焼酎のオンザロック

ただの好み。

船に乗れ

2010年03月24日 20時45分25秒 | 本や映画、音楽
 真っ向勝負的な青春小説である。いや真っ向勝負というのはちょっと違うかもしれないが面白い。今時よくある不良少年(古いか)がスポーツに目覚めるやつではない。全く無い。

 主人公「ぼく」の環境は特別なもので、まず金持ちである。それに親戚は皆プロの音楽家、祖父は新生学園という音楽大学の学長でパイプオルガンの奏者、何故か両親だけは音楽家ではないが「ぼく」は小さいときから音楽の教育を受けチェリストを目指している、という具合である。

 実はこの本、子供が買ってきたのである。自分ひとりでこの本を選ぶことは無かったろうと思われるが読んで正解であった。

 物語は今の「ぼく」、既に47~48歳になってしまった「ぼく」の回想である。

 「ぼく」は芸大付属高校を受けるが落ちてしまう。仕方なく祖父が学長を務める新生学園の付属高校音楽科に入学する。物語は彼の三年間の物語、そして卒業後の歩みをざっと語って終わる。

 主人公は高校生なのにニーチェを読んだりしているちょっと鼻持ちなら無いところもあるが、そんな見栄を張ったような読書も普通の高校生なのだと思う。

 同じ音楽科のバイオリン専攻の女の子との幼い恋、しかし恋人は「ぼく」が二年生の夏休みにドイツに留学している間に妊娠し見知らぬ男と結婚して去ってゆく。自棄になった彼の言動で大好きだった哲学の教師を退職に追いやってしまう。文化祭やオーケストラの発表会に向けた練習や本番のあれこれ。音楽への情熱と挫折、友人達との気持ちの良い友情。

 クラッシックを中心としたあれこれは普通の高校生とは違うのだろうが、音楽について疎くても充分理解できる物語である。

 結局「ぼく」はチェロをあきらめ、二浪して二流か三流の大学に入り平凡な就職をすることになるのだが、輝いていた、そして後悔に満ちた三年間の記憶と時間の流れと人生というものに対する思いがよく描かれている。

 お薦めである。

 それにしても僕自身は今まで何をやってきたんだろう。




 
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