情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

防衛省「防衛戦略研究会議」報告書に見るアジアの平和の訪れ

2008-03-18 05:22:36 | 有事法制関連
 防衛省防衛研究所が設置した防衛戦略研究会議の「平成17、18 年度報告書」が自衛隊のウェブサイトに掲載されている( ※1)。この報告は、設置した機関が防衛省防衛研究所だけに、防衛省の公的な見解に近いと考えてよいだろう。その中で、中国及び北朝鮮の脅威について冷静に判断されているので、紹介したい。アジアに平和が訪れようとしていることを防衛省も認めざるを得ないようだ。平和省をもうけて積極的な平和外交をするべきときがきたようだ。

中国については、同報告書の「(1)中国の台頭と展望」の項で次のように述べている。

■ ■ 引用開始 ■ ■

 中国の対外行動の面から見ると、中国が経済発展によって大きな存在になったことからくる主として経済面でのプラス面があることを、少なくとも短・中期的には認めざるを得ない。
 中国が世界の工場になり、世界各地に低価格の製品を提供するようになった結果、アメリカの大手スーパー・マーケットにとっては、中国が製品の重要な仕入れ元になっている。
 また、中国では中間階層が大きな存在になりつつあり、それが徐々に大きな市場を形成しつつある。1980 年代および1990 年代頃、中国に進出する企業は、基本的に中国の安価な労働力を利用し、中国に材料を持ち込んでそれを加工して輸出するという形の進出がほとんどだった。しかし、こうした傾向は徐々に変化し、現在では中国国内における販売を目的とする生産が行われるようになっている。
 ある国における中間階層の拡大はその国の民主化の一つの必要条件であることを考え、さらに、デモクラティック・ピース論を併せ考えると、中国における中間階層の拡大は、日米を始めとする民主主義国家にとっても、中国がより望ましい国に変化する契機となるかもしれないという見方もある。
 さらに、中国が経済発展を追求するに当たって、グローバリゼーションの波に積極的に参加して、国際機構に自らを組み込むことによって成長を図っているといった傾向から見ると、中国は基本的に現状打破勢力ではないという指摘も、満更、頭から否定することは出来ない。

■ ■ 引用終了 ■ ■

 中国が国際経済に組み込まれ、経済的に豊かになったために、安全な国になっているという指摘だ。「認めざるを得ない」、「満更、頭から否定することは出来ない」という表現に、防衛省が設置した研究会らしさが漂っている。しかし、もはやこの事実を否定することができない事態に至っているわけだ。

 もちろん、これで終わるわけもなく、この後、軍事力増強、エネルギー獲得戦略に対する懸念が記載されている。

 しかし、その懸念などに続いて、中国の将来について次のように書かれている。


■ ■ 引用開始 ■ ■
 
 中国の将来については、①民主的な大国、②混乱が続き内部分裂の危機を孕んだ大国、および、③軍事的に肥大化した独裁国家、といった展望が考えられる。
 中国が軍事的に肥大化し、周辺諸国にとって脅威になるのは、例えば、以下のような場合であると考えられる。
 即ち、
 中国共産党の指導者が冒険的となる場合、
 中国共産党が人民解放軍を適切に統制することができなくなる場合、
 台湾が独立に向かう場合、
 日中対立の場合、
 エネルギーと食料の確保・供給が難しくなった場合、
 経済政策を誤って、内部分裂、自己崩壊の危険が出てきた場合、
 西域のイスラム国家との関係維持に失敗し、イスラム国家と対決する状況になった場合、
 あるいは朝鮮半島への影響力を巡って、米中間の調整が不能になった場合、
 などである。

■ ■ 引用終了 ■ ■

ということは、軍事大国になる場合が起きないようにすればいいわけだ。そのためには、何が必要だろうか。

 中国共産党の指導者が冒険的となるのを防ぐには、周辺諸国との有効な関係と緩やかな民主化が必要だろう。そのためには市民レベルでの周辺諸国との交流が欠かせない。

 中国共産党が人民解放軍を適切に統制することができなくなるのを防ぐにも、やはり、市民が豊かになり、緩やかな民主化が進むことが必要だろう。そうすれば、軍は暴走できない。

 台湾が独立に向かう場合については、これも市民が豊かになり、緩やかな民主化が進めば、台湾が独立しても戦争まで仕掛けることはないはずだ。国際経済からの離脱は望まないからだ。つまり、メリットとデメリットから台湾攻撃は避けるはずだ。

 日中対立については、普段から交流を深めていけば問題ない。

 エネルギーと食料の確保・供給が難しくなることはありうるが、それは国際的な解決の枠組みを設けることで解決できよう。そして、日本こそ、そのような枠組みを設けることを提言すべきだ。

 経済政策を誤って、内部分裂、自己崩壊の危険が出て来るようなことのないよう市民が豊かになり、民主化が緩やかに進めばよい。

 西域のイスラム国家との関係維持に失敗し、イスラム国家と対決する状況にならないようにするには、これもエネルギー政策の国際的枠組みを設けること、市民の富裕化、民主化によればよい。

 朝鮮半島への影響力を巡って、米中間の調整が不能にならないようにするにも、市民の富裕化、民主化が重要だ。朝鮮半島をめぐって戦争までするべきではないという当たり前の考え方を市民が共有できればよいのだ。

 中国については以上の通り。


 北朝鮮については、次のように述べている。

■ ■ 引用開始 ■ ■

 現在、北朝鮮経済はかなり中国の東北地区の経済に浸食されている。鉱物資源の開発を中国に委ねる代償として、多くの中国製品が北朝鮮に輸入されている。北朝鮮はレアメタルをたくさん売っている。一部には、なし崩し的な資本主義化の現象が見られ、このような動きが長期化すれば、北朝鮮の体制が今のままということはあり得ない。社会主義体制はすでに崩れ始めている。
 ただし、北朝鮮の改革・開放はまだ中国のそれの初期段階にも到達していない。北朝鮮では、豊かになる人は先に豊かになっても良いという議論はいまだ容認されておらず、貧富の差は混乱の原因になるため、なるべく拡大しないようにしなければならないと考えられている。市場経済を導入する段階には至っておらず、実利を追求するために市場原理を部分的に容認しようとしているにすぎない。
 北朝鮮の経済改革が「社会主義市場経済」体制にまで到達するのか、それとも途中で大変な混乱が生じて、コントロールが失われるのかは予測が困難である。
 北朝鮮の体制変革には相当時間がかかるだろう。北朝鮮の核問題をリビア方式で解決することが不可能だとすれば、核開発を放棄させるプロセスにおいて、北朝鮮の体制変革を迫っていくアプローチが不可欠である。
 北朝鮮経済の開放を促して、段階的な体制移行を追求するしかない。人口2 千万の国に大量の資本と技術が入っていけばどうなるかということを考えるべきである。北朝鮮の体制は大きな変革を迫られることになるだろう。これは一種の「毒リンゴ」理論であり、リンゴをせっせと食べさせると、緩やかな形で体制変革なり、内部崩壊が起こるだろうということである。もちろん、外部がコントロールでき
る範囲を越えて事態が進展し、段階的な体制変革を目指していても、あっという間に体制が崩壊することもありえる。
 しかしながら、外部の力によってではなく内部から崩壊させることが暴力的な事態を避ける最善の方法であると考えられる。北朝鮮の体制を外部から転覆しようとすれば、北朝鮮指導部はそれに強く反発する。この結果、北朝鮮に関与する外部の国家は、より大きなコスト・犠牲を払わざるをえなくなる可能性がある。こうした
北朝鮮に対する関与政策の効果に対する比較的肯定的な見方に対し、この政策の効果を疑問視する議論もあることは確かである。後者の立場は、KEDO の時も軽水炉の建設で多くの韓国人労働者が入って行けば、北朝鮮の体制に風穴が開くというように言われたが、この毒リンゴは利かなかったといった議論に端的に示されている。
 しかし、北朝鮮の核問題の根本的な解決には、体制変革が不可欠であるとすれば、それをどのように促がすかという長期的な戦略と取組が外部の国家には求められるのである。

■ ■ 引用終了 ■ ■

【北朝鮮経済の開放を促して、段階的な体制移行を追求するしかない。人口2 千万の国に大量の資本と技術が入っていけばどうなるかということを考えるべきである。北朝鮮の体制は大きな変革を迫られることになるだろう。これは一種の「毒リンゴ」理論であり、リンゴをせっせと食べさせると、緩やかな形で体制変革なり、内部崩壊が起こるだろうということである。】という考え方は、このブログでも折りに触れ、述べてきたところであり、北の脅威論を過大に叫び続ける人は、防衛省がこのような報告書をまとめたことをよく考えてほしい。なお、国民が食べているのは毒リンゴではなく、栄養たっぷりのリンゴであり、毒なのは政権に対してであると解すべきだろう。

 いずれにせよ、中国に対しても北朝鮮に対しても、もはや、軍でなく、総合的な関係でいかに恒久的な平和を実現するかが重要な課題であることは防衛省自ら認めざるを得ないようだ。しかし、防衛省が平和戦略を唱えるわけにはいかない。

 そこで、平和省を新設し、防衛省はその一部局となり、防衛省の優秀な人を平和のための国際戦略部門に当てて、総合的な平和戦略を組み立てるべきではないだろうか。夢のようなことだが、夢も努力しないと実現しないだろう。


※1:http://www.nids.go.jp/dissemination/other/studyreport/j2005.html







★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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