極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

ハイビスカス茶はいかが?!

2017年07月31日 | 開発企画

 

 

            

                 成公七年(- 584) 呉の台頭  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                

    ※ 楚の荘王が周の王室に伝わる鼎の軽重を問うだのが宣公三年(-606)であった。南
      方の新興勢力が中原に進出しはじめたのである。やがて、楚につづいて呉・越が興り、
      新興勢力を代表することになる。以下は楚の属目であった呉が指頭のきっかけをつか
      むエピソードである。ここにも巫臣の力が働いていた。「春秋の筆法」を用うるなら
      ば「夏姫が呉を指頭させた」とい
えるであろう。十一年前の宣公十四年の出来事から
      話ははじまる。この年の秋、楚の荘王は宋を
囲んだ。

    ※ 楚軍は宋包囲戦に勝利を収めて凱旋した。論功行賞のさい、子重(公子要石のこと。
      荘王の弟)は申邑と呂邑の一部を指定して、賞田として賜りたいと荘王に願い出た。
      荘王は承知したが、巫臣がこれに異議をとなえた。
      「子重が欲しがっている土地は申邑と呂邑の存立を保⊇重要な土地です。わが国は申
      邑・呂邑から武器と兵士を訓達して北方の敵を防いでいます。予示にあの土地をあた
      えてしまえば、この申邑・呂邑は有名無実の存在と化し、北方の晋や鄭は一気に漢水
      まで攻めよせるにちがいありません」
      荘公はこの進言に従い、千重への約束を取り消した。それ以来、子宝は巫臣に怨みを
      抱くようになった。
      子重のほかに、もう一人の男が巫臣に怨みを抱いた。令尹の子反である。子反が夏姫
      を娶ろうとしたとき、巫臣がこれを止めさせたことがあった。しかも、その後、巫臣
      はまんまと夏姫を横取りして晋に亡命したのである(※「巫臣のだくらみ」)。

      さて、荘王が没し共王が位をついだ。子重と子反は好機到来とばかり、巫臣の身内を
      次々と殺した。まず、巫臣の一族の子閻、子蕩、清尹の位にあった弗忌、襄老の息子
      の黒要。そして、かれらの財産を二人で分けあった。子重は子閻の財産を自分で取り、
      子蕩の財産を沈尹と王子羆に分けあたえた。黒藻と弗忌の財産は、子反が取った。晋
      にあってこれを伝え聞いた巫臣は、子重・子反の二人に手紙を送った。
      君に仕える身でありながら、何という悪辣比倫婪貧なふるまい、しかも罪なき者まで
      巻きぞえにするとは。今に見るがよい。おまえたちは、君命をうけて奔走し、野たれ
      死にするであろう。

      巫臣は使者として呉に行かせてくれるよう封侯に願い出て、承諾を得た。呉の君主寿
      夢は、巫臣の説くところにすっかり共鳴し、巫臣は思わくどおり、封と呉の間に協力
      体制をつくることに成功した。巫臣は、率いていった三十台の兵車のうち十五台に、
      射手と御者とを添えて呉にあたえ、呉の軍隊に兵車の操縦法、戦陣の組み方を教え、
      それと同時に楚に叛くようそそのかし仁。そして息子の孤庸を呉国駐在の外交官とし
      て残した。

      こうして、それまで楚の属国であった呉が、巣、徐(ともに楚の属国)を伐ち、楚と
      戦いをまじえるまでの強国になった。
      そのために、子重は君命を受けて奔走せざるを得なくなった。たとえば馬陵の会の直
      後、呉が楚の州来まで攻め入ったとき、鄭に遠征していた子重は、君命によって呼び
      もどされた。子重と子反はこのようにして、一年の間に七度も出勤命令を受けたので
      ある。呉はそれまで楚の支配下にあった内方の蛮夷を次々とその手中に収め、一躍、
      強国の列に加わった。こうして、中国の諸国は呉の地位ぐ認め、国交を開くこととな
      った。

      〈馬陵の会〉 この年の秋、楚の公子摺斉(子重のこと)が軍を率いて鄭を伐った。魯
      の或公
は晋侯・宋公・衛侯・費消・燕子・郷・杞伯と会して郎を救い、八月戊辰、衛
       の馬陵において
盟約をした。

       ★それから七十年後の昭公ニ八年(-514)、晋の名家羊舌氏が滅んだ。当主楊食我は
       夏姫
の孫に当たる。すなわち夏姫の禍は孫の代にまで及んだのである。 

      ※ ここまでは君主論として展開される。人民の安寧は、状況次第で奴隷にも、(兵)
        の命は、命は
重んじて惜しむべき場合と、潔く捨てるべき場合とがある。その判
        断は義にかなうか否か
によるべきである(司馬遷)として権力者の都合次第。さ
        
て、「死は或いは泰山より重く或いは鴻毛より軽し」の「泰山」を「地球」と置
        き換え値踏みすると、世界総GDP金額として、一人の命は約八千二百兆円以上とな
        るが、為政者はこの重みをどう考えるのだろうかと連想してみる。

 



【ZW倶楽部とRE100倶楽部の提携 Ⅱ】

✪  エネルギータイリング事業篇



❏ 最新リチウムイオンキャパシタ製造技術 

ワイヤレス・ヘルスケアの新しい市場が立ち上がりつつあり、ウエアラブル・デバイスを用いてヘ
ルスケア情報を取得し、その情報をもとにクラウドサーバにデータを蓄積するサービスが今後増え
てくると予想される。電子回路部品において、近年では、小型パッケージング化が進み、集積パ
ケージに搭載する電源回路用のチップコンデンサなどの周辺部品の点数が多くなってきている。

のような小型機器搭載部品の微細化や高集積化は、今後の市場の拡大に伴って、技術開発が継続

て行なわれる。一方、ウエアラブル機器やスマートフォンなどに代表するように小型電子機器に

用するバッテリーは大型化してきている。電子機器の小型化が進む一方で消費電力は減少するが

データ処理量の増大から、単位面積あたりの消費電力の減少は、デバイス自身の低消費電力化が
まないと期待できない。したがって、高度な情報処理が進む昨今では小型電子機器の構成モジュ

ルの中でのバッテリーの占有する容積比率は高くなる
と予想される。❶大容量バッテリー化では

チウムイオンなどの二次電池が有効である。❷一方、蓄電コンデンサであるキャパシタ方式は、

られた電気をそのまま電気で蓄積するため、電気-液を利用した湿式の二次電池よりもロスが少

く、蓄電効率が良い。現在では、リチウムイオンキャパシタに代表されるように、大容量二次電

の代替としての置き換えも進められている。




ところで、キャパシタ(コンデンサ)は、蓄電池として、長い間、その容量が小さいために、蓄電
用途として使用されてこなかったが、近年、一部の低消費デバイスをより効率よく蓄電した電力に
よって駆動させるべく、直接的に電荷蓄積が行なえるコンデンサ蓄電であるキャパシタを電源に用
いることが検討されている。例えば、基板に複数のビアホールを設け、これらのビアホール(穿孔
の内部に、金属-絶縁膜-金属(MIM)からなるキャパシタ構造を形成して、キャパシタとするこ
とが考えられる。この場合、キャパシタ容量を増加させるには、ビアホールの高密度化を図り、ビ
アホールの深さを深く高アスペクト比が前提となり、電源に用いることができる程度にキャパシタ
容量を増加させるには、一般的に用いられるドライエッチングによる製造限界に近いサイズやピッ
チのビアホールを形成することになり、これ以上のサイズやピッチのビアホールの形成は技術的に
困難である。さらに、このようなビアホールの内部にMIMからなるキャパシタ構造を形成するのは
さらに困難である。そこで、下図のような、ビアホールを用いたキャパシタを容易な製造方法が提
案されている。

❏ 特開2017-130583  蓄電装置及びその製造方法、センサ装置、情報処理システム


【要約】

蓄電装置を、基板8の一方の表面側に設けられた第1表面電極1と、基板の他方の表面側に設けら
れた第2表面電極2と、基板の一方の表面側から設けられた第1ビアホール3と、基板の他方の表
面側から設けられた第2ビアホール4と、第1ビアホールの内部に設けられ、第1表面電極から突
出する第1金属ビア電極5と、第1ビアホールの内部に設けられ、第1金属ビア電極の表面を覆う
絶縁膜6と、第2ビアホールの内部に設けられ、第2表面電極から突出する第2金属ビア電極7と
を備え、第1金属ビア電極と第2金属ビア電極の間に絶縁膜の少なくとも一部分が挟まれてキャパ
シタ9を構成しているものとする。


【図1】本実施形態にかかる蓄電装置に備えられるキャパシタの構成を示す模式的断面図
【図2】(A)、(B)は、本実施形態にかかる蓄電装置に備えられるキャパシタの構成の一例を
示す模式図であって、(A)は基板の面内方向に沿う断面図であり、(B)は基板の厚さ方向に沿
う断面図であり、(C)、(D)は、本実施形態にかかる蓄電装置に備えられるキャパシタの構成
の一例を示す模式図であって、(C)は基板の面内方向に沿う断面図であり、(D)は基板の厚さ
方向に沿う断面図であり、(E)、(F)は、本実施形態にかかる蓄電装置に備えられるキャパシ
タの構成の一例を示す模式図であって、(E)は基板の面内方向に沿う断面図であり、(F)は基
板の厚さ方向に沿う断面図
【図3】本実施形態にかかる蓄電装置に備えられるキャパシタの構成の一例を示す模式的断面図
【図4】(A)~(D)は、本実施形態にかかる蓄電装置に備えられるキャパシタの構成の一例を
示す模式的断面図
【図10】従来のビアホールを用いたキャパシタの構成を示す模式的断面図である。

Wikipedia


【図7】(A)~(F)は、本実施形態にかかるキャパシタを備える蓄電装置の製造方法を説明す
るための模式的断面図
【図8】本実施形態にかかるセンサ装置の構成を示す模式的斜視図
【図9】本実施形態にかかる情報処理システムの構成の一例を示す模式図
【図10】従来のビアホールを用いたキャパシタの構成を示す模式的断面図


【符号の説明】

1  第1表面電極  2  第2表面電極  3  第1ビアホール  4  第2ビアホール  5  第1金属
ビア電極  6  絶縁膜  7  第2金属ビア電極  8  基板(シリコン基板)  9 キャパシタ  10 
銀粒子  11  センサ装置  12  センサ  13  CPU  14  蓄電ユニット  15  メモリを
含むコントロール通信ユニット  16  センサネットワーク  17  フィールドサーバ  18  ポ
スト集計サーバ  19  クラウドサーバ

【概要】

【特許請求の範囲】 

  1. 基板の一方の表面側に設けられた第1表面電極と、
    前記基板の他方の表面側に設けられた第2表面電極と、
    前記基板の一方の表面側から設けられた第1ビアホールと、
    前記基板の他方の表面側から設けられた第2ビアホールと、
    前記第1ビアホールの内部に設けられ、前記第1表面電極から突出する第1金属ビア電極
    と、前記第1ビアホールの内部に設けられ、前記第1金属ビア電極の表面を覆う絶縁膜と、
    前記第2ビアホールの内部に設けられ、前記第2表面電極から突出する第2金属ビア電極と
    を備え、
    前記第1金属ビア電極と前記第2金属ビア電極の間に前記絶縁膜の少なくとも一部分が挟ま
    れてキャパシタを構成していることを特徴とする蓄電装置。
  2. 前記第1金属ビア電極の中心位置と前記第2金属ビア電極の中心位置がずれていることを特
    徴とする、請求項1に記載の蓄電装置。
  3. 前記第1金属ビア電極の中心位置と前記第2金属ビア電極の中心位置が一致していることを
    特徴とする、請求項1に記載の蓄電装置。
  4. 前記第1金属ビア電極の径と前記第2金属ビア電極の径が異なることを特徴とする、請求項
    1~3のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  5. 複数の前記第1金属ビア電極と、
    複数の前記第2金属ビア電極とを備え、
    前記複数の第1金属ビア電極のピッチと前記複数の第2金属ビア電極のピッチが異なることを
    特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  6. 複数の前記第1金属ビア電極と、
    複数の前記第2金属ビア電極とを備え、
    前記複数の第1金属ビア電極のピッチと前記複数の第2金属ビア電極のピッチが異なること
    を特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電装置。
  7. 前記複数の第1金属ビア電極のピッチが異なり、
    前記複数の第2金属ビア電極のピッチが異なることを特徴とする、請求項6に記載の蓄電装
    置。
  8. センサと、CPUと、蓄電ユニットと、メモリを含むコントロール通信ユニットとを備え、
    前記蓄電ユニットは、請求項1~7のいずれか1項に記載の蓄電装置によって構成されてい
    ることを特徴とするセンサ装置。
  9. 請求項8に記載のセンサ装置と、前記センサ装置にネットワークを介して接続されたサーバ
    とを備えることを特徴とする情報処理システム。
  10. 基板の一方の表面側からエッチングを行なって第1ビアホールを形成する工程と前記第1ビ
    アホールに絶縁膜を形成する工程と 前記基板の他方の表面側からエッチングを行なって第2
    ビアホールを形成する工程と、前記基板の一方の表面側に第1表面電極を形成するとともに
    前記第1ビアホールの内部の前記絶縁膜上に前記第1表面電極から突出する第1金属ビア電
    極を形成する工程と  前記第1金属ビア電極との間に前記絶縁膜の少なくとも一部が挟まれ
    てキャパシタが構成されるように、前記基板の他方の表面側に第2表面電極を形成するとと
    もに前記第2ビアホールの内部に前記第2表面電極から突出する第2金属ビア電極を形成す
    る工程とを含むことを特徴とする蓄電装置の製造方法
  11. 前記第1ビアホールを形成する工程において、金属を利用した異方性エッチングを行なって
    前記第1ビアホールを形成し、
    前記第2ビアホールを形成する工程において、前記絶縁膜とのエッチング選択比を利用して
    金属を利用した異方性エッチングを行なって、前記第2ビアホールを形成することを特徴と
    する、請求項10に記載の蓄電装置の製造方法

蓄電装置は、ビアホールを用いたキャパシタであって、MIMキャパシタ構造を有するキャパシタを
備え、例えば、センサデバイス、センサモジュール、電源用デカップリング容量、電源用キャパシ
タなどに用いられる。つまり、小型の電子機器への電源供給源としてのビアを用いた小型のキャパ
シタである。なお、異種混載デバイス用大規模キャパシタともいう。図1に示すように、第1表面
電極1と、第2表面電極2と、第1ビアホール3と、第2ビアホール4と、第1金属ビア電極5と
絶縁膜6と、第2金属ビア電極7とを備える。

ここで、第1表面電極1は、基板8の一方の表面側に設けられている。ここでは、基板8は、シリ
コン基板である。この場合、半導体チップと同様のSiプロセスを用いてビアホールやビアを形成
することができる。例えば、半導体回路上に高密度にキャパシタを形成することも可能である。な
お、基板8は、シリコン基板に限られるものではなく、例えば、GaAs、InPなどの化合物半
導体からなる基板、ガラス基板、セラミック基板、樹脂基板などであっても良い。なお、基板の一
方の表面を、単に表面、又は、上面ともいう。

第2表面電極2は、基板8の他方の表面側に設けられている。なお、基板8の他方の表面を、裏面
または、
下面ともいう。 第1ビアホール3は、基板8の一方の表面側から設けられている。つまり
第1ビアホール3
は、基板8の一方の表面側から基板8の内部へ向けて設けられている。なお、第
1ビアホール3は、基板8
の表面側から延びているため、表面側ビアホールともいう。

第2ビアホール4は、基板8の他方の表面側から設けられている。つまり、第2ビアホール4は、
基板8の他
方の表面側(裏面側)から基板8の内部へ向けて設けられている。なお、第2ビアホー
ル4は、基板8の裏面
側から延びているため、裏面側ビアホールともいう。第1金属ビア電極5は
第1ビアホール3の内部に設けられ、第1表面電極1から突出している。つまり、第1金属ビア電
極5は、基板8の表面側から、即ち、第1表面電極1の基板8側の表面から第1ビアホール3の内
部へ向けて突出している。なお、第1金属ビア電極5は、基板8の表面側から延びているため、表
面側金属ビア電極又は表面ビアともいう。


絶縁膜6は、第1ビアホール3の内部に設けられ、第1金属ビア電極5の表面を覆っている。つま
り、絶縁膜6は、第1ビアホール3の側面及び底面を覆うように設けられている。また、この絶縁
膜6上に第1金属ビア電極5が形成されているため、第1金属ビア電極5の側面及び底面を絶縁膜
6が覆っていることになる。この絶縁膜6は、第1金属ビア電極5の側面及び底面(壁面)を覆う
ライナー絶縁膜(壁面絶縁膜)である。

第2金属ビア電極7は、第2ビアホール4の内部に設けられ、第2表面電極2から突出している。
つまり、第2金属ビア電極7は、基板8の裏面側から、即ち、第2表面電極2の基板8側の表面か
ら第2ビアホール4の内部へ向けて突出している。なお、第2金属ビア電極7は、基板8の裏面側
から延びているため、裏面側金属ビア電極又は裏面ビアともいう。そして、第1金属ビア電極5と
第2金属ビア電極7の間に絶縁膜6の少なくとも一部分が挟まれてキャパシタ9を構成している。
つまり、第1金属ビア電極5、絶縁膜6、第2金属ビア電極7によって構成されるMIMキャパシ
タ構造を有するキャパシタ9を備える。このキャパシタ9は、基板8の両側から形成された第1金
属ビア電極5と第2金属ビア電極7との間の絶縁膜6に電荷を蓄積する構造である。また、後述す
るように、絶縁膜6を挟んだキャパシタ構造をセルフアラインで形成することもでき、また、ビア
の微細化と高密度化によって、単位面積あたりの電荷容量を高くすることが可能である。

この場合、第1ビアホール3と第2ビアホール4は、少なくとも一部分が重なり合うように、基板
8の反対側から互いに対向するように設けられることになる。つまり、第1金属ビア電極5と第2
金属ビア電極7は、少なくとも一部分が重なり合うように、基板8の反対側から互いに対向するよ
うに設けられることになる。なお、絶縁膜6の少なくとも一部分介在して一体化された第1金属ビ
ア電極5と第2金属ビア電極7は、基板8を貫通しているため、これを貫通ビア電極ともいう。こ
こでは、シリコン基板8を用いているため、シリコン貫通ビア(TSV)電極ともいう。このため
本実施形態のキャパシタ構造はTSVを利用したキャパシタ構造である(以下、割愛、上図、1~
4、10をダブクリ参照)。



● マダムスカタン、ホット・ハイビスカス・ティはいかが?!
 

ずいぶん前にストックしておいったハイビスカズ茶を取り出しホット・ハイビスカス茶をつくって
飲むことに。ところで、ハワイ諸島やマスカレン諸島原産、アオイ科フヨウ属の常緑中低木である
ハイビスカスは、見た目にも美しい花。よく海外リゾートのイメージ写真として使われることも多
いので、日本人でも馴染みがあるという人も多いといわれるが、わたしの周りにはまずいない(緑
茶やほうじ茶で充分というわけだ)。
ハイビスカスティーはビタミンを豊富に含み、クレオパトラ
が美を保つために愛飲されていたといわれているが、クエン酸がたっぷり含まれているので酸味が
少しきつい(それでも夏の熱中症対策には充分だろう)。そこで、シナモンやライム、レモン、ミ
ント、レモングラスなどを入れて砂糖を多めに入れ、ジャマイカ風などにアレンジし、ホットや冷
やしてで頂くのがお勧め。
ハイビスカス自体は沢山の種類があるが、ハイビスカスティーにするの
は通常「ローゼル」という種類。また、かき氷風のグラニーダ(グラニテ)やグラッタケッカ――
シチリアでは、昔からレモン、マンダリンオレンジ、ジャスミン、コーヒー、アーモンド、ミント
イチゴ、クワの実などのグラニータの人気が高い。好まれる氷の粒の大きさには地方によって差
異がある。グラニータにはブリオッシュを添えて食べる習慣があり、横半分に切ったブリオッシュ
にはさんで食べたり、夏期はグラニータとブリオッシュ(菓子パン)を朝食とすることもある――
にして頂くのもよいだろう(経験なし)。
 



ハイビスカスティーには、主にビタミンC、クエン酸、リンゴ酸、カリウム、アントシアニン、ポリ
フェノール、アミノ酸と言った成分が含まれています。特にその特徴とも言える酸味は、クエン酸
やリンゴ酸などが豊富に含まれているので、ビタミンC活性酸素から細胞を守り肌の老化を防ぐ効
果が期待され、シミ・そばかすの原因となるメラニン色素を抑え、分解。これに加えて、クエン酸
やリンゴ酸が新陳代謝を高め相乗効果が生まれる。カリウムには、利尿作用があり、むくみや二日
酔いの改善に、加えて、クエン酸が血流を改善する効能があり、血液中の余分な水分や老廃物の排
出が促され、合わせて体がデトックスが期待できる。また、アントシアニンと呼ばれるポリフェノ
ールの1種によって、眼精疲労や花粉症の症状緩和の効能もある。服用にはこれといった副作用は
ないが、
頭痛や吐き気などの症状が出たときには、すぐに飲むのをやめよう。

尚、ハイビスカスティーを作るときに使うのは、花が咲いた後に大きくなるローゼルの萼。中に入っている萼
を収穫して、加工する。 

      1. 茎の方を包丁で切り落とす
      2. 実から萼だけを手で取り外す
      3. 萼をキレイに水洗いする
      4. 軽く水気を拭き取り、ザルにあげる
      5. 天日干しにして2~3日ほど乾燥させる
      6. 乾燥剤と一緒に密閉容器に入れて保存する

 



  

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平尾昌晃と摩周湖

2017年07月29日 | 時事書評

 

 

            

              宣公11年(- 598) 楚の荘王、夏徴舒を討つ  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                
      
    ※ 巫臣のたくらみ:成公2年(-589)夏姫は男たちを翻弄しただけではない。国政、
      また国際政冶にも、その影響は及ぶのだ。申公巫臣(屈巫)という機略縦横の男
            が、その媒介となる。話はまず、九年前の宣公11年、すなわち前回の事件とが
      らんではじまる。

    ※ そこで荘王は、夏姫を連尹(官名)の襄老に妻としてあたえた。だが、間もなく、
      楚は審と邲で戦い`襄老は戦死した。そして、襄老の遺体は、晋の軍勢に奪い去
      られたのである。夫の死後、夏姫は継子の黒要と通じた。
      巫臣は人を介して夏姫に、「鄭(夏姫の生国)に帰りなさい。正式の手続きをふ
      んで、妻として迎えに行きます」と伝える一方、鄭に手をまわし、夏姫のもとへ、
      「襄老の遺体がとどくから、まちがいなく引き取りに来るように」
      と申し入れさせた。
      夏姫がこの知らせを荘王に告げると、荘王は巫臣の意見を求めた。すると、巫臣
      は何食わぬ顔でこう言った。
      「たしかにありそうなことです。
      と申しますのは、襄老を討ちとった荀首、この男は晋の或公の寵臣であり、中行
      伯(晋の大夫萄林父、桓子)の末弟に当たります。最近、中軍の副将となりまし
      た。また、かれは鄭の皇戌とも昵懇の間柄です。

      ところが、この荀首の最愛の息予知罃が、いまわが国の捕虜となっているのです。
      そこで、荀首はこういった自分の地位を利用して、鄭に仲介の労をとらせ、わが
      国と取り引きしようというのではいでしょうか。襄老の遺体ならびに穀臣さま(
      楚の公子、晋の捕挑となっていた)とをこちらに返し、それとひきかえにわが国
      に対し息子知罃の返還を求めようとする考えかと存じます。鄭にしてみれば、邨
      の戦いを見て晋に恐れをなし、何とかとり入ろうとしているところです。進んでこ
      の役を引き受けたのにちがいありません」

      そこで、荘王は夏姫を鄭に帰らせた。夏姫は見送りの人々に、「夫の遺骸を受け
      取れなかったら、絶対に帰りません」
      と言って出発した。
      こうして準備万端をととのえると、巫臣は夏姫を妻として迎えたい旨、鄭に申し
      入れ、襄公(夏姫の異母兄にあたる)の承諾を得た。 
      やがて、楚では荘王が没し、跡を襲いで共王が即位した。そしてその年の冬、共
      王は魯を討とうとした。陽橋の役がこれである。戦いを始める前、共王は巫臣を
      斉に使者としておくることにした。出陣の期日を通告することもその任務に含ま
      れていた。巫臣は、家財一切をとりまとめ、引っ越し仕度で楚を立ち去った。
      おりから、申叙時の子、申叙跪は、父の供をして郢(楚の都)に赴く途中、巫臣
      の一行と出会った。

      申叙跪は巫臣をからかってこう言った。
      「戦もさることながら、どなたかと待ち合わせが心がかりのご様子ですな。さて
      は、どこかの奥さまなと駈け落ちですか」
      巫臣は郎に到着すると、楚への贈物を副使に持たせて楚に帰した。自分は夏姫を
      つれて斉に出奔するつもりだったのである。だが、ちょうどそのころ、斉敗戦の
      報が伝わった。それを聞くと巫臣は、敗戦国などまっぴらと、行く先を晋に変更
      し、晋の大夫郤至に頼み刑邑の代官の位を世話してもらった。

      巫臣が晋に行くと問いて、楚の子反は、賄賂を十分にきかせて巫臣の仕官を妨げ
      るよう、共王に進言した。
      しかし、共王はさすがに賢明であった。
      「よしたがいい。あの男は自分のことでは過ちを犯したが、わが父君には立註記
      忠義を果たしたといえる。忠義あってこそ国家が存立し得るのだ。かれのつくし
      た忠義は、過ちを袖って余りある。
      それに晋としても、自国の利益になると見れば、どんなに賄賂を使ったところで
      こちらの言いなりにはなるまい。また、利益なしと見れば、だまっていても登用
      はしないだろう。どちらにしても、わざわざこちらから手をまわすことはない」
 

                                                            了

      

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』       

    第44章 人がその人であることの特徴みたいなもの

  まりえはその日、まったく口をきかなかった。いつもの簡素な食堂椅子に座って、モデルの彼
 を務めながら、遠くの風景でも眺めるみたいに、ただまっすぐ私を見ていた。食堂椅子はスツー
 ルよりも低かったので、彼女は私を少し見上げるような格好になった。私もとくに彼女に話しか
 けなかった。何を話せばいいのか思いつけなかったし、とくに何かを話す必要も感じなかったか
 らだ。だから私は無言のまま、キャンバスの上に絵筆を走らせていた。

  私はもちろん秋川まりえの姿を描こうとしていたわけだが、同時にそこには私の死んだ妹(コ
 )と、かつての妻(ユズ)の姿が混じり込んでいるようだった。意図してそうしたのではない。
 ただ自然に混じり込んでしまうのだ。私は人生の途上で自分か失ってしまった大切な女性たちの
 像を、秋川まりえという少女の内側に求めていたのかもしれない。それが健全なおこないなのか
 どうか、自分ではわからない。しかし私には今のところ、そのような絵の描き方しかできなかっ
 た。いや、今のところというのでもない。考えてみれば私はそもそもの最初から、多かれ少なか
 れそういう絵の描き方をしてきたような気がする。現実に求めて得られないものを絵の中に現出
 させること。他人には見えないように、私白身の秘密の信号をその奥にこっそり描き込むこと。

 耳の解放について

  いずれにせよ私はキャンバスに向かって、ほとんど進うことなく秋川まりえの肖像を描き進め
 ていった。結は着実に一歩一歩完成へと向かっていた。川が地形のためにときおり回り道をし、
 またところどころで停滞し詫みながらも、結局は水かさを増しつつ河口へ、そして海へと着実に
 流れていくように。私はその動きを、まるで血液の流れのようにはっきり体内に感じとることが
 できた。

 「あとでここに遊びに来てもかまわない」とまりえは最後に近くなって、小さな声で私にこっそ
 り言った。語尾は断定的に響いたが、それは明らかに質問だった。あとでここに遊びに来てもか
 まわないかと、彼女は私に尋ねているのだ。
 「遊びに来るって、あの秘密の通路を通って?」
 「そう」
 「かまわないけど、何時頃に?」
 「何時かはまだわからない」
 「暗くなってからはあまり来ない方がいいと思うな。夜の山の中は何かあるかわからないから」
 と私は言った。
  このあたりの問の中には、いろんなわけのわからないものが潜んでいる。騎士団長や「顔な
 が」や「白いスバル・フオレスターの男」や雨田典彦の生き霊なんかが。そしておそらくは私白
 身の性的な分身である夢魔さえ。この私だって場合によっては、夜の問の中の不吉な何かになり
 得るのだ。そう考えると微かな寒気を感じずにはいられなかった。

 「できるだけ明るいうちに来る」とまりえは言った。「先生に話したいことがあるの。二人きり
 で」
 「いいよ。持っている」

  やがて正午のチャイムが鳴り、私は緒を描く作業をそこで切り上げた。
  秋川笙子はいつもの上うにソファに腰掛けて、熱心に本を読んでいた。分厚い文庫本はそろそ
 ろ終わりに近づいている上うだった。彼女は眼鏡をはずし、業をはさんで本を閉じ、顔を上げて
 私を見た。

 「作業は進行しています。あと一度か二度まりえさんにここに来ていただければ、緒は完成しそ
 うです」と私は彼女に言った。「時間をとらせてしまって、申し訳なく思っています」
  秋川笙子は微笑んだ。とても感じの良い微笑みだった。「いいえ、そんなことは気になさらな
 いでください。まりちゃんは緒のモデルになることを楽しんでいるみたいですし、私も絵が完成
 するのを楽しみにしています。それにこのソファは本を読むにはとても良いんです。だからこう
 して持っていてもちっとも退屈しません。私にとっても、家からしばらく外に出られるのは気分
 転換になっていいんです」

  私は先週の日曜日に、彼女がまりえと一緒に免色の家を訪れたときの印象を尋ねたかった。そ

 の立派な屋敷を目にしてどんな感想を抱いたか。免色という人間についてどの上うな印象を抱い
 たか。しかし彼女の方からその話題を持ち出さない以上、私がその上うな質問をするのは礼儀に
 反したことのようにも思えた。

  秋川笙子はその日もやはりずいぶん気を配った服装をしていた。一般の人が日曜日の朝に近所
 の家を訪問するような格好ではまったくない。皺ひとつないキャメルのスカート、大きなリボン
 のついた上品な白い絹のブラウス、淡い青灰色のジャケットの襟には、宝石をあしらった金のピ
 ンがとめられていた。その宝石は本物のダイアモンドであるように私には見えた。トヨタ・プリ
 ウスのハンドルを握るにはいささかファッショナブルに過ぎるような気もする。しかしもちろん
 それは余計なお世話だった。そしてトヨタの広報担当者は私とはまったく違う意見を持つかもし
 れない。

  秋川まりえはいつもどおりの服装だった。お馴染みのスタジアム・ジャンパーに、穴のあいた
 ブルージーンズ、そしていつも履いている靴より更に汚れた白いスニーカー(腫の部分がほとん
 ど潰れている)。
  帰り際に玄関のところで、まりえは叔母にわからないように私にこっそり目配せをした。それ
 は「またあとでね」という二人だけのあいだの秘密のメッセージだった。私は小さく微笑んでそ
 れにこたえた。 

  秋川まりえと秋川笙子を見送ったあと、私は居間に戻ってソファの上でしばらく昼寝をした。
 食欲はなかったので、昼食は抜かした。三十分ほどの深く簡潔な眠りで、夢は見なかった。それ
 は私にとってはありかたいことだった。夢の中で自分が何をするかわからないというのは、少な
 からず恐ろしいことだったし、夢の中で自分が何になるかわからないというのは、もっと恐ろし
 いことだった。  

  私は日曜日の午後を、その日の天気と同じようなくすんだ、とりとめのない気持ちで送った。
 薄曇りの静かな一日で、風もなかった。少し本を読み、少し音楽を聴き、少し料理をしたが、何
 をしてもうまく気持ちをひとつにまとめることができなかった。すべてが中途半端なまま終わっ
 てしまいそうな午後だった。しかたないので風呂を彿かし、長いおいた場の中につかっていた。
 そしてドストエフスキーの『悪霊』の登場人物の長い名前を一人ひとり思い出していった。キリ
 ーロフを含めて七人まで思い出すことができた。なぜかはわからないが高校生の頃から、ロシア
 の古い長編小説の、登場人物の名前を暗記するのが得意だった。そろそろもう一度『悪霊』を読
 み返してもいいかもしれない。私は自由で、時間を持てあましていて、他にとくにするべきこと
 もないのだから。ロシアの古い長編小説を読かには絶好の環境だ。

  それからまたユズのことを考えた。妊娠七ケ月といえば、お腹の膨らみが少しは目につくよう
 になっている時期だろう。私は彼女のそんな姿を想像してみた。ユズは今、何をしているのだろ
 う? どんなことを考えているのだろう? 彼女は幸福なのだろうか? もちろんそんなことは
 私にはわかりっこない。

  雨田政彦の言うとおりかもしれない。私はたぶん十九世紀のロシアの知識人みたいに、自分が
 自由な人間であることを証明するために、何か馬鹿げたことをやってみるべきなのかもしれない。
 でもたとえばどんなことを? たとえば……暗い深い穴の底に一時間閉じ龍もるとか。そこで私
 ははっと思い当たった。それを実際にやっているのは、まさに免色ではないか。彼がおこなって
 いる一連の行為は、あるいは馬鹿げたことではないかもしれない。しかしどう見ても、ごく控え
 めに言っても、いささか常軌を逸していた。

 
  秋川まりえがうちにやってきたのは、午後四時過ぎだった。玄関のベルが鳴り、ドアを開ける

 とそこにまりえが立っていた。ドアの隙間に身体を滑り込ませるようにして、彼女は常連くする
 りと中に入ってきた。まるで雲の切れ端みたいに。そして用心深くあたりを見回した。

 「誰もいない」

 「誰もいないよ」と私は言った。
 「きのうは誰かがきていた」
  それは質問だった。「ああ、友だちが泊まりにきていたんだ」と私は言った。
 「男の友だち」
 「そうだよ。男の友だちだ。でも誰かが来たことをどうして知っているの?」
 「見たことのない黒い車が家の前にとまっていたから。四角い箱みたいなかたちをした古い車」
  雨田が「スウェーデンの弁当箱」と呼んでいる古いボルボのワゴン。トナカイの死体を運ぶの
 には便利そうな車だ。
 「君はきのうちここに遊びに来たんだ」

  まりえは黙って肯いた。あるいは彼女は暇があれば、「秘密の通路」を抜けて、この家の様子
 を見に来ているのかもしれない。というか、私がここに来る前からずっと、このあたりは彼女の
 遊び場だったのだ。猟場と言ってもいいかもしれない。そこにたまたま私が越してきたというだ
 けのことなのだ。とすれば、彼女はここに往んでいた雨田典彦と接触したこともあったのだろう
 か? いつかそのことを訊いてみなくてはならない。

  私はまりえを居間に連れて行った。そして彼女はソファに、私は安楽椅子に腰を下ろした。何
 かを飲むかと私は尋ね、いらないと彼女は言った。
 「大学時代の友だちが泊まりに来ていたんだ」と私は言った。
 「仲の良い友だち?」
 「そう思う」と私は言った。「ぼくにとっては、友だちと呼べるただ一人の相手かもしれない」
  彼の紹介した同僚が私の妻と寝ていても、彼がその事実を知りながら私に教えずにいたとして
 も、それが原因となってつい最近離婚が正式に成立していても、そのことが二人の問係にとくに
 影を落とさない程度には仲が良い。友だちと呼んでも、真実を侮辱することにはならないだろう。


 「君には仲の良い友だちはいる?」と私は尋ねた。
  まりえはその質問には答えなかった。眉ひとつ動かさず、何も聞こえなかったような顔をして
 いた。たぶんそんな質問はするべきではなかったのだろう。
 「メンシキさんは、先生にとって仲の良い友だちではない」とまりえは私に言った。疑問符こそ
 ついていなかったが、それは純粋な質問だった。免色は私にとっての良き友人ではないというこ
 となのか? 彼女はそのように尋ねているのだ。
  私は言った。「この前も言ったように、ぼくは免色さんという人のことを、友だちと呼べるほ
 どはよく知らないんだ。免色さんと話をするようになったのはここに越して来てからだし、ぼく
 がここに住むようになってまだ半年にしかならない。人と人とが良い友だちになるには、それな
 りに時間がかかる。もちろん免色さんはなかなか興味深い人だとは思うけど」
 「興味深い」

 「どういえばいいんだろう。パーソナリティーが普通の人とは少し違っているような気がする。
 少しというか、かなり違っているかもしれない。そんなに簡単に理解できる人じゃない」
 「パーソナリティー」
 「つまり人がその人であることの特徴みたいなものだよ」

  まりえはしばらくじっと私の目を見ていた。これから口にするべき言葉を慎重に選んでいるみ

 たいに。
 「あの人の家のテラスからは、わたしの往んでいるうちがまっ正面に見える」
  私は一瞬間を置いてから返事をした。「そうだね。たしかに地形的にちょうど真向かいにあた
 るから。でも彼の家からは、ぼくの往んでいるこのうちだって同じくらいよく見えるよ。君の家
 だけじゃなく」
 「でもあの人はわたしのうちを見ていると思う」
 「見ているというと?」
 「人目につかないようにカバーを被せてあったけど、あのうちのテラスに大きな双眼鏡のような
 ものが置いてあった。三脚みたいなのもついていた。それをつかうと、きっとうちの様子をくわ
 しくのぞくことができる」
  この少女はそれを見つけたのだ、と私は思った。注意深く、観察力が鋭い。大事なことは見逃
 さない。
 「つまり、免色さんがその双眼鏡を使って、君のうちを観察しているということ?」
 まりえは簡潔に肯いた。

  私は大きく息を吸い込み、それを吐いた。そして言った。「でもそれは君の推測に過ぎないん
 じやないかな。高性能の双眼鏡がテラスに置いてあるというだけで、君の家を彼がのぞいている
 ということにはならないだろう。あるいは星か月を見ているのかもしれない」
  まりえの視線は揺らがなかった。彼女は言った。「わたしにはいつも自分か見られているとい
 うカンショクがあった。しばらく前から。でもどこから誰が見ているのか、そこまではわからな
 かった。でも今ではわかる。見ているのはきっとあの人たった」
 私はもう一度ゆっくり呼吸をした。まりえが推測していることは正しい。秋川まりえの家を日々、
 高性能の軍事用双眼鏡で観察していたのは間違いなく免色だ。しかし私の知る限り――免
色を弁
 護するわけではないけれど――
彼は悪しき意図を持って覗き見をしていたわけではない。

 彼はその少女をただ眺めていたかったのだ。自分の実の娘であるかもしれない、その美しい十三
 歳の少女の姿を。そのために、おそらくはただそのためだけに、彼は谷をはさんだ真向かいにあ
 るその大きな屋敷を手に入れたのだ。かなり強引な手を用いて、前に往んでいた家族を追い出す
 ようにして。しかしそんな事情を、私がここでまりえに打ち明けるわけにはいかない。

 「もし君の言うとおりだとして」と私は言った。「彼はいったい何を目的として、君の家をそん

 なに熱心に観察しているのだろう?」
 「わからない。ひょっとして、うちの叔母さんに関心があったのかもしれない」
 「君の叔母さんに関心があった?」

  彼女は小さく肩をすくめた。

  自分自身が覗き見の対象になっているかもしれないという疑いを、まりえはまったく抱いてい
 ないようだ。白分か男たちの性的な興味の対象になり得るという発想が、その少女にはまだない
 のかもしれない。少し不思議な気がしたが、私は彼女のその推測をあえて否定しなかった。彼女
 がそう思っているのだとしたら、そのままにしておいた方がいいかもしれない。
 「メンシキさんは、なにかをかくしていると思う」とまりえは言った。
 「たとえばどんなものを?」

  彼女はそれには答えなかった。そのかわりに大事な情報を差し出すように言った。

 「うちの叔母さんは今週になって、もう二度メンシキさんとデートをした

 「デートをした?」
 「彼女はメンシキさんの家をたずねたと思う」
 「一人で彼の家に行ったということ?」
 「昼過ぎに車に乗って一人で外出して、夕方おそくまで戻ってこなかった」
 「でも彼女が免色さんのうちに行っていたという確信はない」
  まりえは言った。「でもわたしにはわかる」
 「どんな風に?」
 「彼女はふだんそういう外出はしない」とまりえは言った。「もちろん図書館のボランティアに
 出かけたり、ちょっとした買いものに行くくらいのことはあるけど、そういうときにていねいに
 
シャワーを浴びたり、爪を整えたり、香水をつけたり、いちばんきれいな下着をえらんで身につ
 けていったりすることはない」
 「君はいろんなことをとてもよく観察しているんだな」と私は感心して言った。「でも君の叔母
 さんが会っていたのは本当に免色さんだったんだろうか? 相手は免色さん以外の誰かだったと
 いう可能性はないのかな?」

  まりえは目を細めて私を見た。それから小さく首を振った。私はそこまで馬鹿じゃない、とい
 う風に。いろんな状況からして、たぶんその相手は免色以外には考えられないのだ。そして秋川
 まりえはもちろん馬鹿ではない。

 「君の叔母さんは免色さんの家に行って、彼と二人きりで時間を過ごしている」

  まりえは肯いた。

 「そして二人は……どう言えば
  いいのか、とても親密な関係になっている」
 まりえはもうコ茂樹いた。そしてほんの僅かに顔を赤くした。「そう、とてもシンミツな関係
 なっているのだと思う」
 「でも君は昼間は学校に行ってたんだろう。家にはいなかった。なのにどうしてそんなことがわ
 かるんだ?」
 「わたしにはわかる。女のひとの顔つきを見ていれば、それくらいのことはわかる」

  でも私にはわからなかった、と私は思った。ユズが私と一緒に暮らしながら他の男と肉体関係
 を持っていても、私は長いあいだそれに気がつかなかったのだ。今思い起こしてみれば、それく
 らい思い当たってもよかったはずなのに。十三歳の女の子にもすぐにわかることが、どうして私
 に感じ取れなかったのだろう?

 「二人の関係は、ずいぶん発展が急速だったんだね」と私は言った。
 こっちの叔母さんはものをちゃんと考えられる人だし、けっしておるかではない。だけど、心の
 どこかに少しよわいところがある。そしてメンシキというひとには、普通とはちがう力がそなわ
 っていると思う。うちの叔母さんとは比べものにならない強い力が」

  そのとおりかもしれない。免色という人物には、確かに何かしら特別な力が具わっている。も
 し彼が本気で何かを求め、それに沿って行動を起こそうと心を決めたら、普通の人間はおおかた
 の場合それに抗することができないだろう。たぶん私をも含めて。一人の女性の肉体を手に入れ
 るくらい、彼にとっては進作もないことかもしれない。
 「そして君は心配しているんだね。君の叔母さんが免色さんに、何らかの目的のために利用され
 ているのではないかと?」



  まりえはまっすぐな黒い髪を手に取り、耳の後ろにまわした。小さな白い耳が露わになった。
  素敵なかたちをした耳だった。そして彼女は肯いた。
 「でもいったん前に進み始めた男女の関係を止めるのは、そう簡単なことじゃない」と私は言っ
 た。
  とても簡単ことじゃない、と私は自分に向かって言った。それはヒンドウー教徒の持ち出す
 巨大な山車のように、いろんなものを宿命的に踏みつぷしながら、ただ前に進んでいくしかない。
 それが後戻りすることはない。
 「だからこうして先生に相談に来た」とまりえは言った。そして私の目をまっすぐのぞき込んだ。


それにしても「免色」とは面白い名前だ。生命体を超えた存在=イデア?ということなんだろうか?今夜は、こ
こで読み終える。

                                      この項つづく 
   

 ● 今夜の一曲

天候がもう一つ安定しない。しかし夏の暑さは記録を更新をつづけている。そんなことで昼は冷やし
素麺とフィシュフライサンド。途中、パクチーとイタリアンパセリを裏庭から摘み取り素麺にトッピ
ングするが、イタリアンパセリは合うが、パプチーは香り強すぎて合わない。セロリを細かく刻んで
好みで加えれば清涼感を引き立てつかもしれないなと思って食べ終えた。

ところで、今月21日(金)に圧倒的なヒット曲をつくった平尾昌晃(1937年12月24日 - 2017年7月
21日)が他界している(享年79)。化粧品業を営む平尾聚泉の孫。クラシックの作曲家・国立音楽
大学教授の平尾貴四男は伯父。小学3年生のとき、自宅に来ていた将校から貰ったジャズを聴き衝撃
を覚えている。また、20歳(1957年)に、ジャズ喫茶「テネシー」に出演していた際、ステージを
見た渡辺プロの渡辺美佐と映画監督井上梅次に見初められ、同年に公開された石原裕次郎主演の『嵐
を呼ぶ男』に出演。自身としても、翌年1月、キングレコードより「リトル・ダーリン」でソロ・デ
ビュー。その後、ミッキー・カーチス、山下敬二郎(後にこの2人は渡辺プロに所属する)と「ロカビ
リー三人男」として「日劇ウエスタンカーニバル」等で爆発的な大人気を博す。同年、キングレコー
ドからオリジナルナンバーである「星は何でも知っている」、翌年には「ミヨチャン」を発表し、2
曲共に100万枚を売り上げる大ヒットを記録。


  


ところが、1950年代後半、ロカビリー歌手として人気絶頂を迎え、その後、66年に作曲家として再ス
タートを果たし、1967年、布施明の「霧の摩周湖」と梓みちよの「渚のセニョリーナで日本レコード
大賞作曲賞を受賞したものの結核を患い、受賞の翌年入院。「僕はひとりじゃない。ロカビリーをや
って突っ走ってきたけど、いろんな人に支えられてきたんだ」って気づかされ、その後の音楽人生に
大きな影響をうける。そして、「僕は、絵も字も下手だから、せめてメロディーで絵を描くんだって
思っています。その人の姿やシーンが見えるようなね。だから、僕の年でも曲が書けるんじゃないか
な」とインタービュで語っている」(刊朝日 2012年4月27日号)。沢山の楽曲があるなかでどれか一
曲を選べと言われても難しいが時代共有ということであれば布施明が唄う『霧の摩周湖』になるかな。
有り難うございました。

                                          合唱
 Dec. 1, 1966




   

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ZW倶楽部との提携

2017年07月28日 | 開発企画

 

            

              宣公11年(- 598) 楚の荘王、夏徴舒を討つ  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                

    ※ 巫臣のたくらみ:成公二年(-589)夏姫は男たちを翻弄しただけではない。国政、
            また国際政冶にも、その影響は及ぶのだ。申公巫臣(屈巫)という機略縦横の男
            が、その媒介となる。話はまず、九年前の宣公11
年、すなわち前回の事件とが
      らんではじまる。

    ※ 楚が陣の夏徴舒を討伐したときのこと、楚の荘王は良能(夏徴舒の母にあたる)
      をつれ帰り、側室に加えようとした。申邑の代宮座臣がこれを諌めた。
      「それはよろしくありません。このたび諸侯を糾合された目的は、罪を犯した夏
      微舒をこらしめることにあったはずです。もしここで夏姫を側室に加えるとした
      ら、女が目的であったことになりはしませんか。これでは、みずから淫の罪を犯
      したことになります。淫の罪は大罪です。”徳を明らかにせよ、そして罪に当た
      らぬよう慎しめ”ということばが『周書』にあります。女王が別を興されたのは、
      この言葉どおりに身を慎しんだからです。”徳を明らかに”とは、徳をたっとぶ
      ようつとめろの意。罪に当たらぬよう慎しかごとは、罪から遠ざかるようつとめ
      るの意です。いま、大義の下に諸侯を糾合しながら、罪も罪、淫という大罪を犯
      したのでは、"慎しむ”どころではありません。どうか、お考え直しください」

      巫臣のことばを容れて、荘王は夏姫のことを想いとどまった。次に夏姫に目をつ
      けたのは、令尹の子反(公子側)である。巫臣は子反にも忠告した。「およしな
      さい。あれは不吉な女です。あの女とかかわりあった男はみなひどい目にあって
      います。子蛮(夏姫の兄とも最初の夫ともいわれる)は若死しました。御叔(夏
      姫の夫)と霊公は殺されました。息子の夏南(夏微行)は死刑になりました。ま
      た、孔寧と儀行父は国外に亡命を余儀なくされました。ついに、この女のために
      陣の国が滅亡してしまったのです。どこをさがしても、これほど不吉な女は見つ
      からないでしょう。ただでさえ生きにくいこの世の中に、こんな女とかかわりあ
      ったのでは、まともな死に方はできません。美しい女ならほかにいくらでもいま
      す。何も好きこのんであんな女と……」
      巫臣にこう言われて、子反は夏姫を断念した。

                                   この講つづく 

  

【抗認知症戦最終観戦記】

● シスメックスとエーザイ 原因物質の分析装置開発

7月28日、アルツハイマー型認知症の診断は、脳画像検査や脳脊髄液検査で行われているが、検
査施設が少なく、高額な検査費用や高い侵襲性(生体を傷つけやすさ
)による問題がある。このた
め、安価で簡便、低侵襲な診断技術/診断薬開発が要求されるが、
血液検査装置大手のシスメック
スとエーザイは、血液からアルツハイマー病を診断する技術――病気の原因とされる物質を調べる
手法――で、専用分析装置の開発にメドを付け、2年後にも大学などに研究用として販売すること
を公表する。同病は早期段階の診断が難しい。高齢化で患者増が見込まれるなか(上グラフ参照)、
新技術が実用化すれば患者の早期発見や新薬の開発に寄与する(日本経済新聞, 2017.07.28)。



認知症患者のうち6割近くがアルツハイマー病が原因とされる。根本的な治療薬はまだ開発されて
おらずエーザイも含め製薬会社が新薬の開発を進めているが、いずれも発症初期に投与しないと効
果が限られる。
アルツハイマー病患者の脳内にはアミロイドベータと呼ばれるたんぱく質が蓄積
ており、病気の原因の一つとされる。シスメックスとエーザイはたんぱく質の構造を精緻に見る、
超高解像度の蛍光顕微鏡を開発。血液検査に必要な一連の装置をこのほど開発。
今後、エーザイが
研究用に保管している患者の血液などを分析して、たんぱく質の量や形と病気の進行度との相関関
係を調べ、実用性を検証。2年後をメドに研究用として大学病院や研究機関に販売し、医療現場で
の実効性を確かめる(装置の価格は未定)。

エーザイは同装置で発見した早期段階の患者を対象に、新薬の臨床試験を始めることも検討してお
り、
従来の医師が対面診断する方法では発症初期患者をつけることは難しいく、原因物質は陽電子
放射断層撮影装置(PET)を使ったり、脳脊髄液を採取したりして調べる方法があるが。ただ費
用が高額で、患者の体への負担も大きい。
新技術が実用化できれば、初期の患者を見つけられる可
能性が高まり、製薬会社が新薬の臨床試験をする際に、効果が見込める患者を集めやすくなり、新
薬開発スピードが高まる可能性もでてくる。



国際アルツハイマー病協会の調べでは世界で、2015年で4680万人の患者がおり、50年には、3倍の
億3200万人まで増えると予測する。
シスメックスは、臨床検査領域における多彩な専門性やノウ
ハウ、遺伝子・タンパク・細胞の各レベルにおいて血液中のバイオマーカーの高感度検出に有用な
技術を保有。エ
ーザイは、30年以上にわたる認知症分野における創薬活動やアルツハイマー型、レ
ビー小体型認知症治療剤「アリセプト」に関する情報提供活動を通じて培った豊富な経験と知識を
保有。
両社は、互いの技術・ナレッジを活用し、認知症の早期診断や治療法の選択、治療効果の定
期的確認が可能な次世代診断薬の創出を目指す。診断薬の開発は、エーザイの協力のもとシスメッ
クスが行い、承認取得後はシスメックスが全世界で独占的に販売する。エーザイは、開発・上市マイ
ルストン/売上高に応じたロイヤリティを受領するとともに、認知症分野の創薬研究・開発、次世代
診断薬の活用を行う。

シスメックス株式会社は、血液や尿、細胞などを採取して調べる検体検査の分野で、世界190カ国
以上の顧客に製品やソリューションを届けている。検体検査機器・試薬・ソフトウェアの研究開発
から製造、販売・サービスとサポートを一貫して行う総合メーカーとして「がん」「慢性疾患」を
はじめとするさまざまな疾患領域において、価値の高い検査・診断技術の創出に向けた研究・技術
開発を推進。

エーザイ株式会社は、グローバルに医品の研究発、製造、販売活動を行っている。エーザイ株式
会社は、患者とその家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業
理念とするいかなる医療システム下においても存在意義のあるヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業
となることを目指す。それでは、保有技術を確認しよう。

❏ 特開2016-214256アルツハイマー病を示すマイクロRNA

アルツハイマー病は、ヒトの中枢神経系の進行性疾患である。典型的には高齢者における痴呆にり
方向
感覚の喪失、記憶喪失、言語、計算、または視覚-空間能力の障害を含む症状であり、精神医
学的な徴候
により顕在する。アルツハイマー病は、脳のいくつかの領域で変質するニューロンと関
連。アルツハイマー病の神経病理は、アミロイド斑、神経原線維変化、シナプス損失及び選択的神
経細胞死により特性化。アミロイド斑は、細胞外アミロイドβペプチドの異常レベルが原因で発生
し、一方神経原線維変化は細胞内高リン酸化tauタンパク質の存在に関連する。症状は、典型的には、
記憶の低下でまず臨床的に顕在化し、その後他の認機能の低下、さらに
異常行動に続く。世界中で
約2,400万人の人々が痴呆症を有し、その大部分(~60%)がアルツハイマー病に起因する。約500
万人のアメリカ人が、アルツハイマー病を有すると推定され、この数字は、2000年から350%の増加
を示し、今世紀半ばまでに1億4,300万人にまで増加すると予想される。先進諸国における増大する
痴呆患者数は、社会及び健康管理システムに大きな負担となるだろう。このように
初期診断は、疾
患の進行の遅延に初期診断は、アルツハイマー病治療の必須ステップとなる。

アルツハイマー病は、臨床基準の組み合わせで診断、これらは❶神経学的検査、❷精神状態検査❸
脳画像診断で構成。アルツハイマー病診断は、他の痴呆症を省き行われる場合が多い。これら基準
に基づくものは、特に軽度/初期アルツハイマー病の患者には、正確な診断が困難で、明確な診断
は、脳組織病理検査で行われ、診断用途で使用されるアルツハイマー病用マーカーが必要である。
アルツハイマー病を示す新規なmiRNAバイオマーカーを提供し、このmiRNAバイオマーカーは対象
においてアルツハイマー病を正確な診断に使用される。これらバイオマーカーは、miR191miR
15bmiR-142-3pLet-7g、Let-7dmiR-301a及びmiR-545を含む。一部の実施形態では、この方法
は、好適なサンプル中の、好ましくは、血液、血漿、血清、尿、又は唾液中の細胞外の循環miRNA
の検出を伴う。

したがって、第1の態様では、本発明は、対象から得た循環miRNAを含有するサンプル中の少なく
とも1つのmiRNAのレベルを決定することによる、対象のアルツハイマー病を診断する方法を提供
し、少なくとも1つのmiRNAは、miR-191miR-15bmiR-142-3pLet-7g、Let-7d、またはこれらの
組み合わせであり、好適な対照に対して決定される、正常な対象に対する少なくとも1つのmiRNA
のレベルの差が、対象におけるアルツハイマー病を示す。例えば、一実施形態では、方法は、対象
から得た循環miRNAを含有するサンプル中の少なくとも1つのmiRNAのレベルを決定することを含
み、少なくとも1つのmiRNAは、miR-191miR-15bmiR-142-3pLet-7g、Let-7d、またはこれらの
組み合わせであり、対照に対する少なくとも1つのmiR-191のレベルの減少は、対象におけるアルツ
ハイマー病を示す。必要に応じて、本方法は、サンプル中の少なくとも1つのmiRNAレベルに基
づいて、対象がアルツハイマー病の有無の診断を提供することを更に含む。一実施形態では、本方
法は、好適な対照に対する少なくとも1つのmiRNAのレベルの差を、対象におけるアルツハイマー
病の診断に相関させることを更に含んでもよい。


このように、対象から得たサンプル中の少なくとも1つのmiRNAのレベルを決定することにより、
対象においてアルツハイマー病を診断する方法を提供し、好適な対照に対する少なくとも1つのmi
RNA
のレベルにおける変化は、対象においてアルツハイマー病を示す。アルツハイマー病の過程の
モニタリングのための方法、アルツハイマー病を有する対象を治療する方法、及びアルツハイマー
病の診断のためのキットもまた提供される診断的用途で使用され得るアルツハイマー病を示すマー
カーを提供する。

 JP 2016-214256 A 2016.12.22

【上図1A】nCounter miRNAアッセイを使用する、コホート1(20人のアルツハイマー病(AD)
又は軽度認知障害(MCI)患者(11人のAD;9人のMCI)並びに20人の正常対照(NC
)患者)からの正規化miRNA発現の散布図である。



❏ 特開2017-101975   細胞選択方法、細胞検出方法、細胞選択装置、及び細胞検出装置  

蛍光インサイチュハイブリダイゼーション法FISH法:fluorescence in situ hybridization)の検出にフ
ローサイトメータ等を適用
する際の細胞の処理方法が記載されている。FISH法によれば、細胞中の
検出対象の
DNA配列領域に標識プローブを結合させることにより細胞を染色し、標識プローブに起
因して生じ
た蛍光の検出により、異常細胞の検出を行うことができる。インサイチュハイブリダイ
ゼーション法を行う場合、標識プローブによる染色性の悪い細胞や、非特異反応を起こした細胞
出現することがある。このように解析対象の細胞に染色不良の細胞が混ざってしまうと、結果とし
て異常細胞を精度良く検出できなくなる。このため、異常細胞を精度良く検出できることが求めら
れていた。このため、❶第1蛍光色素による細胞中の核酸の染色と、第2蛍光色素を含む評価用プ
ローブによる細胞中のDNAの評価対象領域に対するハイブリダイゼーションとを行うことにより、
試料を調製する試料調製工程→❷試料に光を照射して、第1蛍光色素からの蛍光と第2蛍光色素か
らの蛍光とを受光する受光工程→❸第1蛍光色素からの蛍光の強度と第2蛍光色素からの蛍光の強
度とに基づき、解析対象の細胞を選択する選択工程とにより精度改善を行う。


【図1】図1は、実施形態1に係る細胞検出方法を示すフローチャート
【図2】図2(a)は、実施形態1に係る検出対象領域に検出用プローブが結合している状態を示
    す図である。図2(b)は、実施形態1に係る評価対象領域に評価用プローブが結合して
    いる状態を示す図。


【図15】図15は、実施形態5に係る光学検出部の構成を示す模式図。
【図16】図16は、実施形態5に係る細胞分析装置による異常細胞の検出処理を示すフローチャ
     ート

【符号の説明】

10  細胞検出装置  11  処理部  12  試料調製部  20  細胞選択装置  200 フロー
セル  211~214  光源  221~223  受光部  224  撮像部

【要約】

細胞選択方法は、第1蛍光色素による細胞中の核酸の染色と、第2蛍光色素を含む評価用プローブ
による細胞中のDNAの評価対象領域に対するハイブリダイゼーションとを行うことにより、試料
を調製するステップS11の試料調製工程と、試料に光を照射して、第1蛍光色素からの蛍光と第
2蛍光色素からの蛍光とを受光するステップS12の受光工程と、第1蛍光色素からの蛍光の強度
と第2蛍光色素からの蛍光の強度とに基づいて、解析対象の細胞を選択するステップS13の選択
工程と、を含む。第1蛍光色素は、第1波長の蛍光を発する色素であり、第2蛍光色素は、第1波
長とは異なる第2波長の蛍光を発する色素であることで、異常細胞を精度良く検出できる細胞選択
方法、細胞検出方法、細胞選択装置、および細胞検出装置を提案する。

 



【ZW倶楽部とRE100倶楽部の提携】

スコトランドやデンマーク、ドイツでは風力発電の供給能力が電力需要量を超える事態が発生して
きているほどに欧米での再生可能エネルギーの普及が早まってきている。ここでわたし(たち)の
「エネルギータイリング事業」がオーバーラップすれば電力の潜在的需要量の倍は賄えるのではと
思わせる状況となっており、これは、「省エネ」を伴っている(※グローバルな省エネ進捗の指
が不在?)の中で指数関数的な伸展と考える。そこで、思いついたのが「ゼロ廃棄」と「再生可能
エネルギー百パーセント」の倶楽部の提携。その1つの例として、植物工場と再生エネルギーの提
携――太陽光発電でのエネルギーを使い、用水や肥料、培土をつくるというもの。肥料で言えば、
炭素、窒素、燐、カリウムなどの栄養素の生産を「オールソーラシステム」を組み込むと、水中プ
ラズマ放電や電解操作で大気中の炭素、窒素を固定するあるいは魚介類殻や農林水蓄産物の廃棄物
や花崗岩やカオリンなどの鉱物類の廃棄物を粉砕・分解・電解・選別・抽出し有用物を完全回収す
る。あるいは、大気中の水蒸気から凝縮水を回収し利用するといLた今までは考えられない付加価
値を生み出す事業が可能である。下記にその技術事例をを掲載する。

❏ 特開2017-128488  天然物由来成分含有組成物の製造方法、天然物由来成分
                                  含有組成物、これを用いた機能性飲食料品

従来、様々な機能性飲食料品が市販されており、これらの製造方法においても、様々な製造方法が
提案――例えば、アルミニュウム、鉄、カリウム、マグネシュウム等を含む岩石をパウダー化し、
このパウダー化した岩石に果汁酵素を配合し蒸留水に浸漬させて、岩石内に含有するミネラルをイ
オン化して抽出するミネラルイオン液の製造方法が開示されている。このようにして製造されたミ
ネラルイオン液はココナツオイル、コーンオイル、オクチルフェノール系非イオン界面活性剤等を
配合して洗浄剤として用いるものや、電気分解した硫酸液と水とを混ぜ、必須ミネラルの無機物ミ
ネラルがイオン化したミネラル溶解物を含む殺菌用水溶液の製造、一方、常温の生水に堆積岩や変
成岩を浸漬し、微生物を接種して攪拌し、70~90%のエタノールおよび有機酸を添加して2~
3週間熟成、得られた酸性生成物をアルカリ石で7日間かけて中和し、気剤等を混合した後、70
~80℃に加熱し、30~40℃で10時間程度濃縮し、この濃縮物に澱粉と微量栄養素の粉末と
を添加することで健康食品の製造や、花崗岩(黒雲母)を含む鉱物の細粒を硫酸水溶液、塩酸水溶
液、硝酸水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムを含む溶液に入れて、鉱
物に含まれる多種類のミネラルを溶解させて、多種のミネラルをイオン化させ、不純物を取り除い
た後、可溶性キトサンを含むミネラル飲料水製造が提案されている。

しかし、従来法ではミネラル成分を含有する健康食品の製造すに、硫酸/塩酸/硝酸など無機酸を
用いミネラル成分原料の岩石などを溶かす必要がある。これらの酸を使用せずミネラル成分の抽出
に非常に長い時間を要し、製造された健康食品等摂取したり、飼料や肥料として使用しても、数ヶ
月から数年経過しても効果の有無か確認できないという課題がある。この問題に対処するために、
岩石を粉砕する工程→粉砕した岩石と有機酸を含む水溶液とを混合して混合水溶液を得る工程→混
合水溶液に、植物から抽出された植物抽出物をさらに混合して混合液を得る工程→混合液を真空乾
燥処理する工程と、を含むことを特徴とする天然物由来成分含有組成物の製造方法で、短時間で、
無機酸を用いることなくミネラル成分を取り出す(あるいは溶解させる)ことができる製造方法を
提案する。

❏ 特開2007-119313 セラミックス接合方法及び接合装置 

セラミックス接合装置10は、一対の被接合材41,41を押圧すると共に一対の被接合材41,
41の間に挟む金属箔42に電流を流すための一対の電極21を備えた接合台20と、一対の電極
間に金属箔を気化させるのに必要な電気エネルギーを供給する回路30とを備える。この回路30
は、一対の電極21,21に並列接続する充放電用コンデンサー31と、充放電用コンデンサー31
と一対の電極21,21との間に直列接続される放電用スイッチ32と、充放電用コンデンサー31
を充電するための電源回路33とを備える。充放電用コンデンサー31は、金属箔42を気化させ
るのに必要なエネルギーを蓄積し、充電電圧が数百Vオーダーになるよう選定することで、
セラミ
ックス材同士またはセラミックス材と金属材とを容易にかつ簡便に接合し得るセラミックス接合方
法及び接合装置を提案する。

【図1】本発明の接合装置の構成を示す回路図
【図2】図1の接合台の構造を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図

【符号の説明】

10:接合装置  20:接合台  21:電極  22:下側プレート  23:ロッド  24:上側プ
レート  25:ゴム板  26:ナット  30:回路  31:充放電用コンデンサー  32:放電用
スイッチ  32a:スイッチ素子  32b:トリガー回路  32c:第2スイッチ  33:電源回
路  33a:第1スイッチ  33b:スライダックトランス  33c:交流用トランス  33d:
整流器  34:抵抗(電流突入防止用抵抗)  35:充放電回路  41:被接合  42:金属箔



上図の発明者の高木浩一岩手大学教授は、このプラズマ――熱プラズマは熱平衡プラズマ、低温プ
ラズマは非熱平衡プラズマあるいは、ただ単に非平衡プラズマと呼ぶ――を使用し、
野菜、果実な
どの栽培に応用研究している。植物の生育に必要な養水分を液肥として与える養液栽培が発展し、
養液を栽培ベッド内で循環させる循環方式が主流となっている。
この方式の問題点は、植物体の根
部が病害を発病した場合、二次感染の早さ、範囲が著しく大きく、短期間で壊滅的な被害を招く可
能性があり、循環方式では養液中の殺菌処理が必要不可欠で、
ランニングコストが高い、定期的ク
リーニングが必要な従来法でない、低コストでメンテナンスフリーな殺菌技術として注目されてい
るが、水中放電を用いる方法が提案されています。パルス高電圧を用いて水中放電を発生させるこ
とで、高電界、衝撃波、UV光、3H22OHラジカル等の複数の殺菌効果を有する種を生成し、
養液中の有害菌の効果的殺菌処理あせている。この水中プラズマ処理法は、このブログでも掲載し
てきたが、殺菌だけでなく、特別な化合物を不溶とする粉砕、分解、合成(窒素酸化化合物イオン:
植物の養液用)でき、原料として、廃棄物を簡便に、低コストでリサイクルできる方法として注目
されている。

❏ 寸評:アベノ一穴で自民崩壊

閉会国会を見て視聴者は「ダメだ、こりゃ!」(いかりや長介風に)と思っただろう。ご都合主義
で恣意的に中央行政府の文書記録が廃棄され、記憶が忘れ去られることがまかり通る。政治過程
の自由と民主主義の大前提である、「オープンシステム」あるいは「開放的」であることを
踏み
じる行為は「自由民主
」を冠するに値しないことを白日の下に晒した。”ロストダブルスコアー”
(失われし二十年)を自律的に世界ではじめてデフレ脱却しつつあるのに、蟻の一穴で墓穴を掘る
こととなった。財務省をはじめとする硬直した中央官僚制と決別し、国民福祉主義政権の構築急が
れる。

  

コメント
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エネルギータイリング(Ⅰ)了。

2017年07月27日 | 開発企画

 

            

              宣公11年(- 598) 楚の荘王、夏徴舒を討つ  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                

    ※ 【経】冬十月、楚人、陳の夏徴舒を殺す。丁亥、楚子、陳に入る。

      公孫寧・儀行父
を陣に納(い)る。陳の国で大夫の夏微舒が君主の霊公を殺した。
      そこでこの年の
冬、禁の荘王は衰氏討伐の兵を起こし、まず陣の人々に向かって
      六百を発した。「おまえたちに危害は加えない。少西氏(夏氏)を討伐するだけ
      のことだ」

      こうして陳にはいると、夏徴舒を殺し、その死骸を栗門(陣の国都の城門)で車
      裂きにした。そして、陳をそっくり楚の頂上に編入し、一つの県とした。陳候(
      霊公の子、成公)が晋に出かけている間の出来事であった。おりしも、斉に使い
      していた申叔時が、楚に帰ってきた。申叔時は荘王の前にすすみ出ると、報告を
      すませただけで退出した。荘王は使いをやって詰問した。
      「夏徴舒が主殺しという大罪を犯したので、わたしは諸侯をひきつれ討伐した。
      諸侯、諸県の代官うちそろって慶賀の意を表したというのに、おまえだけが知ら
      ん顔をしているのはどうしたわけだ」
      申叔時はふたたび荘王のもとにまかり出ると、
      「それでは、わたしの意見を申しあげてよろしゅうございますか」
      「よいとも」
      「夏徴舒が霊公を殺した罪は、いかにも重うございます。それを討伐されたのは、
      たしかに義にかなった行為と申せましょう。

 
       しかし、

        "牛を曳き
人の畑を通るひと
        怒って牛をとりあげる畑の主”
       という諺があります。
 
 
            牛をひいて他人の畑を荒らすのは、たしかに悪いことです。しかし、そうかとい
            って、その牛をとりあげたとしたら、その方がよほど重い罪となりましょう。

           このたび、諸侯があなたの会今に従ったのは、不義を討つとのお言葉があったれ
            ばこそです。それなのにあなたは陳を併合してしまった。これでは不義を討つど
       ころか、領土欲を満足させただけのことになりはしませんか。大義名分によって
            諸侯を集めておきながら、あげくのはてに自分の領土を増やすとは、もってのほ
       かのことと存じます」

      「なるほど、そういわれればそのとおりだ。誰もわたしにそんな忠告をしてはく
            れなかった。では、
陳をもとにかえせばよいのだな」
      「そうなさいませ。
        "その懐から取り
     
   その手に返す"
      わたくしたち下賤の者の間でも、こう申すくらいです」
      そこで荘王はふたたび陳を独立させた。そして、陳の各郷の住民から一人ずつ選
      んで楚に住まわせ、
その居住地を「夏州」と名づけた。
      『春秋』に、
      「楚の荘王が陳に出兵し、公孫寧と儀行父の二人を本国の陳に送り込んだ」とあ
      るのは、この事件のうち礼にかなった部分を記録したのである。

  ● MEGA 地震予測 Jul. 26, 2017

 No.49

【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅺ】

 ● 分散型集電/蓄電体の理想型

今回はソーラー/サーモ/ピエゾの3つのタイリングの理想型を小考する。その理想型は私た
の身の回りにすでに存在している。それはスマートフォンにある。ソーラー/サーモ/ピエゾに
よる発電部位と外部/内部から送電されて集電/蓄電部位にエネルギーを蓄え、不足分は外部
無線給電するというもの。ここで、❶外部無線給電とは分散型大形の集電/蓄電/配電設備に該
当する。ゼッチ住宅(ゼロエネルギー住宅」でもすでにモデルが存在していることはこのシリー
ズでも掲載している。❷しかし現状のスマートフォンは発電部位の普及が進んでいない。これに
対してエネルギータイリング事業の仕様は、タイル裏面に薄膜型の集電体を予め一体化させ、電
力送電指令で二次集電/蓄電体へ送電、さらに、この二次集電/蓄電体は外部からの電力送電指
令で三時集電/蓄電体へ送電できるように電力送電の双方向型制御管理システム(人工知能によ
る自動制御管理)することで、電力配線部位のダウンサイジング(Downsizing)を実現できる。ここ
で、「エネルギータイリング仕様」として仮に高密度・高寿命キャパシタを採用すると仮定すれば、高寿命
を発電部位や集電体部位の25年耐久仕様に合わすことができれば理想型が完成する。

● 特許事例:特開2017-093266  充電装置 日本ゼオン株式会社

商用電源を得られない外出先などでも、利用者が、スマートフォン、ノートPC、タブレットP
Cなどの電子機器を利用できるように、電子機器を充電するための充電装置の需要が高まってい
る。このような充電装置として、太陽光発電を行う太陽光発電モジュールを備え、エネルギーを
貯蔵する装置がある。これらは、環境発電部の発電電流が所定の閾値より小さく、環境発電部の
発電電力の供給先が蓄電部である場合、環境発電部の発電電流が閾値以上となっても、環境発電
部の発電々力の供給先の蓄電部から被充電デバイスへの切り替えを禁止することで、電力の冗長
性を抑制し、の速やかな充電を図ることができる。下図の電装置10は、環境発電を行う環境発
電部11と、電力を蓄積する蓄電部12と、環境発電部11の発電電流が所定の閾値以上である
場合には、環境発電部11から被充電デバイス20に電力を供給させ、環境発電部11の発電電
流が所定の閾値より小さい場合には、環境発電部11から蓄電部12に電力を供給させる制御手
段19と、を備え、制御手段19は、環境発電部11の電力の供給先が蓄電部12である場合、
環境発電部11の発電電流が所定の閾値以上となっても、環境発電部11の電力の供給先の蓄電
部12から被充電デバイス20への切り替えを禁止し、電力の無駄の発生を抑制し、充電対象の
装置の速やかな充電を実現できる。

   JP 2017-093266 A May 25, 2017
【符号の説明】

10 充電装置  11 環境発電部 12 蓄電部  13 給電先切り替え回路 14 充放電制御回
路 15 外部IF 16 システムコントローラ  17 切り替え禁止回路  19  御手段 20  
被充電デバイス 111 太陽電池モジュール 131~133  スイッチ  151  昇圧回路 
152,21 USB  IF 171 電流検出部  172,176  比較器 173 リトリガ
ーMMV  174,177  AND回路 175  反転回路

以上、「エネルギータイリング事業」の「素描(スケルトン)小考シリーズ」は今回で終え、以
降、この「事業構想の具体化(肉づけ
)小考シリーズ」は適宜掲載していく。

● 世界最高性能の半導体光変調器:
  従来比で光損失を10分の1に低減、変換効率5倍

7月25日、東京大学らの研究グループは来と比較して光の損失を10分の1に低減し、5倍の効
率で電気信号を光信号に変換できる世界最高性能の半導体光変調器――この光変調器は、膨大な
情報を高速で通信するデータセンターやIoT、人工知能といった分野で重要なシリコン光集積回
路の大幅な省電力化と小型化に貢献できる――の開発に成功したことを公表する。

近年、光素子の小型化や、高集積化の観点から、SOI(silicon on insulator)基板を用いて製造され
た光導波路素子が注目されている。このような光導波路素子は、Si基板上に形成したSiO2(二酸
化ケイ素)のクラッド上に、クラッドよりも屈折率が高いSiのコアを設け、クラッドとコアの光
屈折率の差によりコア内に光を閉じ込めて光を伝搬し得る(下記掲載図参照:特開2017-040841
光導波路素子および光集積回路装置)。



今回、シリコン光導波路上に、光学特性に優れた化合物半導体の一種であるインジウムガリウム
ヒ素リン(InGaAsP)を貼り合わせることで、インジウムガリウムヒ素リン中の電子により誘起
される屈折率変化のみを用いた光変調動作を世界で初めて実証しました(図1)。インジウムガ
リウムヒ素リン中での電子誘起屈折率変化はシリコンと比べて10倍以上大きいことは知られてい
たが、正孔の光吸収による損失が非常に大きく、従来の技術では電子の効果のみを引き出すこと
が極めて困難であり、光変調には適していなかった。今回、アルミナ(Al2O3)を介して、イン
ジウムガリウムヒ素リンをシリコン上に貼り合わせた構造を実現したことにより、電子の効果の
みを用いて光変調することが可能になる。

実証に成功した素子の光位相変調部は、二酸化ケイ素上にシリコン層が形成されたSOISilicon
on Insulator
基板上に作製したシリコン光導波路上にゲート絶縁膜となるアルミナを介して薄膜
インジウムガリウムヒ素リンが貼り合わされた構造となっており(図2)、光位相変調部に電気
信号を入力することで光の位相が変調され、光変調信号が出力される。図3の光位相変調部の断
面構造図に示すように、凸状に加工されたシリコンと化合物半導体層は近赤外光を閉じ込められ
る光導波路として機能します。シリコン層と化合物半導体層の間にゲート電圧を印加すると、化
合物半導体とアルミナの界面に電子が蓄積され界面近傍の屈折率が減少します。これにより入力
された光の位相が変調され、電気信号を光信号に変換できる。
結果として、従来のシリコン光変
調器に比べ、光損失を10分の1に抑制しつつ変調効率を5倍に高めることに成功しました。また
多値変調による100ギガビット/秒の高速変調においても良好な光信号が得られることを検証する
今回の成果は、高効率かつ低損失の光変調に新たな手段を与えるものであり、光変調器を利用し
た✪データセンターの高性能化・省電力化のみならず、✪次世代光ネットワークで必須となる光
スイッチや✪自動運転車で必要となるレーザースキャナなど幅広い応用に期待されている。

❏ 関連特許:特開2017-040841光導波路素子および光集積回路装置 

【要約】

光導波路素子1では、Ⅲ-Ⅴ族半導体でなるコア4が設置されるクラッド2を、SiO2よりも熱導電
率が高いSiCにより形成したことにより、コア4で発生した熱をクラッド2によって放熱させて、
コア4周辺を冷却させることができるので、温度上昇による不具合の発生を防止し得る。また、
この光導波路素子1では、Ⅲ-Ⅴ族半導体でなるコア4よりも屈折率が低いSiCによりクラッド2
を形成したことから、コア4を屈曲させた構成としても、コア4内を伝搬する光をコア4内に閉
じ込めることができるので、コア4を屈曲できる。

本件によれば、Ⅲ-Ⅴ族半導体族半導体またはIV族半導体でなるコアが設置されるクラッドを、
熱導電率が高いSiC、AlN、またはGaNにより形成したことにより、コアで発生した熱をクラッド
により放熱させ、コア周辺を冷却させることができるので、温度上昇による不具合の発生を防止
し得る。また、この光導波路素子では、III-V族半導体またはIV族半導体でなるコアよりも屈折
率が低いSiC、AlN、またはGaNによりクラッドを形成することで、コアを屈曲させた構成として
も、コア内を伝搬する光をコア内に閉じ込めることができるので、コアを屈曲できる分、小型化
が図れ、高密度に集積化を実現する。

 
【符号の説明】

 1,7,8,21,31,35,41,43,45,51  光導波路素子   2,32,44  クラッド   4,10,11,22,37  コア

【図1】本発明による光導波路素子の断面構成を示す概略図
【図2】従来の光導波路素子と本発明の光導波路素子における曲率半径およびベンド損失の関係
    を示したグラフ
【図3】従来の光導波路素子と本発明の光導波路素子における電力投入時の温度上昇を示すグラ
    フ
【図4】図4Aは、温度上昇時のInPに対する熱応力を調べた本発明の光導波路素子の断面構成
        を示す概略図、図4Bは、温度上昇時のInPに対する熱応力を調べた従来の光導波路素
       子の断面構成を示す概略図

     

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』      

    第43章 それがただの夢として終わってしまうわけはない

  九時前に雨田が目を覚ました。彼はパジャマ姿で食堂にやってきて、熱いブラック・コー
 ヒーを飲
んだ。朝食はいらない、コーヒーだけでいいと彼は言った。彼の目の下はいくらか
 腫れていた。

 Jane Austen

 「大丈夫か?」と私は尋ねた。
 「大丈夫だよ」と雨田は瞼をこすりながら言った。「もっとひどい二日酔いは何度も経験し
 てい
る。これなんか軽い方だ」
 「ゆっくりしていってかまわないよ」と私は言った。
 「でもこれからお客が来るんだろう?」
 「お客が来るのは十時だ。まだ少し間がある。それに君がここにいたってべつに問題はない。
 二
人に紹介するよ。どちらもなかなか素敵な女性だ」
 「二人? その緒のモデルの女の子は∵人じゃないのか?」
 「付き添いの叔母さんと一緒に来る」
 「付き添いの叔母さん? ずいぶん古風な土地柄なんだな。まるでジェーン・オースティン
 の小
説みたいだ。まさかコルセットをつけて、二頭だての馬車に乗ってやってきたりはしな
 いよな」

 「馬車まではない。トヨタ・プリウスでやってくる。コルセットもつけていない。ぼくがス
 タジ
オで女の子の緒を描いているおいた、だいたい二時間くらいだけど、叔母さんは居間で
 本を読ん
で待っている。叔母さんといってもまだ若いんだが」
 「本って、どんな本?」
 「知らない。訊いたけど、教えてくれなかった」
 「ふうん」と彼は言った。「そうそう、ところで本といえば、ドストエフスキーの『悪霊』
 の中
で、自分か自由であることを証明するために拳銃自殺する男がいたと記憶しているんだ
 けど、な
んていう名前だっけ? おまえに訊けばわかるような気がしたんだが」 

 「キリーロフ」と私は言った。

  Алексей Нилыч Кириллов 

 「そうだ、キリーロフだ。このあいだから思い出そうとしていたんだけど、どうしても思い
 出せなかった」
 「それがどうかしたのか?」

  雨田は首を振った。「いや、とくにどうもしない。ただ何かの拍子にその人物のことが順
 に浮かんで、名前を思い出そうとしたんだが、どうしても思い出せなかった。それでちょっ
 と気になっていた。魚の小骨が喉につっかえるみたいにさ。しかしロシア人って、なんだか
 ずいぶん不思議なことを考えるよな」

 「ドストエフスキーの小説には、自分か神や通俗社会から自由な人間であることを証明した
 くて、馬鹿げたことにする人間がたくさん出てくる。まあ当時のロシアでは、それほど馬鹿
 げたことじやなかったのかもしれないけど」
 「おまえはどうなんだ?」と雨田は尋ねた。「おまえはユズと正式に離婚して、晴れて自由
 の身になった。それで何をする? 自ら求めた自由ではないにせよ、自由は自由だよ。せっ
 かくだから、そろそろ何かひとつくらい馬鹿げたことをしたっていいんじやないか」

  私は笑った。「今のところとくに何かをするつもりはない。ぼくはとりあえず自由になっ
 たのかもしれないけど、だからといってそのことを世界に向かっていちいち証明する必要も
 ないだろう
 「そういうものかな」と雨田はつまらなさそうに言った。「しかしおまえはいちおう絵描き
 だろう。アーティストだろう。だいたい芸術家っていうのはもっと派手に羽目を外すものだ
 ぜ。おまえは昔からなかなか馬鹿げたことをしない男だった。いつだって筋の通ったことを
 している みたいに見えた。たまにはそういう抑制を解いた方がいいんじやないか?」

 「金貸しのばあさんを斧で殺すとか?」
 「ひとつの考え方だ」
 「誠実な娼婦に恋をするとか?」
 「それもなかなか悪くない」
 「考えておくよ」と私は言った。「でもあえてぼくが馬鹿げたことをしなくても、現実とい
 うのはそれ自休でじゆうぷんたがをはずしているみたいに見える。だから自分∵八くらいは
 できるだけまともに振る舞っていたいと思うんだよ」

 「まあ、それもひとつの考え方かもしれない」と雨田はあきらめたように言った。

  それはひとつの考え方というようなものでもないんだ、と私は言いたかった。実際に私の
 まわりを取り囲んでいるのは、たがのはずれまくった現実なのだ。私までたがをはずしたら、
 それこそ収拾がつかなくなってしまう。しかし今ここでそんな一部始終を、雨田に説明する
 わけにもいかない。

 「でもとにかく失礼するよ」と雨田は言った。「その二人の女性に会っていきたい気もする
 けど東京に仕事も残してきたしな」
  雨田はコーヒーを飲み干し、服を着替え、真っ黒な四角いボルボを運転して帰って行った。
 いくらか腫れぼったい目をして。「邪魔をしたな。でも久しぷりにゆっくり話せて楽しかっ
 たよ」

  その日、ひとつ俯に落ちないことがあった。それは雨田が魚をおろすために持参した出刃
 包丁みつからなかったことだ。使用後に丁寧に洗ったきり、どこに持っていった覚えもな
 いのだが、二人で台所じゆうを探し回ってもそれはどうしても見つからなかった。
 「まあ、いい」と彼は言った。「たぶんどこかに散歩にでも出かけたんだろう。帰ってきた
 らとっておいてくれ。たまにしか使わないものだから、次に来たときに回収して探しておく
 と私は言った。

  ボルボが見えなくなってから、私は腕時計に目をやった。そろそろ秋川家の二人の女性が
 やってくる時刻だ。居間仁決ってソファの布団を片付け、窓を大きく開けて、もったりと淀
 んだ部屋の空気を入れ換えた。空はまだうっすらと灰色に曇っていた。風はない。

  私は寝室から『騎士団長殺し』の絵を特ってきて、前と同じようにスタジオの壁にかけた。
 そしてスツールに腰掛け、あらためてその絵を眺めた。騎士団長はやはりその胸から赤い血
 を流し続け、「顔なが」は画面の左下の隅から、その光景を眼光鋭く観察し続けていた。何
 ひとつ変わったところはない。

  しかしその朝、『騎士団長殺し』を眺めながら、私の頭からはどうしてもユズの顔が去ら
 なかった。あれはどう考えても夢なんかじやない、と私はあらためて思った。きっと私はあ
 の夜、本当にあの部屋を訪れていたのだ。ちょうど雨田典彦が、数日前の真夜中にこのスタ
 ジオを訪れたのと同じように、私は現実の物理的制約を超えて、何らかの方法であの広尾の
 マンションの部屋を訪れ、実際に彼女の内側に入り、本物の精液をそこに放出したのだ。
 は本当に心から何かを望めば、それを成し遂げることができるのだ。私はそう思った。ある
 特殊なチャンネルを通して、現実は非現実的になり得るのだ。あるいは非現実は現実になり
 得るのだ。人がもしそれを心から強く望むなら。しかしそれは人が自由であることを証明す
 ることにはならない。それが証明するのはむしろ逆の事実かもしれない。

 もし、ユズにもう一度会う機会があったら、今年の四月の後半にそのような性的な夢を彼女
 が見たかどうかを尋ねてみたかった。私が明け方近くの時刻に部屋を訪れ、深く眠っている(
 ないしは身体の自由を奪われている)彼女を犯す夢を見たかどうか。言い換えるなら、その
 奇妙な夢が私の側だけのものにとどまらず、相互通行的なものとしてあったのかどうか。私
 としてはそのことを確かめたかった。しかしもしそうだとしたら、もし彼女も私と同じ夢を
 見ていたのだとしたら、彼女の側からすれば、そのときの私はあるいは「夢魔」とでも呼ぶ
 べき不吉な、あるいは邪悪な存在であったかもしれない。

  私は自分かそんな存在であるとは――そんな存在になり得るとは――考えたくなかった。
  私は自由なのか? そのような問いかけは私には何の意味も持たなかった。今の私が何よ
 り必要としているのはあくまで、手に取ることのできる確実な現実だった。頼ることのでき
 る足もとの堅い地面だった。夢の中で自分の妻を犯すような自由ではなく。

さて、機械は「第44章 人がその人であることの特徴みたいなもの」へ移る。


                                   この項つづく 
  

  

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今夜も太陽がいっぱい

2017年07月26日 | 開発企画

 

            

                         宣公十年(- 599) 誰が生ませた  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                

    ※ 夏徴舒は大夫御叔と夏姫の間に生まれた子、若年ながらすでに大夫の職を襲いで
      いた。【経】(五月)癸巳、陳の夏徴舒、その君半国(霊公)を弑す。

    ※ 陳の霊公と孔寧、儀行父の三人が、夏徴舒の家で酒をくみかわしていた。その席
      上、雲公は偕行父をからかって、「徴舒は、どうやらおまえに似ているようだ」
      行父もまけずにやりかえした。「いや、やっぱりあなたに似ております」
      そばで聞いていた徴舒は、このやりとりが何とも腹にすえかねた。そこで霊公が
      帰ろうとして屋敷から出るところを待ちぶせ、うまやのかげから矢を射かけて殺
      した。孔寧と偕行父は、楚に逃亡した。

 No.48

Interface for renewable Energy System

【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅹ】

● ソーラータイルシステムのダウンサイジング化:マイクロインバータ

今回はエネルギーソーラータイリング(ソータータイル)にビルドイン(内蔵)仕様を小考する。光電変換
部位に蓄電部
位付加を内蔵するか外付にするかのオプションがあるように、内蔵蓄電部位から定電流出力さ
せるか、光電変換部位から直接定電流出力させるかのオプションが発生する。ここで、マイクロインバータ
Solar-micrinverter、Microinverter)とは、陽光発電装置や蓄電装置のような分散電源を系統に連系させて制
御する分散電源システム――通常、太陽光発電装置では、複数の太陽電池パネルを直列に接続し、複数の太
陽電池パネルにより得られた直流電力を1つのパワーコンディショナで交流電力に変換して系統に連系させ
ている(集中制御型)――は、1枚の太陽電池パネル毎にインバータを設置して直流電力を交流電力に変換
し、変換後の交流電力を複数並列に接続する分散制御型であり、そのなかでも❶1枚の太陽電池パネル毎に
設置されるインバータを「マイクロインバータ」、❷太陽電池パネルと一体的に構成されたものは「ACモ
ジュール」と呼ばれる(下図ダブクリ参照)。



このように、マイクロインバータを用いた構成は、通常の集中制御型に比べ、❶複数の長い直流配線が不要
であること、❷複数の直流配線を結合する直流接続箱が不要であること、❸1枚または数枚の太陽光パネル
に故障等が生じてもその影響がこの太陽光パネルに限定されることなどの利点があり、ソーラータイルのよ
うな高密度で受光面が異なる光電変換装置には欠かせないものとなるが、マイクロインバータは自立運転機
能をもたず、それぞれのマイクロインバータ自立する電圧制御型のインバータとなると、複数のマイクロイ
ンバータの出力電圧の位相がずれなどの波形が乱れるといった問題があり、下図は高調波除去帰還制御工程
図のように、グリッドインタラクティブインバータ(送電系統双方向型直交流変換器)の様々な改良が提案
されて
いる。


Systems and methods for increasing output current quality, output power, and reliability of grid-interactive inverters 

● 特開2017-106030  電力変換装置で使用するための軟質粘着性ゲル

ここで、光起電システムで重要な構成要素なマイクロインバータ(直交流変換器)/パワーオプティマイザ
(直流変換器)は、エネルギースループットを最大限にするためのDC-DC変換装置技術であり、マイク
ロインバータ
は、各パネル上で使用されるがパワーオプティマイザを単一のケーシング内で小型インバータ
と組み合わせたもの。一方でパワーオプティマイザはインバータを分離されたボックス内に残し、全アレイ
に対して1つのインバータのみを使用する。これらは、屋外使用で耐えるように、熱管理/環境保護を含む
高い信頼性要件をもち。マイクロインバータ/パワーオプティマイザメーカは、自社の製品に25年間の補
償を提供するため、これらのデバイスを充填する熱伝導性ポッタント(封止剤:encapsulant)は重要な構成
要素であるが、これらのデバイスの高い耐久性のもつ小型化(downsizing) が求められているが、下図の特
許事例はその1つである。


【要約】

電力変換装置(100)、マイクロインバータ内のポッタント(105)として使用するためのポリマー、
特にシリコーンゲル
を含む軟質の粘着性の組成物。硬化したときに、組成物は、ショアAスケールで測定し
て30未満の硬度、0.2W/m・K以上の熱伝導性を有し、かつ粘着性の表面を有する。その軟質粘着性
ゲルによって充填された電力変換装置と、電力変換装置の製造方法。前記粘着性ゲルの表面が2.5g以上
の大きな粘着度を有し、5μm未満の平均粒子径を有する石英粉末を熱伝導性充填材を含む組成物で構成さ
れた屋外使用で耐え、熱伝導性のあるポッタントを提案する。

このように、光電変換部位だけでなく電力変換・送電部位を含めたコスト・機能・機構・意匠・品質・工程
展開させ市場要求を満たす最高レベルの設計・製造要件が「ソーラータイル」(エネルギータイリング)に
求められている。

【関連特許】

特開2017-050931  制御装置及び分散電源システム 京セラ株式会社
US 9698668 B2 Systems and methods for increasing output current quality, output power, and reliability of grid-inte-
 rac-tive inverters
 :グリッド・インタラクティブ・インバータの出力電流品質、出力電力、および信頼性を
 向上させるシステムおよび方法
US 9,685,904 Full-Text Photovoltaic system with improved DC connections and method of making same 改善され
 たDC接続を有する太陽光発電システムおよびその製造方法
US
9,685,904 B2 Photovoltaic system with improved DC connections and method of making same グリッド接
  続負
荷のローカル電源の電力転送管理
・ US 9627894 B2  Modular solar inverter :モジュラーソーラーインバータ
US 9602023 B2 Single chip grid connected solar microinverterシングルチップグリッド接続ソーラーマイクロ
  インバータ

Jul.16, 2017

【RE100倶楽部:変換効率30%超時代】

● 単純構造のシリコン太陽電池で変換効率20%達成

今月18日、大阪大学の研究グループは、10秒~30秒の簡単な溶液処理によって、3%以下の反射率のシリ
コンウェーハを形成する方法(上図)を開発しましたことを公表。この技術を結晶シリコン太陽電池に用い
て、反射防止膜を形成しない極単純な構造の太陽電池で、20%の変換効率を達成。
従来技術では、シリコ
ン表面にピラミッド構造を形成することで低反射させていたが、低反射処理に約20分を要し、そのうえ反
射率は10%以上とあまり低くできなかった。その結果、プラズマCVD法等の高価な方法を用いて反射防止膜
を形成する必要があった。
今回開発した技術により、太陽電池の製造コスト低減できるる。開発した技術で
は、シリコンウェーハを過酸化水素水(H2O2)とフッ化水素酸水溶液(HF)の混合溶液に浸し、白金触媒体
に10~30秒接触させるだけで、瞬時に表面にシリコンナノクリスタル層が形成され、極低反射化できる。ど
の方向からの入射光もほとんど反射させることはなかったので、反射防止膜形成が不溶(コストレス)で、
一方、シリコンナノクリスタル層は莫大な表面積を持ち、効果的な表面パッシベーション処理を行わなけれ
ば、光生成した電子とホールが表面で再結合して消滅し、変換効率が低下。再結合を防止に、リン珪酸ガラ
ス法(PSG法)という新規の方法を開発。PSG法を用いない場合の太陽電池の変換効率は約15%、本方法
で20%に向上した。

 
DOI: 10.1002/solr.201700061  

このように、同研究グループは、太陽電池で最も重要なことは単なる高効率化ではなく、発電コストを低減
できる技術
の開発――複雑な構造や高価な方法を用いて太陽電池の高効率化を行っても、かえって発電コス
トが増加。単純構造の太陽電池を単純プロセスで製造技術――に着眼している。

       



【ZW倶楽部:燃えるごみの焼却残さから機能性材料を製造】

● 都市ごみ清掃工場から排出される溶融スラグを高比表面積シリカに変換

 Jul. 25, 2015

今月25日、産業技術総合研究所らの研究グループは、都市ごみ清掃工場で燃えるごみを処理した際に排出され
る溶融スラグを原料として高比表面積シリカを製造する技術を開発したことを公表。
得られた高比表面積シ
リカは、各種吸着剤、タイヤや合成ゴムなどの添加剤、触媒担体などさまざまな用途展開が期待できる。こ
の技術により、人々の日々の活動の結果、一般廃棄物として排出された「燃えるごみ」の中に含まれる不燃
成分を、簡単な工程で高付加価値材料に変換できる。

都市ごみなどの一般廃棄物のうち、いわゆる燃えるごみを焼却処理する清掃工場では、ごみ焼却に伴って焼
却灰が発生しており、主に最終処分場に埋められている。現在、焼却灰の減容化のために、焼却灰を高温で
溶融させた後に水中で冷却して生じる「溶融スラグ」とよばれるガラス状固形物として回収する処理が広く
行われている。溶融スラグは道路用のアスファルト骨材やコンクリート用骨材などとして有効利用が図られ
ている。一方、現在全国で年間約80万トンもの溶融スラグが、自治体などの都市ごみ清掃工場から発生して
おり、さらなる有効活用の手段が求められていた。

都市ごみ清掃工場から排出された溶融スラグを、ある条件で酸性の溶液を用いて化学的に処理すると、溶融

スラグ中に含まれるシリカ(SiO2)成分が、処理溶液に溶けない白色の固体として沈降する。この白色固体を
ろ過などにより回収すると、純度93~98 %を超えるシリカが容易に得られる(下図)。窒素ガス吸着測定を
行い、算出した比表面積はおよそ600 m2/gであった。これは高比表面積材料として市販されている合成シリ
カ材料と同等以上の値である。また、ナノメートルサイズの空孔をつくる鋳型となる界面活性剤を共存させ
た状態で、溶融スラグからシリカを得る化学的処理を行うと白色固体が得られる。この白色固体を550 ℃で
焼成すると、規則的なナノメートルサイズの空孔をもつメソポーラスシリカが得られる。図2に得られたメ
ソポーラスシリカの電子顕微鏡写真を示す。この溶融スラグから生成したメソポーラスシリカの比表面積は
675 m2/g、平均細孔径は
9.2 ナノメートル(nm)であった

 ● 今夜の一曲
  
今夜も頭がパンクしそうだった。そこで一曲これをリスニング。12歳の記憶がよみがえる。核融合利用
技術開発(地球物理学領域)でパンパンの頭を静める。

                                            


  

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痩せた茗荷で冷や奴

2017年07月25日 | デジタル革命渦論

 

 

            

                         宣公三年(- 606) 鼎の軽重  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                

   ※ 夏姫の禍:三夫二君一子を死なせ、一国二卿を滅ぼした稀代の妖婦の伝。夏姫は鄭
     (姫姓)の穆公の娘。はじめ、陣の夏氏(大夫夏御叙)に嫁した。ここでは、年代
     にとらわれず、夏姫をめぐる五つのエピソードを集めた。

   ※ 女の下着:宣公九年(-600)【経】 陣、その大夫洩冶(せつや)を殺す。
     陣の君生害公、大夫の孔寧、儀行父、この三人はいずれも夏姫と通じていた。三人
     はそれぞれ夏姫が身につけていた肌着をもらい、それを着こんで朝廷に出仕しては
     ふざけあっていた。洩冶という老大夫が、たまりかねて霊公を諌めた。
     「君主たる者が率先して風紀を乱していたのでは、下々への示しがつきません。他
     国への聞こえもいかがかと存じます。どうか、そのようなものを着用なさいませぬ
     よう」
      霊公は自らの非を認め、
     「わたしが悪かった。以後必ず慎しもう」
      と言った。そして、ふたりの大夫にもこのことを伝えた。だが、それを聞いたふ
     たりが、洩冶暗殺め計画を進言すると、霊公はそれをやめさせようとはしなかった。
     ついに、ふたりは洩冶を殺した。
      後に孔子はこの事件を批評している。
     「詩(太雅、板)に、
       ”よこしまの民多きとき
        ことさらに咎め立てすな”
     とあるのは、洩冶のことをいったのであろうか」

 

 Mar. 31, 2015


【抗癌最終戦観戦記 Ⅹ:マイクロRNA測定技術】

7月24日、国立がん研究センタなどは、血液1滴で乳がんなど13種類のがんを早期発見する新しい
検査法を開発し、来月から臨床研究を始め、早ければ2020年以内に国に事業化申請する。このように
一度に複数の種類のがんを早期発見できる検査法はこれまでなく、人間ドックなどに導入されれば、
がんによる死亡を減らせる可能性がある。検査法では、細胞から血液中に分泌される、遺伝子の働き
を調節する微小物質「マイクロRNA」を活用する。がん細胞と正常な細胞ではマイクロRNAの種
類が異なり、一定期間分解されない。同センターや検査技術を持つ東レなどは、がん患者ら約4万人
の保
存血液から、乳房や肺、胃、大腸、食道、肝臓、膵臓(すいぞう)など13種類のがんで、それ
ぞれ固有のマイク
ロRNAを特定した。血液1滴で、がんの「病期(ステージ)」が比較的早い「1
期」を含めすべてのがんで95%だった
以上(乳がんは97%)だったという(「血液1滴 がん13
種早期発見  3年めど事業化」 読売新聞,2007.07.24)。このように、1滴の血液や尿、唾液から、
がんの早期を実現する(下の2図参照)、そんな人工知能(AI)を背景とした臨床検査が確立されよ
うとしている。

2014.8.18

測定(検査)原理は、マイクロ
RNAを内包するエクソソーム(exosome)という、さまざまな細胞が
分泌し放出する粒子で、細胞間の情報伝達などに関わり、がんはこの「エクソソームを利用し、周囲
の細胞を“教育”し支配下に置くメカニズムをもち、このマイクロRNAを内包するエクソソームを媒
介としがんが増悪や転移を引き起こす(下図参照)。
タンパク質複合体又は「エクソソーム」と呼ばれる小
胞に包まれて分泌され、体液中で安定し、高感度の検出ができ、 血液中のマイクロRNAの種類・量を特定す
ることにより、病気を意識できない段階で、早期のがん発見できる。



さらに、マイクロRNAの解析やデータベース化に、人工知能の手法の一種である「ディープラーニン
(深層学習)」を採り入れ、マイクロRNAによる乳がんの診断アルゴリズムに試験導入し、驚くべ
き結果をえる。
がん診断マーカーとしてのマイクロRNAの特徴には腫瘍が小さいうちから、がん細
胞の特徴を反映でき、例えば大腸がんでは、CA19-9CEAのような現行の腫瘍マーカーでは、Ⅰ期ス
テージ1)のような早期段階では異常を検出しにくい。病期が進むほど検出率が高くなるのが、従来
のマーカーであっが、これに対しマイクロRNAは、ステージⅠのがんも十分に検出可能。腫瘍の大きさ
や病期によらずどの段階でも有効なマーカーとなり得るというわけだ。



この様に、「デジタルヘルス事業」の「がん診断マーカーとしてのマイクロRNA」を含む検査システム
のコスト展
開は急速に逓減していくだろう。少し気になるのは検査時間(診断も含め)の品質展開が
どうなっているかであ
る(できれば、数分以内に結果が出ればと考える)。

※ 関連特許:WO2015190591 A1  乳がんの検出キット又はデバイス及び検出方法 東レ株式会社 他



     

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』      

    第43章 それがただの夢として終わってしまうわけはない

  旅行のあいだの記憶はなぜかとても漠然としていた。日記帳かおりのノートブックに記録され
 ているのは、訪れた土地の名前、泊まった施設、食べたもの、車の走行距離、一日分の支出、そ
 の程度のものだ。記述は気まぐれで、いかにも素っ気なかった。心情や感怨みたいなものはとこ
 にも見当たらない。たぶん書くべきことが何もなかったのだろう。だから日記を読み返しても、
 ある一日とほかの一日の区別がほとんどつかない。記されている地名だけを見ても、それがどん
 なところだったか思い出せない。地名すら書いていない日もたくさんある。同じような風景、同
 じような食べ物、同じような気候(寒いか、それほど寒くないか、その二種類の気候しかそこに
 はなかった)。今の私に思い出せるのは、そのような単調な反復の感覚だけだ。

  小型のスケッチブックに描かれた風景や事物は、日記よりはもう少しありありと私の記憶を蘇
 らせてくれた(カメラは持っていかなかったから、写真は一枚も残っていない。その代わりにス
 ケッチをした)。とはいえ私はその旅行のあいだ、それほど多くの絵を描いたわけではない。時
 間を持てあましたときに、短い鉛筆やボールペンを手にとって、そのへんの目につくものを気ま
 ぐれにスケッチしていただけだ。道ばたの草花や、犬や描や、あるいは山並みなんかを。ときお
 り気が向くと周りにいる人物のスケッチもしたが、そのほとんどは請われて相手にあげてしまっ
 た。



  日記の四月十九日のページのいちばん下に「昨夜・夢」という記述があった。それ以上のこと
 は何も書かれていない。私かその宿に泊まっていたときのことだ。そしてその「昨夜・夢」とい
 う文字の下に、2Bの鉛筆で太いアンダーラインがぐいと引かれていた。日記に記し、わざわざ
 アンダーラインまで引いたからには、きっと特別な意味を特つ夢であったはずだ。しかしそこで
 どんな夢を見たのか、思い出すまでに少し時回がかかった。それから記憶が一気に蘇った。
  私はその日の明け方近くにとても鮮明な、そして淫扉な夢を見たのだ。

  夢の中で私は広尾のマンションの一室にいた。私とユズが六年間、二人で暮らしていた部屋だ。
 ベッドがあって、妻が▽人でそこに寝ていた。私はその姿を天井から見下ろしていた。つまり私
 は空中に浮かんでいたことになる。しかしそのことをとくに不思議には思わなかった。その夢の
 中では、自分か空中に浮かんでいるのは、私にとってごく当たり前のことだった。決して不自然
 な出来事ではない。そして言うまでもなく、私はそれを夢だとは思っていなかった。宙に浮かん
 でいる私にとってそれは、あくまで今そこで実際に起きていることだった。

  私はユズを起こさないように、静かに天井から下に降りていった。そしてベッドの足元に立っ
 た。私はそのとき性的にとても興奮していた。とても長いあいだ彼女の身体を抱いていなかった
 からだ。私は彼女がかけていた布団を少しずつ剥いでいった。ユズはずいぶん深く眠り込んでい
 るらしく(あるいは睡眠導人別を飲んでいたのかもしれない)、布団をすっかりとっても、目を
 覚ます気配も見せなかった。身動きひとつしなかった。そのことで私はより大胆になった。ゆっ
 くり時間をかけて彼女のパジャマのズボンを説がせ、下着をとった。談いブルーのパジャマと、
 白い小さなコツトンの下着だった。それでも彼女は目を覚まさなかった。抵抗もせず、声もあげ
 なかった。

  私はやさしく彼女の脚を開き、指でヴァギナに触れた。それは温かく開き、じゆうぷんに湿っ
 ていた。まるで私に触られるのを待ち受けていたみたいに。私はもう我慢できなくなり、堅くな
 ったペニスを彼女の中に押し入れた。というか、その場所は私のペニスを温かいバターのように
 受け入れ、積極的に呑み込んでいった。ユズは目を覚まさなかったが、そこで大きく息をつき、
 小さな声を上げた。こうされるのを待ちかねていた、という声だった。乳房に手を触れると、乳
 首が果実の種のように硬くなっているのがわかった。



  彼女は今、何か深い夢を見ているのかもしれない。私はそう思った。そしてその夢の中で私の
 ことを、別の誰かと間違えているのかもしれない。というのはもう長いあいだ、彼女は私に抱か
 れることを拒んできたからだ。しかし彼女がどんな夢を見ていようと、その夢の中で私をほかの
 誰と取り違えていようと、私は既に彼女の中に入ってしまっていたし、今さらそれを中断するこ
 とはできなかった。もし行為の途中で目が覚めたら、ユズは相手が私であることを知ってショッ
 クを受けるかもしれない。腹を立てるかもしれない。でももしそうなったとしても、それはその
 ときのことだ。今はこのまま行き着くところまで行くしかない。私の頭は激しい欲望のために、
 ほとんど聯が切れた川のような状態になっていた。

  私は最初のうち、眠っているユズを起こさないように、過度の刺激を避けて静かにゆっくりと
 ペニスを動かしていたが、やがて自然にその動きは遠くなっていった。彼女の内側の肉は私の到
 来を明らかに歓迎し、より荒々しい動きを求めていたからだ。そしてほどなく私は射精の瞬間を
 迎えた。もっと長く彼女の中に入っていたかったが、それ以上自分をコントロールすることは不
 可能だった。それは私にとってずいぶん久しぶりの性交だったし、彼女は眠りの中にありながら、
 これまで見せたことのないような積極的な反応をしていたからだ。

  射精は激しく、幾度も幾度も繰り返された。精液は彼女の内側で溢れ、ヴァギナの外にこぼれ
 落ち、シーツをべっとりと濡らせていった。止めようとしても、私にはなすすべがなかった。こ
 のまま射精を続けたら、自分はこのまま空っぽになってしまうのではないかと心配になるほどだ
 った。それでもユズは声をあげることもなく、息を乱すこともなく、こんこんと眠り続けていた。
 しかしその一方で、彼女の徨は私を解放しようとはしなかった。それは確固とした意思を持って
 激しく収縮し、いつまでも私の体液を搾り続けた。

  そこで私ははっと目を覚ました。そして自分か実際に射精していることに気づいた。下着が多
 量の精液で濡れていた。私はシーツを汚さないように急いで下着を説ぎ、洗面所でそれを洗った。
 それから部屋を出て、裏口から庭の温泉に入った。壁も天井もない剥き出しの露天風呂なので、
 そこに着くまではおそろしく寒いが、いったん湯に身体を沈めてしまえばあとは芯まで温かくな
 る。



  夜明け前のひっそりとした時刻、私は一人きりでその湯につかり、湯気のために水が溶けて、
 水滴となってしたたり落ちる音を聞きながら、何度も何度もその光景を頭の中に再現した。それ
 はあまりに生々しい感触を伴う記憶だったので、とても夢だとは思えなかった。私は本当にあの
 広尾のマンションを訪れ、本当にユズと性交したのだ。そうとしか考えられなかった。私の両手
 はユズの肌の滑らかな感触をありありと記憶していたし、私のペニスにはまだ彼女の内側の感触
 が残っていた。それは私を激しく求め、私にぴったりしがみついていた(あるいは彼女は別の誰
 かと取り違えていたのかもしれないが、とにかくその相手は私だった)。ユズの性器はペニスを
 まわりから締め付け、私の精液を一滴残らず自分のものにしようとしていた。

  私はその夢について(あるいは夢のようなものについて)、ある種のやましさを感じないでも
 なかった。要するに私は想像の中で妻をレイプしたのだ。眠っているユズの衣服を剥ぎ取り、相
 手の了解もなく性器を挿入したのだ。たとえ夫婦間であっても、一方的な性交が法的に暴力行為
 とみなされることはある。そういう意味では私の行為は決して褒められたものではなかった。し
 かし結局のところ、客観的に見ればそれは夢なのだ。私が眠りの中で休験したことなのだ。人々
 はそれを夢と呼ぶ。私が意図してその夢をつくりあげたわけではない。私がその夢の筋書きを書
 いたわけではない。

  とはいえそれが私が望み、求めたおこないであることも確かだった。もし現実に――夢ではな
 く――その上うな状況に置かれていたら、私はやはり同じことをしていたかもしれない。眠り込
 んでいる彼女の衣服をそっと剥ぎ取り、彼女の中に勝手に押し入っていたかもしれない。私はユ
 ズの身体を抱きたかったし、彼女の中に入りたかった。私はそのような強い欲望に取りつかれて
 いた。そして私は夢の中でそれを、おそらく現実より誇張されたかたちで実現することになった
 (逆の言い方をすれば、それは夢の中でしか実現できないことだった)。

  そのリアルな性夢は、一人で孤独な旅を続けている私に、しばらくのおいたある種の幸福な実
 感をもたらしてくれた。浮揚態とでも言えばいいのだろうか。その夢のことを思い出すと、自分
 はまだひとつの生命として、この世界に有機的に結びついているのだと感じることができた。論
 理でもなく、観念でもなく、あくまでひとつの肉感を通して、私はこの世界に繋ぎとめられてい
 るのだ。

  しかしそれと同時に、おそらく誰かが――どこかの別の男が――そのような感覚を、ユズを相
 手に実際に昧わっているのだと思うと、私の心は差し込むような痛みを覚えた。その誰かは彼女
 の堅くなった乳首を触り、白い小さな下着を覗かせ、彼女の湿ったヴァギナの中に性器を挿入し、
 何度も射精しているのだ。そのことを想像すると、自分の内側で血が流されているような痛切な
 感覚があった。それは(思い出せる限り)私が生まれて初めて経験する感覚だった。
  それが四月十九日の明け方に私が見た不思議な夢だった。そして私は日記に「昨夜・夢」と記
 し、その下に2Bの鉛筆で太いアンダーラインを引いたのだ。



  そしてちょうどその時期に、ユズは受胎したことになる。もちろんピンポイントで受胎日を特
 定することはできない。しかしその頃といってもおかしくはないはずだ。
  免色の語ってくれた話によく似ている、と私は思った。ただし免色は実際に生身の相手と、オ
 フィスのソファの上で性交をした。夢の中の出来事ではない。そしてちょうどその頃に相手の女
 性は受胎した。彼女はその直後に年上の資産家と結婚し、ほどなく秋川まりえを出産した。だか
 ら秋川まりえが自分の子供ではあるまいかと免色が考えるのは、それなりに根拠のあることだっ
 た。ささやかな可能性かもしれないが、現実としてあり得ないことではない。しかし私の場合、
 私とユズとのコ枚の性交は、あくまで夢の中で起こったことにすぎない。そのとき私は青森の山
 中にいて、彼女は(おそらく)東京の都心にいた。だからユズがこれから出産しようとしている
 子供が私の子供であるはずはない。論理的に考えるなら、ものごとは実にはっきりしている。そ
 んな可能性はまったくのゼロだ。もし論理的に考えるなら。

  しかしそうやってあっさりと論理だけで片付けてしまうには、私か見た夢はあまりにも鮮烈だ
 った。そしてその夢の中でおこなわれた性行為は、六年にわたる結婚生活のあいだに、私がユズ
 を相手におこなったどんな実際のものより印象的であり、遥かに強い快楽を伴っていた。射精を
 何度も何度も続けていた瞬間、私の頭の中はすべてのヒューズが同時にはじけ飛んだような状態
 になっていた。現実のいくつもの層が溶けて頭の中で混じり合い、重く混濁した。まるで世界の
 原初のカオスのように。
  そんな生々しい出来事ただの夢として終わってしまうわけはない――それが私の抱いた実感
 だった。その夢はきっと何かに結びついているはずだ。それは現実に何かしらの影響を及ぼして
 いるはずだ。 


                                     この項つづく 
 

 

 Chilled Tofu with Myoga

● 痩せた茗荷で冷や奴

ことしは茗荷は異常気象で茗荷の実が小さく痩せているのと彼女が言う例年なら、天麩羅、ピクル
ス、漬け物(香物)と夏を彩る食采。摘み立てのそれを見せる。などほど「痩せているね」と言う
と「あなたの贅肉を分けてやってはどうなの」と皮肉を言うので「きみは茗荷でなくて毒(ぶす)
だね」とやり返す。それでも、冷や奴にそれを刻みトッピングしたもの小皿に乗せ差し出す。醤油
を垂らし頂く。口の中でガラスの風鈴が鳴り響いた。

 

コメント
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夢だけでは終わらない

2017年07月24日 | 神道物語

 

            

                         宣公三年(- 606) 鼎の軽重  / 楚の荘王制覇の時代 


                                                

   ※ 楚の荘王はすでに内乱を静め外患を除き、まさに朝日の昇るがごとき勢い。晋兵を北
     林に敗って、鄭を服せしめ、今また陸渾の戎を伐った余勢を駆って、周の円筒近くで
     観兵式を行なった。彼の眼中にはもはや周の王室もない。
     【経】 三年、春、楚子、陸渾の戎を伐つ。

   ※ 陸即地方(河南俗談邱県)の戎を伐った楚の荘王は、そのまま軍を洛水のほとりに進
     め、周の国境でこれみよがしの示威を行なった。周の定王は大矢玉孫満を使者として
     差しむけ、その功をねぎらわせた。その会見の席上、荘王は眉王室に伝わる鼎のこと
     を話題に持ち出し、その大小、縦貫をたずねた。

     「鼎の価値は、所有者の徳しだいで決まるのであって、鼎自体の大小、言言とは無関
     係であります」と、使者の王孫満はきり返した。「むかし、夏王の徳治が天下に行き
     届いていた時代、遠方の諸国に令じてその地に摺息する怪物の類を描いた模様を献上
     させたことがありました。夏王はこの献上物が届くと、さらに九州の長官に兪じて鼎
     の材料を集めさせ、その材料でこれらの怪物をかたどった鼎を鋳造させたのです。こ
     うして人民にありとあらゆる怪物の姿をあらかじめ示すとともに、その魔性の恐ろし
     さを周知徹底させたおかげで、人民は沼沢山林に踏み入っても、魔物にも逢わず、山
     川の悪病神にとりつかれる心配もなかったのです。かくて夏王の徳は上下をしっくり
     と一致させ、天佑をさずけられました。

     しかるにその夜桀王が現われて無道を行なったため、この鼎は夏から殷に移りました。
     さらに六百年たち、紂王が現われて暴言にふるまうと、この鼎は殷から周に移ったの
     です。つまり、鼎の軽重は所有者の徳しだいで決まります。鼎自体は小さくとも、所
     有者が明徳の持ち主であれば、鼎はどっしり腰を据えて、いくら他へ移そうとしても
     移せません。反対に、鼎自体は大きくとも、所有者がよこしまであれば、それは軽々
     と他へ移ってしまいます。

     明徳の持ち主が授かる天佑にも、おのずから限度があります。かつて或王がこの鼎を
     郊鄩(こうじょく)周邦の雒邑(らくゆう)に安置して、周の将来を占ったところ、
     三十世、七百年は続くという託宣でありました。これが天の定めた限度であります。
     してみれば、今日、周王の徳は衰えたりとは申せ、天命はまだ改まったわけではあり
     ません。したがってまだ鼎の軽重を問われるときではないと存じます」

   ★ 威勢赫々たる荘王にぐうの音も出させなかった王孫満。周の王室衰えたりといえども、
     なお人ありというべきである。二十年前の靉の戦いの直前、秦軍の敗北を予言した王
     孫肩は「年なお幼かった」から、この時まだ三十歳にも副たぬはずである。
      



● 7・30 大橋悠依選手パブリックビューイングで応援

    

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』      

     第42章 床に落として割れたら、それは卵だ  

  「ひとつ君に頼みたいことがあるんだ」と私は雨田に言った。そろそろ話を切り上げて、寝支度
  をしようかという頃だった。時計の針は11時前を指していた。
 「おれにできることならなんでも」
 「よかったら、君のお父さんに会ってみたいんだ。その伊豆の施設に行くときに、ぼくを一緒に
  連れていってもらえないかな?」
  雨田は珍しい生き物を見るような目で私を見た。「うちの父親に会ってみたい?」
 「もし迷惑じゃなければ」
 「もちろん連惑なんかじゃないよ。ただね、今の父親はもう、筋の連った話ができる状態じゃな
  くなっている。混沌とした、ほとんど泥沼みたいなことになっている。だからもしおまえが何か
 そういう期待を待っているのだとしたら……つまり雨田典彦という人物から何か意味のあるもの
 を受け取りたいと望んでいるのだとしたら、がっかりするかもしれない」
 「そういうことは期待していない。ぼくとしてはコ皮でいいから君のお父さんに会って、しっか
 り顔を見ておきたいんだ」
 「どうして?」

  私は一息ついて、居間の中を見回した。そして言った。「もう半年この家で暮らしている。お
 父さんのスタジオで、お父さんの椅子に度って緒を描かせてもらっている。お父さんの使ってい
 た食器で食事をし、お父さんのレコードを聴かせてもらっている。そうやっていると、実にいろ
 んなところに彼の気配みたいなものを感じるんだ。だから雨田具彦という人物と、コ皮でもいい
 から実際に顔を合わせておかなくてはという気がしたんだ。たとえまともに話ができなくても、
 それはかまわない」
 「ならいいんだ」と雨田は納得したように言った。「おまえが行ったところで、うちの父親はと
 くに歓迎もしないし、いやがりもしないよ。誰が誰だかもう見分けがつかなくなっているからさ。
 だからおまえを一緒に連れて行くことには何の問題もない。近いうちにまた伊豆高原の施設に行
 くことになると思う。もうあまり長くはないだろうと、医者に宣告されている。いつ何かがあっ
 てもおかしくはない状況だ。おまえの予定がなければ、そのときに一緒に連れて行くよ」

  私は予備の毛布と枕と布団を持ってきて、居間のソファに寝支度をととのえた。そして部屋の
 中をもうコ皮ぐるりと見回し、騎士団長の姿が見えないことを確認した。もし雨田が夜中に目を
 覚まし、そこで騎士団長の姿を飛鳥時代の衣裳に身を包んだ体長六十ンチの男を目にしたら、き
 っと肝を潰すだろう。自分がアルコール中毒になったと思い込んでしまうかもしれない。`
  騎士団長のほかに、この家の中には「白いスバル・フォレスターの男」がいた。その絵は人目
 につかないように裏向きにしてある。しかし真夜中の暗闇の中で、私の知らないあいだにどんな
 ことが持ち上がっているか、ちょっと見当もつかない。

 「朝までぐっすりと眠れるといいんだけど」と私は雨田に言った。それは本心からの言葉だった。

  私は雨田に予備のパジャマを貸してやった。だいたい同じくらいの休型なので、サイズに問題
 はなかった。彼は服を説いでそれに着替え、用意した布団の中に潜り込んだ。部屋の空気は少し
 冷えていたが、布団の中はじゆうぶん温かそうだった。

 「おれのことを怒ってないか?」と最後に彼は私に尋ねた。
 「怒ったりしていない」と私は言った。
 「でも、少しくらいは傷ついているだろう?」
 「かもしれない」と私は認めた。少し傷つくくらいの権利は私にもあるはずだ。
 「でもコップにはまだ水が十六分の一も残っている」
 「そのとおり」と私は言った。

  それから私は居間の明かりを消し、自分の寝室に引き上げた。そして少しばかり傷ついた心と
 共に、ほどなく眠りに就いた。

    第43章 それがただの夢として終わってしまうわけはない

  目を覚ましたとき、あたりはもうすっかり明るくなっていた。空は灰色の薄い雲にくまなく覆
 われていたが、それでも太陽はその恵み深い光を、地上に談く静かに往いでいた。時刻は七時少
 し前たった。
  洗面所で顔を洗ってから、コーヒーメーカーをセットし、そのあとで居間の様子を見に行った。
 雨田はソファの上で布団にくるまって深く眠っていた。目を覚ます気配はまったく見えない。そ
 ばのテーブルの上には、ほとんど空になったシーヴァス・リーガルの瓶が置かれていた。私は彼
 をそのままにして、グラスと瓶をかたづけた。

  私にしてはかなりウィスキーを飲んだはずだが、二日酔いの気配はなかった。頭はいつもの朝
 のようにすっきりとしていた。胸やけもしていない。私は生まれてから二日酔いというものを経
 験したことがない。どうしてかはわからない。たぶん生まれつきの体質なのだろう。どれだけ飲
 んでも、一晩眠って朝を迎えれば、アルコールの痕跡はすっかり消えてなくなっている。朝食を
 とって、すぐさま仕事にとりかかることができる。

  トーストを二枚焼いて、卵二つの目玉焼きをつくり、それを食べながらラジオのニュースと天
 気予報を聴いた。株価が乱高下し、国会議員のスキャンダルが発覚し、中東の都市では大がかり
 な爆破テロ事件があって多くの人が死んだり傷ついたりしていた。例によって、心が明るくなる
 ようなニュースはひとつも聞けなかった。しかし私の生活に今すぐ悪い影響を及ぼしそうな事件
 は起こっていなかった。それらは今のところどこか遠くの世界の出来事であり、見知らぬ他人の
 身に起こっている出来事だった。気の毒だとは思うが、それに対して私に今すぐ何かができるわ
 けではなかった。天気予報もまずまずの気候を示唆していた。素晴らしい日和とも言えないが、
 それほどひどくもない。一日中うっすら曇ってはいるものの、雨が降るようなことはないだろう。
 たぶん。でも彼人たちは、あるいはメディアの人々は利口だから、「たぶん」というような曖昧
 な言葉は決して用いない。「降水確率」という便利な(誰も責任を負う必要のない)用語がその
 ために用意されている。

  ニュースと天気予報が終わると私はラジオを消し、朝食に便った皿と食器を片付けた。そして
 食卓の前に座って、二杯目のコーヒーを飲みながら考えごとをした。普通の人なら配達されてき
 たばかりの朝刊を広げて読むところだが、私は新聞をとっていない。だからコーヒーを飲み、窓
 の外にある立派な柳の木を眺めながら、ただ考えごとをした。

  私はまず、出産を控えている(という)妻のことを考えた。それから彼女はもう私の妻ではな
 いのだということにふと気づいた。彼女と私とのあいだには、もはや何の繋がりもない。社会契
 約上も、また人と人との関係においても。私はもうおそらく彼女にとっては何の意味も持たない
 よその人間になってしまっているのだ。そう考えるとなんだか不思議な気がした。何ケ月か前ま
 
では毎朝一緒に食事をし、同じタオルと石鹸を使い、裸の身体を見せ合い、ベッドを共にしてい
 たというのに、今ではもう関係のない他人になっている。

  そのことについて考えているうちに次第に、私自身にとってすら私という人間が意味を持たな
 い存在であるように思えてきた。私は両手をテーブルの上に置き、それをしばらく眺めてみた。
 それは疑いの余地なく私の両手たった。右手と左手が左右対称にほぼ同じ格好をしている。私は
 その手を使って絵を描き、料理をつくってそれを食べ、ときには女を愛撫する。しかしその朝は、
 それらはなぜか私の手には見えなかった。手の甲も、手のひらも、爪も、掌紋も、どれもこれも
 見覚えのないよその人間のもののように見えた

  私は自分の両手を眺めるのをやめた。かつて妻であった女性について考えるのもやめた。テー
 ブルの前から立ち上がり、浴室に行ってパジャマを説ぎ、熱いシャワーを浴びた。丁寧に髪を洗
 い、洗面所で髭を剃った。それから再び、子供を私の子供ではない子供をやがて出産しようとし
 ているユズのことを考えた。考えたくはなかったけれど、考えないわけにはいかなかった。


  彼女は妊娠七ケ月くらいになっている。今から七ケ月前というと、だいたい四月の後半になる。
 四月の後半に私はとこで何をしていただろう? 私か一人で家を出て、長い一大飯に出だのは三
 月の半ばだ。それからずっと年代物のプジョー205を運転して、東北と北海道をあてもなくま
 わっていた。旅行を終えて東京に戻ってきたのは、五月に入ってからだ。四月後半といえば、北
 海道から青森に渡った頃だ。函館から下北半島の大間まで、移勣にはフェリーを使った。

  私は飯のあいだつけていた簡単な日記を抽斗の奥から出して、その頃自分かどのあたりにいた
 かを調べてみた。私はその時期、海岸から離れて、青森の山の中をあちこち移勤していた。もう
 四月も半ばを過ぎていたが、山間部はまだまだ冷え込んで、雪もしっかりと残っていた。どうし
 てわざわざそんな寒いところに行こうと思ったのか、理由はよく思い出せない。正確な地名はわ
 からないが、湖の近くの人気のない小さなホテルに何日か続けて宿泊していたことを覚えている。
 素っ気のないコンクリートの古い建物で、食事はかなり質素だったが(でもまずくはない)、宿
 泊費は驚くほど安かったからだ。そして庭の隅には一日中入れる小さな露天風呂までついていた。
 春の営業を再開したばかりで、私の他に泊まり客はほとんどいなかったと思う。

ここはコメントなしで次回へ。

                                      この項つづく
 

      
● 読書録:高橋洋一 著「年金問題」は嘘ばかり   

         第2章 「日本の年金制度がつぶれない」これだけの理由

     賦課方式は、ずっと制度が続くことを前提にしていますので、「負債」と「資産」は
   必ずバランスするよう計算されなくてはいけませんし、債務超過は発生しません。
    ところが、「日本の年金は積立不足だ」と指摘する人がいます。なぜでしょうか。そ
   れは、バランスシートを途中で区切って見ているからです,

    未来永劫合わせた年金資産と年金負債でバランスシートをつくれば、「保険料」=
   「給付額」という式から、資産と負債は必ず一致しますが、どこかの時点で途中で区切
   ると、負債のほうが大きくなります。
    年金がスタートした時点のことを考えてみると、その理由がわかります。
    昭和三十六年に国民皆年金がスタートしましたが、スタート時点で、すでに高齢者に
   なっている人もたくさんいました。
    仮に積み立て方式でスタートしたとすると、二〇歳の人は六〇歳まで四〇年間積み立
   てて、六〇歳以降は自分の積み立てた分をもらえますから、何の問題もありません。四
   〇歳の人も二〇年くらいは積み立てることができます。将来受け取る額は少なくなりま
   すが、四〇歳の人もそれほど問題はないでしょう。
    しかし、六〇歳の人、八〇歳の人は、すでにリタイアしていますので、積み立てるこ
   とができません。「あなたたちは、一円も積み立てていないから、もらえませんよ」と
   政治家がいうのはまず無理です。

    国民皆年金を積立方式でスタートさせることは難しいため、結果的に、現役世代の保
   険料を老齢世代の給付に充てる賦課方式にすざるをえなくなります。
    最初のうちは、保険料を一円も納めていない人にも給付をせざるをえません。「保険
   料を納めていないのに、給付を受ける人」が出てきます。単年でバランスシートをつく
   れば、必ず赤字になります。その分は、税金などで補填するしかおりません。
    しかし、制度が長く続いていくと、「納めていないのに受け取る人」が減っていきま
   すから、赤字がなくなってバランスしてきます。ものすごく長い目で見ると、保険料と
   給付はきちんとバランスします。

    最終的には必ずバランスして、不足はなくなりますが、どこか途中でバランスシート
   を切り取ってしまうと、保険料を納めずに受け取っていた人の分かおりますから、債務
   超過になります。

    ・未来永劫すべて合わせたバランスシート↓「資産」と「負債」が一致
    ・ある時点で切り取ったバランスシートー↓「債務超過」になる

    日本は人口が多く、加入音数が膨大です。保険料を払わずに年金を受け取った人もた
   くさんいますので、その人たちの分を全部足すとかなり大きな額になります。人数が多
   いので額も大きくなるのです。
    制度が成熟するにつれて、保険料と給付が一致してきますから、不足分は解消されて
   いきます。不足額が大きいからといって、不安になる必要はありません。不足額が年々
   増えているのであれば問題ですが、少しずつでも減っているのであれば問題はありませ
   ん。時間はかかるかもしれませんが、いずれは解消されます。
    額の問題ではなく、増えているのか減っているのかが重要です。減っているのであれ
   ば、どのくらいのスビードで減っていくのか。制度改正によって、保険給付を抑えた
   り、保険料率を高めたりすれば、減っていくスピードは上がります。

               第2章11節 年金は、なぜ「積立不足」といわれるのか?


     制度設計が正しくても、「経済政策」が悪いと絵に描いた餅になる

    政府は、5年に1回「財政検証」というものをしています。「財政検証」は、人ロや
   経済の実績を織り込んで、公的年金財政の健全性を検証するものです。
   「財政検証の前提条件となっている数字が実態と違いすぎる」という批判がよくありま
   す。
    平成21年(2009年)の財政検証では、平誠二十八年度(2018年度)以降の
   運用利回りを名目4・1%(経済中位ケース)としていました。物価上昇率は1%実
   質賃金上昇率は1・5%という想定でした。これに対して「4・1%の利回りの想定が
   高すぎる」という批判がありました。
    しかし、名目成長率を四%にできれば、長期金利が四%になることは普通のことです
   から、それほどおかしな数字ではありません。
    名目成長率が4%というと、「実態とかけ離れているのでは」と感じる人もいるかも
   しれませんが、2%近辺のインフレ率を達成できれば、リーマンショック級の経済苦境
   さえなければ、4%程度の名目成長率は、けっして夢物語ではありません(図6参照)。
   むしろ十分に達成しうる目標値です。



    思えば、2009年はリーマンショックの翌年でした。そのころの経済状況から見る
   と、途方もない数字に見えたのでしょう。その年に民主党に政権交代しましたが、民主
   党政権金融政策にまったく疎く、インフレ目標の設定なども、もちろんなされません
   でした。
    当時は、マクロ経済政策をきちんとしていなかったため、現実と想定との乖離がいっ
   そう大きくなりました。政府が経済政策をきちんとしていなかったのですから、「想定
   数字が甘い」と批判を受けるのは無理もありませんでした。

    しかし、安倍政権へ交代したあとの経済指標を基準にすれば、当時の想定数字はそれ
   ほどおかしなものには映りません。政府日銀のマクロ経済政策ができていないと、理想
   的すぎる想定に見えますが、マクロ経済政策ができていれば、想定が間違っていたとは
   いえなくなります。
    合計特殊出生率の見積もりが甘いという批判もよくありますが、経済政策がきちんと
   できていれば、多少の少子化はカバーできます。繰り返し述べているように、納付され
   る保険料は、「人数」×「所得」で決まります。人数だけの問題ではありません。
   要するに、「財政検証」の想定に問題があるのではなく、「マクロ経済政策の良し悪し
   の問題」なのです。「経済政策の問題」を「年金の問題」と混同してしまってはいけま
   せん。

    平成二十六年(2014年)の財政検証ではケースAからケースHの8ケースが想定
   されています。ケースAの想定は、物価上昇率2・0%、実質賃金上昇率2・3%、実
   質運用利回り3・4%、実質経済成長率1・4%です。まったくおかしな数字ではあり
   ません,
    重要なことは、名目成長率四%くらいになるような経済環境をつくることです。経済
   政策ができていないと、どんなにすばらしい年金制度をつくっても、行き詰まります。
   経済政策が良ければ、年金制度はきちんと回っていきます。
    アベノミクスでは、雇用を増やしましたが、これは非常に重要なことです。私の勤務
   している大学では、就職内定率が九五%を超えました。「大学の進路指導が良かった」
   といいたいところですが、そうとばかりはいえません。他の大学も軒並み就職内定率が
   上がっていろからです。

    ここまで就職内定率が高くなったのは、経済環境のおかげです。

    アベノミクスの金融政策を批判する人がいますが、そもそも金融政策というのは、
   用拡大のためにやるものです。アメリカの中央銀行は「雇用の最大化」を政策目標とし
   て明確化しています。「雇用拡大は金融政策で実現すべき」というのは、日本以外の
   ではもはや常識なのです
    そこに目をつぶってアベノミクスの金融政策を批判するのは自由ですが、では、その
   ような論者が考えている政策で雇用拡大はなしえたのでしょうか? 民主党政権前後の
   経済政策を考えれば、およそそのような政策に見込みがないことは明白ではないでしょ
   うか,

    まずは職があること。そのうえで、賃金が上がればさらによしです。学生が卒業して
   職に就けなければ、将来を見通せなくなります。年金保険料も払うことができず、将来
   の年金額は少なくなってしまいます。仮に内定先の給料が低いとしても、それでも、と
   もかくまずは職を持つことが重要です。
    若者の年金を心配するなら、雇用を増やす経済政策をすることです。


      第2章12節 制度設計が正しくても、「経済政策」が悪いと絵に描いた餅になる


      公的年金を「税方式」でやったほうがいいか?

    社会保障には、「保険方式」と「税方式」かおるといわれます。日本の場合は、本書
   でこれまで見てきたとおり、「保険方式」です。
    一方、税方式でやっている国は、ニュージーランドなどいくつかの国しかおりません。
   社会保険料は、英語では「ソーシャル・セキュリティ・タックス」と呼ばれており、税
   金と同じタックスの扱いです。しかし、ほとんどの国では、年金制度自体は「税方式」
   ではなく、「保険方式」で運営されています。

    保険方式の場合は、保険料の支払いに応じて給付が行なわれます。負担と給付の関係
   が明確ですから、管理する際には、誰がどれだけ保険料を納めたかという個人ペースの
   徴収履歴を残しておかなければなりません。ニュージーランドが税方式にしていたのは、
   コンピュータ化が進む前は、個人の徴収履歴を紙で管理するのが大変だったという理由
   もあります,              

    税方式の場合は、一律に給付が行なわれますから、誰がいくら払ったのかという個人
   ベースの記録を残す必要はありません。税金を納めていない人にも、一律に年金は支払
   われます。
    アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど主要先進国の制度はすべて保険方式です。
   それは、負担と給付の関係を明確にするためです。

    公的年金制度を実現する際には、負担と給付の関係を明確にしなければ不公平感が生
   まれて、国民の納得を得られません。税方式は、たくさん負担した人も、負担しなかっ
   た人も、もらえる額は一律になり、不公平感が生まれます。
    保険方式にして「保険料を多く納めた人には、保険料をあまり納めなかった人よりは、
   給付を多くしてあげます。だけど、本当に貧しい人は、国が代わりに保険料を払っ
てあ
   げて年金をもらえるようにします」というのであれば、国民が納得しやすくなりま
す。

    厚生労働省も次のような論点を挙げて、保険方式のほうがすぐれていると主張してい
   ました。

    ①自助と自律の精神を基本としている

    ②保険料の納付実績が記録され将来の給付の根拠となるため権利として年金を主張で
     ざるという安心感がある
    ③基礎年金の給付費は今後巨額に達する見込みであることから社会保険方式を基本と
     した悦財源との組み合わせが、もっとも安定的な運営方法である
    ④
主要先進国でも公的年金はほぼ例外なく社会保険方式を採用している

    先進国では保険方式を採用したあとで、税方式に変えた国はありません。途中から税
   方式に変えた場合、それまでにたくさんの保険料を納めていた人と、納めていなかった
   人の扱いが同じになってしまいます。保険料をたくさん払った人は納得しないでしょう。
    保険料を納めていた人が全員死亡するまで、30年も40年もかかりますから、税方
   式の移行には、膨大な時間がかかります。さらにいえば、移行期間は保険方式と税方式
   が併存するため、混乱が生じかねません。
    すでに保険料が法的には税とされていることと、長い年月と多額のコストをかけてま
   で移行するメリットはないことから、どの国もずっと保険方式のままです。

    《年金の二つの方法》

    ・保険方式→負担と給付の関係が明確 →個人別記録が必要
    ・税方式 →負担と給付の関係が不明確→個人別記録は不要

    保険方式を維持しながら、「賦課方式」から「積立方式」に変えたほうがいいという
   意見もあります。
    しかし、賦課方式を積立方式に変更するのも、かなり大変です。現役世代が支払った
   保険料はすでに老齢世代に支払われてしまっているのですから、積立方式に変更すると、
   今後、現役世代は「自分の分」と「老齢世代の分」の両方を支払わなければいけなくな
   ります。
    二重の負担は大変ですから、他の国でも、賦課方式から積立方式に変更された年金制
   度はありません。実例がないから、どうやっていいのか、誰もわかりません。
    賦課方式から積立方式への移行は、移行期間を100年くらいにすれば、理論的には
   可能かもしれません(検証したことはありませんが)。ただ、制度が完全に移行するに
   はかなり時間がかかるはずであり、現実的な方法といえるかどうかはわかりません。

    ただし、賦課方式では世代間の不公平はどうしても避けられません。すでに保険料を
   払っていない人が年金をもらっている(第1章や本章で触れたように年金制度発足時に
   高齢者だった方々です)ので、その穴埋めを後世代はするだけであり、先の世代の人ほ
   ど有利ともいえます。
    世代間不公平を本当に解決したいなら、積立方式が望ましいです。この意味で、政治
   的な挑戦はありだと思っています。

               第2章13節 公的年金を「税方式」でやったほうがいいか?

                                    この項つづく
 July 23, 2017

● 南イタリアのカンピ・フレグレイ 噴火目前の臨界状態 ?!

世界でも指折りの危険な火山として知られています。そのカンピ・フレグレイ(イタリア語で「燃え
盛る畑」を意味する平原――火山の大部分は地中海の下に隠れており、海中には24個のクレーター
からなる大火山となる)が、約5百年の休止状態を終えて、ついに噴火目前の臨界状態に近づいて
いる兆候が見られると科学者が警告している(上/下図ダブクリ参照)。この研究チームによると、
1950年代、1970年代、1980年代にそれぞれ2年間の不安定な状態が続いたが、これらの時期は噴火に
必要なエネルギーに達していなかったが、今回はエネルギーが十分衣に蓄積していると指摘。イタリ
ア国立地球物理学研究所(NASA)の研究チーム(2016年12月)のカンピ・フレグレイの噴火を引き起こ
す可能性があるマグマガスの臨界圧力に近づきあるとの研究成果を裏付けるものになる。イタリア政
府は2016年12月時点で噴火の警戒レベルを「要警戒」に高めており、火山活動に注意するよう呼びか
けているが、カンピ・フレグレイがいつ噴火するのかを事前予測――カルデラ中央の表層から地下に
3キロメートル下ったマグマが今後数十年間にどのように振る舞いに依存――できるかは不明であると
している。

尚、20万年前の噴火によって約3.7兆リットルの溶岩が噴出し火山が崩壊するとともに巨大なカル
デラが形成されたが、その大噴火によってネアンデルタール人が絶滅したとする説が、2010年に発表
されている。                                                                        
                                                                                           

  May 15,2017                                                                                              

 

 

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それでも着実な未来

2017年07月23日 | 環境工学システム論

            

         文公14元年:(‐613)~宣公18年(- 591)/ 楚の荘王制覇の時代 


                                                

   ※ 誰が霊公を殺したか:秋九月、霊公は武装具を伏せておき、酒宴にことよせて怨府
     を招いた。やはり殺す算段である。趙盾の車右の提弥明か寸前にこの陰謀を見抜い
     た。彼は宴席に駈けあがり、「臣下が主君の御宴に侍して、三拝以上酒を頂戴する
     のは礼に反しますぞ」と叫んで、趙盾を強引に堂からひきずり下ろした。気づかれ
     たと知って、霊公は二人に猛犬をけしかけた。だが、犬は提弥明かなぐり殺した。
     「わかしを殺すのに、人間でなく犬を使うとは情けない。いくら獰猛でも、犬畜生
     に何かできよう」。趙盾はそう叫んで、伏兵と切り結びつつ外へ逃れた。提弥明は、
     逃れきれずに、斬り死してしまった。趙盾が危地を脱したについては、わけがある。
     以前に趙盾が竹山へ狩猟に出掛けたときのことである。宿泊地の翳桑というところ
     で、霊輒という男が飢えて行き倒れているのにぷつかっか。

     「病気か」と趙盾がきくと、
     「三日のあいだ何も食べておりません」という返事である。ふびんに思って食物を
      あたえたところ、その男は半分食べ残した。
     「どうして全部食べないのだ」
     「わたしは奉公に出て三年になりますが、その間一度も母を見舞ってやることがで
     きませんでした。ここから在所まで程近いので、これを土産に持って行きたいと存
     じまして・・・」

     趙盾はその孝心に感服し、残り全部を食べさせたうえ、別に男の母親のために飯と
     肉とを竹の箱に詰め、袋に入れて持ちかえらせた。
     趙盾を襲った伏兵の中に、この男が加わっていたのである。かれは相手が恩人の趙
     盾だと知って、ホコ先を霊公の伏兵に向け加え、趙盾の脱出を助けたのであった。
     そうとは知らぬから、趙盾は不思議に思って男にたずねた。

     「どういうわけでわたしを助けてくれたのか」
     「わたしはいつか翳桑で行き倒れになっていたところを助けていただいたものです」
     趙盾は感謝し、男の名まえと住所をたずねた。だが、男は何も笞えずに引きさがり、
     それきり行方をくらましてしまった。

     乙丑の日、趙盾の一族の超穿が、霊公を桃園に攻めて殺した。趙盾は、亡命途中、
     まだ国境の山を越えないうちに、その知らせに接し、急遽、来た道を引き返した。
     すると大史の董狐が、「趙盾、その君を弑す」と記録に書きつけて、朝廷内に公示
     した。
     「事実無根だ」
     趙盾は抗議したが、大皮は欧り消そうとしない。その言い分は、こうである。
     「あなたは正卿の身で、逃亡なさった。ところが、亡命を果さず、おめおめ国境へ
     向う途中から引き返してしまった。してみればまだ正卿の身分は残っているわけだ
     から、反逆者を討ってしかるべきです。それを果たさなかったのだから、主君を弑
     した責任者は、あなたでなくて誰でしょう」、趙盾は、こう言って嘆いた。「ああ、
     ”わが思いの深さが、かえって悲しみのもと”(逸詩)とは、まさにわたしのこと
     だ」

     後日、孔子はこの二人を次のように批評した。

     「董狐は立派な史官であった。法を曲げずにけばからず直書した。は立派な大
     夫であった。法のために甘んじて汚名を受けた。それにしても趙盾は借しいことを
     したものだ。国境を越えてさえいれば、汚名を被らずにすんだろうに」

     その後、趙盾は趙穿を奸計として、文公の子の黒臀(成公)を周から迎え入れ、霊
     公の跡を継がせた。壬申の日、黒臀は武公の廟に詣て即位した。

   ★ 史官董狐の論断はいかにも痛烈である。まさに春秋の筆法である。いさぎよくこれ
     に服した趙盾の態度はさらにあっぱれであった。かれは、文公の娘の生んだ異母弟
     趙括を自分の後継盾として推し、自ら引責隠退したのであった。


 

 No.47

 【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅷ】

● 寄棟屋根でも太陽光パネルを10キロワット以上搭載

今月28日から積水化学工業は、寄棟タイプの屋根に大容量太陽光パネルを搭載した鉄骨系住宅「スマート
パワーステーションGR」を販売開始する。これは今年1月に発売した「スマートパワーステーション“百%
Edition”」に続く、「エネルギー自給自足百%」の実現を可能とする住宅の第2弾。この商品の特徴はは太
陽光パネル一体型の寄棟タイプ屋根(「スマートGルーフ」)で、延床面積30坪台の一般的な住宅でも10
キロワット以上の太陽光パネルが設置可能できることにあり、“百%Edition”タイプでは、13.9kWの太陽光
パネルと、12kWhの蓄電池を搭載、電動車両の蓄電池と連係する「VtoHシステム」を採用する。電気自動車
EV)に30kWhの蓄電池がある場合、理論上、「エネルギー自給自足」が実現できる。なお、太陽光パネ
ルは京セラ製。

 Jul. 7, 2017

このほかにも、ZEH(ゼロエネルギー住宅)仕様を標準化した。サッシ枠に断熱材を追加した「高断熱アル
ミ樹脂複合サッシ」を採用。標準仕様はペアガラスで、オプションとしてトリプルガラスタイプも用意。基
礎の断熱材は厚さ2倍、幅1.5倍に、天井の断熱材は厚さ1.4倍に増強し、寒冷地エリアの断熱仕様を一
般地で標準化した。
販売価格は、3.3平方メートルあたり74万円台から(税別)。なお、販売価格は延
床面積127.13平方メートルモデルプランの試算で、建物本体材料費と工事費のほか、太陽光発電システム
9.09キロワット(パネル・パワーコンディショナー含む)、蓄電池5.0キロワットアワー、HEMS、オ
リジナル全室空調システム(快適エアリー)の価格を含み。初年度700棟、次年度以降は年間千棟の販売
予定。これらの商品は、フレキシブルエネルギータイリング事業の「ソーラータイル」部門の一般住宅領域
1つの先駆事例となる。それにしても寄せ棟だけで10キロワット超とは驚きだ。

 


【ピエゾタイルの技術事例】

❏ 特開2016-134404  振動発電素子及びそれを用いた振動発電デバイス

今回は、産業機械、自動車、鉄道車両、航空機等の運転/操縦により発生する振動、あるいは、これらに伴
う道路、橋梁や建築物等の振動など人体の運動による環境振動を電気エネルギーに変換振動発電装置とその
製造方法をエプソン社の特許事例参考にし小考してみたい。

環境振動を電気エネルギーに変換方法には、✪電気-機械変換能力を有する圧電体層を電極で挟持する振動
発電素子――振動発電素子の変位が大きいほど高い発電量が期待でき、電気エネルギーの変換効率の向上を
狙い、振動発電素子と環境振動との共振利用する方法があり、✪一方、環境振動は一般に200Hz以下の
周波数をもち、通常構成の振動発電素子の共振周波数よりも低い範囲で、種々の用途等に応じた振動発電素
子の構成が要求される制約があり、その共振周波数を環境振動の周波数レベルにまで十分に低下させること
がと難しいが、これを効率的に発電――圧電体薄膜の下にある金属基板を薄くし、共振周波数の低下を図る
一方、破壊靱性低下を防ぐ材料を選定して構成――方式が提案されているが、❶圧電体層の圧電定数を向上
させ、❷また共振周波数の低下を図り環境振動との共振を好適に利用することにより、環境振動に応じた大
きな変位を得て効率的に変換できる振動発電素子/振動発電デバイスを、下図1のように、基板に、第1電
極60と、少なくともPb、Nb及びTiを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層
70と、第2電極80と、が順次積層され、圧電体層70を構成する結晶は正方晶の構造を有し、この結晶
は基板10に{100}配向しており、この結晶の格子内には、積層方向に対して垂直な(100)面及び
(001)面を有する各領域が混在させることにより、環境振動との共振を利用した大きな変位を得て効率
よく電気エネルギーに変換できる振動発電素子を具備する振動発電デバイスを実現する。以下、関連事項抜
粋掲載(詳細は図をダブクリ参照)。


【符号の説明】

1,1A~1F  振動発電デバイス、  10  基板、  11  隔壁、  12  空間、  13  インク供給路、  14  連通路、 
15  連通部、  20  ノズルプレート、  50  振動板、  51  弾性膜、  52  絶縁体膜、  60  第1電極、  70  圧電
体層、  70a  下地層、  70m  メイン層、  71  ドメイン、  80  第2電極、  120  回路、  121  配線、  300 
振動発電素子

【図1】実施形態1に係る振動発電素子を示す分解斜視図
【図2】実施形態1に係る振動発電デバイス及びその変形例を示す断面図

【概説】

✪この提案基板に、第1電極と、少なくともPb、Nb及びTiを含むペロブスカイト構造を有する複合
酸化物からなる圧電体層と、第2電極と、が順次積層され、圧電体層を構成する結晶は正方晶の構造をもち、
結晶は基板に{100}配向しり、格子内には、積層方向に対して垂直な(100)面及び(001
)面をもつ各領域
を混在させた振動発電素子。このように、90°ドメイン回転を利用し変位させる圧電体層の圧電定数を向
上させることができる
。圧電特性の優れた大きな変位を得られるので高い発電量が期待でき、環境振動を電
気エネルギー変換でき有利であり、その上、圧電体層全体の剛性を低下できるので、大きな変位がさらに得
られる。また、圧電体層全体のヤング率の低減に伴う共振周波数の低下により、共振周波数を環境振動の周
波数レベルに十分に低下できる。

✪ ここで、前記圧電体層のうち、少なくとも一部の層を構成する複合酸化物は、下記の一般式(1)で表
されるものであることが好ましい。
 
  xPb(Mg,Nb)O-(1-x)PbTiO・・・(1)
  (0.20≦x≦0.60)

これによれば、90°ドメイン回転を利用して変位を生じさせる振動発電素子の圧電定数をり向上でき、共
振周波数を環境振動の周波数レベルまで十分に低下できるため
、環境振動との共振を利用した大きな変位を
得てより効率よく電気エネルギー変換できる振動発電素子になる。

✪また、前記結晶の結晶子径D002)が15nm以下であることが好ましい。これによれば、結晶サイズが
小さい分、効率よく90°ドメイン回転を起こせるため、圧電体層の圧電定数がり向上でき、共振周波数を
環境振動の周波数レベルまで低下できる。よって、環境振動との共振を利用した大きな変位を得て効率よく電
気エネルギー変換できる。また、前記結晶格子における結晶子径D(200)及び結晶子径D(002)の比(D(200)
/D(002))が3より大きいことが好ましい。これによれば、結晶子径D(002)が結晶子径D(200)より小
さい分、効率よく90°ドメイン回転を起こすことができ、圧電体層の圧電定数をより向上でき、共振周波
数を環境振動の周波数レベルまで低下できる。
 

✪また、この圧電体層は、第1電極側に形成された下地層と、下地層上に設けられたメイン層と、を具備し
下地層は、メイン層を構成する複合酸化物のc軸と1%未満の格子整合性を有し、かつメイン層を構成する
複合酸化物のa軸及びb軸と1%以上の格子不整合を有することが好ましい。これによれば、メイン層とな
る圧電材料の配向制御が容易となり、正方晶である圧電材料のc軸成分を安定化でき、圧電体層の圧電定数
を向上ができ、共振周波数を環境振動の周波数レベルまで低下できる。また、前記メイン層を構成する複合
酸化物のc軸とa軸の比(c/a)が1.026~1.015であることが好ましい。これによれば、効率
よく90°ドメイン回転を起こし、圧電体層の圧電定数をより向上でき、共振周波数を環境振動の周波数レ
ベルまで低下でき、環境振動との共振を利用した大きな変位を得て更に効率よく電気エネルギーに変換でき
る振動発電素子となる。

✪また、下地層がPZTであることが好ましく、メイン層となる圧電材料の配向制御が更に容易となり、共
振周波数を環境振動の周波数レベルまで低下でき、環境振動との共振を利用した大きな変位を得て効率よく
電気エネルギー変換できる振動発電素子となる。また、この圧電体層全体のショートモードにおけるヤング
が、下地層のショートモードにおけるヤング率の25%未満であることが好ましい。また、圧電体層全体
のショートモードにおけるヤング率が、圧電体層全体のオープンモードにおけるヤング率の50%以下であ
ることが好ましい。オープンモードに対してショートモードのヤング率が小さい分、圧電体層全体が、圧電
効果の寄与が大きく電気-機械変換能力に優れ、環境振動を電気エネルギー変換に極めて有利である。

✪この基板と、基板により少なくとも一部が画成された空間と、空間の上部に設けられ、何れか一つに記載
の振動発電素子と、を具備することを特徴とする振動発電デバイスでは、90°ドメイン回転を利用し変位
を生じさせる圧電体層の圧電定数を向上でき、圧電特性に優れ大きな変位を得ることができ、高い発電量が
期待でき、環境振動を電気エネルギー変換に有利で。その上、圧電体層全体の剛性を低下でき、大きな変位
に有利で、圧電体層全体のヤング率の低減に伴う共振周波数の低下により、共振周波数を環境振動の周波数
レベルまで低下さできる。

【実施の形態】

図1は本発明の実施形態1に係る振動発電素子を搭載した振動発電デバイスを示す分解斜視図である。図2
(a)~(b)は発電振動デバイスの断面図であり、特に図2(b)は、振動発電素子が並設された発電振
動デバイスの変形例を示している。図示するように、基板10には、該基板10の少なくとも一部(隔壁
11)によって区画された空間12が形成されている。基板10は、例えばシリコン単結晶基板を用いるこ
とができる。 基板10の一方面側には振動板50が形成されている。振動板50は、例えば基板10上に
設けられ、二酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51上に設けられ、酸化ジルコニウムからなる絶
縁体膜52と、により構成できる。ただし、前記の例に制限されず、基板10の一部を薄く加工して弾性膜
として使用することも可能である。

絶縁体膜52上には、例えばチタンからなる密着層を介して、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極
80と、で構成される振動発電素子300が形成されている。ただし、密着層は省略することが可能である
。図1では省略しているが、振動発電素子300の第1電極60及び第2電極80からは配線121が引き
出され、回路120に接続されている。環境振動に対して上記の振動板50や振動発電素子300が共振し
て空間12内に大きく撓み変位し、振動発電素子300の電気-機械変換能力によって電気エネルギーが生
成されて配線121を介して回路120から取り出される。

圧電体層70うち少なくとも一部の層は、電圧印加時に主として変位特性に寄与するメイン層70mとされ
ており、特に本実施形態の圧電体層70は、詳しくは後述するが、第1電極60側に形成された下地層70
aと、下地層70a上に設けられたメイン層70mと、を具備するように構成されている。ただ、下地層7
0aは省略可能であり、圧電体層70全体がメイン層70mとなるように構成することもできる。

本実施形態では、振動発電素子300と該振動発電素子300の駆動により変位が生じる振動板50とを合
わせてアクチュエーター装置と称する。また、振動板50及び第1電極60が振動板として作用するが、こ
れに制限されない。弾性膜51及び絶縁体膜52の何れか一方又は両方を設けずに、第1電極60のみが振
動板として作用するようにしてもよい。また、振動発電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにし
てもよい。何れにしても、基板10により少なくとも一部が画成された空間12の上部に振動発電素子300
が設けられている、すなわち、環境振動に応じた振動発電素子300の撓み変形領域が空間12によって好適
に確保されているようになっていればよい。 

尚、振動発生素子300の上方に、所定の空間を確保するとともに振動発生素子300を包囲する包囲板を
設けるようにしてもよい。これにより、振動発生素子300を保護することができ、また振動発生素子300
薄膜(厚さが3μm以下、例えば0.3~1.5μm)である場合には、振動発電デバイスのハンドリン
グ性も向上させることができる。包囲板による振動板50の拘束条件が振動板50や振動発生素子300に
影響を与える場合には、かかる影響を考慮することが好ましい。


【図3】実施形態1に係る振動発電素子について説明する図
【図4】実施形態1に係る振動発電素子について説明する図

✪第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対面側に設けられている。上記の第1電極60やこ
の第2電極80の材料は、導電性を有する材料であれば特に限定されず、白金(Pt)、イリジウム(Ir
等の貴金属が好適に用いられる。振動板50及び振動発電素子300の変位の向上や共振周波数の調整のた
め、第2電極80上に金属層(金属材料からなる重り)を設けるようにしてもよい。ここで、本実施形態に
係る振動発電素子の構成及び機能について、図3~4を用いて説明する。このうち図3は、いわゆる90°
ドメイン回転等について説明する図であり、図4は、圧電体層全体のヤング率、共振周波数及び圧電特性の
関係を示す概念図である。ここで、本実施形態に係る振動発電素子の構成及び機能について、図3~4を用
いて説明する。このうち図
3は、いわゆる90°ドメイン回転等について説明する図であり、図4は、圧電体層全体のヤング率、共振
周波数及び圧電特性の関係を示す概念図である。

実施形態の振動発電素子300は、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、が順次積層されて
おり、圧電体層70を構成する結晶は正方晶の結晶構造を有し、この結晶は基板10に{100}配向して
おり、この結晶の格子内には、積層方向に対して垂直な(100)面及び(001)面を有する各領域が混
在するものである。尚、積層方向は、振動発電素子300の厚み方向とも言い換えることができる。圧電体
層70のうち、少なくとも一部の層を構成するメイン層70mは、擬立方晶であるPb(M’1/3Nb2/3
と、正方晶であるPbM’’Oと、が固溶した正方晶セラミックスを含む、下記の一般式(2)で表さ
れる複合酸化物からなるものとして構成とされている。このようなペロブスカイト型構造、すなわち、AB
型構造では、Aサイトに酸素が12配位しており、また、Bサイトに酸素が6配位して8面体(オクタヘ
ドロン)をつくっている。一般式(2)においては、AサイトにPbが、BサイトにNb、M’及びM’’
が位置し、M’としてMg,Mn,Fe,Ni,Co,Zn等の+2価を取りえる金属種が用いられ、M’’
としてTi,Zr等の+4価を取りえる金属種が用いられる。ここでは、M’としてMgが、M’’として
Tiが用いられている。


✪つまり本実施形態では、メイン層70mは、ニオブ酸マグネシウム酸鉛(Pb(Mg,Nb)O;PM
N)と、チタン酸鉛(PbTiO;PT)と、が固溶した正方晶セラミックスを含み、更にABO構造の
化学量論より鉛が過剰に存在する下記の一般式(3)で表される複合酸化物からなる構成とされている。こ
れにより、圧電定数の更なる向上が図られる。
  
  xPb(M’1/3,Nb2/3)O-(1-x)PbTiO3      ・・・(2)
  xPb1+a(Mg1/3,Nb2/3)O-(1-x)Pb1+aTiO・・・(3)

(0.20≦x≦0.60が好ましく、0.30≦x≦0.45がより好ましい)

式中の記述は化学量論に基づく組成表記であり、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合
や元素の一部欠損等による不可避な組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。例えば、化学量論
比を1とすると、0.85~1.20の範囲内のものは許容される。M’やM’’の金属種は単独に限られ
ず複数種類が用いられても構わない。図4に示すように、メイン層70mでは、積層方向(振動発電素子300
厚み方向)に対して垂直な(100)面及び(001)面を有するドメイン71が結晶格子内に混在しており、
電場Eの印加により正方晶のa軸成分及びb軸成分がc軸成分に90°回転し、これにより圧電特性が発揮
れるようになっている。この
本実施形態では、圧電材料の結晶の結晶子径D(002)が20nm以下、特に好
ましくは15nm以下とされており、焼成界面を介して配置され薄膜を構成する各柱状粒内に、強誘電体性
のドメイン71(いわゆるナノドメイン)が形成されている。これにより、効率よく90°ドメイン回転を
起こすことができ、圧電体層70の圧電定数を更に向上させることができる。

ちなみに、このような90°ドメイン回転を利用して変位を生じさせるメイン層70mを具備する圧電体層
70とは別に、90°ドメイン回転を伴わない圧電体層も知られている。しかし、かかる圧電体層は、90°
ドメイン回転のような角度関係で変位していないため、両者は根本的に異なったものである。また、実施形
態のメイン層70mとは別の、強誘電体性のドメイン内の電気双極子モーメントの誘起によって圧電特性を
発揮する圧電体層(例えばPZT)は、結晶構造が変化するモルフォトロピック相境界付近で圧電定数が極
めて大きくなる性質を利用して所定の組成比を実現するようにすることが多い。一方、本実施形態のような
90°ドメイン回転を利用するメイン層70mにおいて、特に上記の組成比から外れる範囲では、上記のP
ZTをも凌駕する変位が得られるようになる。


【図5】実施形態1に係る振動発電素子及び振動発電デバイスの製造例を示す図
【図6】実施形態1に係る振動発電素子及び振動発電デバイスの製造例を示す図

❏ 製造方法

次に、本実施形態の振動発電素子の製造方法の一例について、振動発電素子が複数並設される態様の振動発
電デバイスの製造方法の一例とあわせて説明する(上図5~6)。

まず、シリコンウェハーである基板用ウェハー110の表面に振動板50を形成する。図5(a)に示すよ
うに、振動板50は、基板用ウェハー110を熱酸化することによって形成した二酸化シリコン(弾性膜5
1)と、スパッタリング法で成膜後、熱酸化することによって形成した酸化ジルコニウム(絶縁体膜52)
と、の積層からなる振動板50を形成した。振動板50上に更に密着層を形成するようにしているが、密着
層は省略が可能。

次いで、振動板50上の密着層の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60は、例えば、スパッタ
リング法やPVD法(物理蒸着法)、レーザーアブレーション法などの気相成膜、スピンコート法などの液
相成膜などにより形成することができる。次に、図5(b)に示すように、第1電極60上に、下地層70
aを形成する。下地層70aの形成方法は限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さ
らに高温で焼成することで金属酸化物からなる下地層を得るMOD(有機金属分解法)法やゾル-ゲル法等
の化学溶液法を用いて下地層を製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パル
ス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固
相法でも下地層70aを製造することもできる。尚、必要に応じ下地層70aは省略できる。

次に、図5(c)に示すように、第1電極60を、下地層70aと同時にパターニングする(第1電極パタ
ーン)。ここでのパターニングは、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンミリング等のドラ
イエッチングにより行うことができる。尚、必要に応じて第1電極60のみをパターニングした後に、下地
層70aを形成もしくは省略してもよい。また、第1電極60及び下地層70aのパターニングを行わず、
後述するメイン層70mと同時に一括パターニングを行っても良い。

次に、メイン層70mを積層形成する。メイン層70mの形成方法は限定されないが、例えば、金属錯体を
含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMO
D法やゾル-ゲル法等の化学溶液法を用いて圧電体層を製造できる。その他、レーザーアブレーション法、
スパッタリング法、PLD法、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でもメイン
層70mを製造することもできる。

メイン層70mを化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例は、以下のとおりである。すなわち、金
属錯体を含むMOD溶液やゾルからなり、メイン層70mを形成するための前駆体溶液を作成する。そして
この前駆体溶液を、第1電極60上に、スピンコート法などを用いて塗布して前駆体膜74を形成する(塗
布工程)。この前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間乾燥させ(乾燥工程)、更に乾燥した前駆体膜を所
定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。前駆体膜を所定温度に加熱して保
持することによって結晶化させ、図5(d)に示すメイン層70mを形成する(焼成工程)。

上記の塗布工程において塗布する溶液は、焼成によりPb、Mg、Nb及びTiを含む複合酸化物層前駆体
膜を形成しうる金属錯体を混合し、当該混合物を有機溶媒に溶解または分散させたものである。Pbを含む
金属錯体としては、酢酸鉛等が挙げられる。Mgを含む金属錯体としては、酢酸マグネシウム等が挙げられ
る。Nbを含む金属錯体としては、ニオブペンタ-n-ブトキシド等が挙げられる。Tiを含む金属錯体と
しては、例えばチタニウムテトラ-i-プロポキシド等が挙げられる。メイン層70mを形成した後は、図
5(e)に示すように、メイン層70m上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、
各空間12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、必要に応じて更に
白金膜を作製するとともにパターニングし(第2電極パターン)、これにより第1電極60と圧電体層70
と第2電極80とからなる振動発電素子300を形成する。

後は、図6(a)に示すように、基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。そして、基板用ウェハー
110上に、マスク膜を新たに形成し、所定形状にパターニングする。基板用ウェハー110をマスク膜を
介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、図6(
b)に示すように振動発電素子300に対応する空間12等を形成する。尚、空間12の形成は、基板用ウ
ェハー110の振動発電素子300とは反対側からエッチング除去する手法のほか、基板用ウェハー110
の振動発電素子300の側方にある凹部71から形成するようにしてもよい。これによれば、いわゆる片持
ちの振動発電デバイスを作製しやすくなる。

その後は、常法に従い、基板用ウェハー110の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断
することによって除去し、所定のサイズに分割することによって、振動発電デバイスとする。実施形態の振
動発電素子の製造方法の一例について、振動発電デバイスの製造方法の一例とあわせて説明したが、振動発
電素子300の製造後、第1電極60及び第2電極80の間にバイポーラーの振動波形からなる電場を印加
するようにしてもよい(Wake-up処理)。電場は例えば40V以上、好ましくは45V以上が好適であり、
振動波形は三角波とすることができる。これにより、圧電材料における(001)配向成分の割合を高める
ことができる。このような効果は、チタン酸鉛の含有比が高いほど大きい。



【図7】理想状態やWake-up処理前後のドメイン構造について説明する図
【図8】実施形態2に係る振動発電デバイスの構成例を示す分解斜視図

一般的に、正方晶構造の圧電体では、c軸a軸長比(c/a)に起因する内部応力を緩和するため、図7(
a)に示すような90°ドメインを形成する。この時、外場の影響を受けない理想状態では、図中の符号C
で示すCドメイン(面直方向に分極を持つドメイン)と、図中の符号Aで示すAドメイン(面内方向に分極
を持つドメイン)の存在確率は1:1である。一方、本実施形態では圧電体層70、特にメイン層70mを
前駆体溶液を塗布することによる塗布法によって形成した。このため、前駆体溶液からの溶媒及び配位子の
分解/脱離に伴う膜体積の収縮と、基板と前駆体膜との熱膨張係数差から、前駆体膜に引っ張り応力が加わ
り、応力が無い状態と比較して基板面内に引き伸ばされた構造となっている。即ち、本実施形態ではAドメ
インが形成しやすい外場が存在しており、本来安定な90°ドメインを形成できず、図7(b)に示すよう
に内部応力的にエネルギーが高い準安定なAドメインとして一定数存在している。

 一方、Wake-up処理によってドメインの再配列が起こり、内部応力的に安定な状態へと推移しやすくなると
考えられる。但し、外場による引っ張り応力の影響はWake-up処理後も存在するため、理想的な1:1の存
在確立とならず、図7(c)に示すようにWake-up処理後もAドメインが多い存在比となる。このような変
化は、例えばX線によるピーク強度に基づいて確かめることができる。加えて、チタン酸鉛側ではc/aが
大きくなる、即ち内部応力が大きくなるため、Wake-up処理後のCドメインの存在比率は大きくなる。以上
説明した本実施形態によれば、環境振動との共振を利用した大きな変位を得て効率よく電気エネルギーに変
換することができる。本実施形態の振動発電デバイスは、いわゆる圧力室構造型、すなわち空間の四辺を画
成する隔壁11によって振動板50が保持された構造であるので、強度にも優れたものとなっている。ただ
し、振動発電デバイスは上記の構造に限られず、種々の変形が可能である。



【図9】実施形態3~6に係る振動発電デバイスの構成例を示す断面図
【図10】実施例での分極量(P)と電圧(E)との関係を説明する図
【図11】実施例でのX線回折パターンを説明する図
【図12】実施例でのX線回折パターンを説明する図



【ナノスーツという事業】

2013年に日本の研究チームが、昆虫などを生きたままで走査型電子顕微鏡にかけられたり、金属等の酸化腐
食防止コーティングとしても利用できる、真空から生体を保護できるコーティング技術「ナノスーツを」開
発されているが、害虫の侵入や付着を防止するためのフィルムとして応用展開されてきている。従来のフィ
ルムでは害虫忌避剤がすべて揮散してしまうと、害虫の忌避効果がなくなる。そのため、害虫の忌避効果を
長期間にわたって維持できない。そこで、下図の特許技術――複数の凸部をもつ凹凸構造を一方の表面にも
ち、凸部間の平均間隔が400nm以下の虫滑落性フィルムを、表面を水平方向に対し傾斜/表面を水平方
向に対し垂直にした状態で配置し、表面から虫を落下させ、表面の上方/背後に虫が侵入阻止する脱出防止
方法――が提案されている(特開2017-023151  虫侵入防止材、出防止材、虫侵入防止物品、虫脱出防止物
品、虫侵入防止方法および虫脱出防止方法 三菱レイヨン株式会社)。
 


このように、ナノスーツを施すことにより、真空中でも生物を生かしたまま電子顕微鏡観察できたり、癌細
胞などの非真空下で三次元的観察できる時代にきている。「ネオコンバーテック」その対象領域は拡張し続
けている。大規模気候変動の断末魔模様下(あるいは、ラスト・ジャスティス)にあるかような昨今。ナノ
スーツを纏う
ことでわたし(たち)は、着実に未来を切り拓くという確信を抱いている。

                                              

 

コメント
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疲れているだけではいかない。

2017年07月22日 | ネオコンバーテック

 

            

         文公14元年:(‐613)~宣公18年(- 591)/ 楚の荘王制覇の時代 


                                             

   ※ 晋の襄公のあとを継いだ霊公( -620~ -607)は、年なお幼かったため、大夫
     趙盾(ちょうとん)が摂政となり、よく内外を治めて、諸侯の盟主たる面目を
     維持した。しかし趙氏の勢力はしだいに大きくなり、ついに無道の雲公を弑す
     るに至り、晋の国力の漸衰は免れなかった。一方、楚の穆王のあとを継いで立
     った荘王(‐613~ -591)は、「三年飛ばず鳴かず、一たび鳴けば人を驚かす」
     との豪語にたがわず、国内の反乱を平定し、長江流域の諸蛮夷を次々に滅ぼし
     た余勢を駆って、大兵を周の国境に進め、鼎の軽重を問い、眼中もはや周王室
     はない。自ら蛮夷と称した楚が、今や中原に晋と覇を争い、邲(ひつ)の戦い
     に大いにこれを敗って、ついに覇をとなえるにいたった。


      晋の趙盾(ちょうとん)、霊公を弑(しい)す / 宣公2年(- 607)


   ※ 霊公は、天下に剖をとなえた文公から二代役の晋の君主である。いわば三代目、
     文公とはうってかわった暗君であった。趙盾(趙宣子)は文公の亡命に同行し
     た趙衰の息子、今や趙氏の族長、晋の卿大夫の筆頭で毀損のほまれ高かった。
     【経】 二年、秋九月乙丑(いつちゅう)、晋の趙盾、その君夷皐(霊公)を
         弑す。

   ※ 趙盾、霊公を諌む:晋の霊公は君主らしからぬ振舞いが多かった。人民に重い
     賦役を課して王宮の壁を飾り立ててみたり、そうかと思えば、望楼から下を行
     く通行人めがけて弾き玉を浴びせ、びっくりして逃げまどう姿をみて面白がる
     のであった。あるとき、司厨長が熊の掌を半煮えのままで食膳に供したことが
     あった。霊公は腹立ちまぎれに司厨長を殺してしまった。そして死骸をもっこ
     に入れさせると、女官に兪じて車で朝廷の外へ棄てに行かせた。たまたま来合
     わせたのが、大夫の趙盾と士季(随会)の二人である。もっこから死体の手が
     はみ出ているのをみて、二人は女官を問いただした。案の定、雪公の仕業であ
     る。二人は、霊公を諌めねば、と思った。

     「二人で行って、もし聞き入れられなかったら、あとに続く者がいなくなる。
     わたしがまずお諌めしてみるから、失敗した場合、あなたがあとに続いてくれ」

      士季は、こう言い残して出掛けて行った。
      霊公は士季が現われても、最初は素知らぬふりをしていたが、三度目に軒下
     の水溜りに追いつめられて、仕方なしに振り向いた。
     「わるかったと思っている。これからは慎しもう」
      士季は深く頭を下げて、説き始めた。
     「だれしもまちがいはあるものでございます。大事な点は、まちがいを犯した
     らそれを改めることです。詩(大雅、蕩)にも、
     
       ”初め仙めを善くしないものはないが”
        終りを全うするものはすくない”

     とありますように、罪のつぐないをするのは、なまやさしいことではありませ
     ん。あなたが有終の美をおさめてこそ、国は安泰となるのです。それは、わた
     くしども臣下の願いであるばかりでなく、天下万民の望むところでもあります。  
     詩(大雅・蒸民)にはまた、
      
       ”天下に落度あれば
        仲山甫(ちゅうだんほ)これを補う”

     とあります。
      これは、仲山甫(周の宣王の宰相)が天子を補佐して、政治の足らぬところ
     を補ったことを称えているのです。あなたが罪のづぐないをなされますならば、
     君位は永久に安泰でございましょう」

      しかし、雲公の行ないはいぜんとして改まらなかった。
      士季に代わって、こんどは趙盾が何度も諌めた。うるさくなった霊公は、い
     つしかかれを暗殺しようと思うようになり、その仕事を鉏麑(しょげい)とい
     うお抱え力士に命じた。
      鉏麑は明け方近くをねらって、趙盾の屋敷内に忍び入った。そっと寝室に近
     づいてみると、戸はすでに開け放たれている。そして、室内では趙盾がもう出
     仕前の仕度をきちんと整えおわって、端座レたまま仮眠をとっているところで
     あった。鉏麑は、そっとその場を退くと、深い嘆息を洩らした。

     「恭敬の心を忘れぬ人こそ、人民に慕われるのだ。そういう人物を殺すのは、
     道にはずれた行為だ。かといって、主君の兪今に背くのも裏切り行為だ。どち
     らか一つを選んで汚名を着るよりも、死んだほうがましだ」
      かれはこう言って趙家の庭の神樹の特に頭をぶちつけて死んでしまった。 

 Jul.19, 2017 
【ZW倶楽部:30年後の廃プラ排出量現状の4倍】

今月19日、Science Advances の報告によると、70年前、プラスチックは使われなかっが、今後30年
間で、これまで以上の4倍のプラスチック廃棄物を排出すると予測する。
人類は2015年までに83億メト
リックトン(1メトリックトン=千キログラム)を生産し、同量のプラスチック廃棄物排出(このうち、
9%はリサイクル、12%は焼却、79%は廃棄)している。これの傾向が続くと、2050年までに260
億メトリックトンのプラスチック廃棄物が生産され、その約半数が埋立地や環境に投棄される。しかも、
プラスチックは容易に劣化せず、千年の終わりまでに地球上に数千トンの物質が存在すると予測している。

 No.46

【RE100倶楽部:太陽電池篇】

● 量子ドット工学講座 No.42 

特開2017-126622  間接遷移半導体材料を用いた量子構造を有する光電変換素子

シャープ社の最新事例によると、量子構造を有する光電変換層を備え、伝導帯のサブバンド間遷移を利用
する光電変換素子、障壁層と量子層とが交互に繰り返し積層された超格子半導体層を備え、この障壁層は、
間接遷移半導体材料により構成、量子層は、直接遷移半導体材料のナノ構造を有し、間接遷移半導体材料
は、室温におけるバンドギャップが1.42eVより大きい。障壁層の材料として、室温におけるバンド
ギャップが1.42eVより大きい半導体材料を用いることで、量子閉じ込め効果が強まり、障壁層の材
料として間接遷移半導体材料を用いることで、伝導帯まで励起されたキャリアの取り出し効率が向上でき
光電変換効率を向上させることができるというもの(詳細は下図ダブクリック)。

【符号の説明】

1…基板、2…バッファ層、3…BSF層、4…ベース層、5…超格子半導体層、6…エミッタ層、7…
窓層、8…コンタクト層、9…p型電極、10…n型電極、51…障壁層、52…
量子ドット層、53…
量子ドット、54…キャップ、100…太陽電池



     
● 読書録:高橋洋一 著「年金問題」は嘘ばかり   

         第2章 「日本の年金制度がつぶれない」これだけの理由


     朝日新聞に対して厚労省が抗議した件は、表面的には計算式の問題ですが、突き詰め
    ていえば、「50%を割り込みそうだ」(朝日新聞)、「50%を上回る水準が確保で
    きる」(厚労省)という議論です。
     世界の基準にあてはめて見ると、日本の所得代替率は40%弱とされています。もと
    もと40%くらいのものを、50%を上回るか、下回るかで議諭しても意味かおりませ
    ん。
     政治家やメディアの人たちの所得代替率についての最大の誤解は、「所得代替率が高
    いほうがいい」と思い込んでいることです,
    「現役のときの7~8割くらいはもらえないと、老後に生活していけない」という意見
    もあるでしょう。もちろん、八割の給付をすることは不可能ではありません。そのかわ
    りに、現在払っている保険料は高くなります。国民全員が今よりもけるかに高い社会保
    険料を支払ってもいいと思うのであれば、8割給付は可能です。しかし、大半の人は、
    「これ以上、保険料が高くなったら生活していけない」と思うのではないでしょうか。
    保険料が低ければ、年金給付額は低くなり、保険料が高ければ、年金給付額は高くなり
    ます。これが、年金を保険数理で見たときの、数学的な「事実」です。

     現在の保険料負担は、客観的に見ればそれほど高くはありませんから、将来もらえる
    年金額が高くなることはありません。今くらいの保険料率であれば、所得代替率が50
    %にいくはずがないのです。
     先ほど紹介しましたが、OECDは統一した計算式を用いています。「現代ビジネス」
    の記事で取り土げた数字を再掲しますと、同じ基準で計算したときに、日本の所得代替
    率は36%、日本を除くG7の所得代替率は四八%、ギリシアはなんと96%です。ギ
    リシアは、現役時代の給料と同じ額を年金でもらえるということです。

     そんな高額の給付をしていたら年金は破綻します。負担を強いられる現役の人の生活
    は苦しくて仕方がないでしょう。
     所得代替率が高いギリシアのような国は、制度が回らなくなって破綻します。所得代
    替率が低い年金制度のほうが安定するのです。

                      第2章8節 「所得代替率」が低いほうが年金制度は安定する

    《所得代替率はどのくらいがいいのか》

     ・所得代替率低→低負担・低給付→制度は安定
     ・所得代替率高→高負担・高給付→制度は不安定

     年金制度としては、なるべく現役の人の負担を抑え、それに応じて、将来の給付もそ
    れほど多くしないという、現行の仕組みが一番安定します。
     年金制度は、所得代替率以前に、安定した年金制度であることが重要です。制度が安
    定していれば、将来、確実に年金をもらえます。
     今、支払う保険料が少なくて、将来受け取る年金額が多いという、夢のような話は存
    在しません。幻想に惑わされず、現実的に考えましょう,
     自分が納める保険料が月給のI〇%弱であるならば(会社負担額を加えると20%く
    らいになるので)、将来もらえる年金額は、月給の40%くらいです。「今の収入の4
    0
%ではとても老後の生活ができない」と思う人は、個々で老後に備える対策をしてお
    
くのが、一番の自己防術策です。

     あるいは高齢者でも働ける社会にしていくことも、とても重要な施策です。人ロが減
    少していく日本では、マクロ経済的に考えても、そのことはきわめて重要になるでしょ
    う。技能の継承という意味でも、それは大きな意味を持つかもしれません。
     ここで、人口減少になると将来の保険料も少なくなりますが、給付額も少なくなって、
    「保険料」=「給付額」にはあまり影響は出ません。しかし、これはあくまで「人
口減
    少が予定されているとおりであれば」という前提です。予定外の人口減少では大変
なこ
    とになるのはいうまでもありません,

     マクロ経済ばかりでなく、個人レベルで考えても、働けるならば働いたほうが、自由
    に使えるお金も増え、暮らしも充実できます。健康維持のためにも、働いたほうがいい
    という考えもあります,

     話を戻しますが、ともかく年金というのは、とてもシンプルです。冷たく感じるかも
    しれませんが、個人の事情は関係かおりません。
    「年金がこんな額では、老後に生活していけない」とか「うちの家計は、よそより大変
    なんだ」とかいった個人的な事情を考慮してもらえるわけではなく、負担に応じて給付
    額が決まります。
     公的年金というのは最低限の「ミニマム」の保障です。ミニマムの保障だからこそ破
    綻しないのであり、現役世代の給料と同じくらい年金をもらえる制度をつくってしまっ
    たら、現役世代の人は給料の大半を保険料として納めなければいけなくなり、制度はす
    ぐに破綻します。
     現役のときの保険料負担をできるだけ少なくする代わりに、老齢になってからもらえ
    る年金額は「ミニマム」というのが、現在の年金制度です。逆にいえば、負担の低さと
    給付の低さのバランスが取れていれば、そう簡単に破綻することはないのです。

                    第2章9節 所得代替率はどのくらいがいいのか

     年金制度が安定するかどうかは、「人数」の問題ではなく、「金額」の問題ですか
    ら、バランスシート(B/S)で考える必要があります。
     バランスシートは、左側に「資産」の額、右側に「負債」の額を書きます。国から見
    ると、徴収する保険料は「資産」です。給付しなければならない年金は「負
債」です。
     賦課方式の年金の場合は、将来にわたりずっと続くことが前提ですから、資産も負債
    も、過去から遠い先の分まですべてを足してバランスシートをつくります。国は永遠に
    保険料を徴収できますから、「資産」は無限大になります。一方で、国は永遠に給付を
    し続けますから、「負債」も無限大になります。しかし、将来の「資産」と「負債」の
    価値を現在価値に直すと、遠い将来に行けば行くほど現在価値は小さくなりますので、
    無限大にはならずに、計算可能な額になります。

     現在価値で見た「資産」の額と「負債」の額は一致します。バランスシートをつくる
    とぴったりと数字が合います。完全な賦課方式の場合は、バランスシートの「資産」と 
    「負債」が一致するように、「保険料」と「給付額」が決められるからです。
     では、どのくらいの数字になるのか,国は毎年財務データ(国の財務書類)を公表し
    ており、年金のバランスシートも試算しています。
     平成二十六年度(2014年度)の厚生年金バランスシート(人口:出生中位、死亡
    中位経済:ケースC)によれば、図5のようになります。 

        「負債」の年金給付債務は、2030兆円。これは国が支払わなければいけない年金額
        すべての現在価値です,
       「資産」のほうは、保険料1470兆円。徴収できる保険料総額の現在価値です。この
        ほか、国庫負担390兆円、積立金170兆円です。
     もし、債立方式でやろうとすれば、年金給付債務の2030兆円をすべて積立金で用
    意しなければなりません。しかし、実際には積立金は170兆円で、債務の1割にも
    たない額です。つまり、9割方は賦課方式でやっているということが、バランスシー

    から読み取れます,



                 第2章10節 年金のバランスシート」には債務超過はない

    

                                                       この項つづく

   

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』     

        第42章 床に落として割れたら、それは卵だ 

    『秋川まりえの肖像画』と、『雑木林の中の穴』、どちらも私が現在描きかけている絵だ。彼は
  その両方を、時間をかけて注意深く見ていた。まるで医師がレントゲン写真の中に微妙な影を深
  すような目つきで。
  「とても面白い」と彼は言った。「とてもいい」
  「両方とも?」
  「ああ、どちらもずいぶん興味深い。とくにこの二つを並べると、不思議な勣きのようなものを
  感じる。スタイルはそれぞれにまったく違っているけど、この二つの絵にはどこかでひとつに結
  びついているような気配がある」

   私黙って肯いた。彼の意見は、彼自身がこの数日ぼんやりと感じていたことでもあった。 

  「おれが思うに、おまえは新しい自分の方向を徐々に掴みつつあるようだ。深い森の中からよう
  やく抜け出そうとしているみたいだ。その流れを大切にした方がいいぜ」 

   彼はそう言って手にしていたグラスからウィスキーを一口飲んだ。グラスの中で氷がきれいな
  音を立てた。 私は彼に、雨田典彦の描いた『騎士団長殺し』を見せてみたいという強い衝動に
  駆られた。政彦がその父親の絵についてどのような感想を述べるか、それを聞いてみたかった。
  彼の目にすることは、あるいは私に何か重要なヒントを与えてくれるかもしれない。しかし私は
  その衝動をなんとか胸の内に押しとどめた。 

   まだ早すぎる、と何かが私を制止していた。まだ早すぎる。我々はスタジオを出て居間に戻っ
  た。風が出てきたらしく、窓の外を厚い雲が北に向けてゆっくり流れていった。月の姿はとこに
  も見えなかった。 

  「それで、肝心の話だ」と雨田が腹を決めたように切り出した。
  「それは、どちらかといえば話しにくい話なんだろうね」と私は言った。
  「ああ、どちらかといえば話しにくい話だ。というか、かなり話しにくい話だ」
  「でもぼくはそれを聞く必要がある」 

   雨田は身体の前で両手をごしごしとこすり合わせていた。まるでこれから何かひどく重いもの
  を持ち上げようとしている人のように。そしてようやく切り出した。 

  「話というのはユズのことだよ。おれは何度か彼女に会っている。おまえがこの春に家を出てい
  く前にも、出ていったあとにも。会いたいと言われて、何度か外で会って話をした。でもそのこ
  とはおまえには言わないでくれと言われていた。おまえとの間に秘密をつくるのは気が進まなか
  ったけど、まあ、彼女にそう約束したものだから」 

   私は肯いた。「約束は大事だよ」 

  「ユズはおれにとっても友だちだったから」
  「知ってる」と私は言った。政彦は友だちを大事にする。それがあるときには彼の弱みにもなる。
  「彼女にはつきあっている男がいたんだ。つまり、おまえ以外にということだけど」
  「知ってるよ。もちろん今は知っているということだけど」 

   雨田は肯いた。「おまえが家を出て行く半年くらい前からかな。二人がそういう関係になった
  のは。それで、こんなことをおまえに打ち明けるのは心苦しいんだけど、その男はおれの知り合
  いなんだ。仕事場の同僚だ」
   私は小さくため息をついた。「想像するに、ハンサムな男なんじやないか?」
  「ああ、そうだよ。とても顔立ちの良い男だ。学生時代にスカウトされて、モデルのアルバイト
  をしていたことがあるくらいだ。で、実を言うと、おれがユズにその男を紹介したみたいなかた
  ちになっている」 

   私は黙っていた。 

  「もちろん結果的にということだけど」と政彦は言った。
  「ユズは昔から一貫して、きれいな顔立ちの男に弱いんだ。ほとんど病に近いものだと本人も認
  めていた」
  「おまえの顔だって、それほどひどくないと思うけどな」と政彦は言った。
  「ありがとう。今夜はゆっくり眠れそうだ」 

   我々はしばらくそれぞれに沈黙を守っていた。そのあと雨田が口を関いた。 

  「とにかくそいつはかなりの美形なんだ。それでいて人柄も悪くない。こんなことを言って、お
  まえの慰めになるとも思えないけど、暴力を振るうとか、女にだらしないとか、ハンサムなこと
  を鼻にかけているとか、そういうタイプの男ではまったくない」
  「それは何よりだ」と私は言った。とくにそんなつもりはなかったのだが、結果的には私の声は
  皮肉っぽい響きを帯びて聞こえた。 

   雨田は言った。「去年の九月くらいのことだが、おれがその男と一緒にいるときに、偶然どこ
  かでばったりユズに出会ってね、ちょうど昼飯時だったから、三人で一緒にそのへんで昼飯を食
  べようということになったんだ。でもそのときは、まさか二人がそんな関係になるなんて考えも
  しなかったよ。彼はユズより五つくらい年下だったしね」
  「でも二人は時を置かず恋人の関係になった 

   雨田は小さく屑をすくめるような動作をした。おそらくものごとはとても迅速に進展したのだ
  ろう。

   「おれはその男から相談を受けた」と雨田は言った。「おたくの奥さんからも相談を受けた。そ
  れでかなり困った立場に置かれることになった」

   私は黙っていた。何を言っても自分か愚かしく見えることがわかっていた。
   雨田はしばらく黙っていた。それから言った。「実をいうと、彼女は今妊娠しているんだ」
   私は一瞬言葉を失った。「妊娠している? ユズが?」
  「ああ、もう七ケ月にはなっている」
  「彼女は望んで妊娠したのか?」
   雨田は首を横に振った。「さあ、そこまではわからん。しかし産むつもりではいるようだ。だ
  ってもう七ケ月だし、手の打ちようもないだろう 

  「彼女はぼくにはずっと、子供はまだつくりたくないと言っていた」
   雨田はグラスの中をしばらく眺め、顔を僅かにしかめた。「で、それがおまえの子供であると
  いう可能性はないんだな?」
   私は素早く計算をしてみた。そして首を横に振った。「法律的なことはともかく、生物学的に
  いえば、可能性はゼロだよ。八ケ月前にはぼくはもう家を出ている。それ以来、顔を合わせたこ
  ともない」
  「ならいいんだ」と政彦は言った。「しかしとにかく今、彼女は子供を産もうとしていて、その
  ことをおまえに伝えてもらいたいと言っていた。おまえにそのことで迷惑をかけるつもりはない
  ということだった」
  「どうしてそんなことをぼくにわざわざ伝えたいんだろう?」
   雨田は首を横に振った。「さあな。いちおう礼儀上、おまえに報告しておくべきだと思ったの
  かもしれない」

   私は黙っていた。礼儀上?

   雨田は言った。「とにかくこの一件については、おまえにどこかでしっかり謝っておきたかっ
  たんだ。ユズがおれの同僚とそういう件になっていることを知りながら、おまえに何も言えなか
  ったことは申し訳ないと思っている。いかなる事情があれ」
  「だからその埋め合わせに、この家にぼくを住まわせてくれたのか?」
  「いや、それはユズの件とは無関係だ。ここは何と言っても父親が長く住んで、ずっと絵を描い
  ていた家だ。おまえなら、そういう場所をうまく引き継いでくれるんじやないかと思った。誰で
  もいいからまかせられるというものではないからな」

   私は何も言わなかった。それはたぶん嘘ではないだろう。

   雨田は続けた。「何はともあれ、おまえは送られてきた離婚届の書類に判を捺して、ユズに送
  り返した。そういうことだよね?」
  「正確に言えば、弁護士宛てに送り返した。だから今頃はもう離婚が成立しているはずだ。たぶ
  ん二人はそのうちに時期を選んで結婚することになるんだろう」
   そして幸福な家庭を作るのだろう。小柄なユズと、ハンサムな長身の父親と、小さな子供。よ
  く晴れた日曜日の朝、三人が仲良く近所の公園を散歩している。心温まる風景だ。
   雨田は私のグラスと自分のグラスに氷を追加し、ウィスキーを往ぎ足した。そして自分のグラ
  スを手にとって一口飲んだ。

   私は椅子から立ってテラスに出て、谷間の向かいの免色の白い家を眺めた。家の窓の明かりが
  いくつか灯っているのが見えた。免色は今そこでいったい何をしているのだろう? 今そこで何
  を思っているのだろう?
   夜の空気は今ではかなり冷え込んでいた。すっかり葉を落とした樹木の枝を風が細かく揺らせ
  ていた。私は居間に戻り、椅子にもう一度腰を下ろした。

  「おれのことを許してくれるかな?」

   私は首を振った。「誰が悪いというわけでもないだろう」
  「おれとしてはただとても残念なんだよ。ユズとおまえとはお似合いのカップルだったし、とて
  も幸せそうに見えた。そういうものがこうしてあえなく壊れてしまったことについて」
  「でも追求するだけの価値はあるだろう」
  「エイハブ船長は鰯を追いかけるべきだったのかもしれない」と私は言った。
   政彦はそれを聞いて笑った。「安全性という観点から見ればそうかもしれない。しかしそこに
  芸術は生まれない」
  「おい、よしてくれよ。芸術という言葉が出てくると、話がそこですとんと終わってしまう」
  「おれたちはどうやらもっとウィスキーを飲んだ方がいいみたいだな」と政彦は首を振りながら
  言った。そして二人のグラスにウィスキーを注いだ。
  「そんなに飲めない。明日の朝には仕事があるんだ」
  「明日は明日だ。今日は今日しかない」と政彦は言った。

   その言葉には不思議な説得力があった。

                                      この項つづく

   ● 今夜の一枚の海溝変動図
Science Advances 19 Jul 2017: Vol. 3, no. 7, e1700113 DOI: 10.1126/sciadv.1700113
図1.
東北地方太平洋沖地震の2012~2016年間の海溝変位計測図(詳細は上図ダブクリ参照:英文)

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美諡、霊諡はまだ早い

2017年07月21日 | 時事書評


            

          文公元年:楚の太子商臣、成王を弑(しい)す / 晋・秦・楚鼎立の時代     

                                  

   ※ 楚の成王は在位四十六年の間に、南方諸国を従え、晋と南北に対峙して譲らなかった。この
     英主も、晩年おきまりの相続問題で、息子の太子商臣(しょうしん:穆圧)に殺されてしま
     った。商臣は令尹子上(しじょう)の評したごとく残忍な人物で、父を殺す前年、子上を父
     に讒(ざん)して死なせている。しかし、在位十二年間に、父の事業を継いで南方に勢力を
     拡張し、次代の荘王の覇業の基礎を固めた。
     【経】 冬十月丁未(ていび)、楚の世子商臣、その君頵(いん)を弑(しい)す。
 

     「あなたはまだお若くて、愛妾も多いことゆえ、その必要はございません。もし、太子に立
     てたあとで
廃嫡するような事態になれば、それこそ国の乱れるもとです。それにわが楚国で
     は、王位継承権は、
あとからお生まれになった方にあたえられるのがふつうです。それでな
     くとも、商臣さまの、あの蜂の
ような目、あの豺(やまいぬ)のような声は、残忍なお人柄
     を表わしています。とても太子の器ではありません」

     だが成王はこの意見を無視し、商臣を太子に立ててしまった。
     やがて、成王は案の定、太子商臣を廃してその異母弟の王子職を太子に立てたいと考えるよ
     うになった。一方、商臣のほうは、その聯だけで、確かな証拠がつかめない。そこで、師の
     藩崇に相談した。

     
「どうしたら確証がつかめるだろうか」
     「江茉さま(成王の妹)をご招待して、わざと無礼をはたらいてごらんなさい」
     商臣は、さっそく教えられた通り実行した。果たして、江芋は挑発に乗って来た。
     「ふん、この下司下郎め。兄君がお前を殺して職を太子に立てようとするのももっともだよ」
     商はさっそく藩崇に報告した。
     「やはりあの贈は本当だった」
     「あなたとしては、職さまに仕えて行けますか」
     「とてもガマンできない」
     「それでは亡命しますか」
     「いや、それもむりだ」
     「では、反乱は」
     「それならできる」

     冬十月、商臣は東宮の兵をひきいて王宮を包囲した。「せめて熊の掌の肉を食ってから死に
     たい」と、成王は頼んだが、商臣はきき入れなかった。丁未の日、王は首を縊(くく)って
     死んだ。霊王という諡号(いつごう)が贈られたが、瞑目しない。そこで成王という諡号を
     贈ると、はじめて瞑目した。かくて穆里が即位し、東宮時代の邸を藩崇にあたえて大師に迎
     え、近衛軍の長官に任命した。

     〈江羊〉 楚の成王の妹で江氏に嫁した。楚の姓は羊であるから江羊という。
     〈熊の掌の肉〉 古来、八珍(ぴん)の一としてその美味賞せられるが、煮えるのに時間が
      かかる。これで時間をかせいで、万一の僥倖を期待したのである。
      〈霊王という論号〉 『諡法』によれば、「乱れて損せざるを霊という」とあって、霊は悪
      い諡号である。「民を安んじ政を立つるを或という」とあって或は美諡である。
 

 July 17, 2017

【皮膚に装着したバイタルセンサで健康管理】

● 1週間装着しても大丈夫、ナノメッシュ電極

今月7日、染谷隆夫東大教授らの研究グループは、皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュ電極の
開発に成功したこと公表。この電極を1週間、皮膚に貼り続けたバッジテストの結果でも、炎症反応は認
められなかった。このナノメッシュ電極は、生体適合性が高い金と高分子材料(ポリビニルアルコール:
PVA)をナノサイズのメッシュ構造としたも。軽量で、通気性と伸縮性に優れている。高いガス透過性を
検証するため、20人の被験者でバッチテストを行い、皮膚に電極を1週間貼り続けても、明らかな炎症反
応は認められず――比較のために、薄膜フィルムとゴムシートも用意して同じ実験を行った。これらの材

料だとわずかに炎症反応が認められた。これら3種類の材料で水蒸気透過性試験を行い、ナノメッシュ電
極の特性は極めて高いことを検証。被験者へのアンケート調査の結果、開発したナノメッシュ電極は装着
時の不快感も少なかった――自然な皮膚呼吸が行われていることを検証。

  July 18, 2017

また、開発したナノメッシュ電極は、少量の水で比較的簡単に皮膚へ貼り付けることが可能であり、指紋
や汗腺などの凹凸があっても、皮膚に密着して貼り付けることができる。皮膚とともに伸縮しても、高い
導電性を示す。研究チームは人差し指の第2関節にナノメッシュ電極を貼り付けて検証。指の屈曲を1万
回繰り返しても、ナノメッシュ電極は良好な導電性を示す。さらに研究チームは、このナノメッシュ電極
を生体電極として用い、筋電位を測定、市販のゲル電極と比べても、遜色のない信号を取得することがで
きた。ナノメッシュ電極アレイを指先に貼り付け、布地型ワイヤレスユニットと組み合わせることで、指
の上にワイヤレスで読み出しできるタッチセンサーを作製。小型のセンサー素子と組み合わせて、温度や
圧力などを計測することにも成功している。このように、この電極の活用で、金属などの導体に触れたり、
離したりしたときの抵抗変化や温度、圧力、筋電を計測。装着感のない生体情報計測手法として、将来、
健康や医療、介護、スポーツへの応用が期待される。

 


   

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』    

        第42章 床に落として割れたら、それは卵だ

   金曜日の夜に雨田政彦から連絡があった。土曜日の午後にそちらに行くということだった。新
  鮮な魚を近くの漁港で買って持って行くから、食事の心配はしないでいい。楽しみに待っていて
  くれ。
  「他に何か買ってきてほしいものはあるか? ついでだから何でも買っていくよ」
  「とくにないと思う」と私は言った。それから思い出した。「そういえば、ウィスキーが切れて
  いるんだ。このあいだもらったものは人が米たので、飲んでしまった。銘柄はなんでもかまわな
  いから、一本買ってきてもらえないかな?」
  「おれはシーヴァスが好きだけど。それでいいかな?」
  「それでいい」と私は言った。雨田は昔から酒や食べ物にうるさい男だった。私にはあまりそう
  いう趣味はない。ただそこにあるものを食べ、ただそこにある酒を飲む。
   雨田からの電話を切ったあと、私はスタジオの壁から『騎士団長殺し』をはずし、寝室に持っ
  ていってカバーをかけた。屋根裏からこっそりと持ち出した雨田典彦の来発表の作品を、息子の
  目に触れさせるわけにはいかない。少なくとも今の時点では。

   そのようにして、スタジオの中で来客の目に触れる絵は『秋川まりえの肖像』と『雑木林の中
  の穴』の二点だけになった。私はその前に立ち、二つの作品を左右交互に眺めた。その二つを見
  比べているうちに、秋川まりえが祠の裏手にまわり、その穴に近づいていく光景が順に浮かんで
  きた。そこから何かが始まりそうな予感があった。穴の蓋は半分闇いている。その暗闇が彼女を
  導いている。そこで彼女を待ち受けているのは「顔なが」なのだろうか? それとも騎士団長な
  のだろうか?

   そしてこの二枚の絵はとこかでつながっているのだろうか

   この家に来てから、私はほとんど立て続けに絵を描いている。最初に依頼を受けて免色の肖像
  画を描き、それから『白いスバル・フォレスターの男』を描き(それは色を加え始めた段階で中
  断したままになっているが)、今は『秋川まりえの肖像』と『雑木林の中の穴』を並行して描い
  ている。その四彼の絵はパズルのピースとして組み合わされ、全体としてある物語を語り始めて
  いるようにも思えた。
   あるいは私はそれらの絵を描くことによって、ひとつの物語を記録しているのかもしれない。
  そんな気がした。私はそのような記録者としての役割を、あるいは資格を、誰かによって与えら
  れたのだろうか? もしそうだとしたら、その誰かとはいったい誰なのだろう? そしてなぜこ
  の私が記縁者に選ばれたのだろう?  

   土曜日の午後四時前に、雨田が黒いボルボ・ワゴンを運転してやってきた。旧型の、真四角で
  実直頑強なボルボが彼の好みだった。ずいぶん長くその車を運転しているし、もうかなりの距離
  を走り込んでいるはずだが、新しいモデルに買い換えるつもりはないようだ。彼はその日、わざ
  わざ自分の出刃包丁を持参してやってきた。よく手入れされた鋭利な刃物だった。そしてそれを
  使って伊東の魚屋で買ってきたばかりの大きくて新鮮な鯛を、台所でさばいた。もともと手先の
  器用な多才な男だ。彼はきれいに丹念に骨を取り、無駄なくたくさんの刺身におるし、あらで出
  汁をとり、吸い物をつくった。皮は火で炎って酒のつまみにした。私はそのような一連の作業を
  ただ感心してそばで見ていた。プロの料理人になってもそれなりの成功をおさめたかもしれない。
  「こういう白身魚の刺身は、ほんとうは一目おいて明日食べた方が、身が柔らかくなり、味もこ
  なれてうまいんだが、まあしょうがない。我慢してくれ」と雨田は包丁を手際よく使いながら言
  った。

  「贅沢は言わないよ」と私は言った。
  「食べきれなかったら、明日一人で残ったぷんを食べればいい」
  「そうするよ」
  「なあ、ところで今夜はここに泊まっていっていいかな?」と雨田は私に尋ねた。「できれば今
  日は、ゆっくりと腰を据えて、おまえと二人で酒を飲みながら話をしたいんだ。しかし酒を飲ん
  でしまうと運転はできないからな。寝る場所は居間のソファでかまわないよ」
  「もちろん」と私は言った。「そもそも君の家だ。好きなだけ泊まっていけばいい」
  「どこかの女が訪ねてきたりするようなことはないのか?」

   私は首を振った。「今のところそういう予定はない」
  「なら、泊まらせてもらう」
  「なにも居間のソファじやなくたって、客室にベッドがあるけれど」
  「いや、おれとしては居間のソファの方が気楽でいいんだ。あのソファは見かけよりずっと寝心
  地がいい。昔からあそこで寝るのが好きだった」


   雨田は紙袋からシーヴァス・リーガルの瓶を取り出し、封を切って蓋を開けた。私はグラスを
  二つ持ってきて、冷蔵庫から氷を出した。瓶からグラスにウィスキーを往ぐときに、とても気持
  ちの良い音がした。親しい人が心を間くときのような音だ。そして我々は二人でウィスキーを飲
  みながら食事の支度をした。
  「二人でこうやってゆっくり酒を一緒に飲かのは、ずいぶん久しぶりだよな」と雨田は言った。
  「そういえばそうだな。昔はずいぶん飲んだような気がするけど」
  「いや、おれがずいぶん飲んだんだ」と彼は言った。「おまえは昔からそんなには飲まなかった」
  私は笑った。「君からみればそうかもしれないけど、ぼくとしてはあれでもずいぶん飲んだん
  だよ」

  

   私は酔いつぷれるほど酒を飲むことはない。酔いつぶれる前に眠くなって寝てしまうからだ。
  しかし雨田はそうではない。いったん腰を据えて飲み出すと、とことん腰を据えて飲むタイプだ。
   我々は食堂のテーブルをはさんで刺身を食べ、ウィスキーを飲んだ。最初に彼が鯛と一緒に買
  ってきた新鮮な生牡蠣を四つずつ食べ、それから鯛の刺身を食べた。おろしたての刺身は、とび
  きり新鮮でうまかった。確かにまだ身は固かったが、酒を飲みながらゆっくり時間をかけて食べ
  た。結局二人で刺身を残らず平らげてしまった。それだけでかなり腹が一杯になった。牡蝸と刺
  身の他には、ぱりぱりに炎った魚の皮と、わさび漬けと豆腐を食べただけだった。最後に吸い物
  を飲んだ。

  

  「ひさしぷりに豪勢な食事だった」と私は言った。
  「東京じやなかなかこういう食事はでぎないよ」と雨田は言った。「このあたりに往むのも悪く
  なさそうだ。うまい魚が食えるものな」
  「でもこのあたりでずっと暮らすとなると、それは君にとってはたぶん退屈な生活になるだろ
  う」
  「おまえには退屈か?」
  「どうだろう? ぼくは昔から退屈をそれほど苦にしない。それにこんなところでも、けっこう
  いろんなことが起こるんだよ」

   初夏にここに越してきて、ほどなく免色と知り合い、彼と一緒に祠の裏手の穴を暴き、それか
  ら騎士団長が姿を現し、やがて秋川まりえと叔母の秋川笙子が私の生活に入り込んできた。そし
  て性的にたっぶり熟した人妻のガールフレンドが私を慰めてくれた。雨田典彦の生き霊だって訪
  ねてきた。退屈している暇はなかったはずだ。

  「おれも意外に退屈しないかもな」と雨田は言った。「おれは昔は熱心なサーファーだったんだ。
  このへんの海岸でずいぶん波に乗っていた。知っていたか?」
   知らなかった、と私は言った。そんな話は一度も聞かなかった
  「そろそろ都会を離れて、もう一度そういう生活を始めてもいいかなとも思っている。朝起きて
  海を眺めて、いい波かありそうだったら、ボードを抱えて出かけていく」

   私にはそんな面倒なことはとてもできそうにない。

  「仕事はどうする?」と私は尋ねた。
  「週に二回東京に出て行けば、それでだいたい用は足りる。今のおれの仕事はほとんどがコンピ
  ュータ上の作業だから、都心から龍れたところに住んでいてもとくに不自由はないんだ。便利な
  世の中だろう?」
  「知らなかった」

   彼は呆れたように私を見た。「今はもう二十一世紀なんだよ。それは知ってたか?」
  「話だけは」と私は言った。
   食事が終わると我々は居間に移って、酒の続きを飲んだ。秋もそろそろ終わろうとしていたが、
  その夜はまだ暖炉に火を入れたくなるほど冷え込んではいなかった。
  「ところで、お父さんの具合はどうだった?」と私は尋ねた。
   雨田は小さくため息をついた。「相変わらずだよ。頭は完全に断線している。卵ときんたまの
  見分けもつかないくらいだ」
  「床に落として割れたら、それは卵だ」と私は言った。
   雨田は声を上げて笑った。「しかし考えてみれば、人間って不思議なものだよな。うちの父親
  はつい数年前までは、本当に叩いても蹴ってもびくともしないような、しっかりした男だったん
  だ。頭の方もいつだって、まるで冬の夜空みたいにきりっと冴え渡っていた。ほとんど憎たらし 
  いくらいにな。それが今では、記憶のブラックホールみたいになっている。宇宙に突然現れたと
  りとめもない暗い穴ぼこみたいに

   雨田はそう言って首を振った。

  「『人に訪れる鍛大の驚きは老齢だ』と言ったのは誰だっけな?」
   知らない、と私は言った。そんな言葉は聞いたこともない。しかし確かにそうかもしれない。
  老齢は人にとって、あるいは死よりも意外な出来事なのかもしれない。それは人の予想を遥かに
  超えたことなのかもしれない。自分がもうこの世界にとって、生物学的に(そしてまた社会的に)
  なくてもいい存在であると、ある日誰かにはっきり教えられること。

  「で、おまえがこのあいだ見たうちの父親の夢っていうのは、そんなにリアルだったのか?」と
  政彦は私に尋ねた。
  「ああ、夢だとは思えないくらいリアルだった」
  「そして父親はこの家のスタジオにいたんだな?」

   私は彼をスタジオに案内した。そして部屋の真ん中あたりに置かれているスツールを指さした。
  「夢の中で、おたくの父上はそこの椅子にじっと座っていた

   雨田はそのスツールの前に行って、そこに手のひらを載せた。

  「何もせずに?」
  「ああ、何もせずに、ただそこに腰掛けていた」
   本当は彼はそこから壁にかけられた『騎士団長殺し』をまっすぐ凝視していたのだが、そのこ
  とは黙っていた。 

  「これは父親のお気に入りの椅子だった」と雨田は言った。「何の変哲もない古い椅子なんだが、
  決して手放そうとはしなかった。絵を描くときも、考え事をするときも、いつもここに腰掛けて
  いた」
  「実際に座ってみると、不思議に落ち着く椅子なんだ」と私は言った。
   雨田はしばらくそこに立って、椅子に手を載せたまま、何かをじっと考え込んで
  いた。しかし、そこに座りはしなかった。それからスツールの前に置かれた、二枚のキャンバス
  を順番に眺めた。


『老人に訪れる鍛大の驚きは老齢だ』の件はこのわたしもつい最近、知人の見舞いに出かけて世間話して
いる最中に「信じられない、わたしが高齢者なんて!」と発したばかりの言葉である。ただし、「自分が
もうこの世界にとって、生物学的に(そしてまた社会的に)なくてもいい存在であると、ある日誰かには
っきり教えられること、と続く主人公の思いとわたしの発言の背景は異なることは明白であるが、そんな
ことを思い出させた。
        
                                        この項つづく 
     
● 読書録:高橋洋一 著「年金問題」は嘘ばかり   

          第2章 「日本の年金制度がつぶれない」これだけの理由

   年金保険は、「人数」ではなく「金額」で考える。それが基本です。
   そもそも、人口減少の影響についても、オーバーに捉えられています。
   1年で現役世代が二割減るというのであれば、年金制度への影響は大きいですが、40年で2
  割減るのであれば、影響はそれほど大きなものではありません,単純平均すれ
ば、1年で0・5
  %の減少ですから、その分、経済成長できればカバーできます。

   現在の人口と40年後の人口を比べて、「こんなに人口が減るから、大変だ」といってみても
  意味かおりません。戦争や自然災害が起こって、一気に現役世代の人口が減少
すると大きな影響
  が出てきますが、毎年少しずつ減っていくのであれば、変化は小さい
ですから、心配するほどの
  ことではありません。


           第2章6節 「一・X人で一人の高齢者を支える」という脅し文句の真実

   年金問題が議論されるときに、「所得代替率」という概念がよく出てきます。
   所得代替率というのは、簡単にいえば、現役時代の収入の何パーセントくらいを年金として受
  け取れるかという数字です。
   第1章でも概算の数値を示しましたが、頭の中でたやすく計算できます。「40年支払った分
  と、20年かけて受け取る分か同じ」であるのが年金ですから、毎月受け取る額は、毎月支払っ
  た額の2倍くらいであろう、ということがわかります。
   厚生年金の場合、毎月の給料の中から二割弱程度を保険料として支払っています。ということ
  は、2割×2倍=4割。所得代替率は40%程度になります。
   そういう大ざっぱな計算ができることがとても大事です。もらえる額は、だいたい月給の「4
  0%程度」です。その数字を踏まえていただいたうえで、2016年に行なわれた不毛な議論を
  見ていきます。

   2016年10月に国会で民違党の長妻昭議員が質問し、それについて朝日新聞が記事にしま
  した。この記事の内容が間違いであるとして、厚生労働省は抗議をし、朝日新聞が記事を訂正し
  ました。 朝日新聞の記事の見出しは、「年金 不適切な試算厚労省収入に対する割合高く」で
  したが、厚労省の抗議を受けて訂正されました。
   かいつまんでいうと、朝日新聞が記事にしたのは、所得代替率を計算するときに、「分母」は
  税金や社会保険料を引いた手取り額にして、「分子」は税金や社会保険料を含めた年金額で計算
  しているため、所得代替率が高く計算されているという内容です。
   2013年度の所得代替率は62.6%ですが、分子も分母も、税と社会保険料を加えた額に
  して計算すると50・9%、分子も分母も、税と社会保険料を除いた額にして計算すると53・
  9%となります。これは、国会で塩崎恭久厚労大臣によって明らかにされた数字です,

   朝日新聞は、厚労省が「不適切な」計算方式を使って、もらえる割合が高くなるように算出し
  ていたという趣旨の報道をしました。それに対して、厚労省は、法律に計算方法が明記されてお
  り、「法律通りに」計算しただけだと抗議したのです。平成十六年に改正された国民年金法の附
  則に、計算方法のやり方と、所得代替案が50%を上回るようにすることが明記されています。
   朝日新聞は、将来の所得代替率が50・6%(43度)と試算されているけれども、5%を割
  り込みそうだという推測を書きました。厚労省は、抗議文の中で「直近(平成二十六年)の財政
  検証においても、経済再生と労働参加が進めば、50%を上回る水準が確保できることを確認し
  ている」としています。

   ちなみに、2010年の時点でOECDは、日本の所得代替率は「36%」というデータを出
  していました。60%でも、50%でもなく、36%です。その数字を、私はギリシア危機が起
  こった際に、「現代ビジネス」で記事に書きました。保険数理から考えれば、40%くらいだろ
  うと思っていましたから、36%という数字に納得しました。所得代替率がそれ以上に高くなる
  はずがないのです。厚生年金の保険料案は約18%ですから、倍にすると36%です。「なんて
  日本では50%とか60%という数字が出てくるんだろう」と不思議に思っていました。
   私が書いた「36%」という数字に、国会議員の人たちは、びっくりしたようです。
   みんなの党(当時)の議員から、「どうして日本政府が出している数字と、こんなに数字が通
  うんですか?」と聞かれたので、「国会で質問してみたらどうですか」といいました。その議員
  は国会で質問したのですが、うやむやな答弁をされてしまったようです。

   ・日本政府の試算→日本の所得代替案=五~六割
   ・OECDの試算→日本の所得代替率=四割弱

   モデルの取り方で数字は変わりますので、私は、細かい計算式については知りませんでしたが
  長妻議員の質問で、分母と分子で悦と社会保険料の入れ方が追うことが一つ
の原因だったとわか
  りました,

   欧米諸国では、分子・分母の両方に悦と社会保険料を加えるか、分子・分母の両方から悦と社
  会保険料を除くかどちらかです。それが国際的には当たり前ですから、日本も
そういう計算をし
  ているのかと思っていましたが、追っていたようです。

   計算方法が記された法律は、平成十六年の改正国民年金法です。もちろん、この計算方法はず
  いぶんおかしなものであることは問追いありません。
しかし長妻議員は、平成二十一年に成立し
  た民主党政権下で、厚労大臣を務めていま
す。「ご自分が大臣のときに改正しないで、今さら指
  摘してもね」というのが私の感想
です,法律の計算式がおかしいのなら、ご自身が厚労大臣だっ
  たときに変えれば良かっ
たのです。
   一方、厚労省が朝日新聞に対して「我々は、法律通りにやっている」と反論するのも、どうか
  と思います。世界的な基準で見れば、計算式がおかしいのですから、おかし
な計算式を「法律通
  りだ」と言い張るのはいかがなものでしょうか。

  計算方法としては、次の二つのどちらかであるべきです。

   《所得代替率の計算式》

   分子分母ともに、悦・社会保険料を除く
   分子分母ともに、税・社会保険料を含める

   日本はこの二つのどちらでもなく、分母は、公租公課の額を控除して得た額(つまり手取り額)
  となっています。政治的にいえば、おかしな計算式を、自民党政権も民主党
政権も見過ごしてき
  ました。
   
もともと、こういった数字はあまりあてにならないものです。モデルケースをつくるときに、
  収入が少ないときを基準にすれば、所得代替率は高まります。収入が高くなっ
てからの給料を基
  準にすれば、所得代替率は低くなります。モデルの取り方で、所得代
替率は変わってきますので
  いくらでも数字はつくれます。

                      第2章7節 「所得代替率」に右往左往するなかれ 

ここまでは数字の見方、あるいは、その解釈と根拠を「理解」することが主眼におかれ、これまでの立法
あるいは行政両府あるいは大手マスメディアの錯誤を例示的に指摘されている。ここまで特にコメント掲
載することはないので次回もこのまま読み進めていく。                                                               

                                                                 この項つづく  


                       
 尻無川本津川安治川合流の河口は静かな馬の肌のいろ

                                                             道浦母都子/
ポンポン船

この歌が眼にとまり、記憶がよみがえり深い郷愁と切なさに打たれため息をつく。大川ー土佐堀川-堂島
川-安治川-尻無川-木津川-道頓堀川に囲まれた、数多くの縁のひとは他界されたが、吾が「静かな馬
の肌」のような記憶はいまものその人たちとある。

   ● 今夜の一曲
 

   ネムの並本のこの道は
   チャペル(岫売<白い道
   野原を越えて鐘の音は
    雲の彼方に消えてゆ<
   あしたも二人で歩こうね
   チャペルに続く白い道

   雨に嵐に負けないで
   いつでも強<生きようと
   チャペルの鐘はきょうもまた
   ぼくと君とによびかける
   二人の夢はふくらむよ
   チャペルに続く白い道

   暗<貧しいすぎた日も
   心の中はいつの日も
   明るくすんだ鐘の音に
   明日の幸せ夢みてた
   思いのすべてをこめた道
   チャペルに続く白い道


                『チャペルに続く白い道』/ 1964.04.15

                              唄  西郷  輝彦
                             作詞 水島  哲
                             作曲 北原  じゅん        
                    

 

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インド初のソーラー旅客列車

2017年07月20日 | 環境工学システム論


            

            僖公33年:殽(こう)の戦い その2 / 晋・秦・楚鼎立の時代     

                                  


   ※ 女の一言: さて、文公の夫人文嬴(ぶんえい)は、里方が秦であったので、秦の三人の
     武将の釈放を襄公に頼んだ。「この三人は、両国を仲たがいさせた張本人です。秦君も、
     かれら三人に対しては、焼いて食っても飽きたらぬくらい憎んでいます。ですから、わ
     ざわざあなたの手を煩わすまでもありません。かれら三人を秦に追い返して、秦君に思
     う存分にさせた。

     襄公は、ついその気になり、釈放を認めてしまった。そんなこととは知らぬから、先軫
     は出仕してから、襄公に秦の捕虜のことをたずねた。「母の頼みで釈放してしまった」
     襄公がこともなげに答えると、先軫は憤然として「相手は、武士が命をかけて戦場から
     捕えてきた敵将ですぞ。それを母上にちょっと頼まれたぐらいで、すぐ釈放してしまう
     とは何たる軽率。これでは、せっかくの獲物を手放して、敵を補強してやったようなも
     のだ。ああ、晋の滅亡もまぢかいのか」と、襄公の前であるにもかかわらず、ペッと唾
     を吐いた。

     あわてたのは襄公である。すぐさま大夫の陽処父に命じて三人のあとを追わせた。陽処
     父は、黄河の渡し場のところでやっと一行に追いついた。だが、もう船に乗りこんでい
     てまに合わない。そこで陽処父は、馬車の副馬をはずすと、襄公からの引出物だと叫ん
     で孟明に受け取らせようとした。だが孟明は丁寧圧頭を下げるだけだった。{頴公の特
     別の思召しで、捕われの身をいけにえにもされず、母国に送り返されて刑に就くことに
     なった身です。どうか晋君にお伝えください。この身は、母国の刑に就くかぎり、たと
     い殺されても思い残すことはありません。また幸いにして刑を免ぜられましたなら、三
     年後にそれを頂きにまいります、と」

     秦の穆公は喪服に身をただして郊外に出向いた。そして敗北してきた自国の軍勢を出迎
     えると、泣いて詫びた。「わたしは蹇叔の意見をきかなかったばかりに、おまえたちを
     苦しい目にあわせてしまった。罪はわたしにある」孟明に対しても穆公は地位を剥奪す
     るどころか、こう言って詫びた。「わたしの罪だ。孟明に責任はない。こんな小さな過
     失で、孟明の大徳を掩いかくすことはできない」  

 
  

【続・虫除けスプレー実効性問題】
 
甲武信岳の後遺症か疲れか右眼底の疲労あるいは異物やディート(サラテクトの主成分)の付着による痛み
がひどくなる。そこで、家にあったオドメール点眼液0.1%(千寿製薬株式会社)とヒアレイン点眼液0.1%
(参天製薬株式会社)の炎症抑制・修復点眼液を1日3回使用し始め2日目になる。心配事は多くなり、毎
日の作業量はマイナス4時間/日(全体の25~30)程度のスローダウンのピンチである(要観察)。よ
せばいいのに、ディートを調べ、シロアリ駆除方法を本格的に考えだしているわたしがいる(残件扱い)。

  


※ 関連技術

・特許5404188  害虫忌避剤 アース製薬株式会社 2014年01月29日
・特許6078424  害虫忌避用組成物 ピアス株式会社 2017年02月08日
・特許5217029  シロアリ防除剤およびシロアリ防除方法 アース製薬株式会社 2013年06月19日

ところで、ヒアリ騒動で殺虫剤が売れているのだが、環境省は注意を勧告しているという(「ヒアリに効果
アリ」売れる殺虫剤 環境省は「連絡を」,アサヒ新聞デジタル 2017.07.19)。それによると、強い毒を持
つ外来種のヒアリが相次いで確認されたことを受け、アリ用殺虫剤の売り上げが伸びている。メーカーはヒ
アリへの効果をアピールし、ホームセンターには特設の売り場もつくられた。ただ、殺虫剤を多く使えば在
来種にも影響するため、環境省は「むやみに殺虫剤を使わず、疑わしい場合は自治体に連絡を」と呼びかけ
てるが、アリ用殺虫剤は、室内に入り込むアリ駆除の目的で使われ、直接散布するスプレー剤や巣ごと退治
する毒
餌剤(どくじざい)などがある。アース製薬の7月の出荷量は前年同月の2倍のペースで、増産を進
めている。フマラーも販売が増えている。業績への期待から、2社の株価は上昇傾向。今月上旬にヒアリが
確認された東京港・大井
埠頭(ふとう)の近くのホームセンター「DCMホーマック大井競馬場前店」では
入り口正面にアリ用殺虫剤の売り場
を設置した。通常は春先によく売れるが、今月10~16日の1週間は
前年の10倍以上の売れ行きというから困った
もの。ヒアリの毒で死亡例は報告されていないと訂正されて
いるが(同省)、ヒアリがこれまで確認されたのは港や貨物コンテナの周辺で、市街地ではない。殺虫剤は

ヒアリの敵になる在来種のアリも殺すため、ヒアリの侵入を許してしまうとの指摘もある。同省の関東地方
環境事務所は、在来種を守るためにも、むやみな殺虫剤の使用は控えた方がいい」(担当者)として、ヒア
リの疑いがあれば自治体などに連絡するよう求めているとか。要細心注意である。

 No.45  

  【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅶ】

先回は、「フレキシブルエネルギータイリングは可能か ?」と問いかけ、「最安値2.8円/kWh時代に対応
した使い捨てフレキシブル発/蓄電フィルムの開発」の動向との相違について小考したが、今回は、❶ソー
ラータイリング事例としてインド旅客列車のソーラータイリング(自動車ではなく鉄道適用事例研究として、
)の最新新聞と前々回の「『分散エネルギー資源』の時代がやってくる」(No.43)で、欧米で先行している
「大規模バーチャルパワープラント(VPP)事業」の国内実証事業自邸としてのソフトバンクエナジー社の
実証実験情報を小考する。

 

  July 19, 2017 

● インドでソーラー旅客列車稼働

今月19日、インド鉄道社はデリー区間の屋上ソーラーパネル装備電車を初めて運行開始する。ソーラーパネ
ルは、旅客列車のファン、照明、およびディスプレイシステムに供給。政府は、毎年約5,547ガロン(薬2万
1千㍑)のディーゼル油を節約すると予想。「1600 HP DEMU」列車は、太陽光で動く初のディーゼル列車で、
インド鉄道社は、今後半年間に24の列車に太陽電池パネルを設置予定している。


Railway Launches First Train With Solar Power at Safdarjung Station, New Delhi

従来はディーゼル発電機が電車の照明やファンに電力を供給、新しいソーラーシステムにはスマートMPPT
最大電力点追従制御装置 )インバータが組み込み、夜間も整然と作動できる。インド鉄道社では、ソー
ラーパネルは二酸化炭素の発生をコーチあたり年間9トン削減(インド鉄道2500台の列車に屋上ソーラ
ーパネルを設置した場合)。各3百ワットを生成する16のソーラーパネルは、各コーチに4.5キロワッ
トのピーク容量を提供。このシステムは、約20キロワットアワーのクリーンな電力を1日で生成できる。 


India's first solar train ready for trial in Jodhpur | वनइंडिया हिन्दी

120AH
バッテリシステムは、ピーク時に生成された余剰電力を蓄えるす。鉄道大臣Shri Suresh Prabhakar Pra-
bhu 
は、鉄道は環境を保全し、よりクリーンなエネルギーを使用することに尽力していると語る。政府の鉄
道に関するプレスリリースは、バイオトイレ、バイオ燃料、風力エネルギーの使用など、鉄道がより環境に
優しいとされている他の措置を指摘。ヤクソンエンジニア社は、インド鉄道オルタナティブ燃料(IROAF
の指導のもと、新しい列車ソーラーシステムを開発。同社の管理責任者のSundeep Gupta は、時間当たり約
50~80キロメートル
の列車にソーラーパネルを取り付けるのは簡単ではなかったと語った。尚、列車の耐久
寿命は約25年である。しかし、インドはこの分野は日本を追い越したことになる。

 July 14, 2017

● 九州電力エリア全域で「大規模VPP」構築実証

7月14日ソフトバンクグループで再生可能エネルギー事業などを手掛けるソフトハンクエナジーは、九州電
力管内全域および長崎県壱岐市で大規模バーチャルパワープラント(VPP)構築実証事業を2018年2月28日
までに実施するとを発表。
同実証事業は、経済産業省の2017年度「需要家側エネルギーリソースを活用した
バーチャルパワープラント構築実証事業費補助金」で、同社が「VPP構築実証事業」と「リソースアグリゲ
ーター事業」の間接補助事業者に採択されたことを受けて実施する。
同社は、2016年度VPP構築事業の間接
補助事業者に採択されたことを受け、再エネの利用率向上のために太陽光発電の出力制御を実施する長崎県
壱岐市で実証実験を行っている。

エネルギーの地産地消の推進を目的に、2017年度のVPP構築実証事業にも取り組む。ソフトバンクエナジー
は「親アグリゲーター」として複数の「リソースアグリゲーター」とともに太陽光発電所の出力制御に対応
したサービスモデルの実証、送配電事業者に対する調整力の提供、小売電気事業者へのインバランス対応や
デマンドレスポンス(DR:需要供給)対応実証事業を行もの。
VPP基盤事業者からDR指令を受領して解析し
親アグリゲーターからの充放電指示対象となる各リソースアグリゲーターの保有する蓄電リソースデータと
照らし合わせ、独自アルゴリズムに基づくリソースアグリゲーターの選定を行う自己学習型ビジネスロジッ
ク(AI)を用いた親アグリゲーターシステムを構築する。

また、ソフトバンクエネジー社がリソースアグリゲーターの1社として、自社開発したエネルギーリソース
制御用IoT機器を用いた遠隔制御、「ブロックチェーン2.0」技術によるIoT機器間連携、LoRaWAN通信によ
るIoT機器制御の実証実験を行う。同社
と連繋するリソースアグリゲーターは、同社のほか、エフィシエント
洸陽電機、サニックス、スマートテック、地域電力、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)、メディオテッ
ク、Looop。
 

  ● 今夜の一枚の地図

「巨大氷山が分離」巨大氷山が分離地図で見る南極の変化地図で見る南極の変化は、ついにラーセンC棚氷
からも、南極半島では過去20年で3度目という。棚氷の乖離により、地球物理規模での熱学流動性増加の
影響は避けられない
が、どのような事象として顕れるかは専門家の研究待ちとなる。

   ● 思い出の一冊

中国カラーテレビ咸阳工場建設事業のメンバーに加わったのはいいが、五里霧中で仕事遂行する中で学んで
いく(この時の、ガサガサとしたスタイルは今も変わらない)。この本と出会うことになる。本を抱いて寝
るという風に喩えられるように必要な知識を吸収していく。ヘーゲルの物言いではないが、一見すると変哲
のない鋼の匂い立つ『化学プラント建設便覧』(丸善 初版 1970年)。だが、そこにはこの仕事に関わった
先人たち血と汗の物語としても読み取れた。取り分け、建設全段の調査体系あるいは法体系を学べたことは
最大の成果となり、その後の言動の深層源泉として息づくことになる。その後、このブログで掲載したこと
がある『テレビジョン学会誌』とプラント建設直後に出会うことになる。


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騎士団長の年金

2017年07月18日 | 時事書評

 

            

         僖公33年:殽(こう)の戦い その2 / 晋・秦・楚鼎立の時代     

                               


   ※ 一日敵を縦(ゆる)せば数世の患いなり:
そのころ晋では、原軫(げんしん=先軫、中
     京の将)が欒枝(らんし:下軍の将)を説いていた。「秦は、蹇叔の意見にもかかわ
     らず、民を犠牲にしてでも領土欲を満たそうというのだ。これこそ天の恵みだ。こ
     のままみすみす秦軍を見逃す手はない。もし見逃せば、わが国に災難がぶりかかるだ
     ろう。天意に逆らうのは不祥だ。ぜひとも秦軍を討とう」
     「しかし、秦から受けた恩義はどうなる。その恩返しをしないうちに秦軍を討つのは、
     亡き先君文公を恥ずかしめることになるのではないか」
     「いや、非難さゐべきなのは、むしろ秦のほうだ。わが国が文公を失って喪に服して
     いるのに、哀悼の意を示すどころか、それにつけこんでわが同姓の滑国を攻めるとい
     う無礼をはたらいたではないか。どうして恩義に報いる恩義があろう。それに、たっ
     た一日敵を見逃したために、数世代にわたって禍いが生じた例だってある。これも子
     孫のためを考えてやることだ。決して先君を恥ずかしめることにはならぬ」

     こうしてにわかに決断が下され、姜戎に対しても、即日、援軍を求める急使が派遣さ
     れた。襄公は縁起をかついで、身につけていた白の悦服を黒く染め変え、腰に白帯を
     しめて出陣した。梁弘が御の役目を引受け、萊駒(らいく)が車右として付き従った。
     夏四月辛巳、百事は晋軍を殽で打ち破り、百里孟明視、西乞術、白己丙(はくいへい)
     の三人の敵将を生捕りにして凱旋した。襄公は、凱旋するとすぐ、黒く染めかえた喪
     服のままの身なりで文公を葬った。晋が喪服に黒を使うようになったのは、このとき
     からである

 

     

● 読書録:高橋洋一 著「年金問題」は嘘ばかり   

           第2章 「日本の年金制度がつぶれない」これだけの理由

  一階部分は、全国民に定額給付する国民年金。すべての国民は強制的に国民年金制度に加入す
 ることになっています。一階部分で給付される年金は「老齢基礎年金」と呼ば
れています,
  老齢基礎年金は、40年間保険料を納めた人には満額が支給されます。平成二十八年四月から
 の例でいえば、年金額の満額は、年78万100円。一ヵ月当たり約6万5000
円の年金額で
 す。所得の高い人も低い人も、保険料を納めた期間によって基礎年
金額は一律です。
  自営業者や農業者(第1号被保険者)には、一階部分の基礎年金しかおりません。会社員・公
 務員等に扶善されている配偶者(第3号被保険者)も、一階部分の基礎年金の
みです,
  二階部分は、国民年金の上乗せとして報酬比例の年金である被用者年金があります。
  サラリーマン(民間企業職員)の場合は厚生年金、公務員と私学教職員は共済年金でしたが、
 平成二十七年十月以降は、共済年金は厚生年金に一元化されました。厚生年金に
加入している人
 は、「第2号被保険者」と呼ばれます。

  会社員・公務員等は、一階部分の基礎年金と二階部分の厚生年金を受け取ります。一階部分は
 保険料を納めた期間に応じて一律ですが、二階部分は報酬比例ですから、所得
が多く保険料をた
 くさん納めた人は、年金を多く受け取ることができます。

  ここまでが公的年金保険です。一階部分の国民年金も、二階部分の厚生年金も必ず入らなけれ
 ばいけない年金です。
  ここから先は、個人の任意、あるいは組織の任意の年金保険ですから、いろいろな仕組みがあ
 ります,
  自営業者は、一階部分しかおりませんので、「付加年金」と「国民年金基金」という制度があ
 ります。付加年金は、毎月の国民年金保険料に400円プラスして納めると、40年の満額で、
 年間9万6000円基礎年金額が加算されます。
  国民年金基金は、国民年金に上乗せする「私的年金」です。自営業者の二階部分、三階部分の
 ようなものです。
  サラリーマンの場合、一階部分は基礎年金、二階部分は厚生年金ですが、会社によっては三階
 部分を持っているところもあります。先述のように以前は厚生年金基金という仕組みかおりまし
 たが、問題が多いため、解散が相次ぎ、新規には設立されません。厚生年金基金は、確定給付企
 業年金、確定拠出年金(企業型)に移行しています。このほか、個人が入る確定拠出年金(個人
 型)があります。

               第2章2節 日本の年金制度の基本的な枠組みを知っておこう


  前述したように、年金には「賦課方式」と「積立方式」があります。
 賦課方式は、現役の人が納めた保険料は、すぐに高齢者の年金給付に回されます。今の若い人が
 高齢者になったときには、その時代の若い人から集めた保険料を年金として
受け取ることができ
 ます,

  世代間で年金がやりとりされますから、「世代間の助け合い」といわれています。若い人が高
 齢者の年金を支払っていることになりますので、「親への仕送り」と呼ばれる
こともあります,
 個人で仕送りするのではなく、社会全体で仕送りをする仕組みです。

  賦課方式は、集めた分をすぐに支払いますので、原理的に積立金を必要としていません。支払
 い準備のために少額の積立金は必要になりますが、それ以上に積立金を持つ必
要のない制度です,
  日本の公的年金(一階、二階)の根幹は、賦課方式です。ただ、積立金も持っており、国庫か
 らも税金が役人されている部分がありますので、少し複雑化していますが、
ほぼ「賦課方式」で
 運用されています。

  一方、「積立方式」は、保険料を積み立てていって、それを将来受け取る方式です。
  積み立てた保険料は運用され、保険料と運用益が年金支給に充てられます。私的年金保険料を
 自分の老後のために積み立てる「積立方式」で運営されています。

 《年金の仕組みの追い

   一階、二階 公的年金(ほぼ賦課方式)
   三階    私的年金(積立方式)

  一階、二階の公的年金と、三階の私的年金の関係は、日本はアメリカなどに比べて公的年金部
  分のウェイトが高いという特微かあります,

                            第2章3節 日本の年金は「賦課方式」か「積立方式」か?

  すでに本書では何度か紹介していますが、平成二十八年(2018年)に年金改革遵法が成立
 し、改正年金機能強化法では、受給資格を得られる保険料納付期間が25年
から10年に短縮さ
 れました。
同じタイミングで、次のような改正が行なわれました。

  ・短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進
  ・年金額改定ルールの見直し
  ・GPIFの組織見直し

  年金給付額は、物価や賃金が上がるとそれに連動して増えていきますが、現役人口の減少や平
 均余命の伸びを加味して、給付水準を自動的に調整(抑制)する仕組みが導入されています。
 「マクロ経済スライド」であり、世代間格差を少しずつ埋めていく措置です。
  マクロ経済スライドは、物価下落時には適用されないことになっていました。しかし、マクロ
 経済スライド導入後、長くデフレが続いたため、平成二十七年度のI回しか適用されていません
 でした,

  そこで平成二十八年の改正では、将来世代の給付を確保するために、適用ルールを少し変更し
 ました。物価下落時にはマクロ経済スライドを適用しないものの、その分を物価上昇時にまとめ
 て取り戻すというルールです。
  景気が良くなったときにまとめて調整をする仕組みですから、そのときに年金支給額は減りま
 す。これに対して、民進党が「年金カット法案だ」とレッテルを貼って批判したのでした,
  しかし前述のとおり、もともと平成十六年(二〇〇四年)の改正で「マクロ経済スライド」が
 導入されており、ある条件になったら給付の調整が行なわれることは決まっていたことです。そ
 れを「給付カット」と呼ぶのは、どう考えても正しい表現とは思えません。

  これを「給付カット」と呼ぶのであれば、「給付カット」は10年以上前から決まっていたル
 ールです。しかも、民進党の場合は、その10年のあいだに政権も担当しているのですから、何
 をかいわんやです。
  自分が政権を担当していたときには「マクロ経済スライド」について何もしないでおいて、自
 民党が行なえば「年金カット」などというのでは、「批判のための批判」をしていると指摘され
 ても、反論できないはずです。むしろ、滑稽でさえあります。

  そもそも、現役世代の賃金が下がったときに給付額を調整するのは、制度の持続可能性の点か
 ら当然のことです。なぜ平成二十八年に、まとめて年金給付額を減らさなければいけなくなった
 のか。それは、デフレが続いていたためです。本来は、世代間格差を埋めるために、毎年少しず
 つ調整していくのが一番いいのですが、デフレが続いたために調整できませんでした。その「ツ
 ケ」を解消するルールに変更したというわけです。
  安倍政権になってからは、金融政策を行ない、政権を土げてデフレ解消に取り組んでいます。
 しかし、民主党政権の時代は、デフレに対して有効な手がまったく打たれませんでした。その結
 果、デフレが続き、給付の調整ができず、「ツケ」がたまってしまったのです,

  民進党は「年金カット」といいますが、これまでデフレでカットすべき年金給付をカットして
 こなかったのが悪いのです,それを遅ればせながらやるのですから、カットになるのは当然とい
 えば当然です。自分たちが政権をとっていた時期にはデフレを放置して、年金カットをやらなか
 った民進党が、年金カットと反対するのは笑止千万です。

  民進党が改正法案を批判したのは、まったくもって筋違いといわざるをえません。デフレが続
 いたために、世代間格差解消の措置をとれなかったのであり、責められるべきは、民進党の「経
 済政策」です。民進党の主張は、自分たちの経済政策が失敗したことを良しとしているかのよう
 です。
 「経済政策の失敗に起因する問題」を、年金の「制度の問題」にすり替える議論はよく出てきま
 す。そこをきちんと見極めておかないと、制度に問題があるかのように思ってしまって、不安を
 あおられてしまいます。後ほどまた触れますが、年金問題の大半は、制度の問題ではなく、経済
 政策の問題なのです。

  そこを隠そうとしたり、ただ与党を攻撃するためだけに「年金」について「批判のための批判
 」をするのは、政治家として、許すべからざる無責任です。その批判を真に受けて、年金保険料
 を払わなかったり、ハイリスクな投資に手を出して大損をしてしまう人も出かねないのですから。
 人ロ減少が起こることは、ずっと前から予測されていることであり、それに伴って給付額が減る
 ことも、予測されていることです。問題はその額です。人口減少は急激に進むわけではなく、ゆ
 っくりと進むと予測されていますから、人口減少が起こっても、給付額が大幅に減ることはあり
 ません。ゆっくりと進む人ロ減少に合わせて、毎年少しずつ調整していけば影響は少なくて済み
 ます。その仕組みが「マクロ経済スライド」です。

                第2章5節 「給付カット法案」などという批判は笑止千万




  社会保障の議論の中で、必ず出てくるのが「現役世代何人で一人の高齢者を支えるか」という
 考え方です。内開府が「高齢社会白書」を発表していますが、その平誠二十八年版によれば、今
 後、高齢者(六五歳以上)一人を、現役世代(15~64歳)が何人で支えるかについて、次の
 ようなデータが書かれています(図4参照)。
  このデータでは「現役世代」を生産年齢人口(労働力の中核をなす15歳以上、65歳未満)
 としていますが、最近の日本では15歳から働く人は多くはないですから、実際にはもう少し厳
 しいデータになるでしょう。
  この数字だけを見ると、「大変なことになる」と思って不安になる人が多いと思います。
  もちろん、このような状況はけっして楽なものではないことは確かです。しかし、先ほど述べ
 たように、政府がこのような数字を出しているということは、逆にいえば、このような人口減少
 状況は、すでに十分予測されているということです。年金数理の計算でも、このような状況は(
 「完全に」とまではいわないまでも)織り込まれているのです。

  少子高齢化の状況は、きちんと踏まえておく必要はあります。しかし、必要以上に不安をあお
 るロジックにダマされてはいけません。
  「一・X人で一人の高齢者を支えなくてはいけない」というロジックの最大の問題点は、「人
 数」だけで計算しているところです。 正しい議論するには、「人数」に「所得」を掛けた「金
 額」を使わなければなりません。年金は「人数」の問題ではなく、「金額」の問題です。そこを
 押さえておかないと、不安をあおられることになります。
  昔は、6~7人で1人を支えていましたが、一人ひとりの給料はたいしたことはありませんで
 した。今は、その当時よりは給料が上がってきています。給料が2倍になれば、昔の人の2人分
 になります。年金財政から見ると、頭数より、一人ひとりがどのくらい稼いでいるかが重要です。

  人口が減少しても、それを上回る成長をして所得が伸びていれば、人口減少はあまり大きな問
 題ではなくなります。
  前章で、「年金をもらえる額は、生涯を通じて平均の給与額の四割と考えましょう」と中しあ
 げました。たとえば若かった頃の平均月給が10万円だったとしましょう。その人の「生涯の平
 均給与額」はその10万円時代も計算に含んだものになります。その4割を年金としてもらうの
 です,
  一方、もし経済成長の結果、現在の平均月給が3倍の30万円になっているとしたらどうでし
 ょうか。これはつまり、納められる保険料も3倍になっているということです。その保険料収入
 を、かつて平均月給が10万円だった人に支払うわけです。
  これはわかりやすくするために乱暴なまでに単純化した例です。実際には年金給付額は、物価
 や賃金が上がるとそれに連勤して調整されるわけですが、ともあれ、このように経済成長してい
 るならば、制度がもつであろうことがイメージできるはずです。
  しかし、この20年間、デフレによって初任給は劇的に上がっていません。そうなるとなかな
 か難しいことになってしまいます。マイナス成長が続いて、所得が伸びなければ、人口減少がモ
 ロに効いてきて、年金制度は厳しくなります。
  
  仮に、人口増加社会であったとしても、経済が落ち込み、所得が伸びなければ、年金今後、人
 口が少しずつ減少していくと予想されている中で重要なことは、「所得を増やすこと」。経済を
 成長させて、所得を増やしていく。それが年金制度を安定させる一番のポイントです。
 「経済成長は不要だ」などという議論を好んでする人がいますが、この年金の問題一つを考えて
 も、そのような発想がいかに間違いかがわかります。また、デフレを放置、あるいは助長するよ
 うな経済政策をすることがどれほど罪深いかもわかります。

  子供の数が少なくなっても、その子たちが完全雇用状態になり、稼ぎが良くなれば、年金制度
 は成り立ちます。現在では女性も、以前と比べればけるかに大勢が働くようになりましたので、
 女性の所得も増えてきています。
 
 《間違った計算と正しい計算》

  ・間違った年金計算 →「人数」で計算
  ・正しい年金計算  →「金額」で計算

  人間の数だけで議論するのは、間違っています。「何人で一人を支えるか」を示すイラストが
 よくありますが、イラストのイメージにダマされないようにしましょう。やせ細った人が支える
 のと、筋骨隆々の人が支えるのでは、まったく違います。経済成長を果たして所得を高めれば、
 筋骨隆々の人が高齢者を支えることになります。

          第2章6節 「一・X人で一人の高齢者を支える」という脅し文句の真実

                                                         この項つづく 

   

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』    

    第41章 私が振り返らないときにだけ 

  私は『騎士団長殺し』のことをぼんやりと考えながら、家の周辺をあてもなく散歩した。雑木
 
林の中の小径を歩いているとき、白分か背後から誰かにじっと見られているような奇妙な感覚が
 あった。まるであの「顔なが」が地面の四角い蓋を押しあけて、画面の隅から私を密かに観察し
 ているみたいな。私はさっと振り向いて背後に目をやった。でも何も見当たらなかった。地面の
 穴も開いていなかったし、顔ながの姿もなかった。落ち葉の積もった無人の小径が沈黙の中に続
 いているだけだ。そういうことが何度かあった。しかしどれだけ素早く振り向いても、そこには
 やはり誰の姿もなかった。

  あるいは穴も顔ながも、私か振り返らないときにだけそこに存在しているのかもしれない。私
 か振り返るうとした瞬間、それらは気配を察して素早く姿を隠してしまうのかもしれない。まる
 で子供たちの遊びのように。

  私は雑木林の中を抜けて、いつもは行かない小径の突き当たりまで足を運んだ。そして秋川ま
 りえの言っていた「秘密の通路」の入り口がそのあたりに見つからないかと注意して探してみた。
 しかしいくら捺しても、それらしきものは見当たらなかった。「普通に見ていたのでは、通路は
 見つからない」と彼女は言っていたが、よほどうまくカモフラージュされているのだろう。いず
 れにせよ彼女は、暗くなってから一人でその秘密の通路を通って、隣の山からうちまで歩いてや
 ってきたのだ。茂みをくぐり、雑木林を抜けて。

  小径の突き当たりは小さな丸い空き地になっていた。頭上を覆っていた樹木の彼が途切れ、見
 上げると小さく空か見えた。そして秋の太陽の光がそこからまっすぐ地面に向けて差し込んでい
 た。私はそのささやかな目だまりの中にある平らな石の上に腰を下ろし、樹幹のあいだから谷間
 の風景を眺めた。そのうちにどこかの秘密の通路から秋川まりえがひょっこり姿を現すのではな
 いかと想像しながら。でももちろん誰もどこからも現れなかった。鳥たちがときどきやってきて
 彼に止まり、また飛び立って行くだけだ。鳥たちは常に二羽ずつで行動し、お互いの存在を良く
 通る短い声で知らせ合っていた。ある種の鳥はコ伎パートナーを見つけるとその相手と一生行動
 を共にし、相手が死ぬとその片割れは、残りの一生を孤独の内に暮らすのだという記事をどこか
 で読んだことがあった。言うまでもないことだが、彼らは弁護士事務所から内容証明付きで送ら
 れてきた離婚届の書類に署名捺印したりはしない。

  ずっと遠くの方から、何かを巡回販売するトラックのアナウンスがいかにも物憂げに聞こえ、
 やがて聞こえなくなった。それから近くの茂みの奏でごそごそという、正体不明の大きな音がし
 た。人間が立てる音ではない。野生の動物が立てる音だ。イノシシではないかと思って一瞬ひや
 りとしたが(イノシシはスズメバチと並んで、このあたりでは最も危険な生き物だった)、音は
 ぱったり止んでそれっきり聞こえなかった。

  私はそれを機に立ち上がり、歩いて宮号戻った。宮に戻る途中で祠の裏手にまわり、穴の様子
 を確かめてみた。穴の上にはいつもどおり根がかぶせられ、重しの石がいくつもその上に並べら
 れていた。見る限り石が動かされた形跡はなかった。蓋代わりの根の士には落ち葉が厚く積もっ
 ていた。落ち葉は雨に濡れて、既に鮮やかな包を失っていた。春に若々しく生まれたすべての葉
 は、晩秋の静かな死を避けがたく迎えていた。

  じっと見ていると、今にもその蓋が持ち上げられ、中から「顔なが」がその細長い茄子のよう
 な顔をひょいとのぞかせそうな気配があった。しかしもちろん蓋は持ち上げられなかった。それ
 に「顔なが」が潜んでいたのは、四角い形をした穴だ。もっと小さな、もっと個人的な穴だ。そ
 してこの穴に潜んでいたのは「顔なが」ではなく、騎士団長だった。というか、騎士団長の姿を
 借用したイデアだった。彼が夜中に鈴を鳴らして私をここに呼び、この穴を開けさせたのだ。

  いずれにせよ、この穴がすべての始まりだった。私と免色が重機を使って穴をこじ開けて以来、
 私のまわりでわけのわからないことが次々に起こり始めた。それともすべては私が『騎士団長殺
 し』を屋根裏部屋で見つけ、その包装を解いたことから始まったのかもしれない。ものごとの順
 番からいえばそうなる。あるいはその二つの出来事は最初から密接に呼応し合っていたのかもし
 れない。『騎士団長殺し』という一枚の絵が、イデアをこの宮に導き入れたのかもしれない。私
 か『騎士団長殺し』という絵画を解き放ったことへのいわば補償作用として、騎士団長が私の前
 に現れ出てきたのかもしれない。しかし考えれば考えるほど、何か原因であり何か結果であるの
 か、判断することができなくなった

  家に戻ったとき、玄関の前に駐めてあった免色のジャガーは既に姿を消していた。たぶん私か
 外に出ているあいだに、免色がタクシーにでも乗って取りに来たのだろう。あるいは業者を寄越
 して回収させたのかもしれない。いずれにせよ車寄せには、私の埃まみれのカロ土フ・ワゴンが
 どことなく心細げに残されているだけだった。免色が言っていたように、コ伎タィャの空気圧を
 側らなくてはなと私は思った。しかしまだ空気圧計を買ってはいなかった。たぶん一生買うこと
 もないだろう。

  昼食の用意をしようと思ったが、調理台の前に立ったとき、さっきまで旺盛だった食欲がすっ
 かり消え失せていることに気づいた。そのかわりひどく眠かった。私は毛布を持って居間のソフ
 ァに横になり、そのまま眠りについた。眠りの中で私は短い夢を見た。とても明白で鮮やかな夢
 だった。しかしそれがどんな夢だったのかまったく思い出せなかった。思い出せるのは、それが
 とても明白で鮮やかな夢だったということだけだった。夢と言うより、何かの手違いで眠りの中
 に 紛れ込んできた現実の切れ端のようにも感じられた。目覚めたとき、それは逃げ足の速い俊
 敏な動物となって跡形もなくどこかに消え失せていた。

 
EineKleineNachtmusik  Dorothea Tanning

       第42章 床に落として割れたら、それは卵だ

  その一週間は予想もしなかったほど素早く過ぎていった。午前中ずっと集中してキャンバスに
 向かい、午後には本を読んだり散歩をしたり、必要な家事をこなしたりした。そのようにして、
 気がつかないうちにI日いちにちが移り変わっていった。水曜日の午後にはガールフレンドがや
 ってきて、我々はベッドの中で抱き合った。古いベッドはいつものように派手な音を立てて軋み、
 彼女はそれを面白がった。

 「このベッドはきっと遠からず解体するわよね」と彼女は性交の途中、一息ついているときに予
 言した。「ベッドのかけらなのか、グリコ・ポッキーなのか見分けがつかないくらい見事にばら
 ばらに砕けると思う」
 「我々はもう少し穏やかにそっと、ことをおこなうべきなのかもしれない」
 「エイハブ船長は鰯を追いかけるべきだったのかもしれない」と彼女は言った。
  私はそれについて考えた。「世の中には簡単に変更のきかないこともある――君の言いたいの
 はそういうこと?」
 「だいたい」
  少し間を置いてから我々は再び、広い海原に白い鯨を追い求めた。世の中には簡単に変更のき
 かないこともある。

  毎日少しずつ、私は秋川まりえの肖像画に手を加えていった。キャンバスに描いた下絵の骨格

 に、必要とされる肉付けをおこなっていった。求められるいくつかの色を作り出し、それを使っ
 て背景をこしらえていった。彼女の顔が画面に自然に浮かび上がってくるための土台作りだ。そ
 うやって、日曜日にまた彼女がスタジオにやってくるのを待った。絵の制作には実際のモデルを
 前にして進めるべき作業があり、モデルが前にいないときに準備しておくべき作業がある。私は
 どちらの作業もそれぞれに好きだ。様々な要素について一人で時間をかけて考えを巡らせ、いろ
 んな色や手法を試しながら環境を整えていく。そういう手仕事を楽しみ、またその整えられた環
 境から自発的に即美的に実体を立ち上げていく作業を楽しむ。

  秋川まりえの肖像を描くのと並行して、祠の裏手にある穴の絵を、私は別のキャンバスに描き
 始めた。その穴の光景は私の脳裏に鮮やかに焼きついていたから、絵を描くために実物を前にす
 る必要はなかった。私は記憶の中にあるその穴の要かたちを、徹底して細密に描いていった。私
 はその絵を、掛け値なしのリアリズムで、きわめて写実的に描いた。私か写実的な絵を描くこと
 はまずないが(もちろん営業としての肖像画の場合は別だ)、そのような種類の絵を描くことが
 決して不得意なわけではない。その気になれば写真と見間違えるような、精密でリアルな具象画
 を描くこともできる。たまにそうしたスーパー・リアリズムに近い絵を描くことは、私にとって
 気分転換になったし、基礎技術の洗い直し訓練にもなった。しかし私が写実画を描くのは、あく
 まで自分の楽しみのためであって、作品を外に出すことはまずない。



  そのようにして私の眼前に、「雑木林の中の穴」が日ごとにありありと生々しく再現されてい
 った。数枚の厚板が蓋として半分だけかぶせられた、林の中のミステリアスな円形の穴。そこか
 ら騎士団長が現れ出てきた穴だ。両面に描かれているのはただの暗い穴だけで、人の姿はない。
 まわりの地面には落ち葉が積もっている。どこまでも静謐な風景だ。しかしそこには、今にもそ
 の中から誰かが(何かが)這い出してきそうな気配がうかがえた。見れば見るほど私はそのよう
 な予感を抱かないわけにはいかなかった。自分で描いた造形でありながら、そこにふと肌寒さを
 感じてしまうことがあった。

  そんな具合に毎日、午前中の時間をスタジオの中で一人で過ごした。そして絵筆とパレットを
 持ち、『秋川まりえの肖像』と『雑木林の中の穴』の絵を――まるで性格の異なる二種類の絵画
 を――
気が向くまま交互に描いていった。雨田典彦が日曜日の真夜中に座っていたスツールに腰
 掛け、並べて置いた二枚のキャンバスに向かって集中して仕事をした。あるいはそのような集中
 のおかげだろう、月曜日の朝に私かスツールの上に感じた雨田典彦の濃厚な気配は、いつの開に
 か消え失せていた。その古びたスツールは再び私のための現実的な道具に戻ったようだった。雨
 田典彦はおそらくは白分か本来いるはずの場所に戻っていったのだろう。

  その週、私は夜中にときどきスタジオに行ってドアを小さく開け、隙間から中をのぞいてみた。
 しかし部屋は常に無人だった。雨田典彦の姿もなければ、騎士団長の姿もなかった。古いスツー
 ルがひとつ、イーゼルの前に置かれているだけだった。窓から射し込む僅かな月の光が部屋の中
 にある事物を静かに浮かび上がらせていた。壁には『騎士団長殺し』がかけられていた。描きか
 けの『白いスバル・フォレスターの男』が裏向きにして置かれていた。二つ並んだイーゼルの上
 には、制作途中の『秋川まりえの肖像』と『雑木林の中の穴』の絵が置かれていた。スタジオの
 中には油絵の絵の具やテレビン油やホビーオイルの匂いが漂っていた。どれだけ長く窓を開けて
 おいても、それらが混じりあった匂いが部屋から消えることはない。私がこれまでずっと吸って
 きた、そしてこれからもたぶんずっと吸い続けるであろう特別な匂いだ。私はその匂いを確かめ
 るように、夜のスタジオの空気を胸に吸い込み、それから静かにドアを閉めた。


ここで4つの絵が揃ったことになる。これらの絵が何を物語るのか?それはこれから楽しみだ。この
筋書きとは別に、騎士団長なら、生命保険・傷害保険と公的年金・私的年金の4つはきっちり掛けて
いたのだろうかと縦断半分に思うことがあった。
   

                                      この項つづく

 ● 今夜の一曲
Mozart "Eine kleine Nachtmusik" I. Allegro

『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』ト長調 K.525は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作
曲したセレナードのひとつで、楽曲の中でも最も有名な曲の一つ。1787年8月10日にウィーンで作曲が完了。
この期日はオペラ・ブッファ『ドン・ジョヴァンニ』の作曲中の時期にあたる。ドイツ語でEineは女性形の
不定冠詞、kleineは「小さな」の意の形容詞kleinの女性形、Nachtmusikは、Nacht(夜)+Musik(音楽)の合
成名詞で、「小夜曲」という意味で今ではほとんど使われなくなっている。この題名はモーツァルト自身が
自作の目録に書き付けたもされる。

 

 

コメント
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有機EL時代とは何か

2017年07月17日 | デジタル革命渦論

            

         僖公33年:殽(こう)の戦い その2 / 晋・秦・楚鼎立の時代     

                               

   ※ 鄭の商人弦高(げんこう)母国を救う:秦軍は滑(小国の名)に到着した。たまたま
     鄭の商人で弦高という男が、周へ商売に出掛ける途中、ここで秦軍に出会った。かれ
     はまず慰問の先触れとしてなめし皮四枚を届けておき、あとがら牛十二頭を用意して、
     秦軍のところへ出掛けて行った。そして次のように申し出た。
     「わが君には、みなさまがたが軍を進めてわが国にお越しなさると承り、とりあえず
     ここで従軍兵士のご一行を慰問申しあげるようお命じになりました。貧しい国とてな
     んのおもてなしもできませぬが、兵士のみなさまには、永い行軍を続けてこられたゆ
     え、多分この地でご休憩をおとりになるのではないかと存じ、ここに食糧一日分を用
     意してございます。また、行軍を続けられるのでありますから、せめて一晩なりとも
     警護の役目を承りたいと存じます」

     こうして弦高は溺単を滑にくぎ付けにすると、そのあいだに早馬を母国の鄭に送って、
     秦軍が来た
旨急報した。知らせを受けて、郎の穆公は、すぐさま秦の公館の様子を探
     りに行かせた。荷物を単に積み込む者、
武器の手入れをする者、馬に稼をあたえる者、
     だれもがあわただしい勤きをみせている。そこで穆公
は大夫の皇武子を公館に差し向
     けて挨拶させた。
     
「長いあいだご滞在くださっているのに、わが国では、乾肉も食禄も肉も家畜も底を
     ついてしまい、
そこでみなさまがたには、気をきかして引揚げようとなさるのであり
     ましょう。そのお志はありがたいが、しかしわが国にはまだ貴国の具圈のような狩り
     揚が残っております。原圃の狩り揚です。ひとつ、その原則に放し飼いしてある鹿を
     お獲りいただいて、ひきつづきわが国にご滞在をねがいたいのだが」

     紀子は、陰謀が見破られたと知って、斉へ出奔した。同じく逢孫と楊孫の二人は、宋
     へ出奔した。「鄙には備えがある。攻撃したとしても、勝利はおぼつかぬし、さりと
     て包囲戦術をとろうにも補給が続かない。いっそ引揚げよう」
     秦の武将、孟明はこう主張し、滑を滅ぼしただけで引揚げた。
 

  

❏ 有機EL時代とは何か

既に成熟しているテレビ市場だが、限界を迎えれば、その成熟度は増すことになる。 そうした中で
期待を集めているのが、有機ELテレビだ。自発光で特に黒色の表現に優れ、高コントラストを実現で
き、視野角の広い有機ELテレビは、液晶テレビとの違いが分かりやすい。さらに薄型テレビは(ブラ
ウン管テレビに比べ)どうしてもスピーカーが小さくなり、音質が悪いとされてきた。だが、ソニー
は、バックライトがないという有機ELの利点をを生かし、画面背後にアクチュエーターを配置して画
面から音を出して音質を高めている。究極のテレビといわれる壁掛けテレビにも近づいてきており、
画質を落とさず軽量、薄型でスタイリッシュというデザイン的な付加価値をもつ。有機ELパネル供給
メーカーは、LG Display1社だが、有機ELテレビを製品化するメーカー数は12社と、1年前に比べ2
倍に増えた。日本市場は、他地域と比較すれば、プレミアムテレビが好まれる高付加価値の市場、
ー、パナソニック、東芝と、シャープ以外の国内テレビメーカーが有機EL陣営を形成する。


● 2017年の有機ELパネル市場は前年比63%増の252億ドル規模

2017年の有機ELテレビの需要予測は、Samsungとともにプレミアムテレビブランドとして全世界で認
知されているソニーの参入によるインパクトを考慮し、2016年比2倍となる140万台としている。そ
して、2018年には250万台の出荷を見込む。
ただ、今のところ全テレビ出荷台数に対する有機ELテレ
ビの台数比率は2017年0.6%で2021年に2.6%になると見ている。55型以上のテレビに限った台数ベー
スの有機ELテレビ率については、2017年が2.6%で、2021年が8.3%と予測されている。
金額ベースで
は、55型以上のテレビ出荷額に占める有機ELテレビ出荷額は2017年は6.8%、2021年は14.3%に達す
る。金額の高い上位のプレミアムテレビ市場では、有機ELの存在は大きくなる見込み。そのため各テ
レビメーカーは有機EL市場に参入を果たす(マイナビ 2017.07.21)。


● 21世紀のカンブリア紀 有機エレクトロニクス

1987年に始まる、米国はコダック社が発明した有機ELは、その後、日本の三洋電機、パイオニア、ソ
ニーなどの家電メーカにより研究開発により発展したものの「ダークスポット」などの技術問題や日
米経済協議やシャープの液晶パネルの垂直統合などの政治経済問題などがあり頓挫し、有機ELパネル
メーカはサムソン(三星)、LGエレクトロニクス(金星)の独占状態に移る。このように、デジタル
革命渦論
をベースとした核兵器/原発に象徴される20世紀の物理学は、バイオミメティクスの21
世紀の物理学への変遷、あるいは有機エレクトロニクスのカンブリア紀の様相をみせる。因みに、液
晶も有機化合物だはあるが、対液晶パネルからは、消費電力が低く、半分以下の薄さ/構成部材数で
演色性に優れ、ブルーライトによる障害も少ない。半導体で言えばシリコン/無機系に対するグラフ
ェン/有機系半導体、あるいは鉄鋼/金属系に対するナノセルロース/炭素系、あるいは地下化石燃
料・核燃料・無機半導体系エネルギーに対する有機・ハイブリッド系/再生可能エネルギーの隆盛を
意味する。ここで下記に2つの最新有機EL技術事例を掲載する。



❏ 特許事例:特開2017-62884 表示装置及び発光装置

有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子/表示装置)は、自発光型であり、消費電力が低
く、また、高精細度の高速ビデオ信号に対しても十分な応答性を有するものと考えられ、実用化に向
けての開発、商品化が進んでいる。また、有機EL素子を発光部として用いた発光装置(照明装置)
の開発、商品化も進んでいる。通常、第1電極、有機発光材料の発光層を備えた有機層や第2電極が
順次、積層された構成/構造をとる。ところが、例えば、第1電極上にパーティクル(異物)や突起
部が存在すると、また、第1電極に切れ目や切断部が生じると、有機層のカバレッジが完全ではなく
なり、第1電極と第2電極との間で短絡が生じる。そして、このような短絡が生じると、アクティブ
マトリクス方式の有機EL表示装置は、短絡を含む画素欠陥となり、有機EL表示装置の表示品質劣
となり、パッシブマトリクスの有機EL表示装置においては、欠線となってしまい、表示品質を劣
化させる。

この問題解決手段として、有機層と第2電極との間に、有機層側から、第1抵抗層及び第2抵抗層が
設けられている。また、第1電極、有機発光材料から成る第1発光層を備えた第1有機層、電荷発
層、有機発光材料から成る第2発光層を備えた第2有機層、第2電極が順次積層された
構造の有機E
L素子があり、有機EL素子は、第1電極と第2電極との間での短絡を効果的に防止できるが、抵抗
体層の形成を必要とし、有機EL素子製造工程の増加問題、生産性の低下、製造コスト増加といった
問題がある。また、電荷発生層と第1電極との間での短絡を防止できない。電荷発生層と第1電極と
の間で短絡発生すると、色ムラや色ずれといった画質低下の原因となる。


このように、❶電荷発生層と第1電極間の短絡防止構成/構造の表示装置、発光装置を提供するため、
❷ま
た、抵抗体層を形成すること無く第1電極と第2電極間の短絡防止できる構成、構造を有する表
示装置、発光
装置を提供のために、下図の第1の態様~第2の態様に係る表示装置/発光装置の、電
荷発生層/電極接
続層は、欠陥領域において高電気抵抗状態又は絶縁状態にあり、欠陥領域以外の領
域の低電気抵抗状態にある。ところで、欠陥領域に酸素原子や窒素原子が多く存在することが判明
これらの酸素原子や窒素原子と電荷発生層/電極接続層を構成する原子(例えば、アルカリ金属また
はアルカリ土類金属)とが結合する結果、欠陥領域の電荷発生層/電極接続層が酸化、窒化され、こ
のような電荷発生層あるいは電極接続層の電気抵抗状態が生じると考えられ、抵抗層を形成なしに、
電荷発生層と第1電極の間の短絡、第2電極と第1電極の間の短絡を確実防止でき、高い信頼性、長
寿命、高輝度、高効率、高表示品質を有する表示装置や発光装置を、製造工程の大幅な増加無しに製
造できる(詳細は下図ダブクリ参照)。

【符号の説明】

10発光素子(表示素子)、10R赤色発光素子(第1発光素子)、10G緑色発光素子(第2発光
素子)、10B青色発光素子(第3発光素子)、SPR赤色表示副画素、SPG緑色表示副画素、SPB
青色表示副画素、11第1基板、12第2基板、13画像表示部、14保護膜、15封止層(封止樹
脂層)、20TFT(薄膜トランジスタ)、120MOSFET、21,121ゲート電極、22,
122ゲート絶縁層、23,123チャネル形成領域、24,124ソース/ドレイン領域、125
素子分離領域、26コンタクトホール(コンタクトプラグ)、30層間絶縁膜・積層構造体、31下
層・層間絶縁膜、32上層・層間絶縁膜、33最下層・層間絶縁膜、34第1層間絶縁膜、35第2
層間絶縁膜、36最上層・層間絶縁膜、37光反射層、38R第1光反射層、38G第2光反射層、
38B第3光反射層、40層間絶縁層、51第1電極、52,152第2電極、60絶縁層、61開
口部、61A開口部の縁部、70積層構造体、71,72,73有機層、71A,72A,73A発
光層、74,75電荷発生層、74A欠陥領域における電荷発生層の第1層が高電気抵抗状態又は絶
縁状態にある領域、74A”正常領域において低電気抵抗状態にある電荷発生層の第1層の領域、
74A,75A電荷発生層における第1のキャリアを注入する第1層、74B,75B電荷発生層に
おける第2のキャリアを注入する第2層、81,91欠陥領域、82,92正常領域、90電極接続
層、90’欠陥領域における電極接続層の部分、90”正常領域における電極接続層の部分、170
有機層、CF,CFR,CFG,CFBカラーフィルタ層、BM遮光層(ブラックマトリクス層)

【特許請求範囲】

  1. 発光素子が2次元マトリクス状に配列されて成る表示装置であって、 各発光素子は、
      (A)基体上に形成された第1電極、
      (B)第1電極上に形成された積層構造体、及び、
      (C)積層構造体上に形成された第2電極、
    から成り、  積層構造体は、第1電極側から、少なくとも、
      (B-1)有機発光材料から成る第1発光層を含む第1有機層、
      (B-2)第1のキャリアを注入する第1層及び第2のキャリアを注入する第2層が積層さ
    れた電荷発生層、並びに、
      (B-3)有機発光材料から成る第2発光層を含む第2有機層、
    が、この順に積層されて成り、欠陥領域を含む発光素子では、電荷発生層は、欠陥領域におい
    て高電気抵抗状態又は絶縁状態にあり、欠陥領域以外の領域において低電気抵抗状態にある表
    示装置。
  2. 第1電極はアノード電極を構成し、第2電極はカソード電極を構成し、第1のキャリアは電子
    であり、第2のキャリアは正孔であり、電荷発生層を構成する第1層は、アルカリ金属又はア
    ルカリ土類金属を含む材料から構成されている請求項1に記載の表示装置。
  3. 欠陥領域における電荷発生層を構成する第1層は、CaOXNY又はCsOXNY(但し、1<X
    <10,1<Y<10)を含み、欠陥領域以外の領域における電荷発生層を構成する第1層の
    組成は、欠陥領域における電荷発生層を構成する第1層の組成と異なる請求項2に記載の表示
    装置。
  4. 欠陥領域以外の領域における電荷発生層の厚さは、欠陥領域における電荷発生層の厚さよりも
    厚い請求項1に記載の表示装置。
  5. 欠陥領域における電荷発生層の厚さは5nm以上であり、欠陥領域以外の領域における電荷発
    生層の厚さは10nm以上である請求項4に記載の表示装置。
  6. 積層構造体と第2電極との間、又は、積層構造体と第1電極との間に、電極接続層が形成され
    ており、欠陥領域を含む発光素子では、電極接続層は、欠陥領域において高電気抵抗状態又は
    絶縁状態にあり、欠陥領域以外の領域において低電気抵抗状態にある請求項1に記載の表示装
    置。
  7.   (A)基体上に形成された第1電極、
      (B)有機発光材料から成る発光層を含む有機層、及び、
      (C)第2電極、
    がこの順に積層されて成る発光素子が、2次元マトリクス状に配列されて成る表示装置であっ
    て、
    各発光素子は、第2電極と有機層との間、又は、第1電極と有機層との間に、電極接続層
    を更に有しており、欠陥領域を含む発光素子では、電極接続層は、欠陥領域において高電気抵
    抗状態又は絶縁状態にあり、欠陥領域以外の領域において低電気抵抗状態にある表示装置。
  8. 電極接続層は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む材料から構成されている請求項7に
    記載の表示装置。
  9. 欠陥領域における電極接続層は、CaOXNY又はCsOXNY(但し、1<X<10,1<Y<
    10)を含み、欠陥領域以外の領域における電極接続層の組成は、欠陥領域における電極接続
    層の組成と異なる請求項8に記載の表示装置。
  10. 欠陥領域以外の領域における電極接続層の厚さは、欠陥領域における電極接続層の厚さよりも
    厚い請求項7に記載の表示装置。
  11. 欠陥領域における電極接続層の厚さは5nm以上であり、欠陥領域以外の領域における電極接
    続層の厚さは10nm以上である請求項10に記載の表示装置。
  12.   (A)基体上に形成された第1電極、
      (B)第1電極上に形成された積層構造体、及び、
      (C)積層構造体上に形成された第2電極、
    から成る発光部を備えた発光装置であって、 積層構造体は、第1電極側から、少なくとも、
      (B-1)有機発光材料から成る第1発光層を含む第1有機層、
      (B-2)第1のキャリアを注入する第1層及び第2のキャリアを注入する第2層が積層さ
    れた電荷発生層、並びに、
      (B-3)有機発光材料から成る第2発光層を含む第2有機層、
    が、この順に積層されて成り、欠陥領域において、電荷発生層は高電気抵抗状態又は絶縁状態
    にあり、欠陥領域以外の領域において、電荷発生層は低電気抵抗状態にある発光装置。
  13. 第1電極はアノード電極を構成し、第2電極はカソード電極を構成し、第1のキャリアは電子
    であり、第2のキャリアは正孔であり、電荷発生層を構成する第1層は、アルカリ金属又はア
    ルカリ土類金属を含む材料から構成されている請求項12に記載の発光装置。
  14. 欠陥領域における電荷発生層を構成する第1層は、CaOXNY又はCsOXNY(但し、1<X
    <10,1<Y<10)を含み、欠陥領域以外の領域における電荷発生層を構成する第1層の
    組成は、欠陥領域における電荷発生層を構成する第1層の組成と異なる請求項13に記載の発
    光装置。
  15. 欠陥領域以外の領域における電荷発生層の厚さは、欠陥領域における電荷発生層の厚さよりも
    厚い請求項12に記載の発光装置。
  16. 積層構造体と第2電極との間、又は、積層構造体と第1電極との間に、電極接続層が形成され
    ており、電極接続層は、欠陥領域において高電気抵抗状態又は絶縁状態にあり、欠陥領域以外
    の領域において低電気抵抗状態にある請求項12に記載の発光装置。
  17.   (A)基体上に形成された第1電極、
      (B)有機発光材料から成る発光層を含む有機層、及び、
      (C)第2電極、
    がこの順に積層されて成る発光部を備えた発光装置であって、  発光部は、第2電極と有機層
    との間、又は、第1電極と有機層との間に、電極接続層を更に有しており、欠陥領域において
    電極接続層は高電気抵抗状態又は絶縁状態にあり、欠陥領域以外の領域において、電極接続層
    は低電気抵抗状態にある発光装置。
  18. 電極接続層は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む材料から構成されている請求項17
    に記載の発光装置。
  19. 欠陥領域における電極接続層は、CaOXNY又はCsOXNY(但し、1<X<10,1<Y<
    10)を含み、欠陥領域以外の領域における電極接続層の組成は、欠陥領域における電極接続
    層の組成と異なる請求項18に記載の発光装置。
  20. 欠陥領域以外の領域における電極接続層の厚さは、欠陥領域における電極接続層の厚さよりも
    厚い請求項17に記載の発光装置

 July 7, 2017

 ❏ 有機EL素子の新しい発光機構の提案

 今月7日、京都大学の研究グループが、複数の有機材料からなる層状構造の発光層に用いる分子をよ
り長寿命で効率よく発光する有機EL素子の開発研究向け――
第二世代のEL機構のリン光EL材料で必要
とされる希少金属を必要としない、第三世代のEL機構である熱活性型遅延蛍光(TADF)――の青色
発光が難しく、色純度が悪いといった問題解消できる発光機構を提案(上図参照)。この研究成果の
基礎となる理論は、分子の励起状態を失活し難くし、励起エネルギーを効率よく利用できる。有機EL
材料以外の有機太陽電池などの分子設計にも展開したいという。つまり、「有機エレクトロニクスの
開発テーマは深く広い」という言葉に集約されるほどに基礎的な研究促進を伴いながら加速させてい
くことを意味している(詳細は下図ダブクリ参照)。


    

 

 No.44  

 【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅵ】

● フレキシブルエネルギータイリングは可能か ?

さて、先回では「安全なペロブスカイト太陽電池実現に道」「建造物のエネルギータイリング市場」
について掲載したが、雹や強風に煽られた飛散物(デブリ)などによりモジュールが破損故障するビ
ジネスシーンに対し、高い堅牢/耐久性を要求される場合、表面に強化ガラスなどの保護層を必要と
する商品は低いフレキシブル(可撓性)設計仕様になることは避けられない(勿論、万一被災/破損
などの事象には、各タイルモジュールに配置された自動コントローラで、警報発令/遮断/自己修理
(補助回路への自動的に切り替え)できる設計仕様となっている)。このため高い堅牢/耐久仕様以
外はフレキシブルなタイリング対応可能なものとして設計仕様を確定しておく。

 July 17, 2017

● 最安値2.8円/kWh時代に対応した使い捨てフレキシブル発/蓄電フィルムの開発

ところで、先月29日、オーストラリアのプリンンテッド・エネルギー社がスクリーン印刷で製造す
るフレキ
シブル薄膜ソーラーパネルと同法で製造したフレキシブル薄膜蓄電フィルムを併せた発電/
蓄電
フィルムの開発にあたり政府から200万ドルの助成金を受けたことが報告されていが(上写真
ダブクリ参照:Coal entrepreneur pursues printed batteries on printed solar : RenewEconomy,June 29, 2017)、
そのベンチャー企業のプリンンテッド・エネルギー社の主要メンバは、フレキシブル発光ダイオード
フィルムを製造販売するNthdegree Technologies Worldwide社出身者で構成されており取得知財を早速調査
する(下図参照)。

● US9661716B2 Full color LED module having integrated driver transistors駆動トランジスタを集積したフル
 カラーLEDモジュール

図1.実施形態による単一LEDモジュールの概略図
図2.ドライバトランジスタウェハに接合されたLEDウェハの小部分の断面図

【要約】

制御MOSFETを有するLEDモジュールが開示されており、またはLEDと直列の他のトランジスタである。
一実施形態では、MOSFETウェハがLEDウェハにボンディングされ、単一化されて、単一のLEDと同
じフットプリントを有する数千の能動3端子LEDモジュールを形成。
赤色、緑色および青色LEDの異な
る順方向電圧にもかかわらず、RGBモジュールを並列に接続することができ、その制御電圧は60Hz以
上でずらして、白などの単一の知覚色を生成する。 RGBモジュールは、一般照明用またはカラーディ
スプレイ用のパネルに接続することができる。
パネル内の単一の誘電体層は、すべてのRGBモジュー
ルをカプセル化して、コンパクトで安価なパネルを形成することができる。
カラーディスプレイと照
明パネルの両方のための様々なアドレッシング技術が記載されている。 入力電圧の変動に対するLED
の感度を低減するための様々な回路が記載されている。

● US9548511 Diatomaceous energy storage devices:珪藻土のエネルギー貯蔵装置

 【要約】

エネルギー貯蔵装置は、第1の複数のフラッスルを有するカソードを含むことができ、第1の複数の
フラッスルは、マンガンの酸化物を有するナノ構造を含むことができる。エネルギー貯蔵装置は、第
2の複数のフラッスルを含むアノードを含むことができ、第2の複数のフラッスルは、酸化亜鉛を有す
るナノ構造を含むことができる。フラズルルは、少なくとも1つの表面上に複数のナノ構造を有するこ
とができ、複数のナノ構造は、マンガン酸化物を含むことができる。フラズルルは、少なくとも1つ
の表面上に複数のナノ構造を有することができ、複数のナノ構造は酸化亜鉛を含むことができる。エ
ネルギー貯蔵装置のための電極は、複数のフラッスルを含み、複数のフラッスルの各々は、少なくと
も1つの表面上に形成された複数のナノ構造を有することができる。

ここで、プリンテッド・エネルギー社の「使い捨てエネルギー発/蓄電フィル事業」に2つの問題が
あると考える。
前者はコスト重視指向がわたし(たち)「ZW倶楽部」(廃棄物ゼロ運動)派とこと
にすることであり、後者は、エネ
ルギー供給サイドがもつ「安定電源」という基本的コアに適合する
のかどうかという点であり、それは、前述した
有機ELで触れたように基礎的研究開発も重要だとい
う考えからくるものである。さらに、エネルギータイリングとフレキシブルフィルムは両立する事業
かどうかという3つめの視点、あるいは、発電と蓄電の一体化がエネルギータイリング事業に含まれ
るのかどうかという4つめの視点が問われることになり、前者も後者も「両立可」と考える。

このように今夜は大きなことを考えた。ここまでくれば後は世界に打ってでるしかないか?

                                      この項つづく

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針江大川へGO!

2017年07月15日 | 滋賀のパワースポット

 

 

 

   

 

           

 

         僖公33年:殽(こう)の戦い その2 / 晋・秦・楚鼎立の時代    

 

                               

   ※ 晋の文公の没後、その子の襄公が即位したが、かれもまた文公に劣らず、才略に富
     んだ君主であった。殽(こう)の戦いに秦を敗ったのを手初めに、北は秋、南は楚、
     東は衛を伐って、晋の覇業はなお微働だもしない。
     【経】三十有三年、春、王の二月、秦人、滑(かつ)に入る。夏四月辛巳(しんし)、
     晋人、姜戎(きょうじゅう)と、秦の殽に敗る。癸巳(きし)、晋の文公を葬る。

 

   ※ 王孫満、秦の敗北を予言す:三十三年春、秦車は周の他門を通過した。周室の前な
     ので、兵車の左右の士たちは、車から降りはしたが、冑を脱いでほんの申し訳程度
     に敬意を表しただけで、さっさと兵車に跳び乗る始末、三百台のうち謹しみ深く振
     舞った兵車は一台もなかった。周の公子王孫満(おうそんまん〉は、当時まだ幼か
     ったが、このありさまをみ㐮正に言った。「秦軍は兵士に落着きがなく、礼をわき
     まえていませんから、敗けるにちがいありません。落着きがなければ、作戦を練る
     ことはできないし、礼をわきまえなければ、戦場で統制がとれません。敵地に入っ
     て、作戦は立てられない、続制はとれないとあっては、どうやっても勝てるはずが
          ありません」

 

 

 



● 針江大川の梅花藻

昨日、梅花藻が見たいということで早朝から高島市新旭町は針江大川の川端に車を走らせる。見頃は
過ぎた
のか水車付近の梅花藻は少しばかり残っていなかったもののつかの間の休息を二人で過ごす。
滋賀は身近
に山里と水辺の風景を楽しむことができる。
 

  針江の生水

 針江大川

  Wikipedia

帰り道、道の駅「藤樹の里あどがわ」に立ち寄りランチ。わたしの希望でざる蕎麦を注文(+わた
しのお気に入りの鮨処仲よしの「鱒、さば、小鯛、えびの笹寿司」セット)を彼女のお気に入りで、
安曇川駅より徒歩5分、明治7(1874)年から地元に、そして現在海外にも和洋菓子を届けている
老舗菓子店「とも栄」。アドベリーを使ったスイーツを数多く開発し、国際線のビジネスクラス
のデザートにも採用されるなど評価も高い。一番人気は「あど菓みるく」(8
個入り1100円)など
のあどベリースイーツを土産に、それから、九州北部豪雨の被災募金をして帰える(旅程:約5時
間半)。

  

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』   

    39.特性の目的を持って作られた、偽装された容れ物

  そうかもしれない。しかし私の場合はただ単純に、自分の中にあるものを見出すのに時間がか
 かったというだけなのかもしれない。そして私はその無駄な回り道にユズを引き込んでしまった
 のだろうか?

 「歳をとるのが怖いか?」と私は自分に向かって問いかけてみた。私は歳をとることを恐れてい
 るだろうか? 「正直言って、ぼくにはまだそういう実感がないんです。三十代も後半に入った
 
男がこんなことを言って、愚かしく聞こえるかもしれませんが、なんだかまだ人生を始めたばか
 りのような気がします」
  免色は微笑んだ。「決して愚かしくはありません。たぶんそのとおり、あなたはまだ自分の人
 生を始めたばかりなのでしょう」
 「免色さん、あなたはさっき遺伝子の話をなさいました。自分はワンセットの遺伝子を引き継い
 で、それを次の世代に違る容れ物に過ぎないと。そしてその職務を別にすれば、自分はただの土
 塊に過ぎないんだと。そういう意味のことをおっしやいましたよね?」

  免色は肯いた。「たしかにそう言いました」

 「でも自分がただの土塊であることに、恐怖を感じたりすることはないのですね?」

 「私はただの土塊ですが、なかなか悪くない土塊です」、免色はそう言って笑った。「生意気な
 よ
うですが、けっこう優秀な土塊と言っていいかもしれません。少なくともある種の能力には恵
 ま
れています。もちろん限定された能力ではありますが、能力であることに違いはありません。
 で
すから生きているあいだは精一杯生きます。自分に何かどこまでできるかを確かめてみたい。
 退
屈している暇はありません。私にとって、恐怖や空虚さを感じないようにする最良の方法は、
 何
よりも退屈をしないことなのです」

  八時近くまで、我々はウィスキーを飲んでいた。やがてウィスキーのボトルが空になった。そ
 れを潮に免色は立ち上がった。

 「そろそろ失礼しなくては」と彼は言った。「すっかり長居をしてしまいました」

 私は電話でタクシーを呼んだ。雨田典彦の家たというと、すぐに場所はわかった。雨田典彦彦は
 は有名人なのだ。十五分ほどでそちらに着きます、と配車係は言った。私は礼を言って電話を切
 っ
た。
  タクシーが来るのを持っているあいだ、免色は打ち明けるように言った。
 「秋川まりえの父親はある宗教団体にのめりこんでいると、さっき申し上げましたね」

  私は肯いた。

 「いささか素性の怪しい新興宗数団体ですし、インターネットで調べてみると、これまでにいく
 つかの社会的トラブルを起こしているようです。何体か民事訴訟も起こされています。教義とい
 ってもあやふやなものだし、私に言わせれば宗教とも呼びがたいような粗雑な代物です。しかし
 言うまでもないことですが、何を信じようと信じまいとそれはもちろん秋川さんのご自由です。
 ただこの何年か、彼はその団体にかなりの全を注ぎ込んでいます。自分の資産も会社の資産もほ
 とんど一緒くたにして。もともとが相当な資産家ですが、実際には毎月の家賃のあがりだけで暮
 らしているような状態です。土地や物件を売却していかない限り、収入にはおのずと限りがあり
 ます。そして彼はここのところ、土地や物件を売りすぎています。誰が見ても不健全な徴候です。
 蛸が自分の足を食べて生き延びているようなものです」
 「つまり、その宗教団体に食い物にされているということですか?」
 「そのとおりです。いいカモにされていると言っていいかもしれない。ああいう連中は餌にいっ
 たん食いつくと、とことん吸い尽くします。最後の一滴まで搾り取ります。そして秋川さんはも
 ともとお金持ちの御曹司ですから、こう言ってはなんですが、いささか脇の甘いところがありま
 す」
 「そしてあなたはそのことを案じている」
  免色はため息をついた。「秋川さんがどんな目にあおうと、それは本人の責任です。立派な大
 人が承知の上でやってきたことですから。しかし何も知らない家族がその巻き添えをくうとなる
 と、話はそう簡単じゃない。まあ、私か心配したところでどうにもならないことなのですが」
 「リインカーネーションの研究」と私は言った。
 「仮説としてはなかなか興味深い考え方ではありますが」と免色は言った。そして静かに首を振
 った。
  やがてタクシーがやってきた。タクシーに乗り込む前に、彼はとても丁重に私に礼を言った。
 どれだけ酒を飲んでも、その顔色と礼儀正しさは寸分も変化しなかった。


    第40章 その顔に見違えようはなかった 

  免色が帰ってしまったあと、私は洗面所で歯を磨き、それからすぐにベツドに入って眠りに就
 いた。私はもともと寝付きの良い方だが、ウィスキーを飲むとその傾向はいっそう強くなる。
  そしてその真夜中、私は激し
物音で目を覚ました。たぶん実際に音がしたのだと思う。それ
 ともその物音は夢の中での出来事だったのかもしれない。私の意識の内側から生じた仮想の響き
 だったのかもしれない。しかしいずれにせよ、どすんと地響きのするような大きな衝撃があった。
 身体が宙に飛び上がるほどの衝撃たった。その衝撃自体はあくまで実際のものであり、夢でもな
 ければ仮想でもなかった。私はかなり深く眠っていたのだが、ほとんどベッドから床に転げ落ち
 そうになり、一瞬にして目を覚ました。

  枕元の時計に目をやると、数字は午前二時過ぎを示していた。いつも鈴が鳴らされた時刻だ。
 しかし鈴の音は聞こえなかった。もう冬が近づいているから、虫の声も聞こえなかった。家内に
 はただ深い沈黙が降りているだけだ。空の大部分は暗く厚い雲に覆われていた。耳を澄ませると
 微かに風の音が聞こえた。40 その顔に見違えようはなかった。
  手探りで枕元の明かりをつけ、パジャマの上からセーーターを着た。そして家の中をひととお
 り見て回ることにした。何か異変が持ち上がったのかもしれない。ひょっとして大きなイノシシ
  が窓から飛び込んできたのかもしれない。あるいは小さな限石がこの家の屋根を直撃したのかも
  しれない。どちらもまずありそうにないことだったが、何か異常がないか点検しておいた方が良
 さそうだった。いちおう私はこの家の管理を任されているのだ。それにこのまま眠ってしまおう
 と思ったところで、簡単に寝つけそうにはなかった。私の身体はまだその衝撃の余波をありあり
 と感じていたし、心臓が音を立てて脈打っていた。

  部屋の明かりをひとつひとつつけながら、家の中の様子を順番に確認していった。どの部屋に
 も変わったところは見当たらなかった。いつもどおりの光景だ。さして広い家ではないから、も
 し異変のようなものがあれば見逃しようはない。すべての部屋を点検し、最後に残ったのはスタ
 ジオだった。私は居間からスタジオに通じるドアを開けて中に入り、照明のスイッチを入れよう
 と壁に手を伸ばした。しかしそのとき何かが私を押しとどめた。明かりはつけない方がいい、耳
 もとで何かが私にそう囁いた。小さな、しかしはっきりとした声で。暗いままにしておいた方が
 がいい。私はその囁きに従ってスイッチから手を難し、背後のドアを静かに閉め、真っ暗なスタ
 ジオの中に目をこらした。音を立てないように息をひそめて。

  暗闇に目が少しずつ慣れてくるにつれて、その部屋の中に私以外の誰かがいることがわかった。
 そういうたしかな気配があった。どうやらその誰かは、私が絵を描くときにいつも使っている木
 製のスツールに腰掛けているようだった。それは騎士団長なのだろうと、最初は思った。彼がま
 た「形体化」してここに尻ってきたのだろう。しかしその人物は、騎士団長にしてはあまりに大
 きすぎた。ぼんやりと浮かび上がった暗いシルエットは、それが痩せた長身の男であることを示
 していた。騎士団長は体長が六十センチほどしかない。しかしその男の身長はどうやら百八十セ
 ンチ近くはありそうだった。背の高い人がよくそうするように、男は少し背を丸めるような姿勢
 で座っていた。そしてそのまま身動きひとつしなかった。

  私もやはり身動きひとつせず、ドアの棒に背中をつけて、何かあればすぐに照明のスイッチを
 入れられるように左手を壁に仲ばしたまま、その男の後ろ姿を見つめていた。私たち二人は真夜
 中の暗闇の中で、それぞれにひとつの姿勢をとったままぴたりと静止していた。どうしてかはわ
 からないが怖さは感じなかった。呼吸は浅く短くなり、心臓は堅く乾いた音を立てていた。しか
 し怯えはない。真夜中に見知らぬ男が家の中に勝手に入り込んでいる。泥棒かもしれない。ひょ
 っとしたら幽霊かもしれない。いずれにせよ恐いと感じるのが当たり前の状況だ。しかしそれが
 恐ろしいことかもしれない、危険なことかもしれないという感覚がなぜか湧いてこなかった。
 
  騎士団長が出現して以来いろんな異様な出来事が持ち上がり、それに私の意識が慣れてしまっ

 たということがあるかもしれない。しかしそれだけではなく、それよりはむしろその謎の人物が
 真夜中のスタジオで何をしているのかということの方に、私は興味を惹かれていたのだと思う。
 恐怖よりは好奇心の方がまさっていた。男はスツールの上で、何かを深く考え込んでいるように
 見えた。あるいは何かをまっすぐ見つめているように見えた。そしてその集中力は傍目にも強烈
 なものだった。その男は私か部屋に入ってきたことにもまったく気づいていないようだった。あ
 るいは私の出入りなど、その人物にとっては取るに足らないことなのかもしれない。

  私は音を立てないように呼吸をし、心臓の鼓動を肋骨の中に懸命に収めながら、暗闇に更に目
 が慣れ
るのを待った。時間が経つにつれて、その男が何に意識を集中させているのかがだんだん
 わかってきた。横手の壁にかけられている何かを、彼は熱心に見つめているようだった。そこに
 あるのは雨田典彦の絵画『騎士団長殺し』であるはずだった。長身の男は木製のスツールに腰掛
 け、身動きひとつせず、わずかに前屈みになってじっとその絵を見つめていた。両手は膝の上に
 置かれていた。

  そのとき、それまで空を厚く覆っていた暗雲がようやくところどころで途切れ始めた。そして
 雲間からこぼれた月光がほんの一瞬、部屋を照らした。まるで澄んだ無音の水が古い石碑を洗い、
 そこに隠された秘密の文字を浮かび上がらせるかのように。それからすぐにまたもとの暗黒の状
 態が戻ってきた。しかしそれも長くは続かなかった。やがて再び雲がちぎられるように割れ、月
 光が十秒ばかり続けてあたりを明るい淡青色に染めた。そしてその間に私は、そこにいる人物が
 誰なのかを見て取ることができた。

  男は白髪を肩まで長く伸ばしていた。髪は長いあいだ槐かれていないらしく、あちこちで乱れ
 ていた。その姿勢から見るに、どうやらかなりの老齢らしかった。そして枯れ木のように痩せこ
 けていた。かつてはしっかり肉を身につけた剛健な男だったのだろう。しかし年老いて、またお
 そらくは何かの病を得て、身体の肉を落としてしまった。そういう雰囲気が感じ取れた。
  痩せて相貌がずいぶん様変わりしてしまったために、思い当たるまでに少し時間がかかった。
 しかしそれが誰なのか、無音の月光の下で私にもようやく理解することができた。これまで何枚
 かの写真でしか目にしたことがなかったけれど、その顔に見違えようはない。横から見える尖っ
 た鼻の形が特徴的だったし、何より全身から発せられる強いオーラのようなものが、私にひとつ
 の明らかな事実を告げていた。冷え込む夜だったが、私の脇の下はぐっしょり汗に濡れていた。
  心臓の鼓動が一段と速く、堅くなった。簡単には信じられないことだが疑問の余地はない。

  老人は、その絵の作者である雨田典彦だった。雨田典彦がこのスタジオに戻ってきたのだ


    第41章 私が振り返らないときにだけ

  それが実物の肉体をそなえた雨田典彦であるわけはなかった。実物の雨田典彦は伊豆高原の高
 齢者養護施設に入っている。認知症がかなり進行しており、今はほとんど寝たきりの状態になっ
 ている。ここまで一人で自力でやって来られるわけがない。だとすれば、私が今こうして目にし
 ているのは彼の幽霊ということになる。しかし私の知る限り彼はまだ亡くなってはいない。だか
 ら正しくは「生き霊」と呼ぶべきなのかもしれない。それとも彼はつい今し方息を引き取り、幽
 霊となってここにやってきたのかもしれない。その可能性もむろん考えられる。

  いずれにせよそれがただの幻影でないことは、私にはよくわかっていた。幻影にしてはそれは

 あまりにリアルであり、あまりに濃密な質感を具えていた。そこには紛れもなく人の存在する気
 配があり、意識の放射があった。雨田典彦は何らかの特別な作用によって、このように本来の自
  雲の流れにしたがって断続的に窓から差し込む月の光が、雨田典彦の身体にくっきりとした陰
 影を与えた。彼は私に横顔を向けていた。そして古いバスローブだかガウンを羽織っていた。足
 は裸足だった。靴下もスリッパも履いていない。長い白髪は乱れ、頬から顎にかけてうっすらと
 白い無精祭が生えていた。顔はやつれてはいたが、目の光だけは鋭く澄み切っていた。

  怯えこそしなかったが、私はひどく戸感っていた。そこにあるのは言うまでもなく尋常ではな
 い光景だ。混乱しないわけはない。私の片手はまだ壁の電灯のスイッチにかけられていた。でも
 明かりをつけるつもりはなかった。ただその姿勢をとったまま、身体を勤かせなかっただけだ。
  私としては雨田典彦が――それが幽霊であれ幻影であれ――なんであれここでおこなっている
 ことを妨げたくはなかった。このスタジオは本来彼のための場所なのだ。彼がいるべき場所なの
 だ。
  むしろ私の方が邪魔者なのであって、もし彼がここで何かをしようとしているのなら、それを
 邪魔するような権利は私にはない。

  だから私は息を整え、肩の力を抜き、足音を立てないようにあとずさりをし、スタジオの外に
 出た。そしてそっとドアを間めた。そのあいだ雨田典彦はスツールの上で身じろぎひとつしなか
 った。たとえ私がそこでうっかりテーブルの花瓶をひっくり返し、すさまじい音を立てたとして
 も、おそらく気づきもしなかっただろう。彼の集中はそれほど峻烈なものだった。雲間を抜けた
 月の明かりが、彼の痩せこけた身体を再び照らし出した。私は最後にその輪郭を(彼の人生が凝
 縮されたようなシルエットを)、そこに施された繊細な夜の陰影とともに脳裏に刻み込んだ。こ
 れを忘れてはならない、と強く自らに言い聞かせた。それは私が網膜に焼き付け、記憶にしっか
 り留めておかなくてはならない形象なのだ。

  食堂に戻ってテーブルの前に座り、ミネラル・ウオーターを何杯か飲んだ。ウィスキーが少し

 飲みたかったが、瓶は既に空っぽになっていた。昨夜免色と私が二人で空にしたのだ。そしてそ
 れ以外のアルコール飲料はこの家の中には置いていなかった。ビールが数本冷蔵庫の中に入って
 いたが、それを飲みたいような気持ちではなかった。

  結局、朝の四時過ぎまで眠りは訪れなかった。食堂のテーブルの前に座って、ただあてもなく
 考えごとをしていた。神経がひどく高よっていて、何をする気にもなれなかった。だから目を閉
 じて考えごとをするしかなかったのだが、ひとつのものごとを継続して考えることができなかっ
 た。私は何時間もただ、様々な思考の切れ端をあてもなく追っていた。まるで自分の尻尾をぐる
 ぐると追い回している子猫のように。

  あてもなく考えを巡らせることに疲れると、私はさきほど目にした雨田典彦の身体の輪郭を脳
 裏に再現した。そして記憶を俯かなものにしておくために、それを簡単にスケッチした。頭の中
 の架空のスケッチブックに、架空の鉛筆を使ってその老人の姿を猫いた。それは私が日常的に、
 暇があればよくやっていることだ。実際の紙や鉛筆を必要としない。むしろない方が作業は簡単
 になる。数学者が脳内の架空の黒板に数式を並べていくのと、おそらくは同じ成り立ちの作業だ。
 そしていつか私は実際にその結を猫くことになるかもしれない。

  もう一度スタジオを覗いてみようとは思わなかった。もちろん好奇心はあった。老人はまだあ
 のスタジオの中にいるのだろうか? スツールに腰掛けた
そらくは雨田典彦の分身はまま、なお
 も『騎士団長殺し』を凝視しているのだろうか? それを確かめてみたいという気持
ちがないわ
 けではない。私は今たぶん何かきわめて貴重な状況に遭遇し、その現場を目撃しているのだ。そ
 してそこには雨田典彦の人生に秘められた謎を解くための、いくつかの鍵が提示されているのか
 もしれない。

  しかしもしそうだとしても、私は彼の意識の集中を邪魔したくはなかった。雨田典彦は自らが
 描いた『騎士団長殺し』をじっくり眺めるために、あるいはそこにある何かを再点検するために、
 空間を超え論理をすり抜けてこの場所に戻ってきたのだ。そのためにはおそらく多大な子不ルギ
 ーを費やさなくてはならなかったはずだ。もうそれほど多くは残されていないであろう貴重なエ
 ネルギーを。そう、たとえどれはどの犠牲を払おうとも、彼は『騎士団長殺し』を最後に今一度
 心ゆくまで見届けておかなくてはならなかったのだ。
  目が覚めたのは十時過ぎだった。早起きの私にとってそれはずいぶん珍しいことだった。私は
 顔を洗ってからコーヒーを作り、食事をとった。なぜかひどく空腹だった。私はいつもの朝食の
 倍近くを食べた。三枚のトーストと、二個のゆで卵と、トマトのサラダを食べた。コーヒーを大
 きなマグにたっぷり二杯飲んだ。

  食事のあと、念のためにスタジオをのぞいてみたが、もちろん雨田典彦の姿はもうどこにもな
 かった。そこにあるのは、いつもどおりのしんとした朝のスタジオだ。イーゼルがあり、そこに
 描きかけのキャンバスが置かれ(描かれているのは秋川まりえだ)、その前に無人の円形のスツ
 ールがあった。イーゼルの先には、秋川まりえがモデルとして座るための食堂椅子がひとつ置か
 れていた。横手の壁には雨田典彦の描いた『騎士団長殺し』がかかっていた。棚の上にはやはり
 鈴の姿はなかった。谷間の上の空は晴れ渡り、空気は冷ややかに澄み切っていた。冬を目前にし
 た鳥たちの声が、鋭くその空気を刺し貫いた。

  私は雨田政彦の会社に電話をかけてみた。既に正午に近かったが、彼の声はどことなく眠そう
 だった。そこには月曜日の朝の倦怠の響きが聴き取れた。簡単に挨拶を交わしたあとで、私はさ
 りげなく彼の父親のことを尋ねた。雨田典彦がまだ亡くなっていないかどうか、昨夜私が目にし
 たのが彼の幽霊だったのかどうか、いちおう確認しておきたかったのだ。もし仮に彼が昨夜のう
 ちに亡くなっていたとしたら、息子のもとには既に連絡が入っているはずだ。

 「お父さんは元気か?」
 「数日前に会いに行ってきた。頭の方はもう後戻りできないが、身体典合はとくに悪くはないみ
 たいだったな。少なくとも今すぐどうこうということはなさそうだ」
  雨田典彦はまだ亡くなっていない、と私は思った。私が昨夜目にしたのはやはり幽霊なんかじ
 やなかった。それは生きている人間の意思がもたらした仮の形体だったのだ。
 「妙なことを訊くみたいだけど、ここのところおたくのお父さんの様子に、とくに何か変わった
 ところはなかったか?」と私は尋ねてみた。
 「うちの父親にかい?」
 「ああ」
 「どうして急にそんなことを訊くんだ?」

  私は前もって用意しておいた台詞を口にした。「実は、このあいだ妙な夢を見たんだ。おたく
 のお父さんが真夜中にこの家に戻ってくる夢だった。そしてぼくがその姿をたまたま目撃するん
 だ。とてもリアルな夢だったよ。飛び起きてしまうくらい。それで何かが起こったんじやないか
 とちょっと気になったもので」

 「ふうん」と彼は感心したように言った。「それは面白に戻って、いったい何をしていたんだ?」
 「スタジオのスツールにただじっと座っていた」
 「それだけ?」
 「それだけだよ、他には何もしていない」
 「スツールって、あの三本脚の古い丸椅子のことか」
 「そうだよ」

  雨田政彦はしばらくそれについて考えいた。

 「あるいは死期が近づいているのかもしれないな」と雨田はどことなく抑揚を欠いた声で言った。
 「人の魂は人生の最後に、いちばん心残りな場所を訪れるっていうからな。おれの知る限り、う
 ちの父親にとっては、その家のスタジオがいちばん心を残した場所であるはずだ」
 「でも記憶みたいなものはもう残っていないんだろう?」
 「ああ、通常の意昧での記憶みたいなものは残っていないよ。しかし魂はまだ残されているはず
 だ。ただそこに意識がうまくアクセスできないというだけで。つまり回線が外れて、意識が繋が
 っていないだけなんだよ。魂はちゃんと奥の方に控えているはずだ。おそらくは何ものにも損な
 われることなく」
 「なるほど」と私は言った。
 「怖くはなかったか?」
 「夢のことか?」
 「ああ、だってずいぷんリアルな夢だったんだろう?」
 「いや、とくに怖くはなかった。なんだか不思議な気持ちがしただけだ。まるで本人そのものを
 実際に目の前にしていたみたいで」
 「あるいは本人そのものだったかもしれない」と雨田政彦は言った。

  それについて私は意見を口にしなかった。雨田典彦がおそらくは『騎士団長殺し』を見るため
 に、わざわざこの家に戻ってきたのだということを(考えてみれば、雨田典彦の魂をここに招い
 たのは、この私なのかもしれない。私があの絵の包装を解かなければ、彼がここに戻ってくるこ
 ともなかったのではないか)、ここで息子の政彦に明かすわけにはいかなかった。そんなことを
 したら、私がこの宗の坦坦表でその絵を発見したことを、そればかりか無断でその包装を解き、
 勝手にスタジオの壁にかけていることを、すべて説明しなくてはならなくなる。いつかはたぶん
 打ち明けなくてはならないだろうが、今の時点ではまだその話を持ち出したくはなかった。

 「それで」と雨田は言った。「この前はあまり時間がなくて、言おうと思っていたことが話せな
 かった。おまえに話しておかなくちやならない用件があるって言っただろう。覚えているか?」
 「覚えているよ」
 「一度そちらに寄って、ゆっくりその話をしたいんだが、いいかな?」
 「ここはそもそも君の家だ。好きなときに来ればいいさ」
 「今度の週末に、また伊豆高原まで父親に会いに行こうと思っているんだ。で、その帰り道にで
 もそちらに寄ってかまわないかな。小田原はちょうど道筋にあたるし」
  水曜日と金曜日の夕方と日曜日の午前中以外ならいいと私は言った。水曜日と金曜日には絵画
 教室で教えているし、日曜日の朝には秋川まりえの肖像を描かなくてはならない。
  たぶん土曜日の午後にそちらに寄ることになるだろうと彼は言った。「いずれにせよ、その前
 に連絡を入れるよ」

  電話を切ったあと、私はスタジオに入ってスツールに座ってみた。昨夜、真夜中の闇の中で雨
 田典彦が座っていた木製のスツールだ。そこに腰を下ろしてみてすぐに、それがもう私のスツー
 ルではなくなっていることに気づいた。それは紛れもなく、長い歳月にわたって雨田典彦が画作
 のために使用してきた彼のスツールであり、これから先も永遠に彼のスツールであり続けるはず
 のものだった。事情を知らない人が見れば、古い傷だらけの三本脚の丸椅子に過ぎなかったが、
 そこには彼の意志が染みこんでいた。私はその椅子を成り行き上、無断で使わせてもらっている
 だけだ。
  私はそのスツールに腰をかけたまま、壁にかかった『騎士団長殺し』を見つめた。私はそれま
 で数え切れないくらい何度もその絵を眺めてきた。そしてそれは繰り返し鑑賞するだけの価値を
 持つ作品だった。言い換えれば、様々な見方ができる余地を持つ作品だった。しかし今は、いつ
 もとは連った角度からあらためてその絵を検証してみようという気持ちに私はなっていた。そこ
 には雨田典彦がその人生を終える前にもう一度あらためて凝視しておく必要のある何かが描かれ
 ているはずなのだ。 

  私は長い時間をかけて、その『騎士団長殺し』を見つめていた。昨夜、雨田典彦の生き霊分身
 たかが、スツールに腰掛けてそれをまっすぐ凝視していたのと同じ位置から、同じ角度と同じ姿
 勢で、息を詰めるように集中して。しかしどれだけ注意深く見ても、これまで見えなかった何か
  をその画面に見出すことはできなかった。
   考えることに疲れて、私は外に出た。家の前には免色の銀色のジャガーが駐められていた。私
  のトヨタ・カローラ・ワゴンから少し離れたところに。その車はそこで一晩を過ごしたのだ。そ
 れはよくしつけられた賢い動物のように、その場所に静かに身を休めて、主人が引き取りに来る
 のをじっと待っていた。

この間ずいぶん本を読んでいなかった(色々と理由はあるが、眼精疲労が酷くなったことが一番の理
由だが)。その手があったのか?!予期もしてなかった、雨田典彦の幽霊/幻影の登場に驚きととも
に主人公の特異能力ゆえなのかと考えたり、怪奇小説様の展開に正直驚く。

  

                                      この項つづく

 

 

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吾が家もワイヤレスに

2017年07月13日 | 開発企画

   

           
      僖公33
年:殽(こう)の戦い その1 / 晋・秦・楚鼎立の時代    

                             

  ※ 秦軍、鄭を目指す:三二年冬、晋の文公が亡くなった。翌日、文公の遺体は、祖廟
    に安置するため、晋都の絳から曲沃へ移されることになった。その一行が晋都を出
    たとき、柩の中から牛の嗚くような声がした。「これは、亡き先君が戦いを兪ぜら
    れたのです。目ざす相手は、近い将来、わが領内を通り過ぎる西方(秦を指す)の
    軍隊。これを襲えば、きっと大戦果をあげることができましょう」ト官の偃(えん)
    は、大夫を呼び集めると、こう励ました。

    こちらは秦である。穆公のもとに、鄭駐在の大夫紀子から報告が届いた。「このた
    びわたくしは、城の龍門の鍵を管理するよう命ぜられました。ひそかにわが軍を差
    し向けてくだされば、鄭を手に入れてみせます」穆公がさっそく大夫の蹇桀款に相
    談をもちかけたところ、強硬に反対された。
    「軍を疲れさせてまで、遠国を襲った例はございません。味方は疲れきって戦う気
    力もないのに、相手は防備をととのえて待機しているのです。これでは、手に入れ
    ようがないではありませんか。それに、わが軍の動きが郎に気づかれぬはずはあり
    ません。せっかくの苦心がむだに終おっことわかれば、それこそ味方の中から裏切
    者が出て大変な事態になります。そ証ばかりではありません。千里もの行程を進軍
    するのですから、わが国の行動は天下全休に知れ渡ってしまいます」

    だが穆公は承知しなかった。そして、孟明(百里孟明視、賢相百里梥の子)、西乞、
    白乙の三人の武将を呼ぶと、兵を東門の外に集めるよう命じた。蹇叔は、孟明をつ
    かまえると、「ああ、わが軍ももはやこれまでだ。城を出て行く姿は見ても、凱旋
    してくる姿を見ることはできないのだ」と言って号泣した。穆公がとの話を伝えき
    いて、蹇叔を罵った。
    「死にぞこないが何をいうのだ。いいかげんでくたばってくれていたら、今ごろは、
    墓に植えた木が一抱えほどにもなっていたろうに」
    蹇叙の子も、この遠征軍に志願したが、蹇叙はその出陣を見送るさいにも、号泣し
    て言った。

    「わが軍は晋軍によって迎え討ちにあうだろう。その場所は殽だ。靉には南北に大
    きな丘山が二つあ芯。南にあるのは夏后皐の墓、北にあるのは文王が風雨を避けら
    れたところだ。わが軍はきっと、この二つの丘山にはさまれた場所で全滅するにち
    がいない。ああ、そこでおまえの骨を拾わねばならぬのか」

    だが、それもむだであった。秦軍はついに東へ向った。

    〈夏后皐〉  夏の桀王の祖父、夏朝第15代の王。
    〈文王が・・・〉函谷をさす。谷が深く、両側の山が良いので風雨が避けられた。
 

 殽(こう)の戦い

 

 No.43 

 【RE100倶楽部:環境配慮エネルギー事業篇 Ⅴ】

 
July 10, 2017

図4、PbI2膜のAFM像は、共蒸着されていない(a)共蒸着された(bSqは、表面粗さを表すパラメー
タの1つとして
ISO25178によって標準化された二乗平均平方根高さである。



❏ 安全なペロブスカイト太陽電池実現に道

今月7日、東京農工大学らの研究グループは、人体に有害な「鉛」とは反応しない熱安定な有機物を用
いた非鉛
ペロブスカイト太陽電池の作製に成功したことを公表。熱安定な有機物であるグアニジンヨウ
化水素酸
塩が、ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ化鉛とは反応しないにもかかわらず、その
代替材料として通常用いられるヨウ化スズとは反応して太陽電池として動作することを発見。ペロブス
カイト太陽電池は、現在主流のシリコン太陽電池にせまる高い太陽光エネルギーの変換効率と、安価と
いうメリットがある一方で、主原料として、人体に有害な鉛や、有機物の中でも熱分解しやすいメチル
アミンヨウ化水素酸塩などを用いているため、実用化に問題も抱えている。
 July 10, 2017
図1.溶液から作製されたフィルムの特性。 (a)アセトン溶液から形成されたPbI 2 + GI、SnI 2 + GI、SnI 2、およ
びGIフィルムの吸光スペクトル。
(b)SnI2 + GI膜の吸光度スペクトルの劣化。 (c)SnI2 + GI膜のX線回折パター
ン。


これによると、このグアニジンヨウ化水素酸塩が、通常、ペロブスカイト構造作製の指針とされるトレ
ランスファクタ※1
からはヨウ化鉛より不利な、ヨウ化スズと反応。この反応でできた薄膜の可視光吸
収X線回折、および太陽電池動作を確認。また、グアニジンヨウ化水素酸塩の熱安定性が高いため、ペ
ロブスカイト太陽電池材料で一般的なメチルアミンヨウ化水素酸塩やホルムアミジンヨウ素酸塩とは異
なり、高真空下で精密制御した真空蒸着法による薄膜の形成が可能なことを確認。そして、真空蒸着中
に液体を同時に蒸発させ、これまで有機半導体にのみ用いてきたがヨウ化鉛とヨウ化スズに適用し 結
晶成長の制御をおこなう共蒸発分子誘起結晶化法※2により、ヨウ化スズの結晶粒子の大きさを制御し、
非常に低い光電変換効率ではあるものの、太陽電池の短絡電流密度の向上に成功。

※1 ペロブスカイト構造(ABX3)を構成する要素(ここでは有機物(A)、金属(B)、ハロゲン(X
   )のイオン半径から計算される、ペロブスカイト構造のできやすさを示す指標。
※2 研究グループの嘉治寿彦准教授らが有機薄膜太陽電池のために考案した方法で、真空蒸着中に液
   体を導入することで有機混合膜の結晶化を促進可能な真空蒸着法の本質的な拡張法であることを
   確定する。

 
図2.金属ハロゲン化物としてSnI2またはPbI2を使用し、ハロゲン化物としてGIを使用する2段階真空
蒸発法によって製造された太陽電池。 (a)デバイス構造、(b)膜の写真、(cJ-V曲線、(dIPCE

 
図3.共蒸発による結晶化によるSnI2 + GI太陽電池の性能向上 a1cm2セルのJ-V曲線、(bIPCE
c)吸収スペクトル、(dIQE、および(e0.30Vのバイアス印加下で安定化された出力。

寸評:今回の成果は、非鉛系ペロブスカイトハイブリッド太陽電池の製法の発見にある。開発背景とし
   て下記掲載の特許があるのだ掲載する。「変換効率と耐久性向上」の課題が残されている。面白
   い。

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● 関連特許

✪ 特開2012-219355  真空蒸着成膜方法、真空蒸着成膜システム、結晶性真空蒸着膜

【概要】

フラーレン(C60)、フタロシアニン、ポルフィリン等の有機半導体分子を基板上に成膜させてなる有機半導体素子
を用いた有機電界発光(有機EL)、有機薄膜トランジスタ(TFT)、有機薄膜太陽電池その他のデ
バイスの研究、
開発及び実用化が進み、このようなデバイスにおいては、真空蒸着によって有機半導体
分子を成膜させる
技術が注目されており、特に高機能有機半導体膜を得るための高結晶性の真空蒸着膜
が求められているが、各種有機半導体分子を真空蒸着する際には、真空中で加熱され有機半導体分子が
昇華・蒸発して対向位置する基板の表面に飛来するが、基本的には、飛来した有機半導体分子はそのま
ま基板上に凝着され非晶質膜となり、必ずしも高結晶性の真空蒸着膜は得られない。基板を一定の温度
に加温しておくと真空蒸着膜の結晶性が高まるるがその効果は限定的であった。

そこで、有機半導体の蒸着膜を構成すべき複数成分又は単一成分の有機半導体分子を基板に真空蒸着さ
せるに当たり、共蒸発物として、有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示す一定の不活性分子共蒸発物
として用い、高品質で配向性のある結晶性有機半導体蒸着膜を作製することに成功完成する。また、よ
り大きな光吸収のために400nm程度の比較的厚い混合蒸着膜を使用したとき、光誘起電荷生成効率改善
による太陽電池特性が大幅改善された。

有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温における蒸気
圧が
Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において蒸発又は昇華
すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用いる真空蒸着成膜方
法で、有機半導体真空蒸着膜の形成に当たり、蒸着膜を高結晶化させるための新規かつ有効な手段を提
供する。

【特許請求の範囲】

  1. 有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温におけ
    る蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において
    蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用
    いることを特徴とする真空蒸着成膜方法。
  2. 前記不活性分子が、室温における蒸気圧が1Pa以下であることを前提として下記の(1)~(3)
    に列挙する分子のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着成膜方法。
      (1)直鎖状又は分岐状のシロキサン骨格構造を持つ分子。
      (2)直鎖状又は分岐状のアルキル骨格構造を持つ分子。
      (3)直鎖状又は分岐状のエーテル骨格構造を持つ分子。
  3. 前記有機半導体の蒸着膜を構成する有機半導体分子が共蒸着された複数成分の有機半導体分子で
    あることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空蒸着成膜方法。
  4. 前記共蒸着された複数成分の有機半導体分子がドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n-
    型)材料との分子の組み合わせであることを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着成膜方法。
  5. 前記共蒸着された複数成分の有機半導体分子が、フラーレン(C60)、炭素数が61以上の高
    次フラーレン及びそれらの誘導体と金属内包物を包含するフラーレン系分子材料、アントラセン
    、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びそれらの誘導体を包含する縮合数3以上の多環アセ
    ン系分子材料、セクシチオフェンやチオフェン環のオリゴマーを包含するチオフェン系分子材料
    メタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種
    金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料、メタルフリーポ
    ルフィリンや各種金属ポルフィリンおよびその誘導体を包含するポルフィリン系分子材料、ペリ
    レンやその誘導体を包含するペリレン系分子材料、トリフェニルアミンとその誘導体を包含する
    トリフェニルアミン系分子材料、よりなる群から選択されるドナー性材料とアクセプター性材料
    との分子の組み合わせであることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の真空蒸着成膜方法。
  6. 前記有機半導体の蒸着膜が、バルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)で
    あることを特徴とする請求項3~請求項5のいずれかに記載の真空蒸着成膜方法。
  7. 前記有機半導体素子が真空蒸着型有機太陽電池に用いられるものであることを特徴とする請求項
    6に記載の真空蒸着成膜方法。
  8. 前記有機半導体の蒸着膜を構成する有機半導体分子が蒸着された単一成分の有機半導体分子であ
    ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空蒸着成膜方法。
  9. 前記蒸着された単一成分の有機半導体分子が、フラーレン(C60)、炭素数が61以上の高次
    フラーレン及びそれらの誘導体と金属内包物を包含するフラーレン系分子材料、アントラセン、
    テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びそれらの誘導体を包含する縮合数3以上の多環アセン
    系分子材料、セクシチオフェンやチオフェン環のオリゴマーを包含するチオフェン系分子材料、
    メタルフリーフタロシアニンや各種金属フタロシアニン、メタルフリーナフタロシアニンや各種
    金属ナフタロシアニンおよびその誘導体を包含するフタロシアニン系分子材料、メタルフリーポ
    ルフィリンや各種金属ポルフィリンおよびその誘導体を包含するポルフィリン系分子材料、ペリ
    レンやその誘導体を包含するペリレン系分子材料、トリフェニルアミンとその誘導体を包含するト
    リフェニルアミン系分子材料、よりなる群から選択される有機半導体分子であることを特徴とす
    る請求項8に記載の真空蒸着成膜方法。
  10. 前記有機半導体の蒸着膜が、薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層であ
    ることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の真空蒸着成膜方法。
  11. 請求項1~請求項10のいずれかに記載の真空蒸着成膜方法を実施するためのシステムであって、
    少なくとも下記(1)~(6)の要素を含んで構成されることを特徴とする真空蒸着成膜システ
    ム。
      (1)真空槽
      (2)蒸着用の基板
      (3)基板に対する加熱手段
      (4)基板に有機半導体分子を蒸着させるための、単一種類の有機半導体材料を収容した有機
       半導体材料容器、あるいは、複数種類の有機半導体材料をそれぞれ収容した有機半導体材
       料容器
      (5)室温における蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空
       蒸着条件下において蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活
       性分子の物質を収容した不活性物質容器
      (6)有機半導体材料容器と不活性物質容器に対する加熱手段
  12. 有機半導体の蒸着膜を構成すべき有機半導体分子を基板に真空蒸着させるに当たり、室温におけ
    る蒸気圧が1Pa以下であるが有機半導体分子よりも高い蒸気圧を示し、真空蒸着条件下において
    蒸発又は昇華すると共に加熱された基板上において揮発性を示す不活性分子を共蒸発物として用
    いることにより得られたことを特徴とする結晶性真空蒸着膜。
  13. 前記蒸着膜を構成する有機半導体分子が、共蒸着された複数成分の有機半導体分子からなること
    を特徴とする請求項12に記載の結晶性真空蒸着膜。
  14. 前記共蒸着された複数成分の有機半導体分子が、ドナー性(p-型)材料とアクセプター性(n
    -型)材料との分子の組み合わせであることを特徴とする請求項13に記載の結晶性真空蒸着膜。
  15. 前記有機半導体の蒸着膜が、バルクへテロジャンクション(BHJ)構造のi-中間層(interlayer)で
    あることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の結晶性真空蒸着膜。
  16. 前記蒸着膜を構成する有機半導体分子が、蒸着された単一成分の有機半導体分子からなることを
    特徴とする請求項12に記載の結晶性真空蒸着膜。
  17. 前記有機半導体の蒸着膜が薄膜トランジスタ素子のチャネル領域を構成する有機半導体層である
    ことを特徴とする請求項16に記載の結晶性真空蒸着膜。

 ✪ 特開2013-168296  有機フォトカソードおよびその製造方法

【要約】

有機半導体の表面に金属微粒子が蒸着または堆積したフォトカソードであって、有機半導体のイオン化
ポテンシャルと金属微粒子の仕事関数の何れよりも低いエネルギーの光照射により電子放出を生じるこ
とを特徴とするフォトカソードで、設計自由度が高く、製造も容易なフォトカソードを提供することを
目的とする。



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 ●  建造物のエネルギータイリング市場 

先回(同シリーズNo.42)では、建造物のエネルギータイリング市場規模の超概算を行ったが、今回はエ
ネルギーハーベスティングのうち熱電及び振動発電の技術動向を下記のように俯瞰する。

 Nov. 26, 2015

 ❏ 最新熱電変換素子工学:変換効率11%の熱電変換モジュールが視野に

● 特開2017-085050 熱電変換素子、熱電変換モジュール 
 

熱電変換素子は、一般に熱電変換材料が2つの電極で挟持された構成を有する。その➊熱電変換素子を
用いて熱電変換モジュールすなわち熱電発電モジュール、➋
ペルチェ冷却モジュールを構成でき、熱電
変換材料の性能は、熱電性能指数ZTとして表すが、ZTが高いほど性能が優れまた、熱電変換素子の
電極を構成する電極材料には、電気抵抗率が低く、熱伝導率が高く高温でも電極材料自体が化学的に安
定であるとともに、熱電変換材料及び接続電極との間でも化学的反応を生じないことが求められる。下
図の特許事例では、Fe及びCoを含む2つの電極材料で挟持されたN型PbTeを含む熱電変換材料
を含む熱電変素子に関するもので、その熱電変換素子をN型熱電変換素子30として含み、さらに、
電極材料で挟持されたP型熱電変換材料を含むP型熱電変換素子20と、N型電変換素子の一方の電
極材料12b’と、P型熱電変換素子の一方の電極材料12bとに接続する上部接合電極13と、N型
熱電変換素子の他方の下部接合電極12a’に接続する下部接合電極14’と、P型熱電変換素子の他
方の電極材料12aに接続する下部接合電極14を備える熱電変換モジュール100である。

 【符号の説明】

1、11、11’  熱電変換材料 2a、2b、12a、12b、12a’、12b’  電極材料 10、20、30  熱電変換素子 
13  上部接合電極 14、14’  下部接合電極 100  熱電変換モジュール

 Apr. 14, 2015

 ❏ 最新熱電変換素子工学:高効率光熱変換フィルムも視野に

15年4月14日、大阪府立大学らの研究グループは、ポリマーの基板上に球殻状の金属ナノ粒子を集
めた「光熱変換フィルム」を新開発、迅速で高効率な光発熱効果を示す成果を発表(上/下図参照)。
この「金ナノ粒子」を高密度に集積したタイプでは、たった百擬似太陽光照射で、45℃の温度上昇(
25℃→70℃)を達成している。

  • 球殻状の金属ナノ粒子集積構造体を配列した高効率光熱変換フィルムの開発に成功
  • 百秒足らずの擬似太陽光照射下で、約445℃の温度上昇(25℃→70℃)を達成
  • 携帯機器の補助電源への活用など、小型で柔軟性に富むポータブルな太陽光駆動型熱電変換デバ
    イスの実現が期待される

 



無線充電アクセサリーが普及し始め、ワイヤレス時代の本格化が携帯電話を先駆体として、エネルギー
通信分野続いて自動車・物流分社を巻き込み「デジタル革命渦論」が進行していく。とりあえずスマー
トフォーンからそれをはじめよう。
 

   

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