焼酎のオンザロック

ただの好み。

チャイルド44

2009年01月12日 13時41分43秒 | 本や映画、音楽
 ミステリーというか途中からサスペンスである。ややこしい事を言ってるが、どうもミステリーというのは犯人が不明で読者も犯人当てを楽しむもの、サスペンスというのは犯人は分かっているが主人公がいかにして犯人に肉薄するかを楽しむものという定義があるそうだ。

 つまり例えば刑事コロンボはサスペンスという訳である。この小説は大体犯人の見当は付くし途中から読者には明らかになるのだが犯人が誰であるかがテーマではないので、ある意味では最初からサスペンスかな。

 話はロシアで起きた実話を元にしている。小説では男女の子供が44人惨殺される(実話では結果的に52人)。全裸で森や線路沿いといった人気の無いところに放置されている。性的な暴行は全く無いが胸部・腹部は切り裂かれており胃袋が切除されている。

 ちなみに実話はスターリン体制化ではなくペレストロイカ後1980年代に起きた事件だが、舞台を30年ほど昔に設定している。そのため捜査の困難さに加え社会全体との戦いという困難さが強調されている。

 問題は舞台がスターリン体制下のソビエトで理想革命を達成したこの国では犯罪は無いはずなのだ。つまり殺人事件は起き様もなく全ては事故のはずだから犯人の捜査は行われないのが普通という世の中なのだ。

 主人公は国家保安省の役人、戦争の英雄でもありエリートである。最先鋭の国家の手先で少しでも怪しい人間を逮捕するのが仕事である。怪しいという意味は国家に反逆心を持っているかどうかということで、もし誰かにあいつはスターリンを冗談の種にしたとでも密告されたら逮捕後西側の手先かどうか仲間がいるかどうかについて拷問され収容所送りか死刑にされる。

 逮捕された者が捜査の結果無罪ということで釈放されることは絶対無い。それは国家の行動が間違いだったということになるからだ。国家に間違いは無いというのが前提である。だから逮捕されたら有罪を認めるまで拷問される。

 そんな社会が舞台である。

 主人公は子供が殺されたという訴えを受けるが状況も確認せずに事故として扱う、というか遺族に事故であることを押し付ける。そうしなければ遺族が逮捕される可能性があるからだ。

 そんな時部下の策略で主人公の妻にスパイの疑いがかかる。主人公としては妻を逮捕し尋問しなくてはならないのだが、捜査の結果から妻は無実だと主張してしまう。

 主人公はエリートコースから外れて田舎町の民警の下っ端に飛ばされる。これでも運がいい方である。

 この田舎町で子供の殺人事件に出くわす。その状況が以前自分で揉み消した事件と酷似している。国家に対する忠誠を失いつつある主人公は子供に対する連続殺人ではないかと捜査を始めるが、捜査すること自体が国家への反逆になる体制下で如何に犯人に迫るかというサスペンスである。

 妻との関係や悪辣な部下の策略との戦い、また田舎警察でようやく協力者を見つけることができたり、一旦は逮捕され収容所に向かう列車からの脱走やら手に汗握る物語。

 読んで損は無い小説である。

 この小説は現在のロシアでも発禁、新生ロシアの本質はソビエト時代とそう変わりは無いようだ。




 
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2 コメント

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Unknown ()
2009-01-12 13:53:12
そんな恐ろしい時代があったんですね…。
犯罪はないはずだから、事故。
被害者や被害者家族は無念ですよね…。

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Unknown (多摩爺)
2009-01-12 17:07:01
私も年末年始は、奥さんに付き合ってミステリー三昧でした。

ただし、西村京太郎シリーズですが・・・
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