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『ジャイアント・ステップス』/忘れ得ぬコルトレーンへの第1歩

2013-03-08 01:51:17 | 地球おんがく一期一会


MJQに導かれてジャズに開眼したら、もう迷うことはなかった。『ヨーロピアン・コンサート』の次に手にしたジャズはコルトレーンの『至上の愛』だった。今にして思えばちょっと無謀だったかなと思うが、サンタナ&マクラフリンのレコードで「洗礼」を受けていたお陰で、いちおう抵抗なく聴くことはできた。

でも、毎日聴くにはちとしんどい。少なくともみんなで楽しく聴けるような作品ではない。ところが、京都の三条河原町にあったジャズ喫茶の『ビッグボーイ』でこのアルバムをリクエストした人が居た。それも真っ昼間だ。あの冒頭のフレーズが店内に流れた瞬間、どんな雰囲気になったかはご想像にお任せしよう。

それまでのビッグボーイ風の雰囲気(ジャズ喫茶としては明るめのお店だった)とはうって変わって、明らかに店内の空気が重くなってしまった。「誰だ!こんなのリクエストしたやつは?」という怒号こそ聞かれなかったものの、殆どのお客さんの顔にはそんな言葉が書いてあるように見えた。もちろん、コルトレーンが悪いのではない。かかった場所が悪かったのだ。

ということで、コルトレーンは仕切り直しとなる。次に手にしたのは『ジャイアント・ステップス』だった。このアルバムにはハマった。サンタナ&マクラフリンで一際感動的だったトラックの「ネイマ」も入っている。もちろん、最初に聴くコルトレーンは『バラード』であったり、『マイ・フェイバリット・シングス』であったり、さらに遡って『ブルー・トレーン』であってもいい。

でも私にとっては、結果論かもしれないが『ジャイアント・ステップス』が実質的に最初のコルトレーンだったことを幸せに思っている。なんと言ったって、オープニングのタイトル曲には、ジャズのエッセンスというか魅力がたっぷり詰まっていて、しかも、それが実に簡潔なスタイルで表現されているから。

しかし、そんなことに気がついたのは実はつい最近のことなのだ。『ジャイアント・ステップス』は別テイク集のハシリともなった『オルタネイト・テイクス』が出たことでも有名な作品だ。ただ、それはお蔵入りしてしかるべき「ボツテイク集」なので、発売当時はまったく関心を持たなかった。わざわざ「ダメバージョン集」のレコードを買うほどの余裕もなかったし。

でも、数年前に “Atlantic Masters” と銘打たれた別テイク入りのCDを手にしたときに考え方変わった。「別テイク、面白いじゃないか!」という風に。もちろん、別テイクが何故ボツになったかが証明されるだけとも言えるのだが、逆にマスター・テイクの素晴らしさが際立つ形にもなる。とくに「ジャイアント・ステップス」のような曲ではそのことが顕著となるのだ。

このCDには「ジャイアント・ステップス」の別テイクが3つ入っている。最初は1959年3月26日に録音されたヴァージョン1。マスター・テイクに比べてテンポが遅めでアドリブも間延びした印象を受ける。それと、ピアノは名手シダー・ウォルトンなのだが、テーマの部分でのおしりにくっつく「ボロローン」がやたら気になる。これではやっぱりボツだなぁと納得。

2つめのバージョン2も同じ日の録音だが、テンポは上がらずコルトレーンのアドリブもまだ核心を掴んでいないようにみえる。進歩したのは「ボロローン」がなくなったくらいかなぁということで、このテイクもボツには納得。ここでコルトレーンがあきらめていたら、ジャズ史上屈指の名盤は生まれなかったかもしれない。

3つ目は「オルタネイト・テイク」で同じ年の5月6日の録音。この1ヶ月半の間にコルトレーンは「何か」を掴んだようだ。テンポアップしてアドリブにも閃きが感じられ、いよいよ「ジャイアント・ステップ」らしくなってきた。ただ、問題はピアノのトミー・フラナガン。コルトレーンと強靱なリズム陣(ポール・チェンバースとアート・テイラー)に挟まれて、「ボク、ドシタライイノ?」状態に陥っているように聞こえる。

ということでもう1テイク行ってみよう!となったかどうかは不明だが、いよいよマスターテイク。もう、ここでのコルトレーンには完全に迷いがなくなっている。冒頭の短いテーマを吹いている間にも既にエンジンが全開になっていて、「早くソロを吹きたくて、吹きたくて」状態になっていることが手に取るようにわかる。あとは一気に突っ走るだけといった感じで、堰を切ったように確信に満ちたアドリブが展開されるのだ。これが最高に気持ちいい。

シンプルなテーマとスピード感溢れる疾走感がたまらない。これぞジャズと言いたくなるような魅力的なソロだと思う。トミー・フラナガンはやっぱり確信がもてないようで、何とかついて行っているというような感じもするのだが、そこがこの人の魅力かもしれない。だから、多くの名盤に名を連ねることができたのだろう。

やっぱりコルトレーンは努力の人だったんだろうなと感じる。マイルス・デイヴィスなら「一発回答」でベストに辿り着けたかもしれない。少なくとも最初からテンポは決まっていただろう。でも、コルトレーンはそうではないところに逆に人間的な魅力を感じる。実際にコルトレーンはとても誠実な人だったそうだ。

さて、この別テイク入りCDには「ネイマ」の別テイクも2つ入っている。この曲に関してはテイクはいくつ入っていてもいいなと思うから不思議。やはり、名曲には名曲たる所以がありそうだ。ミュージシャンに想い入れたっぷりに演奏させてしまう力がある曲だと改めて気がついた。

しかし、「ファースト・タッチ」から30年以上を経て、同じ演奏に対してこんな新たな発見があるのも、レコードを買ったときにそれこそ針がすり切れるくらいに何度も何度も聴いたからだと思う。当時は購入もままならなかったコルトレーンのいろいろな作品を今じっくり愉しんでいる。

◆John Coltrane “Giant Steps”
1) Giant Steps (John Coltrane)
2) Cousin Mary (John Coltrane)
3) Countdown (John Coltrane)
4) Spiral (John Coltrane)
5) Syeeda’s Song Flute (John Coltrane)
6) Naima (John Coltrane)
7) Mr. PC (John Coltrane)

John Coltrane : Tenor Saxophone
Tommy Flanagan : Piano
Wynton Kelly : Piano(6)
Paul Chambers : Bass
Art Taylor : Drums

Recorded at NYC, May & November, 1959

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1 コメント

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やっぱり (メグ・オットー)
2013-03-09 21:58:03
>『至上の愛』・・・
>三条河原町にあったジャズ喫茶の『ビッグボーイ』でこのアルバムをリクエストした人が居た。

すっごーい!!
最高ですー!!
やるじゃん!!

私も、コルトレーンでは一番好きです。
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