映画とライフデザイン

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羅生門  黒澤明

2011-04-10 05:48:00 | 映画(日本 黒澤明)
「羅生門」はあまりにも有名な黒澤明の出世作である。何度見たかは覚えていない。「天国と地獄」同様見るたびごとに新しい発見がある素晴らしい作品だ。
芥川龍之介に「羅生門」という作品はあるが、ここではそのモチーフを取りいれただけで基本は「藪の中」である。若い盗人に弓も馬も何もかも奪われたあげく、藪の中で木に縛られ妻が手込めにされる様子をただ見ていただけの情けない男の話である。
それを証言者が一人一人語っていく。



激しい雨の中、荒廃した羅生門が映し出される。そこには雨宿りをする男2人がいる。「人が信じられない」とのたまうきこりの志村喬と旅法師千秋実がいる。志村が『藪の中』の出来事を少しづつ語っていく。発見者である2人はある殺人事件の当事者の証言を聞いていた。明らかな事実はすでに武士森雅之がすでに亡くなっているということだけである。

藪の中を女こと京マチ子とともに歩く武士こと森雅之の前に、多襄丸こと三船敏郎という盗人が現れる。京マチ子のあでやかさに魅かれ、三船はちょっとした隙に森雅之をだまして木に縛り付ける。そして女を手ごめにした。そこまでは証言は一致している。後は3人の告白が異なる。
捕らえられた盗人こと三船敏郎、取り調べに泣き崩れる武士の妻こと京マチ子、巫女の口を借りて現れた男の霊こと森雅之のそれぞれの当事者3人の証言は、男の死因について大きく食い違う。どれが真相なのかはわからない。。。。。



これこそ「真相は藪の中」という言葉の語源である。
芥川龍之介はそこでペンを置く。どういう解釈が取れてもいいようにする。
でも黒澤明は独自の考えを映画の中で表現する。
その先はやめておこう。何度見てもお見事というしかない。
人間の深層心理に迫る。

遥か昔、入社してすぐに会社で新人研修があった。夜の討論で芥川の小説「藪の中」が課題に出された。「この文章を読んである事実を想定せよ」という課題である。
当然その時にはこの映画は見ていた。黒澤の解釈を知った上で、議論に参加した。みんなは見ていなかったようだ。恥ずかしながら、黒澤の解釈を借用した。みんな真剣に自説を展開していたが、あまりにもバカらしくて聞いていられなかった。自分はさめた新人だった。「藪の中」の真相解釈は昔から議論されていると聞くが、黒澤の映画の表現に勝るものはないだろう。

ここでは三船敏郎と京マチ子の動きがあまりにも素晴らしい。絶叫系の三船のセリフはここでも冴える。本当の意味での武士でもないのに暴れまわる多襄丸こと三船の心理をうまく表現する。乱暴な動きの中に弱さが同居する。見るたびごとに演技に感心する。また、女の業を見事に表現した京マチ子の演技は狂気に迫る。森雅之との絡みで見せるあの「笑い」は恐ろしい。「雨月物語」とこの映画の彼女はなぜかダブる。いずれも不気味だ。それだけ凄味のある演技ということであろう。同時にあの妖気を映像にくっきり表現した撮影の宮川一夫の力量も冴えわたる。

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