スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

省エネを目指したスウェーデンの暖房

2006-01-10 09:47:54 | コラム
年末に記載した記事の第二弾です。
環境新聞『中海』の1月号に掲載されました。

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「スウェーデンの環境生活
~ 暖房に対する工夫 ~」

北海道よりも北に位置するスウェーデンの冬は、どれだけ寒いのか。私が住む町では、通常の年で零下10度、年によっては零下30度まで下がることがある。しかし、日本と違って空気が乾燥しているため、気温から想像するほどの寒さではない。体感では日本の冬と同じくらいと考えてもいいかもしれない。

それでも、冬が寒いことには変わりない。私も一年目は、冬に備えるために、セーターを日本からたくさん持ってきた。ところが、すぐに分かったのは、スウェーデンでは、どこの家でも建物全体を暖める、セントラル・ヒーティングを導入しているため、厚着は不要だということだった。スウェーデン人は屋内では、夏とほとんど変わらない服装をしている。しかも、外に出るときでは、コートやマフラー、毛糸の帽子で冷たい外気に備えるものの、ブクブクと着ぶくれするようなことはせず、コンパクトに済ませる。

さて、家全体を暖めるとなると、灯油代や電気代が高くつくだけでなく、エネルギーの消費量も多くなりそうだ。しかし、スウェーデンは寒い国だけあって、さまざまな方法でエネルギーの節約に努めている。

まず、建物の保温効果を高めることで、エネルギーの無駄を抑えている。たとえば、建物のほぼすべての窓が二重窓になっていて、間に挟まれた空気が断熱効果を発揮している。そのうえ、結露も防ぐことができる。そういえば、スウェーデンでは露で曇った窓ガラスをほとんど見かけない。また、空気の入れ替えにしても、出て行く暖かい空気に含まれる熱が、新しく取り入れる空気に移るような熱交換装置がちゃんと取り付けられている。

さて、熱源や熱の供給はどうだろうか。まずは集団暖房。市内の多くの住宅地では、温水管が日本の都市ガスのように張り巡らされている。温水はごみ焼却場の廃熱の利用したり、市のボイラー工場で作られる。この温水が各住宅に取り入れられ、各部屋に取りつけられたラジエーターを経て、室内を暖める、という仕組みだ。また、配給される温水は、暖房だけでなく、温水器の熱源にもなる。

市のボイラー工場では、おがくずを圧縮して作ったペレットや、生ゴミを利用して作ったメタンガス、廃油などを燃やすなど、いわゆる再生可能なエネルギー源がなるべく使われている。石油などの化石燃料の消費が抑えられるだけでなく、一ヶ所で集中させて効率的に燃焼させることで、エネルギーの損失が極力抑えられるというわけだ。

温水網を張り巡らせるためには、ある程度の密集した住宅地でないと、温水管からの熱のロスが多くて、逆に非効率になるのではないか、と思われるかもしれないが、スウェーデンでは5万人も住めば大きな町に数えられるぐらい、広い国土に人々が散らばって住んでいる。日本人の目からすると、そんな“村”のような町でも、温水供給が発達しているところを見ると、それは大きな問題では無さそうだ。むしろ、最近では断熱技術が進み、温水管を町の中心から数キロ離れた所まで延伸させる工事が各地で進んでいる。人口密度のはるかに高い日本では、なおさら、効果的な省エネ技術かもしれない。

それに対し、温水網が届かない郊外の一戸建てでは、灯油を地下のボイラー室で燃やして、それによってできた温水を各部屋に流すことで、部屋を暖めるやり方が主流だった。しかし、近年の灯油価格の高騰や、化石燃料に対する環境税の導入などによって、別の熱源に切り替える動きが最近は盛んである。

まず一つは、エアコン(熱ポンプ)である。日本でも、エアコンが暖房器具としても使われるように、スウェーデンでも、外気の熱を熱ポンプを使って部屋に取り込むことで部屋を暖めるのである。しかし、気温が零下10度を下回るようになれば、外気に含まれる熱源がなくなるため、この方法は使えなくなってしまう。

そこで最近人気があるのが、地熱を熱源に使った暖房。地中の温度は冬でも比較的高く、安定している。そこで、庭に100~200mの深さの穴を掘り、そこに熱交換器を入れて地中から熱を吸収し、屋内のエアコンに接続するのである。この方法だと、暖房コストが最大70%も節約されるという。もちろん庭に穴を掘るための初期投資が大きいが、それでも10年も使えば元が取れるのだそうだ。

先進国のかかえる重要課題の一つは、エネルギー消費とそれに伴う温暖化ガスの削減である。スウェーデンでも、①運輸、②産業、③家庭生活の各分野で、省エネに向けた長期ビジョンが立てられている。今回、ここに挙げたのは、暖房の分野におけるスウェーデンの試みだ。再生可能な燃料の利用、熱エネルギーの効率的な抽出、そして外気への熱放出の削減、という点に工夫がなされている。温暖化ガスの排出削減を目指して1997年に作成された京都議定書が今年の春から発効し始めた。スウェーデンはこれらの方法により、自国の当初の削減目標よりも6%も多くの温暖化ガスの削減に成功している。

スウェーデンの簡素なデザインが近年、日本でも流行り始めており、スウェーデンの木造住宅にも人気が集まっている。デザインだけでなく、上に挙げたような省エネ技術にも注目してもいいかもしれない。