「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

報道があるから事実がある 2005・03・15

2005-03-15 07:00:00 | Weblog
 今日の私の大の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「あの仲よしだった中国とベトナムが不仲になって、中国はベトナムの国境を越えた。中国が支援していた民主カンボジアを、ベトナムが攻めたからである。いわゆる『中越戦争』である。ベトナムと中国は一枚岩だとなが年新聞で読まされていたから、読者は寝耳に水で驚いた。本当はベトナムと中国は千年来不仲で、ベトナムの歴史は中国に侵略された歴史だったのである。ただ当面の大敵アメリカに勝つために、しばらく仲よくしただけのことで、めでたく勝ったからもとのカタキ同士にもどったのである。そしてベトナムはソ連と結んだのである。書いて十五行読んで二十秒――たったこれだけのことを新聞は言わないから、読んで読者は分らなかったのである。

  (山本夏彦著「美しければすべてよし」所収)


 「そこにあるものは目にはいるが、ないものは目にはいらない。したがって、そこにないものに私は注目する。」

 「そこにないものを見ないと、世の中のことは分らない。それというのも、ものはそこにあるものより、ないものから成ることが多いからである。」

 「けれども、あるものさえ見えないのに、ないものを見るのは困難である。」

  (山本夏彦著「二流の愉しみ」所収)



 「事実があるから報道があるのではない。報道があるから事実があるのである。」

  (山本夏彦著「かいつまんで言う」所収)



 「私は断言する新聞はこの次の一大事の時にも国をあやまるだろう。」

  (山本夏彦著「『豆朝日新聞』始末」所収)
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