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『不死蝶』/サンタナに夢中になった頃(その3)

2013-02-27 01:52:43 | 地球おんがく一期一会


グラミー賞に輝いた『スーパー・ナチュラル』でスーパースターの座に返り咲いた形のサンタナだが、もっとも人気があった時代はいつになるだろうか。ファンそれぞれに想いがあるので一概に決めることは難しいかもしれないが、第1期が『天の守護神』の頃、第2期が『哀愁のヨーロッパ』をヒットさせた時期とみて間違いないだろう。その後はフォローをやめてしまったのでわからない。

では、もっとも人気がなかったのは? 私的にはこの作品『不死蝶』(ポルトガル語のタイトルは “Borboretta” )をリリースした70年代中盤頃ではないかと思う。『魂の兄弟達』で顕著になる信仰の影響が、曲想にも色濃く反映されてきた時代。コンサート会場ではお香が焚かれ、アリス・コルトレーンと共演した『啓示』のように、いきなりお経を聞かされたら普通の感覚だと引いてしまう。熱い気持ちを抱いていたファンの心が確実に離れていくような状況に、レコード会社も内心はヤキモキしていたに違いない。

そんなわけで、待望の新作だった『不死蝶』も、最初からすんなりと受け容れることができたわけではない。B面の「ヒア・アンド・ナウ」から「シナモンの花」を経て「漁夫の契り」に至る流れは何時聴いても感動の嵐なのだが、歌ものがなんだか説教くさくて馴染めなかった。そう、このアルバムはドリヴァル・カイミ作の「漁夫の契り」が最高の聴き所となっているブラジル指向の強い作品なのだ。一方で、ソウル・ミュージックへの接近と言った(宗教問題は別にしても)サンタナ・ミュージックが新たな展開を見せた作品とも言える。

ある種蟠りを持ちながら親しんできたこの作品だが、現代の感覚で聴くと違った印象を抱くことになるから面白い。もしかしたら、歴代のサンタナの作品の中でも最高レベルの充実した作品にすら思えてくる。『キャラヴァンサライ』で試行された切れ目なく進行する音楽と「サウンド・エフェクト」は完成の域に達し、アイルト・モレイラやスタンリー・クラークといったゲスト・ミュージシャンを迎えた白熱のインスト・ナンバーもアルバム全体の統一感を乱すことはない。初参加のレオン・パティジョがなかなか味のあるボーカルを聴かせる人だと思ったりもする。もしもサックスがウェイン・ショーターだったら文句なしの作品になっただろう。

今そんな感覚で楽しめるということは、裏返せば今の世の中に出回っている音楽が、耳あたりがいい反面、心の中にぐいぐい食い込んでいく要素に欠けているからかもしれない。すんなりとは聴けない音楽はどんどん捨てられてしまうくらいに音楽が溢れている現代社会。だからこそ、当時のサンタナが追求していたようなスピリチュアルな音楽が新鮮に感じられる部分はあると思う。あとひとつ、先に話題に出した『啓示』を初めて聴いたのだが、気持ちよく聴くことができたことも付記しておく。

サンタナはこの『不死蝶』をリリースした後、『アミーゴス』までの間しばらく沈黙を守ることになる。超ヒットチューンの『哀愁のヨーロッパ』を含む作品は、ファースト・アルバムを彷彿とさせる「ワイルドなサンタナ」の復活を告げた作品として大きな話題を呼んだ。しかしながら、『キャラヴァンサライ』に魅せられて虜になった1ファンにとっては、どこか上滑りした印象をぬぐい去ることができずにいる。その後の作品を聴いても心を動かされることはなく、ここでフォローが途絶えることとなった。

でも、サンタナに熱中したことで得たものには計り知れないものがあることを今だからこそ強く感じる。1枚のレコードをじっくり聴き込むことを最初に教えてくれた大切な人のひとりだから。


◆Santana “Borboretta” (1974)

1) Spring Manifestation (Airto Moreira - Flora Purim )
2) Canto De Los Flores (T.Coster, Santana Band)
3) Life Is Anew (C.Santana - M.Shrieve)
4) Give And Take (M.Shrieve)
5) One With The Sun (J.Martini – E.Martini)
6) Aspirations ( T.Coster – C.Santane)

7) Practice What You Preach (C.Santana)
8) Mirage (Leon Patillo)
9) Here And Now (C.Santana – Armando Peraza)
10) Flor De Canela (C.Santana – D.Rouch)
11) Promise Of A Fisherman (Dorival Caymi)
12) Borboretta (Airto Moreira)

Carlos Santana : Guitar, Vocal, Percussion
Tom Coster : Keyboards
Armand Peraza : Conga, Percussion
Jose Chepito Areas : Timbales, Percussion
David Brown : Bass
Jule Brussard : Sax
Leon Patillo : Vocal, Keyboards
Leon Chancler : Drums, Percussion

<guest>
Michael Shrieve : Drums
Airto Moreira : Drums, Percussion
Flora Purim : Vocal, Percussion
Stanley Clarke : Bass
Michael Carpenter : Echo Prex

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