自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

韓国併合から100年

2010年01月10日 | Weblog
(朝刊より)
 ソウル中心部で昨年10月26日、一つの式典が盛大に開かれた。明治の元勲・伊藤博文を朝鮮の独立運動家、安重根が中国ハルビン駅で暗殺した事件から100年にあたる記念日だった。
 事件は韓国では「義挙」とたたえられている。この式典が政府主催だったことをみても、安重根の存在の大きさがわかる。鄭雲燦(チョン・ウンチャン)首相は式辞で「民族の魂の表象だ」と述べた。
 この日に合わせて、伊藤博文暗殺を題材にした新作ミュージカル「英雄」が開幕し、大みそかまで上演された。
 安重根は事件翌年の1910年3月に刑死する。5カ月後、日本は「大韓帝国」の国号を使っていた朝鮮に条約を強いた。韓国併合条約である。
 朝鮮と旧満州の支配をめぐる日露戦争に勝った日本は、この条約によって朝鮮半島を植民地にした。植民地支配は以後35年間続く。それがもたらした朝鮮の人たちの苦痛と憎しみは、戦後の日韓関係の底流を形づくる。
 韓国併合から1世紀。目の前の世界もアジアもいままったく異なる姿だ。これに目をこらせばなおのこと、歴史を顧みて、日韓関係の重要性を思い起こすことがこれほど重要な時はない。
 東西冷戦下の65年、日韓両国は米国の後押しもあって国交を結んだ。当初は自民党政権と韓国の軍事独裁政権との黒い癒着も抱え込んだ時代だった。
 今はどうか。国交正常化のころ年1万人だった日韓の往来は、日に1万人を優に超える。文化・芸術の交流は深まり、経済のパイプも巨大だ。この現実に政治の関係が追いつかなければならない。
 鳩山首相は8日、韓国の李明博大統領と日韓の新たな共同宣言を出す意向を明らかにした。そこに豊かな理念と連帯の精神を盛り込みたい。
 15年前、戦後50年の「村山首相談話」をはじめ、政府は過去への反省を語りはしたが、自民党や歴代政権内にそれを否定する人々もいて、不信の目を向けられ、率直な意思疎通が妨げられることもしばしばだった。
 鳩山首相は、日本が行った植民地支配とアジア侵略の歴史を直視し、それを踏まえ、いまや大変化をとげるアジアの中で、日本が平和と繁栄に貢献する構想を語ってほしい。
  鳩山政権は、戦時徴用されて日本企業で働きながら賃金をもらえなかった韓国人の資料を韓国政府に渡し、徴用被害者対策に協力する方針だ。一つ一つは目立たない方策でも、こうしたことを着実に積み重ねていけば、わだかまりを解くことにつながる。
 日韓ともに、互いに学び合う姿勢が大切だ。意見は一致しなくても、違いの背景や相手の立場を知る。単眼でなく複眼で見て、冷静に対応していく努力が必要だろう。
 冒頭に紹介したミュージカル「英雄」は、初代の韓国統監を務めた伊藤博文を単に朝鮮収奪を導いた悪者とはとらえていない。当時の日本が置かれた国際的な立場にも思いをめぐらし、彼の苦悩も描こうとした。演出した尹浩鎮さん(61)は「安重根も伊藤も、ともに祖国にとっては英雄であり、それぞれ東洋平和を思い描いていた。伊藤を侵略の元凶とだけ見ては全体はわからない」と語る。20年、30年前の韓国ではそんな描き方はできなかっただろうとも言う。
 韓国の経済発展と社会の成熟に伴う自信の表れでもあろう。ものごとを相対化して多様に見る。そんな姿勢を日本と韓国の両側で、もっと育てたい。(但し、相対化して多様に見ることの出来ない厳然たる加害事実を認める度量を日本人は持たねばならない。)

 
(日韓(韓日)関係の歴史を知ることが今もなお極めて重要である。ドキュメントではないが、一昨日読み終えた帚木蓬生『三たびの海峡』は、連行されてきた韓国・朝鮮の人々がなめた辛酸を描いて秀逸な作品である。ついでに、このところ帚木蓬生作品にはまっています。)