阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

ロシアのウクライナ侵略への糾弾と、ロシア人の人権への配慮は矛盾しない

2022年03月10日 00時35分16秒 | 政治

 ロシアによるウクライナ侵略は主力を投入しての本格的な戦闘になり、民間人を含む多くの犠牲者が出ている。ウクライナでは、18歳から60歳までの男性には総動員令が発令され、ウクライナ国籍の18~60歳の男性は戦闘要員になる。また、3万人を超える女性兵士も戦いの前線に立つことになる。家族と別れ、圧倒的な戦力のロシア軍と戦い祖国防衛のために命を捧げる覚悟を思うと胸が苦しくなる。

 私自身は国連ボランティアとして参加したカンボジアでの国連平和維持活動(UNTAC)や、米国による対テロ戦争の戦場になったパキスタン・アフガニスタン国境の部族地域では銃声や砲撃を身近に感じて活動した経験がある。実際に多くの仲間や身近な人々の不条理な死に接し、戦争だけは避けなくてはならないと強く感じた。それが政治家を志す動機にもなった。ウクライナの人々の勇気への心からの敬意とともに、一日も早くロシアの侵略戦争を止めるのが国際社会の最大の使命だと思う。

 私は今、羽田次郎参議院議員の政策秘書もしている。戦争を止めるために日本の役割を追求することに自分の経験の全てを注ぎ込もうと考えている。また、ウクライナ人はもちろん、世界各国でヘイトスピーチの対象になり、様々な権利が侵害されている一般のロシア人に対してもどのような人道的な役割が果たせるか、議員の国会での質問を通して日本政府に対応を迫っていこうと決意している。それも戦争を止める手段になると信じているからだ。小さいけれどゼロではない。それを積み上げ臨界点に達した時、世界は動くはずだ。

 日本政府は、ロシアの暴挙には高い代償が伴うことを示していくとの考えで、強い経済制裁に踏み込んでいる。手段が限られている中、やむを得ないものと理解はできる。しかし経済制裁は、子ども、高齢者、病人、低所得者、失業者など、社会的な弱者により大きなダメージを与える。通貨・ルーブルの相場も大暴落しており、ロシア国内でも社会的弱者に大きな苦しみを強いているのは明白である。

 日本政府としては、戦争を止めるためには、ロシアの一般国民に苦しみを与えることはやむを得ないという判断なのか?「人間の安全保障」を日本の外交の柱に据えるとした方針との整合性はどのように考えているのか。3月8日の参議院外務防衛委員会では、羽田次郎議員がこのように質問したが、林芳正大臣の答弁は、「ロシアのウクライナ侵略は力による一方的な現状変更であり、国際秩序を揺るがす行為。秩序の根幹を守り抜くには、国際社会は結束して毅然と行動しなくてはならない。日本国民だけでなく、ロシア国民にも様々な影響が及ぶことは避けられない。大きな目的のため引き続き、G7をはじめとする国際社会と連携して適切に対応する」というものであった。

 林大臣の答弁からは、日本の基本姿勢は戦争を止めるという大きな目的を達成することで、ロシア人の生活、とりわけロシア国内におけるもっとも弱い立場の人々への影響を配慮する姿勢は伝わってこない。それらの方々の人権侵害にも関知しない考えと受け取らざるを得ない。戦争こそ最大の人権侵害であり、人間の安全保障を日本外交の柱に据える方針は、戦争を止める目的の前には棚上げするという解釈なのだろうか。これは看過できない発言だと思う。今後も追及していくつもりだ。一方、今日、ロシアでの営業停止を決めたマクドナルドは従業員への給与は今後も払い続けるそうだ。

 先日、在日ウクライナ人やロシア人の話を聞いたところ、SNSでは特にロシア人に対する差別的な言葉が増え、大きな不安を感じていると双方から聞いた。その一方で、在留ロシア人のSNSのサイトの一部には、日本に対する反感や、過激な言葉も散見されるとのこと。もちろん、ウクライナ侵攻に反対しているロシア人も多いが、独裁的な指導者に反対の声を上げる恐怖と、ロシアを敵視する国際世論に反発しているロシア国民の声もあり、戦争反対と声をあげるのは大変なリスクが伴う。さらに、ロシア国内では言論弾圧やメディア規制が始まっており、ウクライナ侵攻に関する“反政府情報”の拡散には15年の懲役も法制化された。ロシアに残された家族を思うと大変なジレンマを感じることと思う。

 早期にロシア軍による攻撃を終結させるには、ロシア国民が声を上げ、反戦の大きなうねりを作ることが鍵だと思う。一般のロシア国民に対しては国際社会が「あなた方は敵ではない」というメッセージを送り、ロシア国民がロシア政府に反対の意思を示すことを支持する姿勢を示すことだ。これは大きな力になる。日本政府としても、特に日本国内に在留するロシア人の人権侵害には異を唱え、「日本は敵ではない」と理解を求める発信が必要だと考える。

 こんな問題提起に対し今日の外交防衛委員会での羽田次郎議員への政府答弁は、「日本政府は、プーチン政権によるウクライナ侵略であり、日本国内に居住するロシア人からも反対する声が上がっていることは承知している。日本国内のロシア人向けに何らかの発信をすることを検討したい。ロシア人一般に対するヘイトスピーチがSNSなどで拡散していることは憂慮している。日本国民に対しても日本に居住する一般のロシア人に、ロシア人である理由だけで排斥することは控え、冷静に対応するように呼びかけたい」というものであった。

 この対応は評価できるものだ。一方で、これまで何もやっていなかったことも浮き彫りになった。実際に、日本国内のロシア人にはどのような手段で、どのように発信するのか、また、どのような反応があったのか、日本国民に対しては、どのような手段で、どのような呼びかけを行うのか、質問主意書も駆使して、政府に迫っていきたい。