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『クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ』/歌心に充ちた2人による名演集

2013-03-10 03:40:30 | 地球おんがく一期一会


何十年かぶりに不世出の天才トランペッター、クリフォード・ブラウンのレコードを聴いた。レコードジャケットを保護するビニール製のカバーには ”UMEDA OTSUKI”(梅田、大月)のロゴが入っている。『クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ』もジャズに開眼した頃に手にした忘れ得ぬレコードの中の1枚だ。

ちなみに「梅田、大月」とは、阪急電鉄梅田駅の紀伊國屋書店の中にあった「大月楽器店」のこと。ジャズを聴き始めた高校時代、郊外の自宅から大阪市内の学校へは阪急京都線で梅田駅を経由して地下鉄谷町線で通っていた。買えるレコードは月に1枚と決まっていたが、ジャケットを眺めるだけならタダだからということで、帰宅途中にちょっと寄り道をして、大月楽器店でしばしの間ささやかな幸福感に浸っていたのだった。

そのお店には素敵な女性店員の方が居て、ある日「どんなジャズがお好みですか?」と聞かれた。ジャズのことは全然知らないくせに、「やっぱり、ワンホーンのカルテットがいいですね。」と生意気にも答えてしまった。そしたら「私もですよ。」と嬉しいお言葉。せめてたくさんレコードを買うことができたらお姉さんと仲良くなれていたかもしれないなぁなどととりとめのないことも思い出してしまった。

それはさておき、クリフォード・ブラウンのことは、MJQの「ユーロピアン・コンサート」に収録されている「アイ・リメンバー・クリフォード」という作品で知った。テナーサックス奏者のベニー・ゴルソンが亡き親友に捧げたひときわ感動的なトラック。もし、クリフォード自身がこの曲を吹いたらそれこそジャズ史上に残る超名演になっただろうと、絶対にあり得ない妄想に耽ってしまいたくなる。いつかそんな夢を見たような気もする。

しかし、このレコードを手にしたのはとっても切実な理由からだった。1300円で買える廉価盤だったという事実は重い。本当に嬉しくて、なんだか得をしたような気分になったのだ。もちろん、そうでなくても名盤の誉れ高いレコードだから、満足感に浸ることは保証されている。ややメランコリックなオープニングの「デライラ」からラストの明るい希望に満ちた「ホワット・アム・アイ・ヒア・フォー」まで通してよく聴いた。

でも、強いて言えばB面の方に針を下ろすことが多かったように思う。ハイライトは、なんと言ってもクリフォード・ブラウンの最高のソロが聴ける「ジョイ・スプリング」なのだが、私のお好みはそのひとつ前に入っている「ダーフード」。クリフォードの珠玉のプレイもさることながら、曲を簡潔に締めくくるマックス・ローチのドラムソロに痺れた。

クリフォード・ブラウンはジャズ史上最高のトランペッターとして名高い。また、自動車事故によりわずか26歳で亡くなった悲運の人でもある。どんなに素晴らしい演奏に接しても、やっぱりクリフォード・ブラウンにはかなわないなぁと思ってしまうのだが、それは何故だろうか。久しぶりにこの名盤に針を下ろしてみて、ある結論が思い浮かんだ。

クリフォード・ブラウンはトランペッターではなく、トランペットで歌うことができるボーカリストだからではないかということだ。クリフォード・ブラウンの演奏の最大の魅力は、とにかく歌心に溢れていることで、これは他の「トランペッター」の追随を許さないところだと思う。まるで自分の声のように自由にトランペットを扱えることで、「ボーカリスト」になることができるのだ。

実は、このアルバムでドラムを叩いているマックス・ローチも最高に歌える人。美しいトーンが魅力のソロに加え、ホーンプレイヤーとの掛け合いの形になる4小節交換で、その持ち味はいかんなく発揮される。ワードレスではあるが、クリフォード・ブラウンとマックス・ローチの「歌合戦」を楽しめることがこの作品に華を添えていることになる。

発売当時、廉価盤はシリーズで10枚ほど出ていたはずだが、結局手にしたのは『スタディ・イン・ブラウン』と収録曲がテレビCMに使われたことでもお馴染みの『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』の合計3枚にとどまった。『ウィズ・ストリングス』やサラ・ヴォーンとの共演盤も結局は後年に出たCD10枚組のボックスセット『コンプリート・エマーシー・レコーディングス』で聴くことになる。

件のコンプリートのボックスだが、最初はなかなか馴染めなかった。1曲1曲が独立したSP時代ならいざ知らず、LPという完成された作品として出されたものが解体され、曲は録音順に並び、しかもあるものは失敗セッションの繰り返し。とくに、レコードで持っている3つのアルバムに関する曲の場合はどうしても違和感を感じてしまう。

でも、嬉しい発見もあった。それはダイナ・ワシントンの計り知れない魅力を知ることができたこと。もちろん、サラ・ヴォーンとの共演作だって悪かろうはずがない。そこで、さらに気がついた。クリフォード・ブラウンはヴォーカリストとの相性がとてもよいのではないかということ。手前味噌になってしまうが、クリフォード自身も「ヴォーカリスト」だからそれも当然と言える。

クリフォード・ブラウンが若くして亡くなってしまったことが残念なのは、もちろんもっともっとたくさん名演を残すことができたはずなのにということに尽きる。さらに言えば、ヴォーカリストにとっても『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』のような器楽奏者との共演といったスタイルによる名盤を産み出すチャンスが失われたことも残念だったはず。

本当に久しぶりにレコードを聴いてみて、いろいろなことを想ったり感じたりした。1974年の発売なのでさすがにジャケットには黄ばみや汚れも目立つが、レコードの盤面は今でもピカピカでノイズも殆ど気にならない。仲良く並んで楽しそうに演奏している二人の姿が大写しになったジャケットを眺めていたら、やっぱりレコードは手放すことはできないという気持ちになってしまう。

◆“Clifford Brown and Max Roach”
1) Delila (Victor Yang)
2) Parisian Thoroghfare (Bud Powell)
3) The Blues Walk (Clifford Brown)
4) Daahoud (Clifford Brown)
5) Joy Spring (Clifford Brown)
6) Jordu (Duke Jordan)
7) What Am I Here For (Duke Ellington)

Clifford Brown : Trumpet
Harold Land : Tenor Sax
Richie Powell : Piano
George Morrow : Bass
Max Roach : Drums

Recorded at Los Angels, Augast, 1954, and New York, February, 1955

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