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語源の合理性

2008-10-11 23:35:27 | 言葉と文字

 「うどの大木」は、うどが大きくなってしまうと食用にならないで、茎は材木にするにはやわらかくて役に立たない→「体ばかり大きいが役に立たない」という意味だと説明されています。
 田井信行「日本語の語源」によると、こういう説明では納得できないとして、これは「うろの大木」が変化したものなのだとしています。
 樹木の空洞を「うろ」といい、これが発音強化されて「うど」になったというのです。
 そういわれてみれば、独活は多年草で樹木ではないので、2メートルぐらいまで成長するといっても大木というのは不適切な表現です。
 秋田の蕗なども成長すると2メートルぐらいになるそうですが、大木とはいわないようですから、独活の生長したものを大木とは表現しないでしょう。
 
 これは「ろ」という音が「ど」に変わったという説ですが、「ど」が「ろ」に変わるという例はあります。
 福岡市にある「かろのうろん」という、うどん屋の屋号は「角の饂飩」ということで、「かどのうどん」の「ど」が「ろ」にかわった例です。
 田井説が正しいかどうかはわかりませんが、木のうろを「うとー」と発音する地方もあるそうですから、「ろ」が「ど」に変わったという可能性があるかもしれません。
 実際はどうかは別として、説明としては一般に言われているものより、田井説のほうが合理性があります。

 それでは合理的であればそれが正しいのかといえば、必ずしもそうはいえません。
 たとえば「かたむく」という言葉の語源は「片+向く」だという風に辞書に載っていて、一見理にかなった説明のようですが、「かたむく」のもとの形は「かたぶく」ですから困ったことになります。
 「かた」はよいとしても「ぶく」は「向く」だとはいいがたいので、「ぶく」とはどんな意味なのかということが未解決になります。
 また「蝙蝠」は古語としては「かはほり」あるいは「かはぼり」ですが、田井説では「蚊+屠る(ほふる)」で、屠るは古くは「はふる」ですから、「蚊+はふる」が変化して「かはほり」となったとしています。
 蝙蝠は「蚊食い鳥」と呼ばれることもあるように、蚊を屠るという意味につながるので、「かはほり」と呼ばれたというわけです。
 別の説では蝙蝠は「かわもり」つまり川守とよばれたことから、「こうもり」と発音されるようになり、「かうもり」と表記されるようになったといいます。
 この説では「川守」の前が「かはほり」であったことが説明できないのですが、「かうもり」という旧仮名遣い表記から説明しようとしたのかもしれません。

 語源に注意が向くのは、聞いた語感と意味とにずれがあるからですが、ずれの原因は意味自体が変化する場合もありますが、発音の変化による場合がかなりあります。
 そこで発音が変化したからといって、文字表記を変えなければ元の意味が維持されるはずだという考えが生まれます。
 旧仮名遣いを維持したいと考える人は、発音が変化しても元の表記のままにすべきだというのですが、その元の表記自体が変化したものもあるので理屈どおりにはいきません。
 たとえば「幸い」は旧仮名遣いでは「さいはひ」ですが、もとは「さきはひ」ですから、文字表記を変えないというなら「さきはひ」と表記して「さいわい」と読ませるべきだということになります。
 「狭し」はもとは「せばし」ですから「せばし」と書いて「せまし」と読むということになります。
 扇は「あふぎ」がもとの表記だから、「おうぎ」と書かず、「あふぎ」と書くべきだというなら,蝙蝠も「かはほり」と書いて「こうもり」と読むべきだということになりかねません。
 言葉の意味や表記が語源からずれてしまっているからといって、元の意味や形を維持することには無理があるのです。


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