処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

帰郷

2021-06-06 14:41:00 | 

著者 浅田次郎

出版 集英社文庫

252頁

  

  

先の大戦の兵隊の戦中戦後の生き様を描いた短編6作の作品集。

巻末の《解説》を、かつて3年間、「コレクション、戦争☓文学」(全20巻+別巻、集英社、2011~2013年)の編集委員として著者とともに作業をした歴史学者の成田龍一氏が書いている。

実によく作者と作品を理解され、個々の作品の概説とそこに投影される作者の心象について触れられている。これから読まれる方は、こちらを先ず、が宜しかろう。

氏は戦争文学の作家としての著者の位置を、斎藤美奈子の腑分けに従って「戦後第一世代」としている。つまり、”父母”が戦争経験者の世代である。ちなみに”祖父母”が戦争経験者を「戦後第二世代」と呼ぶ。この前段階、戦争小説は、その書き手は戦争の経験者が、自らの経験を語るのが王道であった。

解説は書く。「浅田さんが描く戦争小説は、父母の世代ー戦中世代への慰霊であり、そのことが人生の機微を感じさせる。運命を受容しつつ、大義に生きる父母への、「戦後第一世代」としてのメッセージが伝えられている。こうした小説が、非戦を訴えるものとなるのは必然であろう」と。

切なさと温かさと一途さと。時々の浅田小説で私は希望と活力を充填している。

第43回(2016年)大佛次郎賞受賞作。