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第28回 Seven A Side(関東リーグ戦セブンズ 2014.4.20)の感想

2014-04-24 22:30:19 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


春季限定セブンズシリーズの締めは今年で28回目を迎えた「リーグ戦セブンズ(通称)」と呼ばれている “SEVEN A SIDE”。例年ならYC&ACセブンズと東日本大学セブンズの間に開催され、関東リーグ戦G所属校にとっては、東日本大学セブンズの前哨戦的な役割も果たしている大会となっている。いや、それ以前に(セブンズという形態をとっているとはいえ)関東リーグ戦Gに所属する1部リーグから6部リーグまでの全チームが同じ日に試合を行うという、いわば「リーグ戦Gのお祭り」と言えそうな重要なイベント。とくに昨年度は2つのグランドに分かれたとは言え、同じ場所(町田市)に全チームが一堂に会するという画期的な大会となっていた。

しかしながら、残念なことに、この大会は今に至ってもけして認知度が高いとは言えない。実際に関東リーグ戦Gに所属するチームのファンにもあまり関心を持たれていないふしがある。その原因のひとつは、おそらく主催者である「関東大学ラグビーフットボール連盟」(以下、連盟)の告知がいつも遅いことにある。今シーズンはとくに遅れて、日程が明らかとなったのは4月5日だった。他の大会や試合のスケジュールが出そろい、残りはこの大会だけとなった段階で、この日(4月20日)しかないだろうという形での告知だった。しかも、4月20日からは関東大学ラグビーの春季大会が始まり、中央大学は同じ日に帝京大学とBマッチを含む対戦を行うことがずっと前に発表になっていた。中央大の動向が注目を集めていたわけだが、当初発表(4月5日)は、明記こそないものの「中央大は不戦敗」(棄権)と判断せざるを得ないような内容になっていた。

情報の混乱はさらに続く。4月17日に連盟のHPで「訂正発表」がなされたのだが、スケジュール表を見る限りは中央大が一転して出場するとも受け止められるような内容になっていた。ただ、中央大の公式サイトにはリーグ戦セブンズに関する情報は一切掲載されておらず、とても出場を決めたとは受け取れない状況だった。また、各大学が出場選手を発表していく中で、拓殖大のHPに載った情報にも驚かされた。東日本大学セブンズでコンソレーショントーナメント優勝を果たし、この大会でも活躍が期待されていた山梨学院大学が棄権となっていた。試合会場に着くまで果たして何チームが出場しているのかがわからないという中で、朝の天候のようにモヤモヤした感情を胸に抱きながら会場の町田市立陸上競技場に向かったのだった。



[1回戦]

○流通経済大学 36-5 ●玉川大学
●山梨学院大学(不戦勝)○拓殖大学
○日本大学 38-7 ●国士舘大学
○東海大学 32-5 ●専修大学
○大東文化大学 31-19 ●東洋大学
○法政大学 52-12 ●白鴎大学
○立正大学 36-21 ●國學院大學
●中央大学(不戦勝)○関東学院大学

スタジアムの入り口に着いた段階で、張り出されていた1枚のトーナメント表が目に留まった。そこには既に2本の赤い線が引かれている。「やっぱり」という残念な気持ちになった。事前に得られた情報通り、中央大に加えて山梨学院も棄権し、2部の拓殖大学と関東学院大学が不戦勝となっていた。リーグ戦セブンズの意義のひとつは、2部所属校が1部所属校の選手達のパワーやスキルを実戦で体験できることにある。そういった意味では、1部復帰を目指す両校にとっても貴重な経験を積める試合がひとつずつ失われたことになる。全体では、コンソレーショントーナメントの2試合も含めて、合計4試合が消滅という形で大会が始まった。

ただ、会場で配られたメンバー表を見て気分は回復に向かった。優勝候補の筆頭に挙げられる流経大を筆頭に、東海大、日大、立正大がほぼベストの陣容となっている。これなら2つのチームが棄権でもセブンズのクオリティ自体は落ちない。法政はお試しモードながらまずまずのメンバーで、次週に帝京大との試合(春季大会とBマッチ)を控える大東大は完全にリフレッシュされた陣容。2部に目を移すと、YC&ACでチャンピオンシップ準優勝に輝いた専修大を筆頭に、拓殖大や関東学院だけでなく進境著しい國學院大學や国士舘、東洋大も要注目とチームとなっている。



さて、例年なら2部所属校が1部所属校を破る「下克上」がいくつか起こる1回戦だが、今回は不戦勝の2校以外はすべて1部校が緒戦を突破し、2部校との力の差がくっきりとでる形になった。流経大はベストメンバーをピッチ上に順次登場させながらも、無理をせずにウォーミングアップを兼ねたような戦いぶり。日大は最初からエースのマイケルを投入することで圧勝できたため、東日本セブンズ緒戦での温存(?)には疑問に残る。東海大と専修大の激突は1回戦屈指の注目カードだったが、東海大が過去2大会(YC&ACと東日本)の鬱憤を晴らすような気力充実の状態でエンジン全開となり、準備万端だったはずの専修大はつけいる隙を見いだせないままに完敗を喫してしまった。

大東大は4年生の木藤古を除けばレギュラークラスが不在で半分以上を1、2年生が占めるフレッシュな顔ぶれだったが、粘る東洋大を振り切って緒戦突破を果たした。法政は東日本大学セブンズのメンバーとはほぼ入れ替わった陣容ながらも白鴎大をまったく寄せ付けず大量得点を挙げて勝利。立正大もリーグ戦Gのエース的存在である早川はもちろんのこと、新人留学生のアライアサ・ローランド・ファアウイラが早くも存在感を見せつけた。ただ、この大会にかけている國學院も粘りを見せて3トライを挙げて抵抗し、1回戦ではもっとも見応えのある接戦を演じた。

余談ながら、棄権チームが2つ出たことで直前のスケジュール変更の意味するところが露わとなる。当初は中央大絡みの試合2つ分の時間を配分して試合進行に余裕を持たせる設定だったようだ。しかし、さらに棄権チームがひとつ出てしまったことで時間配分の再調整を余儀なくされたものと思われる。そこで、タイムスケジュールを名目上は全チーム出場の形に戻すことにしたのではないだろうか。ただ、この場合だと棄権チーム絡みの試合の間は観客が20分近く待たされる格好になる。会場ではその間にBGMが流されたが、ゴール裏で「次の試合」に備えてアップするチームがある中で、ピッチ上では何も行われないまま虚しく時間が過ぎていく。ネットを使って事前に情報を素速く流せる時代になっているのだから、事前に告知をした上で、進行に余裕を持たせつつ遊びが出ないようにする方法は取れなかったものだろうか。最初にBGMが流れてきたときには事情説明もなく、狐につままれたような状態だった。



[チャンピオンシップ1回戦]

○流通経済大学 36-0 ●拓殖大学
●日本大学 19-29 ○東海大学
●大東文化大学 5-35 ○法政大学
○立正大学 12-7 ●関東学院大学

山梨学院の棄権により不戦勝でチャンピオンシップに進んだ拓大は、緒戦の相手が流経大になってしまったのが気の毒な面もあった。注目選手の新留学生シオネ・ラベマイ(190cm、105kg)が強烈なハンドオフ連発のパワフルな突破を見せた場面はあったものの、今シーズンも決定力不足の課題を克服することは難しそうな印象。東海大と日大の戦いはYC&ACセブンズの雪辱戦の様相を呈するガチンコ勝負になったが、心気一新でまったく別のチームとなった感がある東海大が持ち味のパワフルなところを見せて日大を圧倒しベスト4にコマを進めた。

法政は東日本大学セブンズで活躍したメンバーが殆ど出場せず、代わりに西、森岡、和田、時崎といった選手達が中心となってで戦いに臨んだ。レギュラークラスが不在の大東大が元気いっぱいのところを見せて先制トライを挙げてスタンドを湧かせたのも束の間、法政が選手層の厚さを見せつける形であっという間に逆転に成功し、その後は一方的な展開となってしまった。立正大と関東学院の戦いはパワーで劣る関東学院が粘り強いディフェンスを見せて接戦に持ち込むことに成功する。最後は立正大がパワーの差を見せつける形となったが、関東学院が復活の兆しを掴んだかのような戦いぶりを示した。関東学院も中央大の棄権により1試合のみの消化で会場を去ることになったのは残念だったに違いない。結局、チャンピオンシップのベスト4は流経大、東海大、法政、立正のほぼ予想通りの顔ぶれとなった。

[コンソレーション1回戦]

○玉川大学(不戦勝)●山梨学院大学
●国士舘大学 0-26 ○専修大学
○東洋大学 40-14 ●白鴎大学
○國學院大学(不戦勝)●中央大学

4試合中2試合が消滅するという寂しい状態の中で、専修大が前評判通りの仕上がりの良さを見せた。国士舘も期待したチームのひとつだったのだが、専修の巧みな仕掛けの前に力を発揮することなく敗退。東洋大はチームの状態がよく、白鴎大を圧倒して2回戦にコマを進めた。それはさておき、「進行係はタイムテーブル通りに試合を進めて下さい。」とアナウンスする前に、ここに至った経緯の説明をすべきではないだろうかとよけいなことも考えてしまった。



[チャンピオンシップ2回戦]

○流通経済大学 26-19 ●東海大学
●法政大学 20-22 ○立正大学

ほぼベストメンバーでのガチンコ対決となった流経大と東海大の戦いは事実上の決勝戦。東海大が東日本大学セブンズまでの状態の東海だったら流経大の圧勝だったかも知れないが、今日の東海大はまったく別のチームになっている。特別にセブンズ向き仕様にしなくても、左右へのワイドな展開を繰り返し、小原や近藤にいい形でボールが回った段階でトライは約束されたようなもの。流経大のリリダムやリサレも凄いが、小原だって負けていない。一段と凄みを増したランが本当に頼もしい。しかし、本日の東海大でイチオシの選手は堅実なプレーぶりが光るダラス・タタナ。留学生の看板を背負ってしまうと、どうしてもリーチのような突破役を期待してしまうから、ダラスは損をしているような気がしてならない。自分が目立つことよりも、どうやったらチームが活きるかを常に考えて結果を出している選手だと言うことがセブンズだとはっきりわかる。といって形で東海大の攻撃力も見応えがあったのだが、セブンズのアタックに関しては合谷が居る流経大が1枚上で、最後は流経大が貫禄勝ちを収める形となった。

もう一試合は、メンバー的にみて立正の圧勝もあるのではと見ていたが、やはり法政のBK陣は才能集団。セブンズの戦い方に慣れてくるにしたがってチーム力が上がっていくから脅威。逆に言うと、チーム作りさえ間違えなければ昨シーズンのようなこと(6位で選手権出場を逃した)はないはず。15人制のBKラインの構成がこのメンバーなのか、それとも東日本大学セブンズのメンバーなのかはわからないが、セブンズに出ていないFWのメンバーも強力なので今シーズンは上位復活が期待出来そうだ。立正大は早川以外にも全般的に選手の力が上がっている印象。積極的にアタックを仕掛けるチームに変身できていれば、上位進出も夢ではなさそうだ。



[コンソレーション2回戦]

●玉川大学 5-43 ○専修大学
●東洋大学 12-24 ○國學院大学

1部所属チームとの戦い(1回戦)ではパワーと個人能力の違いに泣いた感がある2部所属チームだが、選手達のレベルが合ってくると拮抗した内容のセブンズらしい戦いができる。この大会に関しては専修、國學院、東洋に関東学院を加えた4チームが2部所属校の実質的なベスト4といったところだろうか。とくに見応えがあったのは、専修の土俵際まで追い詰められたところから絶妙の切り返しで相手ゴールラインまでボールを運ぶところ。今シーズンはひときわ厳しい戦いとなることが予想される秋の2部リーグの公式戦にあっても、これは大きな武器になるに違いない。

[チャンピオンシップ決勝&三位決定戦]

○東海大学 31-0 ●法政大学(チャンピオンシップ3位決定戦)
○専修大学 19-7 ●國學院大学(コンソレーション決勝)
○流通経済大学 45-12 ●立正大学(チャンピオンシップ決勝)

なぜか終盤に試合が盛り上がっていくのとは反比例する形で身体が凍えるような状態になってしまう春のセブンズ。終盤はウィンドブレーカーの下にセーターを着込まなければならないくらいに寒かった。試合内容も棄権が2チームもでてしまったため「寒く」なってしまうのだろうかと危惧されたわけだが、流経、東海、専修などが高いパフォーマンスを示してくれたことで救われた感がある。

チャンピオンシップの3位決定戦は、2回戦からのインターバルが短かった法政の方が気の毒な面もあったが、東海大が自慢のランナー達の活躍により有終の美を飾った。とくに小原や近藤に負けない活躍を示した永阪が今後どのような形で起用されることになるのかに興味がでてきた。コンソレーション決勝の専修と國學院も手に汗握る見応えのある戦いとなった。最後まで圧倒的な力を見せつけて優勝に輝いた流経大は、セブンズで掴んだいい形(合谷を中心とした攻めの姿勢)を15人制のラグビーにつなげて欲しい。



◆セブンズと15人制は車の両輪

束の間だった短いセブンズの春が終わった。東日本大学セブンズでも感じたことだが、大学生のセブンズでも選手個々の能力の差が顕著に試合結果に表れる時代に入ったといえそうだ。セブンズが五輪種目となり、代表チームがコア15昇格を果たすなど「追い風」が徐々に強く吹き始めた中で、大学のトップチームのセブンズに対する考え方自体も変わってきたことが大きいように思われる。セブンズらしさを「余興」で終わらせるのではなく、セブンズに真剣に取り組むことで得られるプラスアルファの部分(勝負する姿勢)を15人のラグビーに活かそうとする姿勢も感じられる。また、セブンズは東日本で3連覇に輝いた筑波のように、メンタル面でのチーム力向上に活かせる部分もある。

ここでひとつ思い浮かんだのは「セブンズと15人制は車の両輪」というキャッチフレーズだ。かつては15人制のオマケのような扱いだったセブンズも今や他の球技のスキルも取り込んだ「別のスポーツ」として進化を遂げている。しかし、一方でセットプレー重視、あるいは選手の大型化やパワーアップに見られる15人制回帰とも受けれるプレースタイルも垣間見ることができる。そして、セブンズで磨かれた技術を戦術のバリエーション拡大に活用することで15人制のラグビーの戦術アップを図ることも行われていくだろう。セブンズの競技レベルが上がることで、あたかも15人制と車の両輪をなすようななってきているのが現在のラグビーなのかもしれない。

世界的な指揮者の小澤征爾は、少年時代にピアニストを志す傍ら楕円球を追いかけていたラガーマンとしても知られる。試合で大けがをしたことがきっかけでピアニストになることを諦めて指揮者を志すことになったわけだが、ラグビーファンにとっても近しい存在の音楽家と言える。その小澤さんが師匠のカラヤンにオペラの経験が乏しいことを見抜かれ、「シンフォニーとオペラは車の両輪。どちらもこなせなければダメだ」と諭されたそうだ。このことが自身にとっても貴重な助言となり、音楽性をより豊かにしたと言われている。ラグビーでもチームとしてバランスを見ながら両方に取り組むことで同じような効果が得られることになるのではないだろうか。

セブンズはラグビー経験がなくても運動能力に秀でていれば五輪を目指せるスポーツとして普及拡大を目指す考え方がある。しかし、「東京セブンズ」を観ても分かるように、むしろ今の進化形のセブンズで必要とされているのはラグビーの試合を経験したプレーヤーだからこそ持ち得るセンスではないだろうか。100mを10秒フラットで走れるトップアスリートが野球で盗塁王になることが困難なことと同じだと思う。世界有数のラグビー人口を誇る国なのだから、ラガーマンがセブンズに取り組みやすい環境作りをすることも大切ではないかと思った。


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