映画とライフデザイン

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映画「天使の涙」 ウォン・カーウァイ

2013-09-08 09:09:52 | 映画(アジア)
映画「天使の涙」は香港の巨匠ウォン・カーウァイ監督の1995年の作品だ。

監督の作品の系譜では、「欲望の翼」「恋する惑星」のあとで「ブエノスアイレス」「花様年華」の前の作品だ。
ここで監督は若き香港人の若者たちをその猥雑な夜に放つ。虚構に満ちあふれたハチャメチャな生活の中でたくましく生きる彼らをドキュメンタリーのように映し出している。いい感じだ。

95年の香港を映す。
殺し屋(レオン・ライ)とそのパートナーである美貌のエージェント(ミシェル・リー)。仕事に私情を持ち込まないのが彼らの流儀で、二人は滅多に会うことはない。しかし、その関係が揺らぎつつあるのを2人は知っている。
エージェントが根城とする重慶マンションの管理人の息子モウ(金城武)は5歳の時、期限切れのパイン缶を食べすぎて以来、口がきけなくなった。定職に就けない彼は、夜な夜な閉店後の他人の店に潜り込んで勝手に“営業”する。時に強制的にモノやサービスを売りつけるあくどい商売をしている。ある日、彼は失恋したての女の子(チャーリー・ヤン)に出会って初めての恋をする。しかし、彼女は失った恋人のことで頭がいっぱいで、彼のことなんか上の空だった。

一方、殺し屋はちょっとキレてる金髪の女(カレン・モク)と出会い、互いの温もりを求める。彼と別れた金髪の女とエージェントは街ですれ違いざま、互いの関係を嗅ぎ当てる。エージェントは殺し屋に最後の仕事を依頼した。
殺し屋は最後の仕事で最初の失敗をし、数発の銃弾が彼の途切れる意識に響く。

重慶マンションの猥雑さが95年の香港を象徴している。
街並みもあの当時のものだ。沢木耕太郎の「深夜特急」の匂いがする。

もともと「大陸」と比較すると香港は20年以上先に進んでいた。しかも洗練していた。その洗練さの中に独特の猥雑さが混じるのが魅力的だった。香港の街は帝国主義時代の英国に強制されたコロニアル文化が生んだものであった。もしかしたら、返還間際の香港の方が今よりも魅力的だったのではないだろうか?というよりも自分がその当時の香港を好きだったといった方がいいかもしれない。おいしい店も多かった。そのころの街と比較して、建て替えも進みここ10年で現代化している。でもこの映像の中の猥雑さが好きだ。

ウォンカーウァイの独特な映像作りが光る。映像のスピードに緩急がある。「花様年華」同様に登場人物の動きを自由自在に操る。スローモーションの使い方がうまい。ロケ地の選択も巧みで、夜の香港の魅力が映像からあふれ出る。日本ではありえないわけがわからない登場人物が多い。特に金城武の役柄が奇妙だ。香港島と九龍をつなぐトンネルを何度も二人乗りのバイクで走らせる。転倒してしまうんじゃないかとヒヤヒヤする。

レオンライの殺し屋ぶりがカッコイイ。彼とクールな関係を維持するミシェル・リーが美しい。
この映画までで監督は現代香港の若者事情を描ききったのであろうか?「ブエノスアイレス」ではアルゼンチンに飛び、「花様年華」では30年以上昔の香港にタイムスリップする。路線を変える。そういった意味でこの映画はウォン・カーウァイ監督のターニングポイントであったかもしれない。
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