亡き兄は海鼠の酢のものが好きだった。聞くところによると父も好きだったらしい。僕はといえば、食べなくて済むものなら、食べたくない。偏食を殆どしないが、海鼠は食べる気になれない。あの姿形の海鼠を最初に食べた人が何処の誰かは知らないが、知る術も勿論ないが、エライ人だと思う。寒く冷たくなる程に美味になるらしい。
人間の海鼠となりて冬籠 寺田寅彦(1878~1935)
物理学者、随筆家としての寅彦は、漱石に英語と俳句を学び、熱心に句作した時期があった。この句、冬籠している人間の様子を海鼠に喩えただけなのだが、だんだん動きが鈍くなっていくその有様はいかにも海鼠である。この「人間」は寅彦本人で、おそらくは自嘲の句である。海鼠を食べることを好まない僕も「海鼠になりて」というところだけは寅彦に似てきた。
海鼠のお好きな冬彦さんに叱られるだろう。寒くても犬のように外を駆け回ることを冬彦さんは僕に勧められるだろう。ところで、犬は海鼠を好んで食べるだろうか? 愚問の極みである。
人間の海鼠となりて冬籠 寺田寅彦(1878~1935)
物理学者、随筆家としての寅彦は、漱石に英語と俳句を学び、熱心に句作した時期があった。この句、冬籠している人間の様子を海鼠に喩えただけなのだが、だんだん動きが鈍くなっていくその有様はいかにも海鼠である。この「人間」は寅彦本人で、おそらくは自嘲の句である。海鼠を食べることを好まない僕も「海鼠になりて」というところだけは寅彦に似てきた。
海鼠のお好きな冬彦さんに叱られるだろう。寒くても犬のように外を駆け回ることを冬彦さんは僕に勧められるだろう。ところで、犬は海鼠を好んで食べるだろうか? 愚問の極みである。