スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンの大学事情 (2)

2005-01-28 08:41:05 | コラム
補助金制度は最大12学期間(6年間)給付が可能。学ぶ内容によって異なってくるが、学士号を取るのにかかる期間は6学期から7学期間、修士号は8学期から10学期間、そして卒業していく。だから、12期間という制限が許す範囲で余った期間は、自分の専門を絞る前に、関心のある分野が本当に自分に合うのかを知る「お試し期間」としても、一つの学位を終了したあとにさらに別の分野を学ぶための「分野拡大期間」としても使える。

実際、新入生の2割から4割が最初の1学期目・2学期目の間に脱落していくのだそうだ。最初は興味があったのだけれど、いざ囓りはじめてみると、想像していた教育とは違っていた、といって分野を変更する学生もいるだろうし、または、大学の授業についていけないといって投げ出す若者もいるだろう。もしくは、高校を卒業して、大学でも学びたいものの、さて自分にはどんな道が合っているのか分からないという若者が、ひとまず、いろいろな分野に触れてみるということもよくある。医者養成プログラムでは学生の適性を早いうちに見極めるために、1年目から“人体解剖”を始めるのだそうだ。こうすることで大学側(国、もしくは社会全体にとって、と言った方がよいだろう)は、コストのかかる医学教育を2年も3年も受けた学生が、途中で脱落してしまい、それまで社会がその学生に費やしてきた「投資」がパーになってしまうことを防いでいるのだろう。

さて、このような「お試し期間」もしくは「モラトリウム期間」に対しては、国費の浪費と呼んで、批判する者もおり、意見が分かれるところである(この後の“授業料導入論”参照)しかし、いまのところ社会の大勢が、若者が自分の将来の道を選べる自由を助長するものと、肯定的に捉えているようである。実際、一度その科目を選んでしまったがために「ホントはこんなはずじゃなかった」と思いつつも、それが後々の人生まで影響してくる、というような個人の適性と大学での学習内容、さらには将来の職業選択とのミスマッチが減って、良いことだと僕も思う。一人一人が自分の適性に応じて「納まるべき所に納まる」ということだろう。

学部(プログラム)を無事終了し、一つの学位を取得した後に、さらにもう一つという熱心な学生もいる。ある友人は、経済政治プログラムを終了し、学位としては経済学の修士号を取得したが、政治にも関心があるということで、政治学の修士号を取ろうと頑張っている。彼の場合、経済学と政治学の基本科目は共通なので、改めて一から始めるわけではない。4年生レベルの政治学科目をいくつか履修し、学士論文と修士論文を書く必要があるので、さらに2・3学期が必要となる。彼の場合は、補助金制度のあまりの期間がそこまで無いけれど、あとは論文だけという段階になれば、働きながら論文を書いて発表し、学位を取得することも可能だ。

ただ、90年代以降は、若者の失業がスウェーデンでも増えており、仕事があれば大学を離れていただろう学生が、所得代わりとなる学生補助金・ローンを得るためにいつまでも大学に残る、という傾向もある。大学制度が、失業した若者の所得保障として利用されている一方で、政府の見解としては「国際的な産業構造の転換に伴って、スウェーデン国内の労働需要が、より高スキルを備えた労働力に移っているため、国民の知識水準が高まっていくのはよいこと」としているが、現実問題としては大学を卒業しても職がない、というような若者が増えているのも事実だ。

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