近頃は東京へ行く機会がないが、行った時は駒場の日本民藝館を訪れた。
初めて訪れたのは30年以上前。
柳宗悦の肝いりで1936年に竣工したこの民藝館に入ると、気分が落ち着く別世界。
最初に目に入ったのが、染付秋草文面取壺。
李朝白磁の逸品だが、元々は朝鮮国内では雑器であった。
その美に着目したのは、淺川伯教(のりたか)・巧兄弟であり、伯教が宗悦に贈り、宗悦が朝鮮の焼き物の美に初めて魅せられたという逸話がある。
大正から昭和にかけて、日韓併合時代の京城(現ソウル)に暮らす日本人兄弟が居た。昔ながらの朝鮮服を着て、木履をはいて町を闊歩する。
彼の地にすっかり溶け込んだ生活の中で、彼らは李朝工芸の美しさを見出し、それを宗悦などの日本人に伝えた。
淺川兄弟が心底ほれこんだ、健やかで愛らしい李朝の美。それを典型的に表しているのが、染付秋草文面取壺だと思う。
淺川巧は林業技師としても朝鮮の白松などの栽培方法を研究したが、同時に兄と共に朝鮮の日常生活の中にある工芸品の美を初めて見出した。
困難な時代にあって、相手国の日常の美に着目できる程に器量の大きな人物だったのであろう。巧は朝鮮の土となっている。
朝鮮(韓国)の人々は兄弟への尊敬の心を今も失っていないと聞く。
隣国との間柄は、こうでなくてはと強く思う。もちろん隣国と、だけではない。