スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

やり直しのできる人生

2006-01-27 08:16:00 | コラム
日本と同じように、スウェーデンでも義務教育は9年間で、その後3年の高校教育があり、大学で学びたいものはさらに進学をする、というシステムになっている。しかし、日本との大きな違いは、日本ではこのシステムがとかく一本道になっていて、途中でつまずいてしまうと、なかなか元の道に戻りにくく、失敗ができない綱渡りに近いのに対し、スウェーデンでは、人生のある時につまづいて挫折したり、道に迷ってそれてしまっても、それからいくらでもやり直しが効くということだと思う。

その典型的な例としては、例えば、大学進学に必要な高校の単位取得のための成人高校が市によって無償で提供されているために、高校卒業後、ある程度、時間が経ってからでも、しっかり勉強し直して、大学に進学して、本当にやりたいと思った勉強ができる制度などだ。むしろ、高校卒業後に、そのままストレートに大学進学する者は半分にも満たないのではないだろうか。学部レベルでも20代後半の学生をよく見かける。義務教育9年+高校3年と勉強・勉強の日々を終えた上に、今すぐ大学に進む気がなければ、しばらく働きながら、いろんな経験を積んで、その上で、さらに勉強したいことが見つかったり、資格を取りたくなったのであれば、それで初めて大学進学を希望するという“のんびりさ”が、スウェーデンのシステムには組み込まれている。

とはいっても、日本でも最近では、高校の定時制や通信制に力を入れ、高校をやむを得ず中退したものでも、後で高校の単位を取得できる制度はある。地元、鳥取県では高校の統廃合で廃校になった高校を利用して、定時制や通信制に特化した高校が新たに生まれたりしている。また、大学や大学院の門戸を社会人により開いていく動きがある。この流れはいいことだと思うが、やはり何らかの形で学ぶ者の経済的支援をしていく枠組みが備わっていなければ、そのような道は選びにくいのではないかと思う。その点、スウェーデンでは授業料無料だけでなく、学資補助金や学資ローンが国から支給されるなど、興味深い制度がたくさんある。

さて、このスウェーデンの“のんびりさ”を日本に紹介しても、モラトリウムの延長だ、とか、そのための莫大な社会的費用は税金から賄わねばならず非効率、とネガティブな面ばかりが強調されかねない。しかし、人生の道の選択を焦るあまり、不本意な道を選んで、後戻りができなくなったり、やる気もないのに(もしくは何を勉強したいのか分からないのに)なんとなく大学に進学して、高い学費を親に払ってもらう、という現状の問題点も指摘されるべきであろう。また、“引きこもり”や“ニート”という形で、社会から一歩退いてしまった若者でも、チャンスがもう一度あれば、自分の得意を生かしたり、能力を発揮できる若者もたくさんいるのではないかと思う。スウェーデンの“のんびりさ”==> “やり直しの効く人生”“一本道だけじゃない人生”という発想が、行き詰る日本にとってヒントになるかもしれない。

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スウェーデンの大学事情(1)
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