「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・03・09

2005-03-09 07:00:00 | Weblog


  今日の「 お気に入り 」は 、山本夏彦さん( 1915-2002 )のコラム集から 。
 考えてみれば 、山本夏彦さんのコラムほど たびたび私が手帳に書き留めた
 作者はいません 。

 「 何をかくそう 、私はテレビを自動車を電気を 、その他もろもろのメカニズムを
  認めないものである 。いかにもそれらは便利である 。けれども 、世には便利に
  代えられないものがある
のである 。十年以前 、我々の家庭にテレビはなかった 。
  なかった当時 、我らは今より不幸だったか 。生活は貧弱だったか 。痛くもかゆ
  くもなかったじゃないか 。テレビがそうなら 、ラジオもそうだ 。順ぐりにさか
  のぼれば 、ガス水道電気にいたる 。電気は行燈の十倍明るく便利だとすれば 、
  日清日露の昔より今は十倍幸福か 。」

 「 つかぬことを言うようだが 、私は永年日本語を日本語に翻訳している 。翻訳は
  もと外国語を日本語に移すことを言ったが 、私は日本語を日本語に移すのである 。
  たとえば 、いくら資本金が多くても 、それが不動産会社なら『 千三つ屋 』と訳す 。
  証券会社なら『 株屋 』と訳す 。私は翻訳は批評だと心得ている 。」

  ( 山本夏彦著『 茶の間の正義 』所収 )


コメント
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