「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・03・27

2005-03-27 07:00:00 | Weblog

 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「忘れるものは忘れるがいいいくら名所古跡だろうと、縁がなければ忘れる残ったものが自分の旅である古人はそうして旅をした。」

  (山本夏彦著「毒言独語」所収)


 「すぐ忘れる部分は、記憶するに値しない部分である。」

  (山本夏彦著「ダメの人」所収)


 もうひとつ「旅」で思い出した「お気に入り」。 松尾芭蕉(1644-1694)「おくのほそ道」から二句。 旅は春に始まり、秋に終わる。 旅の終わりはまた、新たな旅の始まり。

 「行く春や鳥啼き魚の目は涙」

  (過ぎゆく春を惜しんで、人間ならぬ鳥までも鳴き、魚の眼は涙でうるむ。今、旅に出る私どもを囲み、みんなで別れを惜しんでくれた。)

  考えて 、考えて 、言葉を選んで 、詠んだシュールな句 。理屈っぽい人だったんだろうなあ 。

 「蛤のふたみに別れ行く秋ぞ」

  (蛤のふたと身とが別れるように、私は見送る人々と別れて、二見が浦に出かけようとしている。ちょうど晩秋の季節がら、離別の寂しさがひとしお身にしみる。)

  (角川書店=編 「おくのほそ道(全)」から)

  考えて 、考えて 、言葉を選んで 、詠んだ理の勝った句 。

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