2024/03/16 読売新聞オンライン
「イチロー先生」と呼ばれ、村民の信頼も厚い武田さん(明日香村で)
明日香の診療所所長
明日香村国民健康保険診療所の所長を務める武田以知郎医師(64)が、日本医師会などが地域医療に尽力する医師をたたえる「赤ひげ大賞」に選ばれた。県内の地域医療に長年従事し、研修医らの受け入れなど後進育成に積極的な点も評価された。今後も「患者さんの生活や物語に寄り添った診療を行っていきたい」と話す。
親身な地域医療、後進育成
御所市出身、広陵町在住。へき地医療を担う医師を育てる自治医科大(栃木県)を1985年に卒業し、県立奈良病院(現・県総合医療センター)での研修後、初の赴任地が天川村の診療所だった。「その2年間、村の皆さんから様々なことを教わった」と振り返る。
「血圧が高い」「腰が痛い」――。診療所に来る村民が求めているのは、大学や病院で学んだ先端医療ではなく、日常生活を保つための病気の管理やケアだと気づかされた。以降、患者の生活の質をどう良くするかを考えるようになった。
一度、奈良病院に戻った後、再び大塔村(現・五條市大塔町)と天川村の診療所を掛け持ちする形で勤務。こうした経験を買われ、96年、当時の五條病院で「へき地医療支援部」の初代部長を打診された。小児科勤務だったが「地域の人によりよい医療を提供したい。天職だ」と覚悟した。
県内各地の診療所で赴任医師の要望に応じた派遣調整や支援に着手。医師の休日や学会出席時は、診療所を空けないよう別の医師を派遣し、常に過疎地域で診療する体制を構築した。
その後、「地域医療振興協会」(本部・東京)に籍を移し、協会が運営する市立奈良病院(奈良市)の開設に参加。軌道に乗ると「もう一度、地域医療を」と望み、2010年から明日香村の診療所で働き、約5000人の村民の「かかりつけ医」を続けている。
診察では、もちろん村民の持病の具合や健康状態を診る。だがカルテには、趣味や野菜作りに精を出していれば、それらも記す。「村で生きてきたその人の時間、生き方を知ることが診察の第一歩。それが生活を良くすることにもつながる」との思いからだ。
村では、村職員や介護職員、管理栄養士らとチームを組み、患者の自宅に往診する在宅医療・介護にも力を入れるほか、後進の育成にも積極的に携わり、診療所には医大生や研修医らが地域医療を学びに訪れる。
そこで伝えたいのは「人を 看み る、地域を 観み る」視点だ。「専門医であってもそうした視点を持った人が少しでも増えるよう、総合医の面白さを発信していきたい」と意気込む。
近畿で映画再上映
武田さんと患者らが向き合う様子を描くドキュメンタリー映画「明日香に生きる」が、近畿各地で再上映される。TOHOシネマズ橿原(橿原市)で18~20日、イオンシネマ高の原(京都府木津川市)では4月5日から。橿原は3日間全て、高の原では6、7日に武田さんや溝渕雅幸監督らのトークイベントがある。