能率技師のメモ帳 経済産業大臣登録中小企業診断士・特定社会保険労務士の備忘録

マネジメント理論、経営理論を世のため人のために役立てるために

能率の原理原則 より安く・より正確に・より早く・より安く

2012年03月17日 | 日記・エッセイ・コラム

 「能率」とは、目的と手段のバランスのとれたこと。

 目的の達成のための最適な方法論を実行することです。

 わたし自身、大学院で能率史の研究を行ったのですが、能率とは米国発の「MANAGEMENT(経営管理)」と多少異なる、日本的なコンセプトだと考えています。

 米国発のマネジメントは、19世紀末にF.W.テイラーによって提唱された科学的管理法が起源。工場における生産性の向上をめざし、「標準」を設定。これに基づいて1日の生産量から労働者一人当たりの仕事量を上げていこうというものでした。賃金も差別的出来高払という、よく働いた人にはたくさんの賃金を、そうでない人にはそれなりの賃金をというシステムをとっていました。

 このため、産業革命の時に起こったラッダイト運動(機械打ち壊し運動)に似た科学的管理法反対運動が起こりました。自分たちの仕事を奪う機械をぶっ壊せという労働者の生活防衛のための運動、そして20世紀初頭に米国で起きた科学的管理法への批判。労働者や労働組合から生産性向上による雇用の縮小、賃金の削減・・・といったことへの不平不満が起こったことは必然と言えば必然。テーラーも労働組合連合会や公聴会に呼び出され糾弾を受け、かなり寂しい晩年を過ごしたといわれています。

 20世紀初頭、こうした米国の科学的管理法を書籍やニュースで知り、日本に持ち込もうとした実務家や研究者が存在しました。上野陽一(1983~1957)、池田藤四郎、神田孝一、荒木東一郎といった人物です。彼らは、能率技師と呼ばれていました。

 「能率の父」と言われている上野陽一は、心理学者としてスタート。いまで言う産業心理学、に対する高い関心から、テーラーの科学的管理法に惹かれるようになります。実際に渡米し、テーラーの愛弟子ギルブレスなどとも交流を結びます。文献研究をしていたところ、ひょんなことから小林商店(現在のライオン株式会社)の歯磨き粉工場の工程改善に取り組むことになります。テーラーの科学的管理法の理論を駆使して、実践に結び付ける努力を積み重ねること数年・・・。生産時間の短縮、工場スペースの縮小、生産量の増大、職工の数の縮減などの成果に結びつけます。これが、日本で最初の経営コンサルティングと言われています。1920年代、今から約100年前の話です。上野は、自著の中で「本当は指導を成功させる自信はなかった」という述懐をしています。

 この経営コンサルティングの成功を皮切りに、上野陽一は、能率の伝道師としてコンサルティングの普及をしていきます。上野は、テーラーが批判されていたということも念頭にはあったのでしょうが、コンサルティングによって得られた成果を、資本家だけではなく、労働者・消費者の3者間で分け合うべきだと主張し、事実、資本家・経営者への申し入れを行っています。すべては受け入れられなかったものの、女工の働く工場における休憩時間の増設、消費者に提供する化粧品の増量・・・といったカタチでの還元が始まったのです。

 このように「能率」は、米国でいうマネジメントより、ヒト(ヒューマン)の要素がかなり強いコンセプトということができます。科学で追及するマネジメントでありながら、人間の持つ温かみを無視しない・・・、そういった人間学の部分も併せ持っているのです。

 能率は、目的と手段のバランスといいましたが、上野陽一は、次のように定義しています。

 目的>手段 →ムリ

 目的<手段 →ムダ

 ムリ+ムダ=ムラ

 今でも使われている「3ム」、いわゆる「ムリ・ムダ・ムラ」です。

 そして、目的を達成するための手段は、「安・正・早・楽」(アン・セイ・ソウ・ラク)でなければならないとしています。

「安」・・・より安いコスト経費で。現在でいえば、より安心で安全ということを入れることができると思います。

「正」・・・より正確に・間違いミスのないよう。現在でいえば、コンプライアンスということも入れることができると思います。

「早」・・・よりスピーデイに。今でいえば、SCMやバリューチェーンといったことも拡大解釈できるのではないでしょうか。

「楽」・・・より楽に。流行のワークライフバランスやモチベーション論にも関係してくるのではないでしょうか。東大の伊藤元重教授は、労働の変化を「レイバー→ワーク→プレー」へと変遷していくだろうと指摘されています。肉体労働、指揮・監督による労働から、ナレッジワーカーへ。そして、フィールドで自由に動き回れるプレーヤーへ・・・といった感じでしょうか。

 

 上野陽一は、能率の考え方を、工場だけではなく、事務間接部門やサービス、そして人生や日常生活の中まで応用できると主張。自ら能率普及活動の先頭に立ったのです。


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