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倒れたる案山子の顔の上に天 西東三鬼

2016年09月20日 | 俳句
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西東三鬼
倒れたる案山子の顔の上に天
住宅街を下って江戸川へ出る道筋に田んぼがあった。夏には蛍が飛び交い秋には黄金の実りを迎えていた。そこの案山子を例年楽しんでいた。のの字の案山子が青い空にぽっかりと浮く白い雲の流れを見ている。こせこせと世を煩う生活の苦しみなんぞを知らぬかのような円い顔だち。無垢な天がその顔を覆っている。その案山子が倒れ打ち捨てられた。今年巨大な物流センター構築の為田んぼが埋めたてれられたのだ。再び地元に案山子の顔を見る事はなくなる。天高し。『俳句』角川(2015)所収。:やんま記