映画とライフデザイン

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映画「ヨーロッパ新世紀」 

2023-10-15 21:39:10 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「ヨーロッパ新世紀」を映画館で観てきました。


映画「ヨーロッパ新世紀」ルーマニア映画、移民で揺れ動くルーマニアの山村での出来事を鋭く描く。監督のクリスティアン・ムンジウ「4ヶ月、3週と2日」カンヌ映画祭パルムドールを受賞しており、この映画は自分も観ている。望まない妊娠をした女の友人が掻爬する手助けをする一部始終を映し出す作品で確かに作品のレベルは高かった。同じ監督なので、それなりのレベルは期待できると思って映画館に向かう。後半戦の展開にはぶっ飛んだ。すごい!

出稼ぎ先のドイツの工場で、マティアス(マリン・グリゴーレ)は別の工員にジプシーと言われて暴力沙汰を起こす。ヒッチハイクを続けて何とか故郷のルーマニアのトランシルバニアに帰郷する。妻のアナ(マクリーナ・バルラデアヌ)と息子がいる家に戻るが、まったく歓迎はされない。息子のルディは森で何かを見てから言葉が発せない。マティアスの年老いた父親はかなり衰弱していた。


マティアスは以前から関係のあったシーラ(ユディット・スターテ)の元に行く。シーラはパン工場の経営に携わっている。人手不足で求人しても集まらない。EUの補助金絡みでスリランカから2人雇い、1人追加する。ところが、村の人たちは歓迎せず、SNSに投稿した後で教会の集まりでも神父が工場にアジア系従業員を辞めさせるように言えと吊し上げるのだ。


田舎の村で出稼ぎアジア人に対する酷い仕打ちがあらわになる。
後半戦、エスカレートする住民集会を映し出す。集会に集まった住民にむかって固定カメラが一挙一動をとらえる。これまで観たことのない迫力のある場面は圧巻だ。映画ファンは必見と言えよう。

先入観なく観て、約1時間で登場人物の人間関係がつかめてくる。
そもそも主人公マティアスもドイツの出稼ぎ先で差別用語を浴びせられている。暴力沙汰を起こしてそのまま逃げるようにルーマニアの山間部に帰るのだ。この主人公もいい加減だ。子育てを妻に任せているのに、感謝の気持ちは少しもなく、逆に育て方が悪いといちゃもんつける。息子は言葉が発せなくなっている。

そして、もともと関係のあった工場経営者の女性シーラのところにもぐり込む。一度深い仲になった男女が離れても再度くっつくとヨリが戻るのは良くあることだ。ただ、マティアスの発言は聞いていて腹立たしくなる。


シーラが携わるパン工場は産業のないこの村では数少ない働き場所なんだろうけど、人が集まらない。求人広告をどうしようかなんて相談もしているけど、結局アジア人を引っ張ってくるしかない。スリランカ人を雇う。みんな真面目そうだ。でも、村の住人は気にいらない。村の周辺にあった炭鉱がなくなり職を失った人が多いというのに。ここまで何で避けるのか?という気もする。感染症ももってくるとかうるさい。むちゃくちゃ閉鎖的だ。

まずは、教会の集会に加わろうとしたスリランカ人を入れないように追い出した後に神父に詰め寄る。ここで住民たちの反対の発言がエスカレートした後で、スリランカ人たちが宿舎にしている家が襲われる。

そして、集会が始まるのだ。ここから延々と緊迫感がある場面が続く。自分は時間を計っていなかったが、作品情報によると17分の超長回しだ。このシーンには驚いた。集会で数多くの住民たちがスリランカ人を追い出そうと発言すると同時に、工場経営者や移民側につく人たちも反論の発言する。特定の人だけにセリフがあるわけでない。外野もうるさく、集会がぐちゃぐちゃになる。大げさではなく、こんなリアルな集会のシーンはこれまで観たことがない。これって何度もテイクを取ったのであろうか?やりとりが半端じゃない。最大の見どころのシーンを観るだけで、この映画を観る価値がある。


新生児の数が100万人を大幅に下回り、人口減少が予測されている日本では労働力の確保に移民に頼らざるを得ないのは間違いない。最近は食べ物の単価を上げないサイゼリヤにはアジア系といっても中東系の人種も目立つようになってきた。川口には1000人単位で中国人が入居している芝園団地もある。でも、この映画に出てくるような田舎の町に、移り住むこともあるだろう。この映画は対岸の火事のような捉え方はできない


印象に残ったことは多々あるが、シーラが聴いている音楽がトニーレオンとマギーチャン主演映画「花様年華」で繰り返して使われた弦楽の曲だ。シーラはチェロでこの曲を弾こうとする。


自分たちのそれぞれの伴侶同士で浮気していることに気づき、2人が出会うようになる。「花様年華」ではそんな場面に使われていた。当然、クリスティアン・ムンジウ監督は「花様年華」の不倫ムードを意識しているだろう。ただ、この映画は不倫を極めて描く作品ではない。家庭の混乱、周囲での人種差別と排除とかあるのに、ノホホンとしている主人公を責める。


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