スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

温暖化対策に「原発」をどう位置づけるか?

2008-02-20 08:57:28 | スウェーデン・その他の環境政策
これまで「温暖化対策準備委員会」について書いて来た。スウェーデンでは温暖化対策のために厳しい抑制目標を自らに課し、税・補助金制度や排出権取引制度などを活用してこの目標を達成していく合意が、与野党を問わずすべての政党の間で出来上がって来たことを説明した。

とはいえ、すべての点で合意に至っているわけではない。前回書いたように、2020年までの削減目標にしても30%減40%減の間で折衝が続き、そして、スウェーデン国外での抑制分をカウントするのかどうか、という点についても議論が続いている。

一方で、面白いことに、2050年までの削減目標に関しては、既に75-90%減で合意に至っているというではないか!
Göteborgs Posten
(つまり、遠い先のことは皆「どうにかなる」と思っているのかもしれない。一方で、10数年先のことは、これから毎年毎年の取り組みの仕方によって成果が大きく異なってくるので、合意が難しいのだろう)

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意見が割れているのは目標だけではない。果たしてどのような手段でその目標をクリアするのか、についても異論も多い。特に与党である中道右派政党の間で意見が分裂している。

例えば、原子力発電について。スウェーデンは1970年代から80年代にかけて原発を12基建設し、現在では電力の半分を賄うまでに至っている(グラフはここをクリック)が、1970年代は同時に反原発運動が盛んだった時代であり、1980年の国民投票では「段階的廃止」が選択された。1999年と2005年に1基ずつ閉鎖され、現在は10基が稼働中である。

しかし、温暖化の議論の中で再び原子力発電が注目されるようになった。二酸化炭素を排出せず、安価な電力を供給可能であると考えられるためだ。現在議論されている厳しい排出抑制目標をスウェーデンがクリアすると同時に、スウェーデン産業の国際競争力の維持を図るためには、原発の意義を再検討する必要がある、との声も挙がっている。


原発新設を主張している自由党のCarl B. Hamilton

そんな声を挙げているのは産業界自由党だ。彼らは、高コストといわれる風力発電やバイオマス発電、さらには二酸化炭素税などによって電力価格が上昇すればスウェーデンの基幹産業、特に電力消費の多いパルプ・製紙や鉄鋼に大きな影響を与えることを懸念しているのだ。それに、高価な電力のために国内の事業所が閉鎖され、これらが温暖化規制の緩い国に移り、その国において発電効率が悪く、二酸化炭素の大量排出を伴う電力で生産活動を続けるのなら、元もこうもない、と考えている。

(注:但し、スウェーデンにしろ、EUにしろこの点はある程度、考慮されており、二酸化炭素税の課税も産業部門に関しては民生や運輸部門よりも軽減されている)

これに対し、左派の政党や中道右派の中でも中央党などは「原発ありきで議論をするのではなく、再生可能なエネルギーの開発や省エネ技術、道路輸送の抑制、二酸化炭素税などの税制を大いに活用することをまず考えるべき」と、原発に関する議論は拒否してきたのであった。(ちなみに、反原発の嵐が吹いた1970年代にこの運動を主導していたのは中央党(農業従事者を支持母体)だった。環境党はまだ存在していなかった。)

左派3党のうち、原発の即時閉鎖を主張している環境党を除く2党は、新設は認めないものの現在稼動中の原発は寿命が来るまで使い続けることを主張している。また、中道右派4党も連立政権を築くにあたって、次の選挙まではこの現状維持という立場を貫く、という合意をしていたのであった。

だから、前回の記事に書いたように、“この期に及んで”自由党が「原発を最終報告に盛り込め」と要求してきたのに対して、他の与党3党が苛立ったのも無理もない。
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原発に関しては、私自身はどうにも判断がつかない。温暖化対策だけを考えて、その即効性に着目すれば、原発の活用も仕方がない気がする。ただ、これはどう努力したところでエネルギーの消費量が爆発的に増えるであろう中国やインドなどでは妥当するかもしれない。一方で、高度な技術開発が今後さらに進むであろう先進国では、原発なしでもやっていける可能性もあるかもしれないと思う。