極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

歳入庁再論

2014年10月31日 | 政策論

 

 

 

 

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く


ここでは、中央政府の会計とその源泉である租税額に決定のプロセスとその社会背景が、
具体的に語られているが理解しかねる。例えば、「個人課税か世帯課税課」の問いかけに
「(税制の中立性を担保するには)課税一辺倒ではなく、各種控除で対応するほうが簡素
になるので望ましい」との高橋の主張にしても、"増税意図"は理解しえても、それは、軽
減税論と同様に「税制の簡素化」と矛盾していると考えたりするし、それ以上に "リーマ
ンショック"のように、デフレ不況下では、消費税(=間接税)は脆弱であることを学んだ
、新自由主義政策下での行き過ぎた格差拡大社会では、所得税(直接税)にシフトさせ
るべきであることも学んだ以上、しっかりとした「税制システム工学」の練り上げが必要
だと考えている。そこで、この項では、高橋が主張する《歳入庁創設論》が再俎
上する。

 

                       第1章「三本の矢」は、そろわない

                           ■「所得税改革」にも罠が

  それにしても困った政府の"増税体質"である。消費税の他にも、この体質を象徴す
  るかのような動きも出ている。所得税改革だ。そのポイントは、①「個人課税」から
  「世帯課税」への移行と、②配偶者控除の廃止の2点。改革の理由として、「第3の
   矢」の「成長戦略」で大きく掲げる「女性の社会進出促進」を挙げている。
  では、世界の状況はどうなのか。税制の比較が容易なOECDの主要24カ国を見て
 みよう。

 ・個人課税 日本、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマー
       ク、フィンランド、ギリシャ、アイスランド、イタリア、韓国、オラ
       ンダ、ニュージーランド、スウェーデン、イギリス (15力国)
 ・個人課税と世帯課税の選択 ドイツ、アイルランド、ノルウェー、スペイン、ア
       メリカ(5カ国)
  ・世帯課税 フランス、ルクセンブルク、ポルトガル、スイス(4カ国)

  以上のようになっている。

  また1970年代以降で制度移行の状況を見ると、「世帯課税」から「個人課税」
 へは9カ国、「世帯課税」から「選択」へは2カ国、「選択」から「世帯課税」は
 1カ国となっており、世界の趨勢は「世帯課税」から「個人課税」へという流れなの
 である。

  その理由は、「個人課税」のほうが課税の中立性があるからだ。たとえば専業主婦
 が働こうとするとき、「世帯課税」では累進税率が効いて不利になるが、「個人課税」
 ならば中立的。結婚についても同様で、「世帯課税」は共働きの場合、合算して2分
 割するので有利(結婚ボーナス)に働くが、「個人課税」では中立的となる。
  経済政策としては、税制ですべてに対応するのではなく、他の政策も活用して、税
 制はできるだけ中立性を保たせる。それが「常識」である。仮に税制で対応するとし
 ても、課税一辺倒ではなく各種控除で対応するほうが簡素になるので望ましい

  すなわち個人課税が基本であって、もし政策対応が必要なときには、他の政策また
 は税制内での控除措置で対応するのが世界の常識になっているのだ。日本政府が示す
 「個人課税から世帯課税へ」「配偶者控除の廃止」という方向は、こうした世界の常
 識にまったく反するものである。
  今回の日本の「改革」は、前述したように「女性の社会進出を促進させること」が
 ひとつの狙いとされている。しかし、本当にそれを実現させたいのであれば、政府方
 針とはまったく逆に、①所得税の基本は中立的な「個人課税」のまま、②配偶者控除
 を拡充すればいい。配偶者控除の拡充で多少は税収が落ちるが、女性に働いてもらっ
 てその所得に課税し、税収を増やすという「損して得取れ」方式で対応すればいいか
 らである。
  ところが、目先のことしか考えられない財務官僚は、とにかく配偶者控除をなくし
 て「増税したい」の一心である。ただ、それだけでは増税がミエミエなので、世帯課
 税にして、少しばかりの減税を大きく見せたい。

  とはいえ、今回のような所得税改革案が実施されれば、結局は増税になって、女性
 の社会進出を「後ろからスカートを踏む」かたちになってしまう。
  狡猾な財務官僚は、安倍政権の取り巻きが"右寄り"であり、そうした人たちは個人
  単位より家族単位のほうを尊重すると睨んだ。それをいいことに、「個人課税から世
  帯課税へ」を吹き込んでいるのではないか。
   しかし世界の趨勢は、そうしたイデオロギーよりも税制の中立性を選んでいる。そ
 の意味でも日本は逆行していると言わざるを得ない。
  いずれにしても、「女性の社会進出」という目的は達成できずに、最終的には増税
 になるような所得税「改悪」である。そして世帯課税の国では、所得税の持つ累進課
 税の効果が薄れて、所得格差に対応できなくなっていることも忘れてはいけない。
 
  政府(財務省)は、世帯課税と配偶者控除の廃案廃止を一緒にすることで、批判が
 出そうな世帯課税は潰れても、配偶者控除の廃止だけは生き残るというシナリオを描
 いているのかもしれない。官僚から出てくる考えは、いつも増税指向である。油断も   
 隙もあったものではない。


                       第2章 「第三の矢」成長戦略の罠

                                     ■「日本再興戦略」改訂版の官僚レトリック

  前章の初めに掲げたように、首相官邸は「成長戦略」を「アベノミクスの本丸」と
 公言して憚らない(16ページ)。
  その戦略の具体的プランを網羅したのが、2014年6月に閣議決定した《「日本
 再興戦略」改訂2014》である。副題に「未来への挑戦」と銘打ち、全130ぺー
 ジにおよぶ"力作"だ。
  まずはその文書の冒頭「第一 総論 Ⅰ.日本再興戦略改訂の基本的な考え方」か
 ら主要部分を抜き書きしてみよう。

  《日本経済は、この1年間で、大きく、かつ確実な変化を遂げた》
  《デフレ・マインドを一掃するための大胆な金融政策という第一の矢、そして湿っ
  た経済を発火させるための機動的な財政政策という第二の矢を放つとともに、第三
  の矢として「日本再興戦略」を策定し、大胆かつスピードを持った成長戦略を実施
  してきた》

  《これまでできるはずがないと言われていた大胆な制度改革を断行し「産業競争力
  強化法」や「国家戦略特別区域法」をはじめとする、成長戦略を推進するための40
  本近くの法律を成立させるなど、異次元のスピードで構造改革に取り組んできた》
  《本年4月には、17年ぶりに消費税率を引き上げ、経済成長と財政再建の両立に向
  けた第一歩を踏み出すことにも成功した。人々の将来への「期待」に灯がともり、
  澱んでいたヒト・モノ・カネが成長に向かって動き始めたのである》
  《この1年間の変化を一過性のものに終わらせず、経済の好循環を引き続き回転さ
  せていくためには、日本人や日本企業が本来有している潜在力を覚醒し、日本経済
  全体としての生産性を向上させ、「稼ぐ力(=収益力)」を強化していくことが不
  可
欠である》
  《デフレ状況からようやく脱却しつつある今こそ、成長戦略のギアを一段階シフト
  アップし、日本企業の体質や制度・慣行を一変させる気概で、日本の「稼ぐ力」を
  取り戻すための大胆な施策を講ずる好機であり、またラストチャンスでもあること
  
を覚悟すべきである》
  
《今回の改訂では、この1年間でKPI(注:Key Performance lndicator/政策
  目ごとの成果指標のこと)達成に向けてどれだけ前進しているのかを可能な限り具
  体的な数字で明らかにすることとしたほか、KPIの確実な達成のためにどのよう
  な政策を追加的に講ずるのかについても明確にした)
                        (振り仮名、注、傍点は引用者)

  のっけから。お手盛り感の漂う「霞が関文学」の世界である。
  もちろん、この「日本再興戦略」は民間議員11名を含む政府の審議会「産業競争力
 会議」(「日本経済再生本部」が開催する会議という位置づけ)での議論を取りまと
 めたものだ。
  しかし、会議の運営からペーパー作成までの実務を。"事務方"すなわち官僚(10人
 から20人いる)が仕切っているのだから、130ページの文書が官僚特有の文章術
 「霞が関文学」となって表出するのも当然であろう。

               (※全文は首相官邸のHPからダウンロードできる。
        http://www.kantei.gojp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbunJP.pdf



                   ■ 4つの戦略と「鍵となる施策」とは?

  では、"戦略"の具体的な設計はどうなっているのか。《「日本再興戦略」改訂201
  4》では「第一 総論」の「H.」として、「基本的な考え方」に続けて「改訂戦略に
  おける鍵となる施策」を記している。ここで言う「改訂戦略」は以下の4項であり、そ
 れぞれに「鍵となる施策」が箇条書きで付されているのだ。

  《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す》
  《2.担い手を生み出す~女性の活躍促進と働き方改革》
  《3.新たな成長エンジンと地域の支え手となる産業の育成》
  《4.地域活性化と中堅・中小企業・小規模事業者の革新》

  そこで4項目の戦略ごとに「鍵となる施策」を列挙してみよう(「1.」のみ、なぜ
 か(1)と(2)に分けられている)。

 《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す (1)企業が変わる

  ①企業統治(コーポレートガバナンス)の強化
  ②公的・準公的資金の運用等の見直し
  ③産業の新陳代謝とベンチヤーの加速化、成長資金の供給促進》

 《1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す (2)国を変える

  ①成長志向型の法人税改革八
  ②イノづIションの推進と社会的課題解決へのロボット革命》

 《2.担い手を生み出す~女性の活躍促進と働き方改革

  ①女性活躍のための環境整備(放課後児童クラブ等の拡充等)
  ②柔軟で多様な働き方の実現(成果で評価する労働時間制度の創設B等)
  ③外国人が日本で活躍できる社会へ。(技能実習制度の拡充等)》

 《3.新たな成長エンジンと地域の支え手となる産業の育成

  ①攻めの農林水産業への転換。(農業委員会・農業生産法人・農業協同組合の一体
   的改革等)
  ②健康産業の活性化と質の高いヘルスケアサービスの提供(非営利ホールディング
   カンパニー型法人制度(仮称)の創設/保論外併用療養費制度の大幅拡大E等)》

 《4.地域活性化と中堅・中小企業・小規模事業者の革新
 
  ①地域活性化関連施策をワンパッケLンで実現する伴走支援プラットフォームの構
   築
  ②地域の中小企業・小規模事業者が中心となった「ふるさと名物応援」と地域の中
   堅企業等を核とした戦略産業の育成
  ③地域ぐるみの農林水産業の6次産業化、酪農家の創意工夫
  ④世界に通用する魅力ある観光地域づくり
  ⑤PFI/PPPを活用した民間によるインフラ運営の実現
  ⑥地域の経済構造改革に向けた総合的な政策推進体制の整備》
                               (傍線は引用者)


                            ■ 見えてこない具体策

  以上、引用が長くなったが、「総論」では全部で16の「鍵となる施策」を挙げてい
 る。この「日本再興戦略改訂版」をどう見るべきか。先に私の「総論」を述べてしま
 おう。
  「改訂版」では、「法人税引き下げ」(傍線A)、「労働時間規制改革」(同B)、
 「外国人の受け入れ拡大」(同C)、「農業改革」(同D)「混合診療」(同E)な
 ど、難題にも一定程度は手が付けられた。
  とはいえ、実施にあたっての詳細は今後に委ねられている部分が多い。

  たとえば法人税である。「数年で20%台へ減税」という方向だが、具体的な税率は
 どうなるのか。
  現状では日本の法人税率は35%である。それに対し、日本を除くOECD諸国の平
 均は25%だ。近隣諸国を見ても、香港16.5%、シンガポール17%、韓国24%と、大き
 な差が歴然としている。税率でこれだけの違いがあれば、グローバルに活動する企業
 が事業拠点を海外に移すのも無理はない状態である。
  内外の投資を呼び込めるような措置を迅速に講じることが求められているが、具体
 論はこれからだ。

  そんななか、福岡や関西からは、後述する「国家戦略特区」との関連で、国全体で
 の減税よりも一歩踏み込み、よりスピーディかつ大胆な減税を求める声も上がってい
 る。こうした可能性も含め、法人税についてはさらに検討されるべきだろう。
  ただし、法人税減税は賛成なのだが、今の政府の「国際競争力」のためというロジ
 ックは適切でない。法人税減税のための正しいロジックとは「二重課税の排除」であ
 る。これはノーベル経済学貧受貧者のフリードマン教授が主張しているもので、法人
 は個人の集合体であるため、個人ベースで完全に課税が行なわれれば、法人税自体が
 不要となる。各国で法人税の減税をしているのは、個人の所得・資産の捕捉が十分に
 なった=二重課税の排除の結果なのである。
  日本の法人税率が高いのは、納税者番号が先進国の中では徹底しておらず、個人の
 資産・所得把握が不十分な結果とも言える。この観点から見ると、納税者番号の導入
 や、国税庁と社会保険料徴収機関を統合する「歳入庁」をつくることが先決と言えよ
 う。しかし、そのための努力をしていない。それなのに増税では、経済をダメにして
 しまう。情けないことだ。

  労働時間規制も、いい線まで行ったが、最後の詰めが甘い。一部マスコミや労組が
 "残業代ゼロ制度"と問題視した、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」で
 ある。今回、「年収1000万円以上」という一定の水準を示し(当初は年収700
 0万円以上の人に絞るなどという議論があった)、パフォーマンスに応じた働き方を
 認める方向となった。このこと自体は評価してよい。
  ところが具体的な制度設計は、今後、労働政策審議会で議論されることになってい
 る。しかも「年収1000万円以上」を明記した各論部分を見てみると……。

  《時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、
  一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲
  が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、健康確保や仕事と生活の調
  和を図りつつ、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した「新たな労働時間制度
  」を創設することとし、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会
  を目途に所要の法的措置を講ずる》
              (改訂版文書中「第二3つのアクションプラン」にある
          「新たに講ずべき具体的施策」のうちのひとつ。傍点は引用者)

  年収1000万円ではなく年収1000万円「以上」、それに「労働政策審議会で
 検討」とか、「結論を得た上」とか、ここでも「霞が関文学」がちりばめられ、多数
 のハードルが課されているではないか。だから制度設計がまったく見えない。
  詳細部分、具体策がどうなってゆくのか判然としないので、やはり進捗状況をしっ
 かりとフォローし、注視してゆく必要がある。

 
       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』


   

● 歳入庁再論

この歳入庁創設は、民主党の政権公約(マニフェスト)に掲げられていた――政府の平成
22年度税制改正大綱にも掲げられている項目で、
歳入庁を創設した場合の効果は、(1)
税と保険料を一体的に徴収し、未納・未加入をなくす。(2)所得の把握を確実に行うために、
税と社会保障制度共通の番号制度を導入する。
(3)国税庁のもつ所得情報やノウハウを活用
して適正な徴収と記録管理を実現する(
民主党「政策集INDEX2009」)と述べられている。

 

また、高橋は『歳入庁創設』を前提として、マイナンバー制度のありように――マイナン
バー制
度だけでは十分とはいえない。悪質な会社が社員の年金を横領していたという事件
はよく
聞く話だが、それは当時の社会保険庁が源泉徴収をきちんとチェックしていないか
らだ。
実際に「消えた年金」の5000万人分の7~8割は厚生年金で、結局その責任は
誰にも
問われず、個人の年金が減額されることになる。社会保険庁がきちんと会社を訪問
してチ
ェックしていれば、こういった事件は未然に防げたはずだ。もし会社訪問が難しく
ても
法人税調査と源泉徴収の給料天引きを照らし合わせれば、不正をしているかどうかは
簡単
にわかる。実際に税務署は法人税や所得税の調査の時に企業が年金を払っているかど
うか
は大体わかっているのだが、所管外のため何も言わないでいる。そのような状況を打
破す
るためにも、国税庁と現日本年金機構を合併して歳入庁を設立し、マイナンバー制度
を作
れば、約10兆円の社会保険料の徴収漏れが入ってくることも可能だろう。政府は社
会保
険料が足りないから消費税を増税すると言っているが、10兆円が入ってくれば、今
回の
消費税増税の必要はない筈だ。こういったことを、先ずやるべきだと思う――と、発
言し
ている(「消費税導入より歳入庁の創設を」 2013.11.08 FN HOLDING)。

 

さらに、日本には歳入庁がなく、マイナンバー制度が徹底していないため、どんぶり勘定
になっている」との質問に――どんぶりなら入るだけまだマシだ。今の状態はザルで、取
りこぼしてしまっている。社会保険料の法的な位置づけは税金と同じで、支払わなければ、
正確に言えば脱税になる訳だ。さらに、そもそも一度税金として吸い上げた保険料を、個
人に代わって国が運用するということもおかしな話だ。例えば、厚生労働省が現在の年金
運用先として選んでいる信託銀行のリストの中から、国民個人が自分の年金を預ける信託
銀行、保険会社、投資顧問を選ぶという仕組みがあっても良いと思う。受け取りの段階で
は厚生労働省によるきちんとした管理が必要だが、配分については必ずしも厚生労働省が
行う必要はない。国民が保険料を納入する際に運用する金融機関に番号をつけて、国民が
それを選べば、それは十分可能であり、かつ、合理的だ――と応えているがこれも至極正
論だと考える。また、日本年金機構をなくして借金をすべて返済し、ゼロから始めた方が
良いのではないかとの質問に――ただ、高齢化の時に多少積立金があったほうがよいとい
う議論もある。そう考えると、今の制度を維持したまま、日本年金機構の代わりに国民が
信託銀行、保険会社、投資顧問を選べるようにした方が簡単だと思う。増税を未来永劫し
ない方がいいと言っている訳ではないが、現在のロジックのように消費税を上げるのが社
会保障のためだというのであれば歳入庁をつくってきちんと徴収した方が良い。徴収漏
れをそのままにしていれば、「消えた年金」のような問題が再び起きる可能性もあるだろ
う――と応えている。このように、増税前に、税制システムの堅牢性あるいは信頼性の品
質的側面の強化が前提となることに論をまたない。


 

                                                               この項つづく

 

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政策システム工学

2014年10月30日 | 新弥生時代

 

 

  

● 植物で組織ごとに異なる体内時計が働く

植物は組織ごとに異なる生物時計が働いていることを京都大のチームが発見し、29日付の
英科学誌ネイチャー電子版に発表した。
水や養分を運ぶ管が集まる「維管束」の時計機能
を阻害すると花が遅れて咲くことも判明。チームの京大の遠藤求助教(植物生理学)は「
遺伝子を組み換えずに、花の咲くタイミングを自由にコントロールできる成長調節剤の開
発につながる可能性がある」と話す。チームはシロイヌナズナの葉に光を当て、葉全体と

葉肉、維管束それぞれの時計遺伝子の働きを測定。その結果、時計遺伝子の働くリズムや
量が、葉全体や葉肉と、維管束の間で大きく異なったという("植物、組織ごとに異なる生
物時計 成長調節に応用も" 2014.10.30「東京新聞」)。この手の話は少し専門知識があ
り、
ブログ(『亜鉛シグナルと概日時計―24時間リズムを生み出す 遺伝子発現調節機構
―』)でも掲載してきたので詳細は割愛するが(上図クリック)、今回の研究成果のポイ
ントは以下の3つだと報告している。

(1)植物ではこれまで困難――植物は動物の脳に当たる中枢機能がないため、組織ごと
  の体内時計はこれまで解析事例がなく、細胞同士が固く接着しているため、時間の経
  過とともに発現量が変化する時計遺伝子の測定は難しかったが、遠藤助教らは超音波
  と酵素の処理を組み合わせてシロイヌナズナからの組織単離を30分以内に短縮――で
  あった組織単位での「時計遺伝子」発現の定量解析に初め
て成功。
(2)維管束の時計遺伝子の機能を阻害するだけで花の咲くタイミングを遅らせることが
  できた。
(3)植物組織の体内時計機能は、植物の精密な生長調節法開発のターゲットとして期待
  される。

具体的には、(1)組織単離時間を従来法の1/3以下に短縮、(2)時計遺伝子の発現
を非侵襲で測定できる「TSLA法」を世界で初めて開発、(3)維管束に存在する時計
遺伝子の性質が他の織と大きく異なり、隣接する葉肉組織の時計遺伝子の発現に影響して
いることを解明、(4)維管束の時計機能を阻害するだけで植物の花の咲くタイミングを
遅らせることに成功している。



● Tissue-specific luciferase assay(TSLA)法とは?

ルシフェラーゼ(LUC)を断片化したもの(nLUCとcLUC)を、それぞれJun遺伝子とFos遺伝子
の部分断片を改変したもの(c-Jun b-ZIPとA-Fos)と融合させる。その後、一方を目的の組
特異的プロモーター、もう一方を時計プロモーターで発現させる。たんぱく質に翻訳された両者は
JunとFosを介して特異的に結合し(Junたんぱく質とFosたんぱく質は結合することが知られて
いる)、断片化されていたルシフェラーゼが再構築される。2つの発現が重なる時間・空間のみで
ルシフェラーゼを再構成させることで、目的の組織で目的の時計遺伝子の発現が発光リズムとし
て検出できるというもの(下図参照)。

 

この方法で安全に「概日リズム」を制御できれば、『真菰筍解体新書』で記載している、
果実ではなく根元に出来る肥大した茎だけれど、マコモダケの収穫期をずらすことができ
れば、極端な話、通年安定して収穫できるかも知れない。これは大変面白い話となる。

 




 

 

● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く


ここで記載されている財務省の「歳出権拡大」は官僚機関のコア権力であり、国土交通
省などでの「許認可権拡大」と置き換えて良いものだ。資本があるいは欲望と置き換え
ても良いが、最後には目的そのものを転倒させて限なく自己増殖を続けるという特徴を
――植木等が歌い流行した「分かっちゃいるけで止められない」と喩えられそうなもの
もつ。例
えば、景気動向が財務省や日銀、あるいは経産省、内閣府などから報告される
がこれな
ど、各省が調査の外部監査作業などを含めてたワークフローを政策行政のアル
ゴリズム
――ノーベル賞受賞級の宇宙物理学者などシステムエンジニアリングをに依頼
し、 "官僚作文のデジ
タル化"に、政策システム工学変換し、民間の調査機関に依頼し、
内閣府などで一本化し定期的報告するようにすれば、二重行政や重複行政
をなくせて、
随分とスリム化するのではないかと考えたりしてきたが、そのことはさておき、今夜も
昨夜に引き続き官邸内の体験を語っても
らおう。

 

                      ■ 予算編成の数字に見る増税の虚妄 

  国の一般会計は、夏に各省庁からの概算要求があり、それを12月末までに財務省主
 計局が削って予算の「政府原案」を作る。その政府原案は、翌年1月から国会で審議
 され、3月末までに成立して予算となって、4月から予算執行される。 
  2014年度予算は、まず8月の概算要求段階で事実上、シーリング(概算要求基
 準。財務省が省庁ごとに示す限度額の基準)がなく、青天井になっている。これは概
 算要求としては異例のことである。青天井になったので、一般会計概算要求の総額は
 99・3兆円にまで膨らんだ。
  その後、財務省と各省との予算折衝を経て政府当初予算案が決まるのだが、両者に
 は安定的な経験則がある。2001年度から2013年度まで、リーマンショックに
 対応せざるを得なかった2009年度を除き、当初予算は概算要求を4%程度カット

 した水準で決まっている(下図のグラフ①と②)。


  2014年度の当初予算は95・9兆円だ。概算要求総額99・3兆円を4%カットする
 と、《99・3×(100-4)÷100=95.328》で、みごとにこれまでの経験則どおりの
 数字である。要するに、4月からの消費税増税が見えていたので、青天井で要求させ
 ておき、その水準からお決まりの「4%カット」をしただけなのである。
  これでやはり「増税は財政再建ではなく歳出権拡大のため」なのが分かるだろう。
  さらにグラフから分かることがある。以前の自公政権と政権交代後の民主党政権(
 2009年9月から2012年12月まで)では、歳出規模の水準で民主党政権のほう
 が、リーマンショック、東日本大震災という特殊要因を除いても大きい。だが、ふた
 たび自公政権になっても、同様の歳出規模を踏襲したということである。
  なお、「4%のカット」は当初予算の見せかけのためでしかないことを付言してお
 きたい。当初予算はしばしば補正予算で修正される。その場合の歳出総額は、リーマ
 ンショックに対応せざるを得なかった2009年度と、東日本大震災(2011年3
 月11日)で予算規模を膨らませざるを得なかった2011年度を除き、5%程度の
 追加補正が組まれている。結果として、もともとの概算要求を1%程度上回る水準に
 本予算が決まるのである(下図・グラフ③)。




                           ■ 官僚は手段を選ばない

  財務省はマスコミを龍絡して、"何とかのひとつ覚え"のように「財政再建のための
 消費増税」をアナウンスする大キャンペーンを張った。龍絡の餌は「軽減税率」であ
 る。特定品目の消費税率を標準税率よりも低く設定することだが、これを新聞に適用
 し、「あなたのところは負けてあげるから」と唆した。
  それに乗ってしまう新聞社もどうかと思うが、官僚のやり方はえげつない。
  財務省もなかなかしぶとく、餌として軽減税率をちらつかせながら、最後までカー
 ドを切らない。するとマスコミのほうは、餌にありつくまで、ずっと「財政再建のた
 めの消費増税」を連呼することになる。
  とにかく手段を選ばない。それが官僚の習性のひとつである。
  そんな財務省の増税路線に"乗ってしまった"という点においては、8%への消費増
 税を断行した安倍総理も同様であり、これはいかんともしがたい。
  ただ消費増税の法案自体は、民主党政権時代に法案が通ってしまっている(201
 2年8月改正「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための
 消費税法等の一部を改正する等の法律」)。安倍氏自身、「法案が通っているから、
 それをひっくり返すのはなかなか大変なんだ」という趣旨のことを言っていた。
  ここで繰り返すが、財務省官僚の言う「財政再建」は表向きの建前であって、本音
 は歳出権を増やしたいだけの話なのだ。歳出権を握った官僚がお金を配る。
  増税をすれば、実勢経済の歳入とは関係なく、予算上の歳入が増える。予算上の歳
 入が膨らむと、予算上の配分するお金の金額も膨らむ。その膨らんだ金額を各所に配
 分したいから財務省は増税を言う。この単純なロジックを、日本国民は知っておくべ
 きだ。


                ■ 過去2回の消費増税から2014年を予測する 

    「金融緩和しながら消費税を増税するということは、プラスとマイナスを一緒に行
 なうような
もの」であると前述した。せっかく「第1の矢」効果でプラスの方向へ動
 き出した日本経済なのに、増税がマイ
ナス方向に効いてくる。私は4月の消費増税実
 施前から、そう懸念していた。

  黒田日銀総裁の就任1年後の時点で、日銀政策委員による「2014年度実質GD
 P見通し」は、1・O%~1・5%
(中央値1・4%)だった。実質GDPが下振れ
 している状況下で、消費税増税
に耐えうるのだろうかという懸念である。



  消費税のマイナス効果を考えてみよう。今回を別にすると、消費税はこれまで19
 89年4月(3%へ)、1997年4月(3%から5%へ)の2回、増税されている。
  増税前後を比較すれば、どちらも成長率が低下していることが分かる。それはGD
 Pの大きな構成要素である「消費」が低下するからである。
  増税前後2年間の平均で見ると、実質GDPでは、1989年の増税前に6・2%
 だったのが、増税後には5・3%に低下した。それから1997年の増税の前には
 2・5%だったのが、増税後に▲(マイナス)O・8%へと、こちらも低下。低下幅
 はそれぞれO・9%と3・3%である(上図のグラフ)。
  1989年はバブル景気、1997年は「失われた20年」の中でのしばしの景気回
 復だった。それぞれ消費税率の上げ幅は3%と2%である。今回の引き上げ幅は3%
 であり、そのマイナス効果は1989年のときと同じである。
  現在はまだ増税から4ヵ月で、データを取るには期間的に短い。そこで1989年
 と1997年のそれぞれのショックと同じものに、今回も見舞われるという機械計算
 をしてみよう。
  2014年度の実質GDP成長率がどうなるかを見ると、実力は2%だが、駆け込
 み需要の反動減で1・4%。1989年並みならO・5%、1997年並みなら▲1・
 9%になる。



  1989年と1997年とで、どちらが今と似ているかといえば、1997年のほ
 うだろう。唯一の救いは、今のほうがまともな金融政策が行なわれていることだ。ま
 ともな金融政策(第1の矢)のおかげで、1997年の再来ということは避けられる
 と思う。しかし、かといって、1989年並みのマイナス効果ですむとも思えない。
  というわけで、財政政策なしで消費税のマイナス効果だけを見ると、実質GDPは
 ▲O・1%程度まで落ち込むと頭の中では予測できる。実際の経済成長がどうなるか
 といえば、これに補正予算などの財政政策で上乗せするのだが、2014年度の実質
 GDPは、日銀見通しの下限である1・O%まで達しないだろう。なお、この数字は
 2014年度について、対前年同期比で見たときの平均であることをお断わりしてお
 く。
 


       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                                               この項つづく

   ● たのんます メッセンジャー

 

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続・真菰筍解体新書

2014年10月29日 | 時事書評

 

 

   Wild Rice Salad with Asparagus and Baby Corn

 

■ 続・真菰筍解体新書

● マコモは捨てるところがない

最近、耕作放棄地だった田んぼを再利用してマコモを栽培する農家が、全国的に増えてい
る。その理由として、耕作放棄された田んぼを再利用する際に、米から転作する農作物と
して「手間がかからない、環境にやさしい、食べておいしい」作物であるという。 もう1
つマコモはイネ科の多年草だが、池や湖沼にも自生するが、雑草系マコモの茎は肥大化し
ないという特徴がある上に、葉はしめ縄やムシロを編むほか、畑のマルチング(地表を稲
わらやビニールシートなどで覆うことで温度調整、水の蒸発の抑制、害虫対策)にも使わ
れ、さらに、葉や根には殺菌効果があり、ネットに入れて風呂に沈めておくと水が腐らな
く、マコモが窒素やリンを吸収して水質悪化を防ぐ効果もあるし、実はワイルドライス(
穀物)として収穫されるという――(1)耕作放棄地や休耕田を利用して転作できる(2)
葉から根まで捨てるところがないエコ作物(3)水をきれいにする働きがある(4)
稲作
と違って田んぼの水を抜かないので水棲生物が増える(5)無農薬で栽培できる(6)栽
培に
手間がかからない(7)おいしくて、さまざまな料理に使える7つの特徴をもつとい
う(2012.03.31「愛が地球を救うように、マコモが耕作放棄地を救う」)。



● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く



この項では、リーマンショック前後の小泉政権からの著者の経験が多く語られており、
へぇ~、
そんなことがあったのだと、自分の似たような経験を記憶から探し出し重ね合
わせみたりするが(例えば、協力企業への資材コスト削減要求を「やり過ぎてはいけな
い――実際はやり過ぎてしまったことを間接的に忠告され、経済活動には"匙加減"が必
要なのだと悔やんだことなど)――財政再建のために必要なのは、増税ではなく「名目
経済成長
」なので
ある。このことは、過去のデータから一目瞭然だ――との核心にすべ
てが集約されるのだが、それがまた、財務省の「不都合な真実」を炙り出すことに繋が
ることになる。



                        第1章「3本の矢」は、そろわない

                      ■ 官僚主導を覆した日銀総裁人事

  私が「第1の矢」を評価するのは、経済データ上の効果からだけではない。「霞が
 関を敵に回した男」(私のこと)としては、政治家と官僚組織の関係という側面から
 も「第1の矢はよかった」と断言する。それは安倍総理の日銀総裁人事である。
  ご承知のとおり、日銀の正副総裁と6人の審議委員は、衆参両院の議決を経て内閣
 が任命する(国会同意人事)のだが、こと総裁人事に関しては、歴代総理は必ず日銀
 官僚(日本銀行も官僚の集団である)の意見を取り入れてきたという歴史がある。と
 ころが安倍総理は黒田氏を起用するにあたって、日銀官僚の意見をまったく聞かなか
 った。総理として初めてのことだった。
  私が知るところでは、安倍氏は自民党総裁選(2012年9月)のころから「大胆
 な金融政策が必要であり、そのために適した日銀総裁を任命しなければならないと 
 いうことを承知していた。その安倍氏が政治的に勝利を収めたので、黒田氏の人事と

  かつてない金融政策が実現したわけである。
 
  これがもしも、安倍氏ではない総理が日銀官僚の意向を受け、総裁人事と金融政策
 を"日銀任せ"にしていたら、どうなったか。結果は言わずともお分かりだろう。
  前著『官愚の国』で指摘したように、日本の官僚は「無謀性の神話」に胡坐をかい
 て、とにかく自らの間違いを認めない。そのうえ「今までやってきたことは絶対的に
 正しい」という前例踏襲主義の人たちだから、変わることができない。つまり政策を
 官僚に任せている限り、「私たちのやっていることは正しい」と言いつづけるため、
 アベノミクス「第1の矢」のような政策は出現しない。

  本来なら政治家が官僚に対して「まあ、そんなことを言わないで。前例にないこと
 でも、俺の責任で変えてあげるよ」と言わなければいけない。それが政治主導でもあ
 るのだが、この国では政治主導ができず、政治家が官僚の前に屈するのが当たり前だ
 った。
  この官僚主導の構図を、安倍総理は日銀総裁人事をきっかけに、上手にひっくり返
  した。「第1の矢」を私が評価する所以である。


                 ■「第1の矢」の首を絞めかねない「第2の矢」

  では「第2の矢」である財政政策のほうはどうか。財政政策とは国が歳入・歳出を
 通じて行なう経済政策のことだが、平たく言えば、金融緩和をきちんと実行していれ
 ば財政政策も効いてくる。だからきちんと予算を組み、粛々と行なえばよい。
  アベノミクスの1年目は、前述した金融政策の効果もあり、経済政策(金融と財政)
 総体としてはよかった。ところが、2年目(2014年度)は消費増税というま
った
 く逆効果の政策に手をつけてしまった。「金融緩和をすれば財政政策が効く」と
書い
 たが、消費増税をすると、マイナスという意味で""効いて"くるのだ

  効果にはプラスもあればマイナスもある。金融緩和しながら消費税を増税するとい
 うことは、プラスとマイナスを一緒に行なうようなもので、愚策である。
  なぜ、こんなことになってしまったのか。消費増税の本丸、財務省は錦の御旗のご
 とく「財政再建のための消費増税」と言っている。しかし、それは論弁である。
  旧大蔵省時代から、財務省は歴史的に「財政再建」を立派な目標に掲げてきた。財
 政再建自体はどの国も掲げているし、中には憲法の条文に盛り込むところまである。
 ただし、財務省が言う「その手段としての増税」というのが論弁であり、はっきり言
 って真っ赤な嘘なのだ。
 
  時間を遡って見てみよう。政府が2014年度予算案を閣議決定したのは2013
 年12月24日である。一般会計の総額は95兆8,823僚円で過去最大となった。当時のマ
  スコミ報道は、予算案の概要を伝えつつも、すでに「財政再建のための消費増税」を
 織り込んでいた。
  私の経験則で内幕を明かすと、マスコミが年末の時期に報じる予算関連のニュース
 は、ほとんどが「予定原稿」なのだ。テレビであれ新聞であれ、「経済部」の記者は
 国家予算に関する知識をほとんど持ち合わせていない。国民からすればまことに不思
 議なことだが、事実だから仕方がない。そうした記者たちに対して財務官僚が一度に
 多くの予算内容をレクチャーしても、記者が消化不良を起こしてしまい、満足に記事
 にできないのである。
  それでどうするかと言えば、役所(財務省)があらかじめ記事にできそうなところ
 を資料にまとめ、「記事原稿資料」として「解禁日時つき」で記者たちに渡しておく
 のである。経済関係の記者は、その資料に基づいて記事を書き、解禁日を待って報道
 する。要するに、年末の予算ネタは、"官製広報"の垂れ流しにすぎないのだ。
  2013年末の新聞各紙を見てみるとよい。どのマスコミも、2014年度予算案
 を《消費増税などによる家計の負担増に対して、それを軽減する対策》と位置づける
 構成になっている。それに続けて、"役所寄り"と思われる有識者による《歳出の切り
  込み不足》(財政再建は不透明)といった論評が載る。ステレオタイプの記事ばかり
 であった。
  そもそも、増税が財政再建に寄与するかどうかは、シンプルな命題である。すなわ
 ち、

  ・景気がよければ、財政再建の効果はある。
  ・景気が悪ければ逆になる。

 たったこれだけのことである。 

  もっと本当のことを言うと、景気のよいときには税収が上がっているのだから、増
 税をする必要などない。以上の意味で、増税は財政再建にプラスの効果をもたらさな
 い。普通に考えても分かるだろう。
  それでも日本のマスコミは「消費増税は財政再建のため」という財務省の論弁を無
 批判に受け入れ、さらには同調し、官製広報を流しつづけた。
  私は著書やデジタルメディアのコラムなどを通じて何度も警鐘を鳴らしてきたが、
 ここであらためて言おう。消費増税は財政再建のためではなく、ひとえに財務省とい
 う官僚組織の権限拡大を目的としたものなのだ。財務省官僚が予算総額を膨らませ、
 お金を自由に差配できるようにするための増税なのである。
  お金を差配できる権限を「歳出権」と呼ぶ。「歳出」とは、家計で言えば「支出」
 のことだ。すなわち「増税は財政再建ではなく歳出権拡大のため」なのである。こう
 いう視点で見れば、増税による経済対策は歳出権拡大の実践であって、財政再建が遠
 のいても当然の話となる。


                          ■ 財政再建は「建前」なのか


  私は1980年に財務省(当時は大蔵省)に入省した。同期23人のうち、唯一の理

 系出身(数学科)という"異分子"で、官僚になったのも「大学の同級生が国家公務
  試験を受けるから、自分も受けてみようかな」程度の動機からである。まあ、まっ

 くの偶然で財務省に入ったようなものだ。

  そんな私も予算編成に関わる仕事をする時期があった。あるとき、当時の幹部から
 言われたことを思い出す。
 「高橋くん、君は数字に強くてとても優秀だが、ひとつだけ分かっていない」
 何のことかと首を傾げていると、その幹部は、
 「(予算を)本気で削るな。相手が頭を下げに来る程度でいい。そこで予算をつけれ
 ば感謝されるから」
  それでは財政再建はどうするのですか? と私が聞いたところ、
 「重要な建前だ」
  と、かわされてしまった。

  財務省の庁舎にいると、いろいろな記者がやって来るのが見て取れる。もちろん彼
 らは遊びに来ているわけではなく、目的は取材(情報収集)である。ただし全員が
 
「増税は財政再建のため」という「建前」を信じ込んでいる人たちだ。おそらく、そ
 の建前に疑問を感じる記者は、「財研」(財政研究会。財務省の記者クラブ)にはいら
 れないのだろう。
  前項で紹介した「解禁日時つきの原稿資料」は、財研に加盟する記者しか人手でき
 ないことになっている。だから「増税は財政再建のため」という「踏み絵」を、多く
 の記者は何の疑問もなく踏むし、万が一疑問に思ったとしても、記事を書くためには
 踏まざるを得ない。
  後述するが、財政再建のために必要なのは、増税ではなく「名目経済成長」なので
 ある。このことは、過去のデータから一目瞭然だ。 


                  ■ 財務省にとっての「不都合な真実」とは?

  私はかつての小泉純一郎政権時代、政権運営に関わっていたが、そのときの体験も
 「財政再建のための増税」が真っ赤な嘘であることを示している。
  小泉氏は政治家としての勘が非常に優れていた。そして「自分の任期中は消費増税
 をしない」と言い切った。その一方で、官邸スタッフには「財政再建はよろしく」と
 も伝えていた。この言葉を耳にして、財務省から官邸に出向していた官僚が憤慨して
 いたことを覚えている。それは、増税なしでは財政再建などできないと思い込んでい
 たからである。
  私は元より、増税しないほうが財政再建は簡単にできると考えていた。
 「増税する」と言い出せば、予算上の歳入(家計なら収入)が膨らむ。それは誰の目
 にも明らかなので、各省庁の予算要求も膨らむ。すると、膨らんだ要求をなかなかカ
 ットできなくなり、結局、財政再建が遠のくと思っていたからだ。
  反対に「増税しない」と言えば、歳出要求は収まり、財務省は概算要求シーリング
 (要求上限)を低く設定できる。となると歳出総額は抑えられる。当時は現在ほど大
 胆ではないにしても、日銀が量的緩和策をとっていたため、円安になって経済成長が
 でき、それで税収も上がる。その結果、財政再建は容易になる。 

  前者(増税する)と後者(増税しない)の違いは、単に「事前の予算上の歳入を増
 やす」か「事後的な決算上の歳入を増やす」かの違いである。「増税」と「増収」の
 どちらを目指すかと表現してもいい。私は、財政再建を目指すなら増税より増収だと
 考えていただけである。と同時に、歳出権の拡大を目指すなら、増収ではなく増税に
 なることも、財務省での経験から知っていた。
  小泉政権では、小泉氏の「消費増税しない」発言が裏付けるように、本当の意味で
 財政再建を目指していたと言えるだろう。この方針に対し、財務省は消極的だったの
 で、やはり財務省の本音は歳出権拡大なのだと私は確信した次第である。
  2001年4月に発足し、2006年9月までの5年半にわたった小泉政権だが、
 増税なしの財政再建の成否はどうだったか。
  基礎的財政収支(プライマリー・バランス。税収など正味の歳入と、国債償還費と
 利払いを除いた歳出の収支。家計で言えば借金。利払いを除いた収入と支出の釣り合
 い)で見ると、その赤字幅は政権発足時の2002年度に28兆円もあったのが、20
 07年度には6兆円にまで縮小した。リーマンショック(2008年9月)がなけれ
 ば、日本は2008年度にも財政赤字を解消し、財政再建を達成することができたと
 思う。
  これは「歳出権拡大」を目論む財務省にとって「不都合な真実」となった。そのせ
 いか、財務省は「小泉政権時代に、これだけの財政再建のパフォーマンスがあった」
 とはマスコミにレク(レクチャー)しようとしない。したがって記事にもならなかっ
 たのである。


       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                                               この項つづく

 

 

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真菰筍解体新書

2014年10月28日 | 時事書評

 

 



 畳薦 牟良自が礒の 離磯の 母を離れて 行くが悲しさ         刑部虫麻呂/万葉集  


 吾が聞きに 懸けてな言ひそ 刈り薦の 乱れて思ふ 君が直香ぞ   大伴像見/万葉集   

 

 

■ 真菰筍解体新書

農協の「野菜館」で買ってきたいというマコモダケ(真菰筍)をごま油で炒めた金平風―
惣菜の一つで、繊切りにした材料を砂糖・醤油を用い甘辛く炒めたもの。材料としてはゴ
ボウ、レンコン、ニンジンなどの根菜類が一般的だが、厚めに剥いたダイコンの皮や、ヤ
ーコンなどで作っても美味しい。味付は味醂、醤油を基本とし、好みで鷹の爪、ゴマなど
を加える――の小鉢料理が余りにも美味しかったので、突拍子に「美味い」と声を出して
しまったほどだ。そのことを彼女に聞くと、最近よく売られているのでということだった
が、興味を惹いてしまった。

マコモ(Zizania latifolia、真菰)は、イネ科マコモ属の多年草で、別名ハナガツミと言い、
東アジアや東南アジアに分布、日本では全国に見られるという。水辺に群生し、沼や河川
湖などに生育。また食用にも利用される。成長すると大型になり、人の背くらい成長し、
花期は夏から秋で、雌花は黄緑色、雄花は紫色。葉脈は平行。マコモダケとして食用され
るほか、マコモダケから採取した黒穂菌の胞子をマコモズミと呼び、お歯黒、眉墨、漆器
の顔料などに用いられてきたというので、無知さ加減はさておき、大いに感心する ^^;。

最大の特徴は、黒穂菌(くろぼきん)の一種(Ustilago esculenta)に寄生されて肥大した新
芽がマコモダケ(真菰筍、茭白。マコモタケ)と呼ばれ食材にされていることで、古くは
万葉集に登場し中国、ベトナム、タイ、ラオス、カンボジアなどのアジア各国でも食用や
薬用とされている。食材としては、
たけのこを優しくしたような適度の食感と、ほのかな
甘味、ヤングコーンのような香りがあり、くせがなく、さっと茹でたり、グリル焼き、炒
めものにも向いているほか、新鮮なものは生食してもおいしい。細かく刻んで餃子、ハン

バーグ、チャーハンなどに用いることもできる。収穫は秋で、新芽の根元が充分に肥大し
たらすぐに収穫し、収穫が遅れると組織内に真っ黒な胞子が混じるようになり、食感・食
味も落ちて商品価値は失われるという。 

● マコモの育ちやすい環境

マコモには水質浄化の働きと多くの生物の生育環境をつくってくれるといわれる。対象に
は、霞ヶ浦や琵琶湖を始め、ラムサール条約に指定されている伊豆沼・内沼(宮城県)が
ある。
マコモの柔らかい芽や茎の回りは餌場、産卵場所、そして隠れ場所として様々な水
棲生物に活用されてて、冬は白鳥などの水鳥が餌としてついばみにやってくるが、
最近で
は、環境破壊が進んだことで、湖、沼や河川の生態系が徐々に崩れていき、河川や田んぼ
などの水路はコンクリートなどで覆われてしまう環境の増加で、マコモが減少していると
いう現状があるという。

● マコモダケの浄化作用

マコモは水を腐らせる湯垢や体から出る老廃物を、マコモの耐熱菌が分解して浄化するこ
とにより起こるといわれ、 例えば、マコモの葉やマコモの粉は漆のつや出しや、粽(ちま
き)、羊羹(ようかん)をマコモの葉で巻き、そしてマコモの根を粉末状にしてお風呂に
入れると、水が腐らないなどともいわれ、マコモはすぐれた体内浄化作用も持ち合わせて
いるので、アトピーや切り傷などに最適だともいわれている。

● マコモダケの効果

マコモダケには便通を促す食物繊維が含まれており、腸内環境をスムーズにして、美容の
大敵である便秘の解消に役立ち、食物繊維は腸内に溜まった不要なものを排出するだけで
なく、余分なコレステロールを体外へと運び出したり、糖質の吸収抑制作用など、生活習
慣病の予防にも働きかけたりと、様々な生理機能を持つ。マコモダケに含まれるカリウム
は、人間にとって欠かせない成分のひとつで、カリウムは、多くの酵素を活性化させる働
きを持ち、筋肉のエネルギー代謝や神経伝達、そして筋肉の収縮を間接的に補助する働き
があり、カリウムは肝臓における老廃物の排出を促し、むくみをとる働きがあるともいわ
れている。また利尿作用を持ち、体内の不要なものや余分な水分を排出する働きがあるた
め、デトックス効果が期待できとも言われている。
これらの機能性のほかにも最近の研究に
より、マコモダケには神経細胞に働きかける作用のほか、骨粗しょう症予防効果も報告されている。

 
マウス神経膠腫細胞を対象に、マコモダケの有効成分Makototindoline を投与したところ、
ウス神経膠腫の細胞増殖を抑制したことから、マコモダケは神経細胞調節作用を持つ

考えられている(上図)。

 

マコモダケには、破骨細胞抑制作用を持つ機能性成分が含まれていることから、マコモダケは
骨の健康、更年期障害予防効果を持つことが期待されている(上図)。これ以外にマコモダ
ケは乳白色で柔らかく,タンパク質やビタミンB2を含む風味の良い野菜として中国料理で
利用され、豚肉や鶏肉とのいため物が美味しく、最近では日本でも特産品として栽培が始
まっているといわれる。

以上、掲載できる許容範囲を超えるボリュームのため、後日再度考察することになる。

 



● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』


さて、この刺激的な章のタイトルから読み進めていくのだが、「第1の矢」の金融政策に
関わる日銀の政策については著者と同じ立ち位置であり、このブログでも「日銀解体論
として掲載してきたのでコメントなしで読み飛ばすことにする。


                                      第1章 「三本矢」は、そろわない

                     ■ 戦国大名の故事とアベノミクスの関係

  アベノミクスの「3本の矢」を1本ずつ論じる前に、おさらいしておこう。
  政治的イシューにしては珍しく、「3本の矢」という表現は多くの日本人に受け入
 れられ、耳目に馴染んだ。これはやはり毛利元就の故事に負うところが大きいのでは
 ないか。
  毛利元就が死の間際、隆元、元春、隆景、3人の息子を枕元に呼び、「1本の矢は
 すぐに折れる。しかし3本を束ねれば簡単に折れることがない。お前たち兄弟3人は
 力を合わせ、毛利家を守れ」と言い残した。息子たちは父の教えを忠実に守ったとい
 うものである。
  ところが、この故事は史実とは異なるらしい。元就の没年は1571年(元亀2
 年)だが、長男の隆元はその8年前に40歳で夭折している。したがって元我が3人の
 息子を前に遺言を残すことはありえないのだ。
  それでも、戦前の教科書に「三矢の教え」(毛利元就の三本の矢の教え)として掲
 載されるほど日本人の記憶に刻まれたのは「父の遺訓」「子どもたちの結束」「家を
 守る」などのモチーフが、国民性にマッチしたからだろう。ちなみに元就は還暦を過
 ぎた1557年(弘治3年)『三子教訓状』という息子たちに宛てた書状を認め、兄
 弟結束の大切さを説いている。

  日本史のおさらいはここまでとして、アベノミクスのほうを今一度おさらいする。
 こちらの「3本の矢」とは「まえがき」に記したように、①金融政策(大胆な金融政
 策)、②財政政策(機動的な財政政策)、③成長戦略(民間投資を喚起する成長戦略)
 である。
  首相官邸のウェブサイトは、ご丁寧なことに図解入りで次のように謳っている。
 (「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」という日本経済の課題を克服
 するため、安倍政権は、「デフレ※からの脱却」と「富の拡大」を目指しています。
 これらを実現する経済政策が、アベノミクス「3本の矢」です。
 
                      ※物価が持続的に下落する状態のこと》

 《すでに第1の矢と第2の矢は放たれ、アベノミクス効果もあって、株価、経済成長
 率、企業業績、雇用等、多くの経済指標は、著しい改善を見せています。
  また、アベノミクスの本丸となる「成長戦略」の施策が順次実行され、その効果も
 表れつつあります。
  企業の業績改善は、雇用の拡大や所得の上昇につながり、さらなる消費の増加をも
 たらすことが期待されます。こうした「経済の好循環」を実現し、景気回復の実感を
 全国津々浦々に届けます。》
                  (首相官邸HPから。振り仮名と傍点は引用者
          http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html


 個別に見てみると、以下のような平易な説明文が付されている。

 《第1の矢 大胆な金融政策

  金融緩和で流通するお金の量を増やし、デフレマインドを払拭》

  《第2の矢 機動的な財政政策

   約10兆円規模の経済対策予算によって、政府が自ら率先して需要を創出》

  《第3の矢 民間投資を喚起する成長戦略

   規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ》

                               (同前) 

  首相官邸HPには、国民に期待を抱かせるような文言が満載である。「第1の矢」
  でスーツ姿だった図解のサラリーマンが、「第3の矢」ではスーパーマン(もどき)
   に変身しているのが笑える。
    これら3本の矢は、毛利元就の故事よろしく、合体して強剱な経済効果を産み出
 すのだろうか。「デフレ脱却」と「富の拡大」を実現するのか。サラリーマンのお兄
 さんがスーパーマンになれるのか。それができるにこしたことはないのだが、私は不
 可能だと断言する
  今のままの「3本の矢」は、そろわない。
  3本を束ねても、1本の脆弱性ゆえに折れてしまうだろう。その脆弱な1本こそ、
  本書の眼目である成長戦略なのである。

                            ■「改訂版」の成長戦略

   
  6月24日に閣議決定した成長戦略を、政府は(「日本再興戦略」改訂2014―未
 来への挑戦―)と名づけた。「改訂」の2文字が入っているのは、1年前の2013
 年6月に一度、「日本再興戦略」を閣議決定しているからである。
  このときの臨時閣議では、経済財政諮問会議による「経済財政運営と改革の基本方
 針」(骨太の方針)と、規制改革の細目である「規制改革実施計画」も併せて決定し
 ている。
  マスコミの中には、安倍総理の「経済の好循環を力強く回転させ、全国津々浦々に
 届けるのがアベノミクスの使命だ。すべては成長戦略の実行にかかっている。成長戦
 略に聖域もタブーもない」という談話を受け「日本再興戦略」「骨太の方針」「規制
 改革実施計画」の3点を十把ひとからげにして「新成長戦略」と扱う向きもあった。
  その捉え方は、総論としては誤りではないのでよしとしよう。いや、むしろ3点は 
  相互に関運しあうし、「新成長戦略」イコール「アベノミクス第3の矢」なのだか
 ら、3点をひとまとめに見るのも分かりやすくていいだろう。
  マスコミが伝える《新成長戦略の主な施策》は次のとおりだ

 ・法人税減税(実効税率を20%台に)
 ・雇用制度改革(労働時間規制の見直し、女性の就労支援、外国人の活用)
 ・医療制度改革(混合診療の拡大)
 ・農業改革(農業委員会や農協の改革、農産物の輸出促進)
 ・公的資金の運用見直し(GPIF=年金積立金管理運用独立行政法人の運用方針
  改革)
 ・国家戦略特区(いわゆる「岩盤規制」の打破)


  こうした施策のために、予算編成や制度設計、法整備が新たに検討されてゆく。私
 がここで指摘しておきたいのは、制度設計も法整備(立法・法改正)も、その実務を
 官僚たちが担うということである。官僚=霞が関の主導であるからこそ、「第3の矢」
 が脆くならざるを得ないのだ。
  官僚主導による成長戦略の欠陥については次章で詳しく検証するが、その脆弱性を
 浮き彫りにする意味でも、まずは金融政策と財政政策、「2本の矢」を概観してゆき
 たい。

                         ■ 日銀の政策が変化した理由

   2013年3月20目に第31代日本銀行総裁に就任した黒田東彦氏は、翌月の日銀金
  融政策決定会合で「量的にも質的にも、これまでとはまったく次元の違う金融緩和を
  行なう」と明言し、マネタリーベース(資金供給量)を2年間で2倍に拡大する金融
  政策を導入した。アベノミクスの中核「第1の矢」として、目本の金融政策は大きく
  変わった。
  すなわち2%のインフレ目標がしっかりと定められた。それまでの日銀はインフレ
 目標を否定的に考え、結果として金融政策に失敗していたのだから、黒田総裁の蛍八
 次元緩和〃はそれを一変させたという意味においても、日銀としては画期的なことで
 あった。
  これで日銀は、周回遅れながら、ようやく世界の中央銀行に並ぶことができたと言
 える。このアベノミクス「第1の矢」=大胆な金融政策は、高く評価してよい。
 「第1の矢」を放ち、日本の経済状況はどうなったか。一定の客観的データで裏づけ
 るために、黒田総裁の就任からちょうど1年後の2014年3月末時点に立ち返り、
 1年間の期限を区切って金融政策の実績を見てみよう。
  まず日銀は、2013年4月の「経済・物価情勢の展望」(いわゆる「展望リポー
 ト」。4月と10月の年2回、金融政策決定会合を経て日銀政策委員が発表する)で、
 2013年度(2013年4月1日~2014年3月31日)の経済見通しとして、次
 のように発表した。

 

  ・実質GDP 2・4%~3・O%(中央値2・9%)
  ・生鮮食料品を除く消費者物価指数 O・4%~O・8%(中央値O・7%)

 
  どちらの数字も対前年度比の成長・上昇率を示している。
  そこで実質GDPだが、2013年4月~6月期から10月~19‐月期までの3四
 半期の平均は2・O%だった。このとき私は、2013年度の実質GDPは2・3%
 程度だろうと予測したのだが、やはり2014年4月、2・3%という結果が出た(
 内閣府「国民経済計算」)。つまり日銀が1年前に見通した数字には、やや達しなか
 ったことになる。
  一方、消費者物価指数については、2013年4月から2014年1月までの10
 カ月の平均がO・7%で、日銀見通しの中央値と一致。さらに2013年度通年では
 全国平均でO・8%となり、高めのほうの数字が確定した(総務省統計局が2014
 年4月25日に公表)。
  総じて言えるのは、実質GDPには下振れがあるが、物価は許容範囲内だろうとい
 うことだ。前述のように日銀はインフレ目標を掲げている。だからそれに忠実に、し

 かも形式的に目標達成だけを考えていればよい。そうした意味で、この1年間の日銀
 の金融政策は及第点であろう。
  ちょっと難しい話になるが、このことは物価連動債から見た予想インフレ率(BE
 I/Break Even Inflatio rate ブレーク・イーブン・インフレ率)からも分かる。
 2014年3月末時点のBEI(5年物)は2・4%程度。消費税増税の物価上昇寄
 与分はO・6%~1・O%程度と推計されたので、これを引くとインフレ率は1・4
 %~1・8%程度となる。やはり物価面では及第点にあることが窺えるのだ。


                         ■ インフレの予感と実質金利

 「まえがき」でも指摘したように、マクロ経済政策である金融政策と財政政策は抽象
 度が高く、一般には難解な代物である。金融政策が効くかどうか、あるいは効いてい
 るのか、実際のところよく分からない
  ひとつ言えるのは、日銀が金融政策で「資金供給量を増やす」(マネタリーベース
 を2倍にする)とアナウンスすれば、予感として誰でも「インフレになりそうだな」
 と思いはじめるということだ。インフレ=金利上昇を予感する。ただしひと口に「金
 利」と言っても、金利には「名目金利」と「実質金利」があることを理解しておかな
 ければならない。
  名目金利とは、預金金利や債券の表面利率などのことだ。この名目金利から予想イ
 ンフレ率を引いたものが実質金利である。
  金融緩和のアナウンスに接し、「インフレになりそうだな」と思っても、このとき
 はまだ名目金利は上がらない。実はそれに対して、実質金利は下がるのである。実質
 金利が下がれば、経済理論から、為替が安くなるとともに「消費」と「投資」と「輸
 出等(投資収益)」が増えるということが証明されている。その消費・投資・輸出等
 の増加へ至る過程で、株価も高くなる。
  すなわち実質金利が下がると、副産物として株高・円安が見られるのだ。事実、ア
 ベノミクス「第1の矢」で日経平均は上昇し、外国為替相場は円安に振れた。また金
 融緩和を実行すると、少し時間はかかるものの、結果的にGDPは上がり、インフレ
 で失業率は下がる。
  こうした意味でも「第1の矢」は、政策的にミスはなく、たしかな効果があったと
 言えるのだ。


       高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                                                この項つづく

 

 

 

 

 

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パウダー水素エネルギー工学

2014年10月27日 | 時事書評

 

 

 

● こんなものあったら欲しい ?

 

 

 

 



● たまには熟っくりと本を読もう

高橋洋一著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

一週間ほど前に『成長戦略・規制緩和は経済成長に寄与するか 』(ダイヤモンド・オンラ
イン 高橋洋一の「俗論を撃つ 」No.104 2014.10.16)を目を通してみていたが、景況回復
には遠く及ばない――「第一の矢」の金融政策は功を奏しているが、「第二の矢」は相変わ
らず緊縮財政で、「第三の矢」は官僚主導である限り成功しない――と主張している。つま
り、金融政策は
、経済成長するとマネーの需要が増えるという逆方向の因果関係があり、マ
ネーはすべての財・サービス交換の裏側にあり、マネーの増減は経済活動に重要な説明因子

であり、「人口減少が経済成長を妨げている」という説は、世界を見る限りまったく説得力
がない――下図表4のグラフが示すように、人口減少でも成長している国は多いし、一人当
たりGDPの成長率は人口増減率と相関はないとも指摘している。

141027


アベノミクスの三番目の矢である成長戦略は、官僚=霞が関主導の〝産業政策〟なので、期
待できないということだ(→現実にビジネス経験もない官僚が、戦略を描けるはずがないこ
とにつきる。だから、世界中で〝産業政策〟なるものは〝日本独自の〟と形容詞が付けられ
るのがおちだ。と、言い切る反面、規制緩和や民営化であれば、世界中に実例があり、百に
3つ当たればいいくらいの確率で効果がでるものの、成果が出るまでに数年を要する――だ
からこそ、長期的な成長には重要で、下手な〝矢〟でも打ち続けなければいけないと述べて
いる。下の4つの図表は参考になったので掲載しておく。因みに、彼は 「実質GDP成長
」(実質GDP成長率 =資本分配率*(資本ストック伸び率+稼働率変動) +(1-資
分配率)*(労働力人口伸び率+就業変動+労働時間変動) +技術進歩率)を重要指標
とし掲載していた。



これはこれで理解はできるものの、彼と私とに横たわる「差異の此岸」がイマイチ明確でな
く、ここは熟っくりと彼の近著(『成長戦略の罠』)を取り寄せ、「まえがき」より
読み始
める。

 

                          「3本目の矢」が放たれた。

  日本政府は2014年6月24日、産業競争力会議による「成長戦略」改訂版を
 「骨太の方針」(経済財政運営の基本方針)と同時に閣議決定。これでアベノミクス
 「3本の矢」、すなわち①金融政策(大胆な金融政策)、②財政政策(機動的な財政
 政策)、③成長戦略(民間投資を喚起する成長戦略)がすべて出そろったことになる。
  私は①の金融政策を高く評価しつつ、②の財政政策については消費増税の悪影響を
 予測し、その効果のほどに疑問符をつけた。この2本の矢は抽象度が高く、一般には
 難解なマクロ経済政策なのだが、実施後1年ないし2年で効果が検証できる性質のも
  のだ。はたして私の予測と分析どおりの結果がデータに現われはじめている。本文で
  詳述してゆく。
  そこで3本目の矢、③の成長戦略を見てみると、こちらのほうはミクロ経済政策で
 素人目にも分かりやすい。しかしマクロ経済政策である2本の矢に比べ、成果の検証
 に時間がかかるうえ、「効果に疑問符がつく」どころか、実行効果はほとんど期待で
 きないと言ってよい。そこには大いなる欠陥と落とし穴が潜んでいる。理由はただひ
 とつ、官僚=霞が間主導のよ戦略゛であるからだ。
  もともとアベノミクスの「成長戦略」は、すでに放たれた2本の矢に対し、大幅な
 後れをとっていた。今回の閣議決定は、2013年6月に「日本再興戦略」として一
 度、閣議決定していた政策群に、さらに改訂を施したものである。この間、部分的に
 関連法も成立している。安倍音三内閣(第二次)発足と時を同じくして立ち上げた成
 長戦略だが、本格的に「矢を放つ」までに1年半も要した格好だ。
  やや強引な喩えをお許し願おう。W 杯の日本代表は残念な結果に終わったが、
 成長戦略(今回の改訂版。2013年の「日本再興戦略」を踏まえ「新成長戦略」と
 するマスコミもある)は、サッカーの戦術で言えば3枚目のカード、3入ある交代枠
 を監督が使い切ったようなものだ。
  劣勢のゲーム展開(デフレで低迷する日本経済)を打開すべく、2人の攻撃的な選
 手(金融政策と財政政策)を早めに投入した。その甲斐あってチームは持ち直し、つ
 いに最後の交代選手(成長戦略)がピッチに入る。この選手はウオームアップする時
 間が長かった(改訂版ができた)せいか、運動量が豊富でサポーターを沸かせた(分
 かりやすい政策)。ところがドリブル突破も効果的なクロスを上げることもできず、
 かえってパスミスでチームの足を引っ張る始末。なぜなら、彼を送り出したベンチス
 タッフに、ピッチに立った経験のある者が誰一人いなかったから……。
  私は前著『官愚の国』(2011年3月刊。現在は祥伝社黄金文庫)で、かつて
 「産業政策」と呼ばれていた官僚主導のよ成長戦略゛は過去の遺物であり、無用の長
 物であることを論証した。実技経験がなければサッカーの指導もできないように、ビ
 ジネスの現場に身を置いたことのない官僚に産業を成長させることはできない。しか
 し産業政策の悪しきDNAは「成長戦略」と名を変えて生き残り、現在に至っている。
 本書は『官愚の国』の続編として、日本の官僚ならびに官僚制の不備を指摘し、彼
 霞が関が主導する成長戦略の欠陥を衝くものである。

  あえて言おう。これはW杯ではないので、成長戦略の選手交代はまだできる。民営
 化・規制緩和という世界でも通用する選手を入れて、世界で通じない霞が関主導を変
 えるべきだ。


          高橋洋一 著 『「成長戦略」の罠―「失われた20年」は、さらに続く』

                                この項つづく

 

 
【オールソーラーシステム完結論 26】 

● パウダー水素エネルギー工学


東京理科大学理工学部電気電子情報工学科 星研究室のグループは、水素を燃料として発電し、水のみを排出して走行す
る燃料電池自動車(FCV)を研究開発している。次世代エコカーの大本命として期待されている。FCVの水素積載法の主流
は70MPaの高圧水素タンクであり、2015年末を皮切りに各自動車会社が市販を開始するが、FCV普及のためには大きな壁―
(1)まず、水素タンクに水素を充填するための「水素ステーション」に巨額投資が必要(2)また、気体水素のエネル
ギー密度は非常に低く、輸送・貯蔵においても高圧化・液体化した特殊インフラが必要で、運営維持費にも莫大なコスト
がかかる――これらの要因がFCV普及の足かせとなると言われている。特に普及初期段階は、FCV販売に先立ち水素イン
フラの先行整備が不可欠だが、普及初期段階で広く消費者に受け入れられなければ、普及政策自体が断念されるリスクが
ある。そこで星研究室では、加水分解により水素を生成する粉末状の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4、Sodium Tetrahydro-
borate
)に着目。この粉は"高エネルギー密度"、"取扱い容易性"、"リサイクル可能"といった長所を持ち、これを燃料電池
車の水素源とすることでFCV普及に貢献出来るというもの。
 

 

もつとも、この技術―NaBH4燃料のFCVは、米国の自動車会社(ダイムラー・クライスラー)等が研究していたが、当時
の開発コンセプトは"水溶液方式"であったため体積エネルギー密度は低く
水素生成 に高価な触媒と大掛かりな装置が必
要であり、強アルカリ性であったため取扱い安全性にも問題があった。その結果、実用化には至らなかったという過去が
あり、基本的な技術知財は出そろっていた。ここで少しお復習いすると、燃料電池は、反応の化学エネルギを直接に電気
エネルギに変換する電気化学デバイス。燃料電池の物理的構造は、多孔質アノード及び多孔質カソードに接触する電解質
層から構成される。一般的な燃料電池において、燃料は、アノード(負極)に連続的に給送され、酸化剤(酸素/空気)
は、カソード(正極)に連続的に給送される。燃料電池は、ポリマー電解質膜型燃料電池(PEM)、直接型メタノール
燃料電池(DMFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MC
FC)、及び固体酸化物型燃料電池(SOFC)のような6グループに分類される。

燃料電池は、携帯式電子機器、車両、電力/熱生成プラント、並びに軍用及び民間施設のような様々な用途をもつ。この
点で、水素貯蔵が重要な問題であることを強調すべきで、前出の星研究室の研究グループは「タンクレス」と呼んでいる
――この目的のために、ホウ素鉱物から製造される水素化ホウ素ナトリウムが、最も重要な水素貯蔵薬剤の1つとして公
知である。(1)水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ性水溶液は、接触的に分解して貯蔵された水素を放出する。(2)
水素化ホウ素ナトリウムは、水素20%(重量で)までを貯蔵することができ、(3)また易燃性あるいは爆発性ではな
い。(4)水素発生速度は、容易に制御することができる。(5)出現水素の半分は水素化物に由来し、他の半分は水に
由来する。(6)触媒とメタホウ酸ナトリウムは、回収されて再使用することができる。燃料電池においては、水素が最
初に原位置で生成されてそれ自体が使用されるか、また水素化ホウ素ナトリウムを燃料として直接に使用することができ
るかのいずれかである。

訂正(2014.11.06)

特に、携帯式燃料電池用途においては、直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電池(DSBHC)は、直接型メタノール燃
料電池(DMFC)の良好な代替物である。直接型メタノール燃料電池と直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電
池と比較
した時、電圧、理論比容量、及びエネルギー密度は、直接型メタノール燃料電池1.24V、5030アンペ
ア時/kg、
及び6200ワット時/kgだが、他方、直接型水素化ホウ素ナトリウム燃料電池は、
1.64V、5667アンペア時
/kg、及び9285ワット時/kgである。さらに、DMFCは、低いアノード反応速度、メタノールの有毒性、及び
アノードからカソードへのクロスオーバーなどの
欠点をもつ。なお、トルコは、最高品質の世界のホウ素埋蔵量の70%
を保有する産出国である。直接型水素化
ホウ素ナトリウム燃料電池(DSBHC)は、電極触媒層(アノード及びカソー
ド)、電解質(膜)(膜と電極の組合せはMEAと呼ばれる)、バイポーラ板、集電板、ガスケッ
ト、及び他の接合要素
から構成される。燃料電池スタックは、電力要件を満足させるための十分な数のセルを結合することで製造されている。

 

この研究グループでは、NaBH4を「粉体で車載」することで、NaBH4が持つ高いエネルギー密度を最大限生かしつつ、さ
らに高効率に水素を生成する" STEPシステム"(Sodium TEtrahydroborate Power system)を開発し、前述した長所の創出が可
能にした。 下図に示すように、水素リアクターで加水分解することにより高密度な水素を発生さる。 この時にNaBH4
けでなく、水からも純水素を取り出すことができる。 また燃料電池から出た水を加水分解に再利用できるので、水の補給
が必要なく、システムをコンパクトに設計可能で、STEPシステムを車載したFCV(=STEP-FCV)の試験走行に、2012年末、
世界で初めて成功する。 現状は、システムにおける水素生成速度は毎分100L、発電量は最大5kW、車両走行性能は最大
20km/hを達成している。2015年からは、STEPシステムの高性能化・小型化を目標に取り組んでいきたいとのこと。

 

また、システムの将来像として、下図に示すように、自動車以外にもあらゆる電源用途への適用を考えられている。 例え
ば、今日、東日本大震災を機に、巨大発電所への依存はリスクが顕著化するため、「分散型電源」を増やすべきとの考え
が広がっているが、STEPシステムによる発電は、粉体NaBH4がハンドリング・長期貯蓄に優れるため、 家庭用定置型電源
などの分散電源や非常用電源用途として非常に有効となる。そこで星研究室では自動車への使用だけでなく、スマートハ
ウスの定置型電源としての使用も応用の一例として研究しているのだ。





また、それと同時に工業化に耐える低コストな水素化ホウ素ナトリウムの製造方法(実用化)も着々と準備(下図参照)さ
れつつある。このように考えていけば、安定化させた水素化ホウ素ナトリウムの粉体(個体)利用技術でコスト逓減と高
効率に、「ダウンサイジング」(第2則)が工学的課題として俎上する。

  JP 2014-181174 A 2014.9.29

【符号の説明】

1 高温高圧反応容器 2 メタホウ酸ナトリウム 3 乾燥器 4 無水メタホウ酸ナトリウム 5 アルミ微粉末 6 高
圧水素 7 副生物 8 サンプル

 

 

 

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ナノアスペクトレシオ工学

2014年10月25日 | デジタル革命渦論

 

 

● マッサンのハイニッカ  

  

NHKの朝の連続ドラマ『マッサン』(「マサタカサン」が発音しにくかったので、妻の竹
鶴リタが「マッサン」と呼んだという)
でスコッチが話題になっているのだろうか、いつも
のリカーショップ『白い金麦』を購入する際、レジカウンターにで「ハイニッカ」が置か
れていたので、彼女がウイスキーはここにあると指さし、サントリーの角瓶やブラックニ
ッカではなく、これに決まったという次第。

一口、口に含むと、爽やかな森林のイメージが彷彿する感じがするが、癖がないつまり雑
味の少ないが澄んだ香りが印象的だ。

 


 

ところで、ハイニッカは1964年に発売された。当時は酒税に基づいた等級として2級ウイ

スキーとして売り出され、現在よりもアルコール(スピリッツ)を多く含ませてウイスキ
ー原酒の割合を少なくして販売。ブレンデッドとして売り出す上で創業者の竹鶴正孝は、
通常のグレーンウイスキーで使われる複式蒸留器の中でも比較的クラシカルなカフェ式蒸
留器を導入。カフェ式では、単式ほどではないものの、素材となる醸造酒(もろみ)の香
りや味を残しやすい特徴であったが、このカフェグレーンウイスキーが、ニッカの各銘柄
に大きな影響を与える。ハイニッカが発売されると、当時500円の価格と妥協しないうまさ
が人気を呼び、ニッカの
売り上げに貢献。この人気に焦ったサントリーが、対抗商品とし
て復活させたのがサ
ントリーレッド。

ほとんどがカフェグレーン原酒でありながらも、ウイスキーとしての体をしっかりし、同
価格帯にあるサントリーレッドやトリスと比べても十分に格上を見せつけられる味――カ
フェグレーンウイスキーを使っているためのメリット。価格は720mlで900円程度で、ブラ
ックニッカに価格では負けるが、しっかりした味が、何かを混ぜているような疑いを持っ
てしまうクリアに対し、 ハイニッカは甘さ控えめで香りや味も控えめで、それでもウイス
キーとしての最低限のレベルを確保――と紹介されていた。

 

 

 

 

● ナノアスペクトレシオ工学

産業技術総合研究所集積マイクロシステム研究センタの研究グループが、世界最低損失のアモ
ルファスシリコンの光配線を開発したことを公表。それによると、従来より光損失が1桁低いシリコ
ン薄膜を作り、大規模集積回路(LSI)用の光配線を試作。光損失は実用化に耐えるレ
ベルで、透過率の高いアモルファスシリコンの薄膜の作製に成功した。1センチメートル
当たりの光損失を1%以下に抑えた――これは従来の10分の1以下に相当する。配線に
加工した後の損失は13%と、現在主流の結晶性シリコン配線に匹敵。結晶性シリコンは
1千℃以上の高温が必要だが、アモルファスシリコンは250℃で成膜できる。LSI
ような複雑な電子部品に採用できる。アモルファスシリコンの光損失を抑えるために成膜
条件を工夫。添加する水素がシリコン基板表面に留まりつつも、水素とシリコンに反応し
やすい温度条件を見いだした。温度が高いと反応性は上がるが、基板表面に留まることが
なかったことがこの発明のポイントとなっている。

光導波路のコア部に単結晶シリコンあるいはアモルファスシリコンを用いたシリコン細線
光導波路を主要構成部とする光回路の研究開発が活発だ。シリコンコア材料と石英系クラ
ッド材料の間で大きな比屈折率差が得られ、小さな曲率半径で光導波路を曲げても光が放
射損失なく、光回路の著しい小型化が実現できるためである。またシリコンCMSLSI の
造プロセスの転用が可能なため、量産による低廉な製造コストが期待されている。

通常シリコン細線光導波路を主要構成部とする光回路は、製作プロセス上の理由から同一
平面
内に形成され、光回路への光の入出力は、光回路が形成される面と同一面内で光導波
路の断面と垂直な方向――光回路の形成されている面に対して真横の方向から、光導波路
の断面を経由して行うことが最も一般的である
が、シリコン細線光導波路を主要構成部と
する光回路と光ファイバー・光源・受光器などの他の光デバイスとの光の入出力では、光
回路の形成されている平面内とは別の方向――特に垂直方向から結合できると、

(1)ウェハ段階でのシリコン細線光導波路デバイスの検査が可能となる
(2)光源や受光器が垂直方向から実装できる

などの点で技術上多くの利点がある。これまでに、シリコン細線光導波路を主要構成部と
する光回路の形成面内と異なる方向に光を結合させる方法として、光導波路の末端部に平
面回折格子型結合器を形成し、垂直からやや斜めに傾いた方向から光ファイバー等の光デ
バイスを結合させる方法が知られているが、これらの方法の中で、シリコン細線光導波路
自体を上方に立体的に湾曲させる方法は、平面回折格子型結合器のような波長帯域の制約
がなく、ミラー反射型における光導波路端とミラーの間の空間に起因する結合損失の増大
という問題もない優れた方法を用いれば、例えば、シリコン細線光導波路を主要構成部と
する下図に示す光回路のように、シリコン細線光導波路の末端部を上方に湾曲し、上方か
ら光の入出力を実現できる。

このような湾曲構造を、光回路を製造するプロセスと同時に製造することは不可能であり、
あらかじめ製造された光回路のうちシリコン細線光導波路の末端部を、上方に立体的に湾
曲させる加工技術が必要であった。特に実際上は、金属配線を施した回路基板上に形成さ
れた光回路や、能動光素子を駆動するための金属配線を同一基板上に含む光回路基板のよ
うに、高温処理を施すと構成要素が破壊されてしまうような光回路に適用可能な加工技術
の開発を必要としていた。

特開2014-137496

さて、シリコン細線光導波路を立体的に湾曲させる加工方法には、シリコン細線光導波路
の上部にプラズマCVDでシリコン酸化膜を形成し、シリコン細線光導波路の下地の熱酸
化シリコン酸化膜との残留応力の差を利用して自発的に湾曲させる方法がある。下図を用
いて、SOI(Silicon on Insulator)基板を用いる方法は (1)下図(A)(B)のように、
シリコン基板1の上に形成した熱酸化シリコン酸化膜2の上のシリコン層を、リソグラフ
ィ技術で加工し、シリコン細線光導波路3を形成する。(2)下図(C)(D)のように、
プラズマCVD法でシリコン酸化膜4でカバーする。(3)下図(E)(F)のように、
シリコン細線光導波路の両側の、プラズマCVDで形成したシリコン酸化膜4と熱酸化で
形成されたシリコン酸化膜2を、ドライエッチングで垂直に除去する。ただし、シリコン
細線光導波路の両脇はシリコン酸化膜2、4が残る構造にする。(4)下図(G)のよう
に、熱酸化で形成したシリコン酸化膜の下部のシリコン基板1を、等方的なドライエッチ
ングで除去する。その結果、シリコン細線光導波路の上下をプラズマCVDで形成したシ
リコン酸化膜4と熱酸化で形成されたシリコン酸化膜2で挟み込んだ片持ち梁構造が形成
する。この片持ち梁構造は、上下のシリコン酸化膜の内部の残留応力が成膜方法の相違に
起因して異なり上方に反った構造をとる。(5)下図(H)のように、上記構造を400
℃から800℃の高温で加熱処理し、上下のシリコン酸化膜の残留応力の差を拡大させて
湾曲量を増大させ、結果的に上下のシリコン酸化膜に挟まれたシリコン細線光導波路を上
方に立体的に湾曲することで、湾曲したシリコン細線光導波路の末端部5が得られる。加
熱温度が高いほど、末端部5の湾曲量が大きい。
上記のように、シリコン細線光導波路自
体を上方に立体的に湾曲させる方法は、シリコン細線光導波路の形成面内と異なる方向に
光を結合させる方法として優れているが、シリコン細線光導波路の上部にプラズマCVD
でシリコン酸化膜を形成し、シリコン細線光導波路の下地の熱酸化で形成されたシリコン
酸化膜との残留応力の差を利用して自発的に湾曲させる方法には次のような問題点がある。

 
特開2014-137496
半導体先鋭構造及びその作製方法、並びにスポットサイズ変換器、無反射終端

(1)シリコン細線光導波路の上下をプラズマCVDで形成したシリコン酸化膜及び熱酸
    化シリコン酸化膜で挟み込んだ片持ち梁構造をドライエッチングで形成する必要があ
    り、厚いシリコン酸化膜を深堀りした後に、さらに片持ち梁構造の酸化膜の下のシリ
    コン基板の上部をくり抜くという複雑な加工プロセスが必要である。

(2)残留応力の差を利用するという原理に基づくため、湾曲曲率が片持ち梁構造全域で
    一定となり、湾曲曲率を局所的に変化させることは困難である。

(3)湾曲部の先端を任意の方位に向けるためには、片持ち梁の長さや上下の酸化膜層の
    厚さ及び加熱温度等を厳密に制御する必要があり、高い加工精度が要求される。

(4)上下の酸化膜の残留応力差を利用するため、上下の酸化膜を同じ成膜方法で形成し
    た場合には湾曲させるのが困難である。

(5)大きな湾曲量を得るためには高温加熱プロセスが必要であり、金属配線を施した基
    板上に形成された光回路や、能動光素子を駆動するための金属配線を同一基板上に含
    む光回路のように、構成要素が高温処理で破壊されてしまう光回路への適用が不可能
    である。また、プロセスコストの増大を伴う。

上記課題を解決するための手段は、(1)支持層を介して複数のシリコン細線光導波路が
形成された光回路基板を用意するステップと、シリコン細線光導波路のうち末端部の所望
のシリコン細線光導波路に対し、シリコン細線光導波路の末端部と、隣接する部位の下の
支持層の除去ステップと、シリコン細線光導波路の末端部と隣接する部位に対し特定の方
向からイオンを打ち込むことで、特定の方向にセルフアライメント的にシリコン細線光導
波路の末端部と隣接する部位を湾曲させるステップとを備えたシリコン細線光導波路の加
工方法で、
(2)支持層を介し複数のシリコン細線光導波路が形成された光回路基板準備
ステップと、シリコン細線光導波路のうち末端部の所望のシリコン細線光導波路に対し、
シリコン細線光導波路の末端部と隣接する部位の下の支持層の除去ステップと、シリコン
細線光導波路の末端部と隣接する部位に対し特定の方向からイオンを打ち込むことで、特
定の方向にセルフアライメント的にシリコン細線光導波路の末端部と隣接する部位を湾曲
するステップと、湾曲シリコン細線光導波路の末端部が埋設するように、光回路基板上の
低屈折率材料層を形成するステップとを備えたシリコン細線光導波路の加工方法であり、
(3)湾曲した末端部に光デバイスを設置する工程をさらに備えた(1)または(2)に
記載のシリコン細線光導波路の加工方法であり、
(4)この光デバイスが、光ファイバー
であることを特徴とする上記(3)に記載のシリコン細線光導波路の加工方法で、
(5)
この光デバイスが、フォトディテクターであることを特徴とする(3)に記載のシリコン
細線光導波路の加工方法であり、
(6)このイオンが、Siイオンであることを特徴とす
る(1)ないし(5)のいずれかに記載のシリコン細線光導波路の加工方法で、
(7)シ
リコン細線光導波路の厚さを200~220nmとし、60keV~100keVの加速
電圧でSiイオンを打ち込むことを特徴とする(1)あるいは(5)のいずれかに記載の
シリコン細線光導波路の加工方法である。

このことにより、シリコン細線光導波路の上下を酸化膜で挟み込む従来の加工方法と比べ
て次のような利点を有する。

(1)シリコン細線自体の内部ひずみ応力を利用しているため、上下の酸化膜が不要。
(2)イオンビームの打ち込み方向や照射量を調節で湾曲曲率がを節できる。
(3)曲率半径5μm以下の急峻な湾曲も可能で、さらに素子を小型化できる。
(4)イオン打ち込み方向にセルフアライメント的に湾曲先端部が伸長できる。
(5)低温プロセスで加工可能で、高温処理で破壊される光回路への適用が可能。


以上のことを踏まえ、産業技術総合研究所集積マイクロシステム研究センタの研究グルー
プは、新しい湾曲構造の形成方法――片持ち梁構造を有するシリコン細線光導波路構造の
外部の特定の方位からイオンビームを打ち込むことにより、細線構造自体の内部に応力を
発生させて湾曲させることに成功する(以下、実施形態についてここでは割愛する)。
尚、この新規考案における細線光導波路のコア構造に使用するシリコン材料は、結晶シリ
コンに限らずアモルファスシリコンでよく。アモルファスシリコンの場合、材料の吸収損
失を低減化できるので水素化アモルファスシリコンが望ましいとしている。

※参考 WO2014156233 A1 シリコン系細線光導波路の加工方法 
 

 

   ● 今夜の一曲 


  Since she's been gone I want no one to talk to me.
  It's not the same but I'm to blame, it's plain to see.

  So go away, leave me alone, don't bother me.

  I can't believe that she would leave me on my own.
  It's just not right when every night I'm all alone.

  I've got no time for you right now, don't bother me.

  I know I'll never be the same if I don't get her back again.
  Because I know she'll always be the only girl for me.

  But 'till she's here please don't come near, just stay away.
  I'll let you know when she's come home. Until that day,

  Don't come around, leave me alone, don't bother me.

   I've got no time for you right now, don't bother me.

 

  I know I'll never be the same if I don't get her back again.
  Because I know she'll always be the only girl for me.

 

  But 'till she's here please don't come near, just stay away.
  I'll let you know when she's come home. Until that day,


                         
 ” Don't Bother Me” 
                     
Music&Word  George Harrison

 

1963年11月22日に発売された2作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ウィズ・ザ・
ビートルズ』のA面4曲目に収録されたジョージ・ハリスンの楽曲。リード・ヴォーカル
もジョージ・ハリスン。ジョージの最初の作品。米国では1964年に発表されたキャピトル・

レコード編集アルバムで当国でのデビュー・アルバム『ミート・ザ・ビートルズ』に収録
された。ジョージは生前に「他の二人を見ていたからやり方は分かっていたけど、これは
あまりいい歌とはいえない」と語っていた。ジョージが本格的にシンガーソングライター
として活動するのは2年後に発表されたアルバム『4人はアイドル』にて「アイ・ニード・
ユー」と「ユー・ライク・ミー・トゥ・マッチ」の収録曲2曲を発表してからである。
この
作品はジョージが病気を理由にイギリス国内ライブツアーを休んでいた最中に作られた曲
である。ジョージは、ビル・ハリー(ジョンの友人)から「ジョンやポールが曲を書くの
に、君はなぜ作らないの?」と手紙でたずねられていて、その返答として書いたのがこの曲
だとか。タイトル
を直訳すると「煩わさないでくれ」「五月蠅く言わないでくれ」という意味合い。こ
れがジョージのハリーへの返歌となる。

Bazaar” と ”Bother” の違いなのだが、文化ホールの駐車場で「バザー」の準備をしていた
のを見
て突然、車のなかで、ジョージのこの楽曲が聴きたいと思ったというのがその理由。
それにしても「歌
の力」って、なんて言うか、不思議な魅力というのか、超時空力といっ
ていいのか、不思議だね。

 

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火山噴火予知工学

2014年10月24日 | デジタル革命渦論

 

 

母が生死を行き交う間、 御嶽山の噴火のニュースが持ち切りであったため、これほど多くの人が被
害に遭った火山災害が、1991年(平成3年)の雲仙普賢岳以来です。登山者が巻き込まれた噴火とし
ては、 明治以降悪の火山災害にもかかわらず、コメントできずにいた。多くの人が被害に遭った理
由は(1)突然の噴火だったから、(2)大勢の登山者が山頂付近にいたためだと解説されている
(NHK「時論公論」2014.09.30)。それによると、気象庁や専門家は噴火を予知できなかった理由
が、火山学上、噴火の規模が小さかったから――専門家や防災機関などで作る火山噴火予知連絡会は
「小規模な噴火だったがらと分析している。

噴火には3種類あります。一つは、マグマだまりの熱で地下水が熱せられて起きる「水蒸気噴火」。
今回は「水蒸気噴火」。一方、「マグマ噴火」は、マグマそのものが激しく噴き出し、溶岩流や高温
の火砕流も起こす。1991(平成3)年の長崎県の雲仙普賢岳、1985(昭和61)年の伊豆大島の噴火な
どのように、規模も大きく長期間続くことがある。もう一つは、この中間にあたる「マグマ水蒸気噴
火」。 噴火の予知に有効なのは、このマグマだまりや上がってくるマグマの動きを見極めることで
だが、マグマが上がると、火山性の地震が増えたり、山が少しだけ膨らんだりします。それに、マグ
マが岩盤の割れ目に入り込むと、火山性の微動が増える。ところが、今回は、山が膨らむなどの地殻
変動は観測できず、マグマがそれほど上昇しないまま起きる水蒸気噴火は、地殻変動や火山性微動が
起きないこともあり、兆候を確実にとらえられるほど研究も進まず予知は難しいとされる。


これに対し、直前まで地殻変動や火山性微動がなくても、もう一つの判断材料である火山性地震は1
か月前から起きていた。予知に生かせなかったのか?今月10日には52回、11日は85回観測。
ただ、その後は減って、噴火の前の日は6回、当日も直前の11時40分までは6回しか起きていな
い。しかも、火山性微動が始まったのは11時41分と、噴火のわずか11分前。 ただ、この11
日の85回というのは、前回噴火した7年前以来の多さ。気象庁や専門家は、地殻変動がなかったの
で噴火はすぐには起きないと判断――また、御嶽山はこの35年間に4回、水蒸気噴火が起きている
が、昭和54年10月に起きた中規模の噴火の際は、まだ観測態勢が整っていなかった。平成3年の
ごく小規模な噴火では、噴火の2週間以上前から増えていたほか、地殻変動も観測されていたという。
つまり、過去2回は、今回よりさらに規模が小さかったにもかかわらず、だいぶ前から、微動や地殻
変動といった兆候があった――したが、今回は地震はあったものの、地殻変動はなく、微動も直前で
あったため裏目にでたと解説しているが、現在ののように科学技術が進歩して日本で予測不可能だっ
たのかという問いに、結果論でしかないが、わたし(たち)はそれは半々だと考えている。つまり、
それは、取り組み姿勢次第というわけだ。




● 巨大カルデラ噴火のメカニズムとリスク
 

ところで、神戸大学の巽好幸教授と鈴木桂子准教授は、日本列島で過去12万年間に起こった火山噴火
の規模と発生頻度を統計的に解析し、以下の知見を公表(10月22日、文部科学記者会)している。そ
れによると次の3点に集約される(下図参照)。
 

  1. 通常の山体噴火とカルデラの形成を伴うような巨大噴火は、異なるメカニズムでマグマの集積・
    噴火が起きることが判りった。巨大カルデラ噴火を引き起こすマグマ溜りは、自らの大きさに
    起因する浮力によって亀裂が生じ、噴火にいたると考えられる。
  2. 巨大カルデラ噴火を起こす火山は、地殻の変形速度が小さい地域に位置することが判った。こ
    のような場所では、粘り気の高いマグマが効果的に、次々と地殻内を上昇して、巨大なマグマ
    溜りを形成すると考えられる。
  3. 日本列島で今後百年間に巨大カルデラ噴火が起こる確率は約1%。この確率は、兵庫県南部地
    震 (阪神・淡路大震災) 発生前日における30年発生確率と同程度。すなわち、いつこのような
    巨大噴火が起こっても不思議ではないと認識すべきもの。最悪の場合、巨大カルデラ噴火によ
    り1億2千万人の生活不能者が発生すると予想される。

 

さらに、巨大地震は日本に甚大な被害を与えます。例えば、今後30年の発生確率が70%といわれる南
海トラフ巨大地震の死亡者数は30万人を超えるとも言われ、一方で巨大カルデラ噴火は、日本という
国を消滅させると言っても過言ではない。死亡者数に発生確率を乗じた災害の「危険度」を比較する
と、巨大カルデラ噴火が如何に重大な脅威であるかを理解できるとまで言っている。
今後すべきこと
の1つは、厚さが約30キロメートルもある地殻の真ん中あたりに形成される厚さ数キロメートル以
下で薄く広がるマグマ溜りの状態を正確に捉える技術を確かなものにし、巨大カルデラ噴火の危険地
帯である九州島の地下のモニタリングを行うこと。また、過去の巨大カルデラ噴火の規模と発生年代
そして噴火の経緯に関するデータを精密化することも忘れてはならないと結んでいる。

 

因みに、7300年前に噴火した「鬼界アカホヤ噴火――完新世(約1万年前以降)における地球上
で最大の噴火」(上図参照)では、この噴火の総噴出量は堆積物量に換算して170 km3 を超える。幸
屋火砕流とアカホヤ火山灰は,南九州の縄文文化と自然環境に壊滅的なダメージを与えるとともに,
西日本から東日本にかけても降灰による甚大な影響を及ぼしたと言われている。最新の噴火からすで
に7300 年が経過していることから,日本列島全体でみれば次のカルデラ噴火は徐々に迫っていると
言えるであろう。また,鬼界カルデラを含め,個々の火山ではカルデラ噴火が必ずしも特定の周期で
発生しているわけではないようにも見える。ここでたとえばカルデラ噴火がランダムに発生しており,
ポアソン分布モデルに従う事象であるという仮定をした場合、今後百年でVEI 7 級の噴火が日本列島
でおこる確率は1% である。一方世界では,このクラスの噴火は最近2千年間で少なくとも4回発
生しており,今後百年での発生確率は18% である。VEI 7 のタンボラ噴火から2百年経つが、同規模
の噴火が近い将来おこる可能性は決して低くなく、もしVEI 7 の噴火がおこれば、その影響は全球

模で何らかの異常現象として捉えられるはずであるというから、目が眩むんでしまうかのような情報である。






● 火山噴火予知工学 

国土地理院は、日本全国各地に電子基準点(GPS受信機)を設置し、これら電子基準点を観測点と
して地殻変動を監視するGPS連続観測システム(GEONET:GPS Earth Observation Network System
を構築し、このGPS連続観測システムによる観測データ(測位データ、変動データ)を公開してい
る。また、世界各地にも電子基準点を設置し、例えば大陸プレート、海洋プレートの地殻変動の観測
データなども公開されている。従来、このような観測データを用いて様々な研究機関で異常地殻変動
解析が実施されているが、多くの異常地殻変動解析では、電子基準点で観測された地球重心座標を平
面直角座標系等に変換した上で、ある電子基準点を固定点(観測基準点)に設定し、固定点に対する
他の観測点の相対変位を求めるとともに地殻の歪み速度、応力速度を算出して、地殻の変動を追跡す
る方法を用いるか、固定点に対する他の観測点の相対変位を求め、時系列変位グラフを作成し、安定
と想定される過去の期間の変位の空間微分(歪)と、観測したい年の同期間の変位の空間微分との比
較等から歪の変化を捉えて、地殻の変動を追跡する方法を用いている。

しかしながら、上記の異常地殻変動解析では、固定点と観測点の相対位置から変位を求めているため、
固定点の選び方によって変位場(歪場)が影響を受けることになり、解析時に用いる「安定と想定さ
れる変位場」の抽出を誤ると、解析精度の低下ひいては解析結果の信頼性の低下を招くことになる。
また、電子基準点で観測された地球重心座標を平面直角座標系に座標変換することによっても解析精
度が低下する。

この対策に、地球重心を固定点とし、この固定点に対する観測点のX,Y,Z直交座標(3次元直交
座標)を
観測し、異常地殻変動解析を行う新規考案が提案されている、この手法によれば、常に安定
した地球重心を
固定点にし、さらに、固定点から観測点のX,Y,Z座標を求めて座標変換を不要に
することで、解析精度、解
析結果の信頼性を向上させることができるというのである(下図参照)。

しかし、歪を検出のための日々の安定変位場が定量的に取得できないため、あるいは、日々の地殻変
動追跡システムが構築されていない現状では、日本全国の日常的な歪場の変化を追跡できない。そし
て、これに伴い異常地殻変動解析の研究結果のほとんどは、地震が発生した後に歪が地震発生前から
どのように変化してきたかを求める過去予知作業に限定され、次の問題を抱えている


(1)東日本大震災のような広域にわたる地殻変動である場合には、観測基準点自体も滑ってしまい、
  相対的に見ている観測点の大きな滑りを検出できない。
(2)各電子基準点の安定変位トレンドや安定歪みトレンドを把握しないまま、日々(前日比として
  )の変位・歪み変化のみを追跡しているため、異常を捉えることができない。
(3)地殻変動や地震予測研究を行う際には、東西南北高さ座標系(ENU座標)の利用が原則化さ
  れており、例えば東北全域など、広範囲の地殻変動監視に対しては限界がある。

● 新規考案の要約と特徴

地球の重心を原点とする各観測点の3次元直交座標上の位置を観測し、各観測点の位置の変動量を3
次元直交座標の各成分毎に求める。複数年分の時系列的な各観測点の各成分毎の変動データから、異
常地殻変動が発生していない年の安定変動データを複数抽出し、地殻の可逆変動/非可逆変動のノイ
ズ成分を除去した複数の安定変動処理データに基づいて年変動歪周期の基準線11を設定する。新た
な変動データ12を基準線11と対比し、基準線11に対する新たな変動データ12の乖離によって
異常地殻変動が発生すると判定する。また、複数の安定変動処理データに対し、予め設定した期間の
移動平均値を求め、この移動平均値から年変動歪周期の基準線11を求めることで、解析精度、解析
結果の信頼性を向上させつつ、地殻変動を監視して異常地殻変動が発生する前の地殻変動を精度よく
監視する方法及び地殻変動監視システムを提供するものである。

 

この考案によれば、観測点変動観測工程では、常に安定している地球の重心Gを固定点(あるいは地
球の重心Gを通るX,Y,Zの直交座標上の任意の位置を固定点)として各観測点MのX,Y,Zの
軸毎の位置を観測し、複数の観測点Mが歪計として利用され、日々変化する各観測点Mの各成分毎の
変動量△L、ひいては歪が精度よく算出される。演算手段により精度よく算出された歪を縦軸に、時
間を横軸にした下図4に示すような時系列的な各観測点MのX,Y,Zの軸毎の変動データ10の作
成が行われ、
次に、年変動歪周期の基準線設定工程を行っている。この年変動歪周期の基準線設定工
程では、年変動歪周期の基準線設定手段3により、複数年分の時系列的な各観測点MのX,Y,Zの
軸毎の変動データ10から、図4に示す、異常地殻変動が発生していない年の安定変動データ10a
を複数抽出する。さらに
、これらの安定変動データ10aから地殻の可逆変動/非可逆変動のノイズ
成分を除去し、下図5に示すノイズ成分を除去処理した複数の安定変動処理データ10bを取得。図
4に示す各安定変動データ(X軸)10aはバラツキが認められるが、これら安定変動データ10a
からノイズ成分を除去すると、図5に示すバラツキが大幅に小さくなった安定変動処理データ10b
が得られる。ここで、例えば、地殻の可逆変動のノイズ成分は、(1)積雪(2)磁気嵐(3)豪雨
(4)気圧の谷などに伴う地殻の変動が挙げられ、地殻の非可逆変動のノイズ成分には、受信機交換、
ピラー(pillar:柱)傾斜、樹木の繁茂、噴火、地震、低周波微動などに伴う地殻の変動が挙げられる
という。

 

 

以上の清水建設株式会社の新規考案システムを適用すれば、近未来には地殻の非可逆変動のノイズ成
から「火山活動による噴火予知データ」の取得可能かも知れないが、これ以外の変動検出データを
加える――例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、水素などの同位体濃度検出とか特定周波数の電磁波
強度検出――を加えることで予知精度が格段に上がるのではないかと思ったりしている。
 

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ニッケルリチウム電池正極工学

2014年10月23日 | デジタル革命渦論

 




● 標高二千メートルの甚之助谷地すべり対策

今夜は『山岳信仰と教会堂』(2010.10.08)で掲載した一首のバック・グラウンドの話。
石川と岐阜の県境にそびえる白山。その標高2千メートルの辺境で、人と自然の闘いを象徴す
る工事が
進んでいる。日本最大級の土塊量を誇る甚之助谷の地すべりを抑制――甚之助谷地
べりは、標高1,200~2,600メートルに位置する高山地での大規模地すべり。現在でも毎年、

に融雪期に最も早いブロックでは10~15センチメートル/年の大きな移動を観測。土塊総量

3,800万立方メートル超と想定され、流動化した場合には、下流域へ甚大な被害を及ぼす恐

があり。地すべり地区で、地下水を取り除き、地すべり土塊の急激な移動する地すべり
の挙動
を監視するために、国土交通省北陸地方整備局が2008年度から実施する排水工事(飛島
建設が
施工)。甚之助谷の地すべり防止区域の標高は1200~2600メートルと高い。高山地の地すべり
全国でも珍しい。現在、排水トンネル工事は主に甚之助谷の左岸ブロックの安定を図るため
のもの。同ブロックの地すべりを助長するのは、隣の万才谷(まんざいだに)から岩盤を通し
浸透する流水だというメカニズムが分かってきた。そこで、万才谷の上流部から、甚之助谷の
反対側に位置する赤谷へ水を流すために、387メートルの排水トンネルを掘っている。 
 

従って、この工事は過酷だとこの記事は掲載している。 この現場に工事用道路は存在しない。ア
クセス手段は自らの足を使った登山のみ。付近の市街地から現場へ向かおうものならば、工事
関係者専用の登山口まで車で約40分。それから登山で約2時間掛かる。どれほどの場所にあるの
か分かるだろう。毎日、麓から通うのはほぼ不可能だ。そのため工事関係者は標高二千メート
ルの現場最前線に構えた南竜事務所に泊まり込みで工事に携わっているが、現場はそこにはな

く、事務所から排水トンネルの飲み口と吐き口の現場へは、さらに30分以上の登山による「通
勤」のみ(ケンプラッツ「白山・甚之助谷地すべり対策(前編) 」 2014.10.17)。  

 

 
【オールソーラーシステム完結論 25】 

● 集約するリチウムイオン電池部材市場 

三井造船がリチウムイオンバッテリー(LIB)部材から撤退を決めたことで、LIB市場を
めぐり企業の優勝劣敗が鮮明になってきた。既に三菱ケミカルホールディングス(HD)が正
極材料の製造を停止。一方、住友金属鉱山は正極材の能力増強を予定する。大口受注を獲得す
る一部を除き、収益確保に苦しむ企業は少なくない。
正極材の製造から撤退を決めた三菱ケミ
カルHDは、EVの需要拡大が遅れたことから既に2012年末に新規投資を凍結していた。
同じくLIBの主要部材であるセパレーターでは車載用に加えてスマートフォンなどの民生分
野を取り込むため、中国に販売拠点を設置するなど戦略を一新した。宇部興産や戸田工業とい
ったLIB材料大手もEV普及の遅れもあって収益悪化に苦しんでいるという。(2014.10.23
日刊工業新聞)

それによると、一方で住友金属鉱山は正極材のニッケル酸リチウムの増産などに総額2百億円
を投じる。主な供給先はパナソニックで、米EVメーカーのテスラモーターズといった大口需
要家をにらむ。負極材最大手の日立化成は日産自動車のEV「リーフ」の販売復調により、一
時期の需要低迷から盛り返しつつあるなど、各社で明暗が分かれている。
 当初から日本企業
は価格競争の激しい民生用途よりも、耐久性や安全面などで差別化しやすい車載用途を開拓し
てきた。ただHVは1台当たりのLIB搭載量が少なく、市場規模は限られ、しかも「価格要
求は厳しい」(森田美智男JNC社長)と明かす。




● 非水系二次電池のニッケルリチウム電池正極工学

デジタル革命を担う携帯電子機器の発展にともない、それに用いられる二次電池の高出力長寿
命等の高機能化が望まれ、そのため二次電池用の正極活物質に関しても粉体特性の解明とその
製造技術の向上が求められている。例えば、ハイブリッド自動車用二次電池に代表される大型
二次電池の主力製品としては、安全性と出力のバランスの良いニッケル水素二次電池が使用さ
れているが、そのほかに、小型軽量であるリチウムイオン二次電池がニッケル水素二次電池を
代替品として注目されていた。その実用化のため、まず、リチウムイオン二次電池に用いる正
極活物質の高出力化が課題として挙げられ、その解決が求められた。この課題に関しては、こ
こ数年の材料開発によりおおよその目処がたち、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電
池を搭載したハイブリッド自動車が市場で販売されている。しかしながら、このようなリチウ
ムイオン二次電池の正極材料の新たな課題として、実用に際して起る過充電又は高温環境下に
おいて安全性のより一層の向上が挙げられている。すなわち、これを解決することで、リチウ
ムイオン二次電池の保護回路の簡素化及び小型化を実現することができ、ハイブリッド自動車
用二次電池としてその有用性が高まる。

● 特開2006-004689
  非水系二次電池用の正極活物質、その製造方法及びそれを用いた非水系二次電池

非水系二次電池の正極活物質としては、一般に、リチウムイオンを可逆的に挿入及び脱離する
ことが
できる層状構造を有するリチウム複合酸化物が用いられている。この中で、大型二次電
池用の正極活物質としては、低価格と高容量化を実現することができるとともに、充放電時の

電圧のプラトー領域が少ないため電圧制御が比較的容易であることから、主成分としてニッケ
ルを含むリチウム複合酸化物であるニッケル酸リチウムが最有力とされているが、ニッケル酸
リチウム
には、他のリチウム複合酸化物、例えばコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムと
比べて加熱に際して熱的安定性が劣るという問題点を有している。そのため、非水系二次電池
の正極活物質としてニッケル酸リチウムを用いる際には、出力は確保することができるが安全

性が低下するので、保護回路の強化が必要不可欠であるとされ、過充電と高温での保存に、
ッケル酸リチウム
の分解
による酸素放出を発端とする発熱現象により有機電解液の分解とそれ

に伴うガス発生が連鎖的に起こり、破裂又は発火の危険性があるため、ニッケル酸リチウム
正極活物質としての熱的安定性の確保が求められ、この解決策として以下の提案がなされてき
た。

(1)ニッケル酸リチウムの添加元素にバナジウムまたは、インジウムを用いる。
(2)バナジウムまたは、インジウムを含むニッケル酸リチウの製造方法に、これらの元素
  をニッケル酸リチウム中に固溶させる方法を用いる。
(3)または、ニッケル酸リチウム粒子中に分散させる方法を用いる。
(4)さらに、バナジウムまたは、インジウムの酸化物等の無機塩を、球状又は楕円球状の二
  次粒子形状のニッケル無機塩とリチウム無機塩と混合し焼成し反応させる方法を用いる。

(2)は、ニッケルの一部をバナジウムまたは、インジウムと置き換えるようにして共沈させ
て原
子レベルで粒子内拡散を実現したニッケル含有を原料として用いて、リチウム無機塩と反
応さ
せることにより、バナジウムまたは、インジウムが固溶したニッケル酸リチウム粉末を製
造す
が、この方法で得られたバナジウムまたは、インジウムが固溶したニッケル酸リチウムは、
極活物質としての熱的安定性を向上させることができるが、非常に多くの固溶量を要し電池
量が大きく低下する。

また(3)は、得られるニッケル酸リチウムに含まれるリチウム以外の金属の無機塩をボール
ミル等で粉砕混合した後、リチウム無機塩と混合し焼成し、ニッケル酸リチウムの二次粒子内
部にバナジウム含有リチウム複合酸化物または、インジウム含有リチウム複合酸化物を分散さ
ニッケル酸リチウム粉末を製造するが、この方法で得られた粉末は、嵩密度が非常に低くな
り、単位体積当たりの電池容量を示す体積エネルギー密度が大幅に低下し、多量の微粉を含む
ので発熱又は発火を起こし易い。

さらに(4)は、バナジウムまたは、インジウムの固相内拡散速度が極めて遅いので、ニッケ
ル酸リチウム
粒子表面にバナジウムまたは、インジウムのリチウム複合酸化物が被膜状に存在
するので、熱的安定性は向上するものの、表面に存在する被膜が充放電時に、リチウムイオン
の挿入脱離を阻害し、内部抵抗が高くなり、電池容量とサイクル寿命が低下する。

この新規考案――ニッケル酸リチウム粒子にバナジウムまたは、インジウムを添加した正極活
物質は、特定の組成式で表される層状構造のニッケル酸リチウムの粒子内部に、添加元素がリ
チウム複合酸化物を形成して均一に分散し、調製粉末を非水系二次電池用の正極活物質として
用いたところ、二次電池の過充電と高温保存時の熱的安定性を向上させる一方、電池容量、サ
イクル寿命及び出力の低下を抑えることができ、特定の工程に基づいて製造された球状または、
楕円球状のニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する方法で、正極活物質
を効率的に製造できる――製造条件は以下の通り。

(1)組成式:
LiNi1-aMaO2  ただし、式中、Mは、Mg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、
  Ni、Co、Cu、Zn、
Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、
  Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a
は、0.01≦a≦0.5である。
(2)添加元素の添加量は(V又はIn)/(Liを除く全金属元素)原子比で、0.002~
  0.1である。
(3)タップ密度(できるだけ詰め込んだ時の嵩密度)が2.0g/mL以上である。
(4)(イ)ニッケル無機塩に、バナジウム又はインジウムの無機塩と、リチウムを除く正極
  活物質の成分である全金属元素の無機塩とを所定比率で混合した後、湿式超微粉砕してニ
  ッケル含有無機塩スラリーを調製する。(ロ)上記ニッケル含有無機塩スラリーを噴霧乾
  燥に付し、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を調製する。(ハ)上記ニッケル
  含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する、以上の3工程を含む水系二次電池
  用の正極活物質の製造方法。

 

 

● 特開2014-146441
  ニッケル複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその
  製造方法、および非水系電解質二次電池

続いて、この新規考案は、下記の組成式(1)をもつ、リチウムニッケル複合酸化物の非水電
解質二
次電池用の正極活物質で、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量が0.08質量%
以下である。
この正極活物質は、焼成粉末をスラリー化し、10~40℃の温度範囲、スラリ
ーの液体部の電気伝導
度を30~60mS/cmに制御して水洗した後、濾過、乾燥すること
で、高容量かつ熱安定性に優れた
リチウムニッケル複合酸化物の非水電解質二次電池用の正極
活物質とその工業的生産に適した製造方法と安全性の高い非水電解質二次電池を提供する。

LiNi1-aM12  ・・・(1)式 

ただし、式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、又は13族元素から選ばれる少なくとも1種
の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5、bは、0.85≦b≦1.05である

 
厳しい開発競争現場(リスクは常に現場持ち)をこのように俯瞰しているのだが、青色発光ダ
イオード開発の中村修二米加工大教授のコ
メントを思い浮かべたりしているのだが、こういう
現実を踏まえ科学技術が進展していくのだが、厳しい反面、ある意味実に面白い興味深い光景
を目の当たりにしているわけだ。



● エコな話シリーズ:年間運転効率を大幅に向上するビル用マルチエアコン

――新制御技術で年間41%の消費電力量削減を達成――


産業技術総合研究所(NEDO)とダイキン工業(株)は、負荷に合わせて冷媒温度をコントロー
ルする新しい冷媒制御技術と、停止時の待機電力を削減する制御技術を開発、従来機に比べ年
間で41%の消費電力量削減を達成した。これら新制御技術をベースにダイキン工業(株)は、
新型圧縮機に関する独自開発の技術を組み合わせることで、年間運転効率を大幅に向上したビ
ル用マルチエアコンを2015年3月2日より販売販売していくとしている。これは面白い!

【システムの特徴】

(1) 圧縮漏れ・ロスを極小化した新型スクロール圧縮機を搭載
(2) 必要負荷をリアルタイムに把握し、圧縮機回転数を抑える新制御を搭載
(3) 待機電力を約15%削減し、運転していないときも省エネ
(4) デシカント空調機との組合せにより、快適性の維持と大幅な省エネを実現

※ダイキン工業(株)製 DESICAをZEB向けに改良したもの

 

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汚染バイオマス利用工学

2014年10月22日 | 環境工学システム論

 

 

 

【オールバイオマスシステム完結論 Ⅱ】

 ● タールフリーと放射性物質の回収

 『木質バイオマスの資源化』(2014.08.31)のお復習いをすると、下図の「特開2014-085329 放射性セ
シウムおよびストロンチウムの捕集材および捕集方法
」――
この新規提案は、放射性物質に汚染したバイ
オマスや木材瓦礫、農業廃棄物を改質反応、ガス化反応と焼却する炉内に充填した捕集材にガス化および
改質ガス、燃焼ガスの還元性ガス雰囲気下でセシウムとストロンチウムを高効率で濃縮捕集し、さらにガ
ス化炉や焼却内に残存する炭化物や焼成灰などから捕集材を遠心分離サイクロンあるいは磁性分離操作で
選択的に分離回収して、必要に応じて回収された捕集材を循環利用して最終的に濃縮捕集材を分離の上、
安全に貯蔵および保管することが出来、さらに。汚染された森林廃材や農産物より放射性セシウムおよび
ストロンチウムを高密度に濃縮分離回収すると同時に、ガス化炉や改質反応炉で製造されるバイオマスガ
スを利用して電力・熱およびアルコール合成燃料など、エネルギーやバイオ燃料を地域社会・産業に提供
することができるもの、チタン、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ニッケル、コバ
ルト,鉄、およびランタン、イットリウム、ネオジム、セリウムなどの希土類金属の複合金属酸化物、お
よびそれらの金属塩をシリカ、アルミナ、炭素担体に担持する放射性セシウムおよびストロンチウムを捕
集する捕集材とセシウムおよびストロンチウムを捕集する(図1参照)――として、この
新規考案の実施
例を記載紹介している。
 


ところで、従来、木本類、草本類などの固体系バイオマスのエネルギー変換は直接燃焼による熱利用が主
で、この場合、高度なエネルギー利用は困難である。例えば発電の場合、木質チップ・ボイラで水蒸気を
発生させ、水蒸気タービンによる発電方式が一般的となるが、1千~3千kW規模で、8~12%の発電
効率に止まっているのが実情である。百kW規模の小規模では電力出力を実質的には得ることができない。
現在、小規模から大規模まで、バイオマスのエネルギー高効率利用のためガス化技術が検討されているが、
空気または酸素の理論量以下でバイオマスを半燃焼させる部分酸化法が主流である。部分酸化法では、煤・
タールの発生が多く、また発熱のため使われた相当量のCO(空気を用いた場合には更に多量の窒素)
が生成ガス(合成ガス)中に混入するため、高品質の合成ガスを得ることは困難であった。

バイオマスの高度エネルギー利用のためには、自動車燃料としての使用や燃料輸送などの観点から、液体
燃料への転換が一つの好ましい形態であるが、現状では、バイオマスからの液体燃料製法は、糖質、でん
ぷん等を原料とした発酵によるエタノール燃料、あるいは植物油をメタノールによってエステル交換した
BDF(登録商標)(バイオディーゼル油燃料)など、主として食料を原料とし、耕作面積当りの収量が
低い植物を利用する手法のみでの実用化にとどまり、食料以外の草本類・木本類のバイオマスを原料とし
て、熱化学的手法で、高品質の化学合成原料となる合成ガスに転換し得るガス化方法はまだ実用化に至っ
ていない。

すなわち、(1)固形物除去装置及びタール除去装置で捕集されるスラッジ状の未ガス化炭素粒子及びタ

ールが、プラント全体の熱効率を低下させること、(2)この捕集されたスラッジ状の未ガス化炭素粒子
は、含水分量も多く難燃性であり、タールもまた粘性が高く、容易には燃焼せず、処理が容易でないこと、
(3)燃料である有機物の種類によっては、その含有灰の融点が低く、燃焼炉の火格子上でクリンカー
高熱によって半融解状態に固まった鉱物性物質)が発生することがあり、これは火格子の閉塞につながり
長時間運転の支障となる。

これに対し、下記の新規考案は、火格子上で有機物燃料を燃焼させたときにクリンカーなどにより生じる
火格子の閉塞を解消し、高温燃焼ガス発生装置の長時間の安定運転を可能にする方法――火格子12上で
有機物燃料Tを燃焼させることで発生させた燃焼ガスHにより、バイオマスなどの有機原料202を加熱
しガス化する生成ガスの製造方法、または製造装置において、大きさを変化させることが可能な間隙34
が形成された火格子12を使用し、この間隙34の大きさを必要頻度で変化させることで、クリンカー等
による火格子12の閉塞を解消するとともに、補助燃焼室18を設け、発生したスラッジ、タール等を燃
焼させ、熱回収を可能にした構造考案が提案されている。


 

 また、明和工業株式会社(下図参照)の「特開2014-190882 放射性セシウムが付着したバイオマスの処
理方法
」――(1)放射性セシウムが付着したバイオマス原料を粉砕する粉砕工程と、(2)粉砕したバ
イオマス原料を無酸素雰囲気下で、かつ、放射性セシウムが気化しない温度で急速熱分解することで(3)
バイオオイルの原料を含む液体、Si-O-Cs系物質を含む固体及び気体の三相に分ける急速熱分解工程と、
(4)液体を回収するバイオオイル回収工程と、(5)固体を回収する放射性セシウム回収工程とを少な
くとも含み、必要に応じて、粉砕工程と、急速熱分解工程でシリカを添加するシリカ添加工程も含むシス
テムにより、放射性セシウムが付着したバイオマスからバイオオイルを回収すると共に、放射性セシウム
を減容化且つ化学的に安定化した状態で確実に除去できる除染処理方法――が提案されている。
 



この提案の特徴――放射性セシウムが付着したバイオマスの処理方法は、(1)急速熱分解法を用いるこ
とでバイオマスから高い収率でバイオオイルを回収できる。(2)
また、放射性セシウムが気化しない温
度(400℃~600℃)で加熱するため、当該放射性セシウムがバイオマスに含まれるシリカ及び必要
に応じて別途添加するシリカと固相反応を起こし、Si-O-Cs系物質に変化すため、このSi-O-Cs系物質を含
有するチャー(固体)を回収することで、放射性セシウムを化学的に安定化した状態で確実に回収するこ
とができ、(3)また、回収したチャーはセメント等の周知の固化手段により固化体とすることで、粉砕
処理する前の状態のバイオマスと比較して大幅に減容化できる。(4)
また、気体はバイオガスとして急
速熱分解工程の熱源の一部として再利用することができるという。

尚、実施例ではCs(セシウム)の代替物としてナトリウム(Na)を使用し、CsとNaは共に一価のアルカリ
金属であるため、CsはNaと比較して反応性が高いことから、Naを用いた実施例の結果と同様の結果をCsを
用いた場合にも得られることを前提として検証している(※この手法の正当性については別途議論がいる
と考える)。


● 生物学的処理回収技術

東日本大震災によって発生した福島第一原子力発電所の事故は、高濃度の放射能汚染水や広範囲に亘って
汚染した土壌、草木、瓦礫等が大量に発生して復旧作業の障壁となっている。特に放射能汚染に含まれる
放射性セシウム137の半減期は30.1年、放射性ストロンチウム90の半減期は28.8年もあり、
長期に亘って放射線を出し続けることになる。放出された放射性セシウムは、土壌では農地、住宅地、学
校のグラウンド、下水道の汚泥、瓦礫等に付着し、廃水では、プール、浄水場、河川、ダム等に溶け込み、
川や海へ流入して汚染が広がることになる。また、放射性セシウムは食物連鎖によって魚や動物等に蓄積
され、これらを人間が体内に取り込むことによって肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌等の健康被害を生じさせるこ
とが分かっているため、そのような被曝や汚染の拡散を防止するために放射性セシウムの早期除染が必要
になってくるが、
一般的に、放射性セシウムを除染分離させるには、ゼオライト除去技術、磁気分離除去
技術、活性炭除去、イオン交換樹脂、RO膜による除去技術、植物による取り込み等の各種除去技術が開
発され、かつ試行および一部は実用化されつつある。
また、原子力発電所施設から発生する除染処理物や
事故等によって放射能汚染された土壌、草木、瓦礫等の除染処理物をアルカリ除染剤を用いるアルカリ除
染工程と、有機酸および無機酸を組み合わせた酸除染剤を用いる酸除染工程とを組み合わせた除染法も提
案されている


しかし、従来のゼオライト除去技術、磁気分離除去技術、活性炭除去、イオン交換樹脂、RO膜による除
去技術、植物による取り込み等の各種除去技術構成では、処理の内容が限定的であったり、除去率が低い
等の課題をもち、除染処理物をアルカリ除染剤を用いるアルカリ除染工程と、有機酸および無機酸を組み
合わせた酸除染剤を用いる酸除染工程とを組み合わせて除染処理方法では、多種類の除染剤が必要があり、
かつ、除染洗浄後の廃液処理が必要で、最後は原子力発電プラント内の――既設放射性廃棄物処理設備に
て処理しなければならない。さらに、農地、住宅地、瓦礫等、市街地の悪臭、塩害を中性化したりする混
合菌体よる中性化・防虫剤方法は、利用技術の拡大と効能の確立など課題をもつていた。

それらを踏まえ、下図の新規考案では、放射能汚染された除染処理物2を収容し、かつ酸性洗浄水3が収
容される洗浄槽1と、この洗浄槽1の内部に配設された撹拌器4と、二次洗浄槽9と、内部に加温ヒータ
7が配設されて微生物菌体を混入した汚染洗浄水を収容加温する汚染水処理槽6とを設け、洗浄槽1で一
次洗浄を行った後、酸性洗浄水3で濯ぎ洗いを少なくとも1回行う二次洗浄とを行い、各洗浄工程で排出
された洗浄溶液に微生物菌体を混入し、加温しながら汚染洗浄水を処理するように構成することで、放射
性物質類によって汚染された、構築物、土壌、廃水、草木、瓦礫等を浄化する放射能汚染処理物の除染方
法およびその方法を用いた除染装置が提案されている。

以上、この提案によると、土壌、廃水、草木、瓦礫等の除染処理物全般を除染対象に、コンクリートや瓦
礫等には
放射性物質類が深く付着していることもあるため、アルカリ性である中性洗剤のエマルゲンを併
せて使用すれば比較的容易に除染することができて効果的であり、骨材としての再利用が可能となり、温
泉水に硫黄が含有されている場合は、排水放流前に一般公知の技術によって脱硫処理をすることが必要と
なる。また、必要に応じて汚染水処理槽での無害化処理が終了した後、遠心分離機を使用して真水と粘調
の菌体(ゲル状固体物)とに分離し、放射能濃度によってこの少量の粘調の菌体は放射能遮蔽された貯蔵
庫に長期に亘って指定廃棄物保管容器で保管するようにすれば完璧に安全管理が行える。したがって放射
能汚染された除染処理物が除染されると共に汚染された洗浄溶液も中性無害化され、河川等への放流が自
由に行えることになる。遠心分離機により無害化された処理水は、環境省の定めた基準値以下になり河川
に放流できるという。

以上、ここでは「汚染バイオマス利用工学」として実施例を調査し考察し、放射性物質による汚染された
木質バイオマスのエネルギー変換技術の実用性を多角的に考察してみた。

 

 ● HF120販売開始へ

 

 

 

 

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界面*粒界工学

2014年10月20日 | 時事書評

 

 

【オールソーラーシステム完結論 24】 

● 電荷の輸送障壁の解明ツール

 

産総研の研究グループによると、通常、有機薄膜太陽電池は、電荷の受け渡しを行う2種類の分子
(ドナー分子とアクセプター分子)が複雑に混ざり合い(下図1(b)、(c))、発電層内部に自己組
織化したナノ構造を形成して高い変換効率が実現する。しかし、発電層内のナノ構造と電荷の輸送
との関係はほとんど解明されておらず、変換効率を向上させるための指針を得ることが難しい状況
だったが、有機薄膜太陽電池の変換効率の向上に関する研究開発を積極的に進めている(2014年4月
17日/2014年5月8日の2回に渡りプ
レス発表)。今回、発電層内部の電荷輸送を簡便に定量評価す
る手法を開発(次下の新規考案説明図参照)し、ナノ構造と電荷輸送との関係を明らかにした上で、
変換効率の向上を目指す研究を進めてきている。


----------------------------------------------------------------------------------------
● 新規考案概要

般に、太陽電池の発電性能は、電池製造後に屋内の大気環境下で評価される。測定対象の電池に
擬似太陽光を照射し、標準条件(電池温度:25℃、分光分布:基準太陽光、放射強度:100mW/cm2
の下で電流-電圧特性が測定される。発電効率は、照射光強度に対する電流-電圧積の最大値を百
分率で表した数値として定義され、発電性能の指標として広く用いられている。従来、この発電性
能は、電池製造後に評価され、製造工程の途中において予測する方法は無かった。

太陽電池にはいくつかの種類があり、そのうちの一つの種類として太陽光を光電変換して光起電力
として取り出す構成の薄膜太陽電池(例えば、薄膜シリコン太陽電池、化合物薄膜太陽電池、有機
薄膜太陽電池等)が知られている。この薄膜太陽電池は、省資源・低コスト化が可能であり、次世
代の太陽電池として期待されている。薄膜太陽電池は、基板洗浄、電極形成、発電層形成、スクラ
イビング等の工程を経て製造されるが、とりわけ、発電層の形成は、発電性能を決定する最も重要
な工程である。通常、発電層は、不純物抑制の観点から、減圧下でのプロセス技術(プラズマ化学
気相堆積法、スパッタ法、蒸着法、熱化学気相堆積法、分子線エピタキシー法)を用いて製造され
る。 

従来、薄膜太陽電池の発電層の製造条件(プロセス条件)を最適化し発電性能を向上させる場合、
プロセス条件を変更し、その都度、電池を作製し発電性能を評価していた。発電性能の評価には、
上述の通り、多くの工程を経て太陽電池を作製する必要があり、本工程のプロセス条件の最適化に
は、多くの時間と労力を要する課題を抱えていた。また、発電層は減圧下で製造されるのに対し、
発電性能は大気環境下で評価される。そのため、発電層の製造工程において、減圧下にて発電性能
を予測する手法の開発が望まれていた。


(1)この太陽電池の製造工程における発電性能の予測方法は、基板側から透明電極、発電層及び
裏面電極の順で、また、基板側から裏面電極、発電層及び透明電極の順で積層された構造の太陽電
池の製造工程の発電性能の予測方法で、複数の透明電極また、裏面電極に対し発電層が積層された
工程段階の基板に対し、波長領域の異なる第1と第2のポンプ光を同時に、または交互に照射する
照射ステップと、発電層の形成時もしくは発電層の形成後に、複数の透明電極また、裏面電極のう
ち隣接する2つの透明電極または、裏面電極に対し、照射ステップにより第1のポンプ光を照射し
たときの2つの透明電極間と裏面電極間の第1の電流と、第2のポンプ光を照射したときの2つの
透明電極間と裏面電極間の第2の電流とをそれぞれ測定する電流測定ステップと、電流測定ステッ
プにより測定された第1及び第2の電流の電流比を算出する電流比算出ステップと、電流比算出ス
テップで算出された電流比に基づき、製造後の太陽電池の曲線因子及び発電効率を予測するステッ
プとを含む特徴をもつ。

(2)上の目的達成のため、太陽電池の製造工程の異常検知方法は、基板側から透明電極、発電層
及び裏面電極の順で、または基板側から裏面電極、発電層及び透明電極の順で積層された構造の太
陽電池の製造工程における異常検知方法で、複数の透明電極と裏面電極に対し、発電層が積層され
た工程段階の基板に対し、波長領域の異なる第1及び第2のポンプ光を同時に、交互に照射する照
射ステップと、発電層の形成時、または発電層の形成後、複数の透明電極と裏面電極のうち隣接す
る2つの透明電極と裏面電極に対し、照射ステップにより第1のポンプ光を照射したときの2つの
透明電極間と、裏面電極間の第1の電流と、第2のポンプ光を照射したときの2つの透明電極間と、
裏面電極間の第2の電流とをそれぞれ測定する電流測定ステップと、電流測定ステップにより測定
された第1及び第2の電流の電流比を算出する電流比算出ステップと、電流比算出ステップにより
算出された電流比が所定値以下であるか否かを判定し、電流比が所定値以下のときプロセス異常と
判定する判定ステップとを含む特徴をもつ。
----------------------------------------------------------------------------------------
 
このように、有機薄膜太陽電池は、安価、フレキシブルで、意匠性に優れる次世代太陽電池として
近年注目を集めており、変換効率と耐久性の向上に向けた研究開発が世界各地で進められているが、
開発した電荷の輸送特性を評価する手法では、試料に2種類のレーザー光(ポンプ光およびプローブ
光)を照射し、それぞれの光によって励起される光電流を測定する(図2)。ポンプ光は光励起キ
ャリア(正負の電荷)を生成するための光で、その光子のエネルギーは半導体のバンドギャップよ
りも大きい。そのため、ポンプ光によって励起される光電流を測定することで電荷の流れやすさが
評価できる。一方、プローブ光は輸送障壁によって捕捉された電荷(トラップ電荷)を輸送レベル
にまで引き上げて取り出すための光で、その光子のエネルギーは、半導体のバンドギャップより小
さく、輸送障壁の高さより大きくする必要がある。そのため、プローブ光によって励起されるトラ
ップ電流はトラップ電荷の量を反映する。また、これらの電流比から、トラップ電荷の定量値(ト
ラップ電荷密度)が得られ、この値は太陽電池の変換効率を決める重要な指標になるというもの。

 

この評方法を用いて、これらのナノ構造の異なる試料について、電荷の輸送特性を調べ太陽電池特
性と比較したところ(図4)、ポンプ光励起の光電流はドナー分子の割合が20%で最大となり(
図4(a))、トラップ電荷密度はドナー分子の割合が50%で最小になった(上図4(a))。太陽電
池特性はドナー分子の割合に対し強く依存し、変換効率はドナー分子の割合50%で最大となった
(図4(b))。変換効率とトラップ電荷密度を比較すると(図4(a)、(b))、曲線の形が反転し、
ちょうど相反関係となり、トラップ電荷を低減すると高い変換効率が得られることが示唆されてい
る。 

従って、トラップ電荷密度がドナー分子の割合に対し、U字型の依存性を持つことから(図4(a))、
ドナー分子とアクセプター分子の界面が電荷の輸送障壁となると考えられる。また、アクセプター
分子が過剰になると正電荷の移動が妨げられ(図1(b))、逆に、ドナー分子が過剰になると負電荷
の移動が妨げられるためと考えられる(図1(c))。ドナー分子とアクセプター分子が60%ずつの
場合には、両者の界面、すなわち輸送障壁が最も少なくなるためトラップ電子密度が最小になる。
また、トラップ電荷密度がナノ結晶からなるC60単成分薄膜で最大になったのは、結晶の粒界が輸送
障壁として働くためと考えられる(図1(a))――電荷の輸送障壁が界面と粒界であることを突き止
めたという。また1つ、これで実用化のための有力なツールが開発されたことになる。これは面白
い。
  

● デクサマニー降臨 Ⅱ

「大型のリチウムイオン蓄電池を設置した事業用太陽光発電所としては国内初の事例だと考えている」
(エジソンパワー)。同社が蓄電池を納入するのは、御船ホールディングスが鹿児島県天城町(徳之
島)に立ち上げる出力1.99MWの大規模太陽光発電所「御船徳之島太陽光発電所」(下図参照)。2014
年8月に着工し、2017年3月に運転を開始する予定というもの(スマートジャパン 2014.08.14)。
この記事の見出しは、「サムスンと組んで国内を制覇か、太陽光発電所+大容量蓄電池」とかなりき
な臭いものとなっているが、各地で大規模太陽光発電所の設置件数が増えていく中、系統に太陽光発
電所を接続する余裕がなくなってきた。連系線の容量が不足している場合は、設備投資によって接続
が可能になる/「九州電力に売電する場合は、出力変動を抑えるための蓄電池を導入すれば、電力会
社が要求する電力の品質を満たすことができ、全量買い取ってもらえる。接続拒否は起こらないこと
が分かった」(同社)――と極めてクールな解説となっている。

 

多くの大規模太陽光発電所の初期コストは、1MW当たりおよそ3億円だ。1日当たり4kWh/m2という日
照条件であれば、変換効率15%の多結晶シリコン太陽電池モジュールを利用すると、年間3500万円程
度の売電収入が得られる。従って、初期コストが1億円増えると、投資回収期間がおよそ3年延びる
という。
「当社は徳之島で出力2メガワットMWの太陽光発電所と容量1MWhの大容量リチウムイオン蓄
電池を組み合わせて7億円規模で構築する。実は7億円規模で抑えないと顧客の期待するIRR(内部利
益率)を出すことができない」(エジソンパワー)とした上で、「低価格」に抑えることができた理
由として、同社は2つの理由を挙げている。

※ 一般的なメガソーラーの初期コストから計算すると、1kWh当たり10万円で大容量リチウムイオン
  蓄電池を導入できるとの計算。

1つめは、徳之島の事例では同社が設計・調達・建設(EPC)事業者として取り組むこと。導入期間
全体にわたってコストを管理しやすい。

2つめは、韓国サムスンSDI(Samsung SDI)と合意書を取り交わすことで、長期間(20年)安心し
て運転管理メンテできる。

つまりは、蓄電池
は設置してからが勝負。蓄電池を監視し、メンテナンスを施していくためには、特
に温度管理や過充電・過放電の監視が重要となり、不具合が生じた場合は、セル単位の交換はもちろ
ん、複数のセルをまとめたラック単位の交換を施すことで性能を維持する必要がある。このため電池
の供給元の協力がなければ継続が難しい事業だという理由による。

そして、なによりもエジソンパワーがEPCと合意書という強みを今後も生かし、徳之島の事例のよう
に、大容量リチウムイオン蓄電池と組み合わせた大規模太陽光発電所を今後5年間に全国で20カ所建
設する計画していいるが、このような規模の計画を国内で打ち出した企業はこれまでにないと結んで
いる。

 

● エボラ熱に抗インフルエンザ薬「アビガン」が有効?

 ← この図をダブルクリック!

 


 

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秋晴れに百舌鳥の高鳴き

2014年10月19日 | 滋賀のパワースポット

 





【水ヶ浜と城フェス】

昨日と今日は好天気に恵まれ、近江八幡の水ヶ浜と彦根の城フェスを訪れ二人で楽しんだ。城フェスは、
地域の魅力を体現するキャラクター全国各地から集う「ご当地キャラ博in彦根」が開催され、今回の7
回目は42都
道府県から242体が集結。多くの人でにぎわっていた。彦根市のひこにゃんなどが開会を
宣言した後、中心街にはさまざまな工夫を凝らしたご当地キャラ(ローカル・キャラクター・コスチュー
ム)が登場。記念撮影を求める人たちでごった返していた。

 

  



 

 

 

● 成長を続ける太陽光発電市場 2兆5千億円規模

経済産業省が今年8月に開催した新エネルギー小委員会で太陽光発電協会(JPEA)が発表した集計結果に
ると、2011年度の時点で約6700億円だった太陽光発電システムの国内市場は大幅に拡大し、2013年度に
約2兆5000億円に達したことが分かったというEconomicNews 2014.10.18)。2兆5000億円という市場規
は国内の白物家電市場に匹敵するもので、太陽光パネルの設置はもちろん、パワーコンディショナーや
変電設備などの設備に加え、住宅関連、工事や設計などの関連事業を含む市場は、2020年に予定されて
る「省エネ基準適合住宅の義務化」に向けて、今後も成長すると見込まれている。

また、同調査によると太陽光パネルの販売出荷額での海外流出率は一割以下の9.3%に留まっており 2兆
円以上が国内で還流したことになっている。また、関連事業に従事した人員も含めると約21万人の雇用を
生み出しており、節電面だけでなく、我が国にとって大きな経済効果をもたらしていることが分かる。と
くに、住宅関連では固定買取制度や消費税の増税による駆け込み需要などもあいまって、個人住宅向けの
伸び率が大きかったと評価している。

また、同調査によると、(1)住宅メーカーなどの企業も太陽光発電は今、最も力を注いでいる商品の一
つだ。しかしなが
ら、ただ単にソーラーパネル搭載の住宅というだけではなく、各社それぞれにコンセプ
トやターゲットの異なる商品の展開を行っているので、住宅購入や導入を考える際には、自分の要望や家
庭のライフスタイルに合ったものを選択したいものだ。(2)例えば、木造住宅の大手メーカーである住
友林業では、「グリーンスマート」という太陽光発電システムを標準搭載した商品を展開しているが、木
材のもつ素材性能を活かした工夫の数々で、冷暖房機器に頼りすぎない生活を提案している。ソーラーシ
ステムの発電効率は同じでも、使う量が減ればそれだけ節電になるし、売電収入も増えるというわけだ。
家電量販店大手のヤマダ電機の連結子会社であるヤマダ・エスバイエルホームも、業界で一、二を争うほ
ど太陽光発電に力を注いでいるメーカーの一つだ。家電量販店傘下の強みを活かし、消費者ニーズに沿っ
たエコを提案し、話題のHEMSなども積極的に取り入れている。(3)また、全国の工務店ネットワーク・
ジャーブネットを主宰するアキュラホームも、太陽光発電設備の導入について、面白い試みを続けている。
10kW以上の太陽光発電を標準搭載した「太陽を活かす家-秋」では、同社の試算によると「全量買取制度
(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)」を活用することで、なんと当初20年間の住宅ローン支払い
負担額が実質0円になるという。また、搭載量が10kWに満たない顧客に対しては、顧客同士の電力をまとめ
て電力会社に売電するシステム「屋根貸し共同事業プラン」を構築し、屋根面積の少ない狭小地や3階建
の住まいでも、全量買取制度の恩恵が得られるプランを提案している。(4)いずれにしても、太陽光
発電
搭載住宅選びのポイントは、長期のライフプランにある目先の買い取り価格だけではなく、長期に
渡って住まうこ
とを想定して、長く快適に暮せる住宅を選びたいものだ。と結んでいる。




● 成長を妨げる理由と成長を
推進する理由

この記事を忖度すると、消費者が賢く、省エネ・環境調和した生活を選択せよと主張しているようである
が、現状全量固定価格買取制度の設定値に拘わらず、風力・地熱・バイオマス・天然ガス(未由来確定)
を複合的に配慮した選択――太陽光発電に偏重せず――をとって欲しいと主張しているようである。ある
いは、経団連の榊原定征会長が8日、原発の再稼働について、「安全が確認された原発は、速やかに再稼
働すべきだ。国民全体の願いでもある」と述べた―東日本大震災の被災地で、東北電力女川原発(宮城県)
の防潮堤工事などを視察した後、報道陣に語った(朝日新聞 2014.10.08)――という既得権益勢力からの
圧力を配慮しているかのような主張にも看
うけられる。

確かに、買取価格の設定額の見直しは必要ではあるが「原発再稼働先にありき」議論には、丁寧な説明
を要することは当然で、それすらないできないのでは論外であろう。言い換えれば、この<環境リスク本
位制時代>にあって、再生可能なエネルギーで最もプライオリティー(優先度)の高いもが、太陽光発電
システムであると判断するなら、むしろ逆に、例えば、原発廃炉に要する費用相当分を前倒しに先行投資
し、人為的地球温暖化による大規模気象変動リスク対策のバーゲン・パワー(切り札)とすべきであろう
――例えば、5ヵ年の投資金額を1千億円とし(1)変換効率を15%→25%、(2)電力蓄電システ
ムの全国敷設を目標とすれば、5年×2千人=1万人の関連雇用創出(一次雇用)と研究開発費(2次雇
用を含む)が可能であり、全量固定価格買取設定費=C×15/25=3/5・C(円/キロワットアワ
ー※)に価格逓減できるはずで、高すぎるかどうか(最適価格算出)はそういった議論を経ずしてなされ
ているならそれは余りにも稚拙であると言わざるをえないであろう。

※例えば、C:40円/Kwhとすると24円/Kwhとなる。  
 

● 重量計付スーツケース

重量計を内蔵したスーツケース。荷物の重さが一目でわかるようになり、空港で超過料金を払うことを防
ぐことができる。2種類のサイズから選べるという。


 



キャッスル・ロードはゆるキャラと親子連れでごった返していたが、現実世界と空想世界をいとも簡単
に行き来できる子ども達のパワー、純粋無垢なエネルギーに圧倒される。なぜか、ご当地キャラにスタ
ー・ウォーズのダース・ベイダーやストームトルーパーも紛れていたのに驚き、デジカメしていた。

 

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エボラ出血熱非常事態宣言。

2014年10月18日 | 環境工学システム論

 

 

 




● "スイートホーム・トレーニング法"のプログラミング

「あさイチ」で4分運動でシェイプ・アップとかで放送されていたのをチラ見していたので、テンションが
上がらず、運動不足もあり、どのようなものかと実践を試みた。というのも中陰法要での親戚との世間話で、
ヨガやジムなどの健康維持が話題に上ったことが刺激になったことが関係している。さてその話題の「タバ
タ・プロトコル」とは20秒の運動と10秒の休憩を8回繰り返す(30×8=240秒)、つまり4分か
けて行う運動。1週間に3回(4×3=12分/週)行うだけで
持久力や瞬発力アップ、さらにはダイエッ
トにつながるといいものらしい(実践したことなし)。その驚くべき効果と、運動が苦手な方でもできる手
軽な方法をが世界中で話題になっているという(これってノーベル賞もらえる。そんなことないってか?)。

田畑泉立命館大学スポーツ健康科学部長が新規考案したもが、海外で大人気!動画投稿サイトや新聞・雑誌
でさかんに取り上げられている――「
Tabata Protocol」は、Universal Pictures International Entertainment社(英国
:ユニバーサル社)が目にとまる。この田畑教授の監修のもと開発したトレーニングプログラム「tabata™  4
minute fitness-scientifically proven
」のDVDは、英国内で昨年12月の販売され、現在、販売枚数は1
万3千枚
を超え、さ
らに160ヵ所のトレーニングジムが採用し、多くの受講者を集めている。「血圧の上昇や怪我の確
率が高くなる高強度運動が、一般の人に安全に実施してもらうには、信頼の置ける組織による適切な指導が
必要だと思っていた。そのタイミングで、世界的な知名度と信頼のあるユニバーサル社から連絡を受けたの
は幸いであった」と田畑教授がこう述べているほどだ。

このトレーニング法は、1990年当時、スピードスケートのナショナルチームでは、80年代に活躍したスピー
ドスケートの黒岩彰選手を輩出した入沢孝一氏が率いていたが、そこに田畑教授も体力コーチとして加わる。
運動生理学など最新のスポーツ科学をジュニアチームに教え、入沢氏が以前から実施していたインターバル
トレーニングも練習に取り入れたが、そのトレーニングがなぜが効果があるのか誰もわからなかったいう。
そこで田畑教授は、入沢式インターバルトレーニングの研究を開始、1996年に研究結果を発表した。高強度
の運動――20秒と休息10秒×8セットのインターバルトレーニングを週3回・6週間行うことにより、
持久力を示す「有酸素性エネルギー(最大酸素摂取量:VO2 max, maximal oxygen consumptionが10%、
中距離の能力を示す「無酸素性のエネルギー(酸素借・無酸素性作業閾値:Anaerobics Threshold )」が
30
%も改善することを証明する。




この論文を世に出すにあたり、多くの教科書に紹介されるであろうことは期待していたと(田畑教授)とい
うこの「Tabata Protocol」は、実際に欧米で使用されている教科書に引用される。田畑教授は、このトレーニ
ング法が疲労困憊に至る(実際にやってみると運動が終わった後10分位、立てないほどきつい)運動なの
で、モティベーションの高い競技選手しか実際に行わないと思っていが、最近では女性を含む多くの一般人
が「Tabata Protocol」を行なうように。想定外の展開であった。海外のフィットネス界では広く知れ渡ってい
る“Tabata”だが、その発信はほとんどが英語。言語の壁もあり、日本での認知度はまだまだ低いという。

この高強度インターバルトレーニング(High-intensity interval training,HIIT, HIT)というべき「タバタ・プロ
トコル」を我が家のルームランナーに適用させ"スイートホーム・トレーニング法
”のプログラム化をこの法
要を契機に確立させたいと考えたが、完成したらまたブログ掲載する。
 

 ● マグネット式靴紐

● 無侵襲生体計測工学

予防医療の観点から、家庭や職場で手軽に利用できる血液成分検査装置、あるいは無侵襲生体計測(しんし
ゅう、invasion)が高い関心を集めている。例えば、心筋梗塞や脳梗塞につながる糖尿病・動脈硬化・高脂血
症を予防するために摂取カロリー管理や健康管理の指標を目に見える化技術が求められているが、生活習慣
病への危機感から、脂肪吸収を抑える特定保健用食品など注目を集めている昨今、脂質摂取量への関心の高
さが分かる。しかし、食事で摂取した成分が体重や体脂肪の増減として反映されるまでには時間がかかり、
現在の体重計・体脂肪計だけではこのような日々の食事の質的管理は行えないため、微弱な生体透過光を効
率よく測定し、血中成分を分析できる分光装置の実現が求められていた。
 



このため産業技術総合研究所の光センシング研究グループは、つい最近、微弱な生体透過光を効率よく測定
し、血中成分を分析できる分光装置の試作機を完成させた公表(上図参照)。この試作機は、近赤外光を高
感度で高速に分光分析することが可能で、持ち運びが容易なことが特徴。生体を透過した微弱な光の連続的
な変動をとらえることができるので、血中に含まれる脂質を、採血することなくリアルタイムでモニタリン
グすることができる。家庭や職場で日常のカロリー管理ができ、メタボリックシンドロームの予防などへの
貢献、さらに、さまざまな疾患と関連する物質の無侵襲モニタリングへの展開も期待されているという。

開発ポイントは、生体組織に入射した光はすぐに減衰してしまうため、光を用いて生体内部の情報を得るに
は、光を照射した表面近くで拡散反射される光を測定する手法が主流だが、より正確な生体内情報を得るに
は、生体を透過した光を用いるほうがよいが、従来の検出技術では、透過光が微弱なため長時間の測定(露
光)が必要で、測定中に体が動き信号がうまく取得できず、動的な変化に追従できないなどの問題があった。
照射する光源の強度を強くすれば、それだけ透過光も強くなるので、測定のSN比(信号対ノイズ比)は向上す
るが、安全性の点で、生体に照射できる光の強度には限界があった。

そこで、(1)広い面積から光を集めることで微弱な光でも高速で分光できるようにし(2)これらの問題
を解決し、従来の分光器の1千倍以上の高感度を実現し、(3)安全な光入射強度で生体からの透過光のリ
アルタイムの分光計測を可能にしたことにある。今回試作した装置では、(4)透過した光のスペクトルを
求める手法として、光源面積を制限することがないフーリエ分光法をベース技術として採用し。さらに、奥
行きのある生体に対しても透過光を効率よく装置に導入する工夫を加え、偏光特性を効果的に利用するとい
った工夫も行ったという(関連新規考案を上図に掲載)。
 

ところで、特別養護老人ホームの看取り期間、母は血中酸素濃度計(パルスオキシメータ)で酸素濃度と脈
拍数をひとさし指にセンサを装着して測定したが、これは赤色発光ダイオード(LED)を使用し下図の構
成した装置などで測定――電池を含めて軽量でポケットに入れても邪魔になら ず、ネックストラップも付い
ているため携帯には非常に便利です。医療機関(病棟やリハ室)、福祉施設、教育機関などの施 設のほか、
訪問看護ステーション・リハステーションやスポーツクラブなどの現場、高齢者や長期のケアが必要な方に
は家庭 でも簡単に利用できる――していることを知ったが、 検出方法が定まれば、「デジタル革命基本則
」に従い、(1)ダ
ウンサイジング、(2)デフレーション(3)イレイジング(=ワイヤレス)(4)エ
クスパンションなどが進行していくが、産総研の試作機は、フーリエ分光法をベース技術として採用してい
るために、ある程度(1)(2)は進むだろうが、(3)は基本的にかなわないだろう。

もっとも、血中の酸素濃度計以外の脈拍や、血中成分を分析を同時に測定できるので第6則の拡張も進展し
ていくだろうし、「タバタ・プロトコル」や「スイートホーム・トレーニング法」 などの複合管理測定シス
テム(下図参照)として"テレメトリー(遠隔測定)”も進んでいくだろうから、平均寿命と健康年齢の格差
是正に貢献し、さらには、医療費の軽減にも役立つだろうと考えられる。

 

●  進化する発光ダイオード(LED) 

ことしのノーベル物理学賞受賞した中村修二米カリフォルニア大サンタバーバラ教授が、「能力のある人が
きちんと評価される米国の素晴らしさを実感し、日本との落差を再認識した」と語ったことが印象的だった
が、「ダイオードの発光効率を50パーセントから、百パーセントにもっていきたい」と語っていたことも
印象的だった。発光ダイオードも太陽電池も『デジタル革命渦論』の基本6則に従うため、高効率化とコス
ト逓減が同時進行していく。前者は、回路基板を含め、注入された電流を百%発光させるためには、デバイ
スの輝度アップロスを近似"ゼロ"に持って行く必要があり、そのために抵抗を近似"ゼロ"にしなければなら
ないが、中村教授は実現の具体的なイメージを持っているのだろうと勝手に思い込んでいる。

ところで、米Texas Instruments(TI)社は2014年9月30日、高電圧LEDストリングの電流安定化回路を簡素化す
450Vリニア・コントローラ「TPS92410」を発表。新製品は、マルチプライヤ回路や、調整可能な位相調光
検出回路のほか、アナログ調光入力や駆動回路の保護機能を内蔵しており、オフラインAC電源や通常のDC電
源で動作するダウンライト、各種照明機器、電灯などの設計を簡素化することができるという。
TPS92410
は入力電圧範囲が9.5V~450Vと広く、高電圧LEDストリングのスタンドアロン型電流安定化回路として動
作する。また、TIの「TPS92411」フローティング・スイッチとの組み合わせにより、交流電源によるリニア
直接駆動アプリケーションへの給電にも使用できる。UVLO(電圧低下ロックアウト)、MOSFET過電圧保
護、過熱フォールドバック機能により、故障時のドライバとLEDの損傷を防止し、
また、「TPS9241」と
の組み合わせにより、ドライバとLED回路の保護機能のほか、インダクタ・フリーで低電流リップルLED
照明ソリューションを提供する。EDシャットオフ機能付きのアナログ調光入力ピンも備え、「MSP430F5172
超低消費電力マイコンや、SimpleLink ZigBee「CC2530」ワイヤレス・マイコンを使って、マイコン搭載のイ
ンテリジェント照明機器で光度の調整機能を簡単に実現できる。
TPS92410はすでに供給中で、パッケージは
13ピンSOICで、千個受注時の単価は0.65米ドルとのこと。いまやLEDとSB(ソーラーバッテリ)の進化と
普及は常識だ。

 

 

● 3次元プリンタカー見参

Local Motorsという米スタートアップ企業が、この世界初の3Dプリンタで出力した電気自動車を制作し、IMTS
(International Manufacturing Technology Show)
2014で展示した。パーツ数が49個だけで、完成までの工程はおよ
そ44時間が必要となり、最高時速は64.3キロにも達するとのこと。来年の発売を予定し、価格は1.8万ドルを
想定しているという。これから、どう変化するかわからないがこれも1つのオーダーメイド型生産(ポスト・
モダン)方式となるから面白しろい。

 

● エボラ出血熱非常事態宣言

エボラ「あと60日が勝負。負ければ人類が敗北」 国連が悲壮な訴えを行った。国連のエボラ出血熱対策
(ここでは以降略して「エボラ熱」と呼称する)チーフ、アンソニー・バンバリー氏が14日、NYであっ
た国連安全保障理事会に西アフリカからテレビ中
継で参加し、「エボラ出血熱を今止められなかったら、世
界は完全に未曽有の事態になる」と警告。
また、エボラとの闘いをレースに例え、「(エボラは)我々より先
を行き優勢だ」とし、12月までの60日
間が闘いになると語ったと言う。この60日間は感染者の70%
を療養施設に収容し、死亡者の70%を2
次感染なく埋葬しなければ、感染拡大は止まらないとのことだ
このため西アフリカなどの現場では複雑な
オペレーション(対策)が必要とされており、「そのうち一つに
でも失敗すれば、我々は敗北する」と強調
している。これは浮かれている場合ではない!・・・・(今夜は
阪神タイガースの優勝だから、これは大い
に盛り上げたい) ^^;。

 

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多剤耐性遺伝子とは

2014年10月16日 | 時事書評

 

 

● 多剤耐性細菌感染症ってなんだ 

ほとんどの抗生物質が効かなくなる「GES-5」と呼ばれるタイプの「多剤耐性遺伝子」が国内で
初めて大阪府内の病院の複数の患者から検出され、専門家は、早期発見のための検査態勢を早急に整
える必要があることを公表(NHK  2014.10.14)――それによると、大阪府立公衆衛生研究所がこ
とし1月
に明らかになった府内の病院での院内感染の患者11人を詳しく調べた結果明らかになった。
患者はいずれも緑膿菌(りょくのうきん)と呼ばれる細菌に感染し、菌からは、ほとんどの抗生物質
が効かなくなる「GESー5」と呼ばれる多剤耐性遺伝子が国内で初めて検出。
「GESー5」は、
院内感染の原因となるさまざまな細菌に入り込み、抗生物質に強い耐性を示す「多剤耐性菌」に変化
させる力がある遺伝子のことで、数年、ヨーロッパや南米で頻繁に院内感染のケースが報告され、ギ
リシャで同定――単離した化学物質が何であるかを決定――され、各国の専門機関が警戒を呼びかけ
ていたもの。



「GES(guiana extended spectrum の略)ー5」と同じようにほとんどの抗生物質が効かなくなる 多
耐性遺伝子は、国内ではこれまでに5種類が確認され、検査態勢が整えられているという。耐性菌

詳しい名古屋大学の荒川宜親教授によれば「国内のほかの病院でもすでに広がっている可能性もあ
る。
早期に院内感染に気づき対策を取れるよう各地の衛生研究所などで検査態勢を早急に整えるべきだ」
と指摘しているが、普通の「緑膿菌」は環境や人・動物などありとあらゆるところに生息しているが、
「多剤耐
性緑膿菌」は日常的に抗菌薬を使用している病院などにのみ分布するといい、対策としては
病院内の感染対
策と抗菌薬の適正な使用が主となる一方、日常生活においてはこの多剤耐性緑膿菌と
の接触がないために
感染のリスクはほとんどなく、仮に通院等で病院に行きこの菌と接触したとして
も、自然に排除され問題とはな
らないという。このため、普通に生活していれば恐れる必要は全くな
いという

 

ということは入院しなければ問題ないというレベルのものらしいが、不気味ながするのはこのわた
しだけというのだろうか。もう少し掘り下げて考えてみたいということで、ほぼ終日に渡りネ
ット検
索に入りお陰で眼精疲労などがピークに達する――GESが
guiana extended spectrumの略で、ESB
Lが、Extended-spectrum β -lactamases
の略で基質特異性拡張型βラクマターゼの意。βラクマターゼ
って言うのは、βラクタム系抗生物質っていうのを分解して無毒化するタンパク質で、
よく知られて
いるのはペニシリン。 薬剤耐性菌は、このβ-ラクマターゼを合成し、抗生物質を無毒化するが、問
題のGESは、β-ラクマターゼが分解できる抗生物質の種類が増え、パワーアップした遺伝子とタン
パク質――超強力な(いろんな種類の菌を殺せる)カルパペネムという抗生物質を分解する
能力を獲
得――抗生物質は効かなくなる。今回死者を出した緑膿菌はもともとペニシリンが効きにくい上に

ルパペネムも効かない。つまり、本人の免疫力頼みとなるが、対処方法はそれだけかとなると、どう
も、それだけではないらしい

 

つまり、多剤耐性(multiple drug resistance)は、ある微生物が作用機序の異なる2種類以上の薬剤に
対する耐性を示し、多剤耐性の発生機序としてはかつては突然変異によってのみ起こると考えられて
いたが、現在では薬剤に対する耐性の遺伝子をもったプラスミドの伝達もその要因の一つであると考
えられるようになってきた(なお、作用機序が同一の薬剤による耐性は1種類の耐性とみなす。多剤
耐性を起こした菌に対しては、従来使用されていた薬剤が治療効果を失うため、医学上問題となる)。
したがって、多剤耐性菌の蔓延の要因の一つとして抗生物質の不用意な使用が問題になっている。こ
れは平均寿命と健康寿命との関係性に看られるようであり、あるいは、"偏重思考"(柔軟性を失い、
凝り固まった精神状態)に陥らぬような生活スタイルが求められている。
 

因みに、現段階で耐性菌の種類は17種類――(1)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(2)
ンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)(3)
バンコマイシン低度耐性黄色ブドウ球菌(VISA)(4)
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)(5)多剤耐性緑膿菌(MDRP)(6)多剤耐性結核菌(MDR-TB
(7)
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)(8)ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性インフルエンザ菌
(BLNAR)(9)
広範囲薬剤耐性結核菌(XDR-TB)(10)ペニシリナーゼ産生淋菌(PPNG)(11)薬剤
耐性HIV(12)
アマンタジン耐性インフルエンザウイルス(13)タミフル耐性インフルエンザウイルス
(14)
クロロキン耐性マラリア(15)多剤耐性アシネトバクター(MRAB)(16)ニューデリー・メタ
ロベータラクタマーゼ(NDM-1)(17)
カルバペネマーゼ(OXA48型)産生能獲得、肺炎桿菌と大腸菌
がある(※この他に「交差耐性」という1種類だけでなく同時に別の種類耐性を獲得することがある
ので要注意)。

【参考】

http://glycoforum.gr.jp/science/glycomicrobiology/GM05/GM05E.html
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3414013/
http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06103/061030287.pdf
http://ac.els-cdn.com/S092485790800054X/1-s2.0-S092485790800054X-main.pdf?_tid=121935a4
-5457-11e4-861e-00000aab0f01&acdnat=1413369547_205e5deb9a989fb877dfb39ee13c048e

http://www.dspace.up.ac.za/bitstream/handle/2263/14075/Weldhagen_GES(2006).pdf?sequence=1
http://scialert.net/fulltext/?doi=jm.2007.486.490
http://www.infectiologie.com/site/medias/enseignement/2010/2010-BLSE-SPILF-SFHH-SFM-worldwide_Epidemiology_Glupczynski.pdf
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E5%89%A4%E8%80%90%E6%80%A7
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/multidrug-resistant-bacteria.html
http://www.iph.pref.osaka.jp/news/vol26/news26_2.html
http://www.goldshield1.com/index.php/fields-of-use/institutional-a-industrial
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/sa/condyloma/392-encyclopedia/433-mdr-pa.html

 




● 不倒不屈の稲の開発

実りの秋は台風の季節。近年多発している大型台風に耐えられる作物の育成は重要な課題。最強のイ
ネで知られる倒れにくい品種「リーフスター」の遺伝変異を調べ、低リグニン性と茎が強い性質を併
せ持つ謎を、東京農工大学大学院農学研究院の大川泰一郎准教授らが解明した。倒伏しにくい強稈性
の作物の品種づくりに道を開く成果。名古屋大学、富山県農林水産総合技術センター、農業生物資源
研究所との共同研究で、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に公表(2004.10.09)。

それによると、地球温暖化で集中豪雨や大型台風が最近増え、風雨による倒伏被害が拡大している。
茎が強くて倒れにくいイネの品種改良が世界中で必要になってきた。大川准教授らは2008年、食味が
良いコシヒカリと旧中国農業試験場(広島県福山市)で育成された中国117号をかけあわせて、強風で
も倒れない新品種リーフスターを作った。この新品種は茎が強くて長いにもかかわらず、茎の強度を
高めるリグニンが少なかった。リグニンが少ないのに、
なぜ茎が強いのか謎だったもの。

 

解析結果、リーフスターではリグニン合成酵素の遺伝子が変異していた。茎が太い中国117号よりもリ
グニン含有
量がさらに低い理由がわかる。このリグニン合成酵素の変異は中国117号から引き継がれた
ものでなく、選抜する
過程でコシヒカリの遺伝子に偶発的に生じた変異に由来。リーフスターの茎の
構造を蛍光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で観
察した。細胞壁を構成するセルロースとヘミセルロースの
密度が高く、茎の外周部に位置する皮層繊維組織が発達し、二次
壁がよく肥厚していた。内側にある
柔組織細胞の一次壁も厚かった。このような形質が低リグニンでも茎の強度を高める原
因となってい
た。この形質は中国117 号ではなく、茎が細く強度が弱くても皮層繊維組織がよく発達するコシヒカ
リから受け
継がれたことも確かめたという。この成果は、フィリピンなどでもスーパー台風の被害が
増えており、猛烈な強風でも倒れないイネの品種がこれからは必要になっている。リーフスターが備
える特性は、茎を強くする方法を示している点で有利であり、リーフスターよりもさらに茎が太くて
強いイネ品種を作ることで、他かのイネ科植物の育種の新しい指針にもなるという。

 

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スマート発酵工学

2014年10月14日 | 新弥生時代

 

 

 

【オールバイオマスシステム完結論 Ⅰ】

今夜はスマート発酵工学(『玉葱の涙から目薬』)の話。
「オールソーラーシステム完結結論」シリーズを掲載しているが、「東ガスと東大、藻類バイオ燃料
を効率抽出-加熱処理、航空機向け」(日刊工業新聞 2014.10.13)のニュースが飛び込んでき読み込
んでいたが、簡単に言ってしまえば、太陽光を利用する意味(光合成)では、この間のノーベル物理
学賞の受賞した青色発光ダイオードではないが人工光も必要かもしれないのだから、オールソーラー
システムとして処理してもいいが、航空機用ケロシン(ジェット燃料)向けに2030年までの
実用化を
ゴールにしているというのなら、バイオマス発電を含めた「オールバイオマスシステム」の実用化を
前倒しの意味を込め、ソーラーと同様にシリーズ「完結結論」として掲載できるんじゃないかと考え
た。もっとも、NPDソーラーバズ社の調査報告(2014.10.13)によると、2018年までに、高い変換
効率シリコン系ソーラーパネルの急速な伸長が起きると予想(下図参照)していることだし、バイオ
マスも開発速度バランスから2030年から前倒する必要があるという動機もあった。



 

 

さて、東京ガスと東京大学は藻類からバイオマス燃料油を効率的に抽出する技術を確立。従来は藻類
をいったん乾燥させてから油分の炭化水素を取り出していた。これを低温の加熱処理に置き換えられ
ることを発見し、抽出に必要なエネルギー量を半減。さらに抽出残さを発酵させ、発生したメタンガ
スを燃料に熱電併給することでエネルギー効率を一層、高めることに成功したという。






新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究として13年度まで4年間の研究で
実証した。光合成によって石油に近い炭化水素を生成する微細藻類「ボツリオコッカス・ブラウニー
」を培養液中で濃縮し、加熱処理後、水分を含んだまま溶媒で抽出したところ、最大で9割以上の炭
化水素を回収できた。「従来は圧力釜のような中で200~300℃くらいまで熱するのに対し、
熱処理では90℃でも十分、油が取れる」(東大大学院の芋生憲司教授)ことを確認したという。単
位当たりの投入エネルギーは従来の8・1メガジュールから4・1メガジュールに半減。回収した炭
化水素の発熱量はいずれも14メガジュール台でほぼ同じ。また、抽出残さを微生物で発酵させる際
溶媒のヘキサンが残っていると微生物の働きを弱めてしまうため、ヘキサン濃度の上限を明確にした。
その上でメタン発酵の実証を行ったところ、エネルギー回収率で70%以上を達成。この結果、全体
エネルギー収支で5・3以上エネルギー回収率で0・7以上の当初目標を達成したという。

 

 

 

以上、駆け足で(いつものことながら)でこの成果と展望を俯瞰した。昨夜のマツダのディーゼルエ
ンジンの開
発ではないが、木質バイオマスペレットのガス化プロセスにも応用できそうだし(タール
生成の抑制=タールフリー)、多角的に技術改良を進めていけば、例えば、スマート発酵工学的な視
点から進めていけば、前倒しも結構いけるんじゃないかと
思えた。



● 天気予報で物流を変える初の試み



天気予報で物流を変える取組として「需要予測の精度向上による食品ロス削減及び省エネ物流プロジ
ェクト」を実施するという。日本気象協会が気象情報を核として高度な需要予測を行った上、食品メ
ーカー(製)、卸売事業者(配)、小売事業者(販)と需要予測の情報を共有し、食品ロスの削減と、
返品・返送、回収、廃棄、リサイクルなどで不要に発生している二酸化炭素の5%
削減を目指す試み。
製・配・販を気象情報でつなぎ、協業してムダを削減する事業は国内で初めての試みだという。これ
は面白そうだ。

 


● 360度見渡すことができる個人用潜水艇

世界にはいろんなことを考えるひとが多くて楽しいね。
 

 

 

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第4のエコカー登場

2014年10月13日 | 環境工学システム論

 

 

● 広島カープとデミオの快進劇

マツダの小型車「デミオ」の受注が好調だ。9月9日の予約開始から半月足らずで販売目標の月5千台
を上回る7千台以上の注文が舞い込んでいる。好調な受注は新開発の環境と燃費性能に優れた1500
ccの小排気量ディーゼルエンジンを搭載したモデルを設定したことが大きく、全受注の7割近くに達
しているもようだという。ガソリンに比べて安価な軽油が使え、しかも燃費は1リットル当たり30キ
ロメートル。国内で200万円を切る唯一のディーゼル車に、マツダはハイブリッド車(HV)、電気
自動車(EV)、軽自動車に続く「第4のエコカー」として期待を一身に担っている(産経新聞 2014.
10.12)。

マツダはこれまで小型化、低価格が難しかったディーゼル車にどう立ち向かったのかその秘密を探る。  

通常のディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べて大きく、大気汚染の原因になる排ガス中の窒
素酸化物(NOx)を処理する高価な装置を装着する必要があり、小型車への搭載が難しく、価格も高
額になる――マツダが開発した小型のディーゼルエンジンは、この処理装置部分をなくした――ガソリ
ンエンジンに比べて圧縮比の高いディーゼルエンジンは、空気と燃料が混ざり合う前に局所的に不均一
な燃焼が始まってしまうため、NOxが生成されたり、酸素不足の燃焼によってPM(スス)などの有
害物質が発生するが、一般的なディーゼルエンジンの圧縮比は16~18程度。マツダは独自技術「ス
カイアクティブ」で14という低圧縮比のディーゼルエンジンをすでに開発。今回のデミオも14.8
と小型車で最も低い数値を達成。つまり、低圧縮化によって燃焼室内の温度が下がるので、空気と燃料
がきれいに混ざり合う時間を確保でき、均一な燃焼により有害物質の発生量を抑制に成功する(下図参
照)。↓


【解説】軽油を主体とした燃料が気筒内に供給され、その燃料が圧縮自己着火により燃焼するィーゼ
エンジンでは、NOx排出量の低減を目的の1つとして、その幾何学的圧縮比を、例えば15以下と
いった比較的低い圧縮比にすることが行われている。つまり、低い圧縮比は気筒内の燃焼を緩慢にし、
NOxの生成を抑制する。また、エンジンの低圧縮比化は機械抵抗損失を低減させるため、エンジン
熱効率を向上させる点でも有利である。
ところが、ディーゼルエンジンの幾何学的圧縮比を低く設定し
た場合には、圧縮端温度がその分、低くなってしまうため、例えばエンジンの低負荷かつ低回転の運転
領域においては自着火条件を満足し難くなってしまう。また特に、ディーゼルエンジンにおいては、供
給される燃料の性状によって、セタン価が低いほど着火性能が低くなってしまうため、運転条件及び燃
料の性状に係る要因が組み合わさったときには、自着火条件がさらに成立し難くなってしまう。
 

このため、エンジン1は、少なくとも相対的に低負荷かつ低回転である特定運転状態にあるときに、既
燃ガスの一部を気筒11a内に存在させるEGR手段を備える。EGR手段は、少なくともその一部が
エンジン1内に形成されかつ、通路長が所定長さ以下のEGR通路51とEGR制御弁51aと制御器
10とを含んで構成される。特定運転状態にあるときには、エンジン1は、気筒11a内の全ガス重量
Gと燃料の重量Fとの関係が、30≦G/F≦60を満足するように運転され、制御器10は、EGR
率が、エンジン1の幾何学的圧縮比εに対して、
(10-α)×(15-ε)+20-α≦EGR率≦60[%]
(但しα=0.2×外気温度[℃])を満たすように、EGR制御弁の開度を制御することで、自動車
搭載用の、特に低圧縮比(12~15)のディーゼルエンジン1において、燃料の着火性を確実に確保
する。
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→これを実現したコア技術は、圧縮比を低くすると、環境により着火しない場合がある。これを使用環

境に応じ適切に燃料を噴射することで低温時でも確実に着火――1回の燃焼の間に最大8回の燃料噴射
が可能――できるようにし解決した。つまり、高価な排ガス浄化装置がなくとも、世界でも厳しい排ガ
ス規制のポスト新長期(国内)、EURO6(欧州)に対応。ガソリン車との価格差を大きく縮小し、
価格の安い小型車への搭載を実現したというわけだが、課題はこれだけではない。小型化すれば表面積
が大きくなり熱損失(冷却損失)が大きくなるが――これを、ピストン上面が段形状をしたエッグシェ
イプと呼ばれる燃焼室(下図参照)を採用することで、ピストンが下がる際に発生する冷たい空気の流
入と温かい空気の流出を抑制する。

さらに、従来は噴射する燃料が燃焼室の壁に当たり、その壁面付近で燃焼するため熱が逃げやすくなっ
ていた
が、燃料を噴射する距離を短くすることで、燃焼室の中心で燃料が燃えるよう工夫し、燃焼室の
外壁から熱が漏
れる冷却損失を低減する(下図参照)。


【要約】ディーゼルエンジンのインジェクタ4は、燃焼室3の中心Pを挟んで相対向する位置に配置さ
れた第1噴射弁4Aおよび第2噴射弁4Bを有する。第1噴射弁4Aおよび第2噴射弁4Bの双方を通
る直線を対称軸SL、当該対称軸SLで燃焼室3の平面領域を二分した場合の一側を第1領域D1、他
側を第2領域D2としたとき、第1噴射弁4Aは第1領域D1に向けて燃料を噴射し、第2噴射弁4B
は第2領域D2に向けて燃料を噴射する。第1噴射弁4Aおよび第2噴射弁4Bから噴射される噴霧に
は、対称軸SLに対し7°以上15°以下の角度r1をもって噴射される噴霧が含まれることで、燃焼
室内の空気の利用率を高めてスート(煤煙)の発生量を低減する。

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日本ではこれまで、ディーゼル車は二酸化炭素の排出量がガソリン車に比べ少ないものの、黒煙をまき
散らすイ
メージが強いため敬遠されてきたため、「HV、EV、軽自動車が「エコカー御三家」であっ
たが、マツダのクリーン
ディーゼル車が普及価格帯の小型車にも入ってきたことで、ディーゼルが第4
のエコカーとして公認されるか注目を浴びることとなった。こういった環境技術開発を早く着手し、ト
ラックなどの産業用ディーゼル・エンジンの改良がなされなったのかについては、このブログでも掲載
指摘したが、ここにきてやっと実現したので、ホットした気持ちになった。さすが、マツダ!このよう
マツダの躍進を考えながら、クライマックスシリーズで阪神タイガースに敗れたとはいえ、広島カー
プの躍進とダブルところがあるように思えたが、これは無理っぽいか?!

● マツダ「新型デミオ=HAZUMIコンセプト」発表




 

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