「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

灰が降る 2005・03・11

2005-03-11 07:00:00 | Weblog

 今日の「お気に入り」は、三好達治(1900-1964) の「百たびののち」から「灰が降る」。

 「灰が降る灰が降る  
  成層圏から灰が降る

  灰が降る灰が降る
  世界一列灰が降る

  北極熊もペンギンも
  椰子も菫も鶯も

  知らぬが仏でゐるうちに
  世界一列店だてだ

  一つの胡桃をわけあつて
  彼らが何をするだらう

  死の総計の灰をまく
  とんだ花咲爺さんだ

  蛍いつぴき飛ぶでなく
  いつそさっぱりするだろか

  学校といふ学校が
  それから休みになるだらう

  銀行の窓こじあける
  ギャングもゐなくなるだらう

  それから六千五百年
  地球はぐっすり寝るだらう

  それから六万五千年
  それでも地球は寝てるだらう

  小さな胡桃をとりあって
  彼らが何をしただらう

  お月さまが
  囁いた

  昔々あの星に
  悧巧な猿が住んでゐた」

  河盛好蔵編「三好達治詩集」(新潮文庫)所収

コメント
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