「熱闘」のあとでひといき

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帝京大学 vs 大東文化大学(第3回関東大学春季大会 2014.4.27)の感想

2014-04-29 23:36:23 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


昨シーズンのリーグ戦で一気に3位に浮上し、今シーズンは優勝争いも期待される大東大。春季大会もBを通り越して一気にAにランクアップした。だが、メンバーの入れ替わりがある中でいきなり対戦するのは大学王者として君臨する帝京大。つい一週間前には同じ帝京グランドでベストメンバーの中央大を相手に主力選手を欠きながらも82-7で撃破している。学生最強チームとの対戦は腕試しの楽しみよりもスタートでの躓きの方が心配になってしまう。

昨シーズンはCグループだったのでじっくりチームを作ることができ、また、大胆とも言える1年生の起用も可能だった。果たして今シーズンはどうなるのだろうか。大量失点負けは覚悟の上で、激しいコンタクトで選手が傷まないだろうかとか心配事は尽きない。しかし、果敢にチャレンジするチームに対しては、最高のお土産を用意してくれるのが帝京のホスピタリティ(おもてなし)。ディフェンシブな試合になることは仕方ないとして、アタックの局面では昨シーズンの持ち味だった果敢なチャレンジを見せて欲しいところ。



◆両チームのメンバー表を見て

試合前に発表されたメンバー表を見てびっくりというか唖然とした。FWはほぼお馴染みの顔ぶれなのだが、BKは2年生が5人に新人が2人の(チャンピオンチーム相手にしては)無謀とも言えそうなメンバー構成になっている。しかも大胆なポジションチェンジもあり不安はさらに掻き立てられる。対する帝京は流主将の復帰でさらに盤石の布陣に近づいていることも気がかり、ただ、昨シーズンは大胆な新人起用が功を奏してチーム改造から飛躍までやってのけたのが青柳監督だった。また、試合ごとの選手起用も選手が期待に応えるという形で成功を収めている。「無謀」という2文字が頭の中にちらつくが、青柳監督は確信を持って送り出したメンバーだと信じたい。

少し冷静になってみてみよう。BKが1、2年生ばかりとは言っても、2年生の5人はすべて実戦を経験している。SH小山はリーグ戦Gのベスト15に選ばれているし、SO菊池は去年の春の段階ではCTBで試合に出ていた。WTBの戸室も秋に実戦経験を積んでいる。意外なのは昨年SOだった171cmの川向と同じく昨年はWTBだった187cmのホセアで組むCTBの凸凹コンビ。これは意表を突く起用だが、監督の意図することころが感じられる起用でもある。また、FBは先だってのセブンズでも活躍したレギュラーの大道ではなくて1年生の盛田。そしてWTBのオカ・シンノスケは小柄ながらトンガで実績を積んだ選手。新たに加わった選手も青柳監督が選手を選ぶ際に重視している基準(タックルができること)をクリアした選手達のはず。

FWはなかなか楽しみなメンバーが揃っている。No.8のテビタとFLの篠原主将に身体能力の高い長谷川が第3列を形成し、ランニング能力の高い鈴木はLOに回った。セットプレーを考えると長谷川と鈴木は逆のような気もするが、長谷川のパワフルな部分を帝京のアタック阻止に活かそうという意図があるのかも知れない。闘将高橋の卒業で気になるPR1には本間が起用された。豪華な3列に比べるとどうしても1、2列の選手達が通用するか気になるが、ここも青柳采配に期待したい。


さて、ピッチ上では帝京がAの選手達を選手全員で花道を作って送り出すセレモニーが始まった。赤いジャージを身に纏って戦うことへのプライドを出場選手に注入することはもちろんのこと、チームの一体感を醸成するような儀式。コーナーフラッグ付近からピッチ中央まで延びた激励ロードは他のチームには真似できないような長さで、このあたりにも帝京の勢いが感じられる。



◆前半の戦い ~心配をよそに奮闘を見せた選手達~

先週の試合では中央から82点取った帝京。この試合は両チームのメンバーからみても3ケタを超える失点は覚悟しなければならないと誰しもが思った中で、風上に立った大東大のキックオフで試合が始まった。確かに帝京の選手達はパワフルかつ動きに無駄が無い。大東大は序盤からエリアを支配される苦しい展開となる。ただ、大東は帝京のアタックの前に防戦一方ではあるのだが、FWの選手が身体を張って大型選手の前進を止め、BKの選手達も低いタックルで相手の前進を拒む。やはり青柳監督の選手選考にブレはなかったことがわかる。得点への道程は険しいものの、反転攻勢にでれば突破力がある選手が揃っているのが大東の持ち味。

しかし8分、帝京はゴール前ラインアウトからFLイラウアが大きく前進してラック。ここからPR深村が抜け出してトライラインを超え、帝京が先制点を奪った。帝京はたたみかける。10分には大東大陣22m大東ボールラインアウトのボールをスティールに成功してオープンに展開した後、ラックから逆にショートサイドに展開してFB重がゴールラインを越えた。ラインアウトでのミスからとはいえ、帝京の判断と展開の速さに大東ファンは声も出ない。

しかし、昨年のリーグ戦での東海大戦もそうだったが、強烈なカウンターパンチを2発喰らってもそのまま簡単に引き下がらないのが大東。リーグ戦では経験できないようなアタックに身体が慣れてきたのか、大東の選手達の身体を張ったタックルが帝京のアタックを止め始め、ノックオンなどのミスを誘うようになる。FWではパワフルな長谷川をFLに置いたのが効いた形。一際小さい篠原主将もしつこいタックルで帝京の大型選手の突破を許さない。

そして17分、大東ファンは誰もが「取れた!」と確信した瞬間が訪れる。自陣での戦いを強いられた劣勢の中で掴んだ自陣22m付近のPK.から小山が速攻で仕掛け、No.8テビタが帝京ゴールに迫る。そのまま躊躇せずに前進すればゴールまで到達しそうな感じだったが、一瞬スピードを緩めてフォロワーを探してしまう。ここで帝京のディフェンダーに捕まり万事休してしまった。残念ではあるのだが、相手を完全に崩しきって余裕を持ってゴールラインを越えることができる帝京の選手達との差を強く感じる部分でもある。

ここで帝京にパワーアップのスイッチが入ってしまい、大東はさらに厳しい戦いを強いられることになるがモスグリーンの壁も簡単には崩壊しない。単純比較するのはよくないと思いつつも、昨日に法政グランドで観たラグビーよりもずっと引き締まった試合になっていることは間違いない。数年前の脆い大東は完全に払拭されたといって良さそう。BKではサウマキをアウトサイドのCTBに配置したのがディフェンス面でのヒットといえる。相変わらず低く刺さる川向と相手をパワーでねじ伏せる凸凹コンビがなかなかいい働きを見せる。

しかし28分、帝京はスクラムからのオープン展開でWTB尾崎がビッグゲイン。尾崎はゴールを目前にして捕まるものの、ラックから出たボールがイラウアに渡りトライとなる。GKは失敗するが帝京のリードは19点に拡がる。だが、大東もアタックで見せ場を作る。カウンターアタックからWTBの戸室が帝京のディフェンダー達をひらりひらりとかわしながら帝京陣22mまで迫る。戸室がタックルに遭ったところでフォローが間に合わずにノットリリースの反則を取られてしまったのが残念だった。大東は32分にも帝京ゴール前でPKのチャンスを掴み、タップキックで攻めこむもののあと数mの赤い壁が越えられない。帝京の執念のディフェンスは見事と言うほかない。結局前半は19-0と帝京リードで終了。予想以上の健闘に大東ベンチからも明るい声が聞こえる。



◆後半の戦い ~本領を発揮した帝京に対し失点を重ねた大東~

帝京は懐が深いというか、失点をしない範囲で相手にラグビーをさせてくれるチームといえる。ただし、攻めさせてもらってもミスなくゴールラインまで確実にボールを運ばなければならない。さもなければ、ミスを犯した瞬間に失点を覚悟と言うことになってしまう。帝京はディフェンスからアタックへの組織的な切り返しがとにかく速いし、慌ててミスを犯すことも殆どない。天国に届きかけたところで一瞬にして地獄に突き落とされてしまう相手チームの受けるダメージは計り知れないものがあるに違いない。

さて後半の帝京。ディフェンスで予想以上の健闘を見せ、アタックでも見どころを作ったことで意気上がる大東だったが、後半開始早々のキックオフでいきなり躓いてしまった。大東が確保し損なったボールを拾った帝京はオープン展開からのグラバーキック。これを走り込んだFB重がインゴールで押さえる形でノーホイッスルトライが成立。続く7分に大東は自陣を背負ったスクラムを押し込まれてしまう。大東の弱点はスクラムとラインアウト(高さ不足)ということで、おそらく後半の帝京首脳陣が授けた指示のひとつが「FWはセットプレーで徹底的にプレッシャーをかけろ!」ではなかっただろうか。

セットプレーが安定しないと、この日も再三非凡なところを見せたリーグ戦G屈指のSH小山といえども、安定したボールをBKラインに渡すことが困難になる。ただ、大東FWもやられっぱなしだった訳ではない。10分、大東大は帝京ゴール前のラインアウトからモールを形成して10m以上押し込んでゴールラインまであと一歩のところまで迫る。モールを押し切れずにラックからオープンに展開したところで惜しくもスローフォワード。待望の初トライ間違いなしと盛り上がった大東大応援席だったが、非情な判定?に一瞬で沈黙となってしまった。

帝京は14分にも大東陣22mライン手前で大東ボールスクラムを押し込み、ボールが後ろに逸れたところをイラウアが拾って一気にゴール前まで運ぶ。そして、ゴール前のラックから出たボールをPR東恩納が押さえる。さらに19分には帝京が誇るスピードスターの磯田がショートラインアウトでのサインプレーを起点に、持ち前の俊足を飛ばしてトライ。得点板の帝京の数字はアッという間に48点になった。帝京は28分にも大東陣22m内のスクラムを起点にオープン展開からゴール前でのラックを経て途中出場のHO坂手がトライ。大東は止めて止めてもテンポ良くボールを繋がれて数的優位を作られ、失点を重ねてしまう。

帝京はどんなに優位に立ち、得点を重ねても攻撃の手を緩めない。ベンチではコーチだけでなくAに上がることを目指す多くの選手達の目が光っている。パスの受け手は殆どトップスピードになっていて、しかもノックオンはないから手が付けられない。32分にNo.8で途中出場の大西、37分と40分に磯田が連続でトライを挙げて帝京の得点が67点に達したところで試合終了となった。後半は得点どころか、その糸口も殆ど掴むことができなかった大東にとっては、現時点でのチャンピオンチームとの力の差をはっきり見せつけられる形でのショッキングな敗戦となってしまった。しかしながら、防戦一方とはなりながらも最後までタックルを諦めずに戦い抜いたチームに悲壮感はなかった。

得点差は絶望的で一矢も報いることができなかったことは残念だったに違いないが、激しいコンタクトの連続にもかかわらずグランド上に倒れている選手が居なかったことはかつての低迷期にあった大東にはなかったこと。もし、この試合を観たリーグ戦G所属の他のチームの関係者が居たとしたら、その人の顔色は青ざめていたと思われる。「大東は去年以上に警戒すべきチームに成長している」と。前日に法政Gで観た試合(法政vs筑波)とは違った意味で、点差だけから試合内容を判断すること難しい試合になった。だからラグビーの生観戦は止められないとも言える。



◆帝京のホスピタリティ(おもてなし)

帝京の公式ホームページに掲載されているスケジュール表を見ると、4月の2週目から6月の末までの土曜日と日曜日が殆ど練習試合や招待試合で埋まっていることに驚かされる。対戦相手もトップレベルのチームが多く、またグレードが落ちるチームに対してもCからEまでのチームを用意して対戦できるようになっている。普段の練習もさることながら、帝京の強さの源泉となっているのは、様々なレベルでの実戦経験を春シーズンの間に豊富に積むことができること。いろいろなチームをホームに迎えて、他のチームの試合ぶりや選手のプレーをじっくり観ることにこそ計り知れない価値があるように思う。実戦を「観る」経験も帝京の強化サイクルの中にしっかりと組み込まれている。

あとひとつ、百草グランドを訪れて感じたことは帝京のホスピタリティ。部員達が自然な態度でゲストに対して挨拶ができるチームと言う点はさておき、真摯に戦いを挑んでくるチームに対しては、容赦なく叩きのめすと言う形で対戦チームに良い点と改善すべき点をはっきりと示してくれるのが帝京だと思う。対戦相手は何らかの形でお土産をもらってホームに戻ることになるわけだ。大学ラグビー界は帝京を中心に回っているという状況が創り出されているとも言える。多くのチームをホームグランドに招くことで帝京が強くなるだけでなく、対戦チームも強くなっていくとしたら素晴らしいことだと思う。「おもてなし」にはこんなかたちがありだということに改めて気付かされた。

◆大敗の中にも楽しみが増した今シーズンの大東大

大東大の課題はやはりFWのセットプレーと言うことになるだろう。後半にスクラムを押し込まれたことが大量失点に繋がったし、ラインアウトが安定しなかったことで得点機を逸しただけでなく失点も増えたことは間違いない。ブレイクダウンでマイボールを失う場面が多かったことも反省材料になる。しかし、そういった課題はあっても、昨シーズンに立正大戦で初めて観た時以上に楽しみが増したのが今シーズンの大東大。今年はむしろAに昇格して最初に最強のチームと戦えてよかったとすら思えてくる。

もちろん、大東は本日のメンバーがベストという訳ではなく、春シーズンの間にメンバーもポジションも入れ替わっていくものと思われる。本日はベンチにも入っていない選手にはFBの大道が居るし、期待の大型新人クルーガー・ラトゥ(ラトゥ元監督の息子さん)のデビューも楽しみ。しかし、このまま定着させて欲しいと思ったのはサウマキのCTBだ。昨シーズンのデビュー時に、青柳監督をして「ロム-みたいな選手」と言わしめたアスリートタイプの大型かつ高速WTB。しかし、サウマキはWTBでありながら試合ではラックでファイトすることを厭わない選手でもあった。だから、WTBよりもむしろペネトレーターにもフィニッシャーにも、そしてファイターにもなれるニュータイプのCTBとして成長してくれたら面白いと思う。

試合を観るごとにチームにとって新たな歴史が作られていくことを感じさせてくれる新生大東大。絶望的な点差で敗れた試合で言うのも何だが、またしても青柳マジック(それも極上のもの)を見せて頂いたという思いを強くして帝京グランドを後にした。

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