ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

忘却からの帰還 【塀の中の懲りない面々】安部 譲二 文春文庫

2014年06月06日 | 〔忘却からの帰還〕
【塀の中の懲りない面々】安部 譲二 文春文庫 20010713  
体験者が御案内する刑務所ツアー小説というべきか。
これを原作として1987年には映画化された。


「親孝行なんて、誰でもとっくに一生の分が充分すんでいるのに、誰も知りもしない。
誰でも、生れた時から五つの年齢までの、あの可愛らしさで、たっぷり一生分の親孝行はすんでいるのさ、五つまでの可愛さでな」
老エゴイストのスゴイ理屈言葉。


府中刑務所には常時2200人の懲役者がいる。
木工場のベテランたちが「算段」を新人に教える。
「出る算段より、もうこない算段だよ」


釈放の出迎え時間。
ヤクザ、ごろつきは早朝に外車が迎える。
泥棒やかたぎは朝9時頃、ひっそりと外に出る。


ニセ医者で日本一の腕前ドク西畑は、魚の目(うおのめ)で苦しむ囚人にガラスのカケラで手術をする。
 下痢には竹箒の柄を黒く焼いた薬を飲ませる。
腹の痛みにはハリを打つ。

結婚行進曲は仕事のメロディ。

「タマイレ」というのが骨が折れる作業。
歯ブラシの柄を切断して丹念に磨き、仁丹粒の真ん丸な球に仕上げる。
太い箸でなにの海綿体との間をグサッ、血がにじみあがってくる間に埋め込む業。
これで、なにがなにしてなんとやらとなるらしい。
止めて止まらぬ色の道とはいえ、キビシイ。



ある男が密告爺さんに謎の一言を囁く。
「寝てる間に両目をハリで射されればだれがやったとチクルにはいかねえだろう。気をつけなよ」


工場の前で皆で日向ぼっこ。
地面の虫を「右から来た」「いや左からだ」「上から落ちた。俺は見た」
で結局、大乱闘となる堀の中の面々。


お辞儀 看守への「礼ッ!「気をつけッ、礼ッ」 を言って「直れ」とは言わないそうだ。


刑務所さまざま
水戸は26歳以下の少年刑務所。
婦人は栃木、市原は交通。
ヤクザや前科者は普通の刑務所へ。
初犯は黒羽、千葉は懲役8年以上の重罪者。
八王子は医療刑務所。
死刑囚は小菅か宮城、府中は刑期7年までの再犯慣れ者。


竿師からソープ嬢へのことば
 「ボッとして忘れていたんだ。そっちの足は水虫があるんだよ」
このやさしさが彼女たちの身に沁みるという。


あとがきから
作者の安部は昭和12年生まれ。
日比谷高校に通う兄とは違って麻布中学2年でぐれ始め、安藤組で長い渡世人生のスタートを切った。
25年の稼業で破門に。

この本の解説をしている人が田中澄江。
脚本家であり作家。「花の百名山」を選んだことでも知られる。中野区教育委員も務めた。
田中一家をあげて安部ファン。

この作品の紙背に漂うやさしさを別のやさしさが感得して解説したようだ。




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