スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

2007年4月に設置された「温暖化対策準備委員会」(1)

2008-02-04 07:34:25 | スウェーデン・その他の環境政策
EUの新しい温暖化対策目標について、先日書いたところだが、それとは別に、スウェーデン国内でも社会の発展と温暖化対策をどのように両立させていくのか、長期的ビジョンの模索が活発に続けられている。

スウェーデン議会は昨年4月に「温暖化対策準備委員会(Klimatberedningen)」を設置した。2008-12年、およびその先を視野に入れたの自国の目標を達成していくために、スウェーデンはどのような環境政策を追求していくべきなのかを調査するとともに、現行の取り組みはどうかという評価を行うのが役目だ。

党派の利害を乗り越えて、今後のスウェーデン社会の将来像を形作るためには苦労も多いだろう。しかし、現状の認識や、目標の策定、そして、その目標に到達するための具体的な手段・・・、といったステップを踏みながら合意が形成されていく過程は面白いと思う。

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国会が設置したこの委員会は、メンバーは国政政党7党のそれぞれからの国会議員によって構成されている。ただし、代表は非政党系の識者。
写真の出典:Sveriges Radio

<代表>
Hans Jonsson

<メンバー>
自由党: Carl B. Hamilton
中央党: Claes Västerteg
キリスト教民主党: Anders Wijkman
保守党(穏健党): Sofia Arkelsten
社会民主党: Lena Hallengren
左党: Wiwi-Anne Johansson
環境党: Maria Wetterstrand
(ちなみに最初の4党は与党(中道右派連立)、残りの3党は野党(左派ブロック))

委員会が設置されると、その委員会が限られた時間内に何をすべきかを細かくあげた指令(ミッション)議会から発布される。そのミッションを詳細に見てみると・・・

- 2008-12年に向けた国としての目標に到達する可能性を評価し、さらにどのような対策が必要かを明らかにせよ。(ちなみに京都議定書における目標(4%減)は既に達成している。なので懸案はそれよりも厳しい“国としての目標”なのだ)

2020年および2050年までの国としての温暖化ガス排出抑制目標を提案せよ。

提案されたその目標を達成するために必要な措置や手段に関しての行動計画を提案せよ。(例えば、国内外における措置、技術開発、技術移転、排出権取引の活用、経済インセンティブの活用など)

-将来に向けた排出抑制の取り組みに関する国際交渉におけるスウェーデンの立場がEUや他の先進国、そして途上国に対して、どのようなものなのか、事実に基づく見解をまとめよ。

-EUで検討されている排出権取引の他産業部門への拡大に関して、他の温暖化対策手段との効率面での比較や、国家財政に与える影響、スウェーデンの産業の国際競争力に与える影響をまとめて意見を提出せよ。

-将来の効率的な気候変動対策に関して、長い将来を見据えた国際合意が達成されるために、スウェーデンはどのような形で貢献できるのか、事実に基づく見解をまとめよ。


以上が、ミッション(指令)の要点だ。国内外における温暖化対策を形作っていくために必要な様々な側面が、この指令の中に盛り込まれていると思う。

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委員会の代表Hans Jonsson(ハンス・ヨンソン)氏は、以前は農業従事者全国協議会(LRF)の代表をし、EUの農業政策にも詳しい人物らしい。

この委員会が設置された昨年(2007年)4月の段階で、「異なる政党を集めて、統一した見解をまとめるのは大変ではないか?」とのメディアの質問に対し、「いや、そんなことはない。」と答えた上で、さらにこう付け加えている。

– Min ambition är att vi ska ha en gemensam stark klimatpolitik i Sverige. Min utgångspunkt är: om vi i Sverige inte kan enas, hur ska då världen kunna göra det?

私の熱意は、スウェーデンとして皆が納得できる強力な温暖化対策の政策を築き上げることだ。スウェーデンにいる私たちですら合意に達することができないとしたら、世界はどうやって合意を達成すればいいというのだ!? 任務を始めるにあたっての私のスタートポイントは、このような考え方だ。」

このように、政党の垣根を越えて、国としての合意を作り上げるとともに、2009年12月にデンマークのコペンハーゲンで開かれる温暖化防止国際会議(COP15)に向けてスウェーデンとして準備をすることも、この委員会の具体的な任務の一つだ(上のミッション一覧参照)。このとき、スウェーデンはちょうどEUの議長国であるため、スウェーデンの果たす役割が重要になると考えられている。

「スウェーデンは研究や技術に関して大きく進んでいる。同時に、京都議定書が次のステップに移るための重大な協議が行われるときに、小さなスウェーデンが偶然にも議長国であるということは、大きな可能性を意味している」と彼は述べている。

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委員会は、以上の調査結果を今年の3月4日までに提出することになっている。

政策決定に影響力を持つ者が、本当に熱意(アンビション)を持って温暖化対策に取り組み、目標だけでなく、それに到達するための具体的な政策提言を行い、さらには後の事後評価がきちんとなされるならば、難しい問題も解決可能だという気がする。

日本の政治に対する希望も、まだまだ捨ててはいませんよ!

(続く)