美しき五月という常套句がある。
美しき五月のなかでも美しいのは陽光に輝く若葉であろう。
朝の髪結ふ肘高く柿若葉 岡本 眸
主婦が割烹着姿で手を拭きながら見上げる柿若葉。柿若葉は、楓の若葉などと異なり、庶民的な若葉だ。やや分厚な葉が不透明な緑の影をつくる。農家の庭にあったり、裏庭にあるのがふさわしい。その他に、盛り上がるような樟若葉も美しい。楢や橡などの雑木林がいっせいに芽吹き、若葉するときの美しさには喜びを感じる。
五月の味覚では蚕豆(そらまめ)。冷凍や温室栽培の多いなかで莢(さや)のついた蚕豆は天日のあたる畑で収穫された野菜だ。ひとかかえにもなるのを買ってきて、莢をむく。
そら豆はまことに青き味したり 細見綾子
蚕豆は甘く煮たり、飯に炊き込んだり、いろいろの食べ方があるが結局は塩茹でに限る。魚では初鰹。鯵もしゅんに入った。
ところで、美しき五月という常套句は、本来は冬が長く、春が来るのが遅い北国の言葉だろう。日本ならば北海道。梅、桃、桜、ライラックなどがいっせいに咲く五月。メーデーも本来は冬が去り春が来たことを喜ぶ、英国の春祭だ。英国の清教徒が初めて米国に渡った船の名がメーフラワー号。メーフラワーとはサンザシの花だそうだ。