スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「温暖化対策準備委員会」(4)- 各政党の認識

2008-02-12 09:17:56 | スウェーデン・その他の環境政策
さて、温暖化対策に対する各政党の考え方はどのように変化してきたのか?(長くなりますが、一気に書き切ってしまいます!)

まず、2006年秋の総選挙で敗北するまで政権を担当してきた社会民主党と、これに閣外協力してきた環境党左党は、温暖化対策を含めた環境政策全般に積極的に取り組んでいくことを従来から主張してきた。名前からも想像がつくように、環境党がもっとも急進的な主張を繰り返し、予算編成にあたっての左派3党間の協議では、常に社会民主党をせかして、環境税制の拡張や環境対策予算の増額を強いてきたのだった。

一方、中道右派の4政党はどうだったのか? 2006年までの各党の主張を簡単にまとめてみるとこういう風になる。(以下ではディーゼル税は省いたが、ガソリン税と同様に考えられている)

保守党(穏健党):EU全体との協働で温暖化対策を行うことには賛成。ただ、あくまでホドホドに。ガソリン税は引き下げるべき
自由党ガソリン税は引き上げるべき。原発の増設。「ガソリン税の引き下げを主張するような党は、温暖化対策を真剣に考えているとは到底思えない」との発言
中央党ガソリン税は引き上げるべき。新しい燃料の技術開発にも力を入れるべき。
キリスト教民主党ガソリン税は引き下げるべき。それに加え、燃料にかかる一般消費税(25%)も12%に下げるべき。

と、このようにガソリン税や二酸化炭素税に関しては意見が二分していたのであった。2006年9月の総選挙が近づくにつれ、この4党で共同の「政策マニフェスト」を作成し、連立による政権の奪取を目論むことになるのだが、温暖化対策に関しては意見がまとまることはなかった。

保守党は経済界とつながりがあるものの、党としては環境政策にもある程度は力を入れることを公約に掲げていたため、ガソリン税の減税までを公約に明記してしまうと、党の環境政策の信憑性に傷がついてしまう。そのことを恐れたのか、自党の公約ではガソリン税減税をトーンダウンさせた。

一方、キリスト教民主党は、弱小政党であり、存続が危ぶまれていた。スウェーデンでは「4%ハードル」があり、全国での得票率がこれを超えなければ1議席も獲得できないことになっている。支持率が常に4%-6%を浮き沈みしていたこの党は、従来の「保守的家族観」の主張に加え、「ガソリン税減税」と「住宅資産税撤廃」を盛んに主張することで、新たな支持層の獲得を試みたのだった。

選挙前の討論番組でガソリン税減税を主張するキリスト教民主党の党首Göran Hägglund

時は折りしも原油価格の高騰が深刻になってきた頃。上記のように保守党がガソリン税減税のトーンを下げた今、このキリスト教民主党が唯一の「ガソリン税減税」政党になったのだ。「我々は燃料費の高騰に苦しむ一般家庭のことを考えている真剣な党だ!」 このことを大々的に売り込んで、支持率の巻き返しを図ったのだった。

キリスト教民主党のキャンペーン「ガソリン税を今すぐにでも下げよう!」

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さて、2006年総選挙の結果は、中道右派4党左派3党を打倒した。中道右派の第一党である保守党が中心となって、4党による連立政権が発足することになった。環境大臣中央党から選ばれることになった。


環境大臣 Andreas Carlgren(アンドレアス・カールグレーン)中央党。後ろに見えるのはストックホルム市庁舎

ただし、キリスト教民主党は「4%ハードル」こそ超えたものの得票率は6.5%と、前回の選挙での得票率(9.1%)よりも落ち込んでしまった。「ガソリン税減税」の公約は期待したほど支持を集めなかったようだ。(安い油に惹かれて票を入れるほど有権者も単純ではなかったのだ!
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前回のブログに書いたように、この総選挙の後から、温暖化問題が盛んにメディアで取り上げられるようになり、人々の関心も高まっていく。そのため、新政権としても活発な政策を打ち出していく必要が出てきた。(様々な要因が重なり、選挙直後から新政権の支持率は低下の一途をたどる。そのため、環境政策分野でポイントを稼ぐ必要も出てきたのだった。)

新政権が感じた圧力は世論だけからではなかった。温暖化の専門家を始め、国の機関である環境保護庁(Naturvårdsverket)エネルギー庁(Energimyndigheten)などが「スウェーデンの民生・運輸部門の排出量を抑制するためにはガソリン税をはじめとする経済インセンティブのさらなる活用が必要」と、独自の提言をし、それをメディアに発表したりしたのである。(スウェーデンで面白いのは「省」と「庁」が分離しているため、「庁」が比較的自由に活動できるところ)

そんなこともあり、2007年秋予算の策定にあたっては、ガソリンに対する二酸化炭素税の引き上げと、ディーゼルに対するエネルギー税の引き上げに踏み切ることが、連立与党4党の党首の合意で決まったのだ。保守党は与党第一党という責任ある立場にあるため、方針の転換を余儀なくされたようだ。一方、キリスト教民主党のほうは「しぶしぶ」という態度を見せ、あくまでも「ガソリン税減税」に向けてこれからも努力する姿勢を続けた。

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しかし、そんなキリスト教民主党も昨年12月についに音を上げた。従来の公約はもはや追求できない。温暖化対策への取り組みに党として責任ある立場で参加するためには、ガソリン税減税ではなく、むしろ増税を行う必要がある、との結論に達し、これまでの方針を180度転換したのだった。

党の政策転換の鍵となったは、伸び悩む支持率という外的要因の他に、党内部の要因も大きかった。EU議会の議員をしておりEUの環境政策に詳しく、さらにはこれまで私が連載してきた「温暖化対策準備委員会」にキリスト教民主党の代表として加わっていたAnders Wijkmanという党員がいた。「委員会」で他党と足並みを揃えた活動を行っていくうえで、自党の環境プロフィールの弱さが大きな障害だと感じたようだ。それまでも温暖化対策に積極的だった彼は、ついに党首や党執行部を動かして、党全体の路線転換に成功したのだった。

そして、この結果、国政政党7党のすべてが、温暖化対策に積極的に取り組んでいく姿勢を見せることになったのである。「温暖化対策準備委員会」での合意達成が比較的容易である背景には、このような長~い経緯があったのです。

(終わり)