焼酎のオンザロック

ただの好み。

終わった人

2018年10月19日 09時15分26秒 | 本や映画、音楽

 まさに自分の事ではないか、ということで読んで見た。

 物語は大手銀行に勤め役員になれずに子会社の役員に転籍した男が定年退職した日から始まる。主人公は東大の法学部卒という設定である。退職日当日主人公は「定年というのは生前葬だな。」と思うのだが、埋葬されずジタバタする様子を描いていく。

 定年は63歳という設定で、役職を降りて65歳まで勤めることも出来るがちょっと意地を張って断っている。

 主人公は盛岡出身、地元一の進学校を目指して努力し更に現役で東大文Ⅰの合格、その後一流の銀行に勤め仕事は人一倍やってきたとの自負はあるが、それでも役員になれなかった。上からの引きが無かったというのがその理由であったことが示唆されている。

 所謂田舎天才であるが銀行で役員になれなかったという挫折をいまだに悔しがっていて、定年後もまだ俺は終わっていないと思い続けている。しかしトンポウ(東大法学部)だったら銀行に勤めた時点で挫折だと思うが、そのことには触れていない。作者は大銀行に勤めればエリートコースだと考えているのだろう。

 妻は良いとこのお嬢さん、夫婦が住んでいるマンションは妻の父親が残した物で妻名義である。後半で示されるが主人公には一億円を超える資産がある。また妻は四十の手習いで得た美容師の資格を生かし独立した美容院を開こうとしている。

 経済的な苦労は無く退職後も公的年金と企業年金で年収は500万円を超える境遇にあり健康的にもまだ問題は無い。問題は毎日の時間潰しである。仕事というか毎日通勤するという義務が無いとすることが無いのである。

 この辺の感じは全く良く分かる。テレビはワイドショーだらけで面白くないし本を読むのも毎日だと飽きが来る。

 主人公は再就職に挑戦したりジムに通ったり大学院入学を目指したりジタバタするが基本的に周りの老人達と馴染めない。まだ現役気分が抜けないのである。ふと知り合った女性(といっても39歳のおばさん)との関係もジタバタである。

 このジタバタ振りと内心の思いが描かれているがその考えが60歳を超えたそれなりの知能がある人間とは思えないほど幼稚である。経歴と経済状況に比して思考が単純で視野が狭すぎるような気がする。

 ジムで知り合った若いIT企業の社長に誘われて顧問となり、その社長が夭折したため社長業を引き受け、以前からあった海外との商談が商談相手のバックにいた政治家が収賄で潰されたことで挫折し会社は倒産、個人資産の大半を失ってしまう。詐欺師のような悪人は全く出てこない。

 零細企業等は銀行から融資を受ける、というか借金する時に社長の個人資産を担保にさせられるために個人資産を失ってしまうのであった。

 当然妻との関係は冷え切ってしまうのだが、何故か故郷の盛岡に帰る方向になって行く。この辺は何となく不思議である。まあ、実母は少しボケてきているがまだ元気だし、近くに主人公の妹もいるので深刻な介護の問題は無いにしても、そもそも定年退職する時点で故郷へ帰ることを考えなかったというのが不思議なのである。

 移住までしなくても親の相手をするために行ったり来たりの生活をしなくてはならないだろうと考えるのが普通ではないだろうか。親の相手ができるのも健康な間だけだし、親が重篤な認知症になってしまってからでは相手も何もあったものでは無い。本格的な介護になってしまう。

 今になって漸く故郷、しかも高校時代の同級生が皆地元でしっかりしており主人公を暖かく迎えてくれる雰囲気である。そううまく行く訳が無い。ちょっとリアリティーが無さ過ぎる。

 物語は緩やかな結末に終わり、そこそこ面白いのだがなんだかちょっと違うかな、という感じが拭えない。




 


 

 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 怪しい空模様と新ツール | トップ | テレビドラマER緊急救命室 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

本や映画、音楽」カテゴリの最新記事