映画とライフデザイン

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映画「神坂四郎の犯罪」森繁久彌&左幸子

2023-05-21 04:02:26 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「神坂四郎の犯罪」を名画座で観てきました。


映画「神坂四郎の犯罪」石川達三の原作を久松静児監督で映画化した1956年(昭和31年)の作品である。名画座の森繁久彌特集で観た。以前から気になっていた作品であるが、チャンスがなかった。この時代にしては珍しい法廷劇の要素をもつ。展開的に黒澤明「羅生門」のように数人の証言者のバラバラの発言をクローズアップする。森繁久彌もまだ若い。共演する女性陣の演技のレベルが高く見応えがある作品となっている。

雑誌の編集長神坂四郎(森繁久彌)が梅原千代(左幸子)と抱擁を交わす場面からスタートする。気がつくと、千代は薬を飲んでいて息は途絶え、神坂四郎も病院に運ばれていた。神坂には妻雅子(新珠三千代)と子がいた。心中未遂かと一気に新聞ネタとなった。神坂四郎には勤めている三景書房のカネを横領している疑いもあった。横領と自殺幇助罪で訴えられて、裁判が始まった。

雑誌社の女性編集者永井(高田敏江)や文芸評論家の今村(滝沢修)をはじめとして、神坂と縁があったシャンソン歌手戸川智子(轟夕起子)や妻の雅子の証言が次々とあった。神坂は亡くなった千代だけでなく、さまざまな女性と関係があった。それぞれの証言に矛盾があり、予想外の事実が浮き彫りになった後で、神坂四郎が弁明する。


これはむちゃくちゃおもしろい!傑作だと思う。
話がおもしろいのに加えて、それぞれの俳優の演技がすばらしい。
この時代の森繁久彌「夫婦善哉」「猫と庄造と二人のをんな」など女たらしでたらしない男を演じさせると天下一品だった。ある意味、社長シリーズで淡路恵子や新珠三千代あたりを前にして鼻の下を伸ばすのも似たようなものだ。この映画でも途中までは徹頭徹尾そのイメージである。思わず吹き出してしまうシーンもある。でも、今回は骨がある。

何せすごいのが左幸子である。自分には「にっぽん昆虫記」「飢餓海峡」などの昭和40年ごろのイメージしかなく大衆的な印象を持っていた。ここでの左幸子はビックリするくらい美しい。彼女に対して、そんな思いを持ったのは初めてだ。妖艶な感じをもつ。その彼女の演技は極めて情熱的森繁久彌に一歩もひかない姿を見せてくれる。情念がこもって実に素晴らしい。まだ羽入進とは結婚していない頃だ。加えて、自分にとっては「細うで繁盛記」新珠三千代「チャコちゃん」のお母さん役の高田敏江もいい感じだ。


石川達三の文庫本を書店で見ることは最近なくなった。自分が大学生くらいまでは、ドロドロとした男女関係のもつれというと石川達三の本を連想した。萩原健一、桃井かおり共演の「青春の蹉跌」も映画で大ヒットして、社会派の「金環蝕」もヒットしていた。ちょっとインテリで生意気な女性陣もみんな石川達三が大好きで自分もつられて読んでいた。田園調布に豪邸の自宅があったけどどうなったのであろうか。

周囲が亡くなっていて、自分だけ生きているというと、最近の市川猿之助に関わる事件を連想してしまう。神坂四郎横領罪に問われるが、文芸評論家の今村を助けてあげるために会社で使っている訳で、一定の交際費は認められている。亡くなった千代は小説の勉強のために今村のところへ北海道から上京した女性だった。実はその彼女を助けるために神坂が住まい探しなどに動いている訳でもある。一方で、会社への背任行為と雑誌社の社長に仕組まれる要素もある。それぞれの言い分には矛盾が潜んでいる。ただ、神坂は既婚なのに未婚と女性にウソをついているので始末が悪い。


最近の法廷劇といえば、弁護士が活躍する場面が多い。それと検察官の対決がクローズアップされる。ここでは両者はいてもそれぞれの証言が中心となる。それぞれの女性の言い分に対応した再現映像で、森繁久彌がいくつもの顔をする。駄々をこねたり、横柄になったりとこれだけの使い分けができるのもすごい。そして最後に向けて、この時代によく見られるだらしのない森繁久彌と違う顔をする。そのギャップにも注目したい。映画館の大画面で堪能したい作品である。
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