肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『善き人のためのソナタ』、観ました。

2008-01-27 06:42:07 | 映画(や行)





監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ、セバスチャン・コッホ

 『善き人のためのソナタ』、観ました。
東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省の局員ヴィースラーは、劇作家ドライマンと、
その恋人にして女優のクリスタが、反体制派であるという証拠を掴むよう命じられる。
上層部からも支持されているこの任務を成功させれば、出世は確実だった。国家に
忠誠を尽くすヴィースラーは、早速任務に就き、盗聴器を通して2人の監視を続ける
のだが‥‥。
 2007年度キネ旬の年間2位にランクされたとの知らせを聞き、早速レンタルして
きたわけだが、観ていて何と胸が切なくなる、何と息が苦しくなる。実際の限られた
空間に押し込められたものとは違う、“心の閉塞感”とでもいうのかな。社会主義
体制の管理下では、個々の権利よりも国家の利益の方が優先され、誰もが“見えざる
恐怖”に怯えて暮らしている。中でも、芸術家たちにとっては、“表現の自由”を
奪われることが自分の手足をもぎ取られたに等しく、いや、それ以上の、死にも勝る
苦しみとなって圧し掛かってくる。観ながらボクが怖くなったのは、奴らが直接
自らの手を下して人を抹殺するのではなく、“相手の権利”を奪い、その“精神への
圧力”を掛けることで、“破滅”へと追いやってしまうことだ。また、この映画の拘りは、
その、芸術家たちの対抗手段においても、一切の暴力は避け、僅かの流血さえ
描かれることはない。普段の抗争における銃と剣を、ここでは紙とタイプライターに
持ち替えて、彼らは文学(芸術)の中から立ち上がっていく。かつて、ドイツ支配下の
フランスで、マルセル・カルネが名作『天井桟敷の人々』を完成させたように…、
又同じく、チャップリンが幾多の妨害に合いながらも『独裁者』を発表したように…、
《芸術家としての誇り》を“武器”にして強大な権力へと立ち向かっていく“彼らの
魂”に、思わず胸が熱くなった(涙)。それは、どんなリアルな銃撃戦をみるよりも、
遥かに感動的だ。
 また、ここでは、もうひとつの、内なる戦いとして、国家保安省に属し、本来は
敵対する立場にありながら、あるきっかけから芸術家らのサポートに回っていく
“男の内面”が抑制された映像の中、スリリングに描かれていく。では、それまで
機械のように表情がなく、氷のように“冷たい彼”を、一体何がそうさせたのか…??、
それは、忘れかけていた“愛の苦しみ”か、何を持っても埋めることの出来ない
“心の空虚”か、愛しい女性(ひと)への切なる想いか‥‥、いや、こう考える
ことはできないか。マンションの壁を挟んで盗聴する“表情のない男”と、その
向こうで、互いに傷つけ合いながらも“愛の形を確かめう男女”は、そのまま現実
世界で“ベルリンの壁”に分けられた“東西ドイツの姿”ではなかったか。一方、
芸術家としての弱みに付け込まれ、密告の片棒を担がされるクリスタとて同じこと。
ドライマンは言った、「彼女は隠し場所を知っている。だが、それでも隠し通して
くれたなら、守護の天使だ」と。勿論、両者とも、我々が普段から想い描く“正義の
スーパーヒーロー”のそれはない。しかし、歴史の陰に隠された“名もなき多くの
英雄(そして犠牲者も)”がいたことを、この映画は強く語り掛けてくる。もしかしたら、
それは歴史書に記された大層な事実なんかよりも価値があり、重みのあること
かもしれない。






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