飛び散る汗とスパイクにめくられて宙を舞う芝。相手の身体に当たる寸前に歯を食いしばる選手の顔のアップとどよめく観客席のカットバック。
クライマックスで繰り広げられるハイ・スピード(スローモーション)のショットが,同様のショットを十八番としていたブライアン・デ・パルマやサム・ペキンパーでさえも,さすがにここまではやらなかったという凄いヴォリュームで迫ってくる。あたかも「キャプテン翼」の大人実写版か,CGもワイヤーも使わない「少林サッカー」か,といったあざとさながら,一瞬にして映画の観客は決勝戦が行われたエリス・パークの特等席に連れ去られる。
こう来るとは思わなかった,というのが正直な感想だ。そして,その意表を突いた手法が,ものの見事に物語の核心をも居抜き,大男30人の骨のきしむようなタックルに,ピッチの彼方まで吹っ飛ばされたような心地良さを味わった。
クリント・イーストウッドの大胆な挑戦は,映画監督にとっての「円熟期」という言葉の意味をも変えてしまったかのようだ。
ネルソン・マンデラ大統領のもと,自国開催のラグビー・ワールドカップ大会で優勝した南アフリカチームの勝利への軌跡を描いた物語。
「硫黄島二部作」に「チェンジリング」と,近年は実話をベースにした作品が続いたクリント・イーストウッドだが,上記の作品はいずれも物語へのアプローチに,映画的な作法による「捻り」を加えられる素材だった。
本作においても,南アフリカにおける人種対立をラグビー(白人)とサッカー(黒人)によって鮮やかに対比したオープニングから,ラグビーを通じてボディーガードの和解へと進んでいくメイン・プロットに,「ミリオン・ダラー・ベイビー」に続いて父と娘の葛藤を絡ませる展開の妙は,観客を唸らせるに充分だ。
しかし今回「スポーツ大会での勝利」という,ストレートこの上ない題材を敢えて選択したイーストウッドには,クライマックスとなる決勝戦の描写を観る限り,初めから「高度な映画的技巧を凝らし」て感動を誘うという意図はなかったに違いない。
冒頭に記したとおり,延長までもつれ込んだニュージーランドとの決勝戦は,長い拘禁生活に耐えて遂に国のリーダーとなったネルソン・マンデラの執念と理想と高貴な人柄を,抑えた筆致で描いた前半のトーンとはまるで異なる,劇画タッチのショットで描かれる。これまでショットの的確な構図や編集のリズムの力を使って「行間を読ませる」ことで観客を惹きつけてきた高度な作術とはまるで無縁の荒々しくも神々しい表現方法こそが,「忍耐」によって国を変えたマンデラを讃えるためには最良と考えた,イーストウッドの判断,そして冒険心の勝利だ。
それにしても,間もなく80歳を迎えるというイーストウッドは,一体どれだけのエネルギーを持ち,どこまで進化していくのだろうか。次回作は本作の主演マット・デイモンを再び迎えた超自然現象スリラー,更にその次はFBIの初代長官フーバーの伝記に取りかかるという噂もある。「年を取るとさすがにしんどいよ」などと愚痴をこぼしている時間はないのだろうかと考え,我が身の背筋を伸ばしてみたりするのは,私のようなイーストウッド信者だけではないはずだ。降参。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
クライマックスで繰り広げられるハイ・スピード(スローモーション)のショットが,同様のショットを十八番としていたブライアン・デ・パルマやサム・ペキンパーでさえも,さすがにここまではやらなかったという凄いヴォリュームで迫ってくる。あたかも「キャプテン翼」の大人実写版か,CGもワイヤーも使わない「少林サッカー」か,といったあざとさながら,一瞬にして映画の観客は決勝戦が行われたエリス・パークの特等席に連れ去られる。
こう来るとは思わなかった,というのが正直な感想だ。そして,その意表を突いた手法が,ものの見事に物語の核心をも居抜き,大男30人の骨のきしむようなタックルに,ピッチの彼方まで吹っ飛ばされたような心地良さを味わった。
クリント・イーストウッドの大胆な挑戦は,映画監督にとっての「円熟期」という言葉の意味をも変えてしまったかのようだ。
ネルソン・マンデラ大統領のもと,自国開催のラグビー・ワールドカップ大会で優勝した南アフリカチームの勝利への軌跡を描いた物語。
「硫黄島二部作」に「チェンジリング」と,近年は実話をベースにした作品が続いたクリント・イーストウッドだが,上記の作品はいずれも物語へのアプローチに,映画的な作法による「捻り」を加えられる素材だった。
本作においても,南アフリカにおける人種対立をラグビー(白人)とサッカー(黒人)によって鮮やかに対比したオープニングから,ラグビーを通じてボディーガードの和解へと進んでいくメイン・プロットに,「ミリオン・ダラー・ベイビー」に続いて父と娘の葛藤を絡ませる展開の妙は,観客を唸らせるに充分だ。
しかし今回「スポーツ大会での勝利」という,ストレートこの上ない題材を敢えて選択したイーストウッドには,クライマックスとなる決勝戦の描写を観る限り,初めから「高度な映画的技巧を凝らし」て感動を誘うという意図はなかったに違いない。
冒頭に記したとおり,延長までもつれ込んだニュージーランドとの決勝戦は,長い拘禁生活に耐えて遂に国のリーダーとなったネルソン・マンデラの執念と理想と高貴な人柄を,抑えた筆致で描いた前半のトーンとはまるで異なる,劇画タッチのショットで描かれる。これまでショットの的確な構図や編集のリズムの力を使って「行間を読ませる」ことで観客を惹きつけてきた高度な作術とはまるで無縁の荒々しくも神々しい表現方法こそが,「忍耐」によって国を変えたマンデラを讃えるためには最良と考えた,イーストウッドの判断,そして冒険心の勝利だ。
それにしても,間もなく80歳を迎えるというイーストウッドは,一体どれだけのエネルギーを持ち,どこまで進化していくのだろうか。次回作は本作の主演マット・デイモンを再び迎えた超自然現象スリラー,更にその次はFBIの初代長官フーバーの伝記に取りかかるという噂もある。「年を取るとさすがにしんどいよ」などと愚痴をこぼしている時間はないのだろうかと考え,我が身の背筋を伸ばしてみたりするのは,私のようなイーストウッド信者だけではないはずだ。降参。
★★★★☆
(★★★★★が最高)