極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

きょうの無知の知

2014年06月18日 | デジタル革命渦論

 

 

●負けても嬉しい160キロ

甲子園での160キロ連発に熱狂的な阪神ファンもどよめいた。1点リードの2回だ。先頭のゴメ
スに外角へ大きく外れるボール球が160キロを計測。2死後こんどは2ストライクから今成へ投
げ込んだ球は再び160キロ。恐るべし大谷翔平。自称、似非虎キチは、負けても嬉しい気分に包
まれた一瞬だ、有り難う若人よ、と。

 

●きょうの無知の知



ワイヤレスマウスとウインドウ7の不具合でここ数日リカバリー作業で疲弊しまくりでウイスキー
摂取量は日本ウナギが絶滅の危機だというのに、ここでは鰻登りの悪循環?パーソナルコンピュー
ティングのオペレーションシステムビジネスモデルの欠陥を指摘したのが1991年だから、もう20
年前にもなるなぁ~と思いながら、エレコム社製のUSB型無線マウスと旧式の有線マウスを併用
しながら何とか持ちこたえて使用しているが、最後のリカバリー(これまで2.3回リカバリー作
業を続けていた)を終了させ使っていたがまたもや動作不能となり、リスタートさせてみたが今度
は、リカバリー作業なしでマウス動作した。しかし、どうしてそうなったのかの理由がわからずじ
まいに終わっている。コンピューティング操作以外にこういう経験は無数あるのが勤労庶民の日常
だが、言葉にならない"現場"は満天の星の数だけあるよと、口笛吹き1つ頭を切り換えるが、なに
せ、時間のロスの痛手は隠せない。そんなとき、「温度差なしの摂氏100度以下で発電可能」という
記事が飛び込んだ。

それによると、 信州大学繊維学部の村上泰教授とエヌ・ティー・エスは、2014年6月18日、百℃
の温度下で1.5ボルト、数ミリアンペアの電力を得られる発電素子を開発。信州大学繊維学部で発
光ダイオードを点灯
させた。ところで、発電の原理については現在究明中としながらも「化学電
や半導体電池とは異なる新しいタイプではないかと考えている」というから驚きだ。熱を用いた発
電素子としては、ゼーベック効果を用いた熱電変換素子があるが、今回開発した素子は温度差がな
くても発電するため「同効果を用いたものではない」という。素子の構造は簡素で、アルミ合金電
極と銅合金電極の間に、活物質となる亜鉛化合物と誘電体化合物、導電性高分子の3種類を最適な
比率で混ぜているとする。この活物質を1cm角で1gほど用いてセルを試作し、LEDを点灯させるデ
モを実施した。具体的には、セルをドライヤーで温めることで、赤色LED3個を点灯させたほか、青
色LED1個に付け替えて点灯させたという。

 

開発のきっかけは、3年半前にエヌ・ティー・エスが「たまたま手掛けていた材料で電圧と微弱な
電流値を観測したことがきっかけ」。同社は、材料へのドープ技術を得意とする会社で、特殊な酸
化チタンの粉末材料の販売などを手掛けている。この素子の特徴は(1)素子の構造自体はキャパ
シタと近く、キャパシタ的な側面はあるが、酸化還元反応を示さないので化学電池とは考えにくい
(2)ゼーベック効果を用いた熱電変換素子とは異なりほとんど温度差がない状況下で発電する。
(3)熱光起電力(thermophotovoltaic:TPV)発電は、固体素子の輻射光をフィルタリングし太陽電
池と同様に光電変換するがこのような簡素な構造ではないという。 原理の基礎解明あるいは研究は
これだが、構成する材料が安価なことから、幅広い分野で利用できる――太陽電池は夏場などにモ
ジュールが60~80℃まで熱くなり、発電効率が下がることから、モジュール背面に新しい発電素子
を設置して発電効率の向上につなげられる。この他、温泉や廃熱を利用した発電をはじめ、夏場に
は80℃近くになる車内のダッシュボードなどへの設置が考えられる。さらに、発電開始温度を体温
近まで下げることができれば、衣服で発電したり、布団で発電したりすることも想定できる夢の
のエネルギー変換素子になる。

夢の低コストのエネルギー変換素子となれば、セメントと鉄鋼の膨大な投入が必要な原子力発電や
既存の水力・火力発電・配電システムを不要とする。また、現行の太陽電池のようにソーラーシュ
アリングを変えることにもなるだろう。「温泉の郷」では電気代は、固定価格買取制度フリーの「
電気フリーの郷」になるが、 それにしても、わからないことがわかる(無知の知)ということは、実に面白いの
で残件扱いとする。

●参考

特開2001-302944 塗膜形成組成物及びその製造方法並びにコーティング膜
特開2007-277646 熱伝導材、放熱構造を備えた装置、及び、熱伝導材の製造方法
特開2007-310223 光学装置
特開2008-069424 放熱体及び放熱材塗装用電着塗料
特開2012-062445 水性電着塗料、電着塗膜の製造方法および電着塗膜  
特開2013-170240 電析材料組成物、それを用いた電析塗膜および電析塗膜の製造方法
・特開2013-095622 光触媒用酸化チタニウム粒子およびその製造方法
特開2013-203917 ポリアセチレン系導電性高分子溶液、当該導電性高分子溶液の製造方法、およ
 び当該導電性高分子溶液を用いて作製されるポリアセチレン系導電性高分子膜
特開2013-225697 熱伝導性電子回路基板およびそれを用いた電子機器ならびにその製造方法   
 


 

●ソーラーシュアリングを考える。 

静岡県の太陽光発電システム販売事業者である発電マン(静岡市)が静岡県伊豆の国市の農地に、
国内で初めて「太陽光パネル回転式システム」を採用した営農型太陽光発電(ソーラーシェアリン
グ)システムを設置したニュースが頭に残りしばらく時間を割いて、ソーラーシェアリングについ
て考えてみた。ソーラーシェアリングは、農地の上にすき間を空けて太陽光パネルを並べ、農作物
と太陽光発電で日光を分け合い、農業と太陽光発電の両立を目指す。2013年に農林水産省が条件付
きで農地への太陽光発電システム設置を認めたシステムあるいは工法でビジネスモデル。
発電マン
が採用した回転式システムは架台に設置したパネルの角度を手動で調節できる。技術開発ベンチャ
ーのソーラーカルチャー(茨城県つくば市)が開発した(商品名「ソラカルシステム」)。作物の
生育に応じてパネルの角度を変えて、作物への日照を調整できる。

 

それによると、伊豆の国市の農地には今回、約1000平方メートルの田んぼと、同じく約1000平方メ
ートルの畑の2つの区画にそれぞれ出力44kW、計88kWの太陽光システムを設置した。田んぼでは稲
作を、畑でサトイモを植え、農作物を育てながら全量売電する。年間の売電収入は約400万円を見込
んでおり、農家にとっては営農の基盤強化につながる。このシステムは平常時の遮光率(太陽光パ
ネルが農地に届く日光を遮る比率)を35%で設計している。回転式を採用したことで、例えば稲作
の場合、多量の日光が必要になる6~7月の成長期はパネルの傾きを立てて田んぼの日照を増やすこ
とが可能になる。農水省は太陽光パネルの影響による農作物の減収を2割以内に抑えることをソーラ
ーシェアリング導入の条件としている。回転式はこうした条件への対応のほか、強風や積雪の被害
を抑えるのにも役立つとのこと。

なお、太陽光パネルは回転システムを操作しやすい、縦1470×横500mmという小振りのサイズ(出力
115W)を発電マンが独自に作製。パワーコンディショナー(PCS)はオムロン製を採用している。



ソーラーシュアリングはある意味、植物工場とオーララップするところがあり、密閉型からより離
れたオープン型に近いが、これは現在施行されているFIT、全量固定価格取制度と密接に絡んで
いるため、エネルギーの完全な地産地消志向モデルでもない。また、地球温暖化と大規模気候変動
という環境リスク本位制としての農業、あるいは食糧安全保障政策敵側面からも過渡的なビジネス
モデルるであり工法である。だからといって反対という立場ではないが、より完全なというか、理
想のモデルでないことはこのブログでも再三掲載してきたことだ(『環境品質展開とは何か』)。
つまり、「手前味噌でいうのだが、農産物の生産の高度化あるいは高次化には、植物工場を標榜し
た「発電・発光・遮光する農ポリフィルム」の方が「ソーラーシュアリング」よりも有利に思える
だが・・・」と。ところで、ドイツFIT政策がここにきて見直しがあり、これが日本の原発推
進派の巻き返しに使われている?ようだが、(1)このような日本の農業におけるのきめの細かい
ソーラーシュアリング・ビジネスモデルは日本独自のものでこれは、ドイツにはないものであり賞
賛されるべきものである。(2)変換効率25%超の技術をもつ日本のソーラーシステムをより強
力に推進することの方が経済的にも、環境リスク逓減に大きく寄与するものである。(3)その応
用展開の「発電・発光・遮光する農ポリフィルム」の中核技術である「量子スケールデバイス」の
開発研究―例えば、一定幅の透明基盤フィルムに量子スケール光電変換結晶を精密に埋め込んで、
太陽
光発電層をつくるとか、同じように量子スケール波長変換結晶を埋め込み植物の生長促進する
波長光を効
率よく照射するとか、あるいは、量子スケール熱電変換結晶埋め込み、余剰熱量を電力
変換し蓄電してお
き夜間の暖房に消費するとか、冬期の融雪・暖房用の地下大規模蓄電設備に蓄積
しておく技術・工法開発
を支援促進を行うことで、克服できると楽観的に見越している。そんな視
点から考えてみた。


  
 

 

自己回顧録模様のストーリー展開の「木野」 。しかし、「秋がやってきて、まず猫がいなくなり、
それから蛇た
ちが姿を見せ始めた」「一週間で三匹の蛇を目にするのは、いくらなんでも多すぎる
」という描写から
、急転し、ハルキ・ワールドに入っていく。今夜も、スロー・リードを楽しもう。  



  夏の終わりに離婚がようやく正式に成立し、そのときに木野と妻は顔を合わせた。二人で話

 し合って処理しなくてはならない案件がいくつか残っており、妻の代理人によれば、彼女は木
 野と二人だけでじかに話し合うことを望んでいた。二人は開店前の木野の店で会うことになっ
 た。
  用件はすぐに片付き(木野は提示されたすべての条件に異議を唱えなかった)、二人は書類
 に署名し印鑑を押した。妻は新しい青いワンピースを着て、髪はこれまでになく短くしていた。
 表情も前より明るく、健康的に見えた。首筋と腕についた贅肉もきれいに落ちていた。彼女に
 とって新しい、おそらくはより充実した生活が始まったのだ。彼女は店内を見回し、なかなか
 素敵なお店ねと言った。静かで清潔で、落ち着いた雰囲気があって、いかにもあなたらしい。
 そして短い沈黙があった。しかしそこには胸を震わせるものはない……おそらくそう言いたい
 のだろうと木野は推測した。

 「何か飲む?」と木野は尋ねた。

 「赤ワインがあれば、少し」

  木野はワイン・グラスを二つ出し、ナパのジンファンデルを注いだ。そして二人で黙ってそ
 れを飲んだ。離婚の正式な成立を祝して乾杯するわけにもいかない。猫がやってきて、珍しく
 自分から木野の膝の上に飛び乗った。彼はその耳の後ろを撫でてやった。
 
 「あなたに謝らなくてはいけない」と妻は言った。
 「何について?」と木野は尋ねた。
  「あなたを傷つけてしまったことについて」と妻は言った。「傷ついたんでしょう、少しくら
 いは?」

  「そうだな」と木野は少し間を置いて言った。「僕もやはり人間だから、傷つくことは傷つ
 く。
少しかたくさんか、程度まではわからないけど」

  「顔を合わせて、そのことをきちんと謝りたかった」

  木野は肯いた。「君は謝ったし、僕はそれを受け入れた。だからこれ以上気にしなくていい」

 「こんなことになる前に、あなたに正直に打ち明けなくてはと思っていたんだけど、どうして
 「そうだと思う」と妻は言った。「でも、言い出せずにぐずぐずしているうちに、最悪のかた
 ちになっても言い出せなかった」
 「でもどういう経緯を辿るにせよ、話の結末は同じだったんだろう?」
 「そうだと思う」と妻は言った。でも、言い出せずにぐずぐずしているうちに、最悪のかた
 になってしまった」

 
  木野は黙ってワイン・グラスを口に運んだ。実際のところ、そのときに起こったことを彼は

 もうほとんど忘れかけていた。いろんな出来事が順番通り思い出せない。ばらばらになってし
 まった索引カードのように。
  彼は言った。「誰のせいというのでもない。僕が予定より一日早く家に帰ったりしなければ
 よかったんだ。あるいは前もって連絡しておけばよかった。そうすればあんなことにはならな
 かった」
 
  妻は何も言わなかった。


 「あの男との関係はいつから続いていたんだ?」と木野は尋ねた。

 「その話はしない方がいいと思う」
 「僕が知らない方がいいということ?」

  妻は黙っていた。

 
 「そうだな、そうかもしれない」と木野は認めた。そして猫を撫で続けた。猫は喉を大きく鳴

 らしていた。それも今までになかったことだ。
 「私にこんなことを言う資格はないかもしれない」とかつて彼の妻であった女は言った。「で
 もあなたは早くいろんなことを忘れて、新しい相手を見つけた方がいいと思う」
 「どうだろう」と木野は言った。
 「あなたとうまくやれる女性はどこかにいるはずよ。相手を探すのはそんなにむずかしくない
 と思う。私はそういう人になることができなくて、残酷なことをしてしまった。それはとても
 申し訳ないと思っている。でも私たちの間には、最初からボタンの掛け違いみたいなものがあ
 ったのよ。あなたはもっと普通に幸福になれる人だと思う」
 
  ボタンの掛け違いと木野は思った。
 
  彼女の着ている新しい青いワンピースに木野は目をやった。二人は向き合って座っていたか
 ら、その背中がジッパーなのかボタンなのか、そこまではわからない。しかしそのジッパーを
 下ろしたときに、あるいはボタンを外したときに、そこに何か見えるのか、木野は思いを巡ら
 さないわけにはいかなかった。その身体はもう彼のものではない。それを見ることも、それに
 触れることもできない。彼はただ想像を働かせるしかない。目を閉じると、無数の暗褐色の火
 傷の痕が、彼女の滑らかな白い背中を、生きた虫の群れのようにもぞもぞと涯き、思い思いの
 方向に這って移動していた。彼はその不吉なイメージを振り払うために、何度か小さく首を左
 
  右に振った。妻はその動作の意味を誤解したようだった。

 彼女は木野の手に優しく手をかさねた。「ごめんなさい」と彼女は言った。「本当にごめんな
 さい」
 
  秋がやってきて、まず猫がいなくなり、それから蛇たちが姿を見せ始めた
 
  猫がいなくなったことに木野が気づくのに、少し日にちがかかった。というのはその雌猫は
 ――名前はない――来たいときにだけ店にやってきたし、しばらくまったく姿を見せないこと
 もあったからだ。猫は自由を尊ぶ生き物だ。またその猫はどうやら他でも餌をもらっているら
 しかった。だから一週間か十日姿を見せなくても、木野は気にしなかった。しかしその不在が
 二週間を越えると、少し不安になってきた。事故にでも遭ったのではないだろうか? そして
 不在が三週間に及んだとき、猫がもう戻ってこないであろうことを木野は直感的に悟った。

  木野はその猫が気に入っていたし、猫の方も木野に気を許しているようだった。彼は猫に餌
 をやり、眠る場所を提供し、できるだけそっとしておいてやった。猫は好意を示すことで、あ
 るいは敵意を示さないことでそれに報いた。猫はまた木野の店のお守りとしての役目を果たし
 ているようでもあった。猫が店の隅っこで静かに眠っている限りそれほど悪いことは起こらな
 い。そういう印象があった。
 
  猫が姿を消したのと前後して、家のまわりに蛇を見かけるようになった。
 
  最初に見たのはくすんだ褐色の蛇だった。丈はかなり長い。それは前庭に影を落とす柳の木
 の下を、身をくねらせながらそろそろと進んでいた。食品の入った紙袋を抱え、ドアの鍵を開
 けているとき、木野はそれを目にとめた。東京の真ん中で蛇を見かけるのは珍しいことだ。彼
 は少し驚いたが、さして気にはしなかった。裏には根津美術館の自然を残した広い庭がある。
 蛇が住んでいても不思議はない。
 
  しかしその二日後に彼は、昼前に新聞をとろうとドアを開け、ほとんど同じ場所で違う蛇を
 目にした。今度は青みを帯びた蛇だった。前のものよりは小ぶりで、どことなくぬめった感じ
 があった。その蛇は木野の姿を目にすると動きを止め、首を微かに上げて彼の顔をうかがった
 (あるいはうかがっているように見えた)。木野がどうしようか戸惑っていると、蛇はゆっく
 り首を下ろし、素早く物陰に消えた。木野はそこに何かしら気味の悪いものを感じずにはいら
 れなかった。その蛇は彼のことを知っているように思えたからだ。

  三匹目の蛇をまたほとんど同じ場所で目にしたのは、その三日後だった。やはり前庭の柳の
 木の下だ。今度のは前の二匹よりずっと体長の短い、黒みを帯びた蛇だった。木野には蛇の種
 類はわからない。しかしその蛇がこれまでの中では最も危険な印象を彼に与えた。毒を持った
 蛇のように見えたが、確信はない。彼がその蛇を目にしたのはほんの一瞬のことだ。蛇は木野
 の気配を感じると、はじけ飛ぶように雑草の中に消えた。一週間で三匹の蛇を目にするのは、
 いくらなんでも多すぎる。このあたりで何かが持ち上がっているのかもしれない。
  木野は伊豆の伯母に電話をかけた。近況を簡単に報告したあと、これまでに青山の家のまわ
 りで蛇を見かけたことがあるかどうか尋ねてみた。
 「ヘビ?」と伯母は驚いたように声を上げた。「あの這う蛇のこと?」


  木野は家の前で続けざまに目撃した三匹の蛇のことを話した。

 「あそこには長く住んでいたけど、そういえば蛇を見た覚えってないわね」と伯母は言った。
 「じゃあ、一週間のうちに三匹も家のまわりで蛇を見かけるというのは、あまり普通じゃない
 ことなんだね?」
 「ええ、そうね。普通じゃないことだと思う。ひょっとして大きな地震の来る前触れとか、そ
 ういうんじゃないかしら。動物は異変の到来を前もって感じ取って、普段とは違う行動を取る
 というから」
 「もしそうだとしたら、非常食を用意しておいた方がいいかもしれないね」と木野は言った。
 「それがいいと思う。いずれにせよ、東京に住んでいるかぎりどうせいつか地震は来るんだも
 の」
 「でも、だいたい蛇が地震をそんなに気にするものなのかな?」

  蛇が何を気にするかまでは自分にはわからないと伯母は言った。木野にももちろんそんなこ

 とはわからない。

 「でもね、蛇というのはそもそも賢い動物なのよ」と伯母は言った。「古代神話の中では、蛇
 はよく人を導く役を果たしている。それは世界中どこの神話でも不思議に共通していることな
 の。ただそれが良い方向なのか、悪い方向なのか、実際に導かれてみるまではわからない。と
 いうか多くの場合、それは善きものであると同時に、悪しきものでもあるわけ」

 「両義的」と木野は言った。
 
 「そう、蛇というのはもともと両義的な生き物なのよ。そして中でもいちばん大きくて賢い蛇
 は、自分が殺されることのないよう、心臓を別のところに隠しておくの。だからもしその蛇を
 殺そうと思った、留守のときに隠れ家に行って、脈打つ心臓を見つけ出し、それを二つに切
 り裂かなくちゃならないの。もちろん簡単なことじゃないけど」
 

  木野は伯母の博識に感心した

 「このあいだNHKを見ていたら、世界の神話を比較する番組で、どこかの大学の先生がそう
 いう話をしていた。テレビってけっこう役に立つことを教えてくれる。馬鹿にできないわよ。
 暇ができたら、あなたももっとテレビを見るといい」
 
  一週間に三匹も違う蛇をこのあたりで見かけるのは普通のこととは言えない――それが伯母
 との会話からひとつ明らかになったことだった。
 

                  村上春樹 著『木野』(文藝春秋 2014年 2月号 [雑誌] ) 

 

 

 

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