情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

引野口・同房者スパイ事件判決骨子のご紹介~身柄留置を犯罪捜査に濫用と判示

2008-03-07 04:11:24 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 同房者による事情聴取を基に放火・殺人で起訴され、無罪となった引野口事件の判決骨子を入手したので、早速読んでみた。そこには驚くべき内容が書いてあった。同房となった一般人を捜査の道具(スパイ)として利用していたのだ。取り調べの全過程が録画されることになってさえいれば、警察は違法捜査と認定されるおそれがあるため、一般人を利用した捜査を躊躇したのは間違いない。やはり、早期に取り調べの全過程の録画が必要だ。

 判決は、まず、本件被告人と後にスパイとなる人物の身柄関係を図解しながら、捜査の流れを認定している。冒頭の図がその図解だ。被告人は5月25日から6月24日まで水上署に身柄が置かれ、後にスパイとなる人物が偶然6月18日から同署に留置・勾留され、本件被告人と同房となった。

 本件被告人は殺人・放火については否認をしており、警察は手詰まりとなっていた。そんなとき、スパイとなる人物が、同房の本件被告人から捜査官の悪口を聞き、それを警察に話した。警察は、同房者から本格的に事情聴取してみた。すると、この同房者は、本件被告人が「殺すつもりで殺したわけではない」、「ライター1本であそこまでになるとは思わなかった」と話していると供述した。

 そこで、警察は、この捜査方法を継続することとし、いったん、拘置支所へ移管された後、八幡西署に勾留されていた被告人とスパイを同房することとし、スパイを水上署から八幡西署に移した。7月15日ことだった。それ以降、本件被告人が拘置支所へ移された9月27日までの間、75日間のうち48日間、【ほぼ連日、同房者から房内での被告人との会話の内容が録取された】。
 ※【】は判決をそのまま引用した部分。

 たとえば、【同房者は、7月22日、自ら事情聴取を要請し】【事情聴取の冒頭に「刑事さん、昨日の夜、片岸さんから重要なことを聞き出しましたよ、早く聞いてくれないから忘れるかと思いましたよ。」などと述べて、前日夜に被告人から犯行告白を聞いたと供述した。その内容は、同房者供述によれば、なんで殺人がつくんですかみたいなことを聞いたら、被告人が「だれにも言っちゃだめよ」と言って、殺してしまった、お兄さんの通帳から通帳にお金を移したことでお兄さんとトラブルになり胸を刺した、という内容であった】。

 また、【同房者は、7月28日の事情聴取において、興奮気味に、「あのですね、刑事さん、片岸さんがお兄さんを刺したとき、どこを刺したか聞いてきましたよ、片岸さんは首を刺したと言っていましたよ。」などと述べて、首を刺した旨聞いたと供述した】。

 警察は、解剖鑑定によって、被害者は心臓殺傷に基づく出血性ショックで死んだとされていたにもかかわらず、鑑定医にホルマリン漬けの頸動脈を調査させ、その結果、首を刺されて死んだとの結論を導いた。ちなみに、判決は、この首を刺されて死んだという鑑定を信用できないと切り捨てている。

 さらに、【同房者は、8月4日の事情聴取において、取調室に入るなり、事情聴取専従の警察官に対し、「頑張りましたよ、昨日8月3日の夜、寝る前に片岸さんから重要な話を聞きましたよ、忘れるといけないから、今日の朝メモに書いてきました」などと言って、被告人から聞き出したという被告人の行動を記載したメモ紙を渡した】

 どうですか、あまりに嘘くさいでしょう。それにもかかわらず、警察はこの嘘くさい同房者の供述に乗って、被告人を起訴した。

 判決は次のように警察の行為を指弾している。

【同房者自身の余罪に対する取調べ以上に、被告人に対する事情聴取をほぼ連日行っている状況からすれば、同房者を八幡西署に勾留し続けたのは、被告人との同房状態を継続し、同房者を通じて被告人に関する捜査情報を得るためであったことは否定できないと認められる】【同房者を通じて捜査情報を得る目的で、意図的に2人を同房状態にするために代用監獄を利用したものということができ、代用監獄への身柄拘束を捜査に利用したとの誹りを免れない】。

【捜査機関は、同じ房に留置して強制的に2人切りとなる状況を作出した上、その状態を相当な期間継続して、いわば必然的に会話を交わすようにしむけた状況の下で、同房者を捜査側に協力させて、被告人から話を聞き出させたということができる】。【同房者を介して捜査機関による取調べを受けさせられていたのと同様の状況に置かれていたということができ、本来取調ベとは区別されるべき房内での身柄留置が犯罪捜査のために濫用されていたと言わざるを得ない】。

【同房者は、窃盗罪及び覚せい剤取締法違反の被疑事実で勾留され、余罪がどれくらい立件されるか等について捜査機関に委ねられている状況にあった】ところ、【同房者自ら捜査側の意を酌んで積極的に捜査に協力する姿勢をみせており、弁護人指摘のとおり、その全体的な供述は捜査機関が客観的な証拠を有している部分についてのみ不自然に詳細であるようにも見え、同房者が公判廷で述べる被告人の不利益供述が全てそのとおりされたものであるか否かには疑いが残る】。

 そして、判決は、身柄留置を犯罪捜査に濫用したなどとして、同房者供述には、任意性に疑いがあり、証拠能力を認めることができないと結論づけた。

 同房者に対する取調べが録画されていれば、同房者を誘導し、客観的証拠に合わせようとする警察の違法な取調べが明白に記録されていたことであろう。

 全ての違法取調べをなくすために、取調べの録画(可視化)を実現させよう!

 そのための署名は、http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/investigation/shomei.html  







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★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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1月17日にはNPJ/PEOPLE’S PRESS設立記念集会を開催し、多くの方に来場いただきました。ありがとうございました。近く、生中継していただいたアワープラネットTVでオンデマンド放送される予定です(http://www.ourplanet-tv.org/whats/2008/20080117_17.html)。