今や大学ラグビーのメッカとなった感があるセナリオハウスフィールド三郷。陸上トラック付きで観客席ができたと言ってもコンクリートだから、真冬の観戦(があったらだが)は底冷えとの戦いになる。自慢できるのは立派な電光掲示板くらいで、けして整った競技場ではない。
でも、ここで観るラグビーが魅力的ではないのか?と問われたら、けしてそうではないと答えたい。秩父宮や熊谷のような整った競技場では、とくに学生の場合、よそいきのラグビーになってしまうことがままあると感じる。大学選手権のような大舞台ならそれがいい方に作用するかも知れないが、普段の力を出せずに試合が終わってしまうこともあるだろう。
セナリオHFのような(ピッチと観客席の間が)バリアフリーの競技場の場合は、選手達がホームグランドでの雰囲気と近い感覚でプレーすることができるように思われる。逆に言えば、普段着の力を正直に曝け出してしまう恐ろしい競技場とも言える。観戦する側として、畏まった会場では得にくいいろんな情報が伝わってくるところが面白かったりする。
さて、第一試合(東洋大vs大東文化大)での大どんでん返しの余韻が残る中で迎える第二試合は、流通経済大学と日本大学の戦い。チームカラーが対照的で、長いリーグ戦の観戦歴のなかでも印象に残る試合が多い対戦カード。今シーズンは開幕2連勝で好調の流通経済大に対し、緒戦の立正大に苦しみながら勝利し、2戦目の法政には敗れた日大と明暗が分かれてはいる。連敗は避けたい日大の奮起に期待しながらキックオフを待った。
◆前半の戦い
大接戦となったものの、どこかもたついた印象があった第一試合とはうって変わり、序盤からボールが大きく動く攻防が繰り広げられる。ピッチから聞こえてくる選手達の声も明らかに多く活気が感じられる。FWに大型の選手を揃えた流経大の地道な組立に対し、バックスリー(水間、トゥポウ、普久原)に決定力のある選手が揃う日大はバックドア、飛ばしパスなどを駆使したワイドな展開ラグビー。そんあアタッキングラグビーは観ていて楽しい。
7分、日大が流経大陣22m手前のゴールやや左でPKのチャンスを得る。SH前川がGKを難なく決めて日大が幸先よく3点を先制。しかし、流経大もすぐに反撃。9分にゴール前のラックからLOアピサロメ・ポギドラウが一瞬の隙を突き、正面突破でボールをインゴールに力強く運ぶ。GKも決まり流経大が7-3と逆転に成功。
ここから流経大がペースを掴み、ボールを確実に保持しながらFW中心で前進を図る。しかしながら、ここ一番でノット・リリース・ザ・ボールの反則を犯し、チャンスを潰すことが多い。ラックでのノット・ロール・アウェイも含め、流経大は試合終了まで反則の多さに悩まされることになる。因みにこの日流経大が記録したペナルティは前半9個、後半10個の計19個だった。
日大は対照的に自陣からもキックはあまり使わず、パス中心のランニングラグビーでゴールを目指すスタイルで徹底されている。これはこれで面白いのだが、実はFWがファースト・レシーバーになることが殆どない、一時代前のラグビーを思い起こさせるラグビーであることに気付く。流経大が「FWで堅実に前へ」を貫いているし、それが最近のラグビーのトレンドなので(ノスタルジーはさておき)逆に新しさを感じたりもする。
話が逸れた。流経大にとって痛いのは自陣での反則が多いこと。18分に日大が7分の時と同じ位置でペナルティを得、ここでもショットを選択するが惜しくも外れる。直後の23分、流経大は日大ゴール前のラインアウトからモールを形成して前進し、ラックから左サイドに展開して左WTB堀井がトライ。GKは失敗するが流経大はリードを9点(12-3)に拡げる。
27分にも日大は流経大陣22m手前で得たペナルティでショットを選択するが、GKは右に大きく外れる。確実に点差を詰めておきたいところだったが、チャンスはその直後にやって来る。自陣22m付近からBKでボールをワイドに展開し流経大ゴールに迫る。パスミスを拾われてインターセプトに遭うのも束の間、流経大のキックをチャージダウンしてさらにゴールが近づく。ここからボールを大きく右に展開してWTB水間がゴールラインを突破。GKは失敗するが日大のビハインドは4点(8-12)に縮まる。
流経大の負けていない。37分、日大ゴール前でターンオーバーに成功し、CTBリアクタ・テアウパがトライ。GK成功でリードを11点(19-8)に再び拡げる。流経大は42分にハイタックル(イエローカード)で14人となりながらも何とか凌ぎきり前半が終了。ただ、反則の多さを修正しない限り後半も厳しい展開となることが予想された。
◆後半の戦い
後半もノットリリース病を克服できない流経大。必然的に日大が攻める時間帯が長くなり、流経大が耐える展開。日大は流経大ゴール前のスクラムから素早く左に展開してWTBトゥポウがゴールラインを越える。GKも成功して15-19となり、逆転まであと1本に迫る。
日大には運も味方した。流経大ゴール前ラインアウトでボールをタップされて被スティール。と思われたがイレギュラーバウンドしたボールは日大選手の手に収まりそのままインゴールへ。GKは失敗するが20-19と1点差ながらついに再逆転に成功。
勢いに乗る日大がゲームの流れを掴む。流経大は相変わらず反則が多いが、日大もキックミスが響きなかなか得点に繋がるアタックが出来ない状態。両チームが繰り広げる激しい攻防の中でゲームが膠着状態に陥る。流経大は28分に日大陣ゴール前のラインアウトからモールを押し込んでトライ。やや難しい位置からのGKも成功し、26-20と再々逆転に成功。
ただ、流経大のリードは1T1Gで逆転可能な6点。時間も10分以上残っており、日大には十分時間がある。さらに、自陣での反則が多いことも不安材料。ここから、日大の死力を尽くした反撃が始まり、流経大は殆どの時間帯を自陣で戦う苦しい展開となる。第一試合同様に最後までどちらに転ぶか分からない展開に、スタンドは大いに沸き立つ。「流経、ノーペナ!」の檄は祈るような気持ちで発せられている。
流経大は正に背水の陣。自陣ゴール前、それも(GKが決まりやすい)正面付近で何度も「あと一歩」まで迫られる。タックルに次ぐタックルでとにかく凌ぐ。そして、何とかターンオーバーに成功し、ボールを真後ろにキックアウト。試合終了のホイッスルが吹かれたとき、電光掲示板の時計表示は91分だった。
◆試合後の雑感
流経大が本来目指しているラグビーは(指導体制に変更がないし)ブレイクダウンに時間をかけずテンポよくボールを動かすダイナミック・ラグビーだと思う。この日のラグビーはFWで着実にボールを前に運ぶラグビーで、フェイズを重ねたところで変化技が入る。昨シーズンは5位となり、今シーズンも夏合宿では練習試合に全敗で前途多難が予想されたと聞く。それを思えば、昨年度上位陣を相手に開幕3連勝は嬉しい誤算。もちろん反則の多さは大反省材料だが、ディフェンスで粘れたことは大きな収穫と言えそう。
一方の日大。流経大の反則数を考えれば優位に試合を進められたはずという想いを禁じ得ない。また、ヘッドコーチの変更があったとは言え、目指すラグビーがかなり変わったという印象を拭えない。流経大のようにFWで身体を張ってボールを前に運ぶ場面がどれだけあっただろうか。長短の工夫を凝らしたパス攻撃は見応え十分ながら、相手のディフェンスが揃った状態(とくに流経大のように組織されたチームが相手)では一次突破は難しいように見えた。今後、どのように戦術を立て直していくのだろうか。BKに魅力的なアタッカーが揃うだけに気になるところだ。