映画とライフデザイン

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映画「晩菊」成瀬巳喜男&杉村春子&細川ちか子

2023-05-04 17:18:34 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「晩菊」を名画座で観てきました。


映画「晩菊」は1954年(昭和29年)の成瀬巳喜男監督作品である。名画座の林芙美子特集で観た。昭和29年キネマ旬報ベスト10で7位となっている。この年は日本映画を代表する名作木下恵介監督「二十四の瞳」、「女の園」がワンツーフィニッシュで、その後3位に世界的名作黒澤明「七人の侍」が入る。そんなすごい年に成瀬巳喜男監督は「山の音」と「晩菊」をベスト10に送り出している。ところが、「晩菊」を観たことがなかった。オールドファンで超満員の映画館で杉村春子の名演を堪能する。

元芸者で金貸しで生計をたてているきん(杉村春子)は、昔の芸者仲間にもカネを貸していた。芸者仲間だったおとみ(望月優子)は娘(有馬稲子)にカネの無心をしているが、相手を見つけて結婚するという。たまえ(細川ちか子)はおとみと一緒に暮らしているが、自慢の息子(小泉博)はなかなか寄りつかない。飲み屋を営むのぶ(沢村貞子)もきんにお金を借りている。その店に昔きんと心中し損なった関という男が飲みに来ているが、無視。それでも、旧知の田所(上原謙)から訪問するという手紙が来て、きんはウキウキする。

昭和29年当時の東京の風景をバックに興味深く観れた。
映像を観ながら、本郷3丁目から菊坂を下ったあたりの風景と想像できた。菊坂に並行して裏手の通りがあり、通りの間を抜ける路地の雰囲気に感じるものがある。樋口一葉旧居跡に近いのではないか。昭和30年から40年代に入るころ、東京の街の小路地にはくみ上げの井戸があったものだ。ネットで確認したら自分の推測はどうやらあたっているようだ。親戚がこの場所から比較的近い初音町(現在の小石川1丁目)に住んでいた。

玄人女性をメインにした映画の代表作といえば山田五十鈴主演の「流れる」である。同じ成瀬巳喜男監督の作品だ。昭和31年の「流れる」の前に元芸者が主役の「晩菊」がつくられているのは気づかなかった。「流れる」柳橋の芸者の置き屋が舞台で、山田五十鈴には置き屋のお母さん役が実によく似合う。戦前の名女優栗島すみ子も貫禄があった。杉村春子は芸者の1人として登場する。コミカルな役柄だ。

一流どころの女優陣をまとめるのはむずかしいと想像するが、そこが成瀬巳喜男監督の人柄であり腕前なのであろう。「晩菊」でも、文学座の独裁者杉村春子だけでなく、望月優子、細川ちか子、沢村貞子の4人をまとめるのだからたいしたものだ。もともと、上原謙は演技で際立つタイプではないし、加えて若き小泉博の大根役者ぶりがちょっとひどいので、女優陣の演技がなおのこと引き立つ。

1.細川ちか子
その中でも、細川ちか子の振る舞う姿がよく見えた。演技というより自然体でできてしまう。息子役の小泉博坪内美子(これがまたいい女)演じるお妾さんとできたり、北海道に旅立ってしまうなんて母親役だけど、役柄よりも品よく見えるのは何か違うからだ。細川ちか子と財界の大物から政界に転じた藤山愛一郎との関係はあまりに有名である。品がいいのは当然だ。子供の頃、今のシェラトン都ホテルの場所に藤山愛一郎の大邸宅があり、すげえ大きいなあと思っていた。成瀬巳喜男監督と細川ちか子は戦前からの長い付き合いだ。


2.望月優子
のちに参議院議員になる望月優子が元芸者でいちばん情けない役だけど憎めない。酔ってばかりいる。バクチも大好きだ。子供2人を女手一つで育てる旅館の女中役だった木下恵介監督「日本の悲劇」と役柄としては似ているかもしれない。社会の底辺にいる女を演じるのが上手い。でも、どう考えても這いあがる道がない。そんな女の人たちは多かったのであろう。

3.杉村春子
この映画では、カネをせびりに人の家を訪れる飛び込みの人たちが何人も映される。杉村春子は元芸者で金をしこたま貯めて、カネ貸しである。延滞しそうになると、容赦なく取り立てにいく。貸している相手も滞納している人が多い。借りている元芸者衆は子どもの稼ぎだけが頼りだけど、自分を捨ててどこかに行ってしまう。どうにもならない。そんなきんさんにむかし関係あった男たちがカネをせびりにくる。もともとは好意を持っていた上原謙にはあえて化粧して歓待するが、金の無心で一気に冷める。この時代の映画によくあるパターンだ。


最後に着物姿の若い芸者衆が2人出てくる。たぶん本物だろう。プロデューサーの藤本真澄が連れてきたのかもしれない。その2人の芸者を見ながら恨めしい顔をする望月優子が印象的だ。


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