今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「忘れるものは忘れるがいい。いくら名所古跡だろうと、縁がなければ忘れる。残ったものが自分の旅である。古人はそうして旅をした。」
(山本夏彦著「毒言独語」所収)
「すぐ忘れる部分は、記憶するに値しない部分である。」
(山本夏彦著「ダメの人」所収)
もうひとつ「旅」で思い出した「お気に入り」。 松尾芭蕉(1644-1694)「おくのほそ道」から二句。 旅は春に始まり、秋に終わる。 旅の終わりはまた、新たな旅の始まり。
「行く春や鳥啼き魚の目は涙」
(過ぎゆく春を惜しんで、人間ならぬ鳥までも鳴き、魚の眼は涙でうるむ。今、旅に出る私どもを囲み、みんなで別れを惜しんでくれた。)
考えて 、考えて 、言葉を選んで 、詠んだシュールな句 。理屈っぽい人だったんだろうなあ 。
「蛤のふたみに別れ行く秋ぞ」
(蛤のふたと身とが別れるように、私は見送る人々と別れて、二見が浦に出かけようとしている。ちょうど晩秋の季節がら、離別の寂しさがひとしお身にしみる。)
(角川書店=編 「おくのほそ道(全)」から)
考えて 、考えて 、言葉を選んで 、詠んだ理の勝った句 。