白杖のトライリンガル

難聴だけじゃない?網膜色素変性症を併せ持つアッシャー症候群の息子達の日常を母の目からつづります。

出産日記 第三話 「薬投入まで」

2007-12-17 04:57:57 | その他
ジョアンナはコンピューターに入っている私のデータをチェックしながら言った。
「え?あなた日本人なの?(←日本語)」
「はいそうです。日本語ができるんですか?」
「私ねぇ、お母さんが日本人なのよ。」
うっひょ~、この看護婦さん日本語ができるんだ。ラッキー。
少し彼女の生い立ちについての雑談なんかをして、すっごく和んだ雰囲気。
マー君の時の無表情な看護婦とは大違い。

それからジョアンナは今日の担当医が誰かをチェックした。
前記したとおり、私の産院には5人の医者がいてお産を担当するのも当番制にしている。だから自分の担当医が赤ちゃんを取り上げてくれるとは限らない。男性の先生じゃないことだけを祈る。
「今日の担当医はドクター アンジェリー・トーマスね。」
うっそ~?私の大好きなアンジェリー先生なの?うっわ~、ラッキー。
「私アンジェリー先生大好きなんですよ。」
「あの先生は名医よ。彼女の帝王切開に何度も立ち会ったことがあるけど、手術の技術は彼女が一番ね。それにどんなに細かいことでも手を抜かない人なの。」
へぇ、そうなんだ。
でもなんか納得。
後で知った話なんだけど、このアンジェリー先生はハーバードのメディカルスクールを出ているらしい。
学歴で人を判断しないようにしている私だけど、彼女の場合はその学歴が彼女の魅力に磨きをかけているようだ。

「陣痛まだ来ないの?」
「全然です。」
「そう、じゃぁ少しあるいた方がいいわ。15分くらい院内を散歩しておいで。」
そういわれて散歩に出かける。
おっとはねむそ~~な顔でついて来る。

あるいてもちっとも陣痛が始まる気配はない。
もう朝の9時にさしかかろうとしている。

「普通は破水後数時間で自然に陣痛が始まるんだけど、始まらない場合は薬で始めた方がいいわ。感染症の恐れがあるから。ドクターに指示を仰ぎたいんだけど、今日はとにかく忙しくてね。25ある分娩室全部使われているのよ。昨日はたったの3人しか産まれなかったのに。だから緊急じゃない限りは状況を見ながら先生に声をかけたいの。もう少し待って。」
「え?全部使われているって、今から入ってきた妊婦さんはどうするんですか?他の病院に転送されるんですか?」
「転送したことはないわねぇ。でも本当に満員の場合、最初に通されたカーテンで区切ってあるチェッキングルームで産むこともあるのよ。」
うわ、そんなの最悪。
「もう一度あるいてきたらいいわ。」
「ほ~い。」

夫はまたソファーでうとうとしている。
「いいよ今回はついてこなくて一人で行ってくるから。」

一人で散歩をしていると、夫が眠そうな顔で出てきた。
「アンジェリー先生が病室に来たよ。一人で寝てたら『あなた!ワイフを一人で歩かせているの?』っとしかられたよ。」
ははは、ざまぁみろ。
急いで病室に戻ると先生が待っていた。

「昨夜は眠れた?」
「はい」夫がすかさず答える。
「ちょっとまった、あなたは寝たかもしれないけど、私は寝てないわ!」
ふざけんじゃねぇ。

「自然に陣痛が始まるのをもう少し待ちましょうか。」
「どうして私は陣痛が始まらないんですか?」
先生は丁寧に図を書いて説明してくれたけど、いまいちよくわからない。
私なりの理解ではどうやら破水すると羊水が子宮口に流れ出ることで脳に信号が行って陣痛が始まるらしい。でも子宮口はお産の時、後ろの方から前の方に場所が移動する。それで破水の位置と子宮口の位置がずれると脳にすぐ信号が行かない場合がある。それでも遅かれ早かれ陣痛は始まるんだけど、感染症のおそれがあるからあまり長くは待ちたくないということらしい。

お散歩をするものの、ちっとも陣痛の気配はない。
もう昼になっている。

また先生がやってきた。
ジョアンナが言う。
「薬をちょっと入れて脳に信号を送れば、後は自然と陣痛が始まると思うんですけどねぇ。」
先生もジョアンナの意見に同意。
薬を少量入れてみることになった。

午後1時薬投入。

(続く)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿