肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『力道山』、観ました。

2006-09-03 21:50:57 | 映画(ら・わ行)

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 『力道山』、観ました。
日本のプロレスの礎を作り、街頭テレビで人々を熱狂させた力道山。相撲部屋に
入門するが、激し過ぎる性格から破門され、アメリカに渡ってプロレスを学んで
帰国する。シャープ兄弟とのタッグマッチなど、伝統の一戦を要所に挟みながら、
妻の綾や興行界を仕切る会長との関係が描かれていく……。
 映像、ストーリー、演出、構成‥‥、どれを取っても“中の上”。普通に
観れば(?)特に目新しいものはなく、取り立てて騒ぎ立てするような映画では
ないと思う。ただし、“韓国映画”でありながら“日本のヒーロー”を描いていて、
“韓国人俳優が主演”を務めながらも“全編オール日本語の台詞”に挑んだと
すれば、これは驚きに値する。特に、主人公“力道山”扮するソル・ギョングの
迫力には、圧倒されることしきり。ほとんど別人と思えるほどの(マッチョな)
肉体改造もさることながら、日本語台詞の習得には、恐らく気の遠くなる程の
労力と時間を要したことだろう。勿論、(発音やら格好やら)細かい部分で
“多少の違和感”を感じる箇所もあるのだけど、「朝鮮人」として…、一方で
「日本のヒーロー」として…、“人間”力道山の持つ苦悩が痛切に伝わってくる。
しかも、決して“善人”ではない…。いや、むしろ、どちらかと言えば“欠陥
だらけの彼”を妻の綾は何故愛していたのか……。そんな彼の心底に流れる
“イノセントな部分の優しさ”まで、しっかりと演じ切っているのはさすがだ。
それにしても、これまで『ペパーミント・キャンディー』、『オアシス』、本作
『力道山』と…、彼の主演作を観てきたが、どれも簡単に演じられるものではない
“難役”ばかり。改めて、彼の「演じること」への探究心と執念にはほとほと
感心させられる。広く、アジア映画界を見回してみて、これまでも…、そして、
これからも…、ソル・ギョングを超える役者は出てこないと思う。
 さて、この映画のストーリーと構造を見たときに、やはり影響を受けたと
思われるのは、あの名作『市民ケーン』ではあるまいか。大きな夢と野望を持ち、
頂点にまで駆け上がっていく一人の男。しかし、成功し、巨大な富(あるいは
名声)を手にする一方で、周囲からは見放され、指の隙間から砂がこぼれ落ちる
ように“大切なもの”をひとつずつ失っていく。例えば、それはお金では買えない
“信用”であったり、“仲間”であったり、“家族”であったり…。結局、彼は自分が
自分(ヒーロー)であるために、「勝つこと、更に勝ち続けること」‥‥それだけに
自身の義務を課し、それゆえに自分自身を見失っていったんだろう。負けて、
初めて手にするものもあるはずなのに…。だって、「真の強者」とは“敗者の
痛み”を知っている者なのだから。何だか、どっかの3兄弟と、その厳格な(?)
父上に聞かせたい言葉ではありますが(笑)。