。

 

 

  

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ネルシャツのモンク

2017年04月19日 | 環境工学システム論

         巧をもって力を闘わすものは、陽に始まり常に陰に卒(おわ)る            
                         
                                           「人間世」(じんかんせい)   
  

                                                 

       ※ ことばを飾ろうと思うな:楚の大夫葉公子高(しょうこうしこう)が、
        孔子に教えを請う件。「国と国とが交わる場合、隣国どうしであれば直
        接に意志を通じることができます。しかし、遠隔の国が相手では、たが
                いに使者を介在させ、ことばによって意志を伝えねばなりません。使者
        にとって、両者とも好都合なことば、あるいは逆に、両者ともに不都合
        なことばを伝えるほど雑かしい役目はありません。 両者ともに好都合
        な、あるいは両者ともに不都合なことばは、とかく朧をまじえ、真実を
        ゆがめがちです。真実に反することばは紛争のもとです。紛争がおこれ
        ば、使者は死を免れません。格言にも『使者は真実を巡ぶもの。使者の
        誇張は禍いのもと』とあるではありませんか。身近な例をあげますと、
        愉快に始めた技くらべも、いつしかむきになり、ついには勝つために手
        段をえらばなくなって、まずい結果に終りがちです」と答える。

 Apr. 17, 2017

● 世界初「浮遊球体ドローンディスプレイ」

今月17日、株式会社NTTドコモは、無人航空機(以下ドローン)を活用した新たなビジネスの創
出に向けて、全方位に映像を表示しながら飛行することができる「浮遊球体ドローンディスプレイ」
を世界で初めて開発。この「浮遊球体ドローンディスプレイ」は、環状のフレームにLEDを並べた
LEDフレームの内部にドローンを備え、LEDフレームを高速に回転させながら飛行、回転するLED
の光の残像でできた球体ディスプレイを、内部のドローンで任意の場所に動かして見せることがで
きる。これにより、コンサートやライブ会場において、空中で動き回る球体ディスプレイによるダ
イナミックな演出や、会場を飛び回り広告を提示するアドバルーンのような広告媒体としての活用
が可能となると説明している。

☑ 任意の空間で360度どこからでも見える広告展開が可能に

なお、「浮遊球体ドローンディスプレイ」は、今月29日(土)から幕張メッセで開催される「ニ
コニコ超会議」の「NTT ULTRA FUTURE MUSEUM 2017」に出展し、会場内でのデモ飛行を予定し
ている。

 Feb. 24, 2017

● 住宅用宅配ポスト/宅配ボックス 

パナソニック株式会社 エコソリューションズ社は、福井県あわら市の進める「働く世帯応援プロジ
ェクト」に参画し、あわら市在住の共働き世帯を対象とした「宅配ボックス実証実験」を2016年11月
より開始。12月の実証実験をまとめた中間報告では、宅配ボックス設置により再配達率が49%から
8%に減少。それにより、約65.8時間の労働時間の削減、約137.5kgの二酸化炭素削減。4月
の最終結果発表時には、再配達率約8%前後(約20回に1回の割合)、再配達削減回数700回以
上削減できると予想しているという。

☑ 宅配ポスト コンボ-F(エフ)2017年6月1日受注開始

郵便物と宅配物が1台で受け取れる、宅配ボックス&ポスト。素材感を生かした直線的なデザインが
魅力のコンボ-F(エフ)は、上段は郵便物、下段が宅配物と個別で受け取れる一台二役の宅配ポス
トで、壁埋め込み・ポール取り付けに対応する。

 ☑ 宅配ポスト コンボ-int(イント)2017年6月1日受注開始

室内で郵便物や宅配物が取り出せ、住宅壁埋め込み専用の宅配ポスト。コンボ-int(イント)(住
宅壁埋め込み専用)は、
宅配ボックスとサインポストの2つの機能を、住宅壁にスッキリ納める。
外から郵便物や宅配物などの投函物を受けて室内で取り出すことができる。

 

● 関連特許事例(下図参照)

【要約】

宅配物測定装置1は、宅配物70を出し入れ自在に収容する内部空間11を有するボックス2と、
ボックス2内に取り付けられる発光部5と、発光部5の発光を制御する制御部6と、ボックス2内
に取り付けられ発光部5からの光を受ける受光部4と、を備える。受光部4は、下面部211また
は第1側面部に設けられ、第1入隅部31の長さ方向と平行な方向に並ぶ複数の受光素子40を有
する第1受光列41を有する。受光部4は、下面部211または第2側面部に設けられ、第2入隅
部32の長さ方向と平行な方向に並ぶ複数の受光素子40を有する第2受光列42を有する。受光
部4は、第1側面部または第2側面部に設けられ、第3入隅部33の長さ方向と平行な方向に複数
の受光素子40を有する第3受光列43を有することで、ボックスをコンパクトにすることができ
る、物測定装置を提供する。

 
☈ 特開2017-063961  収納ボックスの設置構造 パナソニックIPマネジメント株式会社
☈ 特開2017-062765  在不在予測方法および在不在予測装置 パナソニック インテレクチュアル プロ
                   パティ コーポレーション オブ アメリカ

☈ 特開2017-054426  宅配物測定装置 パナソニックIPマネジメント株式会社
☈ 特開2017-049638  判定方法およびそれを利用した判定装置 パナソニックIP マネジメント株式
                   会社
☈ 特開2017-046629  鮮度保持方法、鮮度保持装置、収納庫、及び、陳列装置 パナソニックIPマネ
           ジメント株式会社宅配物測定装置 パナソニックIPマネジメント株式会社


    

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

  15.これはただの始まりに過ぎない 

  我々は午後一時十五分過ぎに林の中の現場に戻った。人々は昼食を終え、既に工事を本格的に
 再開していた。二人の作業員が金属の模のようなものを石の隙間に差し込み、ショベルカーがロ
 ープを使ってそれを引いて石を起こしていた。そのようにして掘り起こされた石に作業員がロー
 プをかけ、それをまたショベルカーが引っ張り上げた。時間はかかったものの、石はひとつひと
 つ着実に掘り起こされ、脇にどかされていった。

  
免色は監督と二人でしばらく熱心に話し合っていたが、やがて私の立っているところに戻って
 きた。

 「敷石は予想したとおり、それほど厚いものではありませんでした。うまく取り除けそうです」
 と彼は私に説明した。「石の下にはどうやら格子状の蓋がはまっているみたいです。材質までは
 わかりませんが、その蓋が敷石を支えていたようです。上に敷かれた石をすっかりどかしてから
 その格子をはずさなく てはなりません。うまくはずせるかどうか、それはまだわかりません。
 その格子の蓋の下がどのようになっているかもまったく予測がつきません。石をどかすのにまだ
 少し時間がかかりますし、ある程度作業が連んだら連絡をするので、家で待っていてほしいとい
 うことです。もしよるしければそうしましょう。ここにじっと立っていても仕方ない」

  我々は歩いて家に戻った。そこで空いた時間を利用して、肖像画制作の続きにとりかかっても
 よかったのだが、画作に意識を集中することはできそうになかった。雑木林の中で人々がおこな
 っている作業のせいで、神経が高ぶっていたからだ。崩れた古い石の塚の下から出てきたニメー
 トル四方ほどの石床。その下にある頑丈な格子の蓋。そしてその更に下にあるらしい空間。私は
 それらのイメージを頭から消し去ることができなかった。たしかに免色の言ったとおりだ。まず
 この案件を片付けてしまわないことには、何ごとによらず先に進められそうにない。

 Cezanne

  待っているあいだ音楽を聴いてかまわないか、と免色は尋ねた。もちろん、と私は言った。好
 きなレコードをかけてくれてかまわない。そのあいだ私は台所で料理の仕込みをしているから。
 彼はモーツァルトのレコードを選んでかけた。「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」。タン
 ノイのオートグラフは派手なところはないが、深みのある安定した音を出した。クラシック音楽、
 とくに室内楽曲をレコード盤で聴くには格好のスピーカーだ。古いスピーカーだけに、とくに真
 空管アンプとの相性が良い。演奏はピアノがジョージ・セル、ヴァイオリンはラファエル・ドウ
 ルイアン。免色はソファに座り、目を閉じて音楽の流れに身を任せていた。私はその音楽を少し
 離れたところで聴きながら、トマトソースを作った。まとめて買ったトマトが余っていたので、
 悪くならないうちにソースにしておきたかった。

  大きな鍋に湯を彿かし、トマトを湯煎して皮を剥き、包丁で切って種を取り、それを潰して、
 大きな鉄のフライパンで、ニンニクを入れて炒めたオリーブオイルを使って、時間をかけて煮込
 む。こまめにアクを取る。結婚していたときも、よくそうやってソースを作ったものだった。手
 間と時間はかかるが、原理的には単純な作業だ。妻が仕事に出ているあいだに、台所に一人で立
 って、CDの音楽を聴きながらつくった。私白身は古い時代のジャズを聴きながら料理をするの
 が好きだった。よくセロニアス・モンクの音楽を聴いたものだ。『モンクス・ミュージツク』が
 私のいちぱん好きなモンクのアルバムだ。コールマン・ホーキンズとジョン・コルトレーンが参
 加して、素敵なソロを聴かせる。でもモーツァルトの室内楽を聴きながらソースをつくるのもな
 かなか悪くなかった。

  Thelonious Sphere Monk

  セロニアス・モンクのあの独特の不思議なメロディーと和音を聴きながら、昼下がりにトマト
 ソースをつくっていたのは、ほんの少し前のことなのだが(妻との生活を解消してからまだ半年
 しか経っていない)、なんだかずいぷん音に起こった出来事のように思えた。一世代前に起こっ
 た、一握りの人しかもう記憶していないささやかな歴史的エピソードのように。妻は今ごろいっ
 たい何をしているのだろう、と私はふと考えた。ほかの男と生活を共にしているのだろうか?
 それともまだあの広尾のマンションで一人で暮らしているのだろうか? いずれにしてもこの時
 刻は建築事務所で仕事をしているはずだ。彼女にとって、私の存在したかつての人生と、私の存
 在しない今の人生とのあいだにはどれはどの違いがあるのだろう? そして彼女はその違いにつ
 いてどんな感興を抱いているのだろう? 私は考えるともなく、そういうことを考えていた。彼
 女もまた私と暮らしていた日々のことを「なんだかずいぷん昔に起こった出来事」として受けと
 めているのだろうか?

  レコードが終わり、ぶちぶちと音を立てていたので居間に行ってみると、免色はソファの上で
 腕組みをし、身を僅かに傾けて眠り込んでいた。私は回転し続けているレコード盤から針を上げ、
 ターンテーブルを止めた。規則的な針音が止んでも、まだ免色は眠り込んでいた。よほど疲れて
 いたのだろう。微かな寝息まで聞こえた。私は彼をそのままにしておいた。台所に戻り、フライ
 パンのガスを止め、冷たい水を大きなグラスに一杯飲んだ。それからまだ時間が余ったので、玉
 葱炒めにとりかかった。

  Gyokudou Kawai

  電話がかかってきたとき、免色は既に目覚めていた。復は洗面所に行って石鹸で顔を洗い、う
 がいをしているところだった。現場監督からかかってきた電話だったので、私は受話器を免色に
 まわした。復は短く話をし、すぐにそちらに行くと言った。そして私に電話を返した。
 「作業がだいたい終わったそうです」と復は言った。

  外に出ると雨はもう止んでいた。空はまだ雲に覆われていたが、あたりは少し明るさを増して
 いた。天候は徐々に回復に向かっているようだった。我々は足早に階段を上り、雑木林を抜けた。
 祠の裏では四人の男たちが穴を囲むように立って、下を見下ろしていた。ショベルカーのエンジ
 ンは切られ、勤くものもなく、林の中は奇妙なほどしんと静まり返っていた。

  敷石はそっくり取り除かれ、そのあとに穴が口を開けていた。四角い格子の蓋も取り外され、
 脇に置かれていた。厚みのある重そうな木製の蓋だ。古びてはいるか、腐ってはいない。そして
 そのあとには円形の石室らしきものが見えた。その直径はニメートル足らず、深さはニメートル
 半ほどだ。まわりを石壁で囲まれていた。底はどうやら土だけのようだ。草▽不生えてはいない。
 石室の中は空っぽだった。助けを求めている人心いなければ、ビーフジャーキーのようなミイラ
 の姿もなかった。ただ鈴のようなものがひとつ、底にぽつんと置かれている。それは鈴というよ
 りは、小さなシンバルをいくつか重ねた古代の楽器のように見えた。長さ十五センチほどの木製
 の柄がついている。監督はそれを小型の投光器で上から照らした。

 「中にあったのはこれだけですか?」と免色は監督に尋ねた。
 「ええ、これだけです」と監督は言った。「言われたとおり、石と蓋をどかせたままの状態にし
 てあります。何ひとついじってはいません」
 「不思議だ」、免色は独り言のようにそう言った。「しかし、本当にこれ以外に何心なかったん
 ですね?」
 「蓋を持ち上げて、すぐにそちらに電話をしました。中に降りて心いません。これがまったく開
 けたままの姿です」と監督は答えた。
 「もちろん」と免色は乾いた声で言った。
 「あるいは心と心とは井戸だったのか心しれません」と監督は言った。「それを埋めて、このよ
 うな穴にしたみたいに見えます。でも井戸にしてはいささか口径が大きすぎますし、まわりの石
 壁もずいぷん緻密につくられています。こしらえるのはかなり天変だったはずです。まあ、なに
 か大事な目的があればこそ、こうして手間暇かけて造ったのでしょうが」

 「中に降りてみてもかまいませんか」と免色は監督に言った。
  監督は少し迷った。それからむずかしい顔をして言った。「そうですね、まず私が降りてみま
 しょう。何かあるとまずいですから。それでもし何もなければ、そのあとで免色さんが降りてみ
 てください。それでよろしいですか?」
 「もちろん」と免色は言った。「そうしてください」
  作業員がトラックから金属製の折りたたみ式梯子を持ってきて、それを広げて下に降ろした。
 監督はヘルメットをかぷり、その梯子をつたってニメートル半ほど下にある土の床に降りた。そ
 してしばらくあたりを見回していた。まず上を見上げ、それから懐中電灯を使ってまわりの石壁
 と足元を細かく確かめた。地面に置かれた鈴のようなものを注意深く観察していた。しかしそれ
 には手を触れなかった。観察しただけだ。それから作業靴の底で地面を何度かこすりつけた。と
 んとんと腫を打ちつけた。何度か深呼吸をし、匂いを嗅いだ。彼が穴の中にいたのは全部で五分
 か六分か、そんなものだった。それからゆっくりと梯子を登って地上に出てきた。

 「危険はないようです。空気もまともだし、変な虫みたいなのもいません。足場もしっかりして
 います。降りてかまいませんよ」と彼は言った。

 Flanne

  免色は動きやすいように防水コートを脱ぎ、フランネルのシャツとチノパンツというかっこう
 になり、懐中電灯をストラップで首からつるし、金属の梯子を下りていった。我々はその姿を上
 から無言で眺めていた。監督は投光器の光で免色の足下を照らしていた。免色は穴の底に立ち、
 
そこで様子をうかがうようにしばらくじっとしていたが、やがて周りの石壁を于で触り、屈み込
 んで地面の感触を確かめた。そして地面に置かれた鈴のようなものを手に取り、手にした懐中電
 灯の明かりでそれをしげしげと眺めた。それから小さく何度か振った。彼がそれを振ると、紛れ
 もないあの「鈴の音」がした。間違いない。誰かが真夜中にここでそれを鳴らしていたのだ。し
 かしその誰かはもうここにはいない。鈴があとに残されているだけだ。免色はその鈴を見ながら
 何度か首を振った。不思議だ、というように。それから彼はもうコ皮、まわりの壁を綿密に調べ
 た。どこかに秘密の出入り目があるのではないかと。しかしそれらしきものは何も見つからなか
 った。そして上を向いて地上にいる我々を見た。彼は途方に暮れているように見えた。

  彼は梯子に足をかけ、于を伸ばしてその鈴のようなものを私に向けて差し出した。私は身を屈
 めてそれを受け取った。古びた木製の柄には冷たい湿気がじっとり染みこんでいた。私はそれを、
 免色がそうしたのと同じように軽く振ってみた。思いのほか大きな鮮やかな音がした。何ででき
 ているのかはしらないが、その金属部分はまったく損なわれていなかった。汚れてはいるか錆び
 てはいない。長い歳月にわたって湿った土中に置かれていたにもかかわらず、どうして錆びなか
 ったのか、そのわけがわからなかった。

 「それは何ですか、いったい?」と監督が私に尋ねた。彼は四十代半ば、がっしりとした体格の
 小男だった。日焼けして、うっすらと無精髭をはやしていた。
 「さあ、なんでしょう。昔の仏具のようにも見えます」と私は言った。「いずれにせよ、かなり
 古い時代のもののようです」
 「それがお探しのものだったんですか?」と彼は尋ねた。

  私は首を振った。「いや、我々が予期していたのはちょっと違うものです」
 「それにしてもなんだか不思議な場所だ」と監督は言った。「うまく目では言えないが、この穴
 にはどことなく謎めいた雰囲気があります。いったい誰が何のために、こんなものをつくったん
 でしょうね。昔のことだろうし、これだけの石を山の上まで運んできて積み上げるには、相当な
 労力を要したはずです」

  私は何も言わなかった。

  やがて免色が穴から上がってきた。そして監督を脇に呼んで、二人で長いあいだ何ごとかを話
 しあっていた。そのあいだ私は鈴を手に穴の脇に立っていた。その石室に降りてみようかとも思
 ったが、思い直してやめた。雨田政彦ではないが、余計なことはできるだけしない方がいいかも
 しれない。そっとしておけるものは、そっとしておくのが賢明かもしれない。私は手にしていた
 その鈴をとりあえず祠の前に置いた。そしてズボンで手のひらを何度か拭った。

  免色がやってきて、私に言った。

 「あの石室全体を詳しく調べてもらいます。一見したところただの穴のようにしか見えませんが、
 念には念を入れて隅々まで点検してもらいます。何か発見があるかもしれない。たぶん何もない
 とは思いますが」と免色は言って、私が祠の前に置いた鈴を見た。「しかしこの鈴しかあとに残
 されていないというのは奇妙ですね。誰かがあの中にいて、真夜中に鈴を鳴らしていたはずなの
 に」

 「鈴がひとりで勝手に鳴っていたのかもしれませんよ」と私は言ってみた。
  免色は微笑んだ。「なかなか面白い仮説だが、私はそうは思いません。誰かがあの穴の底から
 なんらかの意志をもってメッセージを送っていたのです。あなたに向かって。あるいは我々に向
 かって。あるいは不特定多数の人に向かって。でもその誰かはまるで煙のように消えてしまった。
 あるいはあそこから抜け出してしまった」
 「抜け出した?」
 「するりと、我々の目をかいくぐって

  彼の言っていることは私にはよく理解できなかった

 「魂というのは、目には見えないものですから」と免色は言った。
 「あなたはそういう魂の存在を信じるのですか?」
 「あなたは信じますか?」

  私はうまく答えられなかった。

  免色は言った。「魂の実在をあえて信じる必要はないという説を私は信じています。でも逆に
 言えばそれは、魂の実在を信じない必要もないという説を信じることにもな力ます。いささか持
 って回った物言いになりますが、言わんとすることはおわかりいただけますか」
 「漠然と」と私は言った。
  免色は祠の前に私が置いた鈴を手に取った。そして何度かそれを宙で振って鳴らした。「これ
 を鳴らし、念仏を唱えながら、あの地中でおそらく一人の憎が息を引き取っていったのでしょう。
 埋められた井戸の底で、重い蓋をされた真っ暗な空間の中でとても孤独に。そしてまたおそらく
 は秘京表に。どんな憎だったか、私にはわかりません。偉いお坊さんだったのか、あるいはただ
 の狂信者だったのか。いずれにせよ誰かがその上に石の塚を築いた。そのあとにどのような経過
 があったのかはわかりませんが、彼がここで人定を遂げたことはなぜか人々にすっかり忘れられ
 てしまったようです。そしてあるとき大きな地震かおり、塚は崩れてただの石の山になってしま
 った。小田原近辺は場所によっては、一九二三年の関東大震災でかなりひどくやられましたから、
 あるいはそのときのことかもしれません。そしてすべては忘却の中に呑み込まれてしまった」

 「もしそうだとしたら、その即身仏は―つまりミイラは―いったいどこに消えたのでしょう?」

  免色は首を振った。「わかりません。ひょっとして、どこかの段階で誰かが穴を掘り返し、持
 ち出したのかもしれない」
 「そのためにはこれだけの石をすべてどかせて、それをまた積み上げる必要があります」と私は
 言った。「そしていったい誰が、昨日の真夜中にこの鈴を振っていたのですか?」
  免色はまた首を振った。それから小さく微笑んだ。「やれやれ、これだけの機器を持ち出して
 重い石の山をどかし、石室を開いて、その結果判明したのは、我々には結局何ひとつわからなか
 ったという事実だけのようです。辛うじて手に入ったのはこの古い鈴ひとつだけだ」

  どれだけ細かく調べても、その石室には何の仕掛けもないことが判明した。それは古い石壁
 まわりを囲まれた、深さニメートル八十センチ、直径一メートル八十センチほどのただの円形
 穴だった(彼らはその寸法を正式に計測した)。ショベルカーはトラックの荷台に積まれ、作業
 具たちは様々な道具や工具をまとめて引き上げていった。あとには聞かれた穴と金属製の梯子だ
 けが残った。現場監督がその梯子を厚意で残していってくれたのだ。人が誤って穴に落ちないよ
 
うに、厚板が錫杖か穴の上にわたされた。強い風で飛んだりしないように、板の上には重しとし
 ていくつかの石が置かれた。元あった木製の格子の蓋は重すぎて持ち上げられず、近くの地面に
 置きっぱなしにされ、その上にビニールシートがかけられていた。

  免色は最後に監督に向かって、この作業については誰にも口外しないでもらいたいと頼んだ。
 考古学的に意味があるものなので、しかるべき発表の時期が来るまでしばらく世間には秘密にし
 ておきたいのだと彼は言った。

 「承知しました。これはここだけのことにしておきます。みんなにも余計なことは言わなに、し
 っかり釘を刺しておきます」と監督は真剣な顔で言った。

  人々と重機が去って、いつもの山の沈黙がそのあとを埋めると、掘り返された場所はまるで大
 きな外科手術を受けたあとの皮膚のように、うらぷれて痛々しく見えた。隆盛を誇ったススキの
 茂みは完膚無きまでに踏みつぶされ、暗く温った地面にはキャタピラの轍が縫い跡となって残っ
 ていた。雨はもう完全に上がっていたが、空は相変わらず切れ目のない単調な灰色の雲に覆われ
 
ていた。

  新たに別の地面に積み上げられた石の山を見ながら、こんなことをしなければよかったんだと
 いう思いを私は持たないわけにはいかなかった。あのままの形にしておくべきだったんだ、と。
 しかしその一方で、そうしなければならなかったというのも、また間違いのない事実だった。私
 はあの夜中のわけのわからない音を、いつまでも聞き続けるわけにはいかなかっただろうから。
 とはいえ、もし免色という人物に出会わなかったなら、あの穴を掘り起こす手だては私にはなか
 ったはずだ。彼が業者を手配したからこそ、そして彼がその費用――どれはどの額になるのか見
 当もつかないが――を負担したからこそ、これだけの作業が可能になったのだ。

  しかし私がこうして免色という人物と知り合いになり、その結果こんな大がかりな「発掘」を
 行うことになったのは、本当にたまたまのことだったのだろうか? ただの偶然の成り行きによ
 るものなのだろうか? あまりにも話がうま過ぎはしないか? そこには筋書きみたいなものが
 前もって用意されていたのではあるまいか? 私はそんな落ち着き先のないいくつかの疑問を胸
 に抱えながら、免色と共に家に戻った。免色は掘り出した鈴を手にしていた。彼は歩いているあ
 いだずっとそれを手から離さなかった。その感触から何らかのメッセージを読み取ろうとしてい
 るみたいに。

  家に戻ると免色はまず私に尋ねた。「この鈴はとこに置きましょうか?」

  鈴を家の中のどこに置けばいいのか、私には見当がつかなかった。だからとりあえずスタジオ
 に置いておくことにした。そんなわけのわからないものをひとつ屋根の下に置いておくことは、
 私としてはもうひとつ気が進まなかったけれど、だからといって外に放り出しておくこともでき
 ない。おそらくは魂のこもった大事な仏具なのだ。粗末には扱えない。だから一種の中間地帯と
 もいうべきスタジオその部屋には独立した離れのような趣があったに持ち込むことにした。画材
 を並べた細長い棚の上にスペースを空け、そこに並べた。絵筆を突っ込んだ大きなマグカップの
 隣に置くと、それは画作のための特殊な道具のようにも見えた。

 「不思議な一日でしたね」と免色は声をかけた。
 「一日をすっかり潰させてしまいました。申し訳ありません」と私は言った。
 「いや、そんなことはありません。私にとってずいぶん興味深い一日だった」と免色は言った。
 
「それに、これですべてが終わったというわけでもないでしょう」
 免色の顔にはずっと遠くを見ているような不思議な表情が浮かんでいた。
 「というと、まだ何かが起こるのですか?」と私は尋ねた。
 免色は言葉を慎重に選んだ。「うまく説明はできないのですが、これはただの始まりに過ぎな
 いのではないか、という気がします」
 「ただの始まり?」

  免色は手のひらをまっすぐ上に向けた。「もちろん確信があるわけじやありません。このまま
 何ごともなく、あれはずいぶん不思議な一日でしたね、ということで話が終わってしまうかもし
 れません。そうなるのがたぷんいちばんいいのでしょうが。でも考えてみたら、物ごとは何ひと
 つ解決しちやいません。いくつもの疑問が残ったままになっています。それもいくつかの大きな
 疑問が。ですから、これからまだ何かが持ち上がりそうだという予感が私の中にはあるのです」

 「あの石室に関してということですか?」

  免色はしばらく窓の外に目をやっていた。それから言った。「どんなことが持ち上がるのか、
 それは私にもわかりません。なんといっても、ただの予感に過ぎませんから」

  でももちろん免色の予感した――あるいは予言した――とおりだった。彼が言うように、その
 一日はただの始まりに過ぎなかったのだ

飛ばしたい衝動駆られるがここは我慢の序の口よ。

                                     この項つづく
 

  

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一億総プロファイラー時代

2017年04月18日 | 時事書評

               ただ道は座に集まる。虚は心斎なり            
                         
                                        「人間世」(じんかんせい)   
  

                                                 

       ※ ガツガツと肩ひじ張り、人よりぬきんでようとしたところでどうなるか。
       才子は才で身を械ぼし、策士は策に倒れる。人間世-人間社会に生きて、
       危害を避け、天命を全うするには、どうすればよいか。本篇もまた、さま
       ざまな事例に即して「無為」を説き、「無用の用」を語る。

     ※ 心の斎戒(さいかい):顔回が「心の斎戒といいますと?」尋ねると孔子
       は「一切の迷いを去って、心を純一に保つがよい。耳で聴くより心で聴く、
       いや、心で聴くより気で聴くがよい。耳は音を感覚的にとらえるにすぎず、
       心は事象を知覚するにすぎない。だが、気はちがう。気で聡くとは、あら
       ゆる事象をあるがままに、無心にうけいれることだ。『道』はこの無心の
       境地において、はじめて完全に顕現する。心の斎戒とは、この無心の境地
       をわがものとすることなのだ」と答える。

 

     

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

  14.しかしここまで奇妙な出来事は初めてだ

 「わかりました」と私は言った。「政彦には明日にでも連絡をとってみましょう」
 「私の方も明日になったら、造園業者に連絡をとってみます」と免色は言った。そして少し間を
 置いた。「ところで、ひとつあなたにうかがいたいことがあるのですが」
 「どんなことでしょう?」
 
「あなたはこのような――どういえばいいのだろう――不思議な、超常的な体験をよくなさるの
 ですか?」

 「いいえ」と私は言った。「こんな奇妙な体験をするのは生まれて初めてです。ぼくはごく普通
 の人生を送ってきた、ごく普通の人間です。だからとても混乱しています。免色さんは?」
  彼は曖昧な微笑みを口許に浮かべた。「私白身は、何度か奇妙な体験をしたことはあります。
 常識ではちょっと考えられないことを見聞きしたことはあります。しかしここまで奇妙な出来事
 は初めてだ」

  そのあと私たちは沈黙の中で、その鈴の音にずっと耳を澄ませていた。
  いつもと同じようにその音は二時半を少し過ぎてぴたりと止んだ。そして山の中は再び虫たち
 の声で満たされた。

 「今夜はそろそろ失礼しましょう」と免色は言った。「ウィスキーをご馳走さま。また近いうち
 に連絡させていただきます」

  免色は月の明かりの下で、艶やかな銀色のジャガーに乗り込んで帰って行った。開けた窓から
 私に軽く手を振り、私も手を振った。エンジン音が坂道の下に消えてしまった後で、彼がウィス
 キーをグラスに一杯飲んでいたことを思い出したが(二秤目は結局口をつけられていなかった)

 顔色にもまったく変化はなかったし、しゃべり方や態度も水を飲んだのと変わりなかった。アル
 コールに強い体質なのだろう。それに長い距離を運転するわけではない。もともと住民しか利用
 しない道路だし、こんな時刻には対向車も、歩いている人もまずいない。

  私は家中に戻り、グラスを台所の流し台に片づけてから、ベッドに入った。人々がやってきて
 重機をつかって祠の裏の石をどかし、そこに穴を掘る様子を思い浮かべた。それは現実の光景と
 は思えなかった。そしてその前に私は上田秋成の「二世の縁」という話を読まなくてはならない。
 しかしすべては明日だ。昼の光の下ではものごとはまた運って見えることだろう。私は枕元の明
 かりを消し、虫の声を聞きながら眠りについた。


  朝の十時に雨田政彦の仕事場に電話をかけて、事情を説明した。上田秋成の話までは持ち出さ
 なかったが、念のために知り合いに米てもらって、その夜中の鈴の音が私だけに聞こえる幻聴で
 はないことを確認したことを話した。

 「とても不思議な話だ」と政彦は言った。「しかし本当にその石の下で誰かが鈴を鳴らしている
 と、おまえは思っているのか?」
 「わからない。しかしこのままにはしておけないよ。音は実際に毎晩鳴り続けているんだから」
 「もしそこを掘り返して、何か変なものが出てきたりしたらどうする?」
 「変なものって、たとえばどんなもの?」
 「わからないよ」と彼は言った。「よくわからないけど、とにかくそのままそっとしておいた方
 がいいような、得体のしれないものだよ」
 「一度夜中にここにその音を聞きに来るといい。実際にそれを耳にしたら、このまま放置しては
 おけないということがきっとわかるから」
  政彦は電話口で深いため息をついた。そして言った。「いや、そいつは遠慮しておく。おれは
 小さな頃から根っからの怖がりでね、怪談みたいなのが大の苦手なんだ。そんなおっかないもの
 には関わり合いたくない。すべておまえに一任するよ。林の中の古い石をどかして穴を掘ったっ
 て、そんなこと誰も気にしない。どうとでも好きなようにすればいい。でもくれぐれも、変なも
 のだけは掘り出さないようにしてくれよな
 「どうなるかはわからないけど、結果が判明したらまた連絡するよ」
 「おれならただ耳を塞いでいるけどね」と政彦は言った。

  電話を切ったあと、私は居間の椅子に座り、上田秋成の「二世の縁」を読んだ。原文を読み
 それから現代語訳を読んだ。いくつかの細部の違いはあったが、免色の言ったように、そこに書
 かれている話は、私がここで経験したことに酷似していた。話の中では、鉦の音が聞こえてきた
 のは丑の刻(午前二時頃)だった。だいたい同じ時刻だ。しかし私が間いたのは鉦ではなく、鈴
 の音だった。話の中では虫は鳴き止んではいなかった。主人公は夜更けに、虫の声に混じってそ
 の音を聞き取ったのだ。でもそのような細かい違いを別にすれば、私が体験したのはその話とそ
 っくり同じ出来事だった。あまりに似ているので、呆然としてしまうほどだった。

  掘り出されたミイラはからからに干からびているものの、まるで執念のように手だけを動かし
 鉦を打っている。恐ろしいまでの生命力がその身体を、ほとんど自動的に動かしているのだ。お
 そらくその憎は念仏を唱え、鉦を叩きながら入定していったのだろう。主人公はそのミイラに服
 を着せかけ、唇に水をふくませてやる。そうするうちに薄い粥を食べるようになり、次第に肉も
 ついてくる。最後には、普通の人と変わらない見かけにまで回復する。しかしそこには「悟りを
 開いた僧」の気配はまったく見当たらない。知性も知識もなく、高潔さのかけらも見当たらない。
 そして生前の記憶はすっかり失われている。どうして白分か地中にそんな長い歳月入っていたの
 かも思い出せない。今では肉食をし、少なからず性欲もある。妻をめとり、卑しい下働きのよう
 なことをして生計をたてるようになる。そして「人定の定肋」という名を与えられる。村の人々
 はそのあさましい姿を見て、仏法に対する敬意を失ってしまう。これが厳しい修行を積み、生命
 をかけて仏法をきわめたもののなれの果ての姿なのか、と。そしてその結果、人々は信仰そのも
 のを軽んじるようになり、寺にもだんだん寄りつかなくなる。そういう話たった。免色が言った
 ように、そこには作者のシニカルな世界観が色濃く反映されている。ただの怪異譚ではない


 Nyuzyodou

  さても仏のをしへは、あだあだしき事のみぞかし。かく土の下に入りて鉦打ちならす事、凡百
 余年なるべし。何のしるしもなくて、骨のみ留まりしは、あさましき有様也。
 (それにしても、仏の教えとはむなしいものではないか。この男、土の下に入って鉦を打ち鳴ら
 しながら、おおよそ百年以上は経過しているはずだ。それなのに何の霊験もなく、こうして骨だ
 け残っているとはあきれ果てた有様である)


 「二世の縁」という短い物語を何度か読み返し、私はすっかりわけがわからなくなってしまった。
 もし重機を使って石をどかせ、土を掘り返し、本当にそのような「骨のみ留まりし」「あさまし
 き」ミイラが地中から出てきたとしたら、私はいったいそれをどのように扱えばいいのだろう?
 拡がそれを蘇らせた責任をとらされることになるのだろうか? 雨田政彦の言ったように余計な
 手出しはせず、ただ耳を塞いですべてをそのままに放置しておくのが賢明なのではないか?

  しかしもしそうしたくても、ただ耳を塞いでいるというわけにはいかなかった。どんなにしっ
 かり耳を塞いだところで、あの音から逃れることはできそうになかった。あるいはほかのどこに
 引っ越したところで、あの音はどこまでも私を追いかけてくるかもしれない。そして免色と同じ
 ように、拡にもまた強い好奇心があった。その石の下に何か潜んでいるのか、それをどうしても
 知りたいと思うようになっていた。

  昼過ぎに免色から電話があった。「雨田さんの許可は得られましたか?」

  雨田政彦に電話をかけてだいたいの事情を伝えたことを、私は話した。そしてなんでも私の好
 きなようにしていいと披が言ったことを伝えた。

 「それはよかった」と免色は言った。「造園業者の方はこちらでいちおう手配しました。業者に
 は謎の音のことは話していません。ただ林の中にある古い石をいくつかどかして、そのあとに穴
 を掘ってもらいたいと指示しただけです。急な話ですが、ちょうど手があいていたので、もしよ
 ければ今日の午後に下見をして、明日の朝からでも作業にかかりたいということです。業者が勝
 手に上地に入って下見をしても差し支えありませんか?」
 自由に入ってもらってかまわない、と私は言った。

 「下見をしてから、必要な機器を手配します。作業そのものは数時間あれば済むと思います。私
 がその場に立ち会います」と免色は言った。 
 「ぼくももちろん立ち会います。作業を開始する時間がわかったら敦えて下さい」と私は
 それか
らふと思い出して付け加えた。「ところで、昨夜あの音が聞こえる前に我々が話し合って
 いたことですが」

  免色は私の言っていることがうまく理解できないようだった。「我々が話し合っていたことと
 言いますと?」
 「まりえさんという十三歳の女の子のことです。ひょっとしてあなたの実の子供かもしれないと
 いう。その話をしているときに、あの音が聞こえてきて、それで話がそのままになってしまいし
 た」
 「ああ、その話ですね」と免色は言った。「そう言えばそんな話をしていた。すっかり忘れてま
 した。ええ、その話もまたいつかしなくてはなりません。でもそちらはそれほど急ぐ話ではあり
 ません。今回の一件が無事解決したら、そのときにあらためてお話をします」

  私はそのあと、何をしてもうまくそれに意識を集中することができなかった。本を読んでも、
 音楽を聴いても、食事の支度をしても、そのあいだ常にあの林の中の、古い石の塚の下にあるも
 ののことを考えていた。干し魚のようにからからに乾いた黒いミイラの姿を、私はどうしても頭
 から追い払うことができなかった。


 

  15.これはただの始まりに過ぎない 

  免色が夜に電話をかけてきて、作業は明日、水曜日の朝の十時から開始されることになったと
 教えてくれた。
  水曜日は朝から細かい雨が降ったりやんだりしていたが、作業に差し支えるほどの降りではな
 かった。帽子かフードをかぶり防水のコートを着ていれば、傘をさす必要もない程度の小糠雨だ。
 免色はオリーブ・グリーンのレインハットをかよっていた。英国人が鴨撃ちにかぷっていきそう
 な帽子だ。色づき始めた木の業が、目にもほとんど見えない雨を受けて次第に鈍い色合いに染ま
 っていった。

  人々は運搬専用のトラックを使って、小型のショベルカーのようなものを山の上まで運んでき
 た。とてもコンパクトな機器で、小回りがきき、挟い場所でも作業ができるように作られていた。
 人数は全部で四人だった。機器の操作を専門とするものが一人、現場監督が一人、そして作業員
 が二人だ。操作員と監督がトラックを運転してきた。彼らはブルーの揃いの防水コートと、防水
 パンツを身につけ、泥だらけの厚底の作業靴をはいていた。頭には強化プラスチックのヘルメッ
 トをかぶっていた。免色と監督は知り合いらしく、祠の横で二人でにこやかに何かを語り合って
 いた。しかしたとえ親しげではあっても、監督が免色に対して終始敬意を払っていることが見て
 取れた

  たしかに短い間に、これだけの機器と人材を手配できるのは、それだけ免色の顔が利くという
 ことなのだろう。私はそのような成り行きを半ば感心し、半ば困惑しながら眺めていた。すべて
 が自分の手から離れていくような軽いあきらめの感覚がそこにはあった。子供の頃、小さい子供
 たちだけで何かのゲームをしていると、年上の子供たちがあとからやってきてそのゲームを取り
 上げ、自分たちのものにしてしまうことがあった。そのときの気分が思い出された。

  シャベルと適当な石材と板を使って、ショベルカーを作動させるための平らな足場がまず確保
 され、それから実際に石を撤去する作業が開始された。石塚を囲んでいたススキの茂みは、あっ
 という間にキャタピラに踏みつぶされてしまった。我々は少し離れたところから、そこに積まれ
 た古い石がひとつひとつ持ち上げられ、離れたところに移されるのを見物していた。作業自休に
 は特別なところは見当たらなかった。おそらく世界中いたるところで、ごく当たり前に日常的に
 行われているであろう種類の作業だ。働いている人々もごく通常の行為として、いつもどおりの
 手順に従って淡々とそれをおこなっているように見えた。重機を運転する男はときどき作業を中
 断し、監督と大声で話し合っていたが、何か問題が生じたということでもなさそうだった。会話
 は短く、エンジンが停められることもなかった。

  しかし私は落ち着いた気持ちでその作業を眺めていることができなかった。そこにある方形の
 石がひとつまたひとつと撤去されていくごとに、私の不安は深まっていった。まるで長いあいだ
 人目から隠されていた自分自身の暗い秘密が、その機械の力強く執拗な切っ先によって一枚一枚
 覆いを剥がされていくような、そんな気がした。そして問題は、その暗い秘密がどのような内容
 のものなのか、私自信にもわかっていないところにあった。この作業を今ここでなんとか止めな
 くては、と私は途中で何度も思った。少なくともショベルカーみたいな大がかりな機器を持ち込
 むことは、この問題の正しい解決法ではないはずだ。雨田政彦が電話で私に言ったように、「
 体のしれないもの」はすべて埋まったままにしておくべきだったのだ。私は免色の腕を掴み、

 「もうこの作業は中止にしましょう。石は元通りにしてください」と叫びたい衝動に駆られた。

  しかしもちろんそんなことはできない。決断は下され、作業は開始されたのだ。既に多くの人
 がこのことに関与している。少なからぬ金も動いている(金額は不明だが、おそらく免色がそれ
 を負担している)。今更中止するわけにはいかない。その工程はもう私の意志とは無関係に、
 着々と前に進んでいるのだ。
  まるでそんな私の気持ちを見抜いたように、ある時点で免色が私のそばにやってきて、私の肩
 を軽く叩いた。

 「なにも心配することはありません」と免色は落ち着いた声で言った。「すべては順調に通んで
 います。すぐにいろんなことが片付きます」

  私は黙って肯いた。

  昼前には石はおおかた運び終えられた。崩れた塚のように雑然と集積していた古い石は、少し
 離れたところに小型のピラミッドのように小綺麗に、しかしどことなく実務的に積み上げられて
 いた。その上に細かい雨が音もなく降っていた。しかし積まれていた石をすっかりどかしても、
 上の地面は現れなかった。石の下には更に石があった。石は比較的平らに整然と敷かれており、
 正方形の石床のようになっていた。ニメートル四方というところだろう。

 「どうしたものでしょうか」と監督が免色のところにやってきて言った。「てっきり、地面の上
 に石が積まれているだけだと思っていたんですが、そうではありませんでした。この敷石の下に
 は空間があいているようです。細い金属棒を隙間から差し込んでみたんですが、かなり下まで行
 きます。どれくらい深いかはまだわかりませんが」

  私は免色と共に、新しく現れた石床の上に恐る恐る立ってみた。石は黒く湿っており、ところ
 どころぬるぬるしていた。人工的に切り揃えられた石ではあったが、古くなって丸みを帯びてお
 り、石と石のあいだには隙間がおいていた。夜ごとの鈴の音は、おそらくその隙間から洩れて聞
 こえてきたのだろう。そこから空気も出入りするはずだ。身を屈めて隙間から中を覗き込んでみ
 たが、真っ暗で何も見えなかった。

 「ひょっとしたら古い井戸を敷石で塞いだものかもしれませんね。井戸にしちやちょっと口径が
 犬きいみたいですが」と監督が言った。
 「敷石をはがして取り去ることはできますか?」と免色が尋ねた。

  監督は肩をすくめた。「どうでしょうね。想定外のことなので、作業はいくらか面倒になりま
 すが、たぶんやれるでしょう。クレーンかおるといちばんいいんですが、ここまでは運べません。
 それぞれの石自体はさして重いものではなさそうです。石と石の間には隙間もありますし、工夫
 すればこのショベルカーではがせるんじやないかな。今から昼休みに入りますので、そのあいだ
 にうまい案を練って、午後に作業にかかることにします」

  私と免色は家に戻り、軽い昼食をとった。私は台所でハムとレタスとピックルスで簡単なサン
 ドイッチを作り、二人でテラスに出て雨を眺めながらそれを食べた。
 「こんなことにかまけていると、肝心の肖像画の完成が遅れてしまいそうですね」と私は言った。
  免色は首を振った。「肖像画は急ぐものではありません。まずこの奇妙な案件を解決するのが
 先決です。そのあとでまた制作にとりかかればいい」

  この男は自分の肖像画が描かれることを本気で求めているのだろうか? 私はそんな疑問をふ
 と抱かないわけにはいかなかった。それは今思いついたことではなく、最初から心の片隅でくす
 よっていた疑問だった。彼は本当に、私に肖像画を描いてもらいたがっているのだろうか? 何
 かしら別の心づもりを持って私に近づくことを必要とし、その名目として肖像画の作製を依頼し
 ただけではないのか?

  しかし別の目的とはたとえばいったいどんなことなのか、どれだけ考えても思い当たる節はな
 かった。あの石の下を掘り返すのが彼の求めていたことなのか? まさか。そんなことが最初か
 らわかるわけはない。これは肖像画を描き出したあとで持ち上がった突発事件なのだ。しかしそ
 れにしては、彼はあまりに熱心にその作業に取り組んでいた。少なからぬ金も投入している。彼
 には何の問係もないことなのに。
 そんなことを考えているときに、免色が私に尋ねた。「『二世の縁』はお読みになりましたか?」
 読んだ、と私は答えた。

 「どう思われました? ずいぶん不思議な話でしょう」と彼は言った。 
 「とても不思議な話です。たしかに」と私は言った。

  免色は私の顔をしばらく見て、それから言った。「実を言うと、私はなぜか昔からあの話に心
 を惹かれてきたのです。それもあって、今回の出来事には個人的に興味をそそられます」
  私はコーヒーをひとくち飲み、紙ナプキンで口許を拭った。二羽の大きなカラスが互いを呼び
 合いながら、谷を渉っていった。彼らはほとんど雨を気にしない。雨に濡れると、その羽の色が
 少し濃くなるだけだ。

  私は免色に尋ねた。「仏教の知識があまりないので、細かいところがよく理解できないのです
 が、憎が入定するというのはつまり、自ら選んで棺に入って死んでいくわけですね?」
 「そのとおりです。入定するというのはもともとは『悟りを間く』ということですので、それと
 区別するために、生入定と言うこともあります。地中に石室をつくり、竹筒を地上に出して通風
 口を設けます。人定をする憎は地中に入る前に一定期間木食を続け、死後腐敗したりせず、きれ
 いにミイラ化するように身体を調整します」
 「木食?」
 「草や本の実だけを食べて生活することです。穀物を始め、調理したものはいっさい口にしませ
 ん。つまり生きているあいだに、脂肪分と水分を極力身体から排出してしまうのです。きれいに
 ミイラになれるように、身体の組成を変えるわけです。そうしてしっかり身体を浄めてから、土
 の中に入ります。そして憎はその暗闇の中で断食をしながら読経し、それに合わせて鉦を叩き続
 けます。あるいは鈴を鳴らし続けます。竹筒の空気穴を通して、人々はその鉦や鈴の音を間くこ
 とができます。しかしそのうちに音が聞こえなくなります。それが息を引き取ったしるしになり
 ます。それから長い歳月をかけて、その身体は徐々にミイラ化していきます。三年三ケ月を経て
 掘り起こすというのがいちおうの決まりになっているようです」
 「何のためにそんなことをするのですか?」
 「即身仏となるためです。そうすることによって人は悟りを開き、自らを生死を超えた境地へと
 到達させることができます。それがまた衆生を救済することに繋がっています。いわゆる涅槃
 す。掘り起こされた即身仏は、つまりミイラは寺に安置され、人々はそれを拝むことによって救
 済されます」



 「現実的には一種の自殺のようなものですね」

  免色は肯いた。「だから明治時代になると、入定は法律で禁止されます。そして入定を手伝っ
 たものは自殺幇助罪に問われました。しかし現実にはこっそりと入定する憎はあとを絶たなかっ
 たようです。ですから秘京表に入定し、誰かに掘り出されることもなく、そのまま地中に埋まっ
 ているようなケースも少なくないかもしれません」
 「あの石の塚はそういう秘密の人定のあとだったのではないかと、免色さんは考えておられるの
 ですか?」
  免色は首を振った。「いや、そればかりは実際に石をどかしてみなくてはわかりません。しか
 しその可能性はなくはないでしょうね。竹筒みたいなものはありませんが、ああいう造りであれ
 ば、石の隙間から通風はできますし、音も聞こえます」
 「そして石の下ではまだ誰かが生き延びていて、鉦だか鈴だかを夜ごとに鳴らし続けていると?」

  免色はもう一度首を振った。「言うまでもなく、それは常識ではとても考えられないことです」
 「涅槃に達する――それはつまり、ただ死ぬというのとは違うものですね?」
 「違うものです。私も仏教の教義にたいして詳しいわけではありませんが、私が理解する限りで
 は、涅槃は生死を超えたところにあるものです。肉体は死滅したとしても、魂は生死を超えた場
 所に移っていると考えることもできるでしょう。この世の肉体というのはあくまでかりそめの宿
 に過ぎませんから」
 「もし憎が生入定によってめでたく涅槃の境地に達したとして、そこから再び肉体に復帰するこ
 とも可能なのですか?」

  免色は何も言わずにしばらく私の顔を見ていた。それからハム・サンドイッチを一口啜り、コ
 ーヒーを飲んだ。

 「というのは?」
 「あの音は少なくとも四、五日前までは聞こえていませんでした」と私は言った。「それは確信
 をもって言えます。もしその音が鳴っていたら、私はすぐにそれに気づいていたはずです。たと
 え小さくはあっても、聞き逃せるような音ではありませんから。あの音が聞こえだしたのは、ほ
 んの数日前のことです。つまりあの石の下に誰かがいるとして、その誰かはずっと前からあの鈴
 を鳴らし続けていたわけではないのです」

  免色はコーヒーカップをソーサーに戻し、その図柄の組み合わせを眺めながらしばらく何かを

 考えていた。それから言った。「あなたは実際の即身仏をごらんになったことはありますか?」
  私は首を振った。



  免色は言った。「私は何度か目にしたことがあります。若い頃のことですが、山形県を一人で
 旅したときに、いくつかのお寺に保存してあるものを見せてもらいました。なぜか即身仏は東北
 地方に、とくに山形県に多いのです。正直に言ってあまり美しい見かけのものではありません。
 こちらに信仰心が不足しているせいかもしれませんが、実際に目の前にして、それほど有り難い
 気持ちにもなれませんでした。茶色くて小さくて、ひからびています。こう言ってはなんですが、
 色も質感もビーフジャーキーを思わせます。実のところ肉体はかりそめの虚しい住まいに過ぎな
 いのです。少なくとも即身仏は我々にそのことを教えてくれます。我々は究極のベストを尽くし
 ても、せいぜいビーフジャーキーにしかなれません」

  彼は食べかけのハム・サンドイッチを手にとり、それをしばらく珍しそうに眺めていた。まる
 で生まれて初めてハム・サンドイッチを目にするみたいに
  彼は言った。「とにかく昼休みが終わって、それからあの敷石がどかされるのを待ちましょう
 そうすればいろんなことがいやでも明らかになるはずです」

                                     この項つづく 

  一億総プロファイラー時代

異常気象が続いているようだ。大規模気候変動リスクに備えよ!とは、このブログでも掲載してきた
ことだ。理
由は簡単だ。「環境リスク本位制」への政策転換であり、これに失敗すれば世界動乱は必
定である。すでに、
過剰な新自由主義(似非グローバリズム)による格差拡大は、社会構造を歪め、
世界的なポピリズムの嵐が吹き荒むかのようである。最近、高画質の大型テレビを見ていて、大国の
政治家たちの挙動を目にし、その表情からこのリーダーはこんな精神状態にあり、この先こんな行動
を辿るだろうということが素人でも分かるようになっているのではと、ふとそんなことを感じる。こ
れは情報技術の著しい発達が背景にある。その意味では日本国民・一億総プロファイラー時代とでも
表現できる。もっとも、プロファイラーすなわち、優れた自律的なある種の「社会政治的犯罪心理分
析官
」を多数輩出し続けている時代であるのかもしれない。

 ● 今夜の一曲

「ふれあい」は、中村雅俊のデビューシングル。1974年7月1日に発売され、同年の10月25日には、同
名のアルバムもリリースされる。
収録曲2曲は、同年放送の日本テレビ系ドラマ『われら青春!』の挿
入歌(劇中歌)である。前者は中村扮する沖田先生が下宿のベランダで弾き語りし、後者はキャンプ
ファイヤーなどで生徒たちと一緒に歌うシーンで使用された。
同年、『ふれあい』という映画(松竹)
も製作され、中村自身が主演した(市村泰一監督)。
「ふれあい」はさらに、2007年6月公開の映画
『大日本人』(松本人志監督)の挿入歌としても使用されている。「青春貴族」も、2015年にテレビ
ドラマ『民王』の挿入歌(劇中、菅田将暉と知英により歌唱)ともなる。尚、
「ふれあい」の累計売
上は170万枚といわれる。


  

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今夜も技術がてんこ盛り

2017年04月17日 | ネオコンバーテック

             徳は名に蕩(とう)し、知は争いに出(い)ず             
                         
                                        「人間世」(じんかんせい)   
  

                                                 

       ※ ガツガツと肩ひじ張り、人よりぬきんでようとしたところでどうなるか。
       才子は才で身を械ぼし、策士は策に倒れる。人間世-人間社会に生きて、
       危害を避け、天命を全うするには、どうすればよいか。本篇もまた、さま
       ざまな事例に即して「無為」を説き、「無用の用」を語る。

     ※ 雑念を去れ:われわれがなぜ徳を失いなぜ知に頼るようになったか、おま
       えはわかっているだろうか。徳を失ったのは名誉心にとらわれたためであ
       り、知に頼るようになったのは争いに必要だからだ。名誉心にとらわれ、
       知に頼っているかぎり、人間どうしの対立抗争は激しくなるばかりだ。名
       誉心も知も、相手を傷つけ自らを滅ぼす凶器にほかならぬ。凶器に依存し
       て、いったい何かできるだろう(孔子の弟子が衛国の救済に赴くための暇
       乞する場面)。

 

 Apr. 12、 2017

● ソフトバンク 世界第7番級 350メガワットソーラーインドで稼働

今月11日、SB Energy Holdings Limitedは、インド・アンドラプラデーシュ州に建設した出力350MW
のメガソーラー(大規模太陽光発電所)の営業運転を開始。同州カルヌール地方の「Ghani Sakunala Solar
Park
」 で今年3月29日に竣工。世界で7番目に大きな太陽光発電所となる。電力販売契約時の予定
よりも51日早い運転となる。 発電した電力は、プロジェクト落札時に合意した「25年間、4.63
ルピー/kWh(約8.70 円/kWh)」の売電価格で、インドの電力会社であるNTPC Limitedに売電する。
400K/V の送電線に接続し、インドの約70万世帯を超える一般家庭へ供給する。同発電所は、イン
ド中央政府によって09年に施行された太陽光発電施策「JNNSM(Jawaharlal Nehru National Solar Mis-
sion
:ジャワハルラル・ネルー・ナショナル・ソーラー・ミッション)」の下で初めての
運転となる。
SB Energy は現在、ソフトバンクグループの完全子会社で、独占禁止法に関する規制当局からの承認
をもって、バーティ・エンタープライゼズ・リミティッド、フォックスコン・テクノロジー・グルー
プの3社による合弁会社となる。SB Energy はインド中央政府による太陽光ならびに再エネ普及促進
施策の下で、20ギガワットの再エネ発電所建設を目指す。



【ネオコン倶楽部:世界最高の水酸化物イオン伝導ナノシート】

  Apr. 14, 2017

今月15日、物質・材料研究機構の研究グループは、層状複水酸化物ナノシートが10-1 S/cmに達する
非常に高い水酸化物イオン伝導性を示すことを発見したことを公表。この伝導率は従来の水酸化物イ
オン伝導体――クリーンなエネルギー変換技術として注目される燃料電池では、電解質として水素イ
オン伝導体 (例えばNafion®)  を用いる方式が主流だが、強酸性環境中での動作となるため、使える
触媒が白金系金属にほぼ限定されるなどの制約がある。伝導イオンとして水素イオンの代わりに水酸
化物イオンを用いる方式も可能です。その場合アルカリ性環境中での動作となるため、Fe, Co, Ni等の
遷移金属元素形
触媒が使用でき、コストを大幅に低減できると期待されているものの、既存の水酸化
物イオン伝導体は、水酸化物イオンの伝導率が10-3〜10-2 S/cmと低いことが大きなネック――と比べ
10~100倍という高い値で、無機アニオン伝導体の中でも世界最高であり、✪固体電解質として、❶
アルカリ燃料電池や❷水電解装置等への応用が期待されている。

☑ 研究成果

今回の研究では、層状複水酸化物を化学反応により層1枚にまで剥離し、得られた単層ナノシートの
イオン伝導度を測定しました。その結果、室温付近で10-1 S/cmに達する極めて高い値を示すことを見
出す。❶単層ナノシートの表面が多くの水分を吸着し、❷水酸化物イオンが自由に動くことができ、
❸イオン輸送特性が著しく向上する。また、ナノシートの厚み方向の伝導率に比べ4~5桁も高く、
究極の2次元ナノ構造に由来した機能であると推測している。

 

  Mar.30, 2017

 


【ネオコン倶楽部:デジカメでX線計測 元素分析・イメージング技術】 

X線反射率法は、面内の場所的な違いがない、均一な薄膜・多層膜試料の深さ方向の情報(各層の密
度、厚さ、表面と各界面のラフネス)を決定しようとするものであり、深さ方向分布が、試料面内の
どの位置でも同じであり、均一であるという前提のもとで用いられる。その典型的な面積は、X線反
射率法では10mm×15mm程度である。このような広い面積にわたって均一である場合には、全
く問題ないが、産業上での応用においては、もっと微小な試料を評価したい、または、同じ試料のな
かの薄膜・多層膜の構造の違いを画像化したいという容貌があった。


研究チームは、光学顕微鏡などに搭載されることの多い可視光用のCMOS素子を搭載したデジタルカメ
ラをほぼそのまま利用して、蛍光Xによる元素分析やイメージングを行う方法を開発。❶まず、レン
ズとセンサの間に、X線のみを透過させる不透明な薄い窓を取り付け、❷試料から出てくる蛍光X線
が、この窓を通ってCMOS素子に入ると電荷が作りだされます。❸作りだされた電荷の数を瞬時に計
測すると、入ってきたX線のエネルギーを検出。ただ、生じた電荷は複数の画素に別れて記録され、
また、ある時は失われる。そこで、❹電荷の複数画素への分散状態を調べ、本来持っていた電荷量
入射位置の両方を画像処理により復元する方法を確立。これにより、信頼性の高いX線スペクトルが
安定に取得できる。実際に今回開発した手法で、上図のようなお皿を蛍光X線分析したところ、青の
顔料が塗られている表側からのみコバルトが検出され、裏側からはコバルトは不検出であった。❺さ
らにピンホールカメラの原理を利用し、その元素がどのように分布しているかを画像化に成功する。
今後は元素の移動を可視化する動画像の取得に活用し、化学反応の過程を追跡する研究などで材料開
発貢献に期待している。

 
Figure 1: Principle of retrieving X-ray energy-dispersive spectra from camera images.

 Apr.  14, 2017

 
【ネオコン倶楽部:世界最高の電流密度の低コスト高温超電導線材】

高温超電導体は超電導が生じる温度が高く、冷却に安価で豊富な液体窒素の利用が可能である一方、
超電導状態を維持して通電できる電流は、周囲の磁場が強くなると共に減少するという性質がある。
このため、線材に強い磁場が加えられる環境で使用する機器(MRI、NMR、医療用を含めた加速器、
産業用モータ、航空機用モータ、発電機、リニアモータカー、核融合、超電導電力貯蔵システム、超
電導変圧器など)には、磁場中でも高い特性を維持する線材が必要となる。そこで、イットリウム系
酸化物超電導線材は、他の高温超電導材料に比べて本質的に磁場中での性能が高い線材であり、長尺
化、高性能化が図られているが、現状では、線材が高価であることや高温・高磁場(例えば液体窒素
中で数テスラ)での使用では磁場中での臨界電流値が不十分である。このため、気相法で超電導層を
成膜する技術を中心に、人工ピン止め点導入により磁場中特性の向上が図られてきたが、依然、高コ
ストなため一層の特性向上を必要としていた。



今月14日、産業技術総合研究所らの研究グループは低コストプロセスである溶液塗布熱分解法によ
るイットリウム系酸化物の高性能・長尺超電導線材を超電導層の中に直径数十ナノメートルの人工ピ
ン止め点(BaZrO3)を均一に分散させることに成功――溶液塗布熱分解法による線材として、良好な
超電導特性を示すものの――したが、気相法などによる高性能線材には及ばず超電導特性の向上に取
り組み、❶高温超電導体のイットリウム系酸化物超電導線材の超電導層の形成プロセスを改良して実
現、❷低コストなプロセスで磁場中の臨界電流密度を向上させて、高温超電導線材のコスト課題の解
決へ、❸モータや発電機など省エネ産業用機器、MRIや重粒子線加速器など医療機器の超電導磁石へ
の応用できるなどの成果をえたことを公表。

☑ 研究成果

同上研究グループは、低コスト化のために開発してきた溶液塗布熱分解法では多数回原料溶液を塗布・
熱処理を繰り返すが、❶一回当たりの塗布膜厚を数十ナノメートルに薄膜化することで、❷人工ピン
止め点を超微細化して、磁場中の特性を画期的に向上させることに成功。この基本原理をもとに、人
工ピン止め点の高濃度化を施すなどさらなる特性向上を図り、現時点で世界最高の磁場中の臨界電流
密度(液体窒素温度、磁場 3テスラ(T)中で1平方センチメートルあたり400万アンペア)を実
現。臨界電流値は360アンペアを超え、並行して、実際の製造プロセスに適用できるかどうか基本
原理を検証し、5ナノメートルの線材を作製して長尺化の見通しを得る。

  Apr. 13, 2017

【RE100倶楽部:最新超音波式風速計】

 ● 世界最軽量の3D超音波式風速計登場/TriSonica™Mini

今月18日、風力発電制御には風速計が欠かせない。米国のシンクロネス社らは、世界初、最小・最
軽量の
三次元超音波式風速計を開発販売開始する(上図ダブクリ参照)。このTriSonica™Mini、❶
側面が75ミリメート、❷重量が50グラム未満
の世界最小の風速計。 ❸3軸(x、y、z)の風速と風
向を毎秒30メートル(67ミリパスカル)まで10ヘルツのサンプリングレートで測定する。❹こ
のソリッドステート・ウインドシステムには可動部分がなく、製品の耐久性、精度、信頼性を最大限
に引き出せるとのうたい文句。対象市場として、風力発電システム以外にも、気象計測や無人車両(
UAV)市場を中心に、モバイルアプリケーションや狭いスペースに理想的な3次元超音波風速計向け
対応(4つの冗長な測定経路と独自の幾何学的特徴技術は特許出願中/詳細不詳のため要調査)。

尚、シンクロネス社は、18年以上にわたり、魅力あるソリューションの提供を行っており、 同社
は、医療機器、航空宇宙、およびカスタムオートメーション業界における強力な顧客ポートフォリオ
を保有するとのこと。 製品ライフサイクル全体にわたりエンジニアリングサービスを完全に保証す
る。下記に、関連する国内の特許事例2件を参考掲載しておく。

   

特開2001-278196  航空機用超音波式対気速度センサ

気象観測に用いられている音波風速計は、一定区間を伝搬する超音波の伝搬時間が、風の影響で変
化することを利用したもので、全方位的に所定の間隔で配設された複数個(一般には6個)の超音波
送受信器は平面上のあらゆる方位の風を測定することが出来る。しかし、超音波送受信機同士の空気
力学的干渉により、強風時の測定は困難で、航空機搭載が可能な大きさのものでは20m/s以下、
地上設置用の大型装置でも60m/s以下が測定可能領域である。この測定可能領域では航空機に利
用するには高速側の計測範囲が充分とはいえず、気象観測用の超音波風速計は、航空機に搭載する対
気流速計測器には適していない。

超音風速計のセンサ・ブローブを前方方向からの気流に対して乱れを生じにくい形状に改良し、か
つ複数個の超音送受信機を基体の前後方向に位置を異ならせて配置する形態で低速航空機に搭載す
るものであるから、従来のピトー管では不可能であった航空機の低速度領域の対気速度計測が可能と
なる。本発明を操縦用計器に適用すれば、その結果として低速飛行時の速度表示が従来より高精度と
なり、航空機の飛行安全性を向上させることができる。また、慣性計測装置など適宜の計測器により
対地速度が計測されれば、その位置での風速を割出すことができ、空中の特定位置の風を計測するこ
ともできる。更に、これを成層圏プラットフォーム用飛行船に適用した場合には、飛行船を一定位置
にとどめるための制御用センサとしても使用することができる。




特開2011-089844  風向風速計測装置および風向風速計測システム  
 

室内の風速の計測には、熱線式や超音波式の風速計がよく用いられている。❶熱線式風速と❷超音
風速計はともに、微風域を含めて測定範囲が広く、応答性が良い点で優れる。熱線式風速計
音波
風速計を比較すると、

  1. 熱線式は超音波式に比べ構成が簡単で安価であるとの利点を有する。
  2. また、超音波風速計は、超音波の送信部と受信部の間の伝搬時間差を利用して風速を計測す
    るため、送信部と受信部の間の空間に温度や圧力の不均一な場所があると、超音波の伝搬速度
    の変化やレンズ効果による超音波の散乱が生じることにより、計測誤差が発生しうる。このた
    め、超音波風速計は、サーバールームやデータセンターなどの空間的な温度変化が大きい領
    域での風速の計測には不適であ
    る。熱線式風速計にはこのような問題がない。
  3. しかし、その一方で熱線式風速計は、計測できるのが一般に風速のみであり、単体では風向を
    計測することができない。
  4. 熱線式風速計に工夫を施して、風向も計測可能にしたものに、温度に応じて抵抗値が変化する
    2本の直線状のヒータを、各々の一端で互いに接続して30度~90度のかぎ型に配置した風
    向風速センサであり、電圧をかけられた各々のヒータからの信号を処理することにより風向と
    風速を検知できるが、2本のセンサ(ヒータ)を用い、これらのセンサをかぎ型に形成してい
    るため、装置構成が複雑になる。
  5. 熱線式は、2本のセンサの出力を比較、演算して風向を求めるため、信号処理も複雑になる。

 以上、今夜も技術がてんこ盛りである。
                                                              

 

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セザンヌの絵のような展開

2017年04月16日 | 時事書評

               時に安んじて順に処(お)れば、哀楽入る能わず             
                         
                                        「養生主」(ようせいしゆ)   
  

                                                 

       ※ 死者を悼むのは背理:秦失(しんしつ)は、年来の友老聃(ろうたん)の訃
       報に接して弔問に出向いた。かれは霊前で三たび声をあげて泣いただけで、
       そのまま席を立った。そのそ
っけない態度をみて、老聃の弟子は秦失をなじ
       った。

       「あなたは故人とは旧知の間柄ではありませんか」
       「そうだとも」
       「親友のあなたがそんな弔いかたでいいのでしょうか?」
       「いいとも。わたしはひごろ、みなさんの先生を尊敬するに足る人物と信じ
       てつき合ってきた。しか
しそれは間違いだったよ。さっき奥の問に通されて
       みると、老いも若きもまるで自分の肉親をなくしたように泣いていた。あ

              た方は、それが自然の情だと思っているに違いない。だが実は、故人がつね
              づねあなた方の同情を
ひくような言動をとっていたからではないのか。むろ
              んかれは、おくやみを言ってくれとは言わなか
ったろうし、泣いてくれとも
              言わなかったろう。しかし結局のところ、かれは無言のうちにそれを求
めて
              いたのだ。

       かれは天の理法から逃れようとし、人間の自然なあり方に背いたのだ。人間
       の生が与えられたもの
であることを忘れて生に執着することを、昔の人は天
       理を逃れようとする罪といった。
あなた方の先生がこの世に生まれたのは、
       生まれるべき時にめぐりあわせたからであり、この世を
去ったのは、去るべ
       き必然に従ったまでではないか。時のめぐりあわせに安んじ、自然のなりゆ
       きに
従っていけば、いっさいのとらわれから解き放たれよう。こういう境地
       に達した天理を、背の人は天帝から首枷(かせ)を解かれた人間といった。

       ひとつひとつの薪は燃えつきてしまうが、火は水沼に燃えつづけてゆくのだ」

 

     

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

   13.それは今のところただの仮説に過ぎません 

  「私は懇意にしている弁護士事務所に依頼し、彼女の遺した女の子について調査させました」と
 免色は言った。「彼女の結婚した相手は彼女より十五歳年上で、不動産業を営んでいます。不動
 産業といっても、夫は地元の地主の息子で、自分か相続し所有している土地や建物の管理が業務
 の中心になっています。もちろんほかの物件もいくつか取り扱ってはいますが、それほど幅広く
 積極的に仕事をしているわけではありません。もともと働かなくても生活に不自由はしないくら
 いの財産はあります。女の子の名前はまりえといいます。平仮名の『まりえ』です。七年前に妻
 を事故で失った後、ご主人は再婚していません。ご主人には独身の妹がいて、今のところその人
 が同居して、家事なんかをしてくれているようです。まりえは地元の公立中学校の一年生になっ
 ています」

 「そのまりえさんにお会いになったことはあるのですか?」

  免色はしばらくのあいだ黙して言葉を選んでいた。「離れたところから顔を目にしたことは何
 度かあります。でも言葉を交わしたわけではありません」

 「ご覧になってどうでした?」

 「顔が私に似ているか? そんなことは自分では判断できません。似ているといえばすべてが似
 ているように思えてきますし、似ていないといえばまったく似ていないようにも思えます」
 「彼女の写真はお持ちですか?」
 免色は静かに首を振った。「いいえ、持っていません。写真くらいは手に入るはずですが、私
 はあえてそういうことを望まなかったのです。写真を一枚、財布に入れて持ち歩いたところで何
 の役に立つでしょう? 私が求めているのは――」
 しかしそのあとの言葉は続かなかった。彼が口をつぐむと、そのあとの沈黙を虫たちの販やか
 な声が埋めた。
 「でも免色さん、あなたは先ほどたしか、自分は血縁というものにまったく興味を持っていない
 とおっしやいました」
 「そのとおりです。私はこれまで血縁というものに興味を持つことはありませんでした。むしろ
 そういうものからできるだけ遠ざかりたいと思って生きてきました。その気持ちは今も変わりま
 せん。しかしその一方で、私はこのまりえという娘から目を離すことができなくなったのです。
 彼女について考えることを単純にやめられなくなってしまったのです。理屈もなにもなく……」
  
  口にするべき言葉が私にはみつけられなかった。

  免色は続けた。「こんなことはまったく初めての経験です。私は常に自分をコントロールして
 きましたし、そのことに誇りを持ってもきました。でも今ではI人きりでいることを、時として
 つらく感じることさえあります」
  私は思い切って白分か感じていることを口に出した。「免色さん、これはあくまで直観に過ぎ
 ないのですが、そのまりえさんに関して、あなたはぼくに何かをしてほしいと考えておられるよ
 うに見えます。ぼくの思い過ごしでしょうか?」
 免色は少し間を置いてから肯いた。「実際、どう申し上げればいいのか

  そのときに私は突然気がついたのだが、あれほど賑やかだった虫の声が今ではすっかり消えて
 いた。私は顔を上げ、壁の時計に目をやった。一時四十分過ぎだった。私は人差し指を唇にあて
 た。免色はすぐに黙った。そして我々は夜の静寂の中に耳を澄ませた。

 

  14.しかしここまで奇妙な出来事は初めてだ

  私と免色は話を中断し、身体の動きを止めて宙に耳を澄ませた。虫たちの声はもう聞こえなか
 った。一昨日、また昨日とまったく同じように。そしてその深い沈黙の中に、私はあの微かな鈴
 の音を再び耳にすることができた。それは何度か鳴らされ、不揃いな中断をはさんでまた鳴らさ
 れた。私は向かいのソファに座った免色の顔を見やった。そしてその表情から、核心また同じ音
 を聞き取っていることを知った。核は眉間に深いしわを寄せていた。そして膝の上に置いていた
 手を僅かに宙に上げ、その鈴の音に合わせて指を小さく動かしていた。それは私の幻聴ではなか
 ったのだ。

  二分か三分、その音に真剣な面持ちで耳を澄ませてから、免色はゆっくりソファから立ち上が
 った。

 「音のするところに行ってみましょう」と核は乾いた声で言った。
  私は懐中電灯を手に取った。核は玄関から外に出て、ジャガーの中から用意してきた大型の懐
 中電灯を取りだした。そして我々は七段の階段を上り、雑木林の中に足を踏み入れた。一昨日は
 どではないが、秋の月の光がかなり明るく我々の足もとを照らしてくれた。我々は祠の裏側にま
 わり、ススキをかき分けるようにして石の塚の前に出た。そしてもう一度耳を澄ませた。その謎
 の音は疑いの余地なく、石の隙間から漏れ聞こえてくるようだった。

  免色はその石のまわりをゆっくり歩いてまわり、懐中電灯の明かりで石の隙間を注意深く点検
 した。しかしとくに変わったところは見当たらなかった。苔の生えた古い石が雑然と積み重なっ
 ているだけだ。彼は私の顔を見た。月明かりに照らされた免色の顔は、どことなく古代の仮面の
 ように見えた。あるいは私の顔も同じように見えるのだろうか?

 「音が聞こえてくるのは、前もこの場所だったのですか?」と彼は声を殺して私に尋ねた。
 「同じ場所です」と私は言った。「まったく同じ場所です」
 「この石の下で誰かが、鈴らしきものを鳴らしているみたいに私には聞こえます」と免色は言っ
 た。

  私は肯いた。自分か狂っていなかったことがわかって安心するのと同時に、そこに可能性とし
 て示唆されていた非現実性が、免色の言葉によって現実のものとなり、そのせいで世界の合わせ
 に微かなずれが生じてしまったことを、私は認めないわけにはいかなかった。
 
 「いったいどうすればいいのでしょう?」と私は免色に尋ねた。

  免色は懐中電灯の光を、その音のするあたりになおもしばらくあてていた。そして唇を堅く結
 んで考えを巡らせていた。夜の静寂の中にあって、彼の頭脳が素遠く回転している音が聞こえて
 きそうだった。

 「あるいは誰かが助けを求めているのかもしれない」と免色は自分自身に語りかけるように言っ
 た。
 「しかしいったい誰が、こんな重い石の下に入り込んだりするんですか?」

  免色は首を振った。もちろん彼にもわからないことはある。

 「今はとにかく家に戻りましょう」と彼は言った。そして私の肩の後ろにそっと手を触れた。
 「少なくとも、これで音の出どころははっきりしました。あとのことは家に戻ってゆっくり話し
 ましょう」

  我々は雑木林を抜けて、家の前の空き地に出た。免色はジャガーのドアを開けて懐中電灯を中
 に戻し、そのかわりに座席の上に置いてあった小さな紙袋を手にとった。そして我々は家の中に
 戻った。

 「もしお持ちでしたら、ウィスキーを少しいただけますか?」と免色は言った。

 「普通のスコッチ・ウィスキーでいいですか?」
 「もちろん。ストレートでください。それから水を入れない水と」

  私は台所に行って戸棚からホワイト・ラベルの瓶を出し、ふたつのグラスに往ぎ、ミネラル・
 ウオーターと一緒に居間に運んだ。我々は向かい合わせに座って何も言わず、それぞれにウィス
 キーをストレートで飲んだ。私は台所からホワイト・ラベルの瓶を持ってきて、空になった彼の
 グラスにお代わりを往いだ。彼はそのグラスを手に取ったが、口はつけなかった。真夜中の沈黙
 の中で、まだその鈴の音は断続的に続いていた。小さな音だが、そこには聞き逃すことのできな
 い緻密な重みが含まれていた。


  「私はいろんな不思議なことを見聞きしてきましたが、こんなに不思議なことは初めてです」と
 免色は言った。「あなたの話を聞いたときには、失礼ながら半信半疑だったのですが。まったく、
 こんなことが実際に起こるなんて」
  その表現には何かしら私の注意を惹くものがあった。「実際に起こるなんて、というのはどう
 いうことなんですか?」

  免色は顔を上げてしばらく私の目を見ていた。

 「これと同じような出来事を以前、本で読んだことがあったからです」と彼は言った。
 「これと同じような出来事というのは、つまり真夜中にどこかから鈴の音が聞こえてくるという
 ことですか?」
 「正確に言えば、そこで聞こえてきたのは鉦(かね)の音です。鈴ではありません。鉦太鼓で探
 す、とい
うときの鉦です。昔の小さな仏具で、撞木(しょうもく)という槌のようなもので叩い
 て音を出します。念仏を
 唱えながら、それを叩くのです。真夜中に土の下からその鉦の音が聞
 こえてくるという話です」

  『雨月物語』上田秋成|松岡正剛の千夜千冊

 「それは怪談なのですか?」
 「怪異譚と言ったほうが近いでしょう。上田秋成の『春雨物語』という本をお読みになったこと
 
はありますか?」と免色は尋ねた。
  私は首を振った。「秋成の『雨月物語』はずっと昔に読んだことがあります。しかしその本は
 まだ読んでいません」

 「『春雨物語』は秋成が最も晩年に書いた小説集です。『雨月物語』の完成からおおよそ四十年
 を
経て書かれています。『雨月物語』が物語性を重視しているのに比べると、ここでは秋成の文
 人としての思想性がより重視されています。その中に『二世の縁』という不思議か二篇がありま
 す。その話の中で主人公はあなたと同じような経験をします。主人公は豪農の息子です。学問の
 好きな人で、夜中に一人で書を読んでいると、庭の隅の石の下から、鉦の音のようなものが時折
 聞こえてきます。不思議に思って明くる日、人を使ってそこを掘らせてみると、中に大きな石か
 おり、その石をどかせてみると、石の蓋をした棺のようなものがあります。それを開けると、中
 には肉を失い、干し魚のように痩せこけた人がいます。髪は膝まで伸びています。手だけが勣い
 ていて、撞木(しゅもく)でこんこんと鉦を打っています。どうやらその昔、永遠の悟りを問く
 ために自ら死を選び、生きたまま棺に入れられ、埋葬された憎であるようです。これは禅定と呼
 ばれる行為です。ミイラになった死体は据り返され、寺に祀られます。禅定することを『入定す
 る』と言います。おそらくもともとは立派な憎であったのでしょう。その魂は願い通りに涅槃の
 境地に達し、魂を失った肉体だけがあとに残されて生き続けてきたようです。主人公の家族は十
 代にわたってこの地に往んできたのですが、どうやらそれよりも前に起こったことのようです。
 つまり数百年前に」



  免色はそこで話すのをやめた。

  彼は手に持ったウィスキーのグラスをただ軽く握らせてかに揺れていた。
 「それでその生きたミイラのような憎が掘り出されたあと、語はどのように展開していくのです
 か?」と私は尋ねた。
 「語はそのあとずいぶん不思議な展開を見せます」と免色はなんとなく言いにくそうに言った。
 「上田秋或が晩年に到達した独白な世界観が、そこには色濃く反映されています。かなりシニカ
 ルな世界観と言っていいかもしれない。秋或は生い立ちが複雑で、少なからぬ屈託を抱えて人生
 を送った人でしたから。でもその語の成り行きは、私の口から手短に説明してしまうより、あな
 たがご白分で本をお読みになった方がいいように思います」

  免色は車の中から持ってきた紙袋から一冊の古い本を取り出し、私に手渡した。それは日本古
 典文学全集の一冊たった。そこには上田秋或の『雨月物語』と共に『春雨物語』全語が収められ
 ていた。



 「あなたのお話をうかがったときに、すぐにこの語のことを思い出して、うちの本棚にあったも
 のを念のために読み返してみました。その本はあなたに差し上げます。よかったら読んでみてく
 ださい。短い語ですからすぐに読めると思います」
  私は礼を言ってその本を受け取った。そして言った。「不思議な語です。常識ではとても考え
 られない。この本はもちろん読ませていただきます。しかしそれはそれとして、ぼくはこれから
 現実的にいったいどうすればいいのでしょう? 何もせずに事態をこのまま放置しておくことは
 できそうにありません。もし本当に石の下に人がいるのなら、そして鈴だか鉦だかを鳴らして、
 助けてほしいというメッセージを夜ごとに造っているのだとしたら、何はともあれそこから助け
 出さないわけにはいかないでしょう」

  免色はむずかしい顔をした。「でもあそこに積まれている石をそっくりどかすのは、我々二人
 の手にはとても負えそうにありませんよ」
 「警察に報告するべきなのでしょうか?」

  免色は小さく何度か首を掘った。「警察はまず間違いなく役に立たないと思います。真夜中に
 なると、雑木林の石の下から鈴の音が聞こえてくるなんて通報したところで、そんなもの相手に
 されやしません。頭がおかしいんじやないかと思われるだけです。かえって話がややこしくなっ
 てしまう。やめた方がいいでしょう」
 「でもあの音がこれからずっと毎晩続くのだとしたら、ぼくの神経はとても耐えられそうにあり
 ません。まともに眠ることもできませんし、この家を出ていくしかないと思います。あの音は間
 違いなく何かを訴えているんです」

  免色はしばらく深く考え込んでいた。それから言った。「あれだけの石をそっくりどかせるに
 は、プロの助けが必要になります。私の知り合いに地元の造園業者がいます。親しくしている業
 者です。造園業者ですから、重い石も扱い慣れています。もし必要なら、小型のショベルカーな
 んかの手配もできます。そうすれば重い石もどかせられるし、穴も簡単に掘れるでしょう」
 「たしかにおっしやるとおりですが、そうするには問題が二つばかりあります」と私は指摘した。
 「まず第一に、この土地の所有者である雨田典彦さんの息子に、そういう作業をおこなっていい
 かどうか、許可を得なくてはなりません。ぼく一人の判断では勝手なことはできません。それか
 ら第二に、ぼくにはそんな業者を雇うような経済的余裕がありません」

  免色は微笑んだ。「お金のことは心配いりません。その程度のことは私か負担できます。とい
 うか、私はその業者にちょっとした賃しがあるので、彼はたぶん実費だけで作業をしてくれると
 思いま助けてほしいというメッセージを夜ごとに造っているのだとしたら、何はともあれそこか
 ら助け出さないわけにはいかないでしょう」

  免色はむずかしい顔をした。「でもあそこに積まれている石をそっくりどかすのは、我々二人
 の手にはとても負えそうにありませんよ」
 「警察に報告するべきなのでしょうか?」

  免色は小さく何度か首を掘った。「警察はまず間違いなく役に立たないと思います。真夜中に
 なると、雑木林の石の下から鈴の音が聞こえてくるなんて通報したところで、そんなもの相手に
 されやしません。頭がおかしいんじやないかと思われるだけです。かえって話がややこしくなっ
 てしまう。やめた方がいいでしょう」
 「でもあの音がこれからずっと毎晩続くのだとしたら、ぼくの神経はとても耐えられそうにあり
 ません。まともに眠ることもできませんし、この家を出ていくしかないと思います。あの音は間
 違いなく何かを訴えているんです」

  免色はしばらく深く考え込んでいた。それから言った。「あれだけの石をそっくりどかせるに
 は、プロの助けが必要になります。私の知り合いに地元の造園業者がいます。親しくしている業
 者です。造園業者ですから、重い石も扱い慣れています。もし必要なら、小型のショベルカーな
 んかの手配もできます。そうすれば重い石もどかせられるし、穴も簡単に掘れるでしょう」
 「たしかにおっしやるとおりですが、そうするには問題が二つばかりあります」と私は指摘した。
 「まず第一に、この土地の所有者である雨田典彦さんの息子に、そういう作業をおこなっていい
 かどうか、許可を得なくてはなりません。ぼく一人の判断では勝手なことはできません。それか
 ら第二に、ぼくにはそんな業者を雇うような経済的余裕がありません」

  免色は微笑んだ。「お金のことは心配いりません。その程度のことは私か負担できます。とい
 うか、私はその業者にちょっとした賃しがあるので、彼はたぶん実費だけで作業をしてくれると
 思います。気になさることはありません。雨田さんの方にはあなたから連絡してみてください。
 事情を説明すれば、許可は出してくれるのではないでしょうか。もしあの石の下に本当に誰かが
 閉じ込められていて、その人をそのまま見殺しにしたりするようなことがあれば、地権者として
 の責任を問われかねませんからね」
 「でもぼくとしては、関係のない免色さんにそこまでしていただくことは
  免色は膝の上で、手のひらを上にして両手を広げた。雨を受けるみたいに。そして静かな声で
 言った。
 「前にも申し上げたと思いますが、私は好奇心が強い人間です。この不思議な話がこれからいっ
 たいどのように展開していくのか、私としてはそれが知りたいのです。こんなことはそうしょっ
 ちゅう起こるものではありません。お金のことはとりあえず気にしないでください。あなたには
 あなたの立揚がおありでしょうが、今回に限って余計な心配はせず、どうか私にその手配をさせ
 てください」

  私は免色の目を見た。その目にはこれまでに見たことのない鋭い光が宿っていた。何かあって
 もこの出来事の成り行きを確かめずにはおかない、目はそう語っていた。もし何か理解できない
 ことがあれば、理解できるまで追求してみる―――それがおそらくは免色という人の生き方の基
 本になっているのだろう。

物語の暗示展開が、まるでセザンヌの絵のように塗り重ねられていくように続く。先を急がず熟っく
りと読み進めていこう。

                                      この項つづく


 

 ● 今夜の一曲

日本のシンガーソングライターで、「初恋」「踊り子」「ゆうこ」「陽だまり」などのヒット曲が
ある村下孝蔵(1953年2月28日 - 1999年6月24日)は、。熊本県水俣市出身。水俣市立水俣第一小学
校、水俣市立水俣第一中学校、鎮西高等学校、日本デザイナー学院広島校インテリアデザイン科卒業。
この「春雨」(はるさめ)は村下孝蔵の楽曲で、1981年1月21日にCBSソニーより発売された。村下の
デビュー2年目、2枚目のシングルA面の曲。のちに同年発売のアルバム『何処へ』の6曲目として収
録された。
当時のラジオCMは、すき焼きの具材を続けて読み、最後に「春雨」と言うものであった
と言う。
 

  ● 今夜のアラカルト

最近、即席のランチの創作料を考案している。その一つに、豚ロース肉をキャベツに巻き付けるので
はなく豚ロースとキャベツの交互重ねのミルフィーユを考案。豚ロースとキャベツだけんでなく、紫
蘇、塩、胡椒、リンゴ、ガーリックペースト(フライドフレーク)、オリーブオイルなど好みで重ね
合わせ、12センチ×6センチ角に裁断重ね、皿に盛りつけ有田焼のタジン鍋を蓋をし蓋電子レンジ
で加熱、このとき豚肉の加熱加減を考え、電子レンジ加熱時間を設定する。当然、フォーク&ナイフ
で頂く。専用の型抜きがあると便利だ。勿論、挟んでいく肉は牛肉、ハム、ベーコン、魚肉、薄焼き
卵、あるいは、湯葉、また、野菜も、アスパラ、レタスや春雨など色々工夫する。さらに、薄焼きパ
ンなどもいいだろう(サンドイッチにすることは避けたい)。


 

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さてチャチャバックを揃えた。

2017年04月15日 | 創作料理


          沢雉(たくち)は十歩に啄(たく)し、百歩に一飲するも、
          樊(はん)中に畜(やしな)わるるを蘄(もと)めず
   
                         
                                        「養生主」(ようせいしゆ)   
  

                                                

       ※ 片足こそ自由:右師(うし)は足切りの刑にあって片足をなくした男である。
              この右師に伺年ぷりかで会った旧友の公文軒は、思わずたずねた。「いった
              いどうしたのだ、その足は?どうしようもなかったのか、まさか刑罰にあっ
              たのでは……」/右師は答えた。「なにも驚くことはない。お察しのように
       おれは刑を受けた。だが今のおれにいわせれば、受刑もまたおれの負ってい
       る迎合の一部で、人力では動かし難いことなのだ。天がおれを片足に生まれ
       つかせたまでのこと。人間は片足に生まれつこうとして片足になれるもので
       はない。おまえのそのふたつの足も、おまえがどう思おうと天与のものだ。
       してみればおれが片足になったのは天命で、人間の力でどうなるものでもな
       い。おまえに錐の気持がわかるだろうか。かれらは餌をあさり水を探してさ
       んざん野山をかけまわる。なんともご苦労な話だが、それでも篠の中に飼わ
       れようとはしないのだ。たらふく食ったとて、籠の中が窮屈なことを知って
       いるからだ。片足になってみて、おれははじめて自由とはどういうものかを
       悟ったよ」

      ※ 一見すると、補償行動のようにとれるが、何ともすさまじい克己行動である
              ことか。
「一つの行動は原則として志向的である」というサルトルの「対自」
       の概念が脳裏に浮かぶ(『存
在と無』、第三節 行動の問題 1.行動と自
       由)。つまり、何らかの意図を持ち、その意図を志向的に実現していくこと
       が行動であり、まさに、この点において行動は、「物理的な運動や生物学的
       な反応」と明らかに区別される。なぜなら、「運動や反応」においては特定
       の原因が先行し、それによって全てが因果的に決定されるのに対して、行動
       は「まだ実現されていない意図・目的」を生み出し、それらを志向的に実現
       していくことだからであるとする。また、サルトルは同書で「思念もひとつ
       のモーメントである」とも書いている。荘子とサルトルにおいて相反するか
       に見えて、右師の説話を介し一致すると。今夜、そのことに気づく。


 

 

  ● 今夜の一曲

「桜花爛漫」(おうからんまん)は、KEYTALKの楽曲、メジャー5枚目(通算8枚目)のシン
グル。2015年4月29日にGetting Betterから発売。
前作「FLAVOR FLAVOR」から約1か月後に発
売され、KEYTALK史上最短のインターバル。またこれまでの作品にあった初回限定盤などの特
典などは無く、表題曲と既存曲のライブ音源が収録され、販売価格が500円(税抜)のワンコイ
ンプライスで販売。初のアニメタイアップがついた作品(オープニングテーマ)で同アニメのエ
ンディングテーマを担当しているパスピエの通算4枚目のシングル「トキノワ」と同日発売。

作品で、フジテレビ系音楽番組「魁!音楽の時間」に初出演、表題曲を披露(初の地上波音楽番
組の初パフォーマンス)。

 

【百名山踏波記:2017年篇】

● さて、チャチャバックを揃えた。後は体調と天気次第

久しぶりに、三井アウトレットパーク・滋賀竜王にでかけ、モンベル(218)で、1泊2日(
野営なし)用のチャチャバック――フィールドでの機能性と快適性を兼ね備えた軽量モデル。フ
ロント下半分が大きく開くU
字型ジッパーやパックカバーを内蔵、多彩な機能を備えている。最
適な重量バランスの設定や、背面に使用した通気性に優れる部材が快適な背負い心地を実現。北
方四島・国後島最高峰で、国後富士の異名を持つ「爺爺岳(ちゃちゃだけ)」が名前の由来。

くることも可能――を購入する。

✪ 仕様

【素材】本体:(正面・トップリッド):100デニール・バリスティック®ナイロン・トリプルリ
    ップストップ[ウレタン・コーティング](底部、側面):210デニール・ナイロン・リッ
    プストップ[ウレタン・コーティング] 裏地:70デニール・ナイロン・リップストップ
    [ウレタン・コーティング] 背面:ナイロンメッシュ、E.V.A.フォーム
【重量】1.32キログラム
【色彩】ゴールデンオレンジ(GDOG)
【容量】35リットルL(高さ72×幅31×奥行き21センチメートル)
【背面寸法】53センチメートル
【機能】調整可能なトップリッド/隠しポケット/デルタリッド/サイドストラップ/ピッケルスト
    ラップ(樹脂)/2ウェイワンドポケット/ヒップベルトポケット/パックカバー付き/チ
    ェストサポート


 



● 高密度パッキング

 

トレッキング前のバックパックを待つのは、荷物を詰め込むパッキングの作業だ。 内部にギア、
ウエア、食料、水などを理想的に配分していくには、大切なボイントがいくつかある。❶歩きや
すさを考えた「重量バランス」、❷バックパックから荷物をあふれさせない「コンバクトさ」、
❸必要なものかすぐに使える「取り出しやすさ」。荷物はバックバック内で左右の豊さが均等に
なるように
心がけ、重いものは背中近く、軽いものは外側か下部に入れる。こうすると体とバッ
クパ
ックの重量バランスが向上し、体が左右に振られたり、後ろに引っ張られる感覚がなくな
て、体への負担が減る。
コンパクトにするために、ウエアのようにかさばるものはできるだけ圧
縮し、マット
からは完全に空気を抜いておく。食料の不必要なパッケージは、あらかじめ捨てる。
れはゴミの削減にもつながる。

バックパック内部には隙間
が生まれないように、力いっぱい押し込む。壊れやすいサングラスな
どはハードケース
を利用し、チューブ入りのものはガッチリ蓋を締めておく。 ただし、突然使
う機会か訪
れるレインウェアやトイレットペーバー、休憩ごとに□にする行動食や地図は、取り
しやすいバックバック上部や雨蓋のボケットヘ。 最後にバックバックの上からバシバシ叩く
と、形か整う(高橋正太郎 著 「トレッキング実践学」エイ出版社 )。

 

● アサリか塩豚ネギにするか迷う桜花爛漫

三井アウトレットパーク・滋賀竜王の帰り、国道八号線は雨模様。折角の桜花爛漫も台無しと思
いながら、ビバシティ彦根に向かい、エディオンに立ち寄ったついでに、レストン街で二人で昼
食をとる。今が旬のアサリ饂飩を食べたくなったので、「はなまるうどん」(本社:東京)のメ
ニューをみて「塩豚ねぎうどん」に変更し頂く、柚子胡椒(柚子と青唐辛子を和えた香辛料)で
頂くのだが、これが結構美味い。たぶん、家で自己流にアレンジして創作してみようと考えた。
面倒臭がりのこのわたしでも簡単に作れるだろうと。アレンジするとしたら、ここに、ロースト
ガーリックフレークを加えコクをだすことにしている。手先は器用な方だから料理に関しては変
な自信を持っている。話は創作料理のことではない。アサリやシジミ、ハマグリなどの貝類を、
自然の後背力豊かな滋賀県で養殖しようという事業化のアイデアがふと湧いた。貝類は運動量が
小さく、内陸部での無給餌型養殖にもってこい。水温、湿度、水流、浸透圧(ミネラル濃度)、
水質、溶存期待、昭明(光)の完全室内管理型養殖法で高密度生産可能であろうと。因みに、貝
類養殖は、カキとホタテの2つが主流をしめる。例の「オールソイタウン構想」のような構想で
紹介したようなもの。


貝類もそれほど活発に運動しないので、❶いかだから貝がついたロープやワイヤを垂らして養殖
する垂下式と呼ばれる方法が主流となっている。❷ロープ等に貝を付ける方法としては、貝を直
接ぶら下げる耳づり式養殖や、❸ロープ等からぶら下げたネットの中に貝を入れるネット式養殖、
❹貝が自ら何かに付着する性質を利用してぶら下げた貝殻等に付着させる方式等があり、貝の種
類や大きさに合わせて適切な方法が利用されている。カキ養殖では付着させる方式が主流。ホタ
テガイ養殖では、稚貝の時はネット式、成長すると耳づり式と方法を組み合わせて養殖。近年注
目されているアサリ養殖ではアサリをコンテナに入れて垂下する方法が開発されている。貝類は
微小なプランクトンを餌としており、潮流に乗ってやってくる天然のプランクトンがそのまま餌
となる。
また、❺沿岸域に稚貝を放流し、収穫時期が来たら収穫する地まき式による養殖方法が
ある。これは、稚貝を海に放流し自然に近い状況で成長させるもので、天然と養殖の境界線上に
位置していると考えられている。もっとも、貝類養殖は国内でも研究が進んでいる(モロッコで
研究センタ建設計画もある)。

 

 

まあ、これは思いつきだがら、今夜のところがこの辺で切り上げる。

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エネルギーフリー社会を語る。

2017年04月14日 | デジタル革命渦論

           わが生や涯りあり、而して知や涯りなし                            

                                      「養生主」(ようせいしゆ)   
  

                                                

       ※ なにも、世捨人になることではない。世俗に生きつつ同時に世俗を超越す
        ことこそ真の超越である。煩雑で桎梏(しつこく)多きこの現実の世に、自
       己の生を全うするにはどうする
か。「生を養うための主(根本原理)」を説
       くのがこの篇であり、荘子の処世知がここに濃縮され
ている。

      ※ 知に従えば安らぎはない

             人間の生命には限りがあるが、知のはたらきには限りがない。生命のこの有
              限性を度外視して、知
の赴くままに無限を追究すれば、安らぎは訪れるはず
       がなかろう。われわれは、この道理を承知して
いながら、しかも知から離れ
       ることができない。
われわれは知をはたらかせては善悪をあげつらう。だが、
       善といい悪といっても、それは名声や刑
罰を基準にした評価にすぎない。だ
       からこのような善悪にとらわれず、自然にのっとり、自然のまま
に生きるこ
       とだ。それでこそ、安らかで充実した生涯を送ることができるのである。

 

 

  Apr. 14, 2017

● 世界初 筒状炭素分子「カーボンナノベルト」の合成に成功

14日、6個の炭素原子でできた正六角形の構造が環状につながった新しい分子「カーボンナノ
ベルト」の作製に、名古屋大学の研究チームが成功した。60年前に存在が予言されたが誰も作
れなかった「夢の分子」で、半導体や発光材料など様々な応用が考えられるという。14日付の
米科学誌サイエンスで発表。
伊丹健一郎教授(合成化学)らが作製したカーボンナノベルトは、
正六角形の構造が12個つながり、直径約100万分の1ミリの環状になっている。
これまで正
六角形が帯状につながったものを丸めて環状にする研究が進んでいたが、六角形構造をひずませ
るのが隘路だったが、六角形構造が出来上がっていない段階で先に環状にすることで、課題を解
決。
ナノベルトに炭素原子を付け足す反応を繰り返せば、筒状の分子「カーボンナノチューブ」
も作製できる。ナノチューブは様々な応用が進んでいるが、現在の作製方法だと太さがそろわず
性質もバラバラのでもできてしまう。ナノベルトを元にすれば、太さのそろったナノチューブを
つくることも可能。
化学者が夢見ていた分子をつくることができた。未知の機能が見つかる可能
性もあると話す。


♞ Synthesis of a carbon nanobelt, 
Kenichiro Itami et al. Science  14 Apr 2017:Vol. 356, Issue 6334,
        pp. 172-175 
DOI: 10.1126/science.aam8158

この成果により、「カーボンナノベルト」は今後のナノカーボン科学を一新する分子です。今回
得られたカーボンナノベルトは赤色蛍光を発する有機分子(上図)で、発光材料や半導体材料と
して各種電子デバイスに搭載できる可能性があります。さらに、カーボンナノベルトをテンプレ
ートにした製法で単一構造のカーボンナノチューブが得られれば、軽くて曲げられるディスプレ
イや省電力の超集積CPU、バッテリーや太陽電池の効率化など、非常に幅広い応用が期待され
るとのこと。なにやらギュウギュウと濃縮されている状態ですね。新星誕生前夜の予感。



【量子ドット工学講座36】

● ペロブスカイト薄膜太陽電池で変換効率60%超の可能性

パデュー大学の研究チームは、ペロブスカイト系材料を用いた薄膜太陽電池で、変換効率60%
超を実現できる可能性がある。従来のシリコン太陽電池では発電に利用することが困難だった思
われていた「ホットキャリア」と呼ばれる高エネルギーの電荷を利用できるので変換効率の大幅
に向上する可能性があるとする。ところで、シリコン太陽電池の変換効率には「ショックレー=
クワイサー限界」と呼ばれる理論限界があり、単接合の場合、およそ33%が変換効率の上限。
変換効率制限要因の1つとして、高エネルギー状態の電荷であるホットキャリアの寿命が極めて
短いため
、ホットキャリアのエネルギーを太陽電池外部に電流として取り出す前にエネルギーが
熱に変換され失われる。

♞ Long-range hot-carrier transport in hybrid perovskites visualized by ultrafast microscopy, Science  07
        Apr 2017:  Vol. 356, Issue 6333, pp. 59-62 DOI: 10.1126/science.aam7744 
 

太陽電池のバンドギャップを超えるエネルギーをもった光が入射すると、電子または正孔が高エ
ネルギー状態に励起し、ホットキャリアが生成されるが、シリコン太陽電池の場合、ホットキャ
リアの寿命は1ピコ秒程度と極めて短く、その間にホットキャリアが移動距離は最大でも、10
ナノメートル程度しかないため、ホットキャリアのエネルギーは電流として外部に取り出す
ことができず、太陽電池の内部で熱に変わる。

研究チームは、レーザーを用いた超高速過渡吸収顕微鏡法で、ペロブスカイト薄膜(ヨウ素、鉛、
メチルアンモニウムのハイブリッド材料)のホットキャリアの動きと速度の測定した結果、ペロブ
カイト薄膜では、ホットキャリアの寿命が100ピコ秒程度まで伸び、その移動距離が200ナ
ノメートル超に達することを確認する。
このことで、ペロブスカイト系薄膜太陽電池では、ホッ
トキャリアの移動距離が太陽電池の膜厚以上になるため、電流として外部に取り出せる可能性が
ある。ホットキャリアを利用した場合の太陽電池の変換効率は60%以上になり、従来のシリコ
ン太陽電池の理論限界のおよそ2倍の値まで向上できる。
研究チームは、次の研究課題として、
ホットキャリアを外部回路に抽出するための適切な電極材料・構造の開発を挙げている。また、
商用化を考えたときには、ペロブスカイト薄膜で使用されている鉛を、より無害な他の材料で代
替する必要があるとしている。

● 材料とデバイスの特性


尚、量子ドット太陽電池の開発では「ホットキャリアを外部回路に抽出するための適切な電極材
料・構造の開発が進行中である。最速で特許取得チームはどこだ?!
 



【「電力会社を破壊する技術」に投資する東電の理由】

● 東電HD、英の蓄電池制御ベンチャー・モイクサに3%出資

今月4日、東京電力ホールディングスは、英モイクサ――モイクサは2006年に創業したベンチャ
ーで、一般住宅向けに太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムを提供している――への出資
を発表。蓄電池には、昼間に太陽光で発電して使いきれなかった電気や、料金が安価な夜間の電
気を貯めておく。この電気を料金が高い昼間や、太陽光が発電しない夜間に使うことで、電力会
社に支払う電気料金を引き下げることが可能になる。こうした使い方は「ピークシフト」と呼ば

れる。日本では、太陽光発電による電気は「固定価格買取制度」(FIT)を活用し、地域の大手電
力会社に固定価格で買い取ってもらうのが一般的だ。これは大手電力会社の電気料金よりもFITの
買取価格の方が高いため、太陽光による電気を自分で使う(自家消費)よりも、FITで売電した方
が得する。 

 Apr. 6, 2017
ところが海外では、FITの条件の切り下げや制度自体の廃止によって、太陽光による電気を自家
消費した方が得になるケースが出てきている(蓄電池導入で「安い電力」になってきた太陽光、
日経ビジネスオンライン、2017.04.11
)。この時、蓄電池を組み合わせてピークシフトすること
で、太陽光による電力を余す所なく活用できる。太陽光発電や蓄電池の価格が安くなってきたこ
とで、やりようによっては、これまで電力会社に支払ってきた電気料金よりも、トータルのエネ
ルギーコストが安くなる。いま、世界各国で太陽光の自家消費と蓄電池を組合せたシステムを提
供するサービス事業者が誕生しつつある。

● モイクサの蓄電池システムは10年で投資回収可能

モイクサは英国で350の家庭に蓄電池システム「Maslow」を販売した実績があった。Maslowの特
徴は、コンパクトで安価であること。中国製のリン酸鉄型リチウムイオン電池を採用、容量2kWh
で2000
ポンド(約28万円)。現在、米テスラが販売しているリチウムイオン電池「パワーウオ
ール」が7kWh以上の容量であることを考えると、容量は3分の1以下と小さい。
蓄電池は安く
なったといっても、まだまだ高価な商品だ。ライトCTOは、「テスラの電池は家庭向けには大き
すぎる。電気料金を引き下げるのが目的なら2kWhで十分」と説明。初期投資が安くなれば、導入
へのハードルも低くなる。✪
モイクサの試算では、ピークシフトによる電気料金の節約額は年間
80~130ポンド(1万1000~1万8000円)。これだけだと、蓄電池システムの投資回収に15~25年
かる計算。多くのメーカーが蓄電池システムの保証期間を10年に設定していることから、投資回
収は少なくとも10年以内にする必要がある。

そこで登場するのが「VPPである。モイクサは複数の顧客の蓄電池に溜まっている電気を遠隔
制御することでアグリゲーションし、あたかも1つの発電所であるかのように取り扱う。こうし
集めた電気を、例えば、英国の系統運用機関であるナショナルグリッドが運用する「アンシラ
リーサービス
への入札や卸電力市場で取引する。そこで得た対価を蓄電池利用者に分配する。
アンシラ
リーサービスとは、電力網を運用する系統運用機関が周波数を調整し停電を防ぐために
実施する周波数
調整市場である。

そこで、モイクサは取材当時、VPP運用によって得られる対価分として、年間76ポンド(約1万
円)を固定価格で5年間支払う。ピークシフトとVPP運用による対価を合算すると、1軒当たり
年間で約200ポンドの節約となり、顧客は蓄電池の初期投資を約10年で回収できる計算になる。
英国も再生可能エネルギーの導入量が増加しており、系統安定化コストは増加傾向にある。今後、
周波数調整市場の価格は上昇していくと見られている。そうなれば、モイクサのVPP運用による対
価も上昇し、蓄電池のコスト回収期間も短くなると予想している。

「国の意向もあり出資したという事実が非常に重要」。ある東電関係者は、こう明かす。となれ
ば、わずか3%、7000万円の出資にも合点がいく。東電グループの再建計画「新・総合特別事業
計画」が3月末に区切りを迎えるタイミングであったことも、矢継ぎ早に出資を決めたことと相
反しない(モイクサへの出資は3月31日で、4月4日は発表日)。日本は今後、人口減少や省エ
ネの進展、分散電源の導入拡大によって、電力需要は減少していく。これは抗いようのない事実
だ。であるならば、大手電力会社は長年培ってきたビジネスモデルを変革していくことが必要と
館柄れている。
東電HDのモイクサへの出資が、仮に「出資ありき」の意思決定だったとしても、
近い将来、モイクサのようなビジネスモデルへの取り組みを求められる日が必ずやってくる。既
存ビジネスによる売り上げを失うことがあったとしても、企業としてさらなる成長を求めるので
あれば避けては通れない(東電が出資した「電力会社を破壊する技術」日経エネルギーNext,
2017.04.14
)。

  ● 今夜の一曲

毎日、毎日、エネルギー関係のニュースが飛び込みできるだけ、大切なことはコミットしてきてい
  るが、ここにきて心身とも疲れがとれないでいる。ひこにゃんが11歳の誕生日を迎えて「ひこに
  ゃん、エネルギーフリー社会を語る」というヘッドラインが頭を過ぎる。関連する、振興事業も見
  えているものの、具体的な行動は、日々の情報処理に追われ、手づかずにいる。誰か力を貸してく
  れ "I don't want to miss a thing."
と悲鳴をあげる自分がいる。午後4時すぎ久しぶりに、二人
  で「徳兵衛」へ出かける。客は二人、後から二人入ってくるものの、貸し切り状態。注文もスマー
  トパッドで入力。様変わりに驚く。ネタは新鮮で、持ち帰り二人分買ってご機嫌で帰ってくる。息
  子たちも絶賛していた。

  Mar. 17, 2017

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フライドキャツフィシュサンド

2017年04月13日 | 創作料理

 

 

          大道は称あらず、大弁は言わず、大仁は仁ならず、大廉は賺(れん)
          ならず、大勇は忮(さか)らわず―知の限界を悟ることこそ真の知

                            「斉物論」(さいぶつろん)     

                                                

      ※ 真の「道」は、概念では把握できない。真の認識は、ことばでは表現できない。
       真の愛には、愛す
るという意識をともなわない。真の廉潔は、廉潔であろうと努
       めない。真の勇は、他者と争わない。
「道」は、道であると判断された時、「道」
             ではなくなる。ことは(概念)は成立した時、事物の実相から離れる。愛は、特
             定の対象に向けられた時、愛ではなくなる。廉潔は、意識的に行なわれれば偽り
             になる。勇を頼んでひとと争う時、勇は勇でなくなる。

     ※ 
つまり、人間にとって最高の知とは、知の限界を悟ることだといえる。それにしても、この
                    「不知の知」を体得することは、なんという至難のわざであろうか。もしこれを体得したも
             のがいたとすれば、その知は無尽蔵な「天の庫(くら)」にたとえることができ
       よう。いっさいを受
容し、事物とともに推移して、しかもなぜそうなるのか意識
             しない、これこそ、明であることを意識しない明のであると解説する。

         ※ このように禅問答のような荘子の不可知論は難解ゆえ、二千年に一人の思想家な
       のかと思わせる傍ら滑稽さが残る。また、特権的な視点を設定しない内在的な相
       対主義と評されていることも納得できる。社会が複雑化し息苦しさを増し続ける
       現代、「荘子」を読み解くことで、様々なしがらみから抜け出し自由になるヒン
       トや、あるがままを受け容れ伸びやかに生を謳歌する方法として取り上げられて
             いる。




     

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

   13.それは今のところただの仮説に過ぎません

  それは彼が彼女とのあいだでこれまで経験したどのようなセックスとも、まったく追っていた。
 そこには温かさと冷ややかさが、堅さと柔らかさが、そして受容と拒絶が同時に存在しているよ
 うだった。彼はそのような不思議に背反的な感触を特った。しかしそれが具体的に何を意味する
 のか、よく理解できなかった。彼女は彼の上にまたがって、小さなボートに乗った人が大波に揺
 られるみたいに、激しく上下に身体を動かしていた。肩までの黒い髪が、強風に煽られる柳の彼
 のようにしなやかに宙で揺れていた。抑制が夫われ、喘ぎ声も次第に大きくなった。オフィスの
 ドアをロックしたかどうか、免包には自信がなかった。したような気もするし、し忘れたような

 「避妊しなくてもいいの?」と彼は尋ねた。彼女は避妊に間しては普段からとても神経質だった。
 「大丈夫よ、今日は」と彼女は彼の耳元で囁くように言った。「あなたが心配することは何もな
 いの」

  彼女に間する何もかもが、普段とは追っていた。まるで彼女の中に眠っていた別の人格が突然
 目を覚まし、彼女の精神と身体をそっくり乗っ取ってしまったかのようだった。たぶん今日は彼
 女にとって何か特別な日なのだろうと彼は想像した。女性の身体に間しては男には理解できない
 ことがたくさんある。
  彼女の動きは時間を追ってますます大胆にダイナミックになっていった。彼女の求めることを
 妨げないようにする以外に、彼にできることは何ひとつなかった。そしてやがて最終的な段階が

 やってきた。彼が耐えきれずに射精をすると、それに合わせて彼女は異国の鳥のような声を短く
 いた。彼女は免色の唇に軽くキスをし、さあ、急いで行かなくてはと言った。既に通刻しちやっ
 ているから。そしてそのまま部屋を足早に出ていった。後ろを振り返りもしなかった。その歩き
 去っていくパンプスの靴音が彼の耳にまだ鮮やかに残っている。

  それが彼女に会った最後だった。その後一切の音信は途絶えた。彼がかけた電話にも、送った
 手紙にも返事はなかった。そしてそのニケ月後に彼女は結婚式を挙げた。というか、結婚をした
 という話を、彼は共通の知人からあとになって聞かされた。彼が結婚式に招待されなかったこと
 を、そればかりか彼女が結婚したということすら知らなかったことを、その知人はずいぶん不思
 議に思ったようだった。免色と彼女は仲の良い友人だと思われていたからだ(二人はとても注意
 深く交際していたので、恋愛関係にあることは誰にも知られていなかった)。彼女の結婚相手は
 免色の知らない男だった。名前を耳にしたこともない。彼女は自分が結婚するつもりでいること
 を免色には告げなかったし、匂わせもしなかった。彼の前からただ黙って去っていったのだ。

  あのとき彼のオフィスのソファの上でもたれた激しい抱擁はたぶん、これが最後と訣めた別れ
 の愛の行為だったのだ、と免色は悟った。免瓦はそのときのことを、あとになって何度も繰り返
 し思い返した。その記憶は長い歳月が経返したあとでも、驚くほど鮮明であり、克明だった。ソ
 ファの軋みや、彼女の髪の揺れ方や、耳元にかかる彼女の熱い息をそのまま再現することができ
 た。
  それでは免色は、彼女を失ってしまったことを悔やんでいるだろうか? もちろん悔やんでは
 いない。あとになって何かを後悔するようなタイプの人ではないのだ。自分は家庭生活に適した
 人間ではない――そのことは免色にもよくわかっていた。どれほど愛する相手であれ、他人と日
 常生活を共にできるわけがない。彼は日々孤独な集中力を必要としたし、その集中力が誰かの存
 在によって乱されることが我慢できなかった。誰かと生活を共にしたら、いつかその相手のこと
 を憎むようになるかもしれない。それが親であれ、妻であれ、子供であれ。彼はそのことを何よ
 り恐れた。彼は誰かを愛することを恐れたのではない。むしろ誰かを憎むことを恐れたのだ。

  それでも彼が彼女を深く愛していたことに変わりはなかった。これまで彼女以上に愛した女性
 はいなかったし、たぶんこれから先も出てこないだろう。「私の中には今でも、彼女のためだけ
 の特別な場所があります。とても具体的な場所です。神殿と呼んでもいいかもしれません」と免
 色は言った。

  神殿? それは私にはいささか奇妙な言葉の選択のように思えた。しかしそれがたぶん免色に
 とっての正しい言葉なのだろう。
  免色はそこで話をやめた。細部までとても詳しく具体的に、彼はその個人的な出来事を私に語
 ったわけだが、そこにはセクシュアルな響きはほとんど聴き取れなかった。まるで純粋に医学的
 な報告書を、目の前で朗読されているような印象を私は持った。というか、実際にそのようなも
 のだったのだろう。

 「結婚式の七ケ月後に、彼女は東京の病院で無事に女の子を出産しました」と免色は続けた。
 「今から十三年前のことです。その出産のことも実を言えば、私はずっと後になって人から間い
 て知ったのですが」
  免色は空っぽになったコーヒーカップの内側をしばらく見下ろしていた。まるでそこに温かい
 中身がたっぷり入っていた時代を懐かしんでいるみたいに。
 「そしてその子供は、ひょっとしたら私の子供かもしれないのです」と免色は絞り出すように言
 った。そして個人的意見を求めるように私の顔を見た。

  彼が何を言わんとしているのか、それが呑み込めるまでに少し時間がかかった。

 「時期的には合っているのですね?」と私は尋ねた。
 「そうです。時期的にはぴたりと符合しています。私のオフィスで彼女と会ったその日から、九
 ケ月後にその子供が誕生しています。彼女は結婚する直前、おそらく受胎がもっとも可能な日を
 選んで私のところにやってきて、私の精子を――なんと言えばいいのだろう――意図的に収集し
 ていったのです。それが私の抱いている仮説です。私と結婚することは最初から期待していなか
 ったけれど、私の子供を産むことを彼女は決意していた。そういうことではなかったかど」 
 「でも確証はない」と私は言った。
 「ええ、もちろん確証はありません。それは今のところただの仮説に過ぎません。しかし根拠の
 ようなものはあります」
 「でもそれは彼女にとって、ずいぶん危険な試みですよ」と私は指摘した。「もし血液型が違っ
 ていれば、あとになって父親が違うとわかってしまうかもしれない。そんな危険をあえて冒すで
 しょうか?」
 「私の血液型はA型です。日本人の多くはA型だし、彼女もたしかA型です。なんらかの理由が
 あって本格的なDNAの検査をしない限り、秘密が露見する可能性はかなり低いはずです。彼女
 にはそれくらいの計算はできます」
 「しかしその一方で、その女の子の生物学的父親があなたであるかどうかということも、正式な
 DNAの検査をしないかぎり判明しない。そうですね? あるいは母親に直接尋ねてみるか」
 免色は首を振った。「母親に尋ねることはもはや不可能です。彼女は七年前に亡くなりました」
 「お気の毒です。まだお若いのに」と私は言った。

 「山の中を散歩しているときに、何匹ものスズメバチに刺されて死にました。もともとがアレル
 ギー体質で、蜂の毒素に耐えられなかったのです。病院に運ばれたときには既に息がなかった。
 誰も彼女にそんなアレルギーがあったことを知りませんでした。たぶん本人も知らなかったはず
 です。あとにはご主人と、娘が一人残されました。娘は十三歳になります」

  妹が死んだのとほぼ同じ歳だ、と私は思った。
  私は言った。「その女の子があなたの子供であるかもしれないと推測する根拠のようなものを、
 あなたはお持ちになっている。ということでしたね?」
 「彼女の死後しばらくして、私は突然、死者からの手紙を受け取ったのです」と免色は静かな声
 で言った。


  ある日彼のオフィスに、聞き覚えのない法律事務所から大型の封筒が、内容証明付きで送られ
 てきた。中にはタイプされた二通の書簡(弁護士事務所の名前入り)と、談いピンク色の封筒が
 ひとつ入っていた。法律事務所からの手紙は弁護士の署名付きのものだった。「****(かつ
 ての恋人の名前だ)様がら生前にお預かりした書簡を同封いたします。****様はもし自分か
 死亡するようなことがあれば、この書簡を貴殿に郵送するようにという指示を残しておられまし
 た。ちなみに、貴殿以外の目には絶対に触れることがないように、という注意書きも添えられて
 おりました」

  そういう趣旨の書簡だった。そして彼女の死の経緯が簡単に、ごく事務的に記されていた。免
 色はしばらく言葉を失っていたが、やがて気を取り直し、鋏を使ってピンク色の封筒の封を切っ
 た。手紙は青いインクを使った自筆で、便箋四枚に及んでいた。彼女はとても美しい字を書いた。



  免色は文面をそっくり覚え込んでしまうまで、その手紙を何度も何度も読み返した(そして彼
 は実際その文面を、私に向かって最初から最後まで淀みなく暗唱してくれたのだ)。その手紙に
 は様々な感情と示唆が光となり影となり、陰となり陽となり、複雑な隠し結となって描き込まれ
 ていた。もう誰も語すことのない古代言語を研究する言語学者のように、彼は何年もかけてその
 文面に潜むあらゆる可能性を検証した。ひとつひとつの単語や言い回しを取り出し、様々に組み
 合わせ、交錯させ、順序を入れ替えた。そしてひとつの結論に達した。彼女が結婚して七ケ月後
 に生んだ女の子はまず間違いなく、あのオフィスの革張りのソファの上で免色とのあいだに宿っ
 た子供なのだと。
                                  

 ● 今夜のアラカルト

Menu : Fried-Catfish Sandwiches with Spicy Mayonnaise

コーン・ミールの衣で鮮明な揚げたキャッシュフィシュにペッパーマヨネーズを添えたスタイリ
ッシュな肉厚
ロールで美味しいサンドイッチ。熱々で安くてジューシーなナマズのサンドだ。
今夜はこれで決まりだ。

 ● 今夜の一曲

 Backstreet Boys   Shape Of My Heart

バックストリート・ボーイズ(Backstreet Boys、BSB)は米国の5人組ポップ・アイドル。日本で
は主にビーエスビー(BSB)やバックスと呼ばれている。1995年デビュー。CD総売り上げは1億3
千万枚を超えるスーパーボーイズグループ。代表曲は「アイ・ウォント・イット・ザット・ウェ
イ」「エヴリバディ」「君が僕を愛するかぎり (As Long As You Love Me)」「シェイプ・オブ・
マイ・ハート」 など多数。映画『レオン』のエンディングで使われた曲「shape of my heart」と
して有名である。

 

 

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